“迷走” 海の森水上競技場
東京オリンピック メディア批判 ファクトチェック 五輪バッシング 盲目的に「中止」唱えるメディアのお粗末
開催実現で「Withコロナの時代のニューノルマル」をレガシーに
深層情報 Media Close-up Report 「呪われた」2020東京五輪 東京都に4回目の緊急事態宣言 1都3県、北海道、福島は「無観客」に
国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)
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台風8号、明日にも関東甲信、東北地方に上陸へ 今夜から強い雨
気象庁によると、台風8号は26日午前6時には日本の東の海上を1時間に30キロの速さで北北西へ進み、中心の気圧は992ヘクトパスカル、最大風速は20メートル、最大瞬間風速は30メートルで、暴風域はないが、中心の南東側600キロ以内と北西側390キロ以内では風速15メートル以上の強い風が吹いている。
台風は今後発達しながら日本の東を北西へ進み、27日には関東甲信、東北地方に上陸するおそれがある。
今夜から強い雨が降り、27日朝までの24時間に降る雨量は多い所で、関東甲信で80ミリが予想されている。
「海の森水上競技場」は、東京湾の突端の防波堤をせき止めて建設された「海水」のボート・カヌー競技場、通常でも強い海風吹き、水面は常に波が絶えないという「欠点」を抱えていた。ボート・カヌー競技の大敵は「波」で、「海の森水上競技場」は波対策のために護岸に消波装置が設置されている。しかし、強風に見舞われると波が高くなり、競技開催が不可能になる。
大会組織委員会は、明日の7月27日(火)に予定していたシングルスカル順位決定予備戦や軽量級ダブルスカル準決勝、4人スカル決勝などの全ての競技の開催を中止した。7月28日も強風が収まらなければ、競技開催は微妙となる
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台風8号 出典 tenki.jp
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護岸に設置された消波装置 2019年8月 筆者撮影
ボート・カヌー会場の「カキ」問題 予想外の「収穫」に困惑
東京オリンピック・パラリンピックの関係者が、カヌーやボートの会場となる東京湾で、大量の「招かれざる客」に困惑している。対策費として東京都はこれまでに、約1億4000万円を支出している。
東京湾に新設された「海の森水上競技場」には、護岸に跳ね返って選手に押し寄せる波を消し去る装置が、総延長5.6キロにわたって多数浮かぶ。
しかしある時から、その消波装置が沈み始めた。不思議に思った関係者が調べたところ、装置に大量のカキが付着していたのが見つかった。
解決には、かなりの時間と労力がかかっている。
カキを取り除くには、装置を陸に引き揚げるか、海中でダイバーが作業しなくてはならない。そうして除去したカキはすでに14トンに上る。
市場価値は数百万円?
カキの種類は、冬の味覚として日本で人気のマガキだ。とはいえ、この予想外の収穫は有効活用されていないようだ。
都の担当者は朝日新聞に、「食べること? 考えなかったですね。衛生上の検査が必要だろうし」と話した。
実にもったいない。場所によって値段は異なるものの、除去されたマガキは少なくとも数万ドル(数百万円)にはなるはずだ。
「海の森水上競技場」は、日本で唯一の、国際基準を満たすボート競技場だ。
大会終了後、この競技場の維持にかける都の予算は約1億6000万円程度だ。多額の費用がかかるカキ対策を長期的にどうするかが、課題となっている。
(出典 BBC ニュース 7月19日)
「海の森水上競技場」は、招致段階では69億円が、その後の現地調査等の結果、10倍を超える1038億円を超える整備費が必要なことが明らかになり、2020東京五輪大会の競技会場建設の杜撰な計画の象徴になった。
小池東京都知事の開催経費縮減策の中で、一時は、建設を中止して既存の施設にへの移転案も検討されたたが、結局、新たに建設する競技場を「スマート施設」と名付け、20年程度使用可能な仮設レベルにして、グランドスタンド棟、フィニッシュ棟、艇庫などを整備し、298億円(スマート案)に縮減して、建設することになった。
観客席も見直しされ、グランドスタンド棟(2000席 恒久席)の屋根の設置を半分の1000席分にするとともに、仮設席を1万席から4000席に削減して、立見席の1万席を加えると1万6000席(当初計画2万2000席)に縮小した。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で、東京都に4回目の緊急事態宣言が出され、1都3県と北海道、福島は「無観客」の開催になった。
もともと、ボート・カヌー競技は、観客動員数が限られているので、唯一、五輪のボート・カヌー競技大会だけが観客でにぎわう競技会になるはずだった。恐らく、「陸の孤島」と呼ばれている「海の森水上競技場」は、観客でにぎわう場面はないだろう。通常の大会は、ボート・カヌー競技の「聖地」とされている埼玉県の戸田漕艇場で開催すれば十分である。
かくして、「海の森水上競技場」は、2020東京五輪大会の「負のレガシー」のシンボルになるのは必至となった。
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暑さ対策で「降雪機」まで登場 海の森水上競技場でテスト
2019年9月13日、観客の暑さ対策として、イベントなどで使用する「降雪機」を使用して観客席に「人工雪」を降り注ぐテストを行った。
「降雪機」は、氷の塊を粉砕して人工雪を降らせるもので、1分間に1立方メートルあたり、約30~約270キロの降雪能力があるという。この日は約1tの氷を使用して二回に分けて、観客席に人工雪を降り注ぐテストが行われた。しかし、WBGT値(暑さ指数)の変化はなく、観客席の空気を冷やす効果はまったくなかった。「清涼感」を感じてもらう程度の効果だ。報道陣に公開された1回目のテストでは、300kgの氷を使用したが、わずか5分であっというまに終了した。
海の森水上競技場の観客席(恒久施設)は、約2000席、当初はすべて屋根付きだったが、整備費削減で屋根付き席はほぼ半分になった。大会組織委員会では本番で導入するかどうか検討をするとしている。
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「降雪機」テスト 9月13日 筆者撮影
