《評者の感想》
1 ロリータが、16歳だったら、ハンバート・ハンバートとロリータの結婚は可能だった。ロリータが12歳だったので、彼は、小児性愛(ペドフィリア)の変質者とされた。
2 ハンバート・ハンバートのロリータへの愛は、ロマンチックである。ロリータが大人であれば純愛だったのにと、残念に思う。
3 ハンバート・ハンバートは、美に憧れ、美に恋する。ロリータは、永遠の美そのものである。
4 彼は自分の小児性愛(ペドフィリア)を、もてあます。自分の罪深さを知っている。
5 彼のロリータへの愛は片思い。ロリータ(ロー)が夢中になったのは、中年の劇作家クィルティ(キュー)だった。
序
『ロリータ、あるいは妻に先立たれた白人男性の告白録』。この原稿は、1952年11月16日に死亡したハンバート・ハンバートが書いた。
この錯乱した日記作者。
H. Hはおぞましく下劣で道徳的に腐敗。精神医学的症例。かつ倫理的衝撃。
しかし、ロリータへの共感を呼び起こす。
第1部
A アナベル
1、2、3、4
私が、ある夏に最初の少女を愛した。アナベル。
私は1910年にパリで生まれた。父は贅沢なホテルの経営者。母は私が3歳のとき死ぬ。父には多くの美しい女友達がいた。ホテル・ミラーなの私の幸福な少年時代。
1923年、私はリセに入る。アナベルと出会う。蜂蜜色の肌の、数ヶ月年下のかわいい子。しかし上流階級の二人は、事に及ぶチャンスがない。
あの輝かしい遠い夏の海での密会も、アナベルの家の庭での2度目の密会でも、事は成就しなかった。
あの夏の挫折感。ロマンスを体験する永遠の障害。ロリータはアナベルから始まった。
アナベルは発疹チフスで、14歳で亡くなった。
アナベルの記憶は、その後、24年間、私、38歳まで、私の記憶から離れなかった。
B ヴァレリア
5
9-14歳の少女のうち、ニンフ(悪魔)の本性の乙女が「ニンフェット」である。ニンフェットはつかみどころがなく、変幻自在で、魂を粉砕する邪悪な魅力を持つ。
大人の私の二重生活。普通の女性との性交。ニンフェットとの100倍も豪華絢爛な淫夢。
私は、外見は物静かな学者。ハンバート・ハンバートは善良になろうとする。
6、7、8
身の安全を考えて、私は、ポーランド人医師の娘、ヴァレリアと結婚する。1935-1939年(25-29歳)、私は、肥満・短足・巨乳で脳なしの田舎女を妻とする。
私は、前の食料品屋の小さな娘を思って、気も狂わんばかりだったが、欲望と絶望の極みで、ヴァレリアの肉体をはけ口にした。
しかしヴァレリアには、男がいた。タクシー運転手の白軍元大佐。私は、ヴァレリアと別れた。(1939年、29歳)
なお1945年ごろ、ヴァレリアは、出産中に亡くなる。
C アメリカ
9
私は1940年、アメリカへ渡る。30歳。伯父の遺産の一環で、香水会社の広告係となる。同時に、フランス比較文学史の著作をする。
私は、セントラルパークのニンフェットを眺める。抑え難い欲望と不眠症。神経衰弱で療養所へ入所。
その後、北極圏への調査旅行に同行し、元気になる。しかし文明社会にもどりニンフェットに出会うと、再び異常をきたし高額のサナトリウムへ入所。健康を回復する。
D ヘイズ夫人&その娘ロリータ(ドロレス・ヘイズ)
10、11
サナトリウムから退院後、1947年6月、たまたま泊まったヘイズ夫人の家で、私は、ドロレス・ヘイズ(ロリータ、ロー)と出会う。ローは7年生で12歳。ニンフェットのドロレス。
ニンフェットの二重性。夢見るような子供らしさと、下品さ、邪悪さ。
ヘイズ夫人が「ロリータの勉強を見てほしい」と言う。私は家庭教師兼下宿人となる。
12、13、14、15
私は視覚で、ニンフェットを犯す。仮面をつけた我が情欲。ロリータの無邪気な脚。私はローに気づかれず射精する。私は未成年者に危害を加えない。ロリータの純潔を犯さない幼児愛。
もうあの子なしには、生きていけない。私はロリータに、永遠の恋をした。
2年もたてば、15歳になり、ローは「ニンフェット」でなくなる。
E ヘイズ夫人(シャーロット・ヘイズ)との結婚
16 17、18
「あなたを愛している」とヘイズ夫人からの手紙。「ローの父になってほしい」と言う。
私の夢魔。シャーロット・ヘイズとその娘(ロー、ロリータ、ローラ)を思いのままにする。
小さなラムズデールの町。移り住んで2年目のヘイズ未亡人と、1ヶ月の男やもめハンバート・ハンバート博士の結婚。
「キリスト教の神を信じていないなら自殺する」とヘイズ夫人。
ローは、1935年1月1日生まれ。私は1910年生まれ。
私はシャーロットに、愛技の数々を披露する。私は母親シャーロットがローと似ているので気に入る。母親はロリータに生物学的に一番近い。ヘイズ夫人を愛撫する。
哀れな女、シャーロット。(※評者:何という寒々しさ!)
