兵頭新児の女災対策的読書

「女災」とは「女性災害」の略、女性がそのジェンダーを濫用することで男性が被る厄災を指します。

『神聖モテモテ王国』最終回「神聖モテモテ王国」

2013-04-26 22:22:02 | アニメ・コミック・ゲーム

■はじめに■

 第三回、最終回です。
 ここからご覧になった方は、
第一回目からお読みになることを強く推奨します。
 兵頭新児による二次創作、「ぼくのかんがえた『モテモテ王国』最終回」です。
 これはあくまで一個人の「ぼくのかんがえた」であって、閣下ご本人とも小学館とも完全に無関係です。
 さて、それではそういうことで。

*     *     *


「――で、いっちゃん」
 知佳さんが、少し改まった様子で尋ねてくる。
「これから、どうする?」
「どうするも何も、ここまでいきなりいろいろと知らされて……」
 オンナスキーはいまだ「世界のからくり」、そして自らの出自を知った衝撃が醒めやらず、呆然となっていた。
「そうね……ごめんなさい、でもこれからあなたには判断をしてもらわなきゃいけないの。このままモテモテ王国に留まるか、地上へ戻るかを――」
「え……?」
 唐突に二択を迫られ、オンナスキーはあんぐりと口を開けた。
「モテモテ王国に留まれば、今のファーザーさんのようにようにモテモテになれる。ただし、ファーザーさんとは別れることになる。
 地上に戻れば、ファーザーさんや大王さんたちとの今まで通りの生活に戻る。ただ『デビル教団』の一員扱いになるので、もう『ナンパ』する対象の女の子たちは町に『配置』してもらえなくなり、男性ばかりでダラダラ過ごす日々になる――」
「デビル教団?」
 またわからない話になってきた。そりゃ、確かに大王たちはデビルと名乗っていたけど、それって……?
「大王さんもね、いっちゃんみたいな人だったの。トーマスさんのように女を獲物みたいに扱うことも、男を道具みたいに扱うこともよしとせず、女を獲得する戦いから降りた――」
 言われてみれば、大王は何だかナオンに興味がない。
 まるで小学生の子供みたいに、その行動は幼稚で無邪気だ。
「私は、使徒の人たちと遊んでいる大王さんの姿も、何だか楽しそうに見える。まるでいっちゃんとファーザーさんみたいで……」
 楽しそう。
 ブタッキーにも同じことを言われた。
「ぼくたちは……楽しそうなのか?」
 オンナスキーの自問に、ファーザーが乗っかる。
「しかり。自分では何もできないずっこけメガネを優しく善導するわしの姿に、腐女子たちはファー様萌えよ!」
「お前は黙ってろ」
 と、知佳さんが尋ねてくる。
「大王さんがいっちゃんのアパートにいるって知って、私が慌てたのに気づいてた?」
「え? え~~とぉ……」
 大王やファーザーを知佳さんの目から隠そうとそれだけに手いっぱいで、そこまでは気が回っていなかった。
「私たちの間ではね、大王さんってタブーだったんだ……プロジェクトを真っ向から否定して、使徒の人たちとただひたすら遊び続ける生活を選択したんだから――言ってみれば私たち女を、真っ向からふっちゃった憎らしい人」
 そう言って、知佳さんはまた寂しげな笑みになる。
「大王さんたちは実は、ジェンダー大戦を生き延びた、数名の男の赤ん坊の一人だったの。レプリカではない、最後の男性の一人。プロジェクト・ファーザーの前身、M2計画では、女たちの手によってそうした旧型男性を理想の男性に育て上げることが試みられたけど、それは失敗。旧型たちのリーダー格である『利通』は武力をもって『第三世界』と呼ばれる男性たちの中立的自治体を築き上げた。男の人たちは今も、そこで戦いを繰り広げているの。戦うべき相手もいないまま、宇宙人だの悪魔だのの役になりきって、戦争ごっこを続けているのよ」
「それが、デビル教団……だから、あいつらはあんなヘンな技術力を……?」
 ため息混じりに頷く知佳さん。
「それはファーザーさんも同じ。壊れたLSMである彼も、デビル教団の兵力の一部を奪取したりして、彼らにマークされていた。結局、女を放り出して、戦争ごっこに興じ続けているのよ――」
 しかしふと、オンナスキーは疑問に思う。
「でも、トーマスは……?」
 トーマスはデビルと関係が深いように見える。が、知佳さんの話では、トーマスも父親ロボット。ならば、彼らの敵のはずだ。
「トーマスさんは当初、使徒の一人としてデビル教団に紛れ込んでいたの。大王さんの気ままな行動を許容する代わり、監視として置いていたのよ。
 上層部も大王さんたちをいっちゃんから引き離したかったわけだし、大王さんを追い出し、ファーザーさんと入れ替わる隙を、うかがってもらっていたの。
 けど、私は見ていて思ったんだ、いっちゃんもファーザーさんも、大王さんたちの仲間になった方が幸福じゃないかって……。
 でもその独断専行は上層部の怒りを買い、逆にトーマスさんの活動を活発化させた――」
 なるほど、知佳さんが自分たちの同居を認めてしばらく後、トーマスはぼくたちの前に姿を現した――。
「でも、ここまで来たからにはいっちゃん自身が決めないと。ここへ残るか町田へ戻るか……」
「――って、いまだショックから立ち直っていないのに、そんな究極の二択を迫られたって……」
「わかってる……すぐに決めろとは言わないわ。しばらくここでゆっくりしていって。でも、真実を知った以上、いつまでも安穏としてはいられないということは、理解しておいて」

 知佳さんに釘を刺され、いったん、オンナスキーは広間を出て庭をぶらつくことにした。
 しかし……あいつが壊れたロボットだとして、ぼくがあいつと別れたとしたら、その後はどうなるんだ?
 考えあぐねるオンナスキーの下へ、ファーザーの声が聞こえてきた。
「ボケーッ!! わしは光あふるる快男児じゃよ!? モテモテ王国の王位の、唯一の正当後継者じゃよ~~~~!?」
「うるさい、早くこっちへ来い!!」
 ファーザーをナオンたちから引き剥がしているのは、警官たち。
 そう、町田に「配置」されていた警官と同様、モテモテ王国のナオンたちに使役される意志のないロボットだ。
 余計なことでもしたのか、それとも元々養育ロボットであるファーザーには本来モテモテ王国に足を踏み入れる資格がないからなのか、どうやら大広間から追い出されたらしい。
「こんなところでのたくっておったか、月面でも学ラン(オンナスキーのこと)」
 ひょこひょこと、ファーザーがこちらへ歩み寄ってくる。
「コイツ……」
 何も考えていないようにしか見えない、ファーザーの間抜け面を、オンナスキーは凝視した。
「ぼくがお前と出会った時、お前のことを父親だと思い込んだのは、元からそういう暗示をかけられていたからで、お前とは本来、縁もゆかりもなくて……」
「そそそそそそそんなことはないですよ? オンナスキーどん?」
「知佳さんが言うには、お前の中には過去の記録や理想の男性像、そしてモテるためのマニュアルがインプットされている。お前がズボンをはこうとしないのは、そうしたマニュアルに書かれている『女はまずやれ、そうすれば女はこちらに惚れる』との記述を間違った形で実行しているから。そしてお前が語るヘンな設定も、そうしたデータが混乱したまま、ランダムに出て来ているのだと――」
「ふむぅ、メタ展開がモテるのじゃよ?」