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「海の森水上競技場」が竣工
ボート・カヌー(スプリント)の会場となる「海の森水上競技場」が竣工し、2019年6月16日、完成披露式典が行われた。式典では小池百合子都知事が「世界最高峰の試合が繰り広げられ、連日、世界中の多くの方々に感動を与えると確信している。大会後も、様々なイベントで活用して、末永く愛される施設にしたい」と挨拶した。
競技場のお披露目として、ボートの名門、英オックスフォード大とケンブリッジ大のOBチームを招いて「完成記念レガッタ」も行われた。
「海の森水上競技場」は、2000m×8レーンのコースや約2000席の観客席、艇庫、フィニッシュタワー、水門、消波装置などが約308億円(2016年最終案より10億円増に修正)で建設された。大会開催時はグランドスタンド(恒久施設 2000席)や仮設席(4000席)や立見席(1万席)の合わせて1万6000席が整備される。
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海の森水上競技場竣工式 2019年6月 出典 日本ボート協会
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海の森水上競技場竣工式 2019年6月 出典 日本ボート協会
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海の森水上競技場 背景は東京ゲート・ブリッジ 筆者撮影
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(左) グランドスタンド棟 約半分は建設経費削減で屋根なしになり、炎天下で観戦する観客の熱中症対策が大きな課題として残った。
(右) フィニッシュタワー 筆者撮影
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艇庫棟
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世界ジュニアボート選手権(2020東京五輪大会 テストイベント) 2019年8月 筆者撮影
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世界ジュニアボート選手権(2020東京五輪大会 テストイベント) 正面の橋は臨海道路南北線の臨港中央橋 2019年8月 筆者撮影
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完成予想図(総工費491億円時の整備計画) 出典 TOKYO2020
「陸の孤島」 海の森水上競技場
海の森水上競技場の大きな問題は、交通アクセスの問題である。
海の森水上競技場が立地しているのは、東京湾の埋め立て地の最先端の中央防波堤の外側と内側の水路で、都心部から遠く離れている。
最寄りの駅は東京テレポートで、現在は公共交通機関の路線バスは途中までしか運航されていなく、専用のシャトルバスでも約30分程度かかる。道路は、今の所、青海ターミナルを抜けて第二航路トンネルを通る臨海道路青海縦貫道の1本だけである。東京ゲートブリッジを経て千葉方面に抜ける東京港臨海道路も通っているが、基本的に都心部と臨海部を結ぶ道路ではない。
国交省と東京都では、有明地区と中央防波堤地区を結ぶ臨海道路南北線の建設を進め、2020東京五輪大会までには完成させる計画である。海の森水上競技場をまたぐ、臨海道路南北線の臨港中央橋が建設されている。
この2本の道路に、朝晩は選手や大会関係者、ボランティア、観客が殺到する。東京港臨海道路は中央防波堤地区のコンテナターミナルを往来する大型トラックの通行量が急増しており、大渋滞が懸念される。
「陸の孤島」と呼ばれる海の森水上競技場、大会開催中は勿論のこと、大会後のイベント開催時の集客などでロケーションがネックになる可能性が大きい。都民が気軽に訪れる場所ではないだろう。
ボート・カヌー競技の天敵 強い風と波 航空機の騒音 沿岸部での開催は無謀?
カヌー・ボート競技関係者から最も批判の声が強いのが、海の森水上競技場の「強風と波」である。
カヌー・ボート競技の会場は、沼や川を利用したり、人工のコースを整備したりするが、いずれも内陸で、強い風が吹き、波の懸念が大きい沿岸部で開催されるのは「史上初」という。
「海の森公園」には、風力発電の風車が立ち並んでいる。沿岸部独特の強い風が常に吹いているからだ。強い風が吹けば波が発生する。海の森水上競技場は、埋め立て地に挟まれた東西の水路がコースになる。五輪が開かれる夏場は南風が多く、競技に不向きな横風になる。護岸が垂直なため波の打ち返しがあり、護岸近くのコースと中央のコースでは不公平になる懸念が大きい。
都が昨年十月に公表した基本設計では、波風対策として、コース両側を水門で仕切り、コース周囲の護岸に消波装置を取り付ける。風上の南岸に高さ五メートルの防風林も植えるとしている。しかしその効果は、天候が悪化した場合にはほとんどなくなる懸念がある。
当初からアンフェアな競技運営になりかねないという懸念が関係者から根強く出されているのである
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筆者が訪れた日は、真夏の快晴の日だったが、常にかなりの海風が吹いていた。コースの水面には常にさざ波が絶えない。 世界ジュニアボート選手権 2019年8月 筆者撮影
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護岸に設置された消波装置 2019年8月 筆者撮影
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海の森水上競技場の会場内にある風力発電 2019年8月 筆者撮影
加えて無視できないのが、近くの羽田空港を頻繁に離発着する航空機の騒音、離発着に備えて、低空で飛行するのでとにかくうるさい。選手や観客にとって、とてもボート・カヌー競技に集中できる環境ではない。
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羽田空港への着陸進入路にあるため、5~6分に一度、大型旅客機が低空を通過する 2019年8月 筆者撮影
毎年1億6000万円以上の赤字… 海の森は負のレガシーか?
