一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

上野六段、引退

2023-05-26 23:04:41 | 男性棋士
今月16日、上野裕和六段が規定の全対局を終え、引退した。時に46歳で、早過ぎる。
上野六段は2000年10月、23歳で四段デビュー。2007年、第65期C級2組順位戦で9勝1敗の成績を取り、C級1組に昇級した。
実はこれが上野六段のピークで、この後上野六段はC級2組に落ち、2013年にはフリークラスに落ちた。それから10年、順位戦復帰が叶わぬまま、今回の引退になったものである。
上野六段は親しみやすい人柄だ。私は将棋ペンクラブのイベントや大野教室で何度かお会いした。あるとき私自身があまりにも上野六段とフランクに話したのだが、よく考えたら、私が上野六段にお会いしたのは、このときがまだ2回目か3回目だった。
上野六段の指導対局は独特で、対局前に「天使」「普通」「鬼」のカードが提示される。そしてその選んだカードによって、上野六段が指し手の厳しさを決めるのである。たとえば下手側が「鬼」を選べば、上野六段は鬼の指し手となるわけだ。
2017年5月21日、将棋ペンクラブの関東交流会で、上野六段に角落ちで指導対局をしていただいた。私は当然「鬼」モードでお願いしたが、下手有利の局面で私が疑問手を指し、形勢が急接近した。そこで上野六段が「鬼」で指せば形勢がひっくり返ったのだが、上野六段の指し手はなぜか「天使」だった。指導対局で鬼になり切れない、上野六段の優しさが出た場面だと思っている。
ちなみに上野六段は、2013年に「将棋ペンクラブ大賞・技術部門」で、大賞を受賞している。このときのスピーチも秀逸で、いまでも語り草になっている。
上野六段はある年のあるパーティーで、たまたまある女性と隣合わせの席になった。上野六段はその女性と意気投合し、そのまま結婚した。しかもその女性は、お医者さんというおまけ付きだった。
これは誰もがうらやむエピソードで、このエピソードがあれば、現役生活の短さなど、なんでもない(こともないか)。
引退直後のご本人のツイッターを読むと、「やりきった」清々しさがあった。上野先生、23年間の現役生活、お疲れ様でした。
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川上七段、竜王戦の4組残留!!

2023-05-25 23:08:25 | 男性棋士
23日の日本将棋連盟の対局結果を見て驚いた。第36期竜王戦4組残留決定戦・中村太地八段VS川上猛七段戦で、川上七段が勝っていたからだ。
川上七段は、2022年度の対局をもってフリークラスの10年を終了、引退が決まった。
ただし竜王戦は4組で、現行ではこのクラスを維持している限り、竜王戦はずぅっと指せる。これは初のケースである。
ただし5組に降級すれば、4組に復帰しない限り、2年で引退となる。しかし残留決定戦の相手は、いまをときめく新A級・中村八段である。これは誰だって中村八段が勝つと思う。というか、中村八段だって、順位戦で昇級していながら、竜王戦で降級するわけにはいかない。棋士仲間にナメられるだけである。
その状況のなか、川上七段が勝ち切ったのが偉かった。
ちなみに将棋は相居飛車戦で、双方よく戦ったが、川上七段に勝ち運があったということだ。
やむを得ないこととはいえ、順位戦の成績だけで棋士のイノチが決まってしまうのは割り切れないところもある。
川上七段は第37期竜王戦、現状維持どころか昇級を果たし、話題を提供してほしいと思う。
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達人戦復活と、持ち時間

2023-05-24 23:40:53 | 男性棋戦
名人戦第4局の陰に隠れて目立たなかったが、日本将棋連盟が22日、「達人戦」の創設を発表した。対局は6月からで、決勝戦は11月24日・25日が決定されているらしい。
さて「達人戦」といえば、2014年まであった「富士通杯達人戦」が浮かぶが、今回の正式名称は「達人戦立川立飛杯」である。また、前者は非公式戦だったが、今回は立派な公式戦らしい。
この出場資格が面白い。「50歳以上の現役棋士」で、今回は54名が該当する。年齢制限のある棋戦は、新人王戦や加古川青流戦などがあるが、「下限」を設けたのが斬新である。
ちなみに富士通杯達人戦も、第1回は50歳以上が出場条件だった。しかも上記のとおり非公式戦だったため、引退した二上達也九段が出場していた。賛否は別にして、現役を退いても現役と勝負ができるのが、頭脳ゲーム・将棋のいいところである。
富士通杯達人戦はその後ルールが変わり、40歳以上が出場資格となった。だが現役バリバリの谷川浩司十七世名人や羽生善治九段が出場棋士に該当し、勝負としては面白味がなくなった。そして上記の通り2014年をもって休止となったのだが、なるべくしてなったともいえた。
今回、棋戦のテイストが同じとはいうものの、「達人戦」という由緒ある棋戦名が、違うスポンサーによって復活したのは、よろこぶべきことだ。
50歳以上の将棋となれば、オールドファンには懐かしい戦法も出てくるかもしれないし、意外な棋士が活躍するかもしれない。いろいろ興味は尽きない。
ただ、私的には不満もある。
それは持ち時間で、今回の達人戦は、予選トーナメント1時間(秒読み1分)、本戦トーナメント30分(秒読み30秒)である。50歳以上になれば反射神経も衰えているだろうに、そこを30分の早指しは、いかがなものか。
察するに、持ち時間を短くすることによって、対局料が安く設定できたのかもしれない。
でも私は、将棋にしっかりと読みを入れてもらい、その棋士しか指せない構想や、終盤の一手勝ちを披露してもらいたいのである。それが30分では、読みの精度も落ちるのではないだろうか。
第2回からでも、持ち時間の増量をしてもらいたい。
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第81期名人戦第4局・第2日目

