都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「さいたまトリエンナーレ2016」 さいたま市内各会場(与野本町駅、武蔵浦和駅~中浦和駅周辺)
さいたま市内各会場
「さいたまトリエンナーレ2016」
9/24~12/11
岩槻駅、大宮駅周辺会場に続きます。「さいたまトリエンナーレ2016」に行ってきました。
「さいたまトリエンナーレ2016」 さいたま市内各会場(岩槻駅~大宮駅周辺)
大宮の展示を一通り見終えた後は、埼京線に乗車し、次の目的地へと向かいました。行き先は与野本町です。
「彩の国さいたま芸術劇場」
与野本町の会場は1つ。彩の国さいたま芸術劇場です。駅西口より南下。約7~8分ほど歩いた住宅地の中にあります。
チェ・ジョンファ「息をする花」
作家は韓国のチェ・ジョンファ。2点のインスタレーションを出品しています。花を象ったのが「息をする花」でした。素材は布。息をするとあるように、風の力を借りては伸縮します。まるで花が生きているかのようです。
チェ・ジョンファ「ハッピーハッピー」
もう1つが「ハッピーハッピー」でした。天井からぶら下がるのは無数の日用品です。洗濯かごやゴミ箱、それにカラーコーンなどが連なっています。全100本。この夏に市内のワークショップで制作されたそうです。ちなみに彩の国会場はこの2つのみでした。いささか物足りない印象は否めないかもしれません。
ラストは中浦和から武蔵浦和の一帯です。両駅の間に複数の会場が分散しています。与野本町側に近い中浦和で下車。歩きながら武蔵浦和を目指すことにしました。
日比野克彦「種は船プロジェクトinさいたま」
まずは別所沼公園の日比野克彦です。ヒヤシンスハウスの中では日比野が昨年に手がけた「種は船プロジェクト」の映像が上映されています。
日比野克彦「種は船プロジェクトinさいたま」
そのプロジェクトの成果が沼に浮かぶ「種は船」です。2隻とも朝顔の種の形をしています。名は「Saitori 丸」と「別所沼丸」でした。種が土地の記憶を紡いで芽を出すのと同様、船もまた行く先々の記憶を呼び込んでは新しい土地へ伝える役割を担っています。そのように日比野は考えているそうです。
それにしても別所沼、大変に居心地の良い公園でした。トリエンナーレとは関係なく、沼に釣り糸を垂らしたり、園内を散歩して過ごす方などを多く見かけます。地元の方の憩いの場なのでしょう。のんびりとした時間が流れていました。
別所沼公園から武蔵浦和へのアプローチそのものもトリエンナーレの会場です。
ダニエル・グェティン「STATION TO STATION」
ダニエル・グェティンは公園からの歩道橋、さらにその先の「花と緑の散歩道」を、テーマカラーであるオレンジと青色で彩りました。
ダニエル・グェティン「STATION TO STATION」
「STATION TO STATION」です。桜並木の小道には色鮮やかなゲートを設置。腰掛けることも可能なベンチもあります。
ウィスット・ポンニミット「時間の道」
またポンニミットの「マムアンちゃん」のキャラクターのサインも随所に点在しています。通常の看板にもう一枚、マムアンちゃんの一言が加わります。さりげない言葉に空想を膨らませるのも楽しいかもしれません。
アイガルス・ビクシェ「さいたまビジネスマン」
おそらくSNS関連で最も写真があがっている作品ではないでしょうか。アイガルス・ビクシェの「さいたまビジネスマン」です。ちょうど埼京線の線路の際、高架下の公園で寝そべる巨大な人物像。スーツを着ては頭に手を当てています。
アイガルス・ビクシェ「さいたまビジネスマン」
全長は9.5メートルです。さすがに目立ちます。スーツの表面に無数の蜘蛛や蠅のオブジェがたかっていました。ネクタイは黒です。喪服のようにも見えなくはありません。涅槃像から着想を得た作品だそうです。
「旧部長公舎」会場入口
武蔵浦和界隈で最も展示が多いのは旧部長公舎です。かつてはさいたま市の官舎として整備された施設。4つの住居からなっています。
高田安規子・政子「土地の記憶を辿って」
ユニットで活動する高田安規子・政子は、さいたまの地歴に因んだインスタレーションを展開しました。「土地の記憶を辿って」です。太古の昔、さいたまには海が広がっていました。その証でもある貝や貝塚、さらには海岸線の地図をモチーフとして取り込んでいます。
高田安規子・政子「土地の記憶を辿って」
