宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

エドガー・アラン・ポー(1809-1849)『メルツェルのチェス・プレイヤー』(1836、27歳):自動機械人形「ターク」(トルコ人)の謎解きをこの小説で行なう! 「隠れた人」が操作している!

2022-12-05 19:38:10 | Weblog
(1)自動機械人形「ターク」の謎解き!
『メルツェルのチェス・プレイヤー』(1836)は当時、展覧会・興行等で注目を集めた「チェスをさすトルコ人の姿の自動機械人形」に関するエドガー・アラン・ポーの小説である。この自動機械人形は「ターク」(The Turk、トルコ人)と呼ばれた。エドガー・アラン・ポーは自動機械人形「ターク」の謎解きをこの小説で行っている。
(2)からくりの天才的な発明品に関する先行する多数の歴史!
自動機械人形「メルツェルのチェス・プレイヤー」には、からくりの天才的な発明品に関する先行する多数の歴史がある。①カミュ氏が幼少期のルイ14世を楽しませるために発明した「全長6インチの自動機械の馬車」。②メイヤード氏の魔術師。多くの種類の質問に対し答える「魔術師の自動機械人形」!③ウォーカンソンのアヒル。本物そっくりに鳴き動き飲み歩く「自動機械のアヒル」。あるいは④星や船の運行を天体図や航海図で割り出す「チャールズ・バベッジの計算機」も天才的な発明品だ。
(3)「背後で人間が操る」ことなく動いている「純粋機械」?
「メルツェルのチェス・プレイヤー」がまったくの「機械人形」であり、「背後で人間が操る」ことなく動いているなら、「確定的に進行しないチェスにおける駒の進め方に対応できる機械的なからくり」が可能というのは、恐るべきことだ。それは、バベッジの「計算機械」とは全くことなる。その場合は、「メルツェルのチェス・プレイヤー」は「純粋機械」と呼ぶべきである。《感想》AI による「コンピュータチェス」は、ポーが定義する「純粋機械」に相当する。

