「Google アートプロジェクト」

WEB上で世界の美術館の美術作品などを楽しめる「Google アートプロジェクト」。



「Google アートプロジェクト

既に報道等でも大きく取り上げられていましたが、この4月9日より、日本の美術館、博物館が追加されたことをご存知でしょうか。

「Googleアートプロジェクトに国内の美術館・博物館が初参加」(ITpro)
「Google アートプロジェクトに日本初参加--文化財を高解像度で」(CNET)

というわけで早速、「Google アートプロジェクト」を遊んでみることにしました。

まずはトップページから入りコレクションへ。



地図形式で美術館を国別、エリア別に選べるのも便利です。なおこの第二弾では、日本の他、アジア、また南米の博物館、美術館が134館も追加されました。



とりあえず馴染みある上野の東博へと向かいます。ページへ辿り着くと作品の画像一覧が表示されました。掲載作品は全部で105作品、もちろん東博の膨大なコレクションからすればごく一部に過ぎませんが、これからさらに追加されるのかもしれません。

もちろん作品は拡大して見ることが可能です。一部作品については70億画素という途方もなく高解像度の撮影が行われています。



何かと描写の細かい絵巻(一遍上人絵伝)もご覧の通りです。登場人物一人一人の表情はおろか、巻物の地までがくっきりと浮き上がってきました。



さらに面白いのはこの作品が展示されている美術館の中の館内風景を「ストリートビュー」形式で見られることです。

「美術館ビュー」をクリックするとご覧の通り、展示室の風景へと切り替わりました。



また左のマップで館内の他の展示室へも移動可能です。早速、いつも必ず立ち寄る江戸絵画室へ移ってみます。すると渡辺華山の作品が展示されていました。



そしてここで作品の前にある+印をクリックすると、それぞれの詳細な図版が表示されます。こちらも東博では105作品のみですが、言わばバーチャルな鑑賞を楽しむことが出来ました。

ちなみに今回、日本で追加された美術館と博物館は以下の通りです。

足立美術館(島根県安来市)
大原美術館(岡山県倉敷市)
国立西洋美術館(東京都台東区)
サントリー美術館(東京都港区)
東京国立博物館(東京都台東区)
ブリヂストン美術館(東京都中央区)

そのうちストリートビューで見られるのは東博と足立美術館ですが、東博では法隆寺宝物館や足立美術館では日本庭園も閲覧出来るそうです。



また作品や作家の情報がアーカイブとして充実している点も重要かもしれません。



例えばブリヂストン美術館から私の好きなシスレーの「森へ行く女たち」ですが、詳細をクリックすると作品の解説が出てきます。



これらはほぼ英語ですが、日本語を用意した作品もあるそうです。



そしてページ右下の「さらに作品を表示?」へ進むと、このプロジェクト中に掲載されたシスレーの作品が全て出てきます。



こちらはオルセーの「ポール=マルリの洪水と小舟」です。もちろん館内をストリートビューで閲覧出来ます。



ようは僅か1、2度クリックするだけで、ブリヂストンとオルセーのシスレー作品を行き来することが出来るわけでした。

Googleアートプロジェクトの日本での取り組みを紹介した映像も参考になります。短めですが是非ご覧ください。

Google アートプロジェクト - JAPAN


収録は世界40カ国、計151館、全3万点の美術作品にも及びます。

「Google アートプロジェクト

しばらくはこのGoogleアートプロジェクトで楽しめそうです。
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「鹿島茂コレクション2 バルビエ×ラブルール」 練馬区立美術館

練馬区立美術館
「鹿島茂コレクション2 バルビエ×ラブルール アール・デコ、色彩と線描のイラストレーション」
4/8-6/3



練馬区立美術館で開催中の「鹿島茂コレクション2 バルビエ×ラブルール」展のプレスプレビューに参加してきました。

昨年のグランヴィル展もまだ記憶に新しい方も多いかもしれません。

今回、それに続く第二弾では、鹿島茂氏のコレクションから、ともにフランスのアール・デコ期を代表する挿絵画家、ジョルジュ・バルビエ(1882-1932)とジャン=エミール・ラブルール(1877-1943)が紹介されています。


