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【1004/180:琵琶湖環境】琵琶湖博物館館長・篠原徹さん(64)=大津市

2010-04-25 01:01:52 | Weblog
【毎日新聞特集「湖国の人たち」:オピニオン’10 篠原徹さん】

 ◆琵琶湖博物館館長・篠原徹さん(64)=大津市

 ◇疑問発見型の展示を 誰もが楽しい場所に

 「分かっていないことを発見する場所にしたい」。今月1日の就任早々、ユニークな博物館構想を打ち出した県立琵琶湖博物館の篠原徹新館長(64)。博物館といえば、知識を身につける場所というイメージが強いが、そのココロは? 生態人類学が専門というが、どのような研究なのか。これまでの活動や、博物館運営にかける思いを聞いた。【南文枝】

 --なぜ、生態人類学を研究しようと思ったのですか?

 大学を卒業後、蒜山(岡山県真庭市)にあった岡山理科大の研究所に就職しました。山歩きが好きで、ここぞとばかりに歩き回っているうちに、炭焼きなど、自然を相手に暮らしている人たちに出会いました。話をすれば、膨大な知識にただただ驚くばかり。食べられる植物は何か、それがたくさんある場所はどこか、いつ採りに行けばよいか--などを、生きるための知識として知っているわけです。植物一つとっても、図鑑に載っている名前ではなく、独特の呼び方がある。なぜか、と疑問を持ち、野生植物の利用法の研究を始めました。

 --印象に残った研究は?

 山口県萩市の見島の一本釣り漁師ですかね。なぜ海の中の魚が釣れるのか、という疑問から始まったのですが。我々だと、いきなり漁に出ても釣れずに、飢餓状態になってしまう。しかし、彼らはいとも簡単に釣ってきます。魚の生態を知り、海底の地形を見てきたかのように船を移動するのです。山の頂上などが重なるように見える場所を目印に探すらしい。天気が悪くて山が隠れてしまった時のために、何通りかを組み合わせて見つけるそうです。GPS(全地球測位システム)より詳しかったです。

 イラクの羊飼いの少年にも興味を引かれました。300頭ほどの羊を、頭やお尻など体の模様や色によって56通りに分けて、独自の名前をつけているのですよ。「頭が赤くて、お尻に斑点がある羊は自分の羊の中に3頭いる」などと覚えておけば、いなくなってもすぐ気付くわけです。

 --地域によって、さまざまな違いがあるのですね。

 環境が変われば、自然とのかかわり方も違ってきます。それだけにまだまだ分かっていないことが多いです。世界中にどれだけの食べ物の種類があるかも、はっきりしていない。食材として使える植物もそう。研究テーマの多さに魅力を感じますね。物理や科学と違い、傾向はあっても、法則通りに動かないのも面白く感じます。

 琵琶湖は多様な生物がいるので、そこで暮らす人々も、さまざまな方法で自然と付き合っていると思います。個人的に、湖北地域の漁師などをテーマに研究してみたいです。

 --博物館運営への意気込みは。

 市民参加型の研究など、現在取り組んでいるユニークな交流活動は発展させていきたいですね。「市民の新たな教養の場」としての博物館を目指します。子どもやお年寄りだけでなく、高大生や働き盛りの人が来ても楽しい場所にしたい。

 そのためには、展示の工夫が必要です。知らないことを教えてくれるのではなく、自分なりに問題を発見できる場所にしないと。例えば、昆虫のオサムシ。一般的に、生物は南に行くほど色が鮮やかになると言われていますが、オサムシは、北に行くほど華やかな色合いになります。それはなぜか。分かっていないことに目を向けて、疑問を持ってもらえるようにできればいいと思っています。

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 ■提言

 ◇“未解明”に目を向けよう
 既に分かっていることを知ってもつまらない。何が明らかになっていないのかに目を向ける方が、探究心をかき立てられて面白い。教養を身につけるために博物館に足を運ぶのではなく、そこにある展示から、自分が解明したいと思う不思議を見つけてほしい。

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 ■人物略歴

 ◇しのはら・とおる
 1945年生まれ。京大を卒業後、岡山理科大助教授や国立歴史民俗博物館副館長を経て人間文化研究機構理事。今年3月で退任し、4月から県立琵琶湖博物館長。専門は民俗学・生態人類学で、人と自然とのかかわりを人間側からの視点で追究。現場主義を徹底し、国内の小島から海外の村々まで出かけていく。著書に「アフリカでケチを考えた」(筑摩書房)、「自然とつきあう」(小峰書店)など。

(4月24日付け毎日新聞・電子版)

http://mainichi.jp/area/shiga/news/20100424ddlk25040510000c.html


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