(4)「メルツェルのチェス・プレイヤー」!
「メルツェルのチェス・プレイヤー」は1769年ハンガリーの貴族ケンペレン男爵によって発明された。その後、メルツェル氏の手に渡り、最近ではアメリカ合衆国の主要都市も巡回した。
(4)-2 自動人形(トルコ人)&箱(テーブル)!
「チェス・プレイヤーの自動人形」はトルコ人の扮装で大きな箱(テーブル)の向う側に坐っている。自動人形が腰かけている椅子は、箱にしっかりくくりつけられている。箱の上にチェス盤がぴったり固定されている。緑色の掛け布が自動人形(トルコ人)の背後を隠し、その布は部分的に両肩の全面もおおう。チェスゲームの最中は、観客は箱から3.6m離れてすわりロープで隔てられている。チェス・ゲームが始まる前に「自動人形(トルコ人)&箱(テーブル)」は観客に、「箱」の諸扉と引き出しを開け、また「人形」の背中と太ももの扉(窓)から、その内部が見せられる。またチェスゲームの中断時には、「人形&箱」は真鍮の車輪がついているので観客が間近に見える位置まで移動されることもある。
(4)-3 「箱(テーブル)」の正面の「3つの扉(1番・2番・3番扉)」・「引き出し(左右)」、また裏側の「後部扉1」(正面の1番扉の裏側)!
大きな「箱(テーブル)」のこちら側(正面)の上段に「3つの扉(1番・2番・3番扉)」があり、下段に2つの「引き出し(左右)」(ただし左側の引き出しのみが本物で、右側はフェイク)がある。1番扉を開けると中には多数の歯車・レバーなど機械装置がぎっしり詰め込まれている。「箱(テーブル)」の裏側(正面の1番扉の裏側)にも扉(「後部扉1」)があり、「後部扉1」を開けると、その中にも機械装置が詰まっているのが見える。下段の「引き出し」は一方(右側)は飾りにすぎず開けられない。もう一方(左側)の「引き出し」の中にチェスの駒が入っている。
(4)-3-2 正面の2番扉・3番扉(折戸になっている)の中:「小区画」・「中央区画」・裏側の「後部扉2」!
正面の2番扉・3番扉(折戸になっている)は中が同一の区画になっている。その右側は「小区画」で機械装置がぎっしり詰まっている。「中央区画」は漆黒の生地で覆われ、4分円形の金属製装置が両隅上方、床に20センチ四方の突起が床にあるが、他になにもない。正面の2番扉・3番扉を開けた「中央区画」の裏側にも扉(「後部扉2」)がある。
(4)-3-3  扉(1番・2番・3番)、引き出しの一方、裏側の扉(後部扉1・2)は必ず鍵で開け閉めする!
なお正面の3つの扉(1番・2番・3番)、引き出しの一方、裏側の扉(後部扉)の開け閉めに際しては、必ず鍵穴に鍵をさして開け、鍵をさして鍵を閉める。
(4)-4 「自動人形に人間が隠れていることはない」と観客が確認する!
トルコ人の自動人形の「背中」に25センチ四方の扉(窓)、左の「太腿」にもいま一つの扉(窓)、これらを開くと内部は機械装置で埋め尽くされているのが見える。「自動人形(トルコ人)&箱(テーブル)」が観客に、「箱」の諸扉と引き出しを開け、また「人形」の背中と太ももの扉(窓)から、その内部が見せられるが、その時、「自動人形に人間が隠れていることはない」と観客が確認する。(《感想》観客は「人間が隠れていることはない」と思うが、エドガー・アラン・ポーはこれは「騙されている」のだ、「隠れた人」=「箱の中の人」が存在するのだと言う。)
(4)-5 自動人形が「左腕」を動かしチェスをつまみ、駒を動かす!
チェスの対戦者は仕切りのロープの間際、観客者側に設置されたテーブルに座る。チェス盤は自動人形のトルコ人の前に一つ、対戦者のテーブルの上にもうひとつ置かれる。箱(テーブル)の左端の鍵穴にメルツェル氏が鍵を差し込みからくりのネジを巻くと、チェスの対戦が始まる。自動人形が「左腕」を動かしチェスをつまみ、駒を動かす。(自動人形トルコ人の右腕はテーブル上に置かれている。)
(5)自動機械人形「ターク」(トルコ人)は強かった!
ふつう自動人形が先手を打つ。対戦時間は30分。(対戦者の希望で延長可。)メルツェル氏が自動人形代理として、対戦者のチェス盤の駒を進める。対戦者が駒を進めると、メルツェル氏が今度は対戦者代理として、自動人形のチェス盤の駒を進める。自動人形の一挙一投足にからくりの音がついて回る。自動機械人形「ターク」(トルコ人)は強かった。彼が負けたのは、1度か2度にすぎない。