【仮面ファーザーディケイド(コンプリートフォーム)】


 仮面ファーザーはモテるために改造手術を受け怪人たちと戦うが他の仮面ファーザーと敵対するファーザー大戦の予知夢にうなされて並行世界を渡り歩いて毎回いろんなコスプレをする様がもうナオンにモッテモテで平成ファーザーはイケメン俳優の登竜門となったという。
 しかし最強モードはゴテゴテしているだけで大体カッコ悪いのでマニアには不評でこんなのライダーじゃないと言われ昭和組を毎回映画で噛ませ犬にしてマニアには叩かれ敏樹が料理ばかりのホンを書きマニアには不評でサブカル雑誌が勘違いな持ち上げ方をしてマニアには叩かれ(略)


【仮面ファーザーディケイドOP レッツゴーファーザーキック】


迫るGACKT イケメン俳優
ライダーマンになったはいいが 変身はしなかったので許せぬ
ナオンのニーズを満たすため
ゴーゴーレッツゴー マシンにほとんど乗らないので許せぬ
ファーザーキック ファーザーパンチ
オープニングでヒーローの名前が出ないので許せぬ
特訓もせずに新モード登場
最強形態は仮面ファーザーディケイドスーパーシルエットモードブレイザータイプインフィニティーヴァージョン(以下400字続く)


「ここが『モテモテ王国』の世界かにゃー。大体わかったんじゃよー」
 壊れたロボット――知佳さんはコイツのことを、そう形容した。
 やっぱりそうだ、本人は何にもわかっていないのだろう。
「おい、しっかりしろ! モテモテ王国に来てまでナンパをする必要はないだろ!?」
「通りすがりの宇宙人だから覚えておくといいんじゃよー。早くナオンたちにくすぐったいことをしてみたいにゃー」
 相変わらずのファーザーに、オンナスキーは失意する。
「ダメだ……やっぱりコイツは壊れたロボットなんだ――」
 もしもぼくが本物の人間であれば、町田に執着したかも知れない。例え両親は死んでしまっていても、そこにはぼくの生きた歴史があり、ぼくを知っている人も近くに住んでいるかも知れない……。
 でもぼくはレプリカ。人工的に作られた存在だったんだ。
 あの町はレプリカを養育するシミュレーションのための町。
 町を歩くナオンたちも警官たちもヤクザたちも、ぼくのようなレプリカや、ファーザーと同じロボット。言わばぼくたちを育てるためのプログラミングを施されたNPCだ。
 あそこにあるのは、壊れたロボットと共に暮らし、NPC同然のナオンたちに声をかけ続けたという、どうでもいい想い出ばかり。
 そんな町に、執心する理由なんてない。
「……いっちゃん、考えはまとまった?」
 気配を察してか、知佳さんが歩み寄ってくる。
「あの……ぼくが月に残ったとしたら、コイツは廃棄とかされないんですか?」
 そう言って、オンナスキーはファーザーを指差す。
「それは人道上、ちょっとね……LSMとは言っても、有機体である以上、微妙な存在だから。『本人の自主性を重んじる』というタテマエの下、町田の町に送り返して、そのまま放置、でしょうね……」
 それだけ聞いて、オンナスキーは決意を固めた。
「ファーザー……長らく世話になった」
「……………」
「ぼくはここに残る。お前はすぐ町田に、あのアパートに戻してもらえるそうだ」
「アパートと言えばトンカツですよ坊主。ふたりして早くおうちへ帰ってトンカツを食っちゃうですよ?」
「ここでお別れだ、ファーザー」
「トンカツを食ったらナオン狩りですよ、オニャノコスキー?」
「ぼくはもう深田一郎だ……お前はまた、別のオンナスキーを見つけてくれ」
 ――そうして深田一郎は、モテモテ王国に残った。


 ……。
 …………。
 ………………。
「うわー、ここがいっちゃんが育った町なんです?」
「育ったって言っても……ぼくには壊れた養育ロボットが宛がわれてたから……」
「へぇぇ~~じゃあいっちゃんにとって想い出の町ですね!」
「いや……だから壊れたロボットに育てられた、イヤな想い出の町だから……」
 数年後。
 ナオンたちを侍らせて、一郎は久し振りの帰郷を果たした。
 相も変わらずNPCの徘徊する、シミュレーションの町。しかしそれ故に、町並みは年数を経てもあの頃と寸分、変わってはいなかった。
「へぇぇ~~じゃあ懐かしいでしょうねえ!」
「いや……イヤな想い出は懐かしくなんかないから……」
「ふ~~ん。あ、おなか空かないです?」
「そうですね、何か美味しい店とか紹介してください!」
 そんな噛みあわない会話を続けていると。
 ふと、見知った陰が、向こうから歩いてきた。
「あなたは……」
 あれは……確かファーザーが怖れていたナオン。
「あんた……オンナスキーだっけ?」
 そう声をかけられ、一郎は戸惑う。
「そう呼ばれるのも久し振りです……あなたは……何て名前でしたっけ?」
「あいつには『レンガさん』って呼ばれてたな――いやゴメン、あんたがあの頃のマー君にそっくりだったから、何か懐かしくて」
 ――まるで家庭を持った父親のように、今の一郎は貫禄をつけ、そう、あの頃のブタッキーそっくりになっていた。
「そう……ですか。でも今となっては、あいつの気持ちもわかります」
「そっか……あいつもね、ここが好きでよく来ていたんだ。あんたたちの様子をこっそりうかがうのが楽しかったみたいでね……」
「そうか……だからあいつ、ぼくたちのことを『楽しそう』と……」
「あんた……『ホモソーシャル』って言葉、知ってる?」
 レンガさんがふと、尋ねてきた。
「え……? そう言えば別れる直前のファーザーが言っていたような、いなかったような――」
「そう……『ホモソーシャル』っていうのはね、男性を殲滅する直前くらいの時期に、フェミニストたちが言い出した言葉なんだ。男同士、ホモでもないのにホモみたいに連帯して、富や権力を独占している。だから、女たちにはそれが回ってこないんだ、けしからんって――」
「そんな……」
 どっちかと言えば同性同士でつるみたがるのはナオンの方じゃ……と言いかけて、レンガさんもナオンだと気づき、一郎は口をつぐむ。
 そしてレンガさんはふと、独白するかのように言った。
「女たちは男から全てを奪い尽くした。
 ジェンダー大戦に至って、その生命すらも奪い尽くした。
 ――でも、最後まで手に入れられなかったものがたった一つ残った」
「え……?」
「いや……きっとあんたも、マー君と同じになるよ。何度もお忍びで、この町に来るようになる」
「ははは……かも知れないです。でも、あなたは何故?」
「ん? あたしはレプリカのメンテに。一応、技術者だから」
「なるほど、あのNPCたちのボスみたいなものですもんね」
 ――そう、いつだったか錯乱したファーザーが「レンガさんはヤクザたちのボス」と言っていたが、それも満更でたらめではなかったのだ。
 しばし、昔話に花を咲かせる両者だったが――。

