現在の福島原発の惨状にからめて、「政府の情報操作」「東電の
隠ぺい体質」「マスコミの無知」というような言い方がされます。
しかし、実際は、
いま、政府、東電、メディアにあるのは、
情報操作でも情報隠しでもなく、
ただただ、混乱です。
あんなぼろぼろになった原発の建物を見て、情報隠しもなにも
ないでしょう。
いまさらだれがなにを隠しても意味はない。
見ていると、いま、政府を支えているのは、枝野官房長官ただ一
人です。
しかし、枝野氏にしても、今回の件が起きるまで、シーベルトと
いう単位さえ知らなかったでしょう。まして、マイクロシーベルト
とミリシーベルトとなると、どっちがどうなのか。どのぐらいの数
値で危ないのか。
そんなことを、枝野官房長官に聞くのもハナから無謀といえば無
謀ですし、隠すも隠さないも、枝野長官にしてみれば、何を隠せば
いいのかさえ、分からないでしょう。
メディアも同じです。
現場にいる記者は、科学部の担当者をのぞき、シーベルトって何?
から始まっているのです。だから、馬鹿な質問も出る。しかし、馬
鹿な質問と思っても、聞くしかありません。
東電で会見を担当する人間も、「すみません」「申し訳ありませ
ん」を繰り返すだけです。彼らも、本社にいて広報を担当している
ので、現場から情報が上がってこないと、立ち往生するだけです。
一番いけないのは、保安院でしょう。
保安院の会見は、時間の無駄です。
なにしろ、東電から聞いたことを、オウムのように繰り返すだけ
です。
保安院は、存在する意味がないでしょう。
では、ここで登場人物として、だれが抜けているかというと、科
学者です。原子力学会という学会があるのかどうか知りませんが、
今回の事故にあたり、学会が対策を練って会見したとか、事態を
憂う科学者有志が会見して対策を発表するとか、そんな話は、一回
も見たことがありません。
東大、東工大、京大、阪大の原子力系の学者は、あちこちのテレ
ビ局に出て解説していますが、テレビで解説する時間があるなら、
学会あるいは学者有志でもいい、科学者、科学界として、あの原発
をいったいどうすればいいのか、対策、解決策を、考えて発表して
もらいたい。
それが科学者の良心でしょう。
学者諸君、科学者諸氏は、いま、いったい、何をしているのでし
ょう。
17日は、防衛庁のヘリが原発の上から放水しました。
夜には、やはり防衛庁の消防車が地面から放水しました。
しかし、それは、実のところ、消防車が火事を消すのと同じこと
をやっているということでしょう。
その程度のことなら素人でも考えつく方策ですし、それでいいの
なら、もっと早くからやっておけばよかったということになります。
原子力の学者諸氏に、
「それでいいの?」
と問いたい。
いまここで責任を問うつもりはありません。
しかし、いまの惨状、そして、日本の原子力政策は、すべて、自
民党が政権を取っていたころの産物です。
もとより、自民党の政治家に原発が分かるわけがないので、日本
の原発を推進したのは、霞が関と、その理論的支柱としての科学者
です。
そして、実に、社会党を筆頭に、当時の野党は、こぞって原発に
反対していました。
そしてまた、新聞も、ほとんどが原発に反対の論調を持ってきた
のです。
ところが、社会党、民社党を母体の半分とした民主党が政権を取
ってみたら、その原発が事故ったわけです。
菅直人氏も枝野氏も、政治家になったころは、原発に反対してい
たはずです。というか、原発のことなんか、考えたことさえなかっ
たというのが実情でしょう。
その彼らが、自民党と当時の霞が関、学会の作った原発の事故に
対応しているわけです。
こんな皮肉ことはありません。
だから、いまの政府に、情報を隠そうとする動機はほとんどない
のです。アメリカからは「日本政府は情報を出さない」という不満
が聞こえてきますが、別に隠そうとしているわけでのなんでもなく、
ひたすら混乱しているのです。
では、東電はというと、経産省・保安院が監督官庁として上にい
て、その目を気にしながらやっています。会見でさえそうです。東
電は、保安院を気にしながら会見するので、よけい、何を言ってい
るのか、わからなくなる。
そもそも、原発は、東電という私企業のものなのか、国策として
やったものなのか。
それはもう、国策としてやったものに決まっています。
ところが、今回の事故の対応を見ていると、東電と国と、どっち
が責任者なのか、まったく分からない。
菅首相が東電に乗り込んで「逃げたら東電は100%倒産するぞ」
と脅したわけですが、しかし、菅首相、責任を東電に押し付けてい
いものではありません。