私によって愛されたと思ったヘイズ夫人は、家の美化につとめる。
一緒に住んだ50日間。
19、20
ロー(ロリータ)が、夏のキャンプに行く。1947年夏。
ヘイズ夫人は嫉妬深い。私の過去の愛人たちを踏みつけて喜ぶ。例えば、ヴァレリアを「デブで間抜け」と呼ぶ。
ヘイズ夫人(シャーロット)は、娘ロリータを嫌う。「ローが夏のキャンプを終えたら、全寮制の学校にいれ、ビアズレー大学に行かせる」とシャーロット。
シャーロットは、私に熱を上げ崇拝している。
私は、ローを私から引き離させないため、ハンバート夫人(シャーロット)を抹殺しようとした。湖で足首を持って溺れさせようとしたが、邪魔が入りできなかった。
21、22
ローがキャンプからもどってきたら、シャーロットとローを眠らせ、その間にローを愛撫しようと、私は睡眠薬をさがし求める。
シャーロットが、私のローへの愛を書いた日記帳を見つけ、読む。
「あなたって化け物」とシャーロット。
F ヘイズ夫人(シャーロット・ヘイズ)の事故死
23、24、25
シャーロットが交通事故で死ぬ。
「あの子(ロー)の面倒は、一生見る」と私(ハンバート・ハンバート)。
ハンバートは、ロー(ロリータ)の義父でなく、実父であると騙す。
私は、亡くなった妻の娘ローの、法定後見人となる正式な手続きを取る。
12歳7カ月のロリータのために、私は服を買う。
睡眠薬でロリータを眠らせ、愛撫するという私の妄想。
G 夏のキャンプにいるロー(ロリータ)を、私が迎えに行く
26、27
1947年8月半ば。(ロリータは1935年1/1生まれで、12歳7カ月。)夏のキャンプに参加しているドリーを、私が迎えに行く。
母、シャーロットの死は、ローに言わない。「母さんは大手術を受けるかもしれない」と私はローに言う。
私は、ローとキスをする。女の子の、ロマンスの幻影の遊び。「あたしたちは恋人」とロー。
首筋にキスをすると、「スケベ」とローが言う。
ホテル〈魅惑の狩人〉のダブルベッド。「一緒の部屋で寝るの?」とロー。
私は、ローに睡眠薬を飲ませる。
G-2 ローは「そのものずばりの行為」を私にやってくれた
28、29
睡眠薬は効かなかった。
朝6時、ロリータが、私を誘惑した。
ローは「口へのキス」と「そのものずばりの愛の行為」以外は、「異常」と考えた。
「教えたげる」とロリータが、若者は知っているが大人は知らないものと思って、「そのものずばりの行為」を私にやってくれた。
G-3 ハンバート(私)の夢の実現:「ニンフェット愛」の地獄と天国
30、31、32、
ニンフェット愛の地獄と天国。獣的なものと美的なもの。
私は12歳のドロレス・ヘイズ(ロー、ロリータ)の最初の愛人でさえなかった。
キャンプで、2歳年上のバーバラが、野卑なチャーリーと、何度も性交する。
ローも誘われて、どんなものか試しにやってみた。官能とは無縁な性交。
「ロリータの肉体」は「女児に化けている不死の悪魔の肉体」。
ハンバート・ハンバート(私)は、ロリータとデタラメに目的地を描き、車で回り、モーテルで泊まる。
「このケダモノ」とローが私に言う。
ハンバートは朝、3度、ローに性交のお相手をさせた。
生涯にわたるハンバート(私)の夢の実現。
彼女がご機嫌斜めなので、ハンバートはいてもたってもいられない。「警察を呼んで、この人にレイプされたと言ってやる」とロー。「いやらしい、スケベおやじ」とロー。「痛い」。「あたしの身体の中をあなたが引き裂いたんだ」とロー。
「お前のお母さんは亡くなった」と私がローに言う。
私はたくさんのものを、ローに買ってやる。
私たちは仲直りした。彼女には、全く他のどこにも行く当てがなかったから。
第2部
H 全米をまたがる大旅行(1947年8月-1948年8月)
1
機能的モーテルに泊まる。
ロリータは、しばしば、全く頭にくる小娘になる。グダグダする。
私は、思春期の愛妾を服従させ、ご機嫌をとる。
私たちは、肉体関係を秘密にしておくために、彼女の絶対的協力が必要。子供に淫らな行為をする性的異常者は最高懲役10年。
「もし私たち二人のことがばれたら、お前は施設送りになる」と私はローを脅す。秘密と罪悪感の共有。
1年にわたる旅行。目標地を作らないと、ローは機嫌が悪くなる。ローを支える骨格がたるみ崩れてしまう。
48州を横断する。アメリカ輸入の油布の絵に似た風景の懐かしさ。
あの狂った1年。東海岸から太平洋、また東海岸へ。
2
旅の唯一の存在理由:キスから次のキスまで、連れのご機嫌を損なわないでおくこと。
私(ハンバート)とローは、大げんかも小げんかもした。
「いったい、いつまでキャビンで暮らし、汚らわしいことをし、普通の人々みたいな生活をしないでいるの」とローが尋ねる。
絶えざる愛の営みの、ローのけだるい輝きが、男を発情させる。ロリータも色目を送る。
朝のお勤め&午後の恍惚。
他のニンフェットたちと、ロリータを比較する名花選の楽しみ。
我がロリータの内側と外側をひっくり返し、子宮、心臓、肝臓、腎臓にキスしたかった。
3
私たちの車を停車させた警官に対し、ローは微笑んだ。私よりローが法律を恐れていた。
ロリータが「ニンフェット期」を終わらせたら、彼女の産んだロリータ2世、さらにロリータ3世を愛するという妄想。
ローの13歳の誕生祝い:1948年1/1.
