宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『平等ゲーム』桂望美(ノゾミ)(1965生)、幻冬舎文庫、2008年

2015-03-15 11:45:24 | Weblog
第1章 平等なユートピア社会「鷹の島」
A 僕=芦田耕太郎(33歳)。僕は、「鷹の島」が故郷。普及班勧誘係。
A-2 本土は格差社会。一部は権力と金を持つ者。その他大多数は時給850円で、アパート暮らし。
A-3 「鷹の島」:人口1500-1600人。10km2。100年前に創設のユートピア。3組の夫婦が島を買う。①ルールは投票で決める。②信仰は自由。カルト教団ではない。③仕事は任期4年、各グループ、2年ごとに半数改選。Ex. 勧誘係、議員、農業班など。④IDカードにより電子マネー化。⑤61歳以上は働くかどうかは希望制。
A-4 「鷹の島」は特権階級がいる社会主義でも、無用な競争・格差社会の資本主義でもない理想の仕組み。

B 森敬之(40歳):3代続くワーキングプアで、今は、日雇いの派遣。
B-2 森は独身で貧乏なのに、「鷹の島」を疑う。カルト教団と思っている。
B-3 森、結局、「鷹の島」に移住し、とても幸せに暮らしている。格差も特権階級もなく、素晴らしい。
B-4 森:「サボる人がいないのが素晴らしい。」自分たちが島を支えているという、意識が強い。

C 田中佳之阪大社会学教授が、「鷹の島」研究。
C-2 平等を約束された社会構造のもとで暮らす人間の研究。

D 「鷹の島」(続):⑥島の財政は裕福:完全無農薬野菜、牛・豚・鶏卵生産、ゆず化粧品&健康ドリンクなどの販売で成功。⑦年に1度、小遣い400万円支給。⑧太陽光発電、風力発電で電気代ただ。余った電力は売電。⑨住居はただで与えられる。⑩食事は食堂。⑪商店街ではIDカード使用。通貨はない。いらなくなった商品は返す。
D-2 案件は全て投票で決定。投票機あり。

E 小林孝子(34歳):4ヵ月前に北海道から来た。北海道のTV局のアナウンサーだった。

F 石田恭士(33歳):小学校~大学まで、耕太郎(=僕)のクラスメイト。

G 耕太郎(=僕):無競争の「鷹の島」で育ったので、出世欲や焦燥感が理解できない。“口惜しい”という感情を知らない。ひがみ、挫折感などダーティーな感情を知らない。

H 僕の姉の芦田淑子(トシコ)(36歳)。すごい美人。姉は本土の男と結婚したが、2年後、離婚し「鷹の島」に帰島。

I 麻生かおり(30歳):歯科クリニックで働く。

J 横山礼子(30歳):8年ぶりに会う。耕太郎のもと彼女。島出身。僕(=耕太郎)を振った。本土の音大声楽科に進む。歌手の夢が破れた。「帰島申請したい」と言う。
J-2 「島には挫折もないが、野心もない」と礼子。「本土では、口惜しくなったり、切なくなったりする」と言う。

 第2章 「鷹の島」への移住者:競争に負けた人、権力闘争・競争が嫌な人、平等を願う人
A 麻生かおり(30歳)(続):歯科クリニックで働く。2歳年下の彼は給料安く、結婚できない。平等な「鷹の島」移住を希望し応募し、抽選に当たったが、躊躇。
A-2 「みんな平等じゃいや。輝きたい。」「私だけ特別になりたい」とかおり。
A-3 競争に負けた人が、「鷹の島」に興味を持つ。
A-4 「鷹の島」を最後の砦にするが、「まだ本土にいる」とのこと。
A-5 「抽選に当たって、パスすると、10年はリストから外される。」と僕(=耕太郎)。決定まで2週間の猶予あり。
A-6 結局、麻生かおりは「島へ行かない」と結論。

B 寺西賢(ケン)(38歳):5か月前に「鷹の島」に移住してきた。思っていた生活と違うと事務所=勧誘係に怒鳴り込んできた。
B-2 ツアコンが嫌で移住してきた。抽選で観光係りになった。「いやだ!」と言ったら、「決まりだ」と言われたとのこと。
《評者の注》:このような場合の異議申し立てシステムを「決まり」の中に組み込むことはできないのか?

