大津市木の岡町の国道161号沿いにそびえた通称「幽霊ビル」が爆破解体されて22日で20年を迎える。一帯の琵琶湖岸は長年、幽霊ビルが「壁」となって人の手が入らなかったことが奏功し、湖国屈指の湿生林に成長している。市街地で珍しいオニグルミの木など多様な植生が育ち、タヌキの姿も確認されている。
「以前は暴走族のたまり場で、地元の人は近づかなかった場所。今や小学生が見学に来る自然豊かな場になりました」。近くに住む桜川義男さん(78)と竹本勝さん(72)は、湖岸の新緑を見上げて頰を緩めた。
幽霊ビルは20年前、2700本のダイナマイトで爆破解体された。バブル景気が冷めやらぬ当時、京都市のリゾート開発業者がマリーナ付きマンションを計画したが、資金難で頓挫。がれきの山が10年近く放置された後、2001年に琵琶湖側の土地を県が取得し、湖岸に育った湿生林と合わせて「木の岡ビオトープ」(広さ約4ヘクタール)として守ってきた。
県の調査では植物340種、昆虫類410種、鳥類60種が一帯で確認され、タヌキやカヤネズミも生息する。現在は地域住民らによる保全グループ「おにぐるみの学校」が自然観察会を定期開催し、29日も地元下阪本小の児童が見学に訪れる。
おにぐるみの学校会長の小林圭介滋賀県立大名誉教授(72)=植物生態学=は「開発の手が入らず、自然のままの琵琶湖岸を伝える場所としては南湖で最大、琵琶湖全体でも屈指の規模。幽霊ビルの思わぬ産物です」と話す。
(5月18日付け京都新聞・電子版)
http://www.kyoto-np.co.jp/environment/article/20120518000040