宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

「2000年代 戦争と格差社会」(その2):「インターネットから生まれたベストセラー」『世界がもし100人の村だったら』!『電車男』!『恋空』、『赤い糸』、『君空』!(斎藤『同時代小説』5)

2022-04-12 15:08:53 | Weblog
※斎藤美奈子(1956生)『日本の同時代小説』(2018年、62歳)岩波新書

(50)「インターネットから生まれたベストセラー」:池田香代子再話『世界がもし100人の村だったら』(2011)!中野独人(ヒトリ)『電車男』(2004)!「ケータイ小説」!
B 2001年米国同時多発テロ「9.11」は空前のベストセラーを生んだ。それが、池田香代子(1948-)再話『世界がもし100人の村だったら』(2011)だ。同時多発テロ後、インターネット上で世界を駆け巡った文書を日本語に訳した小型の絵本だ。(176頁)
B-2 コンセプトは「世界には63億人の人がいますが/もしそれを100人の村に縮めるとどうなるでしょう」というものだ。「90人が異性愛者で/10人が同性愛者です」、「70人が有色人種で/30人が白人です」など。内容は世界の人々の多様性を説き、富の偏在を批判する。(176頁)
B-2-2  アメリア国内で湧き上がった愛国心、イスラム排除の雰囲気に対抗する言説だ。(176頁)
B-2-3  しかし「世界の矮小化」と言えなくもなかった。(176頁)
《書評1》日本がどれだけ「恵まれた国」なのかということに気づかされる。「20人は栄養がじゅうぶんではなく1人は死にそうなほどです」、「17人は、きれいで安全な水を飲めません」、「自分の車をもっている人は7人です」、「1人が大学の教育を受け、2人がコンピュータをもっています」など。栄養が十分ではなく汚い水を飲むしかない国の人々がいて、日本に生まれただけで自動車やコンピュータを持つ機会に恵まれたということに気づかされる。
《書評2》かねてから評判を耳にしており、期待を込めて購入した。しかし、残念ながら噂ほどでなかった。絵本のような体裁で、詰めれば10ページほどの内容で、30分程度で読み終えることができる。例が非常に少ない。なお「地球上の富の6割をアメリカ人が保有している事実」には考えさせられた。
《書評3》日本語と英語と併記されている点が良い。子供たちと一緒に読み、そのあと書かれている内容について議論できる良書だ。世界の富の問題、食料の問題、戦争や紛争が人間にあたえる影響、同性愛、異性愛、人種などについて議論でき、何度も読み返せる。

B-3  ネットから生まれた別のヒット商品が中野独人(ヒトリ)『電車男』(2004)だ。インターネット上の巨大掲示板「2チャンネル」の独身男性版(「毒男板」ドクオトコイタ)の「書き込み(レス)」が整理され本にされた。(中野独人は彼らの総称だ。)(176頁)
B-3-2  内容的には「モテないアキバ系の男性(電車男)」と、「彼が電車の中で痴漢から救った女性(エルメス)」との恋愛が成就するまでのドキュメント。いわば「スレッド文学」だ。(176-177頁)
B-3-3  後に映画化、テレビドラマ化され、100万部超のベストセラーとなった。(177頁)
《書評1》最初のエルメスを誘うときの煮え切らなさが、アキバオタクそのままで思わず「お前は俺かwww」と突っ込んでしまう。ですが、エルメスを誘うごとに徐々に女性慣れしていったのか、自分から服を買いに行き美容院に行き、デートでは映画の話題を振ったりと、最初とは比べものにならない成長を遂げて行く。あのひ弱な雰囲気の「電車男」がこんなにも逞しい男になって!「もうスレのみんなの助けなんていらない」と微笑ましくなる物語だった。
《書評2》「電車男」と「無名の書き込み者たち」とのやりとりのいきいきしていること!若干内輪ウケに走っている部分もあるが、匿名掲示板ゆえのホンネのぶつけあいは、普通の小説にないライブ感のような活気に満ちている。「悪口」や「荒らし」を差し引いてもなお、残った「善意」がネット掲示板には確かにあった。「パンドラの箱」を開けてしまった後でもなお「希望」が残った、という逸話にも似た暖かい世界が確かにある。
《書評3》要は「モテない君」が、ある機会で「こんな性格、外見の子だったらいいな~って大概の人が思うような女性」を知って、「ネット」という匿名性のあるところから多くのアドバイスをもらい、恋を成就させるという「めでたしめでたし」のお話。