(6)自動人形がどのように作動しているのか?その謎を解こうとした数々の試み!
いったいこの自動人形がどのように作動しているのか?その謎を解こうと数々の試みがなされた。
(a)一番広く罷り通っていた通説はこの自動機械は、「まったくの機械」であっていかなる人間も黒子として潜んでいるわけでないという見解だ。
(b)「興行主(メルツェル氏)」が箱の基底部で稼働する機械的手段で人形を動かしているとの説もあるが、メルツェル氏はつねに姿を見せており、この説は誤りだ。
(c)「磁石」が自動人形を動かしているとの説もあるが、観客が磁石を持ってきても、「メルツェルのチェス・プレイヤー」(自動人形)を混乱させ乗っ取ることは出来なかったので、この説も誤りだ。
(6)-2 「小人」説&「少年」説!
この自動人形がどのように作動しているのか、その謎について論じた論文(説)もある。
(d)ひとりの「小人」が箱(テーブル)の内部で機械を操作しているとの論文(1785年)。小人が第1番の戸棚にひしめく機械装置の中にある「円筒」の中に下半身を突っ込み、上半身はトルコ人の掛け布の下に隠すと言う。しかし機械装置の中に「円筒」がない。
(e) I・F・フライエル氏(1789年)の論文は、「痩身で長身の教養あふれる少年」がチェス盤のすぐ下の空間(正面の2番扉・3番扉の中の「中央区画」)に身を隠し自動人形を操作していると論じる。だが興行主(メルツェル氏)が箱を精密に見聞して見せたので、この説は粉砕された。
(7)「箱の内部の仕切り」が変動しずらされる!
近年(1830年代)、ボルチモアの週刊誌に匿名の書き手による「メルツェル氏の自動人形チェス・プレイヤーを分析する試論」は、「箱内部に身を潜めた人間」がいて自動人形の腕を操作し、彼は「箱の内部の仕切り」が変動しずらされることで、興行主(メルツェル氏)が観客たちに箱の内部を見せる時、うまく動いて姿を隠すと主張する。
(7)-2 「箱内部に身を潜めた人間がいて自動人形の腕を操作している」とするのは正しいとエドガー・アラン・ポーは主張する!
エドガー・アラン・ポーは「内部の仕切りがズラされることにより隠れている人間が動きやすくなっている」という点には「異議を申し立てる」という。ただし「箱内部に身を潜めた人間がいて自動人形の腕を操作している」とするのは正しいとエドガー・アラン・ポーは主張する。

(8)エドガー・アラン・ポーによるこの自動人形「メルツェルのチェス・プレイヤー」のからくりの謎の解明にあたっての前提:見世物興行主メルツェル氏の自動人形の箱(テーブル)を観客に見せる手順!
(ア)まず鍵で1番扉を開ける。(中には多数の歯車・レバーなど機械装置がぎっしり詰め込まれている。)
(イ)それを開けたままにしておいて、裏側の扉(正面の1番扉の裏側)(後部扉1)を開ける。そしてそこを炎のともったろうそくで照らし中を見せる。(その中にも機械装置が詰まっている。)
(ウ)裏側の扉(後部扉1)を閉め、鍵をかける。
(エ)前方に戻ってくると正面の1番扉は開けたままで、正面下部の(一方の)引き出しの鍵を開け、引き出しを開く。そこにはチェスの駒が入っている。
(オ)次にメルツェル氏は正面の2番扉、3番扉の鍵を開け、そして2番扉、3番扉(折戸になっている)を開け「中央区画」の内部を披露する。
(カ)この正面の2番扉、3番扉の「中央区画」も、「引き出し」(左側)も、「1番扉」も開けっぱなしのまま、メルツェル氏は再び後方へまわり、「中央区画」の裏側の扉(「後部扉2」)の鍵を開け、そして後部扉2を開ける。
(キ)その後、「後部扉2」を閉め、鍵をかける。
(ク)メルツェル氏は前方に回り、「1番扉」を閉め、鍵を閉める。また「2番扉、3番扉(折戸)」を閉め、2番扉、3番扉の鍵を閉める。その後、「引き出し」を閉め、鍵を閉める。

