「そんなはずはないんだが…」
私はつぶやく。あんでるせんで結婚を予言されたのは4回目だが、にわかには信じがたい。
私に付き合っている女性はいないし、さすがにこの歳になったら、結婚を諦めている。もしあるとすれば相手は将棋ファンだが、これとてまったく可能性はない。
ただマスターには、結婚する人には、伴侶のオーラが見えるという。マスターは、結婚しない人に結婚するとは言わない人だし、この辺のマスターの言葉は謎だ。
「これから予言をします。あなたは何か絵を描いてください。でもそれだと無限になっちゃうから、動物にしましょう。しっぽのある動物の絵を描いてください。それを私が当てます」
マスターはそう言って、メモ用紙をくれた。メモに絵を描く、は以前も指名されたことがある。そのときは任意の絵だったが、ズバリ当たった。今回はどうか。
私は後方に移動し、動物を思い浮かべる。白クマが浮かんだので、その絵を描いた。が、子犬みたいな絵になってしまった。私は少なからず絵心があるが、これは誤算だ。マスターが犬の絵を出しても、私は「白クマ」を主張するつもりだ。
マスターが長財布から、紙片を取り出す。
「しっぽのある動物といっても、いろいろありますよね。同じ動物を描いても、捉え方も人それぞれです…」
マスターが意味深な発言をする。そして紙片を開くと、白クマの絵があった。私も開き、そっくりな絵が2つ並んだ。どよめく店内。マスターの紙片には、
「〈予言〉大沢一公さんという名前の方がこの絵を描きます。’14.12.13(土)AM7:30」
とあった。

絵もそうだが、氏名をズバリ当てられたことも驚嘆しなければならない。今回に限っては、マスターは私の名前を「かず○○」としか聞いていなかったからだ(厳密に言えば、電話予約の際にフルネームを名乗っているのだが)。
午前7時30分といえば、私は鹿児島本線に乗っていた。白クマの絵を描くために、鹿児島本線、肥薩おれんじ鉄道、鹿児島本線、フェリー、島原鉄道、大村線と乗り継いだと思うと、感慨深いものがあった。
ただ、マスターは動物の名前を言わなかった。予言をしている最中、これがクマなのか犬なのか、判断が付かなかったのだろうか。
マスターのマジックはヒートアップする。電卓を使った生年月日当て。これは私が最も好きなマジック??だ。さらに、コーラの瓶を素手で捻じ曲げる。10円玉を掌の中で縮めたり拡げたりする。指で100円玉を割る。もちろん復元させる。カレー用のスプーンをぐにゃぐにゃに曲げる。スプーンに塩をふりかけ、一口かじる。その部分は、口の中だ。等等等、いちいち書いていたらキリがない。私たちはただただ、感嘆の声を上げるばかりである。
マスターが締めの言葉を言って、お開きとなった。気が付けば時刻は、10時半を過ぎていた。実に2時間半以上のショーである。私が最初に訪れた時は、1日3回公演で、ショーは2時間弱だったと記憶する。現在は2回公演になったこともあり、ショーの時間が伸びている。それでも今回は、最長だった。
以前は、これにて三々五々解散だったが、最近ではほとんどの人が、ぐにゃぐにゃに曲がったスプーンを、御守代わりとして購入するようになった(300円)。そしてマスターと握手し、脳天から「気」を入れてもらうのである。
さらに若い女性は、ここがチャンスとばかり、二言三言会話をする。中には涙ぐんだり、悩み事を打ち明ける手合いがいる。そう、彼女らはこの時のために、遠路はるばるやってきたのだ。
私も1本買い、マスターと握手する。マスターから見たら私などは、ロクでもないグータラに見えるんだろうな。頭頂部が薄いのがアレだが、気を入れてもらう。
これにて、今年のマジックショーは終わりである。私は退出するが、出入口のところで、カウンター席にいたおばちゃんが、2か月後の予約をしていた。
予約は2か月前からOKなので違反ではないが、このスパンは短すぎないか? まあ、2か月も1年も、似たようなものか。
川棚駅に戻る。窓口は夕方までで、現在は無人だ。今夜の宿は決めていない。駅前にビジネスホテルが1軒あり、予約はできたのだが、以前泊まった時、部屋の真ン中に太い支柱が貫かれていて、それ以来ここのホテルを利用するのがイヤになってしまった。
遅くなったので、長崎行きの列車はもうない。あとは早岐行きの最終列車しかなく、最終的には、佐世保近辺のネットカフェを利用するつもりだ。
私は待合室のベンチに座り、マスターがくれた例の紙片を見た。何気なく裏返す。
あああっ、こ、これは…!!