大会後の維持管理には早くも難航が予想されている。
東京都では、海の森水上競技場のレガシーの視点として、アジアの水上競技場として国際大会を開催し、強化合宿などアスリートの強化・育成の拠点とし、一般市民を対象に水上スポーツ体験を楽しんでもらいボート・カヌー競技の裾野を拡大をするとしている。
そして、具体的な後利用計画としては、国際大会や国内大会を年間30大会を開催、水上スポーツ体験や水上レジャーの機会を提供したりイベント開催も行う。
年間の来場者数の目標は、競技利用で約31万人、一般市民の来場客が約4万人、合計35万人とした。
最も重要な管理運営の収支は、収入が1億1300万円、支出が2億7100万円、2億5800万円の赤字を見込んでいる。
収益の向上策としてネーミングライツの導入など企業広告の獲得やイベント開催、企業研修や学校教育での活用促進を上げている。
ボート選手登録人数は 9000 人、登録していないボート人口を入れても 2 万人程度(日本ボート協会)と競技人口は極めて少ない。2019年に開催される国内大会は合計11回、そのうち6回が地方の会場で、全日本選手権や学生選手権など5回が戸田漕艇場で開催される。国際大会は海の森水上競技場で8月に開催された世界ジュニア選手権(2020東京五輪大会のテストイベント)が1回だけである。
9000人の競技人口では、国内大会開催をさらに増やすのは困難であろう。国際競技大会の開催を目論んでも年間1回、開催できるかどうかだ。年間30大会の開催は絶望的だろう。
一般市民の利用を目論んでも、交通アクセスの悪さがネックになり、周辺の景観から見ても、到底、市民の憩いの場にはならない。
戸田漕艇場には、大学や実業団の約30チームの艇庫が並び、合宿所も備えて、連日のように練習が行われている。「ナショナルトレーニングセンターボート強化拠点施設」に指定されている。戸田漕艇場から海の森水上競技場に拠点を移すチームはほとんどないだろう。戸田漕艇場は引き続きボート競技の「聖地」として存続していく。
戸田漕艇場の入場者数(有料)は年間約8万人、施設利用収入は約450万円(平成26年度)とされている。海の森水上競技場の35万人の入場者数、1億5800万円の収入予測は何を根拠にしているのだろうか。
約300億円をかけて建設された海の森水上競技場、負のレガシーになる懸念が深まった。
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出典 東京都オリンピック・パラリンピック準備局
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海の森水上競技場、「スマート施設」として建設
アクアティクスセンターも新設 バレー会場は先送り 4者協議のトップ級会合
2016年11月29日、東京大会の会場見直しや開催費削減などを協議する国際オリンピック委員会(IOC)、東京都、大会組織委員会、政府の4者のトップ級会合が東京都内で開かれ、見直しを検討した3競技会場について、ボートとカヌー・スプリント会場は、仮設レベルで整備する「スマート案」で海の森水上競技場を整備し、水泳競技場は東京アクアティクスセンターを観客席2万席から1万5000席に削減して、大会後の「減築」は止めて、建設する方針を決めた。
一方、バレーボール会場については、有明アリーを新設するか、既存施設の横浜アリーナを活用するか、最終的な結論を出さす、12月のクリスマス前まで先送りすることになった。
都の調査チームがボート・カヌー会場に提案していた宮城県・長沼ボート場はボート・カヌー競技の事前合宿地とすることをコーツIOC副会長が確約し、小池都知事もこれを歓迎するとして、宮城県への配慮を示した上で、海の森水上競技場を建設することで合意した。
小池東京都知事は、新たに建設する競技場を「スマート施設」と名付け、20年程度使用可能な仮設レベルで、グランドスタンド棟、フィニッシュ棟、艇庫などを整備し、経費を当初の491億円から298億円(スマート案)に、約200億円を縮減した。
また観客席も見直し、グランドスタンド棟(2000席 恒久席)の屋根の設置を半分の1000席分にするとともに、仮設席を1万席から4000席に削減して、立見席の1万席を加えると1万6000席(当初計画2万2000席)に縮小した。
小池氏は、仮設というと粗雑な施設という印象を与えるが、「スマート施設」というと耳障りが良いと述べている。
また東京アクアティクスセンターは座席数を2万から1万5000席に減らし、大会後の減築も取りやめたことで、東京都では683億円から514~529億円に削減されると試算している。
一方、高騰が懸念されている開催経費の総額については、組織委員会の武藤敏郎事務総長は「総予算は2兆円を切る」との見通しを示し、「これを上限としてこれ以下に抑える」とした。
これに対し、IOCのコーツ副会長は「2兆円が上限というのは高過ぎる。削減の余地が残っている。2兆円よりはるかに下でできる」と述べ、さらに削減に努めるよう求めた。さらにコーツ副会長は、会合終了後、記者団に対し、組織委員会が示した2兆円という大会予算の上限については、「特に国際メディアの人に対して」と強調した上で、「IOCが2兆円という額に同意したと誤解してほしくない」と了承していないことを強調した。その理由については、「大会予算は収入とのバランスをとることが大切で、IOCとしては、もっと少ない予算でできると考えている。現在の予算では、調達の分野や賃借料の部分で通常よりもかなり高い額が示されているが、その部分で早めに契約を進めるなどすれば、節約の余地がある」と述べた。
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小池都知事と上山特別顧問 4者協議トップ級会合 2016年11月26日 筆者撮影
「仮設レベル」で施設を建設 298億円に削減
2020東京五輪大会の競技施設の建設計画見直しで、都政改革本部の調査チームは2016年11月1日、9月に示した調査報告より計画案を絞り込んだ新たな提言を小池百合子知事に行った。東京都ではこの提言を元に、新たな建設計画まとめ、11月末に開催する国際オリンピック委員会(IOC)、国、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会との4者協議で結論を出すとしている。小池知事は「間に合わないことはないと確信している」と強調した。