(9)エドガー・アラン・ポーによる自動人形「メルツェルのチェス・プレイヤー」のからくりの謎の解明(結果)!
(1)「自動人形と箱」が最初に会場へ運び込まれて観客に披露された時にはもう、箱の中には誰か「人間」が隠れていた。
(2)「隠れた人」の上半身が身を潜めていたのは、「正面の1番扉の内部」にぎっしり詰まった歯車など装置群の背後だ。その両足は「中央区画」(正面の2番扉、3番扉の内側)に収まっていた。
(2)-2 メルツェル氏が「1番扉」を開けて中を見せても、観客によって、「中にいる人」が見つかることはない。なぜならぎっしり詰まった歯車など装置群の背後の「闇」を、観客は見通すことができないからだ。
《感想》装置群の背後が「闇」で見通すことができないというエドガー・アラン・ポーの説明は、自動人形「メルツェルのチェス・プレイヤー」のショーがなされる部屋が相当に暗いという前提が必要だ。
(3)しかし正面の1番扉の裏側(「後部扉1」)が開いた場合にはいささか事情が異なってくる。ろうそくをかざし「後部扉1」の箱の内部を照らせば、「隠れている人」は見つかってしまうだろう。
《感想》部屋の夜の照明は「ろうそくorランプ」のみで、暗い。この1836年の小説は、「1879年のエジソンの白熱電球の発明」以前だ。もちろん昼間は明るいので、ショーは「夜or暗い密室」で行われる必要があったろう。
(3)-2 だが「箱の中に隠れている人」は見つからない。というのは後方の扉(正面の1番扉の裏側の「後部扉1」)に鍵を差し込む時の音を合図に、当該人物は身体を「中央区画」に投げ出すからだ。だがこの姿勢はなかなか厳しい。そこでできるだけ早くメルツェル氏は後方の扉(「後部扉1」)を閉める。Cf. (8)で述べられたように、(ウ)裏側の扉を閉め、鍵をかける。
(3)-4 「隠れている人物」は「正面の1番扉」の内部の装置群の背後に戻る。そして「中央区画」(正面の2番扉、3番扉の内側)にあった彼の足は、今や「左側の引き出し」が開けられたので、そこの空間に置く。
(4) かくて「中央区画」(正面の2番扉、3番扉の内側)にはもはや彼のいかなる身体部分も存在しない。
(4)-2 メルツェル氏は今や安心して「中央区画」をみなさんにご披露する。
Cf. (8)で述べられたように(オ)メルツェル氏は「正面の2番扉、3番扉」の鍵を開け、2番扉、3番扉(折戸になっている)を開け「中央区画」の内部を披露する。(カ)この正面の2番扉、3番扉の「中央区画」も、「引き出し」も、「1番扉」も開けっぱなしのまま、メルツェル氏は再び後方へまわり、「中央区画」の裏側の扉(「後部扉2」)の鍵を開け、後部扉2を開ける。
(5)この状態で、メルツェル氏はこの自動機械を会場のいたるところへ移動させては自動人形トルコ人(「ターク」)の掛け布を外し、この自動人形の背中と太ももに開いている扉(窓)を開け、その胴体に機械装置がぎっしりと詰まっていることを明かす。
(5)-2 メルツェル氏は箱全体をもとの位置へ戻して扉を閉める。
Cf. つまり(8)で述べられたようにメルツェル氏は(キ)「後部扉2」を閉め、鍵をかける。(ク)メルツェル氏は前方に回り、「1番扉」を閉め、鍵を閉める。また「2番扉、3番扉(折戸)」を閉め、2番扉、3番扉の鍵を閉める。その後、引き出しを閉め、鍵を閉める。
(6)(「引き出し」が閉められたが両足は今や「中央区画」に移し自由だ。)隠れた人は今「中央区画」を自由に動ける。彼は自動人形トルコ人(「ターク」)の胴体内部の上方(胸)、チェス盤を見下ろすあたりから外部を覗く。すなわち彼はトルコ人の薄織物の胸を通してチェス盤を眺める。
《感想》エドガー・アラン・ポーはこれまで、箱から自動人形の内部に、人が頭を移動できるとは述べていない。これは突然の説明である。
(6)-2 正面の「2番扉・3番扉(折戸になっている)」は中が同一の区画になっている。その右側は「小区画」で機械装置がぎっしり詰まっている。ここに人形の左腕と左指を動かしチェスの駒を動かす装置、また頭部と眼球を動かす装置がある。「小区画」(「中央区画」の右側)がこの機械の本質をなす。
(6)-3 隠れた人はおそらく「中央区画」の20センチ四方の突起の上に腰かけて、ここを定位置として自動人形トルコ人(「ターク」)を操作する。
Cf. (4)-3-2によれば、「中央区画」は漆黒の生地で覆われ、4分円形の金属製装置が両隅上方、床に20センチ四方の突起が床にあるが、他になにもない。