責任は、政府です。
アメリカは、小さな電力会社が無数にあって、電力でさえ、自由
競争もいいところです。
しかし、そのアメリカでさえ、原子力は連邦政府の責任でやろう
としています。
ましてやわが日本です。
しかし、繰り返しますが、民主党政府は、日本の原子力政策など、
ほとんどノータッチだったのです。
彼らが反対してきた原発、自民党時代の原発の事故に、いま、対
応しているのです。
そんな政府に、こんな事故に対応するだけの能力は、ハナからな
かったといってもいいでしょう。
そう考えると、よくやっています。
枝野官房長官の会見が、ほとんど唯一、信用をつなぎとめている
のではないでしょうか。
さて、そこで、原子力を推進してきた原子力系の学者、科学者
は、いったい、何をしているのかといいたい。
今回、彼らの存在が、ほとんど見えない。
テレビで解説するところしか見たことがありません。
原発から30キロで安全なのか、アメリカが指示したように80
キロ(50マイル)離れる必要があるのか。
そんなこと、会見で枝野官房長官に聞いたって、分かるはずも
ないでしょう。
しかし、では、だからといって、東電が「30キロで安全です」
といっても、きっとまた東電は嘘をついて、と言われるだけでしょ
う。いま東電が何を言っても信じてはもらえません。
まして、メディアには、それが安全なのか危険なのか、見当も
つきません。
ここで、原子力学会が、あるいは、良心的な学者集団が、記者会
見を開くと言ってくれないでしょうか。
そうすれば、メディアは、新聞もテレビも、読売も朝日も、ニュ
ーヨークタイムズも、ワシントンポストも、APも、ルモンドも、
CNNも、いま日本にいる記者は、すべて駆けつけます。
そこで、学者、学会として、たとえば、
「いまなら、30キロで安全です」
「爆発したら、近隣の市町村は影響を受けるでしょうが、東京ぐ
らい離れていれば安全です」
と、発表すればいいのです。
そうすれば、「情報を隠している」とか「本当のことをいわない」
とか、言われなくなります。
たしか、茅誠司氏が、日本の原子力学会の初代会長です。
学術会議の主要メンバーでもあります。
茅氏を責めるものでもなんでもなく、茅氏率いる原子力学会が
日本の原発を推進してきたはずです。
そのお墨付きがなければ、広島、長崎を経験してきた日本で、
原発など作れなかったでしょう。
いま、この原発の事故、惨状で、日本の信用は、国際的に地に
落ちようとしています。
ここで縷々述べてきたように、自民党時代に作った原発の事故を
民主党に処理させ、「なにやってんだ」と責めても、何も意味がな
いでしょう。
欧米、とくに欧州諸国は、日本からの情報がないことにいらだっ
ています。
ドイツのメルケル首相なんか、はっきりと「日本政府から何も情
報が来ない」と不満を表明しています。
いまの政府に、それを要求するのは無理でしょう。
であれば、日本原子力学会、あるいは、科学者の会議が、政府に
代わり、あるいは、日本を代表して、海外諸国の政府に、現状、情
報をしっかりと伝えればいいのです。
科学者として伝えれば、向こうだって、安心するでしょう。
だいたい、フランスなんてものは、電力の70%が原発です。そ
のフランスが、日本にいるフランス人に出国を促すなどと、ほとん
どマンガです。
米軍が救援にきてくれたのは大変ありがたいことです。しかし、
救援に来た米兵から5マイクロシーベルトの放射線が検出されたと
いって、せっけんで洗浄する。
しかし、その兵士が帰る場所は、米軍の原子力空母なんですよ。
食事も風呂も、睡眠も、なにもかも、24時間、原発のすぐ隣りで
暮らしていて、そっちのほうがよっぽど危ないと思います。しかも、
空母には、核ミサイルなど核兵器がたくさん積まれているのですよ。
それなのに、兵士にわずかの放射線がついたといって大騒ぎし、8
0キロ以上離れなさいと指示する。原子力空母って、そんなに安全
なのでしょうか?
そういうわけのわからないことになるのも、日本がしっかりと情
報を発信していないからです。
そして、いまの政府にそれを求めるのは、無理です。
そんなこと、誰でもわかっているでしょう。
それを承知で、政権交代させたのです。
それを承知で政権交代させて、菅首相と民主党政府を責めるのも、
問題でしょう。
そういうときにあたって、なぜ、学者、科学者は、沈黙している
のか。
原子力学会は、なぜ、日本を代表して、対策を練り、内外に情報
を発信しないのか。
いま、この状況で、学者、科学者は、どうして黙っているのでし
ょう。
学者、科学者は、いまこそ、奮起するときです。