へちま細太郎

大学院生のへちま細太郎を主人公にしたお話。

副住職さんの武勇伝デンデン太鼓は…

2016-08-28 02:22:14 | へちま細太郎

たかのりだよ、あほくさいおっさんの話は続くぞ。
でも、絶対マネすんなよ。

「つくばった山の向こうの町は盆地なんだが、その盆地をかこっている山のひとつに佐黒山という山がある」
「心霊現象がおこるって、テレビで話題になってたっけね。でも、出たんかい」
「いや、そこへ行こうって、ゾク仲間と話して、バイクではなく車でいったんだ」
「へえ」
住職様は、黙って茶をすすり、百合絵さまは好奇心丸出し、ことみさんはあきれ返り、豪農コンビはあくびを二つ。
「まずな、そういう場所に行くときには、車をきれいに洗車してワックスをかけるんだ。そして砂をぶっかけて払い落とす」
「なんでそんなことすんの?」
「まあ聞け。車2台で俺たちは佐黒山に向かった。佐黒山の峠を越えると、その先にトンネルがあった」
俺は、百合絵様より好奇心丸出しの、本堂に巣くうこの世のものでないものが周囲に浮かんでいることに気付いた。
「トンネルの中で、エンジンを切ってしばらく止まっていたんだが、何にもでねえ。こりゃ、がセか?と思い、エンジンをかけようとしたらかかんねえ」
宙に浮いているやつらは、副住職のおっさんのそばに近寄ってきた。
「何度やってもかかんねえ、もう一台はあっという間に行ってしまうし、俺たちは焦っていろいろやってみたがだめだった」
細太郎は、ちらっと副住職の背後をみた。背後にいるやつらは、オチが来たら脅してやろうという勢いだったが、何を思ったか百合絵様が十字架を出し、
「邪魔ですわ」
と一言いった。何を考えているんだこの人は。
しかし、そいつらは副住職の背後から離れる。
「思わず助手席からダッシュボード蹴ると、エンジンはかかった。それで、もうスピードで山を下ったわけだ」
「そんだけ?」
水嶋先輩が首をかき、
「腹でもくだったんじゃね?」
と小栗先輩もチャチャを入れた。
「馬鹿野郎!それで済むなら、こんな話はしねえ」
副住職は、ここで水を飲むと背後に残っていたやつをぴっと払いのけた。
「次の日の朝、車2台についていたのは、隙間がねえほどの手のあとだった」
「げっ」
俺たちは、その状況を想像して思わず顔を見合わせた。
「布川なんぞ、腰抜かして二度と車に触らなかったな、あいつの兄貴の新車だったのに」
「あらま」
「で、その車どうしたの?」
「2台ともうっぱらった。おっかなくて乗れっか、そんな車」
「その車ってさ、緑のクーペじゃね?趣味の悪い」
そのとき、小栗先輩が思い出したように聞いてきた。
「そう、ニッサンのシルビア。緑に塗り替えた」
「ああ、それ、白に塗り戻して、うちで乗ってた」
「マジで?」
俺が聞き返すと、
「うん、でもね、その車、布川先生のダンナさんでしょ?その人、中古だけど、買っていった」
と、こともなげに小栗先輩が答えると、水嶋先輩がお茶を吹き出した。
「おい、それ、ほんとの話か?」
副住職は真っ青になる。
「どしたの」
「ああ、やっぱりそうか、あの車で事故りやがったんだああ」
副住職は頭を抱えてしまった。
「イタズラもほどほどにせんとな」
住職様がここで口を開き、
「ことみ、緑の紙を持ってきなさい」
と、冷たく言い放ったとさ。
自業自得な人たちだ。



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