(10)「メルツェルのチェス・プレイヤー」のからくりの謎の解明(結果)を演繹(推理)する根拠となった観察!
①トルコ人の駒の進め方は、対戦者に合わせた形で行われ、規則的でない。不規則きわまる動きしか示さない自動人形(トルコ人)は「機械」ではない。つまり「人間が操作している」としか考えられない。
Cf. (3)では、エドガー・アラン・ポーは次のように述べている。「メルツェルのチェス・プレイヤー」がまったくの「機械人形」であり、「背後で人間が操る」ことなく動いているなら、「確定的に進行しないチェスにおける駒の進め方に対応できる機械的なからくり」が可能ということとなり、これは恐るべきことだ。それは、バベッジの「計算機械」とは全くことなる。「メルツェルのチェス・プレイヤー」は「純粋機械」と呼ぶべきである。《感想》AI による「コンピュータチェス」は、ポーが定義する「純粋機械」に相当する。

②ポーの観察によれば、メルツェル氏が対戦者の駒の進行を自動人形トルコ人のチェス盤に再現している最中に、メルツェル氏の後ろで対戦者が突然、自分の戦法の間違いに気づいて、駒を進めるのをやめると、自動人形トルコ人は自分の駒を進める手を止める。かくて自動人形の動きを制御しているのは、メルツェル氏の知性でない。別の知性(隠れている者の知性)が自動人形の動きを制御しているとわかる。つまり対戦者のチェス盤を観察している人間が、自動人形の動きを制御している。それこそ箱の中に「隠れた人」だ。

③自動人形「ターク」は必勝でない。「機械でもチェス・ゲームができるという原理」の発見は必勝の自動人形(「純粋機械」)をめざすはずだ。ところが発明家は「必勝でない」ことを欠点と考えていない。今回の自動人形「ターク」は「未完成のままにする」という意図で作られたことになるが、これは発明家の発想としてナンセンスだ。
《感想》つまり自動人形「ターク」はそもそも「機械」ではないということだ!自動人形「ターク」は「イルージョン=奇術」のショーとみなすしかないと、エドガー・アラン・ポーは述べているのだ。「隠れた人」が操作する奇術ショー!

④自動人形「ターク」が首を横に振ったり両目をぎょろつかせるのは、「ゲームが好転し熟慮が不要な時」だけだ。「ゲームの展開が困難・複雑な時」は首を横に振ったり両目をぎょろつかせたりしない。「箱の中の人」が人形の首や両目を操作できるためには、余裕が必要なのだ。

⑤メルツェル氏は機械を会場のいたるところへ移動させ、トルコ人(「ターク」)の掛け布を外し、この自動人形の背中と太ももに開いている扉(窓)を開け、その胴体に機械装置がぎっしりと詰まっていることを明かす。しかしよく検分すると、胴体内部に多くの鏡が設置されていることに気づく。これは体内の数個にすぎない装置を、胴体に機械装置がぎっしりと詰まっているように錯視させるためだ。本来なら発明者は、かくも驚くべき効果が「簡素な手法」(簡素な機械装置)でもたらされたことをアピールするはずだ。かくてこのチェス・プレーヤーの自動人形は「純然たる機械でない」と推測される。メルツェル氏はそもそも機械人形の発明者(技術者)らしい発想がない。
《感想》メルツェル氏は奇術ショーの興行主だ!機械人形の技術者でない!