B-4  2000年代には「ケータイ小説」という新ジャンルが爆発的に流行した。ケータイ小説は携帯電話(まだスマートフォンが普及していない)を使った投稿小説だ。(このシステムを普及させたのは「魔法のiランド」という無料ホームページ作成サイトだ。)この中の人気作品が、紙の本として出版された。(177頁)
B-4-2  作者の名前は匿名(ハンドルネーム)で、本名・プロフィールも非公開。本文は横書き。内容はどれも似ていて、「女子高生の主人公が数々の不幸を体験した末に純愛を知る」という話が多い。加えて「実話です」、「実話を元に作成しています」と断り書きがつく。(177頁)
B-4-3  ケータイ小説は作者も読者も「十代の女性」だと言われる。ポエム風の文章、改行の多さ、内容的にも「小説と呼ぶのがためらわれるレベル」だ。Ex. 『恋空』。(斎藤美奈子氏評。)(178頁)
B-4-4 2007年年間ベストセラーランキング(トーハン調べ)によると文芸書部門のトップ3は、書籍化されたケータイ小説が独占した。[1位]美嘉『恋空』(2006)、[2位]メイ『赤い糸』(2007)、[3位]美嘉『君空』(2007)。このことは出版界を驚愕させた。(178頁)

B-4-4-2  美嘉『恋空』(2006)!(178頁)
《参考》あらすじ:美嘉は女子高生。偶然ヒロと知り合い合う。ヒロは美嘉との交際に、始め、本気でなかったが、次第に本気になっていく。そんな中、美嘉はヒロとの子供を妊娠する。しかし美嘉は流産する。2人は大きなショックを受けるが、また強い絆で結ばれていく。ところがある日、ヒロは美嘉に突然の別れを告げる。美嘉は、やがてヒロが末期のガンを患っており「美嘉に幸せになってほしい」という願いから別れを選んだと知る。美嘉は、大好きな今の彼と別れ、ヒロの元へ走る。ヒロは、適切な抗がん剤治療で3年生きながらえるが、ついに亡くなる。ヒロの死後、美嘉は彼の忘れ形見を身ごもっていると知り、今度こそ産み、彼の分まで育てることを決心する。
《書評1》二人目の赤ちゃんまでもが、天国に旅立ってしまった事が辛すぎました。また、読み切ってから実話だと言うことを知って驚かされました。 でも、友達や優さんに凄く助けられて、美嘉さんは幸せですね。 これからも、頑張ってください。
《書評2》遊びのことばかりで、将来のことなんてろくすっぽ考えていない、かなり幼稚な人たちのリアルだと思う。狭い価値観の中での話。罪とか命の重さとかは彼らが語ると薄っぺらく感じる。
《書評3》高校生の主人公が流産したり、自殺未遂したり、恋人がシンナーを吸ったりと壮絶な体験をする。その時その時では色々と感情を表すものの、基本的には「そんなこと」扱いで、野生動物的たくましさ(?)がある。「作中には飲酒喫煙シーンがあるけど、未成年はそういうことしちゃだめだよ」という注意書きがあり、本書の読者層を意識したものであると、面白く思った。

B-4-4-3  メイ『赤い糸』(2007)!(178頁)
《書評1》「愛してる」とかって言葉を軽々しく使って欲しくない。「本当に相手のためを考えての言動」がまるっきりない。こんなのが今の若者のリアルですか、感動ですか、その事実がショックです。「主人公のあまりの移り気」に怒りを通り越し、呆れます。
《書評2》未成年の飲酒喫煙、薬物、軽々しい性行為・・・・。登場人物の非常識さに、今時の女子中高校生は何とも思わないのでしょうか?
《書評3》「たかチャン」と付き合ったメイ。 最初は幸せだったものの次第に「たかチャン」の束縛は強くなり、メイを苦しめる。こんな器の小さい「たかチャン」は男じゃない!早くこんな最低な男、いやおサルさんとは早く別れろ、メイ! 幸せな時期に彼にちなんで、中学生なのにタトゥーを入れたメイ。(そのタトゥーどうするの?一度入れたタトゥーは一生消えないとわかってるの? )
《書評4》上下巻と読み進めてきたが、よく意味がわからない。この本は何を伝えたかったんだろう。「赤い糸」?ただのヒステリックな人たちの集まりというかなんというか。面白いと思えなかった。

B-4-4-4 美嘉『君空』(2007)!(178頁)
《書評1》『恋空』のアナザーストーリー。「恋空」をヒロの視点で描いた作品。ただし、あとがきで美嘉さんは「『恋空』のサイドストーリー」としてでなく、「桜井弘樹という一人の人間が歩んできた、世界にたった一つの人生」として読んでほしいと書いている。
《書評2》自分は自殺しようと考えました。けど、これを読んで生きようと思いました。 美嘉さんこれを書いてくれて本当にありがとうございました。
《書評3》辛口コメントも多々あるようですが、号泣しながら読みました。

B-5  『100人村』(2011)、中野独人(ヒトリ)『電車男』(2004)、「ケータイ小説」には大きな共通点がある。①インターネットを介してできた本である。②物語として消費された。③作者がはっきりしない。(177-178頁)
B-5-2  近現代小説は「作者」という特権的な個人によって支えられてきた。ネットメディアは、そんな基盤を揺るがした。
B-5-2-2 ロラン・バルトはかつて、作品(テキスト)を作者の背景抜きに純粋に読むため、「作者の死」という概念を唱えたが、21世紀に入り今や「作者」は本当に消滅した。(斎藤美奈子氏評。)(177-178頁)
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