平均的な女子学生の肉体は、ニンフェットの棺である。
全米をまたがる大旅行で、1年間の散財は1万ドル。
I 大学街のセイヤー街に住み、ローはビアズレー女学校に通う
4、5、6
1948年8月(ロー、13歳)、東部、セイヤー街にもどる。大学街。家を借りる。ビアズレー女学校にローを通わせる。昔ながらのお嬢様学校。
友人ガストン・ゴダン。独身男。教師&学者。デブの同性愛者。
7、8
1949年、ロリータは14歳になる。
ロリータの道徳心の低下。愛撫を要求する私から、金銭=小遣いをロリータが要求。
私は、彼女が逃げ出す金を貯めることを恐れた。
ローは、若い男子学生を圧倒的に退屈と思っていた。私は安心した。
ローの仕草と若さが美しい。「我が子供奴隷」のロー。
私たちは、ハンバート博士と娘を演じる。
9、10、11、12
ローの友達は、ニンフェットとしては、期待はずれ。
ビアズレー女学校の校長プラット女史が、「ローは敵対的で不満そうだ」と言う。
男の子を招くパーティーを、家で開くが失敗。「むかつく連中」とローの男の子評。l
1949年1月&2月。
13、14
1949年春(ロー、14歳)、セイヤー街。
ロリータ、演劇に狂う。ドロレス・ヘイズは農婦の娘の役。
1949年5月。「あんたが、あたしをレイプした《魅惑の狩人》というホテルと同名の劇!」とロリータが言う。
「ロリータは、変わってしまった」と私は吐き気。2年前に初めて会った時と違う。
「きっとお前が、母を殺したんだ」とロー。「誘ってくるどんな男とも、寝てやる」とロー。「学校なんか辞める」、 「劇なんか、くそ喰らえ」とロリータ。
「ロマンチックな気分」とロー。
J 再び旅に出る、ビアズレー校を休学:1949年5月(ロー、14歳)
16、17、18
ハリウッドの「実存主義」の映画の主任顧問に、私がなるからと、ビアズレー校を、ローは休学。
ロリータが無断で外出。男(青年)と不貞をしたのではないかと、ローを裸にし臭いをかぐ。
ハロルド・ヘイズから譲り受けた拳銃を持って、出発する。
私は、出会う男性ごとに嫉妬。赤いコンヴァーティブルが私たちを追跡してるように見える。「警官じゃないか」と私。まいてしまう。
19
ヴァイス郵便局で28分間、ローがいなくなる。ローの二枚舌。もどってきたローを平手打ちする。希望のない官能的和解。
色々な車に乗り換えて、自分たちを追跡する者がいると、私が思う。
タイヤがパンクしたとき、ローが車を運転して逃げそうだった。後に、追跡(?)の車が停まる。そして走り去る。
「気が狂いそうだった」、「人を殺しそうな気分」と私。
20、21
この愛に溺れた愚か者の私。
ローは演劇で、欺瞞を覚えた。ローの演劇練習は美しかった。
テニスウェアを着たローは、ニンフェットそのもの。映画に撮っておけばよかったと私彼女の魔法。テニスでは無邪気・率直・親切。いつもは残酷で狡猾。
魂や本質的な品性の汚れなさ。背信がひそんでいるのではないかという悪夢。
ローへの絶望的な恋。彼女を手渡すくらいなら、すべてを破壊したほうがましだ。
ニセの長距離電話。その間、目を放した隙に、ローとペアを組んでテニスをする男がいた。
K ロリータ(14歳)が連れ去られる:1949年7月4日
22
探偵たちは、私の妄想の産物。
ロリータがニンフェットでなく、私を苦しめるのをやめる時代が、今まさに始まろうとしている。
ローが発熱、40.4度C。入院。この2年間で初めて、ロリータと離れ離れとなる。8回、ローを見舞いに行く。
私の絶望的な愛。
最後の見舞いの翌朝、私は少し錯乱。病院に電話すると、「おじのギュスターブさんが黒のキャデラックでロリータさんを退院させ、現金で全額を払い、帰った」とのこと。
23、24、25
私は、1949年7/5から、ビアズレーにもどった11/18まで、ロリータを追跡する。342軒のモーテル、ホテルを調べる。
ローを連れて行ったのは、教養人を思わせる男。
消え去ったドロレス(ロリータ)。その後の空虚な3年間。(Cf. 1952年9月下旬ロリータからの手紙、9/25ハンバート逮捕、11/16ハンバート獄死。)
私は、たまっていたローの10代向け雑誌を廃棄。
1949年冬の終わりから1950年春(Cf. ロリータ15歳)、私は療養所に入所。
ローの愛は変わったが、我が忌まわしい性格は変わらない。「お尋ね者ドロレス・ヘイズ」、どこに隠れているんだ?