⑥自動人形は普通、できるだけ「人間そっくりの動作」をすることをめざすのに、自動人形「ターク」は、いかにも「機械人形らしいしゃちこばって角ばった動き」を見せる。かくて「メルツェルのチェス・プレイヤー」は、事態の真相つまり「箱の中の人」を思い出させないように意図している。

⑦チェス・ゲームの開始に先だち、自動人形のからくりの箱(テーブル)の左端の鍵穴にメルツェル氏が鍵を差し込み「からくりのネジを巻く」と、チェスの対戦が始まる。自動人形が左腕を動かしチェスをつまみ、駒を動かす。だがネジを巻く音にある程度慣れ親しんだ耳を持つ者なら、この「ネジの車軸」がからくりを動かすはずの天秤やバネといった装置に連動していないとわかる。ネジを巻く作業は「自動人形が機械で動く」と錯覚させるためだ。(実際には「隠れた人」が自動人形「ターク」を動かす!)

⑧「自動人形は純粋機械なのか否か?」といった質問が飛ぶと、メルツェル氏は「企業秘密です」と答える。これは彼がこの自動人形が「純粋機械ではないのだ」と意識していることによる。(実際、「隠れた人」が動かす!)
Cf. (3)でエドガー・アラン・ポーの「純粋機械」についての見解が述べられる。「メルツェルのチェス・プレイヤー」がまったくの「機械人形」であり、「背後で人間が操る」ことなく動いているなら、「『確定的に進行しないチェスにおける駒の進め方』に対応できる機械的なからくり」が可能ということであり、恐るべきことだ。それは、バベッジの「計算機械」とは全くことなる。「メルツェルのチェス・プレイヤー」は「純粋機械」と呼ぶべきだ。
《感想》AI による「コンピュータチェス」は、ポーが定義する「純粋機械」に相当する。

⑨注意深い観客ははっきり気づく。箱(テーブル)の正面の「1番扉」を開けて見える多数の歯車・レバーなど機械装置について、手前はびくともしないのに、奥は箱(テーブル)が巡回するとともに変動している!それがどういう事情かといえば、「箱の中の人」が後方の扉(「後部扉1」)が閉まると、折り曲げていた上半身を直立させるからだ。
Cf. (8)によると箱(テーブル)の巡回における手順は(ア)まず鍵で「1番扉」を開ける。(中には多数の歯車・レバーなど機械装置がぎっしり詰め込まれている。)(イ)それを開けたままにしておいて、裏側の扉(正面の1番扉の裏側)(「後部扉1」)を開ける。そしてそこを炎のともったろうそくで照らし中を見せる。(その中にも機械装置が詰まっている。)(ウ)裏側の扉(「後部扉1」)を閉め、鍵をかける。

⑩自動人形「ターク」(トルコ人)は通常人よりずっと大きい。メルツェル氏より45センチ位背が高い。
《感想》かくて「中央区画」を自由に動けるようになった「隠れた人」は、自動人形トルコ人の胴体内部に入り込むのが容易だ。こうして「隠れた人」はトルコ人の薄織物の胸を通してチェス盤を眺める。

⑪自動人形「ターク」(トルコ人)の箱(テーブル)は全長106センチ、奥行き71センチ、高さ76センチなので、人間(「隠れた人」)が中に入るには十分だ。そして箱の上面の板は、よく観察すると、とても薄い。

⑫箱の内部の「中央区画」の内装には黒い布の裏地が施されている。そして裏地の黒い布は引き延ばすと2つの「仕切り」になる。
(ア)1つは黒い布は「中央区画」の後部と1番扉の後部の間の「仕切り」になる。(※裏側の後部扉1に鍵を差し込む時の音を合図に、「隠れた人」は身体を「中央区画」に投げ出すが、この姿勢はなかなか厳しい。このとき「隠れた人」は黒い布を仕切りにして投げ出した身体を隠す。できるだけ早くメルツェル氏は後部扉1を閉める。)
(イ)もう1つは黒い布は「中央区画」と「引き出しが開いた時の背後の空間」の間の「仕切り」になる。(※「中央区画」の「後部扉2」を開けた時は 「隠れている人」は「正面の1番扉」or「後部扉1」の内部の装置群の背後に戻る。「中央区画」にあった彼の足は、左側の引き出しが開けられたので、そこの空間に置く。)
⑫-2 そして同時に、箱の内部の「中央区画」の内装の黒い布は、箱の中の「隠れた人」が動くさいの音を消す。

