いまジャーナリストとして

 いま私たちの目の前に、次々と現れるニュースをどうとらえ、どう判断するか・・・ジャーナリストの日誌。

TPPがぶっ飛ぶ話・・・2010年までに自由化を達成するAPECのボゴール宣言をご存じですか?

2011年10月27日 02時25分42秒 | 日記

TPP(環太平洋経済協力)に反対する人たちが、
   「えっ?」 「本当?」
とびっくりするような話を、今回は、書きます。

 1994年の11月、インドネシアで、APEC(アジア太平洋
経済協力会議)が開かれました。 
 東南アジア諸国に、日本とアメリカが入った会議で、いまのTP
Pよりはるかに多くの国が参加した会議です。
 翌95年には、大阪で開かれました。

 94年のインドネシアAPECでは、まことに画期的な合意が採
択されました。
 「APEC加盟国は、貿易と投資の自由化を、
  先進国は2010年までに達成する。
  途上国は2020年までに達成する」
 という合意です。

 日本からは村山富市首相や橋本龍太郎通産相、アメリカからはク
リントン大統領らが出席し、大規模な国際会議でした。

 村山首相やクリントン大統領、アジア諸国の大統領、首相による
首脳会議で、APECは、この合意を採択したのです。
 
 書き間違えや、パソコンの変換ミスではありません。
 「先進国は2010年までに自由化を達成する」
 と宣言したのです。

 これを、ボゴール宣言 といいます。
 ボゴールは、APECを開いたインドネシアの都市の名前です。
 
 すごい宣言でしょう。
 貿易と投資の自由化を、2010年までに達成するーーというの
です。

 え? 2010年は去年だろうですって?
 そうなんです。
 もう、去年が、ボゴール宣言で定めた2010年だったのです。
 もちろん、というべきか、ところがというべきか、2010年に
なっても、2011年になっても、貿易と投資の自由化は達成され
ていません。
 ボゴール宣言、すっかり忘れ去られてしまっています。

 そこでTPPです。
 TPPは、TPPに参加した国同士は、貿易を自由化しましょう
というものです。
 それに、農業団体は猛反発しているわけです。

 しかし、TPPって、実は、ボゴール宣言と同じなんですよ。
 
 ボゴール宣言って、本当にそんな合意、あったの?ーーと、眉に
つばをつけたい方もいらっしゃるでしょう。
 しかし、本当です。
 当時の新聞をちょっと見てもらうと分かりますが、連日、一面ト
ップは、インドネシアAPECとボゴール宣言で持ちきりです。
 テレビのニュースだって、連日トップ扱いです。

 ところが、このときは、日本では、ほとんどなにも、反対運動が
起きませんでした。農業団体も沈黙していました。

 ちょっと考えてみてください。
 1994年というと、いまからもう17年前です。
 そんなときに「貿易と投資の自由化」を宣言しているのです。
 ところが、何も反対運動が起きなかった。

 それなのに、17年後の2011年、同じような内容のTPPに、
どうして反対するのでしょう。

 おかしいでしょう。
 こんな不思議な話はありません。
反対するなら、17年前に反対してくれ、というところです。

 そして、17年という長い時間があって、その間に、日本の農業
は何をしていたのでしょう。
 政府・農水省と農業団体は、この17年間、何をしていたのでし
ょうか。
 17年というのは、長い年月です。
 日本の農業を強くするには、十分な時間があったのではないでし
ょうか。
 17年たって、「TPPで自由化が進むと日本の農業は壊滅す
る」というのであれば、この17年という長い年月に、農水省と農
業団体は、いったい、何をしてきたのでしょう。
 
 何もしてこなかったということです。
 
 今回、TPPに入らず、自由化を進めないとします。
 仮の話です。
 では、いまここから、また17年たって、日本の農業は再生して
いるでしょうか?
 17年たって、日本の農業は強くなっているでしょうか。
 答えは、だれにだって分かります。
 「NO」です。

 インドネシアAPECで、なぜ、日本でボゴール宣言に反対運動
が起きなかったのか。
 なぜ、TPPでは反対運動が起きるのか。
  
 APECは、もともと、年に一回開かれる国際会議なのです。
 アジア太平洋地域の経済協力など、経済問題をいろいろ話し合い
ましょうという会議でした。
 その会議を続けているうちに、貿易と投資の自由化というテーマ
が出てきたのです。 
 そう。APECは、「国際交渉」の場ではなかったのです。
 だから、自由化がテーマになったということが、なんとなく、見
えにくかった。
 
 ところが、TPPは、もとからある国際会議ではなく、自由化を
進めるために設定された国際交渉の場なのです。
 そのため、自由化が目的だということが、初めから非常にはっき
りしていた。
 だれの目にも、見えやすかったのです。

 ですが、APECは、日米の首脳をはじめ、各国の首脳がすべて
参加した会議で、その規模たるや、TPPの比ではありません。
そこで、2010年までの自由化が宣言され、それを合意として
採択したのです。

 TPPは、日本に必要不可欠だと思います。
 野田首相が、TPPに積極的です。
 それはいいことです。
 しかし、これからものすごい反対が待ち受けているでしょう。
 それに対しては、簡単な答えがあるのです。
 野田首相は、
 「いや、TPPといいますが、実は、1994年のAPECのボ
ゴール宣言で、2010年までに自由化しましょうということをす
でに決めています。当時の自民党政権が、それに参加して決めたのです。
ですから、TPPとかなんとか言う前に、日本は、貿易を自由
化することを、もうとっくに決めているんです。
それを、粛々と実行するだけなんです」

といえば、すむことなのです。

 しかし、農水省と農業団体は、2010年までに自由化を達成す
るボゴール宣言を、ろくに反対もせず、受け入れたのを、もうすっ
かり忘れてしまったのでしょうか。

 余談ですが、実は、1994年にインドネシアのAPCEでボゴ
ール宣言を採択したとき、私は、インドネシアの現場にいたのです。

 当時の実感としてはどうだったかというと、
 「えっ? 2010年までに貿易と投資の自由化を達成する?え
らい先の話だけれど、しかし、自由化を達成するというものすごい
話を、本当に合意したの?
こんなにあっさり合意しちゃっていいの?
日本の農水省と農業団体は、なんで反対運動しないの?
こんな、ものすごい合意を、よくまあ、こんなにあっさり受け
入れたねえ」 
というものでした。

 歌人の俵万智さんの歌に
 「愛しているだなんて
  チューハイ一杯で
  言っちゃっていいの?」
 という代表作があります。

 同じように、
 「2010年までに自由化だなんて
  インドネシアのコーヒー一杯で
  言っちゃっていいの?
 という感じでした。

 インドネシアのコーヒーって、トアルコトラジャ・コーヒー
です。

 こうやって見ていくと、TPPへの反対運動は、本当におかしな
話です。
 ボゴール宣言にも反対し、TPPにも反対するというのなら、筋
は通っています。
 しかし、ボゴール宣言は何も反対せず、TPPだけ反対するとい
うのは、ほとんど、反対運動にもなっていません。
 「ためにする」というのは、こういうことでしょう。

 そうそう。
 いま、「2010年というのは、えらい先の話だけれど」
と書きました。
 そうなんです。
 ボゴール宣言の1994年から見ると、2010年の自由化
などというのは、永遠の未来みたいなものでした。

 だから、農水省など農業の自由化に反対する勢力も
 「え? そんな先のことなの?
  それなら、OKでいいよ」
 という感じだったんですね。
 「16年も先なら、私、もう、担当かわっているから」
 というのうが、反対運動をしなかった理由だろうと思います。