孤独が私を腐食させる。
リタの登場。
L
リタと各地を回る:1950年夏~1952年夏
26
1950年、リタ(30歳)は、ロリータの年齢(15歳)の2倍、私の年齢(40歳)の4分の3。私は、3人目の夫と離婚したリタを、連れ合いとして選ぶ。
1950年夏~1952年夏、2年間、リタと私は、一緒に、カリフォルニアなど各地を、車で回る。
リタは一番、慰めになり、理解のある女性。
リタの少女っぽい背中と肌。私は子供に、余計な手出しをせずにすんだ。
1951年9月~1952年6月、私はキャントリップ大学に招聘される。
「あなたもきっと、すぐに私を見捨てるわ」とリタが泣く。
M ドリー・ヘイズ(ロー)からの手紙&別れ:1952年9月下旬(ロー、17歳)
27
「親愛なパパへ。私は結婚しました。」「夫、ディック。」
「小切手を送ってください。300か400ドル。」「私のことをパパは怒っているかもしれない。」「ディックには知られたくない。」
28、29
ロリータが結婚した相手がリチャード・F・スキラー。
ローは、コルモント局留と言った。NY市から800マイル。
ローとディックの家を見つける。私にはもちろん、彼女は殺せない。私はローを、永遠に愛している。
ロリータ(ドリー・スキラー)が「これまで、あたしが夢中になったことがあるのは、あの人だけ」と言う。
「5年前(1947年、ロー12歳)の、あのキャンプのあの人!」「天才!」「すごい人!」キュー。脚本家。彼が、ビアズレー校のあの演劇『魅惑の狩人』の脚本を書いた。
私たち(私とロリータ)の哀れなロマンス!
「過去は過去じゃないの!いいお父さんだったと思うわ」と、ローが私に言う。
「ディック、これ、あたしのパパ」とローが、私を紹介する。
ディックは鉱山技師でこれからローとともに、アラスカに行く。
29-2
1949年7月4日(ロー、14歳)、キューが、ローを病院から連れ去る。
「乱交の撮影に加わらない」とローが断ると、キューが、ローをたたき出す。
1949年冬、ローが、皿洗いの仕事をしているとき、ディックと出会う。
今、1952年9月、ローは17歳で、絶望的にやつれ、お腹には赤ちゃん。ニンフェットのかすかなこだま。
私は4000ドルをロリータに渡す。
「一緒に来てくれ」と私はドリー(ロリータ)に頼む。「私と一緒に暮らしてくれないか」と私。
「だめよ。だめ。」とロリータ。
「さようならあ!」と、我が恋人は歌うように言った。
N ハンバートによる、ラムズデールでのキューの殺害:1952年9月下旬
30、31、32
私は、ラムズデールに行く。ホテル《魅惑の狩人》からさほど離れていない宿で、私はローを思い、涙を流す。
私がつけた汚らわしい情欲の傷を、ローは忘れないだろう。彼女は凡庸な図々しさと退屈さで、その傷つきやすさを武装した。
私は下劣だが、お前を愛した。実に魅惑的なロリータ・スマイル。
ロリータには、家庭がない。その寂しさ。「あたしの殺されたママは、どこに埋められてんの?」とロー。若者向けのクズ本を、ローは読んでいた。ロリータにとっては、惨めであっても、家庭の方がましだった。
33
ラムズデール再訪。共同墓地で「こんにちは。シャーロット」と私。
あの夏のキャンプ(1947年、ロー、12歳)の野卑なチャーリーは、朝鮮戦争で戦死した。
34、35
クィルティ(キュー)は夜驚荘の主人で、取り巻き連中や娼婦とバカ騒ぎ。
彼は、もうろうとしていた。
「俺は、彼女(ロー)を、獣じみた変態から救ってやった」とクィルティ。「誘拐なんかしていない。」「もっと幸せな家庭に引き取ってほしいと、ローが頼んだ。」
「あの乱交は、確かにバカな真似だった」とクィルティ。「ドリーと、いい思いはしていない。俺はほとんどインポだ。」
「お前は、彼女を盗んだ」と私(ハンバート・ハンバート)。クレア(クィルティ、キュー)の脇腹に弾。背中にも3、4発撃つ。毛布もろとも彼を撃つ。彼の顔の4分の1が吹き飛ぶ。
「キューを殺してきた」と私。
36
ハンバート・ハンバートの希望:
①ドリー・スキラー(ロリータ、1935年生)が死ぬ(80歳なら2015年)まで、この回想録は出版しない。
②お前(ロー)のディックには、真心を尽くしてやってくれ。
③お前(ロー)が、赤ん坊をかわいがることを祈っている。
36-2
ハンバート・ハンバートは、1952年9/25、逮捕される。1952年11/16、獄死(42歳)。
1 ロリータが、16歳だったら、ハンバート・ハンバートとロリータの結婚は可能だった。ロリータが12歳だったので、彼は、小児性愛(ペドフィリア)の変質者とされた。