そこには、とんでもない絵が印刷されていた。
(つづく)
私はつぶやく。あんでるせんで結婚を予言されたのは4回目だが、にわかには信じがたい。
私に付き合っている女性はいないし、さすがにこの歳になったら、結婚を諦めている。もしあるとすれば相手は将棋ファンだが、これとてまったく可能性はない。
ただマスターには、結婚する人には、伴侶のオーラが見えるという。マスターは、結婚しない人に結婚するとは言わない人だし、この辺のマスターの言葉は謎だ。
「これから予言をします。あなたは何か絵を描いてください。でもそれだと無限になっちゃうから、動物にしましょう。しっぽのある動物の絵を描いてください。それを私が当てます」
マスターはそう言って、メモ用紙をくれた。メモに絵を描く、は以前も指名されたことがある。そのときは任意の絵だったが、ズバリ当たった。今回はどうか。
私は後方に移動し、動物を思い浮かべる。白クマが浮かんだので、その絵を描いた。が、子犬みたいな絵になってしまった。私は少なからず絵心があるが、これは誤算だ。マスターが犬の絵を出しても、私は「白クマ」を主張するつもりだ。
マスターが長財布から、紙片を取り出す。
「しっぽのある動物といっても、いろいろありますよね。同じ動物を描いても、捉え方も人それぞれです…」
マスターが意味深な発言をする。そして紙片を開くと、白クマの絵があった。私も開き、そっくりな絵が2つ並んだ。どよめく店内。マスターの紙片には、
「〈予言〉大沢一公さんという名前の方がこの絵を描きます。’14.12.13(土)AM7:30」
とあった。

絵もそうだが、氏名をズバリ当てられたことも驚嘆しなければならない。今回に限っては、マスターは私の名前を「かず○○」としか聞いていなかったからだ(厳密に言えば、電話予約の際にフルネームを名乗っているのだが)。
午前7時30分といえば、私は鹿児島本線に乗っていた。白クマの絵を描くために、鹿児島本線、肥薩おれんじ鉄道、鹿児島本線、フェリー、島原鉄道、大村線と乗り継いだと思うと、感慨深いものがあった。
ただ、マスターは動物の名前を言わなかった。予言をしている最中、これがクマなのか犬なのか、判断が付かなかったのだろうか。
マスターのマジックはヒートアップする。電卓を使った生年月日当て。これは私が最も好きなマジック??だ。さらに、コーラの瓶を素手で捻じ曲げる。10円玉を掌の中で縮めたり拡げたりする。指で100円玉を割る。もちろん復元させる。カレー用のスプーンをぐにゃぐにゃに曲げる。スプーンに塩をふりかけ、一口かじる。その部分は、口の中だ。等等等、いちいち書いていたらキリがない。私たちはただただ、感嘆の声を上げるばかりである。
マスターが締めの言葉を言って、お開きとなった。気が付けば時刻は、10時半を過ぎていた。実に2時間半以上のショーである。私が最初に訪れた時は、1日3回公演で、ショーは2時間弱だったと記憶する。現在は2回公演になったこともあり、ショーの時間が伸びている。それでも今回は、最長だった。
以前は、これにて三々五々解散だったが、最近ではほとんどの人が、ぐにゃぐにゃに曲がったスプーンを、御守代わりとして購入するようになった(300円)。そしてマスターと握手し、脳天から「気」を入れてもらうのである。
さらに若い女性は、ここがチャンスとばかり、二言三言会話をする。中には涙ぐんだり、悩み事を打ち明ける手合いがいる。そう、彼女らはこの時のために、遠路はるばるやってきたのだ。
私も1本買い、マスターと握手する。マスターから見たら私などは、ロクでもないグータラに見えるんだろうな。頭頂部が薄いのがアレだが、気を入れてもらう。
これにて、今年のマジックショーは終わりである。私は退出するが、出入口のところで、カウンター席にいたおばちゃんが、2か月後の予約をしていた。
予約は2か月前からOKなので違反ではないが、このスパンは短すぎないか? まあ、2か月も1年も、似たようなものか。
川棚駅に戻る。窓口は夕方までで、現在は無人だ。今夜の宿は決めていない。駅前にビジネスホテルが1軒あり、予約はできたのだが、以前泊まった時、部屋の真ン中に太い支柱が貫かれていて、それ以来ここのホテルを利用するのがイヤになってしまった。
遅くなったので、長崎行きの列車はもうない。あとは早岐行きの最終列車しかなく、最終的には、佐世保近辺のネットカフェを利用するつもりだ。
私は待合室のベンチに座り、マスターがくれた例の紙片を見た。何気なく裏返す。
あああっ、こ、これは…!!
そこには、とんでもない絵が印刷されていた。
(つづく)