展示風景

言うまでもなく鹿島氏はフランス文学者であり、また古書のコレクターとして知られていますが、氏がグランヴィルの次に収集したのが、この二人の挿絵画家の作品でした。

バルビエとラブルールはフランスのナント出身で、ほぼ同時期に活躍しましたが、「アール・デコ様式」という共通項こそあれども、そのスタイル、画風はかなり異なっています。


バルビエ「コメディの登場人物」(1922年、著:アルベール・フラマン)

端的に言えばバルビエは鮮やかな色彩、そしてラブルールは緻密な線描が見どころです。

バルビエは最新のファッションを纏った女性を描き、それを次々に当時のモード雑誌に表しました。


バルビエ「モード・エ・マニエール・ドージュルデュイ」(1914年)

ともかく一目で色の美しさ、またに妖艶なまでの女性表現に見惚れること間違いありません。

19世紀末、アール・ヌーヴォー風が中心だったモード界ですが、それをバルビエらが一新し、20世紀のモダン・ファッションの先駆けとも言うべき表現を切り開きました。

またバルビエで重要なのはバレエとの密接な関係です。


バルビエ「ニジンスキーのダンスを描いたデッサン」(1913年)

バルビエはモード雑誌の他、映画の衣装デザインや様々な舞台装飾までを手がけましたが、その中核であったのが、他ならぬバレエ、しかも当時最も革新的であったロシア・バレエを描いた作品でした。

中でも20世紀を代表するダンサーとしても名高いニジンスキのダンスを描いたデッサンは、バルビエの傑作と言っても良いかもしれません。


バルビエ「雅歌に寄せた17葉のデッサン」(1914年)

またそこで見られる官能性は、例えば「雅歌」をモチーフと一連のデッサン画でも伺い知ることが出来ます。

バルビエは旧約聖書の雅歌における恋愛の世界を、黒色と金の二色刷りで見事に表現しました。


バルビエの原画

また展示では原画も紹介されています。ともかくこの美しい色、また沸き立つ艶を是非とも味わってみて下さい。

さて一転してラブルールは木版、銅版の技術を駆使し、シャープな線描による緻密なモノトーンの版画作品を描いています。

ラブルールはとりわけ文学作品の挿絵を多く手がけ、その方面で大きな業績を残しました。


ラブルール「恋する悪魔」(1921年、著:ジャック・カゾット)

その一例として挙げられるのが、怪奇・幻想文学の先駆けとされるカゾットの「恋する悪魔」の装幀です。


ラブルール「蜜蜂の生活」、「白蟻の生活」他(1930年、著:モーリス・メーテルランク)

また今年は生誕150年のドビュッシーイヤーでもありますが、彼の歌劇「ペリアスとメリザンド」の原作者であるメーテルランクの博物誌の挿絵なども描いています。

そこではいわゆる美学的なデフォルメが加えられた一方、あくまでも細部に関しては正確な描写がなされています。


ラブルール「ドリアン・グレイの肖像」(1928年、著:オスカー・ワイルド)

その他にはワイルドの代表作、「ドリアン・グレイの肖像」の他、ジッドの「法王庁の抜け穴」の挿絵なども展示されていました。いずれも緻密な細部表現が見どころです。ここは物語の筋を思い出しながらじっくりと見入ってしまいました。

さて前回のグランヴィル展でも一般書籍として刊行された図録ですが、今回のバルビエ×ラブルール展も同じく求龍堂より発売されています。


「鹿島茂コレクション2 バルビエ×ラブルール」@求龍堂

図録としてはやや高価(3300円)かもしれませんが、出品作がほぼ全て掲載されているなど、内容はかなりパワーアップしています。こちらも是非書店でご覧になって下さい。

さて音楽祭と美術館の新たな試みです。奇しくも画家の生まれと共通するナントからやってきた音楽祭、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンとの特別コンサートが行われます。

【ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン×練馬区立美術館 コンサート】
日時:4月22日(日)・4月29日(日)15時から1時間程度。
会場:練馬区立美術館ロビー
*事前申込不要です。コンサートには、当日の「バルビエ×ラブルール展」展覧会チケットが必要。
出演:亀田賢(ピアノ)/奥村智洋(ヴァイオリン)

ラ・フォル・ジュルネのテーマ、「ロシアの祭典」に因み、ロシア音楽のプログラムが組まれているそうです。また嬉しいことに当日の展覧会チケットがあれば追加料金は必要ありません。これは人気となりそうです。

言わば引き出しの多い展覧会です。挿絵の魅力はもちろんのこと、モード、バレエ、文学などに関心のある方にも楽しめるのではないでしょうか。



6月3日まで開催されています。

「鹿島茂コレクション2 バルビエ×ラブルール アール・デコ、色彩と線描のイラストレーション」 練馬区立美術館
会期:4月8日(日)~6月3日(日)
休館:月曜日 *但し4月30日は開館、翌5月1日は休館。
時間:10:00~18:00
住所:練馬区貫井1-36-16
交通:西武池袋線中村橋駅より徒歩3分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「ドビュッシー展」(ブリヂストン美術館)記者発表会

生誕150年を迎えた音楽家、クロード・ドビュッシーの芸術を、美術の観点にスポットを当てて紹介します。「ドビュッシー 音楽と美術」展の記者発表会へ参加してきました。



私自身、クラシックが好きなこともあり、音楽と美術をクロスオーバーするような展覧会を望んだりしていましたが、それがいよいよ実現する時がやって来たのかもしれません。

それが今年の夏、東京・ブリヂストン美術館で行われる「ドビュッシー 音楽と美術」展です。


左:作者不詳「ショーソンとルロールのそばでピアノを弾くクロード・ドビュッシー」1893年 オルセー美術館
右:バシェ「クロード・ドビュッシーの肖像」1885年 オルセー美術館


言うまでもなくドビュッシーは、19世紀末から20世紀の初頭のフランスを代表する作曲家で、時に「印象派」とも称されますが、本来的には象徴主義の芸術家に位置しています。


左:ドニ「選ばれし乙女」1893年 モーリス・ドニ美術館
右:ドニ「ミューズたち」1893年 オルセー美術館


ドビュッシーの音楽には文学や美術の引用も多く、画家ではナビ派、とりわけドニらと交流を重ねてきました。

実際にドニはドビュッシー初期の代表作「選ばれし乙女たち」や、オペラ「ペレアスとメリザンド」の楽譜の表紙を描いています。


左:ドニ「ペレアスとメリザンド」1892年 モーリス・ドニ美術館
右:ドビュッシー「ペレアスとメリザンド」1902年 個人蔵


また「乙女たち」ではロセッティの詩を引用していますが、それにおける世紀末の女性像に特徴的な「神に召される少女」は、ラファエロ前派の影響も色濃く反映されているそうです。

それにドビュッシーはこの時代の流行でもあったアール・ヌーヴォーやジャポニスムにも強い関心がありました。

一例としては傑作として名高い交響詩「海」です。楽譜表紙には北斎の「神奈川沖浪裏」が引用されています。また彼は日本の文鎮に「ペレアス」に登場するアルケルの名を与え、生涯愛用していました。


左:ルノワール「ピアノに向かうイヴォンヌとクリスティーヌ」1897年 オランジュリー美術館
右:ドニ「イヴォンヌ・ルロールの3つの肖像」 1897年 オルセー美術館


さらにドビュッシーはサロンを通じ、同時代の美術、例えば前述のドガにシャヴァンヌ、カリエール、またヴュイヤールらにもシンパシーをいだきます。


左:メイヤー「ニジンスキー」(写真)1912-13年 オルセー美術館
右上:メイヤー「ヴェールをもち、右を向いた踊り子の半身」(写真)1914年 オルセー美術館
右下:「ビスティッチの画家 女を追いかけるサテュロス」(陶器)前430年頃 ルーヴル美術館