2 ハンバート・ハンバートのロリータへの愛は、ロマンチックである。ロリータが大人であれば純愛だったのにと、残念に思う。
3 ハンバート・ハンバートは、美に憧れ、美に恋する。ロリータは、永遠の美そのものである。
4 彼は自分の小児性愛(ペドフィリア)を、もてあます。自分の罪深さを知っている。
5 彼のロリータへの愛は片思い。ロリータ(ロー)が夢中になったのは、中年の劇作家クィルティ(キュー)だった。
序
『ロリータ、あるいは妻に先立たれた白人男性の告白録』。この原稿は、1952年11月16日に死亡したハンバート・ハンバートが書いた。
この錯乱した日記作者。
H. Hはおぞましく下劣で道徳的に腐敗。精神医学的症例。かつ倫理的衝撃。
しかし、ロリータへの共感を呼び起こす。
第1部
A アナベル
1、2、3、4
私が、ある夏に最初の少女を愛した。アナベル。
私は1910年にパリで生まれた。父は贅沢なホテルの経営者。母は私が3歳のとき死ぬ。父には多くの美しい女友達がいた。ホテル・ミラーなの私の幸福な少年時代。
1923年、私はリセに入る。アナベルと出会う。蜂蜜色の肌の、数ヶ月年下のかわいい子。しかし上流階級の二人は、事に及ぶチャンスがない。
あの輝かしい遠い夏の海での密会も、アナベルの家の庭での2度目の密会でも、事は成就しなかった。
あの夏の挫折感。ロマンスを体験する永遠の障害。ロリータはアナベルから始まった。
アナベルは発疹チフスで、14歳で亡くなった。
アナベルの記憶は、その後、24年間、私、38歳まで、私の記憶から離れなかった。
B ヴァレリア
5
9-14歳の少女のうち、ニンフ(悪魔)の本性の乙女が「ニンフェット」である。ニンフェットはつかみどころがなく、変幻自在で、魂を粉砕する邪悪な魅力を持つ。
大人の私の二重生活。普通の女性との性交。ニンフェットとの100倍も豪華絢爛な淫夢。
私は、外見は物静かな学者。ハンバート・ハンバートは善良になろうとする。
6、7、8
身の安全を考えて、私は、ポーランド人医師の娘、ヴァレリアと結婚する。1935-1939年(25-29歳)、私は、肥満・短足・巨乳で脳なしの田舎女を妻とする。
私は、前の食料品屋の小さな娘を思って、気も狂わんばかりだったが、欲望と絶望の極みで、ヴァレリアの肉体をはけ口にした。
しかしヴァレリアには、男がいた。タクシー運転手の白軍元大佐。私は、ヴァレリアと別れた。(1939年、29歳)
なお1945年ごろ、ヴァレリアは、出産中に亡くなる。
C アメリカ
9
私は1940年、アメリカへ渡る。30歳。伯父の遺産の一環で、香水会社の広告係となる。同時に、フランス比較文学史の著作をする。
私は、セントラルパークのニンフェットを眺める。抑え難い欲望と不眠症。神経衰弱で療養所へ入所。
その後、北極圏への調査旅行に同行し、元気になる。しかし文明社会にもどりニンフェットに出会うと、再び異常をきたし高額のサナトリウムへ入所。健康を回復する。
D ヘイズ夫人&その娘ロリータ(ドロレス・ヘイズ)
10、11
サナトリウムから退院後、1947年6月、たまたま泊まったヘイズ夫人の家で、私は、ドロレス・ヘイズ(ロリータ、ロー)と出会う。ローは7年生で12歳。ニンフェットのドロレス。
ニンフェットの二重性。夢見るような子供らしさと、下品さ、邪悪さ。
ヘイズ夫人が「ロリータの勉強を見てほしい」と言う。私は家庭教師兼下宿人となる。
12、13、14、15
私は視覚で、ニンフェットを犯す。仮面をつけた我が情欲。ロリータの無邪気な脚。私はローに気づかれず射精する。私は未成年者に危害を加えない。ロリータの純潔を犯さない幼児愛。
もうあの子なしには、生きていけない。私はロリータに、永遠の恋をした。
2年もたてば、15歳になり、ローは「ニンフェット」でなくなる。
E ヘイズ夫人(シャーロット・ヘイズ)との結婚
16 17、18
「あなたを愛している」とヘイズ夫人からの手紙。「ローの父になってほしい」と言う。
私の夢魔。シャーロット・ヘイズとその娘(ロー、ロリータ、ローラ)を思いのままにする。
小さなラムズデールの町。移り住んで2年目のヘイズ未亡人と、1ヶ月の男やもめハンバート・ハンバート博士の結婚。
「キリスト教の神を信じていないなら自殺する」とヘイズ夫人。
ローは、1935年1月1日生まれ。私は1910年生まれ。
私はシャーロットに、愛技の数々を披露する。私は母親シャーロットがローと似ているので気に入る。母親はロリータに生物学的に一番近い。ヘイズ夫人を愛撫する。
哀れな女、シャーロット。(※評者:何という寒々しさ!)