注目されたボート・カヌー(スプリント)会場の見直しについては、海の森水上競技場を整備計画を縮減した上で建設する「恒設案」、仮設レベルで建設する「仮設案」(スマート案)、宮城県登米市にある長沼ボート場の「活用案」の3案を提示した。
これまでの計画では、海の森水上競技場の整備費は491億円としていたが、調査チームの「恒設案」は付随施設などの見直しで328億円に整備費を減らせるとした。「仮設案」では、グランドスタンド棟と艇庫棟を仮設レベルの構造に変更するなどの工夫を行って、298億円まで整備費を縮減可能とした。
また五輪終了から50年後までの維持・改修費を合わせた総コストは、「仮設案」が最も低く、約328億~450億円(年間6~9億円)になるという試算を示した。
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出典 都政改革本部 調査チーム
建設費300億円に削減へ 都が試算
2016年10月18日、東京都は、海の森水上競技場の建設費について、これまでの試算の491億円から300億円前後に圧縮できる試算をまとめたことを明らかにした。
東京都によると、テレビ撮影で利用する桟橋(TVカメラポンツーン)の設置を見送ったことで約60億円を削減をするなど「追加工事が生じた場合の費用」として準備していた約90億円を縮減した。また屋根付きの観客席「グランドスタンド棟」や艇庫棟の規模を縮小し、一部を仮設で整備。施設内の通路の舗装も簡素化し、追加工事に対応する予備費を90億円から大幅に削減することで、総工費は300億円程度に削減可能とした。
一方、東京都は、IOCに提出している整備費491億円の内訳も公表し、大会運営に必要な観客席や艇庫の整備にかかる「オリンピック経費」として98億円、レクリエーションなど後利用のための整備費「レガシー(遺産)経費」に393億円とした。
海の森水上競技場をめぐっては、都政調査チームが、整備費を過大と判断し、長沼ボート場(宮城県登米市)への会場変更など見直し案を提言していた。村井嘉浩・宮城県知事も誘致に前向きな姿勢を示し、同ボート場での開催に必要な整備費を「150億~200億円」と試算している。
小池氏は「長沼」に前向きだったが、大会組織委員会やIOC、競技団体は、海の森水上競技場建設を強く支持していた。
都は結論が出るまで工事を中断している。会場変更で建設を中止した場合、損害賠償などに約100億円の支出が見込まれるとの試算も明らかにしている。
東京五輪の経費 最大1兆8000億円 四者協議のトップ級会合
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4者協議トップ級会合 コーツIOC副会長はシドニーからテレビ電話で参加 2016年12月21日 Tokyo 2020 / Shugo TAKEMI
2016年12月21日、東京都、組織委員会、政府、国際オリンピック委員会(IOC)の四者協議のトップ級会合が開かれ、組織委員会が大会全体の経費について、最大1兆8000億円になると説明した。組織委員会が大会全体の経費を示したのは今回が初めてである。
会議には、テレビ会議システムを使用され、コーツIOC副会長がシドニーで、クリストフ・デュビ五輪統括部長がジュネーブで参加した。
冒頭に、小池都知事が、先月の会議で結論が先送りされたバレーボールの会場について、当初の計画どおり「有明アリーナ」の新設を決めとした。「有明アリーナ」は、五輪開催後はスポーツ・音楽などのイベント会場、展示場として活用すると共に、有明地区に商業施設やスポーツ施設も整備し、地区内に建設される「有明体操競技場」も加えて、“ARIAKE LEGACY AREA”と名付けた複合再開発を推進して五輪のレガシーしたいと報告し了承された。
「有明アリーナ」の整備費は約404億円を約339億円に圧縮し、東京都、民間企業に運営権を売却する「コンセッション方式」を導入して、民間資金を活用する。競技場見直しを巡る経緯について、小池都知事は「あっちだ、こっちだと言って、時間を浪費したとも思っていない」と述べた。
これに対して、コーツIOC副会長は「協議を通して3つの会場に関して予算が削減できたし、有明アリーナの周りのレガシープランについても意見が一致した。こうした進展を喜ばしく思っている」と称賛した。
一方、組織委員会は大会全体の経費について、1兆6000億円から1兆8000億円となる試算をまとめたことを報告し、組織委員会が5000億円、組織委員会以外が最大1兆3000億円を負担する案を明らかにした。
小池都知事は「IOCが示していたコスト縮減が十分に反映されたものということで、大事な「通過点」に至ったと認識している」と述べた。
これに対して森組織委会長は「小池都知事は『通過点』と行ったが、むしろ『出発点』だと思っている。今回の件に一番感心を持っているのは、近県の知事の皆さんである」とした。
一方、コーツIOC副会長は、「1兆8000億円にまで削減することができて、うれしく思っている。IOC、東京都、組織委員会、政府の4者はこれからも協力してさらなる経費削減に努めて欲しい」と「1兆8000億円」の開催予算を評価した。
また開催経費分担について、小池都知事は、「コストシェアリングというのは極めてインターナルというかドメスティックな話なので、この点については、4者ではなく3者でもって協議を積み重ねていくことが必要だ」とし、「東京都がリーダーシップをとって、各地域でどのような形で分担ができるのか、早期に検討を行っていきたい」と述べ、年明けにも都と組織委員会、国の3者による協議を開き、検討を進める考えを示した。
* 開催経費については、2018年12月、大会組織委員会は、総額で「1兆3500億円」というV3を発表している。
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▼ 小池都知事、村井宮城県知事と会談
▼ 小池都知事 10月15日に長沼ボート場視察へ
▼ 小池都知事、10月18日に来日するバッハ国際オリンピック委員会(IOC)会長と会談へ