その他にもドビュッシーの古代神話への関心、またモネとの親和性、それにマラルメとの関連などがポイントとなりますが、ようは「連想ゲーム」(島田館長談)ならぬ、ドビュッシーにまつわる美術家たちの作品を集めたのが、このドビュッシー展というわけです。

【展覧会の構成】

第1章 ドビュッシーの生涯
第2章 「選ばれし乙女」
第3章 美術愛好家との交流
第4章 アールヌーヴォーとジャポニスム
第5章 古代への回帰
第6章 劇場作品1「ペレアスとメリザンド」
第7章 劇場作品2「聖セバスティアンの殉教」と「遊戯」
第8章 音楽と文学
第9章 自然 霊感の源泉:「夜想曲」、交響曲「海」、「忘れられた小歌」
第10章 新しい芸術へ


劇音楽については2章使って美術との関連を探るのも重要かもしれません。また最終章ではドビュッシーが後の世に与えたであろう美術についても触れています。


左:バクスト「聖セバスティアンの殉教の舞台装飾案」1910年 個人蔵
右:ドビュッシー「おもちゃ箱」フランス国立図書館


なお出品は絵画、工芸、資料などを含め、総計150点にも及びます。

また重要なのは本展がオルセーとオランジュリー美術館との共同企画ということです。実は現在、オランジュリーではこのドビュッシー展が開催中(2/22~6/11)ですが、会期一ヶ月で約9万名もの人々が観覧に訪れています。



日本での開催はブリヂストン美術館だけです。また作品もパリの両美術館より約40点ほどやってきます。その中にはオルセー美術館が2010年に新たに収蔵した作品なども含まれるそうです。期待が持てるのではないでしょうか。

【展覧会の見どころ】

・ドビュッシー生誕150年記念
・パリと東京の2会場のみでの開催
・オルセー美術館、オランジュリー美術館との共同開催
・ドビュッシーと美術愛好家
・ドビュッシーと日本美術
・ドビュッシー愛蔵の美術品も紹介


ちなみにパリでは日本からの出品がありません。つまり現在のオランジュリーの展示をよりパワーアップさせたのが、ブリヂストン美術館の「ドビュッシー展」なのかもしれません。

さて関連の情報です。お馴染み「土曜講座」の他、今回は音楽家の展覧会ということで、美術館ホールでのミニコンサートも予定されています。

土曜講座「ドビュッシー 音楽と美術」

 7月14日(土)グザヴィエ・レイ(オルセー美術館学芸員)
 「ドビュッシーの音楽の絵画的な響き」(仮題)
 7月21日(土)ジャン=ミシェル・ネクトゥー(フランス国立科学研究所学芸員)
 「象徴主義のただ中で:ドビュッシー、音楽、絵画、詩」(仮題)
 7月28日(土)新畑泰秀(石橋財団ブリヂストン美術館学芸課長)
 「ドビュッシー、印象派と象徴派のあいだで」
 8月4日(土)賀川恭子(石橋財団ブリヂストン美術館学芸員)
 「ドビュッシーと美術愛好家」

レクチャー&コンサート

 8月12日(日)/26日(日)鈴木大介(ギター)
 「ドビュッシーと近代フランス音楽を奏でる」
 9月2日(日)/9日(日)カルテット演奏
 「ドビュッシー弦楽四重奏曲ト短調op.10」

*各回とも14時から。聴講料400円。(会場:ブリヂストン美術館ホール、定員:先着順130名、聴講券はブリヂストン美術館窓口にて事前に発売。)

また展覧会にあわせ、大手町の日経ホールでは、コンサート「ドビュッシー、作品とその魅力」が開催されます。



「ドビュッシー、作品とその魅力」
ピアノ:フランソワ・シャプラン
講師:ジャン=ミシェル・ネクトゥー
日時:7月16日(月・祝) 14:00 ~16:20
会場:日経ホール(東京都千代田区大手町1-3-7 日経ビル3F)
チケット:全席指定3000円(4月10日より発売)