私によって愛されたと思ったヘイズ夫人は、家の美化につとめる。
一緒に住んだ50日間。
19、20
ロー(ロリータ)が、夏のキャンプに行く。1947年夏。
ヘイズ夫人は嫉妬深い。私の過去の愛人たちを踏みつけて喜ぶ。例えば、ヴァレリアを「デブで間抜け」と呼ぶ。
ヘイズ夫人(シャーロット)は、娘ロリータを嫌う。「ローが夏のキャンプを終えたら、全寮制の学校にいれ、ビアズレー大学に行かせる」とシャーロット。
シャーロットは、私に熱を上げ崇拝している。
私は、ローを私から引き離させないため、ハンバート夫人(シャーロット)を抹殺しようとした。湖で足首を持って溺れさせようとしたが、邪魔が入りできなかった。
21、22
ローがキャンプからもどってきたら、シャーロットとローを眠らせ、その間にローを愛撫しようと、私は睡眠薬をさがし求める。
シャーロットが、私のローへの愛を書いた日記帳を見つけ、読む。
「あなたって化け物」とシャーロット。
F ヘイズ夫人(シャーロット・ヘイズ)の事故死
23、24、25
シャーロットが交通事故で死ぬ。
「あの子(ロー)の面倒は、一生見る」と私(ハンバート・ハンバート)。
ハンバートは、ロー(ロリータ)の義父でなく、実父であると騙す。
私は、亡くなった妻の娘ローの、法定後見人となる正式な手続きを取る。
12歳7カ月のロリータのために、私は服を買う。
睡眠薬でロリータを眠らせ、愛撫するという私の妄想。
G 夏のキャンプにいるロー(ロリータ)を、私が迎えに行く
26、27
1947年8月半ば。(ロリータは1935年1/1生まれで、12歳7カ月。)夏のキャンプに参加しているドリーを、私が迎えに行く。
母、シャーロットの死は、ローに言わない。「母さんは大手術を受けるかもしれない」と私はローに言う。
私は、ローとキスをする。女の子の、ロマンスの幻影の遊び。「あたしたちは恋人」とロー。
首筋にキスをすると、「スケベ」とローが言う。
ホテル〈魅惑の狩人〉のダブルベッド。「一緒の部屋で寝るの?」とロー。
私は、ローに睡眠薬を飲ませる。
G-2 ローは「そのものずばりの行為」を私にやってくれた
28、29
睡眠薬は効かなかった。
朝6時、ロリータが、私を誘惑した。
ローは「口へのキス」と「そのものずばりの愛の行為」以外は、「異常」と考えた。
「教えたげる」とロリータが、若者は知っているが大人は知らないものと思って、「そのものずばりの行為」を私にやってくれた。
G-3 ハンバート(私)の夢の実現:「ニンフェット愛」の地獄と天国
30、31、32、
ニンフェット愛の地獄と天国。獣的なものと美的なもの。
私は12歳のドロレス・ヘイズ(ロー、ロリータ)の最初の愛人でさえなかった。
キャンプで、2歳年上のバーバラが、野卑なチャーリーと、何度も性交する。
ローも誘われて、どんなものか試しにやってみた。官能とは無縁な性交。
「ロリータの肉体」は「女児に化けている不死の悪魔の肉体」。
ハンバート・ハンバート(私)は、ロリータとデタラメに目的地を描き、車で回り、モーテルで泊まる。
「このケダモノ」とローが私に言う。
ハンバートは朝、3度、ローに性交のお相手をさせた。
生涯にわたるハンバート(私)の夢の実現。
彼女がご機嫌斜めなので、ハンバートはいてもたってもいられない。「警察を呼んで、この人にレイプされたと言ってやる」とロー。「いやらしい、スケベおやじ」とロー。「痛い」。「あたしの身体の中をあなたが引き裂いたんだ」とロー。
「お前のお母さんは亡くなった」と私がローに言う。
私はたくさんのものを、ローに買ってやる。
私たちは仲直りした。彼女には、全く他のどこにも行く当てがなかったから。
第2部
H 全米をまたがる大旅行(1947年8月-1948年8月)
1
機能的モーテルに泊まる。
ロリータは、しばしば、全く頭にくる小娘になる。グダグダする。
私は、思春期の愛妾を服従させ、ご機嫌をとる。
私たちは、肉体関係を秘密にしておくために、彼女の絶対的協力が必要。子供に淫らな行為をする性的異常者は最高懲役10年。
「もし私たち二人のことがばれたら、お前は施設送りになる」と私はローを脅す。秘密と罪悪感の共有。
1年にわたる旅行。目標地を作らないと、ローは機嫌が悪くなる。ローを支える骨格がたるみ崩れてしまう。
48州を横断する。アメリカ輸入の油布の絵に似た風景の懐かしさ。
あの狂った1年。東海岸から太平洋、また東海岸へ。
2
旅の唯一の存在理由:キスから次のキスまで、連れのご機嫌を損なわないでおくこと。
私(ハンバート)とローは、大げんかも小げんかもした。
「いったい、いつまでキャビンで暮らし、汚らわしいことをし、普通の人々みたいな生活をしないでいるの」とローが尋ねる。
絶えざる愛の営みの、ローのけだるい輝きが、男を発情させる。ロリータも色目を送る。
朝のお勤め&午後の恍惚。
他のニンフェットたちと、ロリータを比較する名花選の楽しみ。
我がロリータの内側と外側をひっくり返し、子宮、心臓、肝臓、腎臓にキスしたかった。
3
私たちの車を停車させた警官に対し、ローは微笑んだ。私よりローが法律を恐れていた。
ロリータが「ニンフェット期」を終わらせたら、彼女の産んだロリータ2世、さらにロリータ3世を愛するという妄想。
ローの13歳の誕生祝い:1948年1/1.