また見沼田んぼの絶滅危惧種や、周囲の林に生息する樹木の種にも注目。いずれも障子や壁紙、さらにはガラス窓などの建具に描きました。
鈴木桃子「アンタイトルド・ドローイング・プロジェクト」
住居そのものをドローイングで埋め尽くそうとしているのでしょうか。鈴木桃子の「アンタイトルド・ドローイング・プロジェクト」です。内装は床から壁に至るまで全てが真っ白。そこに作家本人が鉛筆によってドローイングを描いています。
鈴木桃子「アンタイトルド・ドローイング・プロジェクト」
会期中も作家が手を加え続けているそうです。つまり形は刻々と変化します。しかも最後は「何もない空間」に戻すという試みです。確かに無数の消しゴムが用意されていました。これを使って11月頃から観客とともに消す作業に入るそうです。まさに生々流転、最後は全てが無に帰します。
松田正隆+遠藤幹大+三上亮「家と出来事 1971-2006年の会話」
演劇、映画、美術の協働によるインスタレーションです。劇作家の松田正隆、映画監督の遠藤幹大、アーティストの三上亮は、部長公舎の場の記憶を紡ぐ戯曲を制作しました。
松田正隆+遠藤幹大+三上亮「家と出来事 1971-2006年の会話」
戯曲といえども演者は声。つまり公舎で行われた生活なりを音声を用いて上演しているわけです。使い古しのワープロにはスイッチが入り、キッチンにも明かりが灯っています。調度品は古い。中にはレコードもありました。不在の空間に人の気配が感じられます。まるでつい今まで生活していたかのようです。
松田正隆+遠藤幹大+三上亮「家と出来事 1971-2006年の会話」(ベランダより新幹線の高架方向を望む)
場所を変えると声は変化。日常のささやかな物語が進展します。ベランダでもイヤホンを使った作品がありました。旧部長公舎は高台です。ふと新幹線について語る声が聞こえてきました。すると彼方の高架上を実際に新幹線が走ります。もちろん偶然に過ぎませんが、なんとも不思議な感覚を覚えました。
「旧部長公舎」会場入口
部長公舎では写真家の野口里佳も出展。映像と写真を交えての展開です。野口自身、さいたま市の生まれだそうです。同地に因んだ初期作も展示されていました。(野口里佳の展示は撮影不可。)
ダニエル・グェティン「STATION TO STATION」
この後は再び「花と緑の散歩道」へと戻り、ダニエル・グェティンのゲートを潜っては武蔵浦和駅へと歩き、トリエンナーレの観覧を一通り終えました。
結局、朝10時に岩槻に入り、大宮から与野本町、武蔵浦和へと廻って、最後に見終えたのは16時頃でした。岩槻の旧民俗文化センターが事実上のメイン会場です。次いで武蔵浦和の部長公舎が充実しています。反面、ほかの会場は作品数が多くはありません。今回は浦和、西浦和の会場には行きませんでした。
「NEW VISION SAITAMA5 迫り出す身体」@埼玉県立近代美術館 9月17日 (土) ~11月14日 (日)
観覧のスピードには個人差がありますが、展示のみであれば1日で十分に廻れると思います。またややタイトなスケジュールになるやもしれませんが、埼玉県立近代美術館の「NEW VISION SAITAMA5」がなかなか見応えがあります。トリエンナーレとは直接関係ありませんが、現代美術の展覧会です。北浦和を挟んで廻るのも面白いかもしれません。
ウィスット・ポンニミット「さいたマムアン」
どの会場も大変に空いていました。次回開催に向けては議論もありそうですが、待ち時間などは一切ありません。スムーズに観覧出来ました。
「さいたまトリエンナーレ2016公式ガイドブック/メディアパルムック」
一部の公演を除き、無料です。12月11日まで開催されています。
「さいたまトリエンナーレ2016」(@SaitamaTriennal) さいたま市内各会場(与野本町駅~大宮駅周辺、武蔵浦和駅~中浦和駅周辺、岩槻駅周辺)
会期:9月24日(土)~12月11日(日)
休館:水曜日。
*但し11月23日(水・祝)は開場、翌11月24日(木)は閉場。
時間:10:00~18:00
*入場は閉場の30分前まで。
料金:無料。(但し、一部の公演、上映を除く。)
住所:さいたま市中央区上峰3-15-1(彩の国さいたま芸術劇場)、さいたま市南区別所4-12-10(別所沼公園)、さいたま市南区鹿手袋3-14(西南さくら公園)、さいたま市南区別所2-39-1(旧部長公舎)
交通:JR線与野本町駅西口より徒歩7分(彩の国さいたま芸術劇場)、JR線中浦和駅より徒歩5分(別所沼公園)、JR線武蔵浦和駅より徒歩8分(西南さくら公園)、JR線武蔵浦和駅より徒歩11分(旧部長公舎)。