メモリアルイヤーということで、コンサートの演目にのることも多いドビュッシーですが、レクチャーとあわせたスタイルは異色ではないでしょうか。こちらにも注目が集まりそうです。

最後に展覧会の概要です。

ブリヂストン美術館開館60周年記念 オルセー美術館、オランジュリー美術館共同企画
「ドビュッシー、音楽と美術―印象派と象徴派のあいだで」
会期:2012年7月14日(土)~10月14日(日)
時間:10:00~18:00(毎週金曜日は20:00まで)*入館は閉館の30分前まで
休館:月曜日(ただし7/16 、9/17、10/8は開館)
主催:オルセー美術館、オランジュリー美術館、石橋財団ブリヂストン美術館、日本経済新聞社
会場:石橋財団ブリヂストン美術館(東京都中央区京橋1-10-1)
料金:一般1500円(1300円)、65歳以上シニア1300円(1100円)、大・高生1000円(800円)、早割ペア券2000円 *カッコ内は前売及び15名以上団体料金。
交通 :JR線東京駅八重洲中央口徒歩5分。東京メトロ銀座線京橋駅6番出口徒歩5分。東京メトロ銀座線・東西線、都営浅草線日本橋駅B1出口徒歩5分。

お得な早割ペア券が2000円で発売中です。狙い目です。


左:クロス「黄金の島」1891年 オルセー美術館
右:マネ「浜辺にて」1873年 オルセー美術館


オランジュリー会場では睡蓮の間でコンサートが開催された他、館内にて音楽をスポットとして流す試みも行われているそうです。ブリヂストン美術館では検討段階とのことですが、音声ガイド以外でも何らかの音楽的演出があるやもしれません。


展覧会の構成について解説するブリヂストン美術館の島田館長

展覧会公式サイトが4月4日にオープンしました。出品作他、各章毎の解説も掲載されています。是非ともご覧ください。

「ドビュッシー、音楽と美術―印象派と象徴派のあいだで」公式サイト

これまであまりなかった音楽と美術を行き来する本格的な展覧会、クラシックファンの立場としても大いに期待したいと思います。

ドビュッシー展はブリヂストン美術館で7月14日に開幕します。
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東京都美術館リニューアルオープン

東京都美術館リニューアルオープン、プレス内覧ツアーに参加してきました。



2年前より全館大規模改修工事を行っていた東京都美術館ですが、ようやくこの4月1日、無事オープンを迎えました。

1975年、前川國男設計によって建てられた東京都美術館でしたが、開館以来35年、とりわけ内部の痛みは激しく、今回全面リニューアル工事をすることになりました。



しかしながらこの美術館の外観を特徴づけるワイン色の外壁タイルなど、前川建築の佇まいは変わりません。いわゆる躯体はそのままに、今の時代に沿う展示環境、またアメニティ施設、設備の更新、さらには環境負荷軽減を目的にして、改修工事が行われました。

と言うわけで写真をご覧になっていただければお分かりいただけるかもしれませんが、正門アプローチの印象はほぼ前と同じです。かつては上野公園の動線の問題もあり、東門がメインの入口になっていた感がありますが、現在進行中の公園のリニューアルとあわせ、この正門が名実共にメインの入口として使われるようになるそうです。



旧都美館の内部はともかくバリアーフリーに難点がありましたが、それはエントランスから大幅に改善されています。ロビーへ向かうアプローチにはエスカレーター、及びエレベーターが設置され、入口そのものも自動ドアに変更されました。



ロビーでは大幅拡張したミュージアムショップがお出迎えです。以前の2.5倍の広さということですが、内容面でも美術館オリジナルなど、かなり充実しています。



またチケットブースも移動新設され、コインロッカーも増設されました。



それにともかく旧都美館では古さが否めなかったトイレが一新しています。全て新設です。また数自体もかつての階段部分を閉鎖して造るなど、かなり増えました。当然のことながら車いす用のトイレもあります。もうトイレで困ることはなさそうです。

