一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

金曜サロン・藤田麻衣子女流1級①

2009-04-18 16:36:42 | LPSA金曜サロン
金曜サロン、17日の担当は、昼が藤田麻衣子女流1級、夕方が北尾まどか女流初段だった。
この日は珍しく午後2時直後にサロンに入った。いままでこの日記を読まれた人は、「お前、昼からサロンに入れる環境なのか?」という疑問も持たれよう。
たしかにそのとおりで、私も夜から入りたいのだが、ご多聞にもれずウチも世間の不況をモロにかぶっていて、仕事が少なくなってしまったのだ。だから私は現在、金曜日は休日になっている。しかし陽の明るいうちからサロンにお邪魔するのは、ある意味むなしい。
さて藤田女流1級は、日本女子プロ将棋協会(LPSA)を代表する秀才である。デザイン能力や企画性にも優れ、藤田女流1級発案の「日めくりカレンダー」は大ヒットとなった。現在話題沸騰の「どうぶつしょうぎ」のキャラクターも、藤田女流1級のデザインである。
観戦記者の顔も持ち、「将棋世界」平成13年11月号付録に収録された藤田女流1級の自戦記は、のちの観戦記者人生を彷彿とさせる、瑕瑾のない文章だった。いまや藤田女流1級は、LPSAになくてはならない、司令塔的存在といえよう。
そんな藤田女流1級には、私がまだ金曜サロンに通っていなかった昨年1月に、大阪で行われた1DAYトーナメントの席で、指導対局を受けたことがある。プロ棋士に指導対局を受けたのは、私が高校生のときの1983年11月、真部一男七段(当時)に教わって以来24年振り。だから藤田女流1級とは、LPSA棋士との記念すべき初対局だったわけだ。
このときの模様は「将棋ペンクラブ会報」にも掲載されたので重複を避けるが、自分の棋力が女流棋士にどこまで通用するのか、たいそう緊張したことを憶えている。
その後も藤田女流1級は、イベントや金曜サロンで顔を合わせるたびに、「あっ、一公さんだー!」と気軽に挨拶をしてくれた。
そんなこともあって、LPSA棋士の中で、藤田女流1級は私にとって特別な存在になっているのだ。
ところが肝心の指導対局では、以降私の成績が芳しくない。大阪での角落ち戦はいいとして、金曜サロンは3戦全敗なのだ。
いずれも平手で、1局目は私の四間飛車に△6五歩早仕掛けでこられ、70手で吹っ飛ばされた。
2局目(サイン勝負)は、私が中盤に銀バサミの筋で駒得したのに、上手の攻めを受け損ねて逆転負け。
3局目(当然サイン勝負)は中盤の入口で飛車銀交換の成果を挙げたのに、やはり逆転負けした。
最初から非勢の将棋で順当負けなら納得もできる。しかし2、3局目は中盤まで明らかにこちらが優勢だったのだ。こういう負けは本当に堪える。
こんな状況で迎えた17日の指導対局(もちろんサイン勝負)は、これが2、3局目とは較べものにならない、ひどい将棋となった。
私の四間飛車に藤田女流1級が居飛車穴熊を明示したので、私は向かい飛車に振り直し、急攻に出た。以下折衝があり、藤田女流1級が△8四飛と私の歩を払った局面が絶好のチャンスだった。局面の一部を記すと、先手のおもな駒の配置は7六歩、7七角、9一成桂、持駒は香。後手のおもな配置は7三桂(ヒモはついていない)、7四歩、8四飛、8五歩、9三歩。
ここでふつうの対局者なら、10人が10人、▲9五角と出る。△9四飛や△8二飛は▲7三角成。△8三飛なら▲8四香で飛車を殺して先手良しだ。
それを私は▲6六角とやった。すかさず△7五歩と突かれ、▲同角に△5四飛と回られては、一遍に形勢が混沌となってしまった。
以降形勢の針は微妙に揺れ動き、迎えた127手目▲3二金打の局面が以下のごとくである。図面は載せないので、ヒマな方は並べていただきたい。

