一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

中村真梨花女流三段の指導対局会(後編)

2018-01-08 00:20:34 | 女流棋士の指導対局会

第9図から王手を続けるには▲8三銀しかない。以下△同玉に▲7二銀とヤケクソの捨駒だ。△同玉に▲8二金△6一玉。
ここまでか…と思いきや、▲5六の香で△5一飛を取れるではないか。ああこんな手が残っているのなら、まだ指してみる価値はあると思った。

第9図以下の指し手。▲8三銀△同玉▲7二銀△同玉▲8二金△6一玉▲5一香成△同玉(第10図)

私は▲8三銀と打った。対して△9三玉は▲9四銀成△同玉に▲9五歩か▲9五銀か。△9三玉ならその時考えようと思ったが、中村真梨花女流三段は△同玉。まあそうであろう。
▲7二銀。ここで中村女流三段が少し考えた。この3手は読みになかったということか?
△7二同玉に▲8二金。以下△5一同玉まで、私の読み筋通りに進行した。

第10図で私は、▲1五角の王手竜取りがあると思った。
が、いま手にしたのは飛車だった。ここから飛車1本で詰むわけがない、やはり投了か、と投げかけたが、試しに▲5二歩(途中図)を考えると、△4一玉には▲3一飛△5二玉▲3二飛成(参考図)以下ピッタリ詰む。


△4一玉の変化で詰むのなら、△5二同玉でも詰むのではないか?

第10図以下の指し手。▲5二歩(途中図)△同玉▲4二飛△5一玉▲5二歩(投了図)
まで、123手で一公の勝ち。

私は▲5二歩と打つ。中村女流三段は「ここに歩が利く?」」という感じで△同玉。
ここで▲3二飛は△4三玉で逃げられる。大駒は離して打て、の逆を行く▲4二飛が好手だ。
対して△6一玉に▲6二歩だと△5一玉で打ち歩詰め。よって△6一玉には▲7二飛成△5一玉▲4二馬までだ(もっとも△6一玉には、▲4一飛成で長手順ながら詰む)。
中村女流三段は△5一玉と引いたが、私は再度▲5二歩。どう考えてもこれで詰んでいる。…どういうことだ!?

中村女流三段が投了した。以下△6一玉に▲4一飛成まで。
「負けました。そうか、あーっ、え? そうか詰みがあったんですね。金が1枚になったから詰まないと思ってました」
うん…? ということは、第8図の△5八銀の局面では、中村女流三段は自玉の詰み筋を承知していたということか? それとも、詰まされたらしょうがない、の△5八銀だったのか?
とにかく第9図の局面で私は負けを覚悟していたから、思わぬ逆転劇に、意識がついていけない。
「はあ…5筋の飛車を取れれば何とかなるかな、と」
読みの途中で偶然飛車を取る手に気付いたのに、最初からの予定だったように私は言う。
「5筋に歩が利いたんですね。ピッタリの詰みですね」
「たまたま…です」
▲5二歩も、▲1五角の王手がないことが分かり、消去法で発見しただけだった。
「でもォ、こういう綺麗な詰みなら、上手としても、負かされた甲斐があります」
中村女流三段は感心したように言う。
上手の読みにない手を指して勝つ。これは下手にとって最高の勝利であろう。▲8三銀からの指し手は、詰みが見えないまま指し、最後は神様のお導きのように、奇跡的に上手玉が詰んでいた。△9二玉の時点で投了しなくて、本当によかった。
右のShin氏が投了。こちらは下手の駒損が響いたようだ。
私とShin氏にはW氏から2局目を勧められたが、私は丁重にお断りした。すると中村女流三段がバッグからミニ色紙を取り出した。「福」「夢」の2種類があり、どちらかを戴けるらしい。
「今は福が欲しいので…」
と、私は前者を頂戴した。この色紙は中村女流三段の自発的サービスである。その気遣いに感謝である。
お茶を注いでいると佐藤氏が来て、
「▲7三桂成の時△同銀引と指したらどう詰ました?」
と言う。
私は▲6六角と出る筋を考えていたが、▲7四桂△9二玉▲8二金△9三玉に▲8四銀△同玉▲6六角で、詰んでいたらしい。
まだ対局時間は30分以上あるのだが、私は帰らず、激闘の余韻を楽しむ。こんな優雅な気持ちに浸れるのは、ここ数ヶ月なかったことである。
W氏が、今日は関西の愛棋家、西堀氏が来ているという。西堀氏は「LADIES HOLLY CUP」を主催したことがあり、その優勝者が誰あろう中村女流三段だった。
その西堀氏が指導対局を終え休みに入ったので、少し話をさせていただく。
「お名前はかねがね」
「いろいろ忙しくてね。先日は菅井王位の応援に行ってきた」
「岡山も関西ですものね」
「きのうの久保・豊島戦はすごかったねえ」
「あ、そうですね」
「△8二桂がすごかったね。○○○が○○○で、▲5一銀がいい手やったかな」
私はこの将棋、途中までしか再生していないので、西堀氏の言ってる意味が分からない。
「豊島さんが飛車を振るとは思いませんでした」
私は曖昧に頷きつつ、微妙に話をはぐらかす。しかし西堀氏は攻勢を続ける。
「この前の日本シリーズも、豊島さんが優勢やったと思ったけど、山崎さんがよく逆転したね」
「すみません、その将棋はちょっと、見てないもので…」
「……」
さすがに日本屈指の愛棋家だけあって、プロ将棋に詳しい。不勉強の私はタジタジで、何だかFuj氏と話しているような錯覚に襲われた。

Tag氏は熱戦を展開中だ。部分1図から▲4四桂。以下△4二金に、それは…とTag氏がつぶやいて、▲2一飛。ここで中村女流三段の投了となった。
上手が劣勢だったので、無駄な粘りをせず、潔く斬られた、というところ。中村女流三段も時間内に終わらせるタイプのようである。
3時半になり、2時の回は終了。帰りはShin氏と駅まで行った。
Shin氏と別れて改めて考えると、第8図では▲5八金打とせず、▲7三桂成△同銀上▲7四桂で簡単に詰んでいた。この手順を中村女流三段が気付かないわけがないから、やはりここは下手に詰まされて終了、という腹づもりだったのだろう。
ところが私が金を受けてしまったために上手が勝ち筋?に入り、△9二玉の時は、「勝っちゃった」という気持ちだったのではあるまいか。
しかしそこから迂回手順で勝てた私もすごい。勝つと負けるとでは天国と地獄。翌日からの生活のハリが、まるで違うのだ。
せっかく天使がほほ笑んだのだから、もう少し就職活動を頑張ってみよう、と思った。
コメント (2)
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