「ま……待つんじゃよ~~~! ナオンが好きな男君!!」
 びくりとなって、一郎は振り向いた。
 見れば……そこにはファーザーと、そしてその隣には見知らぬ男が――。
「あいつ……!!」
「ままままま待ちたまえオンナスキー様!!」
 ――足早に立ち去ろうとする見知らぬ少年を、ファーザーは「オンナスキー」と呼び、追いかけていた。
「そうか……相変わらずなんだ……」
 つぶやく一郎を、レンガさんがからかう。
「あはは、寂しそうじゃん、いっちゃん」
「ば……バカな! あいつも元気でよかったな、と思っただけです!!」
「そう? マー君もいっつも、寂しそうにしてたよ?」
 と、その時。
「うるさい、ボクはナンパしに来たんだ、何がナオン狩りだ!!」
 まとわりつくファーザーを足蹴にしながら、その二代目「オンナスキー」が言い捨てた。
 ―――――!!!
 その言葉に、衝撃を受ける一郎。
「あれ? ねぇ、どうしたのいっちゃん!?」
「ねえねえ、何かあったの!?」
 ナオンたちが騒ぐが――一郎の耳には入っていなかった。
 ――そうだ……なんで気づかなかったんだ……あいつは、ファーザーはいつも「ナオン狩り」をしていた。
 ぼくは「ナンパ」がしたかったのに、あいつは「ナオン狩り」だった。
 そしてその「ナオン狩り」の目的は――モテモテ王国の建国。
 そうだ……モテモテ王国に入国したぼくが、何故満たされなかったのか――ずっとわからなかった。
 でも、それは簡単なことだったんだ……。
「ナオン狩り」によるモテモテ王国の樹立。
 そもそもぼくの目的は、そんなことじゃなかったのだから。
「ナンパ」することでナオンと巡り会い、ぼくは――「恋愛」がしたかったんだ。でも、不特定多数のナオンに「モテモテ」になること、それは――恋愛ではない……。
「ままままま待ちたまえ女好き君!」
「コンビニで弁当を買って帰ってメシにするぞ!!」
 歩いて行く「オンナスキー」を追うファーザー。
「いや、コンビニ弁当はならんのじゃよ、トンカツじゃよ!」
「お前、いっつもそれだな……ボクは料理なんかできん!」
「待ちたまえ、我が国のトンカツ不足が深刻化しておるのじゃよ! トンカツは食われるためにこの世に存在しておるのじゃよ~~!!」
「あいつ――!!」
 絶句して、一郎はその場にくずおれる。
 そんな彼を残し、ファーザーと「オンナスキー」は仲よく(?)この場を立ち去っていった。
 恋愛がしたかったぼくと、モテモテ王国の建国がしたかったファーザー。
 そこが「草食系男子」とか「オタク」とか呼ばれる旧型に近いぼくと、できそこないとは言えDQNの再現を目的として作られたあいつとの間の、深くて暗い溝だったんだ――。

 ――かつて、少年たちは社会に出る前のモラトリアムの時期、仮宿に集い、青春を謳歌した。
『マカロニほうれん荘』から『めぞん一刻』に至るまで、昭和の一時期、そうした青春期を題材とした漫画が盛んに描かれた。
 青春時代の仮宿としての下宿住まい。そこにおける、おかしな同居人たちとの非日常的な毎日。
 しかし平成に入り、ぼくたちからは「就職」→「結婚」といったルートは喪われた。
 にもかかわらず青春期の終わりは非情にも訪れ……ぼくたちは何もかもを失って、社会へと放り出された。
 他の男たちとの連帯を捨て、他の男たちを敵に回して、女に貢ぐ道しか――。
 それが、「神聖モテモテ王国」。
 民主主義がその限界を露呈したある時期、人々が望んだ新しい政治体制――。
 大いなる千年王国。
 男なら誰もが夢見た愛と徳による絶対王制。
 しかし――それで本当にオンナスキーは、幸福になれたのだろうか……?
 だから、つまり、要するに、これは――「ジェンダー大戦」を経た後の、そんな「全てを喪った後」の、ぼくたちの物語、だったのだ――。


ブログランキング【くつろぐ】 

にほんブログ村 本ブログへ 

人気ブログランキングへ


『神聖モテモテ王国』第n+1話「世界のからくり」

2013-04-19 22:00:53 | アニメ・コミック・ゲーム

■はじめに■

 第二回です。
 ここからご覧になった方は、前回からお読みになることをお勧めします。
 兵頭新児による二次創作、「ぼくのかんがえた『モテモテ王国』最終回」です。
 いや、読みましたよ、『第三世界の長井
』。
 しかし正直難解すぎてよくわからん!
 小ネタとかキャラクターの奇行という「笑いどころ」は『モテモテ王国』と同様に抑えているはずなのに、あの捉え難さは何なのか。例えば『モモ王』は小学生読者が読んでもかなり笑えたと思うけど、『長井』はそういう感じでもなし、コアな読者以外はどう対処してるのか……と言いつつ、女の子の可愛さは格段に上がっていて、それだけで客が呼べそうな辺り、やっぱり漫画はずるいですな。ラノベだとそうはいかん(仮に萌え絵師をつけたとしても、劇中で「機能を果たす」だけのキャラに読者が萌えるものかどうか……)。
 さて、それでは。


*     *     *

 