下手・一公:1七桂、1九香、2七歩、2九銀、3二金、3七歩、3九玉、4二竜、4七歩、4八金、5六歩、6七銀、7六歩、7八金、9七歩、9九香。持駒は銀、香、歩2
上手・藤田女流1級:1二王、1三馬、1四香、1六桂、2二銀、2三歩、3三桂、3四歩、4三歩、4四飛、5七桂、8四歩。持駒は角、金、歩6

ここで藤田女流1級が突然△4九金と打ってきたので飛び上がった。何か受けると思っていたからだ。藤田女流1級には、2、3局目はキレイな即詰みに討ち取られている。とにかく寄せが鋭いのだ。また今回もトン死を喰らってしまったのだろうか。しかしよく読むと、以下▲4九同金△同桂成▲同玉△4七飛成には冷静に▲4八歩と受けて詰みはない。
実際局面もそう進んだ。しかしそこであらためて読み直してみると、ここで△5八角の継続手がある。以下▲5八同銀に△同竜▲同玉△5七銀▲4七玉△4六馬▲3八玉△5六馬▲4七合△同馬▲同歩△4八金まで、ピッタリ詰むではないか!!
はたして藤田女流1級は、ペシャリと△5八角。
やっぱり、また負けた…。中盤の▲9五角を逃してから落胆していた私はこの局面で、消え入りそうな声で「負けました…」と潔く投了した。
ところが事件はその後に起こった。形式上感想戦に入り、「一応、詰みを確認しましょう」と先の手順を進めたところ、△5六馬の局面で▲4七香と受けておけば、△4七同馬に▲同歩でなく、玉で取って不詰めだったのだ!!
なんたることか! 手順中、▲4七玉といったん危ないほうへ逃げるのが地味な好手。この手も読んでいながら、以下とんでもない読み抜けをやってしまったのだ。将棋を始めて、不詰めの局面で投了したのは初めてだった。
いやその後の私の荒れっぷりといったらなかった。しばらくしたあと、今度は茫然自失となる。もう、藤田女流1級には完全に負け下になっている。
夜になって、「もう藤田先生の顔は見たくもありません!」と毒口を叩いたら、パーテーションの奥から、「なんですかー?」と、藤田女流1級の声が聞こえてきた。
藤田女流1級は仕事で残業していたのである。
く~っ!! 藤田女流1級との次の指導対局は5月15日昼である。この日はたとえ仕事が忙しくなっても、万難を排してサロンに乗りこまねばならぬ。
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タイトル戦のコメント

2009-04-18 02:20:56 | 将棋雑考
タイトル戦に臨む対局者のコメントというのは総じて味気ないものだから、私は大して興味はないのだが、あまりにも控えめなコメントというのも脱力する。
前期の女流名人位戦での、戦前の矢内理絵子女流名人のコメントは、
「将棋の形勢が悪くなっても簡単に投了せず、この苦しみを味わうことで強くなりたい」
というような内容だった。
良くない。気合が悪い。少なくとも、女流名人位を3連覇した棋士の発する言葉ではないと思った。
言葉には魔力がある。一度口に出してしまうと、たとえそれが本心でなくても、知らず知らずのうちに自分がその言に従ってしまうものなのだ。
その意味で、先の矢内女流名人のコメントは適切ではなかった。これでは初めから、
「私は苦戦を覚悟しています」
と白状しているようなものだ。このとき私は、今回のシリーズは、清水市代女流王将が名人位を奪取すると確信した。実際、結果もそうなった。
さてそこで、6月からのマイナビ女子オープン5番勝負である。
タイトル挑戦を決めた岩根忍女流二段は、直後の談話で
「獲りにいきます」
と言った。見事である。
対して矢内女王のコメントが注目されたが、
「防衛するのではなく、挑戦する気持ちで戦いたい」
と言った。若干弱気な気もするが、勢いのある言葉である。これは良い。
さあ、これで5番勝負の予想が立てにくくなった。
ま、岩根女流二段の女王奪取としておこう。あの愛くるしい「しーちゃん」の笑顔を、もう一度見たいから。
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