続いて展示室です。まず公募展示室ですが、全12室の空調、照明など全て更新されています。また床面はタイル張りからカーペットに変更です。靴音が出にくく、また埃も出にくいという都美館の特注品ということでした。



また細かいところですが、稼働壁の穴の間隔がかつての4センチから10センチへと変更されています。



それに各展示室毎に入口部分が塗り分けられています。全般的にサインシステムも大幅に改善されたと言えるのではないでしょうか。

さて企画棟は躯体以外の全面改修ということで、ほぼ建て替えに近い内容となっています。



広がった入口部分こそかつての面影を残すものの、展示室内部は完全に別物です。



床面は公募展示室同様、タイルからカーペットに変更されています。また天井高も3.2メートルから4.5メートルへと高くなりました。(ただしいわゆる吹き抜けはなくなりました。)

各700平方メートル程度のフロアが3つ、それこそ新美を思わせるようなスタイリッシュなホワイトキューブに生まれ変わりました。

またかつての企画展示室で非常にネックだった上下への移動は大幅に改善されています。



LB、1、2階と、企画室の動線に沿って専用のエスカレーターでの移動です。



それに企画室にはガラス張りのミニ休憩スペースも出来ました。率直に申し上げるとかつての企画室は何やら穴蔵のような印象がありましたが、そうした面は払拭されたと言えるかもしれません。



またもう一つの展示スペース、かつての彫塑室は多目的のギャラリーへと変更です。こちらへのアプローチも以前は階段でしたが、ロビーから直接エレベーターとエスカレーターで行き来することが可能になりました。

さて今回最も変化があったのはレストランなどのある中央棟です。フロアが一つ増築され、1階部分にフリースペース、「佐藤慶太郎記念アートラウンジ」が新設されました。



いわゆる情報コーナーと休憩室の合体版です。席数は全50席、当然ながらフリーエリアということで、入館料を支払わなくても利用出来ます。

また情報コーナーでは専用端末によって展覧会情報等を引き出すことも可能です。また立派なチラシ置き場も新設されました。



ラウンジの奥の交流棟に出来たのは図書室ならぬ美術情報室です。過去展覧会のカタログの他、美術書などが揃いました。座席数は計14席です。ここでゆっくり読書というのも良いかもしれません。

さて大きな変化と言えばもう一つ、全面刷新された飲食スペースを忘れてはなりません。旧都美館ではレストランが一つあるに過ぎませんでしたが、リニューアル後は計3つのレストラン・カフェが誕生しました。

レストランは2つ、新たに美術館のグランドレストランとして生まれたのは「IVORY(アイボリー)」です。



ご覧の通りのハイグレードな内装です。(ランチコースは2500円から5000円まで。他アラカルトもあり。)営業時間は美術館に準じて平日は午後5時まで(金曜は夜8時まで)ということですが、貸し切りパーティなどにも対応可能とのことです。半個室スペースもありました。(着席84席、立食100名。)



もう一つのレストラン、中央棟の増築部分、つまり2階に出来たのが「MUSEUM TERRACE(ミュージアムテラス)」です。こちらは「アイボリー」よりもカジュアルな仕様となっています。



またテラスからは見晴らしの良い公園内の景色を見ることが出来ます。アートラウンジしかり、企画展示室の休憩スペースしかり、全体としてガラス窓を用い、外の景色を取り込んだ設計になっているように思いました。



カフェは1階のアートラウンジ横の「M cafeエム・カフェ」です。座席数は60席、コーヒー(430円~)やサンドイッチやパフェなどのデザート、いわゆる軽食類が充実していました。こちらは展覧会後にでも気軽に利用出来そうです。

最後に大きく変化したのは北側からのアプローチです。これまでは正門と東門のみで、北側から入れませんでしたが、リニューアル後は北側にもエントランスが出来ました。



これで芸大方向から北門をくぐり都美館内を通って上野公園、もしくはその逆の通行が可能です。上野公園内の新たな動線が誕生したと言えるかもしれません。



一見、外観は殆ど変わりませんが、中はかなり変化しています。躯体を残してのこれほど大規模な改修は珍しいとのことですが、工事に携わった前川建築事務所の所長の橋本氏によれば「国内の70年代の建築物の改修工事の模範的例になるのではないか。」とのことでした。