「さいたまトリエンナーレ2016」
9/24~12/11
岩槻駅、大宮駅周辺会場に続きます。「さいたまトリエンナーレ2016」に行ってきました。
「さいたまトリエンナーレ2016」 さいたま市内各会場(岩槻駅~大宮駅周辺)
大宮の展示を一通り見終えた後は、埼京線に乗車し、次の目的地へと向かいました。行き先は与野本町です。
「彩の国さいたま芸術劇場」
与野本町の会場は1つ。彩の国さいたま芸術劇場です。駅西口より南下。約7~8分ほど歩いた住宅地の中にあります。
チェ・ジョンファ「息をする花」
作家は韓国のチェ・ジョンファ。2点のインスタレーションを出品しています。花を象ったのが「息をする花」でした。素材は布。息をするとあるように、風の力を借りては伸縮します。まるで花が生きているかのようです。
チェ・ジョンファ「ハッピーハッピー」
もう1つが「ハッピーハッピー」でした。天井からぶら下がるのは無数の日用品です。洗濯かごやゴミ箱、それにカラーコーンなどが連なっています。全100本。この夏に市内のワークショップで制作されたそうです。ちなみに彩の国会場はこの2つのみでした。いささか物足りない印象は否めないかもしれません。
ラストは中浦和から武蔵浦和の一帯です。両駅の間に複数の会場が分散しています。与野本町側に近い中浦和で下車。歩きながら武蔵浦和を目指すことにしました。
日比野克彦「種は船プロジェクトinさいたま」
まずは別所沼公園の日比野克彦です。ヒヤシンスハウスの中では日比野が昨年に手がけた「種は船プロジェクト」の映像が上映されています。
日比野克彦「種は船プロジェクトinさいたま」
そのプロジェクトの成果が沼に浮かぶ「種は船」です。2隻とも朝顔の種の形をしています。名は「Saitori 丸」と「別所沼丸」でした。種が土地の記憶を紡いで芽を出すのと同様、船もまた行く先々の記憶を呼び込んでは新しい土地へ伝える役割を担っています。そのように日比野は考えているそうです。
それにしても別所沼、大変に居心地の良い公園でした。トリエンナーレとは関係なく、沼に釣り糸を垂らしたり、園内を散歩して過ごす方などを多く見かけます。地元の方の憩いの場なのでしょう。のんびりとした時間が流れていました。
別所沼公園から武蔵浦和へのアプローチそのものもトリエンナーレの会場です。
ダニエル・グェティン「STATION TO STATION」
ダニエル・グェティンは公園からの歩道橋、さらにその先の「花と緑の散歩道」を、テーマカラーであるオレンジと青色で彩りました。
ダニエル・グェティン「STATION TO STATION」
「STATION TO STATION」です。桜並木の小道には色鮮やかなゲートを設置。腰掛けることも可能なベンチもあります。
ウィスット・ポンニミット「時間の道」
またポンニミットの「マムアンちゃん」のキャラクターのサインも随所に点在しています。通常の看板にもう一枚、マムアンちゃんの一言が加わります。さりげない言葉に空想を膨らませるのも楽しいかもしれません。
アイガルス・ビクシェ「さいたまビジネスマン」
おそらくSNS関連で最も写真があがっている作品ではないでしょうか。アイガルス・ビクシェの「さいたまビジネスマン」です。ちょうど埼京線の線路の際、高架下の公園で寝そべる巨大な人物像。スーツを着ては頭に手を当てています。
アイガルス・ビクシェ「さいたまビジネスマン」
全長は9.5メートルです。さすがに目立ちます。スーツの表面に無数の蜘蛛や蠅のオブジェがたかっていました。ネクタイは黒です。喪服のようにも見えなくはありません。涅槃像から着想を得た作品だそうです。
「旧部長公舎」会場入口
武蔵浦和界隈で最も展示が多いのは旧部長公舎です。かつてはさいたま市の官舎として整備された施設。4つの住居からなっています。
高田安規子・政子「土地の記憶を辿って」
ユニットで活動する高田安規子・政子は、さいたまの地歴に因んだインスタレーションを展開しました。「土地の記憶を辿って」です。太古の昔、さいたまには海が広がっていました。その証でもある貝や貝塚、さらには海岸線の地図をモチーフとして取り込んでいます。
高田安規子・政子「土地の記憶を辿って」
また見沼田んぼの絶滅危惧種や、周囲の林に生息する樹木の種にも注目。いずれも障子や壁紙、さらにはガラス窓などの建具に描きました。
鈴木桃子「アンタイトルド・ドローイング・プロジェクト」