「こんな……!?」
 眼下の景色に、オンナスキーはただただ信じられない思いで息を飲んでいた。
 ――知佳さんに連れられ、オンナスキーとファーザー、そしてブタッキーは「軌道エレベータ」に乗って、あの塔を昇っていった。
 そしてその窓から眼下を見下ろした時、オンナスキーの目に飛び込んできたのは、ひたすらに広がる荒廃した砂漠であった。
 自分たちの乗っているこの「エレベータ」は、その砂漠の中にぽつんと生えている一本の巨木の幹の中を走っているようなものだ。そして、自分たちの住んでいた街は、この巨木の根っこのようなものだった。
 ――確かにぼくは町田を出たことがない。
 しかしその外にもずっと街が続いているはずだ。
 はずではあるが、そのことは知識としては持っていたが、しかし街を出た記憶は、考えると確かにぼくにはなかった。
「おい、見ろよ!?」
 隣のファーザーの肩を叩くが――しかしファーザーはただ惚けたような顔をしているのみだ。
 ――仕方ない、コイツはナオンのこと以外は見事なくらい何も考えてないからな――。
 オンナスキーは思うが、しかし。
 一瞬、既視感に襲われる。
 この街の様子、以前にどこかで見たような――そうだ、コイツが漫画に描いた「
エレガントシティ」。
 町田の姿は、まるで「エレガントシティ」だ。町境から先は、まるでカットしたケーキのように何もなく、後は砂漠となっているという、不可解な姿。
 ――まさか……コイツはこの町田の真の姿を知っていて?
 いや、そんなバカな……。
 思っていると、エレベータは停車した。
「着いたの?」
 オンナスキーの問いに、知佳さんは首を横に振る。
「このまま当車両は宇宙ロケットに接続いたしまぁす。そして宇宙をさぁっと飛びまして――そして、モテモテ王国へようこそ、といった具合でございます」
 少しおどけて、彼女は言った。

「ホールミータイ」
 バルコニーの上から、眼下の大広間に集まる何百人もの女性へと、ファーザーが呼びかける。
「あのー、ここに忠良なる汝ら臣民に告ぐ。ジークナオーン!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ファー様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
 何百人もの女性たちの黄色い声が大広間にこだまする。
「ここがモテモテ王国……」
 圧倒されるオンナスキー。
 ファーザーから何度となく聞かされ、妄想だと信じきっていた「モテモテ王国」へと、今、彼は訪れていた。
「セーットアーップ!!」
 ファーザーは広間に降り立つと、目隠しをしてナオンたちと鬼ごっこに興じ始める。
「わあ、ええやんけーええやんけー」
 ファーザーを追って広間に降り立ったオンナスキーにもブタッキーにも、等しくナオンは群がってくる。
 まさにここはナオンとぼくらだけの蜜あふるる約束の地。
 神に約束されたきらめきラブ国家――。
 しかしオンナスキーの心に、嬉しさは沸き上がっては来ない。
 相変わらず、うるさそうにわずらわしそうにナオンを足蹴にしているブタッキーの気持ちが、今はわかる気がした。
「いかがかしら……?」
 知佳さんが歩み寄ってくる。
「一体ここは……これはどういうわけなんです?」
 オンナスキーに尋ねられ、知佳さんは答える。
「見た通り。男なら誰もが夢見た愛と徳による絶対王制の、大いなる千年王国――それがここ、モテモテ王国よ」
「そんなの、説明にも何にもなってないです! 町田の外には何故何もないんですか? そして何故、月にモテモテ王国があるんです!?」
 ――そう、ここは月面上であった。
 あの軌道エレベータで人工衛星にまで到達した後、一同は宇宙船に乗り換え、月にまでやって来たのだ。
「いくら何でも信じられるもんか、今までずっとあの小さい町で暮らしてきて……それがいきなり月面基地って……!」
 しかしオンナスキーの言葉に、知佳さんは大きく首を横に振る。
「そうかしら? ファーザーさんがどこから来たか、考えてみたこと、ある?」
 はっとなるオンナスキー。
 二人の出会いは、オンナスキーがナオンに声もかけられずしょげかえっていた時、ファーザーが墜落してきたことがきっかけだ。
 ファーザー自身、「生き別れの息子を求めて」「大気圏突入」を敢行したのだと言っている。UFOの所持を匂わせたこともあった。
 もちろんいつもの妄想だと決めつけて、オンナスキーはまともに取りあったことはなかったのだが、しかし……。
「それについては、わしから説明するんじゃよ、うなずきトリオひく二人君」
 すっと、タイミングよく、ファーザーが現れる。
「お前……ナオンとの鬼ごっこは……?」
 オンナスキーの問いかけを無視し、ファーザーは進み出てきた。
「DQNがモテる!」


【怒鬼癒�埖(ドキュン)(DQNネーム)】


 見ればファーザーはいかにもDQNといった風体に変装している。
「男としての野生のオーラをぷんぷんと漂わせるDQNこそがナオンの求める究極形態じゃよ?」
「それは……」
 思わず言葉につまるオンナスキー。
 確かに学校に行けば、いわゆるオタクに比べてそういったヤツがモテている。
 もちろん、そういう連中よりも勉強していい大学に行き、いい会社に入ったヤツが最終的には勝ち組になる。そう信じて青春を謳歌しているDQNたちを横目で見て、ぼくは今まで生きてきた、はずだ。
 もっとも、こう世の中の景気が悪くては、果たしてそうしたビジョンにどれだけ意味があるのか、わからなくなってきているが……。
 思い悩むオンナスキーには構わず、ファーザーは続けた。


 あらまし:20XX年。「ジェンダー大戦」後の、フェミニスト国家「にっぽん」。そこはナオンとわしだけの理想国家、蜜あふるる神との約束の地となるはずであった。
 だが、ナオンたちの欲求は満たされなかった。彼女らはやはり、人生のパートナーとしての男を欲した。
 自分たちが殲滅した「男」を今一度復活させ、理想的な状態へと育て上げよう――そう、ナオンにモテる男性「DQN」再生プロジェクトである。
 ナオンはDQNと共に、今度こそ真の理想国家「神聖モテモテ王国」を築き上げるはずであった――。