▼ 都政改革本部 調査チーム 宮城県長沼ボート場を代替地に提言
▼ 森組織委会長 激しく反発
▼ 日本ボート協会は海の森水上競技場を支持
▼ 国際ボート連盟ロラン会長 不快感を示す
▼ 国際ボート連盟 海の森水上競技場支持を正式表明
▼ 戸田監督会は彩湖での開催を要望
「海の森水上競技場」 宮城県長沼ボート場を代替地に提言
2016年9月29日、2020年東京五輪・パラリンピックの開催経費の検証する都政改革本部の調査チームは調査報告書を小池都知事に提出し、「海の森水上競技場」にも言及し、当初計画の7倍の約491億円に膨れ上がった経費に加えて、「一部の競技者が会場で反対している」「大会後の利用が不透明」などとして、宮城県長沼ボート場を代替地に提言した。長沼ボート場は「復興五輪」の理念にも合致するとしている。
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アイエス総合ボートランド(宮城県長沼ボート場) 宮城県登米市
延長2000m、幅13.5m、8コース (日本ボート協会A級コース認定)
海の森水上競技場の整備経費の高騰については、湾岸エリアの水路に整備するため様々な課題が存在し、その対策のための整備費が予算の高騰を招いたと指摘し、招致段階では69億円が、その後の現地調査等の結果、1038億円を超える整備費が見積もられ、削減努力後も491億円が必要された。
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都政改革本部 調査チーム 調査報告書
ボート協会(NF)は海の森水上競技場を恒久施設として整備することを訴えているが、首都圏のボート・チームや全国の選手の一部はその立地に疑義を持っている。また競技会場として有用性・利便性について疑問が残されている。
五輪開催後のレガシーとしては、収入、ランニングコストなど具体的な収支計画は現時点では不透明な部分が多いとした。
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出典 都政改革本部 調査チーム
他の会場への代替の可能性については、オリンピックのような国際大会が開催可能な河川、湖は国内他地域に複数存在し、これまでも他代替候補地の検討が行われた。代替候補地がオリンピック要件を満たすためには、改修費用や高額の仮設費用が必要とされており。現在は海の森水上競技場が国際競技団体(IF)や IOCが承認した開催地として妥当とされている。
しかし、仮設費用の大部分が観客席やTVカメラレーン等を設置する仮桟橋工事等のためであり、競技団体との交渉次第では、他代替候補地がより低コストで整備できる可能性はあるとした。
また、整備費の試算額がまったく不明瞭で、仮設費の項目で、他の候補地が約170~180億円計上しているに対し、海の森水上競技場の約28億円とし、仮設費の内、「観客席・外溝・仮桟橋等」は協議中として、経費を計上していない。
余りにも杜撰で不公平な整備費試算の比較である。海の森水上競技場の整備額を不当に低く見せていると批判されてもしかたがないだろう。
そして、競技開催地については海の森水上競技場に加え、その他代替候補地も含めて再度検証すべきだと結論づけた。
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都政改革本部 調査チーム 調査報告書
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都政改革本部 調査チーム 調査報告書
また調査チームでは、今後の課題と必要なアクションとして以下の項目を上げた。
▼海の森競技会場のコスト削減、レガシー収支改善の再検討
例:水位維持のための恒久的な締切堤、遮水工は必要か? 例:仮設化によるコストダウンは可能か?
▼ボート協会(NF)と都オリンピックパラリンピック準備局による具体的なレガシーとしての需要予測の精査
例:ボート施設利用競技団体、利用者予測は? 例:恒久施設としてのランニングコストと収入予測は?
▼代替候補地の再検討
例:候補会場の整備費用、大会後のランニングコストと収入予測は? 例:仮設シナリオの場合コスト試算の再検討 (高額な仮桟橋設備は本当に必要か?等)
迷走! 海の森水上競技場
都政改革本部の調査チームは調査報告書のこうした提言に対し、激しい反発が起きている。
森組織委会長は、「IOCの理事会で決まり総会でも決まっていることを日本側からひっくり返すということは極めて難しい問題」と述べ、海の森水上競技場については、「宮城県のあそこ(長沼ボート場 登米市)がいいと報道にも出ているが我々も当時考えた。しかし選手村から三百何十キロ離れて選手村の分村をつくることはダメなことになっているし経費もかかる。また新しい地域にお願いしてみんな喜ぶに決まっているが、金をどこから出すのか。東京都が代わりに整備するのか。それはできないでしょう法律上」と否定的な考えを示した。
10月3日、海の森水上競技場の視察に来日していた国際ボート競技連盟のロラン会長は、視察後、「(海の森水上競技場は)ボート会場には適切だ。非常に満足しているし、このプロジェクトにも満足だ。今のところ、1つのプロジェクトしか存在しない」と述べた。さらにロラン会長は、「立地もよく、検討すべき点もあるが、最良ということで決定され、現在の準備状況に満足している」と強調した。
その後、ロラン会長は小池都知事と会談し、小池都知事は「都政改革を訴えて今回の知事選に当選をした私として、もう一度オリンピック・パラリンピックにかかる経費、そしてまた、さまざまな環境整備を見直すべきではないか、実はこのことを訴えて知事になったようなものだ。費用の見直しについての世論調査は、80%以上の方が見直しということに賛成をしている。東京オリンピック・パラリンピックを成功させる最善の方法を見出すことを短期間で努めたい」と述べた。
これに対し、ロラン会長は「直前に海の森から変わるかもしれないと報道で知って驚いた。承認済みのことに関して、我々に事前に相談がなかったことが残念。なぜこうなったのか深く知りたい」と不快感を示した。