C 横山礼子(30歳)(続):帰島申請却下。投票で42対1509.かつて礼子の唇を「たらこ」と言って殴られた男が多い。それを根に持っているせいかもしれない。
C-2 3年間は再帰島申請ができない。

D 佐藤翔くん(18歳):2年前に移住してきた。本土でヤンキーだったが、今は大学に行く。「親父のくじ運のおかげ」と感謝。

E 耕太郎の父:ごみ係&読書家。本土の競争にうんざり。仏門に入るが、そこでの権力争いや序列にうんざり。「鷹の島」に移住。
E-2 耕太郎の母:「鷹の島」のコールセンターの仕事。

F 畠山沙織(35歳):フラワー農場で働く。シングル。
G 山田夫妻:離婚。DV男の夫。「鷹の島」からの男の追放には投票で90%以上の票がいる。

 第3章 「鷹の島」育ちの耕太郎:競争がなく平等な世界に育ち人の妬み、失望、攻撃性、達成感、優越感などの多くの感情を知らない
A 麻生かおりが通う生け花教室の家元の義理の弟、入澤崇史。「君の絵は才能がある」と彼の妹の金井千鶴子先生(大学の美術教師)を耕太郎に紹介。

B 横山礼子(30歳)(続々):帰島申請が却下されたが、島に戻りたいので、耕太郎に「結婚してくれないか?」と提案。島民と結婚すれば、島に移住できる。「考えさせてくれないか」と僕(=耕太郎)。
B-2 後に明らかとなるが、結局、耕太郎は「利用されているようで、嫌だ」と礼子と結婚しない。

C 金井千鶴子先生(美術教師)(続):耕太郎の絵は、人とリンゴが同じ。表面をなぞったような人物画。
C-2 「鷹の島」育ちの耕太郎は「人を知らない」。競争がなく平等な世界に育ち、人の妬み、失望、攻撃性、達成感、優越感など多くの感情を知らない。(「鷹の島」研究者の田中教授談)

D 船乗り柴田龍三(50歳):妻と二人の子供。定年後、夫婦で暮らしたいと「鷹の島」に応募。10年も早く当選。普及班勧誘係の耕太郎が接触に出向く。
D-2 「一世一代のプロポーズをするお客様(男性)のために、肖像画を描いてほしい」と柴田より、耕太郎に依頼あり。
D-3 相手の女性は車椅子だった。しかし“強い女”。
D-4 描いた絵は女性の側に、気に入られる。男性のプロポーズ、成功。耕太郎は、少しづつ人の心の複雑な感情を理解できるようになっていった。

E 春口さりあ(10歳位)から、「パパとママが離婚予定。3人が笑っている絵を描いてほしい」と耕太郎に絵の依頼。
E-2 さりあは、耕太郎が描いた2枚の絵を気に入る。

F 恭二からのメール。「鷹の島」で不倫発覚。内野家の妻と山下家の夫。

G 柴田龍三(50歳)(続):柴田は船の仕事が生きがい。

 第4章 競争の重要性
A 22年ぶりの沢村拓(33歳):小学校を卒業後、島を出る。
A-2 「本土に移ってよかった」と拓。中・高・大、ラグビー部。
A-3 「島では順位をつけなかったが、勝負がつかないのでつまらない」。(「ゆとり教育」に相当する。)
A-4 競争に負けて、人を敬う心を持てる。
A-5 必要悪としての競争。
《評者の感想》:競争が経済を発展させる。創意工夫が生まれ、イノベーションが生じる。

A-6 競争によって「達成感あり」と拓。
A-7 不合格の子供が、挫折を知ることも必要。受け身のようなもの。人生は長い。
A-8 「本土でも命だけは平等。誰でも死ぬ。」と拓。

B 「問題をたくさん解けた子が、立派な大人になるわけでない」と僕(=耕太郎)。
 
第4章-2 「鷹の島」における不正
(1)投票の買収
C 横山礼子(30歳)は帰島申請が投票で却下されたが、「礼子ちゃんは投票前に配るお金が足りなかったせい」と耕太郎の姉が言う。
C-2 「私が、島に戻れたのは、父母が島民の投票前に、お金を配ったから!」と姉。

(2)嬰児の死体遺棄問題
D 嬰児の死体遺棄についての投票は、1384票対15票で、警察に届けないと決まる。
D-2 「赤ちゃんを捨てた親を捜し、処罰すべきだ!」と僕(=耕太郎)。

(3)無作為抽出のコンピューター操作の不正:賄賂をわたす
E  寺西賢(ケン)(38歳)(続):やっと来月で観光係が終わると、ほっとする。畠山沙織と結婚予定。
E-2 「次は、仕事係にいくらか包んで、やりたくない仕事は外してもらう!」と寺西。コンピューターで、仕事の担当者(4年間)を無作為に抽出するときに、人間が少し操作すればよい。
E-3 「芦田さん(=僕)は、融通が利かない!」と寺西が言う。

(4)業者からのキックバック問題
F 住宅班が業者からキックバックをもらっていると、意見箱に投書あり。
F-2 投書者は、新しく来た移住者だろうと、投票者探しの動き。チクリ魔探し。

 第5章 耕太郎の心の変化
A 「鷹の島」では、コンクール=競争がない。甲乙をつけない。「コンクールへのアレルギー反応」が耕太郎にはあった。
A-2 しかし絵のコンテストで、耕太郎の作品は落選。耕太郎の気持ちは複雑。
A-3 「その気持ちは、嫉妬よ!」と金井千鶴子先生が指摘。
A-4 「自分にスポットライトが当たってほしい!」と耕太郎(=僕)。