⑬チェスの対戦者は3.6m離れた仕切りのロープの間際、観客者側に設置されたテーブルに座る。チェス盤は自動人形のトルコ人の前に一つ、対戦者のテーブルの上にもうひとつ置かれる。では対戦者は、なぜ自動人形「ターク」(トルコ人)と差し向かいでなく、このように機械全体(自動人形と箱)から離れているのか?
⑬-2 おそらく理由は、もしも対戦者が箱に接するかたちで座ったら、「箱の中の人」の息をはずませるのが聞こえてしまい、真相が露呈してしまうからだ。

⑭「メルツェル氏が機械内部を披露する際の手順」は、変更されることがあるが、「隠れた人」=「箱の中の人」が隠れ続けることができるという条件を壊すことはない。つまりいかなる場合においても、メルツェル氏が機械内部を披露する際、「私たちの解釈上不可欠な手順」(「隠れた人」を隠し続けるような手順)を外れることがない。このことは自動機械人形「メルツェルのチェス・プレイヤー」の中に「隠れた人」がいるという解釈を傍証するものだ。

⑮ショーの最中、自動人形のチェス盤には6個のろうそくが立っているが、対戦者側のチェス盤には1個のろうそくしか立っていない。ここから推測されるのは、これだけの明るさ(6個のろうそく)がないと「箱の中の人」がトルコ人(「ターク」)の胸の素材である薄織物から外(Ex. 自動人形のチェス盤)を透かし見ることができないということだ。
⑮-2 ろうそくの配置については、もう一つ注目すべき点がある。自動人形のチェス盤には6個のろうそくが立っているが、それらはチェス盤の左に3本・右に3本あって、かつすべて異なる高さで、光線が交錯し合う幻惑的効果を持つようにテーブル(箱)の上に配置されている。かくて人形の胸をなす薄織物の素材が何か(そこから「箱の中の人」は外を透かし見る)を突き止めるのを難しくしている。

⑯自動人形「チェス・プレイヤー」の最初の所有者はケンペレン男爵だったが、一度ならず報告されたことは、男爵の仲間だったイタリア人が、チェス・ゲームの最中には常に姿を消していた。
⑯-2 似たような報告は、自動人形がメルツェルに買われた時以来も、ついてまわった。シュランベルゼイという男が、メルツェルがどこへ行くにも随行した。そして自動人形「チェス・プレイヤー」が見世物になっている間は、この男の姿が決して見えない。見世物の前後にはシュランベルゼイの姿は嫌というほど目につくというのに!
⑯-3 これらの事実は「隠れた人」=「箱の中の人」の存在を傍証する。

⑰自動人形「ターク」(トルコ人)は左腕で勝負する。これは機械的操作と無縁だ。機械的操作なら人形の右腕での勝負も可能だ。だが「箱の中の人間」を想定すると、自動人形「ターク」(トルコ人)は左腕で勝負するしかない。「左腕(と左指)を動かしチェスの駒を動かす装置」、また「頭部と眼球を動かす装置」は正面から見て右側(自動人形の左側)の肩のところにある。これが機械装置のはいった「小区画」である。「隠れた人」が(※利き手の)右腕・右指で、人形の左肩にある「小区画」の装置を操作する。この装置は左腕と左指を動かす。かくて自動人形「ターク」(トルコ人)は左腕で勝負する。
Cf. すでに(8)で見たように、観客側から見て箱の正面の「2番扉・3番扉(折戸になっている)」は中が同一の区画になっている。その右側は「小区画」で機械装置がぎっしり詰まっている。ここに人形の左腕と左指を動かしチェスの駒を動かす装置、また頭部と眼球を動かす装置がある。この「小区画」(「中央区画」の右側)がこの機械の本質をなす。
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