へちま細太郎

大学院生のへちま細太郎を主人公にしたお話。

宿泊学習2

2009-05-07 19:58:42 | へちま細太郎
こんばんは、へちま細太郎です。

今日の日程をクラス委員の野茂が決めてくれたおかげで、赤松先生はさんざんな目にあった。
「はい、まずは山で山菜採りをします」
「山菜?」
全員が呆然。
「山菜ってどれだかわかんねえよ」
文句をつけると、
「大丈夫です。専門家が手助けしてくれます」
と、自信たっぷりだ。
「なんか、いやあな予感がしないでもねえな」
と、たかひろ。
「専門家といえば、ひとりしかいねえよな」
とは、鈴木。
「きっと、赤松、血圧あがっちゃうよな」
と、みんな期待に胸を膨らませたと同時に、
「諸君、待たせたなあ」
と、高らかな笑い声とともに中島教授が現れた。
「やっぱり…」
ぼくらは拍手大喝采だが、赤松先生は硬直。
「さあ、昼飯は山菜の天ぷらだぞ」
と、天ぷら油と鍋を取り出してやる気満々だ。
「さあ、みんな、お昼までに時間がないからね」
野茂は自分で作ってきたクラスの旗を掲げて、
「さあ、みんな行くわよっ」
と、拳を振り上げた。その勢いに押されてぼくらも、
「お~っ」
と声を上げて、全員で美都田吾作のテーマソングを大合唱しながら山に入って行った。 その間、赤松先生は硬直したまんま。阿南先生が顔の前で手を振ったが全然気がつかなかったそうで、
「だめだ、こりゃ」
と、人差し指で推したらそのまんまひっくり返ってしまったよ、とあとからしんいちが教えてくれた。
「気絶しちゃって、合宿所に運ばれるなり熱が出ちゃったんだってさ」
そんなこととはつゆ知らず、ぼくらは中島教授の指示で山菜採りに精を出し、野茂はみんなが離れて行かないように気配りを忘れない。
「何であんなにしっかりしてんだ?」
「すげぇよ、あんで高校生になったらどうなるんだろう」
男子は野茂以外の女子もとてつもなくしっかり者ばかりなので、これからは野茂について行こう、と決意しあったのた。

ぼく、もしかしたら楽しくやっていけるかもしれないな。

宿泊学習初日

2009-05-07 14:39:54 | へちま細太郎
こんにちは、へちま細太郎です。

今日からぼくたち1年生は宿泊学習で、つくばった山のさらに奥の象山(ぞうさん)にある、学校の古い合宿所にきている。
管理人の人がいるだけで、あとは大学生の山ごもりとかゼミの合宿に使われる以外は、ほとんど訪れる人もいなければ、存在すら知られていないそうだ。
「今年は脱走するやつらがいるから、脱走不可能な場所に宿泊だ」
と、中島教授の嫌がらせとぼくらの行動に振り回された校長先生が、苦肉の策で出してきた案らしい。
合宿所の施設は、なぜか温泉つきですべて自炊という、まるで共同宿泊温泉施設みたいな雰囲気だった。
「こういうの、俺、きらいじゃないし」
といったのは上原で、
「飯盒炊飯好きだし」
は、川上だ。
「山歩きは得意技だ」
松井は運動靴の紐をきつく縛りなおして、屈伸運動を始めた。
「水の音がするから川が流れているんだろうね。後で魚を釣りに行こうか」
ぼくたちは口ぐちに勝手なことを話していて、だあれも先生の注意なんか聞いていない。
「いいかあ、ここいら辺の山はなあ、クマも猪も出るから勝手に合宿所を出ていってはいけないぞ」
クマなんているかい。
「万が一、迷ったりして遭難してしまうこともありうるからな」
何で先生たちの視線が僕たちのクラスに集中するんだ。
「とにかく、夜はみんなでカレーを作ることになっているから、それまで各担任の先生のいうことをちゃんと聞いて、各クラスでたてた計画に沿って行動するように」
学年主任の阿南(あなん)先生が、拡声器で怒鳴っているけど、
「各クラスで立てた計画ってなんだ?」
と、ぼくらは顔を見合わせた。
「知らねえよ」
「女子がたてたんじゃないのか?」
ぼくらは女子を見たら、
「大丈夫、適当に作っておいたから」
と、頼もしい返事がかえってきた。
「おまえ、しっかりもんだなあ」
鈴木が感心すると、
「まあね」
と、このクラス委員の女子…野茂がVサインを出した。
そんなぼくらと対照的に、どんよりと今にも気絶しそうな表情をしている担任の赤松先生は、他の先生たちの影に隠れるように小さくなっていた。
なんとなく気の毒だ。