震災の影響により、一時は2ヶ月ほど工事の進行が遅れたこともあったそうです。工事には相当の苦労があったとのお話もありました。

【東京都美術館、リニューアル後の特別展スケジュール】



マウリッツハイス美術館展 6/30~9/17



メトロポリタン美術館展 10/6~2013/1/4

エル・グレコ展 2013/1/19~4/7


既に4月1日にリニューアルオープン済みです。特別展は準備の都合もあり7月からのマウリッツハイス展ですが、公募展は既に始まっています。



上野へお出かけの際にはまず一度立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
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4月の展覧会・ギャラリーetc

ようやく関東でも桜の開花が始まりました。4月に見たい展覧会をリストアップしてみました。

展覧会

・「田中敦子展/靉嘔 - ふたたび虹のかなたに」 東京都現代美術館(~5/6)
 #トーク 「光と熱を描く人/田中敦子と金山明のために」  出演:森村泰昌(美術家)× 加藤瑞穂 (大阪大学総合学術博物館招聘准教授) 4/21 14:00~ 定員200名、先着順。
 #サンデー・プロジェクト「靉嘔によるワーク・イン・プログレス」 毎週日曜日 13:00~
・「ザ・タワー~都市と塔のものがたり」 江戸東京博物館(~5/6)
・「ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガーー力が生まれるところ」 水戸芸術館(~5/6)
・「三都画家くらべ 京、大坂をみて江戸を知る」 府中市美術館(~5/6)
 #前期(3/17-4/15)、後期(4/17-5/6)で展示替えあり→出品リスト(PDF)
・「館蔵品展 奥絵師・木挽町狩野家」 板橋区立美術館(4/7~5/6)
・「小川芋銭展―震災後の眼で、いま」 茨城県立近代美術館(~5/20)
・「桜・さくら・SAKURA 2012」 山種美術館(~5/20)
・「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」 千葉市美術館(4/10~5/20)
 #各種講演会あり→スケジュール。会期中展示替予定。
・「東洋絵画の精華 珠玉の日本絵画コレクション」 静嘉堂文庫美術館(4/14~5/20)
 #講演会「岩崎コレクションの日本絵画」 講師:辻惟雄(MIHO MUSEUN 館長) 4/30 13:30~ 先着150名。
・「草間彌生 永遠の永遠の永遠」 埼玉県立近代美術館(4/14~5/20)
 #講演会「草間彌生の世界」 講師:建畠晢(同館館長) 4/22 14:30~ 定員100名。無料。当日10時より整理券配布。
・「KORIN展」 根津美術館(4/21~5/20)
 #シンポジウム「光琳画の展開と受容」 出演:玉蟲敏子(武蔵野美術大学教授)、中部義隆(大和文華館学芸課長)、仲町啓子(実践女子大学教授)、野口剛(根津美術館学芸主任)、司会:河合正朝(慶應義塾大学名誉教授) 4/29 13:00~ 定員100名。往復葉書での事前申込制(4/14まで)
・「須田国太郎展」 神奈川県立近代美術館葉山(4/7~5/27)
・「イ・ブル展:私からあなたへ、私たちだけに」 森美術館(~5/27)
・「毛利家の至宝」 サントリー美術館(4/14~5/27)
 #トーク:「私の雪舟、私の山水長巻」 講師:山下裕二(明治学院大学教授) 事前申込制(4/22まで) 参加費700円。
・「KATAGAMI Style ― 世界が恋した日本のデザイン」 三菱一号館美術館(4/6~5/27)
・「鹿島茂コレクション2 バルビエ×ラブルール」練馬区立美術館(4/8~6/3)
 #特別連続講演会(事前申込制)→スケジュール
 #「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンによるスペシャルコンサート」 4/22、4/29 15時より。申込不要。要観覧券。
・「シャルロット・ペリアンと日本」 目黒区美術館(4/14~6/10)
・「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美の理想」 Bunkamuraザ・ミュージアム(~6/10)
・「ホノルル美術館所蔵 北斎展」 三井記念美術館(4/14~6/17)
 #前期(4/14-5/13)、後期(5/15-6/17)
・「マックス・エルンスト-フィギュア×スケープ」 横浜美術館(4/7~6/24)
・「あなたに見せたい絵があります。」 ブリヂストン美術館(~6/24)
・「近代洋画の開拓者 高橋由一」 東京藝術大学大学美術館(4/28~6/24)
・「杉本博司 ハダカから被服へ」 原美術館(~7/1)
・「ひっくりかえる展」 ワタリウム美術館(~7/8)
・「大エルミタージュ美術館展」 国立新美術館(4/25~7/16)
・「FLOWERSCAPES フラワースケープ」 DIC川村記念美術館(4/28~7/22)