そして「決定ではなくこれから検証段階であると聞いたが、これは非常に重要なことだ。この報告書は第1ステップであり、報告書を改善するための手伝いをしたい。一部分だけでなく、すべての要素を全面的に検討して結論を出してもらいたい」とけん制した。長沼ボート場に変更する案については、「競技会場は、いろいろな基準を満たさないといけないが、東京から遠く、アスリートにとってベストの経験にならないのではないか。2年前にIOCや東京都などが調査をして専門家がまとめた分析では、宮城開催が将来にわたって地元によい効果をもたらすのかという点で、ほかの候補地に比べて評価が低かった」とした。
また日本ボート協会の大久保尚彦会長は、「長沼(ボート場)、あまりにも田舎だからどんなコースを作ったって、後を使うかという可能が非常に小さい。単に東北復興支援ということでは本当にワンポイントになってしまう。将来のレガシーにまったくならない。私はまだまったく理解できない」と強く反発している
一方、IOCのバッハ会長は、東京五輪の開催費用の増加について、「東京における建設費の高騰はオリンピック計画だけでなく、東日本大震災からの復興など、そのほかの理由もあるだろう」とし「建設的な議論をしたい」として柔軟に対応する姿勢で、今後東京都や組織委員会と協議を始める意向を示した。
報告書の提案を実行していくためには、国際競技団体や国際オリンピック委員会(IOC)の承認を受け直す必要がある上に、海の森水上競技場にこだわっている国内の競技団体や大会組織委員会、そして国などとの調整も必要で、実現には難関は多いと思われる。
小池都知事は難しい決断を迫られた。
小池都知事 村井宮城県知事と会談 海の森水上競技場見直し
2016年10月12日、小池都知事は海の森水上競技場の見直しを巡り村井宮城県知事と会談した。村井宮城県知事は、都政改革本部が宮城県登米市の長沼ボート場を代替候補地として提案したことを歓迎するとしたうえで、長沼ボート場での開催へ協力を求めた。
会談では、村井氏は用意していた資料を差し示して説明しながら、東日本大震災の仮設住宅をボート・カヌー競技選手の選手村として再利用することや、整備中の自動車道による交通アクセスの確保、大会関係者の宿舎に近隣のホテルを活用するなどの計画を示した。 また高校総体のボート会場として毎年活用したいという構想も明らかにした。
会談後、村井宮城県知事は、「被災者の皆さまと話をすると忘れ去られてしまう記憶の風化が非常に怖いとおっしゃる。2020年はちょうど震災から丸10年、多くの皆さまに来ていただいて改めて被災地の復興した姿を見ていただき、改めて被災者を激励してもらいたい」と語った。
会談終了後、小池知事は、「選択肢としての一つだが、思い入れは十分に受け止めた」と述べた。
これに先立ち、村井宮城県知事は前オリンピック・パラリンピック担当大臣で組織委員会理事の遠藤利明氏や武藤敏郎事務総長と会談した。
会談では、組織委が長沼ボート場について9つに課題を指摘した。
▼選手村の分村の設置
長沼ボート場は東京・有明地区の選手村から遠距離にあるため、選手村の分村の設置が必要で、オリンピックで1300人以上、パラリンピックで250人以上の宿泊施設を用意しなければならない。仮設住宅の転用で対応すると、パラリンピックの選手に使ってもらうためには利便性に課題が残る。
▼パラリンピックへのバリアフリー対応
競技会場には車いすの選手が利用できる間口の広いトイレや、すぐ横にシャワースペースも必要になるとし、会場についても高低差10メートルほどの斜面もあり、パラリンピックの開催に適さない。
▼輸送に難あり
仙台から85キロあり、パラリンピックの選手に負担が大きく、最寄り駅の1つにはエレベーターやエスカレーターがない。
▼会場に斜面が多く、整備が困難
会場周辺は斜面が多く、放送設備を置くためのスペースの確保などが難しく、周辺道路も狭い。
▼電力通信インフラが未整備
国際映像を配信するための電力や通信関係のインフラが整備されていない。
▼観客や大会関係者の宿泊施設不足
▼選手の移動などに負担大
空港から距離があり、選手の移動に負担がかかることや、カヌーはスラロームとスプリントが別の会場で実施されることになるためコーチなどスタッフの対応が難しくなる。
▼整備経費増大の可能性
都政改革本部の調査チームの試算ではおよそ350億円とされているが、バリアフリー化や電力・通信、宿泊関係などにかかる費用が含まれていないので整備経費は更に膨れ上がる可能性がある。一方、海の森水上競技場はコスト削減の余地があり結果的に低コストになるのではないか。
▼レガシー(遺産)が残らない
会談後、遠藤理事は、「東京都を含めてそれぞれの組織や団体が時間をかけて丁寧に精査し、現在の計画が最良の場所だと決めた。その中でIOC=国際オリンピック委員会などの理解を得られるのかどうか、難しい課題がいっぱいある。問題点のうち、いくつかはすでにクリアしているということだが、いちばん大きい問題は、現地で負担する費用の問題だと思う」と述べた。
これに対して村井宮城県知事は「組織委員会は消極的で『しょせん無理だ』という感じだった。長沼のボート場でできない9つの理由を挙げていたが、すべてクリアできると考えている。1000年に一度と言われる震災から立ち直ったのだから、やる気を出せば4年あればできる。できない理由よりもやれる方法を考えるべきで、森会長のリーダーシップに期待したい」と述べた。
「復興五輪」は国の責任
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会は招致の段階から、東日本大震災からの“復興”を掲げ、「復興五輪」を国や組織委員会は繰り返し強調してきた。しかし、競技開催計画策定の中で、「復興五輪」は雲消霧散してしまっている。カヌー・ボート競技会場の見直し問題をきっかに「復興五輪」というスローガンにどう取り組むのか、もう一度、考え直す必要があると考える。「復興五輪」への取り組みを牽引するのは、組織委員会や都ではなくて国であろう。丸川五輪相は、組織委員会や都の取り組みに委ねるのではなく、主体的に「復興五輪」に向けて手腕を発揮する責任がある。
2020年東京オリンピック・パラリンピックをレガシー(未来への遺産)にするためにも……。
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競技場整備計画の杜撰さの象徴 海の森水上競技場