「おい、まだその話続いてるのか――」
 呆れるオンナスキーだが、しかし知佳さんは首を横に振った。
「彼の言ったことは、全部事実よ」
「え゛……?」
 あまりのことに、オンナスキーの脳がフリーズする。
「ちょっと待って……じゃあ、その、ジェンダー大戦とかも……?」
 知佳さんは頷く。
(声:三石琴乃)
「ジェンダー大戦により、地球は壊滅的打撃を受けた。男性と呼ばれる種はその時に、一度滅んでいるの。急進派のフェミニストが作り出した男性だけを殺す兵器、フェミリカイザーによってね――生き残った僅かな女性が、当時開発が進められていた月面都市へと移住した――それが、ここよ」
「ちょっと待って!」
 泡を食って、オンナスキーが問いただす。
「滅んだって、そんなバカな! だってぼくの周りにはむしろファーザーとかトーマスとか、男ばかりが――いや、それだけじゃない! 近所には男子校だってあったし――!」
「彼らは人為的にY染色体を組み込んだ、『レプリカ』と呼ばれる、言わば人造男性。女たちは一度男を滅ぼして、その上でレプリカとして再生させた。でも、当初産み出されたレプリカはことごとくがどういうわけか『草食系男子』、『オタク』と呼ばれるような男性性に欠けた者たちばかりだったの」
 思わず、うつむくオンナスキー。
 いずれもクラスの女子たちが自分をからかって呼びつけた呼称だ。
「女たちは過去を辿り、女性が『ナオン』と呼ばれていた時代が、女性を『ナオン』と呼んでいた男子たちこそが、最も女性の欲求を満たしていたのだと結論した。
 そしてそうした男性たち、いわゆるDQNたちの思考、行動パターンをロボットに組み込み、少年たちの父親役に仕立て上げることを立案したの。
【Dominatable Quondam Numbers】
 直訳すれば支配力を発揮する、過去の人々。
 それが女たちの求めた、かつての理想の男性像。
 それを求めてDQN再生プロジェクトは開始された。
 少年たちに『アパートの一室』を与え、ロボットと共に住まわせることにしたのよ――」
「え゛……っっ!?」
 再び、驚きに声をつまらせるオンナスキー。
 まじまじと、ファーザーを見つめる。
 と、またファーザーは惚けたような顔をしていた。
「コイツは……ロボット……?」
「えぇ、恋愛教育プログラム『Love Admiral(恋愛大将)』を搭載した、『LSM(恋愛シミュレーションマシーン)』。といっても有機体で作られた、構造としては人間に近しいものだけどね――。
 LSMを父親にして少年を教育する計画、プロジェクト・ファーザーは一応の成功を見たの。あなたの側にもいるはずよ、女性にモテている男の子が――」
「え?」
 考えるオンナスキー。
 モテる男と言うと、一人しか思いつかない。
 ふと見れば、ブタッキーが群がる女たちを煙たそうにあしらっている。
「あいつが……」
 頷く知佳さん。
「わかるでしょ? 『イケメンに限る』というのは俗説。
 真理は『ただしDQNに限る』なの――」
 しかし、それだと説明のつかないことがある。
「でも、その理屈だと、ロボットを与えられたぼくもモテているはずでは?」
「そうね――いっちゃん、あなたにも本来は正常なLSMが与えられるはずだった。
 でも、何らかのアクシデントで、あなたの前にはあのファーザーさんが現れた。試作型として作られ、失敗作として廃棄されていたあのファーザーさんが……」
 つまり壊れたロボット?
 ダメ少年の下に送り込まれてきた、未来の世界のダメロボットのように?
「じゃ……じゃあぼくは、ナオンの勝手な都合で育てられてきた存在だと?」
 オンナスキーが激昂する。
「しかも……壊れた父親ロボットを宛がわれて、どう頑張ってもモテるはずもないムダな努力をさせられてきたと……!?」
「いっちゃん……あなたが薄々感じていたように、私たちも一時期、あなたとファーザーさんを引き離そうかとも考えた。でもね、思ったの……ファーザーさん、そして大王さんたちがあなたにとって必要な存在ではないかって。だから、私はプロジェクト上層部に進言した。あなたを、しばしファーザーさんや大王さんたちとの暮らしの中に置いてやりたいって……」
 それは、以前にも彼女の口から発せられたセリフだ。
「ふむ。ナオンにモテない同士は、未知の力でひかれ合うというからにゃあ。お幸せに暮らすがいいぜー」
 吐き捨てるファーザーに、オンナスキーが突っ込む。
「バカ、お前もその一人だ」
 そして再び知佳さんへと向き直り、続けた。
「どうしてです!? いずれにせよぼくは勝手な意図で教育されてきた存在かも知れない。でも、それならばまだしも、壊れていないロボットに養育された方が――!!」
「確かに、そう考える人たちもいたわ――プロジェクト・ファーザーの上層部はそう考えて、あの人をアパートに送り込んだ……」
「あの人?」
「キャプテン・トーマスよ」
「え……!?」
「そう、トーマスさんこそ本来の機能を果たす、正常なLSM」
「バカな!!」
 オンナスキーは嫌悪感を露にする
「あいつは平気で下着泥をやるようなやつで!! ナオンに対しても欲望をぶちまけてるだけのヤツで!! しかも……ヘビトカゲみたいな見るからにバカそうなヤツを子分にまでして……!!」
「そうね……でも、モテるってそういうことよ?」
「う……っ!!」
 反論できないオンナスキー。
 そもそもDQNプロジェクト自体がDQNを再生させる計画。
 となれば、トーマスのようなヤツこそが理想の男性ということになるのかも知れない。
「でも、あいつはヘビトカゲを騙して金まで取って――」
「あは、優しいんだ、いっちゃんは……でもね、女から見た理想の男性って考えればどう? 女を強引に引っ張ってくれると同時に、他の男からは弱肉強食の世界で資産を奪い取り、それを女に還元してくれる――それが理想の男性だって思わない?」
 知佳さんは、寂しげに微笑む。
「事実ね、かつての日本において長らく不況が続き、非婚化が問題になった時期があった……男性たちは草食化し、オタク化し、あまり女の子たちと遊んでくれなくなった……それはまるで、いっちゃんたちみたいに――」
「い……いや、ぼくは好きでコイツや大王たちとつるんでたわけじゃ……」
「そうかな? 『早くファーザーを回収してトーマスを深田一郎の部屋に送り込め』が上層部の意向だったのを、私が進言して試験期間を設けてもらったのね、トーマスさんとかかわった時、いっちゃんがどんな反応を示すかを。そして私の想像通り、いっちゃんはトーマスさんのことを好まなかった……」
「そりゃ……あんなヤツ、好きになれるもんか……!」
「でしょう? もし私がファーザーさんとトーマスさんのどちらを選ぶかと尋ねたら、きっといっちゃんはファーザーさんを選ぶ」
「……………」
「私は、その選択を尊重したかった……そして、きっとファーザーさんもいっちゃんのことが……」
「それは……!」
 オンナスキーは、大きく首を振った。
 確かに、今の知佳さんの言葉を受け容れれば、いろんなことに説明がつく。
 ファーザーが何故かトーマスと度々意気投合していたこと。
 そしてファーザーもロクなものではないとは言え、トーマスの容赦のなさよりマシだったのは、彼が「できそこないのロボット」だったからだ。
「ぼくは……コイツのことなんか、好きでも何でもないです。ただ、モテてみたかった……でも一人じゃナオンに声もかけられないし……友だちもいなかったし、だから……」
 ふと、知佳さんが破顔する。
「そう、友だちみたいなものだったんだよね、いっちゃんにとって――」
「そんなことないです!!」
 大きく首を振るオンナスキー。
 ――確かに知佳さんの言葉が正しければ、謎は全て解ける、気がした。
 でも。
「最後にわからないことが残った」
 オンナスキーは口を開く。
「ファーザーがレプリカの養育係だってことは、ということは……ぼくも……?」
 知佳さんはふと目を伏せる。
「そんなバカな! どういうことです!?」
「いっちゃん……あなた、自分がいくつだかわかる?」
 いきなり、彼女はそんなことを尋ねてきた。
「え? 十五歳ですよ?」
「じゃあ中学生? 高校生?」
「あ……? わ、わからない……」
 ぼくは確かに学校へと行っている。
 休みがちではあっても行っている。
 そこには担任の先生も、クラスメートの女子も――しかし今のオンナスキーにとって、学園生活の記憶はかつての記憶同様に曖昧な、おぼろげなものと化していた。
 あれは中学だったのか、高校だったのか……。
「わからなくて当然。正解を言うと、あなたの年齢は一歳で、中学生でも高校生でもないの」
「……って、いくら何でもそれはないですよ! 一歳でこんだけ成長してメガネかけてるなんて、あり得ない!」
「いっちゃん……あなたはね、科学者によって作られたの。そう、人工的に作られたレプリカなのよ……」
「そんな……」
 あまりのことに、茫然となるオンナスキー。
 しかし思い当ることもある。
 以前ファーザーが「子供は科学者に作られている」と言っていたこと。
 ――ぼくは……何だか勝手な理屈で勝手に産み落とされて、たった一人、アパートに押し込められて、ナオンたちの望む男に育てられるため養育ロボットを宛がわれ――いや、そうじゃない。
 まともな養育ロボットすら与えられず、壊れた機械を親代わりにされて今まで徒労を重ねてきたんだ――。
 がっくりと、オンナスキーはその場に崩れ落ちた――。

