「さわひらき 潜像の語り手」 KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場
「KAAT EXHIBITION 2018 さわひらき 潜像の語り手」
11/11~12/9



映像作家、さわひらきによる、国内では約5年ぶりの個展が、横浜のKAAT神奈川芸術劇場にて開催されています。



会場は劇場内3階の中スタジオでした。ちょうどエントランスを抜けると、「Canon」と題した映像が現れ、その奥にコの字状の衝立てとカーテンのスクリーンがあり、複数の映像作品が投影されていました。それぞれの作品のスタート時にタイトルこそ表示されるものの、途中では、どの作品であるかは明らかではなく、そもそも始まるタイミングも良く分かりません。またスクリーンでは、時に表裏で映像が投影され、同時に見られない場合もありました。実のところ、初めは一体、どの作品が、どの場所で映されているのか、見当もつきませんでした。



鑑賞に際しては、受付で配布される一枚のシートと、会場内最奥部の天井付近に映された時計の映像作品が重要でした。シートには作品のタイトルと、上映されるスクリーンの場所、さらには0分から60分までのタイムスケジュールが記載されていて、その時分が、時計の映像の刻む時間とリンクしていました。



よってまずは映像の時計から時間を確認し、シートに記載されたタイムスケジュールを合わせ見るのがベストかもしれません。結論からすれば、スクリーンで12点の映像が上映され、各々場所を変えながら、全60分、つまり1時間でループするように構成されていました。



映像は新旧作入り混じっていて、古くは2004年の「Going Places Sitting Down」にはじまり、最も新しいものでは、2018年の新作、「absent」が上映されていました。「心象風景や記憶の中の感覚など、実態のない領域を、映像などで構成されたビデオインスタレーションで表現する」(解説より)さわひらきの制作ですが、確かに記憶や忘却の奥底に眠るようなイメージこそ浮き上がるものの、ともかく年代を追うごとに作風が変化していることが分かりました。



特に近作の「fish story」では、幻想的云々というよりも、ドキュメンタリー的でもあり、シュールや不条理を抱えつつ、時にグロテスクな表現まで示された、言わば刺激的とも受け取れるような展開を見せていました。初期の飛行機とは、同じ作家の作品とは思えないかもしれません。



2014年に初台のオペラシティで見た個展でも、さわひらきの新たな表現に驚かされましたが、さらに変化、ないし深化した作品世界を目の当たりにすることが出来ました。テーマは重層的で、より深く人の心理を抉り取っているかのようで、どこか心の中に潜む闇を見るかのようでもありました。



繰り返しになりますが、全ての映像を観覧するためには、1時間かかります。また中スタジオ外、アトリウムにも「airliner」と「dwelling」の2本の映像が上映されていました。お見逃しなきようご注意下さい。


会期中無休です。12月9日まで開催されています。

*写真は全て「KAAT EXHIBITION 2018 さわひらき 潜像の語り手」会場風景。自由に撮影が出来ます。(フラッシュ、三脚不可。)

「KAAT EXHIBITION 2018 さわひらき 潜像の語り手」 KAAT神奈川芸術劇場@kaatjp
会期:11月11日(日)~12月9日(日)  
休館:会期中無休
時間:10:00~18:00 
料金:一般700円、学生・65歳以上500円、高校生以下無料。
 *10名以上の団体は100円引き無料。
住所:横浜市中区山下町281
交通:みなとみらい線日本大通り駅3番出口より徒歩約5分。JR線関内、石川町両駅より徒歩約15分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

2018年12月に見たい展覧会〜吉村芳生・扇の国・廃墟の美術史

冬とは思えないほど暖かい日が続いていますが、早いもので今年も残すところあと1ヶ月となりました。

11月に見た展覧会では、絵本のみならず、美術家としての活動を丹念に追った「ブルーノ・ムナーリ」(世田谷美術館)をはじめ、同時代の芸術家なども取り上げ、互いの影響関係も明らかにした「駒井哲郎」(横浜美術館)、油彩の熱気に包まれ、特に宗教画の迫力に心を打たれた「ルーベンス展」(国立西洋美術館)、水墨の多彩な技が光った「斉白石」(東京国立博物館)などが印象に残りました。

また現在、都内各地では、「フェルメール」、「ムンク」、「ルーベンス」、「フィリップス・コレクション」など、大規模な西洋美術展が立て続けに開催されています。いずれも充実していますが、日時指定制の「フェルメール」はもとより、特に「ムンク」が大変に人気を集め、土日を中心に入場待ちの行列が発生しています。いずれも会期末に向けて混み続けそうです。