平均的な女子学生の肉体は、ニンフェットの棺である。
全米をまたがる大旅行で、1年間の散財は1万ドル。
I 大学街のセイヤー街に住み、ローはビアズレー女学校に通う
4、5、6
1948年8月(ロー、13歳)、東部、セイヤー街にもどる。大学街。家を借りる。ビアズレー女学校にローを通わせる。昔ながらのお嬢様学校。
友人ガストン・ゴダン。独身男。教師&学者。デブの同性愛者。
7、8
1949年、ロリータは14歳になる。
ロリータの道徳心の低下。愛撫を要求する私から、金銭=小遣いをロリータが要求。
私は、彼女が逃げ出す金を貯めることを恐れた。
ローは、若い男子学生を圧倒的に退屈と思っていた。私は安心した。
ローの仕草と若さが美しい。「我が子供奴隷」のロー。
私たちは、ハンバート博士と娘を演じる。
9、10、11、12
ローの友達は、ニンフェットとしては、期待はずれ。
ビアズレー女学校の校長プラット女史が、「ローは敵対的で不満そうだ」と言う。
男の子を招くパーティーを、家で開くが失敗。「むかつく連中」とローの男の子評。l
1949年1月&2月。
13、14
1949年春(ロー、14歳)、セイヤー街。
ロリータ、演劇に狂う。ドロレス・ヘイズは農婦の娘の役。
1949年5月。「あんたが、あたしをレイプした《魅惑の狩人》というホテルと同名の劇!」とロリータが言う。
「ロリータは、変わってしまった」と私は吐き気。2年前に初めて会った時と違う。
「きっとお前が、母を殺したんだ」とロー。「誘ってくるどんな男とも、寝てやる」とロー。「学校なんか辞める」、 「劇なんか、くそ喰らえ」とロリータ。
「ロマンチックな気分」とロー。
J 再び旅に出る、ビアズレー校を休学:1949年5月(ロー、14歳)
16、17、18
ハリウッドの「実存主義」の映画の主任顧問に、私がなるからと、ビアズレー校を、ローは休学。
ロリータが無断で外出。男(青年)と不貞をしたのではないかと、ローを裸にし臭いをかぐ。
ハロルド・ヘイズから譲り受けた拳銃を持って、出発する。
私は、出会う男性ごとに嫉妬。赤いコンヴァーティブルが私たちを追跡してるように見える。「警官じゃないか」と私。まいてしまう。
19
ヴァイス郵便局で28分間、ローがいなくなる。ローの二枚舌。もどってきたローを平手打ちする。希望のない官能的和解。
色々な車に乗り換えて、自分たちを追跡する者がいると、私が思う。
タイヤがパンクしたとき、ローが車を運転して逃げそうだった。後に、追跡(?)の車が停まる。そして走り去る。
「気が狂いそうだった」、「人を殺しそうな気分」と私。
20、21
この愛に溺れた愚か者の私。
ローは演劇で、欺瞞を覚えた。ローの演劇練習は美しかった。
テニスウェアを着たローは、ニンフェットそのもの。映画に撮っておけばよかったと私彼女の魔法。テニスでは無邪気・率直・親切。いつもは残酷で狡猾。
魂や本質的な品性の汚れなさ。背信がひそんでいるのではないかという悪夢。
ローへの絶望的な恋。彼女を手渡すくらいなら、すべてを破壊したほうがましだ。
ニセの長距離電話。その間、目を放した隙に、ローとペアを組んでテニスをする男がいた。
K ロリータ(14歳)が連れ去られる:1949年7月4日
22
探偵たちは、私の妄想の産物。
ロリータがニンフェットでなく、私を苦しめるのをやめる時代が、今まさに始まろうとしている。
ローが発熱、40.4度C。入院。この2年間で初めて、ロリータと離れ離れとなる。8回、ローを見舞いに行く。
私の絶望的な愛。
最後の見舞いの翌朝、私は少し錯乱。病院に電話すると、「おじのギュスターブさんが黒のキャデラックでロリータさんを退院させ、現金で全額を払い、帰った」とのこと。
23、24、25
私は、1949年7/5から、ビアズレーにもどった11/18まで、ロリータを追跡する。342軒のモーテル、ホテルを調べる。
ローを連れて行ったのは、教養人を思わせる男。
消え去ったドロレス(ロリータ)。その後の空虚な3年間。(Cf. 1952年9月下旬ロリータからの手紙、9/25ハンバート逮捕、11/16ハンバート獄死。)
私は、たまっていたローの10代向け雑誌を廃棄。
1949年冬の終わりから1950年春(Cf. ロリータ15歳)、私は療養所に入所。
ローの愛は変わったが、我が忌まわしい性格は変わらない。「お尋ね者ドロレス・ヘイズ」、どこに隠れているんだ?