ブログランキング【くつろぐ】 

にほんブログ村 本ブログへ 

人気ブログランキングへ


おしらせ

2013-04-13 19:38:57 | お知らせ

 以下はニコニコチャンネルのブロマガ、兵頭新児の女災対策的随想において既にアップされた記事です。

 目下、兵頭新児は活動の軸足をそっちに移そうかと考えているのですが、或いはアカウントを持っていてそちらを見られない方もいらっしゃるかもと思い、こちらにもアップしてみることにしました。

 こちらを完全に廃墟にしてしまうのも何だか寂しいので。

 文章自体は変わらないので、一度お読みになった方は、再読される必要はありません。

 それともう一つ。

 拙著『ぼくたちの女災社会』が復刊ドットコムの「復刊リクエスト 」にエントリされています。どうぞ、ご協力をお願いします!


『神聖モテモテ王国』第n話「フェミニストでモテようとする」

2013-04-13 19:34:21 | アニメ・コミック・ゲーム

■はじめに■


 さて、今回は祝『第三世界の長井』単行本化。
 それを記念して、今回は「小説」です。
 以前、『神聖モテモテ王国』という漫画について採り上げました

 これは今で言う「非モテ」問題に極めて鋭く切り込みつつも、いきなり連載が終了し早十年以上……という未完の大作です。
 本作にちりばめられている謎はいまだファンの語り草になる一方、あまりにも伏線が曖昧かつ多義に渡るため、定説めいたものはまだ出て来ていないようです。
 今回、その謎解きに、『モテモテ王国』最終回に挑戦してみました。
 言うまでもないことですが、今回の作は本来の『モモ王』ともながいけん閣下とも全く関係のない、兵頭新児による二次創作、「ぼくのかんがえた最終回」で、
『ドラえもん』同人誌くらい、本編とは無関係であります。
 むろん当ブログのことですから「女災」問題に引きつけたストーリー展開になってはおりますが、恐らく作者であるながい閣下の中にあった構想も、これからそう遠く離れたものではなかったのでは……と想像しております。
 今回含め、三部作で『モモ王』の謎を解いていく予定ですが、原作をご存じない方は、以前の本作についてのエントリ(上の「採り上げました」からリンクしてるとこ)をお読みいただいた上でこちらに取りかかっていただくと、より楽しめるのではないかと思います。

 では、そういうことで……。


*     *     *


「フェミニストがモテる!」
 開口一番、ファーザーは叫んだ。
「まあ、そうだろうな。でもお前にはないじゃないか、ナオンを慮るような真心は。さっさとトンカツ食え」
 動じず、オンナスキーはたしなめた。
「えぇい、この非モテ論壇スキー! フェミニストとはナオン好きが自称するアレではないわ!」
「むしろナオン好きと定義づければ、お前は完全なフェミニストなんだが……」
「社会における伝統的な女性概念による束縛からの解放を唱え、女権獲得、女権拡張、男女同権を目指す、学問上の地位と国家中枢における地位を立派に確立したアレじゃよ!」
「田嶋先生とかか? でも、ああいうのもう古くないか? モテるとも思えないし」
「うるせーー! 男であるわしがナオンに媚びへつらって、学問や思想上の立場としてのフェミニズムに理解を示すところが進歩派インテリっぽくて、サブカル系ナオンにもうモッテモテよ!」


【フェミリカイザー登場】
あらまし:20XX年、心あるナオンたちは
フェミニズム国家「にっぽん」を建国。それをよしとしない全世界の男との間に独立戦争、「ジェンダー大戦」が勃発した。フェミリカイザーはジェンダー大戦に投入された多目的機動歩兵であり、男性でありながらナオン差別の実態を理解する理解者なので社会のジェンダー規範を理解しジェンダーから解放されていたのでジェンダー大戦においてもナオン側について男どもを抹殺した。
 ジェンダー大戦に勝利し「謎の組織・男」を徹底的に殲滅。あらゆる富や資源を掌握し、労働からも解放されたナオンたち。
 フェミニズム国家「にっぽん」は、ナオンとフェミリカイザーだけによる理想国家、人類史上初のユートピア「神聖モテモテ王国」へと変わっていくはずであった――。
(事情があるのでこの辺でやめておく)