ギャラリー

・「蠱惑~巧術其之参」 スパイラルガーデン(~4/8)
・「谷口悦子:light」 hpgrp Gallery東京(~4/15)
・「超群島 HYPER ARCHIPELAGO」 Eye of Gyre(~4/16)
・「塩田千春:存在のあり方」 ケンジタキギャラリー(~4/21)
・「後藤靖香:暗号模索」 第一生命南ギャラリー(~4/23)
・「吉田夏奈:Panoramic Forest- Panoramic Lake」 LIXILギャラリー(~4/25)
・「志水児王:Elements」 MISA SHIN GALLERY(~4/28)
・「森千裕:ピンク色の闇」 無人島プロダクション(~4/28)
・「石田尚志展」 TAKA ISHII GALLERY(~4/28)
・「江川純太:さっき見た新しい世界を忘れて、また見る瞬間の」 eitoeiko(~4/28)
・「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう vol.1 山田七菜子」 ギャラリーαM(4/14~5/19)
・「アワートアワードトーキョー丸の内2012」 行幸地下ギャラリー(4/28~5/27)
・「さわひらき:Lineament」 資生堂ギャラリー(4/7~6/17)
・「杉本博司:Five Elements」 ギャラリー小柳(4/3~6/23)
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ブログタイトル改名のお知らせ

いつも拙ブログをご覧くださりどうもありがとうございます。



2004年に何となく始めたこのブログ、だらだらと続けながら早くも8年も経過しましたが、諸々思うこともあり、心機一転、ブログタイトルを改名することにしました。

と言っても変化は殆ど誤差の範囲、ただ「わーど」という文字のとれた「はろるど」です。

「はろるど・わーど」という名も愛着がなかったわけではありませんが、実のところ「はろるど・わーるど」や「はろー・わーるど」などと間違えられることも多く、自分自身でも分かりにくかったのではないかと反省しておりました。

これからは単純明快、ただの「はろるど」です。

「Lord Byron: The Major Works (Oxford World's Classics)/Oxford Univ Pr (T)」

ちなみに「はろるど」という名はイギリスの詩人、ジョージ・ゴードン・バイロン(1788-1824)の物語詩『チャイルド・ハロルドの巡礼』からとりました。

「対訳 バイロン詩集―イギリス詩人選/岩波文庫」

作中においてヨーロッパ各地を旅し、美しい言葉で情景を歌い上げるハロルドですが、そんな彼にあやかって、自分も見たものや聞いたものを何か言葉で残すことが出来ればと思ってつけた名前です。

とは言うもののブログ開設以来、内容も大して進歩せず、いつもながらの勝手気侭に展覧会なりの感想を書いているだけですが、少しでも見て下さる方がいらっしゃる限り、今後とも地道に更新し続けていくつもりです。

また改めましてブログを通してお世話になっている方には深く感謝致申し上げます。本当にありがとうございます。



それでは今後ともこの「はろるど」をご贔屓下さいますようお願い致します。
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