2023-05-23 22:26:26 | 男性棋戦
第81期名人戦第4局(主催:毎日新聞社、朝日新聞社、日本将棋連盟)の第2日目である。藤井聡太竜王の封じ手は、桂を跳ねる手だった。
予想された手だが、桂交換に▲同銀と取った手が玄妙だった。これだと△8九歩成でと金を作られてしまうが、それも読み筋なのだろう。
それで渡辺明名人も別の手を指し、藤井竜王は8八の歩を払った。そして玉が寄ってみるとこの形、藤井竜王の将棋で時々見たではないか。いかにも簡素で固くはないが、妙に弾力性があって、懐が広いのだ。
しかも数手後の形勢バーは、藤井竜王に70%を示していた。事実、藤井竜王には指したい手がいっぱいあって、これは読む作業が愉しいと思われた。
反対に渡辺名人は、どの変化にも光明が見いだせず、イヤになったのではなかろうか。1日目終了時には1時間45分あった持ち時間差も、いまでは30分足らずになっていた。
藤井竜王はじっくり時間を使い局面をよくしたのに対して、渡辺名人は悪くなってから考える。これでは勝敗の帰趨が見えてしまう。
渡辺名人は狙いの△4五歩(飛銀両取り)を敢行したが、藤井竜王は冷静に対処し、飛角交換に留まった。この折衝、藤井竜王も角がほしかったから、むしろ藤井竜王が得をしたのではないか。
渡辺名人は銀桂両取りに飛車を打つが、仮に銀を取っても敵陣から外れてしまうので、それほど得にならない。
反対に藤井竜王は2枚目の角を好所に据えて好調。
……と、渡辺名人がここで投了してしまった。アマ同士だと先手やや指せる、くらいで後手の勝機も十分あるが、プロ的には終わっているのだろう。
終了時間は16時45分、手数は69手。名人戦らしからぬコクのない戦いで、渡辺名人の攻めが不発に終わり、そのまま5回降雨コールドになった感じだった。これじゃあ観戦記も書きにくいだろう。
渡辺名人は「攻めの手順がおかしかった。もうちょっといい将棋を指さないといけないですね」と反省の弁を述べた。なんかこの感想、前も聞かなかったか? もはやお通夜である。
さて、藤井竜王はついに名人に王手。もし名人になったら、20歳で七冠王である。ウソだ。これじゃマンガである。
ヒトはそれを歓迎するだろうが、私の気持ちはちょっと複雑である。名人は20歳で獲れるものではないと思う。将棋はそんなに簡単なものではないと思う。
しかし、それが現実になろうとしている。藤井竜王に20歳七冠を許したら、同業者は猛省するべきだろう。
運命の第5局は、5月31日・6月1日。
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第81期名人戦第4局・第1日目

2023-05-22 00:36:52 | 男性棋戦
第81期名人戦第4局(主催:毎日新聞社、朝日新聞社、日本将棋連盟)が始まった。
ここまで渡辺明名人の1勝、藤井聡太竜王の2勝。本局、渡辺名人が勝てばタイだが両者の対戦成績(渡辺名人4勝、藤井竜王18勝)を考えると、2-2になっても渡辺名人の分が悪い。つまり本局も「渡辺名人勝ち」が最低条件なのだった。
本局は渡辺名人が後手。対藤井戦4勝のうち3勝が後手番だが、偶然だろう。渡辺名人だって先手が欲しいはずだが、先後は交互だからしょうがない。
対局開始。藤井竜王は飛車先の歩を突き、角道を開け合った。ここで渡辺名人は△4四歩。
もはや予想された手で、以下もやはり雁木になった。先日ネットで見たのだが、角換わりの将棋は、AI上では先手必勝らしい。藤井竜王はその総ての形を把握していそうで、渡辺名人、とても藤井竜王の角換わりを受ける気にはならんだろう。
藤井竜王は左美濃。しかし玉はまだ入城していない。と、渡辺名人は早々に右桂を跳ねる。なんだか藤井竜王の指し手のようだが、渡辺名人が藤井将棋を研究した成果がこれだったのかもしれない。
さらに渡辺名人は右桂を五段目に跳ね、9筋に味をつけて、8八に歩を打った。
ここで藤井竜王が1時間以上の長考をし、封じ手とした。AIの評価は、先手指しやすし。ただ、消費時間は藤井竜王が1時間45分も多く消費している。いつも思うのだが、AIの形勢判断には、双方の消費時間(残り時間)の差が加味されていない。今回、1時間45分の差は小さくないと思うのだが、どうか。
なんだかんだ言っても、将棋は攻めているほうが勝つ。先攻した渡辺名人も十分であろう。2日目の戦いが楽しみである。
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