「既にモテモテ王国の趣旨が変わっているが……」
 いぶかるオンナスキーだが、ファーザーは構わずに言う。
「とにかくすぐに男殺しを敢行してフェミニストとして認めてもらうのじゃよ」
「フェミニストは男殺しを目的とはしてないと思うが……ナオンの気持ちを尊重する優しさをアピールするのはいいが、でも社会学とか、難しそうだしなあ……」
「フフフ……そこはキャプテンに仕込み済みよ……」
 ――キャプテンに?
 オンナスキーは思う。
 ――漫画家の時といい、モテモテ通貨の時といい、コイツどうもキャプテンとつるむことが多くなってないか?
 あいつ、どうもファーザーを自分のペースにはめる才能があるみたいだ……。
 戸惑いつつも、ファーザーと連れ立って、オンナスキーは町に出た。
 と、待ちあわせでもしていたのか、すぐに仲よく歌うキャプテンとヘビトカゲの背中が見つかった。
「「える~える~えるはらぶのえる~♪」」
 と、そこにタイミングよく、ナオンが通りかかる。
「やあ、ヘビトカゲ。ミソジニーってすごく悪いなあ……許せないぞ」
「わあ、トーマス様はすごくいい人ですタイ」
「ねえヘビトカゲ。ミソジニーとは女性嫌悪のことで女性嫌悪は女性差別だから許せないんだ。君たちの中にもミソジニっ子はいないかな? 友だち同士で注意しよう――そんなことよりそこのレディ、元気かい?」
 と、一通り小芝居が終わると、脈絡なくトーマスはナオンへと向き直る。
「え? あの……何ですか?」
 困惑するナオン。
「ぼくたちは自然とかレディを守るためうごめいているトーマス団さ。でもレディと自然とを同一視することはステロタイプなジェンダー観で差別なのでしておらず、それどころかレディが自立して働き、男に金を貢ぐライフスタイルに理解を示すいい団さ。やあ、レディがAVで稼いできてくれたギャラが楽しみだなあ」
「コイツ……最低だ!」
 トーマスへの嫌悪を隠さないオンナスキー。
「えぇ~~い! わしらがフェミニストぶりを発揮してモテる予定であったナオンを横取りしたから許せぬ!!」
 ファーザーが錯乱し、トーマスに殴りかかる。
「ミソジニーは悪じゃがナオン好きな男もミソジニーなのでやはり男が許せんのじゃよ~~!!」
 ドッ
 ファーザーのパンチがトーマスの腹部に決まる。
「フ、このような白人に負ける者はあんまりいねーのよ。さあ嬢ちゃん、わしはミソジナスな感情を一切抱いたことのない宇宙人ですが、どうしますか?」
 ドヤ顔でナオンへと向き直るファーザーだが……。
「当然逃げた」
 オンナスキーが言う。
「ぎゃわーー!! ミソジナスでないことにかけてはご近所でも評判なわしなのに~~~!!」
「お前がいかにナオン嫌悪の感情を抱いていなくても、まずほとんどのナオンがお前嫌悪の感情を抱いていると思うが」
 オンナスキーが言い捨てる。
「帰るぞ。晩飯を食おう、トンカツ」
 が。
 その時、オンナスキーとファーザーは、まさに今、ここを通りかかったメガネ男と鉢合わせた。
「ブタッキー……相変わらずモテてるぞ」
 オンナスキーの言葉通り、その男――ブタッキーは女子高生を二人連れていた。
「や……ヤツはブタッキー!! ミソジニーとモテの融合体!!」
 怒り狂うファーザー。
 ――ミソジニーとモテの融合体?
 ふとオンナスキーは思う。
 コイツの言うことなんて基本的に九割は聞き流しておくべきなのだが、しかし。
 でも、今の表現は一理ある。
「た……確かにブタッキーのヤツ、見る限り自分にまとわりつくナオンを疎ましがってる様子だが――」
 つい漏らしてしまったオンナスキーの言葉に、ファーザーが頷く。
「ふむう……しかりじゃよ! ブタはオタでありオタはその全員がミソジニーであるから、許せぬ。ブタッキー殺しの大義名分も得られて嬉しくなってくる」
「でもお前もオタネタばかりだし、少なくともアイツはナオンにモテてるじゃないか」
「えぇ~~い、うるせ~~~~!! 鍵信者の東君もオタはホモソーシャルでマッチョで許せぬとか言っておるのじゃからいいのじゃよ!!」
「バカ、やめろ!!」
 ブタッキーに殴りかかろうとするファーザーを、羽交い締めにして止めるオンナスキーだが……。
「やあ、レディたち」
 気絶していたトーマスが、いつの間にか息を吹き返していた。
「これはキャプテン」
 にやり、とほくそ笑み、ファーザーが彼へと耳打ちする。
「キャプテン、あそこにいるニキビ面こそミソジニーにもかかわらずナオンとよろしくやる許せぬ輩、ブタッキー」
「何だって、それは間違いなくミソジニーかい?」
「間違いないんじゃよ、ヤツはナオンに囲まれながら『ナオンなんかどうでもいい』という仏頂面を崩さぬのじゃよ」
「よし、なるほど、それはミソジニーでしかも非道く悪い」
「さっそくフェミニストとしての正義の怒りを表現してみせるのじゃよ」
「よぉぉ~~し、バトルパ~~ンチ!
 バトルパンチは、説得力のある必殺技である――が。
 よたよたとふらつきながらブタッキーへと殴りかかろうとするキャプテン。
「ちょっとあんた!」
「マー君に手を出すと許さないよ!」
 女子高生二人が、トーマスの前に立ちふさがり、その腹を鞄で一撃する。
「れ……レディたち……ほくそ笑んで……ごらん……?」
 ピシュー。
 今の一撃が効いたか、ファーザーのパンチが存外に効いていたか、トーマスは嘔吐した。
「な……何!?」
「もう最低っっ!!」
 逃げていく女子高生二人。
「ナオンも逃げた。さあ帰るぞ」
「ならん、護衛機二機を失った今こそがブタを抹殺するまたとない好機じゃよ!!」
「バカ、まだそんなこと言ってんのか!!」
 その時。
「あの、君たち」
 どういうわけか、ブタッキーがもめる二人へと話しかけてきた。
「君たち、よくこの辺にいるよね」
「あ? ああ、まあ……」
 戸惑いながらも、曖昧に頷くオンナスキー。
「あの……ずっと思ってたんだ、君たち、いつもなんか楽しそうで、いいなあって――」
 ブタッキーの言葉に、オンナスキーは驚きを隠せない。
「ええっ!?」
「おのれ! ナオンをパージして男同士の関係を重視しようとはホモソーシャルじゃよ! ホモソーシャルはナオン差別だと上野先生もおっしゃってるのじゃよ~~~!!」
「お前、少し黙ってろ」
「ミソジニってホモソーシャってなおかつナオンにモテるから許せぬ!!」
 しかしファーザーの暴言に気分を害するでもなく、ブタッキーは言う。
「あのさ……別に女なんていいじゃないか、いくらでもいるんだから」
 ぱりんッ。
 怒りのあまりか、ファーザーの赤色灯が割れる。