東京五輪のボート・カヌー競技場が整備される「海の森公園」は、ごみと建設残土で作られた中央防波堤内側の埋立地で、1230万トンのごみが高さ約30メートルにわたって積み上げられた“ごみ山”だった。
この土地を東京都は緑あふれる森林公園にして東京湾の玄関口にふさわしい臨海部のランドマークにしようとするのが「海の森プロジェクト」である。工事は2007年から始まった。広さ約88ヘクタール、日比谷公園の約5.5倍の広大なスペースに約48万本の木々が植えられる計画だ。
高度成長期の“負の遺産”を、未来への遺産(レガシー)に変えようという狙いは大いに評価したい。
しかし、海の森水上競技場の建設計画は迷走に迷走を重ね、2020東京五輪大会の競技場整備計画の杜撰さの象徴となった。
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海の森公園 出典 東京都
膨張した建設費 69億円が1038億円 15倍に膨張
2020東京五輪大会のボートとカヌー(スプリント)の競技場となる海の森水上競技場は、この“海の森公園”の防波堤内の埋立地に挟まれた水路を締め切る形で施設を整備する計画である。
招致計画では、水門や観客席の工事で整備費を約69億円とした。当然必要とされる周辺工事費が一切含まれていない。極めて杜撰な整備計画だった。
その後の東京都の調査で、軟弱な地盤強化や潮流を遮る堤防の追加工事、コースの途中にある中潮橋の付け替え工事、護岸からの跳ね返り波を防止する消波装置の設置などが必要とわかり、あらためて整備を積算すると当初計画の15倍の1038億円に膨れ上がることが判明した。
舛添前都知事 建設費を491億円に圧縮
舛添前都知事は、東京都が担当する施設整備費は、当初計画では938億円だったが、その後の見直しで約5倍の4584億円に膨れ上がる分かり、これでは東京都の財政がもたないとして施設整備費の大幅削減に乗り出した。
「海の森水上競技場」は杜撰な整備計画のシンボルとなり、観客席の仮設施設への変更や水門の形状の変更、護岸延長の縮小、会場レイアウトの変更などにより整備費を約491億円に約半分に圧縮した。
見直された計画では、延長約350メートルの締め切り堤などの施設や、水門2基、揚排水施設を整備、また風速シミュレーションの結果を踏まえて、防風林の整備や、ボートの航行時に発生する波を弱める消波装置の設置も行う。
実施設計では会場周辺の水面や空を引き立たせるために、水門などの土木施設については、鮮やかさを抑えた色彩を採用するとした。
建築棟は、グランドスタンド棟(S造2階建て延べ5613平方メートル)、艇庫棟(S造2階建て延べ5977平方メートル)、フィニッシュタワー(S造5階建て延べ746平方メートル)などを整備する計画である。
観客席は、五輪開催時には、グランドスタンド棟で2000席(恒久席)、仮設席で1万席、立ち見席で1万席、関係者席(仮設)で2000席、合わせ2万4000席を確保し、五輪開催後は2000席(グランドスタンド棟のみ)に減築する。
しかし、この約491億円の巨額な経費で整備される海の森水上競技場巡って、数々の疑念が噴出している。
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491億円の内訳 出典 東京都オリンピック・パラリンピック準備局
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海の森水上競技場完成予想図 出典 東京都オリンピック・パラリンピック準備局
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海の森水上競技場基本計画 出典 東京都オリンピック・パラリンピック準備局
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ボート・カヌー競技の天敵 強い風と波 航空機の騒音 沿岸部での開催は無謀?
カヌー・ボート競技関係者から最も批判の声が強いのが、海の森水上競技場の「強風と波」である。
カヌー・ボート競技の会場は、沼や川を利用したり、人工のコースを整備したりするが、いずれも内陸で、強い風が吹き、波の懸念が大きい沿岸部で開催されるのは「史上初」という。
「海の森公園」には、風力発電の風車が立ち並んでいる。沿岸部独特の強い風が常に吹いているからだ。強い風が吹けば波が発生する。海の森水上競技場は、埋め立て地に挟まれた東西の水路がコースになる。五輪が開かれる夏場は南風が多く、競技に不向きな横風になる。護岸が垂直なため波の打ち返しがあり、護岸近くのコースと中央のコースでは不公平になる懸念が大きい。
都が昨年十月に公表した基本設計では、波風対策として、コース両側を水門で仕切り、コース周囲の護岸に消波装置を取り付ける。風上の南岸に高さ五メートルの防風林も植えるとしている。しかしその効果は、天候が悪化した場合にはほとんどなくなる懸念がある。
当初からアンフェアな競技運営になりかねないという懸念が関係者から根強く出されているのである
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筆者が訪れた日は、真夏の快晴の日だったが、常にかなりの海風が吹いていた。コースの水面には常にさざ波が絶えない。 世界ジュニアボート選手権 2019年8月 筆者撮影
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護岸に設置された消波装置 2019年8月 筆者撮影
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海の森水上競技場の会場内にある風力発電
また海水であることから、淡水と違って浮力が違うことで競技に与える微妙な影響やボートが塩害で腐食する懸念などの問題点も噴出している。
オリンピックのシングルスカル元日本代表の武田大作氏は、「五輪を含め国際大会が海で行われることは信じられない。ボートやカヌーはバランスが重要。横風は非常に影響を受けやすい。(海の森水上競技場は)選手の立場からはやりにくい」とし、「東京の団体は戸田の漕艇場を利用している。大学の寮のような生活をしていて1階がボート置き場、2階が居住できるようになっており食事もできるので環境が良い。わざわざ環境が悪い海の森水上競技場に行く人はないと思う」(ひるおび! TBS 2016年10月4日)と述べている。