12月に見たい展覧会をリストアップしてみました。

展覧会

・「神々のやどる器―中国青銅器の文様」 泉屋博古館分館(~12/24)
・「言語と美術―平出隆と美術家たち」 DIC川村記念美術館(~2019/1/14)
・「エキゾティック×モダン アール・デコと異境への眼差し」 東京都庭園美術館(~2019/1/14)
・「列島の祈り―祈年祭・新嘗祭・大嘗祭―」 國學院大學博物館(~2019/1/14)
・「5RoomsⅡ — けはいの純度」 神奈川県民ホールギャラリー(12/17~2019/1/19)
・「カタストロフと美術のちから展」 森美術館(~2019/1/20)
・「霧の抵抗 中谷芙二子」 水戸芸術館(~2019/1/20)
・「辰野登恵子展」 埼玉県立近代美術館(~2019/1/20)
・「皇室ゆかりの美術―宮殿を彩った日本画家」 山種美術館(~2019/1/20)
・「吉村芳生 超絶技巧を超えて」 東京ステーションギャラリー(~2019/1/20)
・「扇の国、日本」 サントリー美術館(~2019/1/20)
・「建築 × 写真 ここのみに在る光」 東京都写真美術館(~2019/1/27)
・「国立トレチャコフ美術館所蔵 ロマンティック・ロシア」 Bunkamura ザ・ミュージアム(~2019/1/27)
・「終わりのむこうへ:廃墟の美術史」 渋谷区立松濤美術館(12/8~2019/1/31)
・「国宝 雪松図と動物アート」 三井記念美術館(12/13~2019/1/31)
・「タータン展 伝統と革新のデザイン」 三鷹市美術ギャラリー(12/8~2019/2/17)

ギャラリー

・「森淳一展 山影」 ミヅマアートギャラリー(~11/24)
・「CITIZEN "We Celebrate Time" 100周年展」 スパイラルガーデン(12/7~12/16)
・「桑山忠明」 タカ・イシイギャラリー東京(~12/22)
・「大堀相馬焼167のちいさな豆皿」 クリエイションギャラリーG8(~12/22)
・「田根剛|未来の記憶」 TOTOギャラリー・間(~12/23)
・「企(たくらみ)展—ちょっと先の社会をつくるデザイン」 東京ミッドタウン・デザインハブ(~12/24)
・「“In Goude we trust!” ジャン=ポール グード展覧会」 CHANEL NEXUS HALL(~12/25)
・「絵と、 vol.4 千葉正也」 ギャラリーαM(~2019/1/12)
・「鈴木理策 写真展:知覚の感光板」 キヤノンギャラリーS品川(~2019/1/16)
・「続々 | 三澤遥」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(12/3~2019/1/26)
・「富士屋ホテルの営繕さん—建築の守り人」 LIXILギャラリー(12/6~2019/2/23)
・「木下直之全集—近くても遠い場所へ」 ギャラリーA4(12/7~2019/2/28)
・「それを超えて美に参与する 福原信三の美学」 資生堂ギャラリー(~2019/3/17)

一見、風変わりなチラシに目がとまった方も多いのではないでしょうか。画家、吉村芳生の回顧展が、東京ステーションギャラリーでスタートしました。



「吉村芳生 超絶技巧を超えて」@東京ステーションギャラリー(~2019/1/20)

1950年に山口県で生まれた吉村は、自画像や身近な風景をモノトーンの版画やドローイングで表した一方、のちに色彩豊かな花の絵を描き、一定の評価を得て来ました。また東京では、2007年の「六本木クロッシング」にも参加し、かなり注目を集めました。



チラシの作品は「新聞と自画像」と題した、いわゆる自画像ですが、顔だけでなく、新聞紙面も、色鉛筆と鉛筆で描いています。まさに写実的ですが、制作は写真や版画を取り込んだ、機械的とも呼べる技法に基づいていて、超絶技巧とは異なっていました。中国、四国地方以外の美術館では、初めての回顧展でもあります。

続いて日本美術です。サントリー美術館で「扇の国、日本」が開催されます。



「扇の国、日本」@サントリー美術館(~2019/1/20)

今も身近に用いられる扇は、少なくとも10世紀末には日本で発展し、中国や朝鮮半島へ輸出されました。


その扇にスポットを当てたのが、「扇の国、日本」で、扇のみならず、扇の描かれた屏風や巻物、さらに工芸や染織などが、約160件超(展示替えあり)ほど出品されます。重要文化財で、島根の佐太神社に伝わる「彩絵檜扇」(平安時代)をはじめ、貴重な扇を目の当たりに出来る良い機会となりそうです。

美術ファンのみならず、端的に「廃墟」なる言葉に心惹かれる方も多いかもしれません。渋谷区立松濤美術館にて「終わりのむこうへ:廃墟の美術史」が開催されます。



「終わりのむこうへ:廃墟の美術史」@渋谷区立松濤美術館(12/8~2019/1/31)


これは「廃墟」をテーマに、西洋の古典絵画から、現代日本の美術作品までを俯瞰する展覧会で、ユベール・ロベール、ピラネージをはじめ、コンスタブル、ルソー、マグリット、デルヴォー、さらにはそ藤島武二に岡鹿之助、そして元田久治や大岩オスカールなどの作品が一堂に公開されます。「廃墟」を切り口に、洋の東西を超えた、美術の歴史が紡がれるかもしれません。



来年を見据え、年間の展覧会の特集を組んだ雑誌が目立って来ました。どこかのタイミングでブログでもご紹介したいと思います。(リンクは、左から日経おとなのOFF、芸術新潮、100%ムックシリーズ)

更新がやや滞っていますが、当面は現状のペースでブログを続ける予定です。お付き合いくだされば嬉しいです。

それでは今月もどうぞ宜しくお願いします。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
   次ページ »