「ブタが許せぬ!!」
 が。
「ん? いとこさん?」
 ファーザーの口から思わぬ人の名前が出て来たことに、オンナスキーはあんぐりと口を開けた。
「ば……バカ、知佳さんがこんなところにいるか、彼女、普段は北海道だ!」
「うぉぉぉぉ~~~~~! ナオンに対して清純な下心を持つのみでミソジニーでもホモソーシャルでもないわし、参上じゃよ~~~!!」
 ドッ
 高速移動しようとするファーザーを、オンナスキーが殴り飛ばす。
 が、そんな二人へと、ブタッキーが思わぬ言葉を発した。
「知佳さん? 知佳さんに会いたいのなら、駅に行けばいいじゃないか」
 あんぐりと口を開けるオンナスキー。
「駅って……そりゃ、北海道に行こうと思えば電車に乗ることになるだろうが……いやそれよりあんた、知佳さんを知ってるのか?」
 しかしブタッキーは、ことなげに頷く。
「あぁ、言ったろ、女なんていくらでもいるって。駅に行けばわかるさ」
「いや、だから……着の身着のままで北海道にまでなんて行けないし、そもそも交通費だってないし……」
 戸惑うオンナスキーの言葉に、しかし今度はブタッキーの方がおかしな顔をした。
「北海道? 君の言う駅って何なんだ? そんなところへ行く駅があるのか?」
「な……っ! 何言ってんだ、そりゃ北海道へ直通の路線は通ってないけど……」
 しかしブタッキーは真顔で問うてくる。
「君さ……駅に行ったこと、ある?」
「う……」
 言葉につまるオンナスキー。
「駅」というものがこの世にあることは知っている。
 行ったことだってきっと、あるはず。
 でも、今の彼にはその記憶がなかった。
 最寄りの駅が町田駅だという知識はあるけれど、学校も病院も町内にあるし、今の生活では電車に乗る必要がなかった。
 昔、きっと駅を利用したことはあるはずだけれど、その記憶は、頭にはなかったのだ。
 記憶喪失がまだ治っていないのか、それとも――。
「ほら、行こう。知佳さんに会いたいんだろ?」
 ブタッキーは駅の方へと歩き出した。
「ま……待てブタ公! 貴様だけいとこさんと会うことは許せぬ!!」
 ファーザーも、その後を追っていく。
「あ、バカ、待て!」
 やむを得ず、オンナスキーもその後を追った。
 考えれば、以前もこんなことがあった。
 北海道にいるはずの知佳さんを、ファーザーが見たと言っていたことがあった。
 知佳さんは――何を隠しているのだろうか……?


 ……。
 …………。
 ………………。
 どこまでもどこまでも天高くそびえる塔を見上げ、オンナスキーは言葉を失っていた。
「どうして……こんな……そもそもこんなものがあったら側を通りかかった時に気づくはず……いや、アパートからだって見えるだろうに……」
 ――ブタッキーとファーザーを追って、「駅」にまでやって来たオンナスキー。
 彼の「知識」では、そこにはJRの町田駅があるはずだった。
 が、その「駅」に鉄道の路線は見当たらず、ただ「駅」の上空へと高い高い塔が伸びていた。
 しかしブタッキーには、そんな彼の様子こそが信じられないようであった。
「とにかく乗ればわかるよ」
「乗ればって……何に?」
「エレベータだろ」
 当たり前のように言い、ブタッキーは駅の構内に入る。
「あ……」
 それを追い、ファーザーとオンナスキーも構内に足を踏み入れ、そして――。
「あ……知佳……さん……?」
「どーーーですかいとこさ~~~ん!」
 改札の辺りに立っていたのは間違いなく知佳さんであった。
「あ……い、いっちゃん……久し振り……元気?」
 困ったような顔で、知佳が笑う。
「どうして……ここに?」
「えっとぉ……」
 知佳さんの焦りの表情。
「そ、それよりいっちゃんはどうしてここに?」
「え? それは……あいつに連れて来られて……」
 ブタッキーを指すオンナスキー。
 そこで知佳さんも初めてブタッキーの姿に気づき――。
「………………っっ!?」
 尋常じゃない、驚きの顔を見せる。
「そっか……来ちゃったのか……」
「? 俺はいつも来てるけど?」
 相も変わらず女性に対してはつっけんどんな態度のブタッキー。
「あれ? あなた、女の子たちは?」
 知佳さんの問いに、ブタッキーはファーザーを指差しながら、興味なさそうに返す。
「ん? 何かあの人が追っ払った」
「なるほど……アクシデントが重なったのね……光学迷彩を施してまで、いっちゃんたちには存在を隠していたのに……」
 頭を抱えながら何やらつぶやいていたが――。
「いえ、これはいい機会かも知れないわ」
 急に真顔になり、知佳さんはオンナスキーに向き直る。
「いっちゃん――モテモテ王国に、行きたい?」
「え……?」
 いとこから「モテモテ王国」という単語が発せられたことに、オンナスキーは言葉を失う。
「モテモテ王国って――あの、それはあいつの妄想内にある……」
 ぼーっとしているファーザーを指差すオンナスキーだが、知佳さんはゆっくりと首を横に振った。
「うぅん……あるのよ、モテモテ王国は――そしてこの軌道エレベータは、モテモテ王国行きの交通機関――」
「な……なんじゃってーーーー!? わしは闇を抜けてモテの国へ!? 夢が広がる無限の宇宙へ行くというのじゃろか!?」
「お前は少し黙ってろ」
 わけがわからなくなりながらも――オンナスキーは考える。
 確かに、町田にこんなSFめいた設備がある時点で、もう何があっても不思議じゃない。「モテモテ王国」が実在したっていいのかも知れない。
 しかし――。
 考えのまとまらないオンナスキー。
 しかしそんな彼の決意を促すかのように、知佳さんは言った。
「どうする? 本当はね、これは不測の事態。このエレベータは光学迷彩で隠されているし、秘密を知る彼――ブタッキーさんには女の子たちを監視役につけて、あなたたちに秘密を知らせないよう、計らってあった。それがアクシデントの重なったせいでこうなってしまったというわけ。だから、あなたに薬物処理を施して、この小一時間の記憶を消すという選択も考え得るわ。でも、私はもう、何もかもをあなたに話して、あなたの自主的な選択に委ねた方が――という気もしているの。どうする……?」
 オンナスキーは今一度眼前にそびえる高い高い塔を見上げて――そして、決意した――。

ブログランキング【くつろぐ】 

にほんブログ村 本ブログへ 

人気ブログランキングへ