「いちばんやさしい美術鑑賞」 青い日記帳

アートブロガーの草分け的存在で、いつもお世話になっている「青い日記帳」のTak(@taktwi)さんが、8月6日、ちくま新書より「いちばんやさしい美術鑑賞」を上梓されました。

「いちばんやさしい美術鑑賞/青い日記帳/筑摩書房」

「いちばんやさしい美術鑑賞」は、年間、数百の展覧会をご覧になり、日々、ブログ「青い日記帳」を更新されているTakさんが、「美術の骨の髄まで味わいつくす」べく、書かれたもので、構想から2年越し、全250ページにも及ぶ、大変な労作になっています。



内容は、大きく「西洋美術を見る」と、「日本美術を見る」の二本立てで、グエルチーノ、フェルメール、モネ、セザンヌ、ピカソ、それに雪舟、光琳、若冲、松園など、各作家の作品を引用し、Takさんならではの鑑賞のコツ、ないし楽しみ方をまとめていました。全ての作品が、国内の美術館のコレクションであるのも特徴で、本を読んだ上、実際の作品を鑑賞するのにも、あまり障壁はありません。また、おおまかに年代順に取り上げられているため、美術の流れを掴み取ることも出来ました。



はじまりの第1章は、グエルチーノでした。2015年の春に国立西洋美術館で回顧展が開催され、Takさんの言われるように、一般的に「聞いたこともない画家」でありながらも、作品の第一印象を大切して見る点や、キャプションの読み方などについて触れ、画中の「手」こそ、鑑賞のポイントであると書かれています。



いわゆる美術の解説本ではないのが、最大の特徴と言えるかもしれません。前書きに、「素人による素人のための指南書」と記されているように、Takさん独自の視点から、美術の見かたのヒント、ないしコツについてのアドバイスをされています。筑摩書房の編集者である大山悦子さんも、「美術史家の書くことはか書かなくて良い。あくまでも鑑賞術を書いて欲しい。」として、Takさんに執筆を依頼されました。よって、編集の段階で、Takさんの書かれた専門的な内容の部分を、あえて削ることもあったそうです。



そもそも執筆の切っ掛けになったは、先に三菱一号館美術館の高橋明也館長が上梓した「美術館の舞台裏」にありました。ここで、打ち上げと題し、Takさんを交えた飲み会的な会合で、大山さんから新書執筆への依頼がなされました。当初、Takさんも社交辞令と思っていたものの、その後、正式にメールでお願いがあり、書くことを決めたそうです。

元々、大山さんはTakさんのブログを読んでいましたが、「美術館の舞台裏」が、「青い日記帳」に取り上げられたことにより、爆発的に本が売れたと言います。そこで、「青い日記帳」の勢いを目の当たりにした大山さんは、ブロガーでもあるTakさんのような、プロではない視線による美術の本があれば面白いのではないかと思い、筆をとってもらうことになりました。ブログで、「アート好き」が前面に出ていることに、とても好感を持たれていたそうです。



執筆に際しては、まず第1章、すなわちグエルチーノの章から書かれ、一部に構成上の入れ替えがあったものの、順番通りに15章まで書き進められました。第1章が完成した際、大山さんは、率直に面白いと感じられたそうです。また、写真作品(グルスキー)や浮世絵を入れるのかについて、色々と議論があったものの、最終的にはTakさんが書きたい作品で、章立てが決まりました。

しかし、さすがに紆余曲折あり、当初の期日であった2017年の8月末に間に合いませんでした。中でも、第12章の曜変天目は時間がかかり、最後の最後まで取り掛かっていたそうです。しかし、そもそも大山さんは、腰を据えて書くのであれば、新書は2年ほどかかると言い、結果的に、7~8回は熟読の上、校閲へのチェックがなされました。編集に際しては、内容を縮小するよりも、節を入れ替えるなどの、再構成が多かったそうです。

Takさんが、15作品にて、特に好きに書いたのが、第11章の若冲で、セザンヌも積極的に進めたものの、大山さんは面白さを伝えるのが難しいと考えておられたそうです。また、第9章の永徳も楽しく筆が進み、第13章の並河靖之は、当初、大山さんは不要と考えたものの、東京都庭園美術館での展覧会を見て、書いてもらうことが決まりました。元は224ページで構想され、最終的には250ページに達しました。



現代美術では、美人画で有名な池永康晟さんが取り上げられました。ここでTakさんは、池永さんについて、「昔の浮世絵につながる(美人画の伝統や系譜)を現代版にアレンジされている」と言い、美人画に新しい流れが生まれていると指摘されました。第11章の上村松園から、最終、第12章の池永康晟さんへの展開は、美人画の系譜を追う点でも、興味深いかもしれません。

本書の核心は鑑賞のアドバイスにありました。「美術鑑賞は妄想のラビリンス」、「モネ絵画の抜け感」、「たくさん見ることこそ面白さに繋がる」、「複眼的な視点で立体的に鑑賞する」、またあえて「好きか嫌いかで見る」や、「作品の一つの色に着目して見る」、「分からない作品はとことん付き合って見る」、などは、長年、ファンとして美術に接してきた、Takさんならでのオリジナルな視点ではないでしょうか。また、曜変天目には炊きたての白米を盛り付けたいとされるなど、作品から様々なイメージを膨らませて見る点も、面白く感じられました。



また「WEBで一目惚れ」し、実際の作品を見ることの意味を書かれるなど、美術とWEBとの関係にも踏み込まれていました。この辺りは、常日頃、ブログで、美術について書きとめられているTakさんの姿勢が現れているのかもしれません。

本編とあわせて、2つのコラム、「便利な美術鑑賞必需品」と、「美術館の年間パスポート」も、エンタメとしての美術の見かたを知る際に有用でした。クリアファイル、単眼鏡などは、私も常に持ち歩くようにしています。

たまにTakさんと展覧会をご一緒していると、初めから漫然ではなく、要点を絞って見ておられる印象があります。この「いちばんやさしい美術鑑賞」も同様で、温和な語り口ながらも、時に熱が入り、かと思えば、さり気なく脱線的なエピソードを交えるなど、実にメリハリのある内容になっていました。ブログ同様に、読み手を引き込む文章で、相当の量ながらも、最初から最後まで、一気に読むことが出来ました。

編集の大山さんは、本書を読み、やはり「アート鑑賞は作品への愛がないと駄目だということをよく学んだ。」とし、改めて作品を見る面白さを学んだと語っています。そして、新書という形態を取ることで、美術に関心が薄い人にも、気軽に読まれることを望まれました。



なお、内容は前後しますが、本の刊行に際し、「青い日記帳」のTakさんと、編集を担当された筑摩書房の大山悦子さんに、書籍の内容や、刊行へ至った経緯、さらにはTakさんの個人的な美術への関心などについてインタビューしました。

その詳細は、同じくインタビューを行った、@karub_imaliveさんの「あいむあらいぶ」に前後編へ記載されています。

ブログ「青い日記帳」Takさんにいろいろインタビューしてみた!~新書『いちばんやさしい美術鑑賞』出版によせて~(前編)
ブログ「青い日記帳」Takさんにいろいろインタビューしてみた!~新書『いちばんやさしい美術鑑賞』出版によせて~(後編)

2時間以上のロングインタビューとなりましたが、たくさんの興味深いお話をお聞きすることが出来ました。あわせてご覧下さい。(本エントリでもインタビューを反映してあります。)


なお、刊行に合わせ、Takさんのトークショーも、各種、開催されます。

【『いちばんやさしい美術鑑賞』×美術書カタログ『defrag2』ダブル刊行記念トークイベント カリスマ美術ブロガーが語る《もっと美術が好きになる!》】
日時:2018年08月17日(金) 19:30~
出演:中村剛士(アートブログ「青い日記帳」主宰)、ナカムラクニオ( 「6次元」店主・アートディレクター)
会場:ジュンク堂書店池袋本店 9Fギャラリースペース
住所:東京都豊島区南池袋2-15-5
参加費:無料
申込み:要予約。ジュンク堂書店池袋本店1階サービスコーナーもしくは電話(03-5956-6111)にて。
URL:https://honto.jp/store/news/detail_041000026934.html

まずは、ジュンク堂書店池袋本店でのトークで、6次元のナカムラクニオさんを迎え、「いちばんやさしい美術鑑賞」と美術書カタログ「defrag2」について語られます。事前の予約が必要です。(無料)*本イベントは定員に達したため、受付が締め切られました。

【美術館に出かけてみよう! ~いちばんやさしい美術鑑賞~】
日時:2018年8月29日 19:00~20:30
出演:『青い日記帳』Tak氏(中村剛士氏)、株式会社筑摩書房 編集局第一編集室 大山悦子氏
会場:DNPプラザ(市ヶ谷)セミナー会場
住所:東京都新宿区市谷田町1丁目14-1 DNP市谷田町ビル
集客人数:100名(先着順)
参加費:無料
URL:https://rakukatsu.jp/maruzen-event-20180806/

申込みは下記のURLから↓↓
https://peatix.com/event/416560/view

続くのが、「いちばんやさしい美術鑑賞」の編集者である大山悦子さんを迎えてのトークで、本の内容に触れながら、西洋、日本美術を問わず、Takさんおすすめのアート鑑賞法などについて語られます。出版に際しての苦労話などがお聞き出来そうです。


インタビューに際し、Takさんから読者の皆さんへのメッセージを頂戴しました。

takさん:一つのきっかけになってくれればいいなと。これの見方は、正しいとか、正しくないとか、これをしなくちゃいけないと強制的なものではなくて、こんなふうにしたらいいんだよ的な感じで書いてあるので、真似する必要は全然ないんですけど、この本を読んで、もし面白いなと思ったら、実際に絵の前に立って見て下さいね。

まさに、美術鑑賞の見かたを楽しく学び、新たなヒントを与えてくれる「いちばんやさしい美術鑑賞」。私も改めて熟読の上、作品や絵の前に立ってみたいと思いました。

「いちばんやさしい美術鑑賞」(ちくま新書)「青い日記帳」著 
内容:「わからない」にさようなら! 1年に300以上の展覧会を見るカリスマアートブロガーが目からウロコの美術の楽しみ方を教えます。アート鑑賞の質が変わる必読の書。
新書:全256ページ
出版社:筑摩書房
価格:994円(税込)
発売日:2018年8月6日
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