『医療崩壊か再生か』(小川道雄著、NHK出版)を読みました。
著者は国立大学病院で30年以上にわたって外科の臨床・研究・教育にたずさわったあと、03年から2年間、要請を受けて宮崎県立病院院長、05年からは熊本労災病院院長を務めているかた。
彼は、「医療費抑制政策を取りやめ、医師の過重労働をなくすることが医療再生につながることは確かだが、その再生が実現するかどうかは、ひとえに“世の中の声”にかかっている。問題の本質を見誤ったメディアと“世の中の声”に従っている限り、医療再生の可能性はない」と断じています。
その根拠となる医療現場の「真実」が多く語られているのでぜひお読みいただきたいと思います。医療費抑制政策は、急性期医療が音を立てて崩壊し始めている根源となっている図が掲載されていますが、医療そのものを崩壊させる図であることが読み取れると思います。
この政策を「一八〇度転換させることが必要」であり、「いまが『国民の決断のとき』だ」というのが著者の認識です。私もまったくそう思います。
ただ、「消費税増税に代えて、企業の保険料負担の大幅増という選択」にもふれてはいますが、この財源問題と、医療訴訟の増加の要因のひとつに「戦後教育」をあげるところは、彼が言うところの「問題の本質を見誤ったメディアと“世の中の声”」に傾いているように感じられ、私がちょっと首をひねるところです。