宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

D. ガーネット(1892-1981)『狐になった奥様』(1922):「妻」も「狐」も消滅し、「妻が狐になった」というテブリック氏の妄想は、消え去った!彼は正気に戻った!

2020-05-11 14:28:38 | Weblog
(1)
テブリック氏が、23歳のシルビアと結婚した。シルビアは人並みすぐれた美貌で、感じのいい女性だった。テブリック氏は妻を愛し、とても幸福だった。ところが翌年、1880年、二人が雑木林を散歩していた時、突然、シルビアが後ろで、ギャッと叫んだ。テブリック氏が振り向くと、妻は狐に変わっていた。テブリック氏と狐は互いに驚き目を見はり、顔を見かわした。狐が目で尋ねているようだった。「あたしは今、どうなったのでしょう?あたしをかわいそうだと思ってちょうだい。だってあたしはあなたの妻なんですもの。」
《感想1》テブリック氏は狂人となった。妻が狐になったのは、テブリック氏の妄想。おそらく何らかの事情でテブリック氏は妻に逃げられたのだ。彼は雑木林で出会った狐と、たまたま仲良くなった。彼は狐を邸で飼うようになる。
(2)
邸にもどると、テブリック氏は、狐に合うようにシルビアの服を小さく切って着せた。シルビア(狐)は涙を流した。狐(妻)はソーサーからお茶を飲み、テブリック氏の手から、バタつきパンを受け取って食べた。またテブリック氏とトランプをしたし、トランプ氏のベッドで寝た。また妻シルビア(狐)はテブリック氏が弾くピアノを聞きたがった。年老いた乳母が「おかわいそうなお嬢さま!」と言った。
《感想2》テブリック氏は、狐を邸で飼った。彼には、狐が妻シルビアと同じ振舞をするかのように見えた。乳母は、妻シルビアに逃げられた、テブリック氏が狂い、狐を妻シルビアとして扱うことに悲しみ、「おかわいそうなお嬢さま!」と言ったのだ。
(3)
狐になったシルビアは、どんどん狐の習性に従って行動するようになった。ピアノを嫌い、床に寝るようになった。そして狐(妻シルビア)はウサギを生きたまま襲い引き裂き血だらけになって骨までバリバリ食べた。テブリック氏は悲しみ激怒した。狐は謝り、テブリック氏の手をぺろぺろ舐めた。
《感想3》テブリック氏と飼われた狐は、仲が良かったのだ。だから狐がテブリック氏の手をぺろぺろ舐める。
(4)
テブリック氏は、狐になった妻を隠すため、乳母の田舎家に住むことにした。家の周りは塀で囲まれ、狐(妻シルビア)は塀の外に行けない。テブリック氏は狐(妻シルビア)を塀の外に出したくなかった。罠や仕掛け銃があり狐狩りも行われる。だが、テブリック氏の努力も空しく、狐(妻シルビア)は外に逃げ去った。
《感想4》テブリック氏は、妻シルビアが、狐に変身しても、愛し続けた。彼は、妻(狐)が殺されることを、心配して塀の外に出さないようにしていた。
(5)
テブリック氏は自分の邸にもどった。そして狐狩りのシーズン(冬)の間中、彼は、逃げた妻シルビア(狐)が殺されていないか調べて回った。妻は狩りの対象の獣になってしまったが、しかし彼は、彼女を愛していた。幸い、彼女は殺されなかった。そして夏になった。
《感想5》テブリック氏は、妻シルビアを、彼女が狐に変身しても愛し続けた。純愛だ。それにしても、シルビアは、なぜテブリック氏を捨てて姿を消したのか?彼は妻を失って狂人になるほど、妻を愛していたのに。
(6)
ある朝、狐(シルビア)が邸に姿を現した。テブリック氏は狐の後を追った。狐は振り返り、彼の姿を確認しながら、狐の巣穴に案内した。そこに狐(シルビア)と5匹の子狐が住んでいた。彼らはとても幸福そうだった。テブリック氏は子狐たちと仲良くなった。彼は雌狐(シルビア)を撫でキスした。そして毎日、彼は巣穴に通い、幸せな時間を過ごした。「雌狐とその子どもたちを愛することで得られる幸福」に彼は浸った。
《感想6》テブリック氏は、妻を愛したので、その子供たちも愛した。だが、雌狐(妻)が不貞を働いたので、5匹の子狐が生まれたのではないのか?テブリック氏は、このことに気付く。
(7)
ある日、ついに雄狐が現れた。テブリック氏は嫉妬に狂った。雌狐(シルビア)も5匹の子狐もすべて射殺しようと思い詰めた。だが、彼は思いなおした。獣には「汚れがない」!雌狐(シルビア)が子狐を産んだのは獣として自然のことだ。「かれらは、罪を犯すことができない。なぜなら神がそのように創ったのだ。」テブリック氏は嫉妬を忘れる。巣穴に行けば、子狐たちがテブリック氏を歓迎する、雌狐(シルビア)も彼の顔をなめたりする。テブリック氏は思った。「人間としてのわたしの全生涯を、いまのわたしの幸せと交換したっていい。禽獣のほうが幸せなのだ。」
《感想7》テブリック氏は、心から妻シルビアを愛していた。シルビアが突然姿を消し、テブリック氏は狂ってしまい、仲のいい狐が妻に思えたのだ。
(8)
ところが、ついに、ある狐狩りの際、雌狐(シルビア)は猟犬に負われ、テブリック氏の邸に走り込んできた。テブリック氏は雌狐を腕のなかに抱いた。だが数匹の猟犬どもが彼らに襲い掛かった。彼らの叫び声を聞いて狩猟隊全員が駆け付け、猟犬を彼らから引き離した。しかし雌狐(シルビア)は死んだ。テブリック氏は瀕死で、彼女の亡骸を抱きしめていた。
(8)-2
狂人テブリック氏の生命は絶望視されたが、ついに持ち直した。そして彼は、やがて理性を取りもどし高齢まで長生きした。(テブリック氏は現在も生きている。)
《感想8》雌狐が死んだことで、テブリック氏を捨てた妻シルビアも、彼にとって死んだ。雌狐が死に、妻が死に、かくて妻である雌狐が存在しえなくなった。「妻」も「狐」も消滅し、「妻が狐になった」というテブリック氏の妄想は、消え去った。彼は正気に戻った。
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