へちま細太郎

大学院生のへちま細太郎を主人公にしたお話。

藁の中の七面鳥

2016-01-06 20:02:01 | へちま細太郎

はいよ、悠樹だよ。
あけおめっす~、鬼あったかいっすぅ~。

そんなわけで、クリスマスイブイブの天皇誕生日は、餅つき大会があって、大量の餅を丸めて翌日の藤川家の法要のために、おれたちは雑煮・汁粉を作らされた。
一体、俺の職業は何なんだ?
「しるか」
と、俺の同期の(仮)亀梨軍団彼女なしはラインで集められて餅つきをやらされ、気が狂ったように怒っていたが、バイト代が1日15,000出す、というふとっぱらなご隠居の一声で後輩の(仮)山下軍団までやってきた。
「先輩方は、彼女いないんですねえ」
という、子豚の非常に嫌味な発言にも、水嶋&小栗コンビの、
「黙れ子豚、チャーシューにするぞ」
の一括に大爆笑でのどかな1日になった。
それがだよ、年明けに何を思ったかご隠居が、
「オクラホマミキサーをやりたい」
と、わけわかめな発言をして周囲を焦らせた。
「ご近所の老人クラブの集合ですか?」
北別府さんがご隠居の顔色を窺うようにきけば、
「ばかもん、この間きただろうが、彼女なしの草食系男子どもが。あいつらのために、フォークダンスコンパをやる」
という答えが返ってきて、実孝さんはコーヒーを口から勢いよく吐き出した。
「実孝さま、大丈夫でございますか?」
北別府さんは、実孝さんに気配りな声をかけたが、
「いいからいいから」
と、実孝さんは首にかけていた千葉ロッテのタオルで、吹きこぼしたコーヒーを拭く。
「ご隠居は、年明け早々の三太郎のCMに毒されただけだから気にしないで」
「は?三太郎、それはなんでございますか?」
謹厳実直でテレビはNHKオンリーな北別府さんに通じるわけはない。
当然、携帯もキノコの会社のガラケーを使用中だ。
「とくべつじゃない えいゆうじゃない みんな~のうえにはそらがある~」
女の子にもてたいためにバンドを組んでいた実孝さんは、AIのあの歌を見事に歌いだした。
事務の女性たちや売店のバイトの子たちも、目をハートにしてのぞき込んでいた。
おいおい。。。
「それが、三太郎で、オクラホマミキサーなんでございますか?」
実孝さんは、せっかくの美声を台無しにされて渋い表情だ。
この人は、決して従業員の前では”素”を見せない。見せたら、みんな手を付けられて、修羅場だわ。
それでも、
「北別府さんには、まあ、わからないかもな。でも、ご隠居さま、無理ですよ、みな立派な社会人だから」
という言葉にご隠居も、ふんと鼻を鳴らした。これは、あきらめた証拠だな。
しかし、事務所を出た俺の後から追っかけていた実孝さんは、
「あの、オクラホマミキサーな、別にご隠居の合コンじゃなくてもいいから、設定しろよ」
と、肩を組んでささやいてきたのには、参ったよ。
けっ、なあにが賢弟愚兄だよ。この兄にしてこの弟ありだよ、と俺はつぶやき、
「七面鳥のばかやろー」
と叫んだのであった。。。

*オクラホマミキサーの原題は、「藁の中の七面鳥」。