住居そのものをドローイングで埋め尽くそうとしているのでしょうか。鈴木桃子の「アンタイトルド・ドローイング・プロジェクト」です。内装は床から壁に至るまで全てが真っ白。そこに作家本人が鉛筆によってドローイングを描いています。
鈴木桃子「アンタイトルド・ドローイング・プロジェクト」
会期中も作家が手を加え続けているそうです。つまり形は刻々と変化します。しかも最後は「何もない空間」に戻すという試みです。確かに無数の消しゴムが用意されていました。これを使って11月頃から観客とともに消す作業に入るそうです。まさに生々流転、最後は全てが無に帰します。
松田正隆+遠藤幹大+三上亮「家と出来事 1971-2006年の会話」
演劇、映画、美術の協働によるインスタレーションです。劇作家の松田正隆、映画監督の遠藤幹大、アーティストの三上亮は、部長公舎の場の記憶を紡ぐ戯曲を制作しました。
松田正隆+遠藤幹大+三上亮「家と出来事 1971-2006年の会話」
戯曲といえども演者は声。つまり公舎で行われた生活なりを音声を用いて上演しているわけです。使い古しのワープロにはスイッチが入り、キッチンにも明かりが灯っています。調度品は古い。中にはレコードもありました。不在の空間に人の気配が感じられます。まるでつい今まで生活していたかのようです。
松田正隆+遠藤幹大+三上亮「家と出来事 1971-2006年の会話」(ベランダより新幹線の高架方向を望む)
場所を変えると声は変化。日常のささやかな物語が進展します。ベランダでもイヤホンを使った作品がありました。旧部長公舎は高台です。ふと新幹線について語る声が聞こえてきました。すると彼方の高架上を実際に新幹線が走ります。もちろん偶然に過ぎませんが、なんとも不思議な感覚を覚えました。
「旧部長公舎」会場入口
部長公舎では写真家の野口里佳も出展。映像と写真を交えての展開です。野口自身、さいたま市の生まれだそうです。同地に因んだ初期作も展示されていました。(野口里佳の展示は撮影不可。)
ダニエル・グェティン「STATION TO STATION」
この後は再び「花と緑の散歩道」へと戻り、ダニエル・グェティンのゲートを潜っては武蔵浦和駅へと歩き、トリエンナーレの観覧を一通り終えました。
結局、朝10時に岩槻に入り、大宮から与野本町、武蔵浦和へと廻って、最後に見終えたのは16時頃でした。岩槻の旧民俗文化センターが事実上のメイン会場です。次いで武蔵浦和の部長公舎が充実しています。反面、ほかの会場は作品数が多くはありません。今回は浦和、西浦和の会場には行きませんでした。
「NEW VISION SAITAMA5 迫り出す身体」@埼玉県立近代美術館 9月17日 (土) ~11月14日 (日)
観覧のスピードには個人差がありますが、展示のみであれば1日で十分に廻れると思います。またややタイトなスケジュールになるやもしれませんが、埼玉県立近代美術館の「NEW VISION SAITAMA5」がなかなか見応えがあります。トリエンナーレとは直接関係ありませんが、現代美術の展覧会です。北浦和を挟んで廻るのも面白いかもしれません。
ウィスット・ポンニミット「さいたマムアン」
どの会場も大変に空いていました。次回開催に向けては議論もありそうですが、待ち時間などは一切ありません。スムーズに観覧出来ました。
「さいたまトリエンナーレ2016公式ガイドブック/メディアパルムック」
一部の公演を除き、無料です。12月11日まで開催されています。
「さいたまトリエンナーレ2016」(@SaitamaTriennal) さいたま市内各会場(与野本町駅~大宮駅周辺、武蔵浦和駅~中浦和駅周辺、岩槻駅周辺)
会期:9月24日(土)~12月11日(日)
休館:水曜日。
*但し11月23日(水・祝)は開場、翌11月24日(木)は閉場。
時間:10:00~18:00
*入場は閉場の30分前まで。
料金:無料。(但し、一部の公演、上映を除く。)
住所:さいたま市中央区上峰3-15-1(彩の国さいたま芸術劇場)、さいたま市南区別所4-12-10(別所沼公園)、さいたま市南区鹿手袋3-14(西南さくら公園)、さいたま市南区別所2-39-1(旧部長公舎)
交通:JR線与野本町駅西口より徒歩7分(彩の国さいたま芸術劇場)、JR線中浦和駅より徒歩5分(別所沼公園)、JR線武蔵浦和駅より徒歩8分(西南さくら公園)、JR線武蔵浦和駅より徒歩11分(旧部長公舎)。
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