都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ヴォルフガング・ティルマンス Your Body is Yours」 国立国際美術館
国立国際美術館
「ヴォルフガング・ティルマンス Your Body is Yours」
7/25-9/23
国立国際美術館で開催中の「ヴォルフガング・ティルマンス Your Body is Yours」を見てきました。
ドイツ出身の写真家、ヴォルフガング・ティルマンス(1968~)。少なくとも私が以前、ティルマンスの作品をまとめて見たのは2005年。東京国立近代美術館で行われた「ドイツ写真の現在」のことでした。
さらに遡ればその1年前。2004年には東京オペラシティアートギャラリーでも大規模な個展がありました。いわゆる「日常的な光景をとらえた写真」を「額装を施さずにまるでイメージが泳ぐがごとく自由に展示する」ティルマンスの手法。確か初台でもそのような展示でした。当時、私はともかくも溢れんばかりの写真のイメージに翻弄され、また掴み損ね、殆ど途方に暮れてしまったことを記憶しています。*「」内は国立国際美術館のサイトより
率直なところさほど好きな写真家ではなかったかもしれません。ただし初台の個展が深く印象に残ったのも事実です。いつかまた見る機会あればと、心のどこかで思っていました。
前置きが長くなりました。何と国内の美術館では11年ぶりの個展です。作品は近作、新作をあわせて計200点。会場のデザインはティルマンス自身です。一部映像を交えてのインスタレーションを展開していました。
さて吹き抜けも特徴的な国立国際美術館の広大な地下スペース。一人の写真家が今回ほど効果的に展示を成したこともあまりなかったかもしれません。
入口正面にはテレビの放送終了後の砂嵐。そこから右と左に部屋が続いていますが、そもそもどちらから進めば良いのかも曖昧です。大小様々なホワイトキューブには裸の男、人体の一部、いわゆるポートレート、観葉植物のある室内、おそらくはオフィス、道端の草、車のヘッドライト、運転中のハンドル、ボートを漕ぐ人々、果物や食べ物、PC上の画像、エアコンのダクト、ゴミ、天体、光。もう書ききれません。確かに時に日常的ではあるものの、おおよそ人が捉え得るであろう現象なり世界が、一見するところは無作為なまでに写されています。おそるべき観察眼です。細部も部分も全体も分け隔てがありません。もちろん写真自体の大きさも様々です。キャプションこそあるものの、それが何を表すのか分からないことも少なくありません。
ただそれこそ脈絡のないような文脈ながら、どこか互いに関係し合い、そうでないようにも見えます。これぞティスマンス、面目躍如です。受け止められないほどの多量なイメージ。相変わらず順路も分からず、展示室を進んだり、戻ったりしていました。するとふと開けた景色が愛おしく、また一部は美しくも見えてくるのです。日常にかくも際立った光景が潜んでいたのでしょうか。ティスマンスの写真を通すと日常には多様なドラマがあり、驚きがあり、また意外な発見がある。気がつかされることは少なくありません。
セクシャリティーへの問題意識も持つティスマンス。私の思い違いでなければ、今回はより社会的、政治的な現象に関心が向けられていたのではないでしょうか。たとえば現在、大いに議論のある安全保障の問題。大阪でしょうか。反対デモを写しています。また政治や戦争の新聞記事の切り抜きや、ネット上のブログ記事なども捉えていました。そしてそこに突如、一面の青や赤などの抽象的色面が介在します。まるで現実を写真でコラージュしたかのような展開。カオスと言っても良いかもしれません。ただ考えてみれば現実はそういうものかもしれません。そもそも何もかもが膨大で捉えきれない。社会や現象は常に秩序立ち、また理解しやすく、体系だっているわけではないのです。
しばらく会場を巡っていると不思議と自分の中でティスマンスに対する意識が変わっていることに気がつきました。相変わらず氾濫するばかりのイメージの中に投げ込まれたとはいえ、端的に面白く、また考えさせられ、さらに刺激的でもある。魅せられたと言っても良いかもしれません。写真を前にして自らを振り返る。ここ10年で何が異なり、何が変わったのでしょうか。
展示室はさながら世界のありとあらゆる現象が漂った大海原。答えもなく、出口もないかもしれません。ただしそこを右往左往、彷徨って歩くことが、現実を知る一つの切っ掛けにもなり得る。もちろん思い過ごしかもしれません。ただしどこかかけがえのない体験をしているような気がしてなりませんでした。
「複雑な世界のレイヤーを写し出す、ヴォルフガング・ティルマンス。」(casabrutus)
「ヴォルフガング・ティルマンス 独占フォトストーリー&インタヴュー」(wired.jp)
長らく作成中であったカタログが8月末になってようやく完成したそうです。現在は同館の公式サイト(展覧会図録)より通販で取り寄せることも出来ます。なお本展の巡回はありません。
「Wolfgang Tillmans Neue Welt/Taschen America Llc」
漠然とした感想で恐縮ですが、私はおすすめしたいと思います。9月23日まで開催されています。
「ヴォルフガング・ティルマンス Your Body is Yours」 国立国際美術館(@nmaoJP)
会期:7月25日(土)~9月23日(水・祝)
休館:月曜日。但し9月21日(月・祝)は開館。
時間:10:00~17:00 *金曜は19時まで。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般900(600)円、大学生500(250)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*同時開催の「他人の時間」との共通チケットあり。
住所:大阪市北区中之島4-2-55
