「手塚愛子展 Dear Oblivion―親愛なる忘却へ」 スパイラルガーデン

スパイラルガーデン
「手塚愛子展 Dear Oblivion―親愛なる忘却へ」
2019/9/4~9/18



スパイラルガーデンで開催中の「手塚愛子展 Dear Oblivion―親愛なる忘却へ」を見てきました。

ベルリンを拠点に活動する現代美術家の手塚愛子は、「解体と再構築」(解説より)する手法で織物の作品を制作し、国内外で評価を得てきました。


「華の闇(夜警02)」 2019年

一枚の名画をモチーフにした作品に目を奪われました。それが「華の闇(夜警02)」で、現在、アムステルダムの国立美術館に収蔵されているレンブラントの「夜警」を引用したジャカード織の作品でした。

元になる「夜警」は、1639年、市民隊のバニング・コック隊長と自警団18名が、自らの集団肖像画をレンブラントに依頼したもので、画家は注文通りの18名の自警団を描く代わりに、実に31名もの人物を描きこんでは、肖像画というよりも、ドラマテックな歴史画のような画面を作り上げました。今でこそレンブラント畢竟の傑作として知られるものの、当時、注文した自警団にとっては、必ずしも好意的に受け止められなかったそうです。

一見、夜の景色であるようにも思えますが、後世の洗浄作業などによって、今では昼を描いた作品だと明らかになりました。しかしそれでも元の絵画は暗く、闇から人物が浮かび上がってくるようにも見えなくありません。


「華の闇(夜警02)」(部分) 2019年

それを手塚は自作おいて背景を変化させ、アムステルダム国立美術館の所蔵品を中心としたカラフルなインド更紗に置き換えました。美しい花模様で知られるインド更紗は、オランダ東インド会社の交易によってヨーロッパにもたらされ、早くから室内装飾などで人気を得ていました。手塚の作品は、いわば洋の東西の邂逅、あるいは「夜警」とインド更紗のコラボレーションとも捉え得るのかもしれません。


「京都で織りなおし」 2019年

鮮やかな花々で彩られた「京都で織りなおし」は、明治時代に川島織物(現、川島織物セルコン)によって作られた手織りのテーブルクロスを蘇らせた作品で、かねてより川島織物セルコンと作品を制作してきた手塚が、同社に再制作を持ちかけ、現代の機械織の技術によって再現しました。


「必要性と振る舞い(薩摩ボタンへの考察)」 2019年

一際目立つのが、スパイラルガーデンを特徴付ける螺旋状のスペースに展開した「必要性と振る舞い(薩摩ボタンへの考察)」でした。縦4メートル強、幅9メートルにも迫ろうかとする巨大な作品は宙づりになっていて、ちょうど鳥が翼を広げるかのような形を見せていました。


「必要性と振る舞い(薩摩ボタンへの考察)」(部分) 2019年

ここでは飛鳥時代の天寿国繍帳や水月観音菩薩半跏像の襞、ないし薩摩ボタンのモチーフが層状に積み重ねられていて、十八世紀のヨーロッパボタンと対置させつつ、結び合うように構築させていました。


「必要性と振る舞い(薩摩ボタンへの考察)」(部分) 2019年

なお薩摩ボタンとは、江戸末期から明治にかけて輸出用に生産されたもので、まさに当時の西洋のジャポニスムを意識すべく、日本的な風景や着物姿の女性などが絵付けされていました。そして手塚は薩摩とヨーロッパのボタンを合わせ並べることで、近代の日本と西洋の関係を見据えているのかもしれません。


「親愛なる忘却へ(美子皇后について)」(部分) 2019年

この他、昭憲皇太后の大礼服に着想を得た「親愛なる忘却へ(美子皇后について)」も目を引くのではないでしょうか。昭憲皇太后は初めて洋装を取り入れた皇族で、作品には皇后の読んだ歌も織り込まれていました。


「親愛なる忘却へ(美子皇后について)」(部分) 2019年

スパイラルガーデンとしては実に12年ぶりの「大規模」(リーフレットより)な個展だそうです。私も手塚の作品を一定数まとめて見たのは久しぶりでした。



受付で配布されている無料のリーフレットのテキストが充実していました。お取り忘れなきようにおすすめします。


撮影も可能です。9月18日まで開催されています。

「手塚愛子展 Dear Oblivion—親愛なる忘却へ」 スパイラルガーデン@SPIRAL_jp
会期:2019年9月4日(水)~9月18日(水)
休館:会期中無休
時間:11:00~20:00
料金:無料
住所:港区南青山5-6-23
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅B1出口すぐ。
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