へちま細太郎

大学院生のへちま細太郎を主人公にしたお話。

住職ライダー

2012-01-28 15:56:28 | へちま細太郎

こんにちは、へちま細太郎です。

ひまな土曜日。
することもないので、須庭寺にぶらりと遊びにいった。
「いい若いもんが、土曜日に寺に来て何をするつもりだ。友達もおらんのか」
くそ副住職のいうことなんか、もう慣れた。
「別にヒマですることないし」
「部活でもしたらどうだ」
「部活は引退。高校へ入ってからもバスケする気はないし、かといっていまさらスイミングスクールでもないし」
「ふん」
副住職さんは、鼻で笑うと、
「なら、バイクの乗り方を教えてやろうか」
と、本堂の真ん前に止まっている750CCのバイクを指差した。
ピカピカに磨きあげられたマシーンは、KAWASAKIの文字がはいっている。
「何で、HONDAじゃないの?」
ぼくは、バイクといえば、HONDAしか浮かばなかったので、素直に聞けば、
「ほんとは、SUZUKIのハスラーにしたかったんだが、それじゃああんまりミーハーなんでやめた」
と、作務衣姿でバイクにまたがる。
「鈴木?さんがハスラー?」
「てめえ、冗談かますんじゃねえ。SUZUKIのハスラーっていやあ、新サイクロン号だ」
「サイクロン?台風?」
面白いから、どんどんつっこみを入れると、ガツンと蹴りがつっこまれた。
「いてえ、何すんだよ」
「なめた口きくんじゃねえ、ハスラーっていやあ、ライダーファンなら知っていて当然だ」
ライダー…、ああ仮面ライダーか。もしかして、ゾクになった本当のきっかけは…、
「仮面ライダーになりたかったんだ、文句あっか」
と、ふんぞり返っていう。
「でも、ならなんでSUZUKIじゃないの?」
「バカ野郎、ゾクのアタマが仮面ライダー好きだなんて、口が裂けてもいえっか」
と、その時、物置から段ボール箱を抱えた割烹着姿の女性が出てきた。
「あ」
その箱に目をやった副住職さまが慌ててすっとんでいった。
「百合絵さん、それはだめだ」
「あら、どうしてですの?」
割烹着姿とはまた百合絵様もすんごいイメチェンだ。
「これは、俺の宝物だからだ」
と、段ボール箱を奪い返すと、
「ライダースナックのおまけだ」
中から古くなったお菓子の缶を大事そうに取出し、
「国宝級だ」
と、箱をすりすりした。
げっ。
「あら、それはとんだことを失礼いたしましたわ。国宝ならば宝物庫の中にしまいませんと」
還俗してもマヌケぶりはかわんないな。
「そんなことをしたら、じじいに捨てられる」
「じじいだなんて、そんな、あんなに元気ですのに」
百合絵さまはポット顔を赤らめる。
副住職さんは、苦虫をかみつぶしたような表情になって、
「こら、いつまでいるんだ、クソガキ」
と、ぼくに八つ当たりをすると箱を抱えて母屋に入ってしまった。
「なんだよ、バイクの乗り方を教えてくれるんじゃなかったのかよ」
ぼくは、にこにこ顔の百合絵さまに、
「ご住職さまとおやつにいたしましょう」
と、誘われ余計に気が抜けてしまった。
でも、ま、いいか、暇つぶしになるしね。



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