また戸田漕艇場を拠点にしているボート競技団体で構成する戸田監督会の和田卓事務局長は「(海の森水上競技場)は居住できないんじゃないかな。極端にいうとなかなか難しい。騒音もひどいし、周りになにもないし、移動するための経費だとか環境だとかを考えたら100%いかないと思う」(報道ステーション テレビ朝日 2016年10月3日)と語っている。戸田漕艇場の艇庫は、合宿所やトレーニング施設も備えていて、自炊をして練習を行っている。
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戸田漕艇場 出典 blogs.c.yimg.jp
こうした中で、埼玉県戸田市は、戸田監督会と連携して、戸田ボートコース(戸田漕艇場)の隣にある彩湖での開催を提案している。彩湖は荒川の遊水地で、全長は8.1キロメートルもあり、2000メートルのコース設営には十分だ。高規格の堤防に囲まれ、風は静かで波の影響もほとんどない。淡水湖なので塩害もない。敷地内にはプロ野球ヤクルトの2軍練習施設やサッカー場などがありスペースは十分確保できる。戸田市が元建設業者に見積りを依頼したところ、国際規格のコースが約47億円の費用で整備が可能という試算がされたという。海の森水上競技場の整備経費の約10分の1である。そこで、戸田市では彩湖での競技場計画を立て、図面も完成させて、舛添要一前知事時代の2014年9月に東京都や五輪組織委員会に要望したが、「五輪組織委員会、日本ボート協会で海の森で合意している」との回答のみだったという。五輪組織委員会では、彩湖は荒川が増水した場合に水を逃がす調整池なので競技場造るのは難しく、施設の工事には陸域の掘削など大規模な整備が必要となるなど大きな問題がり、検討はしたが断念したとしている。
これに対して、戸田監督会の和田卓事務局長は「近くの戸田ボートコース場は、貯水池に作ったもので今も貯水池として機能を有している。同じように彩湖をボート場にしても貯水池の機能を阻害するものではない。そもそも海の森水上競技場は海水で競技には不向き」と語っている。(ワイドスクランブル テレビ朝日 2016年10月5日)
ちなみに1964年東京オリンピックのボート・カヌー競技会場となった戸田ボートコース(戸田漕艇場)は、6コースしかなく、8コースが必要とされている国際規格を満たさないので五輪開催は不可能だ。
ボート競技はコースに白波が立っただけでレースを行うか行わないという判断をするほど、風と波の影響は受けやすい。
海の森水上競技場で、果たして円滑な競技運営を行う確固たる自信が五輪組織委員会や日本ボート協会にあるのだろうか。
真夏の東京は、ゲリラ豪雨や台風など気象が極めて不安定な季節であることも見逃せない。
疑惑の目が向けられた海の森水上競技場の入札
「海の森水上競技場」のグランドスタンド棟や水門などの整備工事は、入札が行われ、2016年1月、新国立競技場を受注した大成建設を中心とする異業種共同企業体(JV)が248億9832万円で受注した。
しかし、入札は異例づくめで、 “疑惑”の目が向けられている。
応札したのは、大成建設など4社(河川工事)、東洋建設など2社(建築工事)、水ing(ポンプ据え付け)、水門門扉(日立造船)の共同企業体(JV)だけであった。
また、落札価格が248億9832万円、予定価格は248億9863万9860円、落札率は99.9%、異例の落札率だった。
応札した事業体が1つだけであったことについて、東京都の担当者はポンプの据え付けや水門などの工事は専門性が高く「施工条件が厳しかったのでは」と話しているという。
その一方で、技術点は60点満点で36点、他の五輪競技場の落札者の点数と比較すると極めて低いのが目立つ。
今回は技術審査委員の6人のうち5人は東京都港湾局の職員、1人は五輪準備局職員、全員が都庁の職員で、第三者の委員は誰もいない。審査の公平性や不明朗さへの疑念が生まれてくる。 さらに官製談合と指摘する声さえも囁かれている。
こうした疑惑に対し、東京都は十分な説明性が求められるのは当然だろう。
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海の森水上競技場基本計画 出典 東京都オリンピック・パラリンピック事務局
491億円で本当に収まるのか?
海の森水上競技場の基本計画の整備費の内訳をみると、今回、発注される約249億円の工事は、グランドスタンド棟や水門などの整備工事で整備費全体の約半分にすぎない。実は平成28年度以降措置する想定額として182億円の整備費がすでに記されている。国際競技団体等と協議中の施設、約60億円、工事中のセキュリティへの対応費、10億円、大会後の改修費12億円、今後追加工事が生じた場合の対応費、90億円などである。この想定額というのが曖昧な数字で根拠がない。
風や波の影響が懸念されている海の森水上競技場については、開催準備がさらに進みと、国際競技団体から追加工事要請が次々と舞い込むことが予想される。約60億円の想定で本当に収まるのだろうか?
また地盤補強工事や護岸工事は難工事が予想され、想定外の工事追加の発生が懸念される。まだまだ整備費の不確定要素は大きいと見るのが自然である。
みるみる内に経費が膨れ上がった新国立競技場の迷走の二の舞になるのではと不安視するのは筆者だけであろうか?
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国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)
2016年10月9日 初稿
2019年9月15日 改訂
Copyright (C) 2019 IMSSR
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廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
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