B 金井千鶴子先生(美術教師)(続々):「善良、いい人の絵はつまらない。悪意を描いて!」と千鶴子先生。
B-2 「嫉妬をエネルギーに変換せよ!」とのこと。競争社会の良い点。「ユートピアからお越しの耕太郎君!」

 第5章-2 「鷹の島」は理想郷でなかった(耕太郎):完璧な理想社会のための監視体制強化案
C 進藤麻希子(27歳):人形アニメーション制作会社勤務。独身。「鷹の島」移住の抽選に当たる。
C-2 「完璧なユートピアじゃなくても移住したい」と麻希子。9年間働いて、有休を2日もとっていないとのこと。

D しかし「鷹の島」は理想郷ではなかったと僕(=耕太郎)。
E 小川さんの奥さん:ホストクラブ狂いの生活。

F 千夏ちゃん(高校生):赤ちゃん遺棄問題。相手の男には家族がいる。
F-2 「警察に通報すべきだ」と僕。
F-3 千夏に、警察への自首をすすめるメールを送る。

G ルールの「監視班」が必要と僕。相談班に、提案のメールを送る。完璧な理想社会のための監視体制強化案。
G-2 例えば、業者からのキックバックなどの監視。さらに、違法な収入があるかどうかすべての人のすべての購入物(領収書)を届けさせる。

H 監視班新設提案は否決。
H-2 耕太郎に対する「追放」要請。耕太郎が「初代君主」になりたがっているとの噂。
H-3 「島民の理性を信じ、ユートピアを守る」と僕は、調査班の前で弁明。
H-4 意見箱に追放要請書:耕太郎は、違う社会形態を目指す「危険な」人物。
H-5 投票の際に、「カネで票を買うな」と耕太郎は父母に言う。

 第5章-3 「鷹の島」からの耕太郎の追放
I 投票で僕(=耕太郎)は、「鷹の島」からの追放が決まる。
I-2 「島は確実に腐っていく」と僕。

J 金井千鶴子先生(美術教師)(続々々):「卒業おめでとう」と千鶴子先生。「鷹の島」の理想に対して懐疑的。
J-2 人には得手・不得手がある。働き者も怠け者もいる。無理矢理、平等にしなくてよい。

第5章-4 ルールの監視の問題:「隙間が大事である」&不完全な人間には「偽理想社会」がちょうどいい
K 「悪意や煩悩ある人を、愛おしい存在として、描いて!」と千鶴子先生が言う。

L 矢嶋弘文:柴田龍三が乗る船の副船長。この後、矢嶋は陸上勤務になる。「記念のプレゼントにする絵を3枚、描いてほしい」と柴田が、耕太郎(=僕)に依頼。
L-2 矢嶋副船長は、「正義感」と「緩さ」が同居して、いい上司と、柴田。
L-3 「窮屈で息抜きができない」完璧な船長はダメ。今の船長は「見て見ぬふり」をしてくれて、うまく回っている。「隙間が大事である」と柴田。
L-4 融通の利く今の「鷹の島」の方が、「絶対のユートピア」よりいいと柴田。
L-5 矢嶋さんは愛しい存在。「格好良く、格好悪い。弱くて、強い。」と柴田が言う。

M 一等航海士、吉川:矢嶋副船長は、船乗りとして尊敬できる、シージャック犯を事前に見抜き、未然に船と乗客を守る。
M-2 「完璧な理想社会は、自分まで完璧さを求められるが、自分はそんなに強くない」と吉川。
M-3 「偽理想社会」の「鷹の島」を自分は選ぶとのこと。

N バーテンダーの岡田:「完璧な理想社会(※ルールが厳密に適用される社会)からは、全員が逃げ出す!」
N-2 「(※社会の)ルール」は大事。規則がないと大変なことになるから。しかし「社会」のために、生きているわけでない。大事さの順は、次の通り。
①自分が大事。
②自分の好きな人が大事。
③自分の家族が大事。
④自分、自分の好きな人、自分の家族が幸せに暮らせる社会も大事。
⑤もちろん「(※社会の)ルール」も大事。
N-3 島民が幸せになることが、大前提。そのためのルール。

 第5章-5 「新しい理想社会」:不公平でなく、個性が尊重され、みんなが幸せを感じる社会&ルールはみんなが幸せになることが大前提、そのためのルール
O 「監視しあうのは怖い!」と柴田。
O-2 「そもそも、そのルールは完璧なのか?」と柴田。
O-3 「不公平でなく、個性が尊重され、みんなが幸せを感じる社会。そして時に、達成感を得られる社会。」と柴田。
O-4 「人間臭くてよい!」と柴田。

P 「平等」と「個性を大事にすること」との両立。それが「理想社会」と、僕(=耕太郎)は思う。
P-2 人の弱さや狡さを、ちょっとは許してくれる社会。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする