都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「BIOMBO/屏風 日本の美」 サントリー美術館
サントリー美術館(港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン・ガレリア内)
「BIOMBO/屏風 日本の美」
9/1-10/21
明日までサントリー美術館で開催されている「BIOMBO/屏風 日本の美」展です。計7回にもわたる展示替えは鑑賞者にとって全く優しくありませんが、出品されていた屏風はどれも見応えがありました。タイトルのBIOMBOの由来、もしくは展示構成については公式HPをご参照いただくとして、以下、いつものように惹かれた作品を順に挙げていきます。(結局、会期を通して3回ほど足を運びました。)
まずは会期はじめより中盤にかけて展示されていた大作、「泰西王侯騎馬図屏風」(17世紀。9/1~10/1展示。)です。右からペルシア、エチオピア、フランス王アンリ4世、そしてカール5世と思われる人物が、艶やかな衣装を身に纏いながら馬に跨がって勇壮な姿を披露しています。そもそも伝統的な日本の屏風に堂々と西洋人が描かれていることからしてエキゾチックですが、彼らの乗っている塔のような石の舞台などはまさに西洋絵画風です。和洋折衷の奇妙な融合を楽しみました。
エキゾチックといえば、フェリペ2世がトルコを打ち破った戦争をモチーフとする「レバント戦闘図・世界地図屏風」(17世紀。9/1~24展示。)も印象に残ります。右隻には象にのって進むトルコ軍や、橋を渡って進み行くスペイン軍などが入り組んで描かれていますが、右隻の世界地図に登場する15組の各国の人物風俗画も興味深いものがありました。そこにはフランス人など、正装したヨーロッパ人などが描かれる一方で、おそらく南米のものと思われる人種が『人食い人間』として表現されています。オリエンタリズムの極致と言えるのかもしれません。
さて、お祭りの光景を描いた屏風が目につくのもこの展覧会の特徴です。中でもサントリー美術館所蔵の「祇園祭祭礼図屏風」と、同名のケルン東洋美術館蔵の作品、そしてメトロポリタン美術館蔵の「社阿頭図屏風」(全て17世紀。全期間展示。)が一堂に並ぶ様子は圧巻でした。元々この三点は、一枚の襖絵として描かれたものだそうですが、それが屏風になる際に別々に切り離され、さらには海を渡って日・米・欧の各美術館におさめられたという経緯をたどっています。(里帰りの展示です。)また一枚の作品としては狩野内膳の「豊国祭祭礼図屏風」(17世紀。9/16~10/21展示。)も充実しています。祭に講じる人々が精緻に描かれ、見物人らも生き生きとした様子でそれを眺めていました。単眼鏡を片手にじっくり見入りたいような作品です。幾重にも円を描くその行列に祭の熱気を感じます。
狩野派と言えば、金碧障壁画の先例としても知られる元信の「四季花鳥図屏風」(16世紀。10/10~21展示。)を忘れるわけにはいきません。金地と雲霞が渾然一体となって煌めく金色を背景に、力強い鳥や花々が見事なまでに華々しく配されています。また水の青、竹の緑、そして梅や楓の紅も鮮やかで、金に負けないほどの存在感をもって目に飛び込んできました。ちなみに、中期のハイライト的作品でもあった探幽の「桐鳳凰図屏風」(17世紀。10/3~8展示。)は少々期待外れでした。江戸狩野らしく、簡素なスタイルで鳳凰が描かれていますが、枯れた水辺や鳳凰を象る線などは、言ってしまえば主題にも似合わずとても貧相に見えてしまいます。探幽にとってはあまり得意とするモチーフではなかったのかもしれません。
現存する作品が展示品を含めて2、3例ほどしか確認されていないという白屏風こと、「白絵屏風」(18-19世紀。全期間展示。)も見入る作品です。上の画像を見てもお分かりいただけるように、モチーフの全てが胡粉などの白一色で象られています。ちなみにこの屏風は平安期以来、高貴な家などで出産の際などに用いられたものだそうです。だからこそ、鶴や松など、言わばお目出たい主題ばかりで埋め尽くされているのでしょう。
秋草がリズミカルにそよぐ「武蔵野図屏風」(17世紀。9/19~24展示。)もこの時期にピッタリの名品でした。非常に細い線で描かれた草が生い茂り、その奥には雲霞より顔のつき出す富士の姿を眺めることが出来ます。風雅でありながらも、その趣きは幽玄です。ただならぬ気配を感じさせています。
タイミング悪く「日月山水図屏風」を見られなかったのが心残りでした。ちなみにこの展覧会は今月末より大阪へ巡回します。そちらでも複雑な展示替えがあるかどうかは不明ですが、貴重な屏風の数々を総覧出来る良い機会となりそうです。(大阪市立美術館:10/30~12/16)
サントリー美術館での展示は明日までです。展示方法の問題を除けば、非常に高く評価すべき展覧会だと思います。(9/22、10/6、10/19)
「BIOMBO/屏風 日本の美」
9/1-10/21
明日までサントリー美術館で開催されている「BIOMBO/屏風 日本の美」展です。計7回にもわたる展示替えは鑑賞者にとって全く優しくありませんが、出品されていた屏風はどれも見応えがありました。タイトルのBIOMBOの由来、もしくは展示構成については公式HPをご参照いただくとして、以下、いつものように惹かれた作品を順に挙げていきます。(結局、会期を通して3回ほど足を運びました。)
まずは会期はじめより中盤にかけて展示されていた大作、「泰西王侯騎馬図屏風」(17世紀。9/1~10/1展示。)です。右からペルシア、エチオピア、フランス王アンリ4世、そしてカール5世と思われる人物が、艶やかな衣装を身に纏いながら馬に跨がって勇壮な姿を披露しています。そもそも伝統的な日本の屏風に堂々と西洋人が描かれていることからしてエキゾチックですが、彼らの乗っている塔のような石の舞台などはまさに西洋絵画風です。和洋折衷の奇妙な融合を楽しみました。
エキゾチックといえば、フェリペ2世がトルコを打ち破った戦争をモチーフとする「レバント戦闘図・世界地図屏風」(17世紀。9/1~24展示。)も印象に残ります。右隻には象にのって進むトルコ軍や、橋を渡って進み行くスペイン軍などが入り組んで描かれていますが、右隻の世界地図に登場する15組の各国の人物風俗画も興味深いものがありました。そこにはフランス人など、正装したヨーロッパ人などが描かれる一方で、おそらく南米のものと思われる人種が『人食い人間』として表現されています。オリエンタリズムの極致と言えるのかもしれません。
さて、お祭りの光景を描いた屏風が目につくのもこの展覧会の特徴です。中でもサントリー美術館所蔵の「祇園祭祭礼図屏風」と、同名のケルン東洋美術館蔵の作品、そしてメトロポリタン美術館蔵の「社阿頭図屏風」(全て17世紀。全期間展示。)が一堂に並ぶ様子は圧巻でした。元々この三点は、一枚の襖絵として描かれたものだそうですが、それが屏風になる際に別々に切り離され、さらには海を渡って日・米・欧の各美術館におさめられたという経緯をたどっています。(里帰りの展示です。)また一枚の作品としては狩野内膳の「豊国祭祭礼図屏風」(17世紀。9/16~10/21展示。)も充実しています。祭に講じる人々が精緻に描かれ、見物人らも生き生きとした様子でそれを眺めていました。単眼鏡を片手にじっくり見入りたいような作品です。幾重にも円を描くその行列に祭の熱気を感じます。
狩野派と言えば、金碧障壁画の先例としても知られる元信の「四季花鳥図屏風」(16世紀。10/10~21展示。)を忘れるわけにはいきません。金地と雲霞が渾然一体となって煌めく金色を背景に、力強い鳥や花々が見事なまでに華々しく配されています。また水の青、竹の緑、そして梅や楓の紅も鮮やかで、金に負けないほどの存在感をもって目に飛び込んできました。ちなみに、中期のハイライト的作品でもあった探幽の「桐鳳凰図屏風」(17世紀。10/3~8展示。)は少々期待外れでした。江戸狩野らしく、簡素なスタイルで鳳凰が描かれていますが、枯れた水辺や鳳凰を象る線などは、言ってしまえば主題にも似合わずとても貧相に見えてしまいます。探幽にとってはあまり得意とするモチーフではなかったのかもしれません。
現存する作品が展示品を含めて2、3例ほどしか確認されていないという白屏風こと、「白絵屏風」(18-19世紀。全期間展示。)も見入る作品です。上の画像を見てもお分かりいただけるように、モチーフの全てが胡粉などの白一色で象られています。ちなみにこの屏風は平安期以来、高貴な家などで出産の際などに用いられたものだそうです。だからこそ、鶴や松など、言わばお目出たい主題ばかりで埋め尽くされているのでしょう。
秋草がリズミカルにそよぐ「武蔵野図屏風」(17世紀。9/19~24展示。)もこの時期にピッタリの名品でした。非常に細い線で描かれた草が生い茂り、その奥には雲霞より顔のつき出す富士の姿を眺めることが出来ます。風雅でありながらも、その趣きは幽玄です。ただならぬ気配を感じさせています。
タイミング悪く「日月山水図屏風」を見られなかったのが心残りでした。ちなみにこの展覧会は今月末より大阪へ巡回します。そちらでも複雑な展示替えがあるかどうかは不明ですが、貴重な屏風の数々を総覧出来る良い機会となりそうです。(大阪市立美術館:10/30~12/16)
サントリー美術館での展示は明日までです。展示方法の問題を除けば、非常に高く評価すべき展覧会だと思います。(9/22、10/6、10/19)
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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本当に素晴らしい屏風の展覧会でした。
私も3回通いましたが、
見逃したものがあって、残念です。
会員になったので、何度も通えると思えたのも
よかったです。
沢山見所ありすぎて、頭の中一杯一杯になってしまいました。
お片づけも大変でしょうねぇ~
>私も3回通いましたが、
見逃したものがあって、残念です。
3度行かれましたか。屏風は大きいですし、場所もとりますから、もっと大きな会場でないと一度で見るのは難しいのでしょうね。大阪会場での展示替えがどのようになるのかが気になります。
>沢山見所ありすぎて、頭の中一杯一杯になってしまいました。
同感です。屏風は大好きなもので、お腹がいっぱいにもなりました!