◇時間かかる後処理、まとまらない後継プラン
嘉田由紀子知事が「もったいない」と批判した東海道新幹線新駅(栗東市)が昨年10月末に中止が決まってから丸1年。新駅周辺の土地区画整理事業の後処理に時間がかかり、同事業の後継プランもまとまらない。さらに、先行取得した用地費の負担などで同市の財政指数「将来負担比率」は、国の早期健全化団体の指定基準に迫る数値に悪化。知事は最大の公約を実現したものの、地権者は将来への不安を募らせている。【南文枝、服部正法】
◇手腕問われる公約達成の知事
◆見えない振興策
同市の同事業の予定地約50ヘクタールは今は雑草が伸び放題で、同事業は今月末に廃止される見通し。企業・団体を含め238に上る地権者の1人で、農業の中井栄夫さん(50)は「返してもらっても田んぼにするには2、3年かかる」と嘆く。
県は今年3月、市と後継プランなどの対策協議会を設けたが、話し合いは停滞。地権者は先月(10月)9日、面談した嘉田知事に「(知事は)駅を止めるときは強引にやった。その手法で(後継プランも)やってほしい」と詰め寄った。しかし、嘉田知事は同21日、「後継プランを作る主体の栗東市が前向きに取り組んでもらいたいと言っているが、県も具体的な相談に応じている」とし、溝は埋まらない。市は来年度、対策協と別に基本構想をまとめるが、具体策は見えない。
◆ひっ迫する市財政
市は土地開発公社を通じ、新駅予定地周辺の約5ヘクタールを取得。公社の借入金約187億円のうち、新駅関連は約115億円だ。公社は毎年、借入金を金融機関から借り替えていたが、事業目的を失った今年度は約35億円が調達できず、市が補正予算で対応。標準的な収入に対する負債の割合の「将来負担比率」も336%で、早期健全化団体の指定基準(350%)の寸前に。
また、同市は今年度から3年間で約48億円の財源が不足すると試算。中学給食の廃止など市民サービスを削る一方、来年度は新規事業を認めない方針だ。
市財政の悪化が新駅と関連付けられがちだが、県関係者は人口増に伴う社会資本整備も要因に指摘。「新駅が進めば将来負担比率は、さらに上がる可能性がある」と反論する。
県立大の大橋松行教授(政治社会学)は「中止そのものは県民の民意だが、後の処理が遅い。市と県が同じテーブルで地権者にきちんと対応すべきで、長引かすことは地権者への背信行為になる」と批判。華々しい公約達成後の嘉田知事の手腕が問われている。
【関連ニュース番号:0811/07、11月1日;0808/204、8月30日など】
(11月6日付け毎日新聞・電子版)
http://mainichi.jp/area/shiga/news/20081106ddlk25010496000c.html