孤独が私を腐食させる。
リタの登場。
L
リタと各地を回る:1950年夏~1952年夏
26
1950年、リタ(30歳)は、ロリータの年齢(15歳)の2倍、私の年齢(40歳)の4分の3。私は、3人目の夫と離婚したリタを、連れ合いとして選ぶ。
1950年夏~1952年夏、2年間、リタと私は、一緒に、カリフォルニアなど各地を、車で回る。
リタは一番、慰めになり、理解のある女性。
リタの少女っぽい背中と肌。私は子供に、余計な手出しをせずにすんだ。
1951年9月~1952年6月、私はキャントリップ大学に招聘される。
「あなたもきっと、すぐに私を見捨てるわ」とリタが泣く。
M ドリー・ヘイズ(ロー)からの手紙&別れ:1952年9月下旬(ロー、17歳)
27
「親愛なパパへ。私は結婚しました。」「夫、ディック。」
「小切手を送ってください。300か400ドル。」「私のことをパパは怒っているかもしれない。」「ディックには知られたくない。」
28、29
ロリータが結婚した相手がリチャード・F・スキラー。
ローは、コルモント局留と言った。NY市から800マイル。
ローとディックの家を見つける。私にはもちろん、彼女は殺せない。私はローを、永遠に愛している。
ロリータ(ドリー・スキラー)が「これまで、あたしが夢中になったことがあるのは、あの人だけ」と言う。
「5年前(1947年、ロー12歳)の、あのキャンプのあの人!」「天才!」「すごい人!」キュー。脚本家。彼が、ビアズレー校のあの演劇『魅惑の狩人』の脚本を書いた。
私たち(私とロリータ)の哀れなロマンス!
「過去は過去じゃないの!いいお父さんだったと思うわ」と、ローが私に言う。
「ディック、これ、あたしのパパ」とローが、私を紹介する。
ディックは鉱山技師でこれからローとともに、アラスカに行く。
29-2
1949年7月4日(ロー、14歳)、キューが、ローを病院から連れ去る。
「乱交の撮影に加わらない」とローが断ると、キューが、ローをたたき出す。
1949年冬、ローが、皿洗いの仕事をしているとき、ディックと出会う。
今、1952年9月、ローは17歳で、絶望的にやつれ、お腹には赤ちゃん。ニンフェットのかすかなこだま。
私は4000ドルをロリータに渡す。
「一緒に来てくれ」と私はドリー(ロリータ)に頼む。「私と一緒に暮らしてくれないか」と私。
「だめよ。だめ。」とロリータ。
「さようならあ!」と、我が恋人は歌うように言った。
N ハンバートによる、ラムズデールでのキューの殺害:1952年9月下旬
30、31、32
私は、ラムズデールに行く。ホテル《魅惑の狩人》からさほど離れていない宿で、私はローを思い、涙を流す。
私がつけた汚らわしい情欲の傷を、ローは忘れないだろう。彼女は凡庸な図々しさと退屈さで、その傷つきやすさを武装した。
私は下劣だが、お前を愛した。実に魅惑的なロリータ・スマイル。
ロリータには、家庭がない。その寂しさ。「あたしの殺されたママは、どこに埋められてんの?」とロー。若者向けのクズ本を、ローは読んでいた。ロリータにとっては、惨めであっても、家庭の方がましだった。
33
ラムズデール再訪。共同墓地で「こんにちは。シャーロット」と私。
あの夏のキャンプ(1947年、ロー、12歳)の野卑なチャーリーは、朝鮮戦争で戦死した。
34、35
クィルティ(キュー)は夜驚荘の主人で、取り巻き連中や娼婦とバカ騒ぎ。
彼は、もうろうとしていた。
「俺は、彼女(ロー)を、獣じみた変態から救ってやった」とクィルティ。「誘拐なんかしていない。」「もっと幸せな家庭に引き取ってほしいと、ローが頼んだ。」
「あの乱交は、確かにバカな真似だった」とクィルティ。「ドリーと、いい思いはしていない。俺はほとんどインポだ。」
「お前は、彼女を盗んだ」と私(ハンバート・ハンバート)。クレア(クィルティ、キュー)の脇腹に弾。背中にも3、4発撃つ。毛布もろとも彼を撃つ。彼の顔の4分の1が吹き飛ぶ。
「キューを殺してきた」と私。
36
ハンバート・ハンバートの希望:
①ドリー・スキラー(ロリータ、1935年生)が死ぬ(80歳なら2015年)まで、この回想録は出版しない。
②お前(ロー)のディックには、真心を尽くしてやってくれ。
③お前(ロー)が、赤ん坊をかわいがることを祈っている。
36-2
ハンバート・ハンバートは、1952年9/25、逮捕される。1952年11/16、獄死(42歳)。