交通:京阪中之島線渡辺橋駅2番出口より徒歩約5分。地下鉄四つ橋線肥後橋駅3番出口より徒歩約10分。
「ヴォルフガング・ティルマンス Your Body is Yours」
7/25-9/23
国立国際美術館で開催中の「ヴォルフガング・ティルマンス Your Body is Yours」を見てきました。
ドイツ出身の写真家、ヴォルフガング・ティルマンス(1968~)。少なくとも私が以前、ティルマンスの作品をまとめて見たのは2005年。東京国立近代美術館で行われた「ドイツ写真の現在」のことでした。
さらに遡ればその1年前。2004年には東京オペラシティアートギャラリーでも大規模な個展がありました。いわゆる「日常的な光景をとらえた写真」を「額装を施さずにまるでイメージが泳ぐがごとく自由に展示する」ティルマンスの手法。確か初台でもそのような展示でした。当時、私はともかくも溢れんばかりの写真のイメージに翻弄され、また掴み損ね、殆ど途方に暮れてしまったことを記憶しています。*「」内は国立国際美術館のサイトより
率直なところさほど好きな写真家ではなかったかもしれません。ただし初台の個展が深く印象に残ったのも事実です。いつかまた見る機会あればと、心のどこかで思っていました。
前置きが長くなりました。何と国内の美術館では11年ぶりの個展です。作品は近作、新作をあわせて計200点。会場のデザインはティルマンス自身です。一部映像を交えてのインスタレーションを展開していました。
さて吹き抜けも特徴的な国立国際美術館の広大な地下スペース。一人の写真家が今回ほど効果的に展示を成したこともあまりなかったかもしれません。
入口正面にはテレビの放送終了後の砂嵐。そこから右と左に部屋が続いていますが、そもそもどちらから進めば良いのかも曖昧です。大小様々なホワイトキューブには裸の男、人体の一部、いわゆるポートレート、観葉植物のある室内、おそらくはオフィス、道端の草、車のヘッドライト、運転中のハンドル、ボートを漕ぐ人々、果物や食べ物、PC上の画像、エアコンのダクト、ゴミ、天体、光。もう書ききれません。確かに時に日常的ではあるものの、おおよそ人が捉え得るであろう現象なり世界が、一見するところは無作為なまでに写されています。おそるべき観察眼です。細部も部分も全体も分け隔てがありません。もちろん写真自体の大きさも様々です。キャプションこそあるものの、それが何を表すのか分からないことも少なくありません。
ただそれこそ脈絡のないような文脈ながら、どこか互いに関係し合い、そうでないようにも見えます。これぞティスマンス、面目躍如です。受け止められないほどの多量なイメージ。相変わらず順路も分からず、展示室を進んだり、戻ったりしていました。するとふと開けた景色が愛おしく、また一部は美しくも見えてくるのです。日常にかくも際立った光景が潜んでいたのでしょうか。ティスマンスの写真を通すと日常には多様なドラマがあり、驚きがあり、また意外な発見がある。気がつかされることは少なくありません。
セクシャリティーへの問題意識も持つティスマンス。私の思い違いでなければ、今回はより社会的、政治的な現象に関心が向けられていたのではないでしょうか。たとえば現在、大いに議論のある安全保障の問題。大阪でしょうか。反対デモを写しています。また政治や戦争の新聞記事の切り抜きや、ネット上のブログ記事なども捉えていました。そしてそこに突如、一面の青や赤などの抽象的色面が介在します。まるで現実を写真でコラージュしたかのような展開。カオスと言っても良いかもしれません。ただ考えてみれば現実はそういうものかもしれません。そもそも何もかもが膨大で捉えきれない。社会や現象は常に秩序立ち、また理解しやすく、体系だっているわけではないのです。
しばらく会場を巡っていると不思議と自分の中でティスマンスに対する意識が変わっていることに気がつきました。相変わらず氾濫するばかりのイメージの中に投げ込まれたとはいえ、端的に面白く、また考えさせられ、さらに刺激的でもある。魅せられたと言っても良いかもしれません。写真を前にして自らを振り返る。ここ10年で何が異なり、何が変わったのでしょうか。
展示室はさながら世界のありとあらゆる現象が漂った大海原。答えもなく、出口もないかもしれません。ただしそこを右往左往、彷徨って歩くことが、現実を知る一つの切っ掛けにもなり得る。もちろん思い過ごしかもしれません。ただしどこかかけがえのない体験をしているような気がしてなりませんでした。
「複雑な世界のレイヤーを写し出す、ヴォルフガング・ティルマンス。」(casabrutus)
「ヴォルフガング・ティルマンス 独占フォトストーリー&インタヴュー」(wired.jp)
長らく作成中であったカタログが8月末になってようやく完成したそうです。現在は同館の公式サイト(展覧会図録)より通販で取り寄せることも出来ます。なお本展の巡回はありません。
「Wolfgang Tillmans Neue Welt/Taschen America Llc」
漠然とした感想で恐縮ですが、私はおすすめしたいと思います。9月23日まで開催されています。
「ヴォルフガング・ティルマンス Your Body is Yours」 国立国際美術館(@nmaoJP)
会期:7月25日(土)~9月23日(水・祝)
休館:月曜日。但し9月21日(月・祝)は開館。
時間:10:00~17:00 *金曜は19時まで。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般900(600)円、大学生500(250)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*同時開催の「他人の時間」との共通チケットあり。
住所:大阪市北区中之島4-2-55
交通:京阪中之島線渡辺橋駅2番出口より徒歩約5分。地下鉄四つ橋線肥後橋駅3番出口より徒歩約10分。
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