都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「あざみ野コンテンポラリーvol.2 Viewpoints」 横浜市民ギャラリーあざみ野
横浜市民ギャラリーあざみ野
「あざみ野コンテンポラリーvol.2 Viewpoints いま『描く』ということ」
2/4-2/26
今年もあざみ野の季節の到来です。横浜市民ギャラリーあざみ野で開催中の「あざみ野コンテンポラリーvol.2 Viewpoints いま『描く』ということ」へ行ってきました。
昨年よりアートの「今」を紹介するシリーズとしてはじまったグループ展ですが、去年の「映像」より一転、今年はテーマを「描く」に据え、新進気鋭の若手アーティスト計4名の様々な作品を展示しています。
出品作家は以下の通りです。
淺井裕介、椛田ちひろ、桑久保徹、吉田夏奈
このところ展示機会も多いフレッシュなメンバーと言えるのではないでしょうか。見応えは十分でした。
さて会期初日、淺井裕介と椛田ちひろのトークが行われました。そちらを中心に展示の様子をまとめたいと思います。
まずは最近、東京都現代美術館での公開制作でも注目された淺井裕介です。街中でのライブ・ドローイングでも知られる淺井ですが、今回は幅広いジャンルの作品を提示することで、これまでの足跡を辿るような展示を行っています。
淺井裕介「文字の樹」(2012)
冒頭、直接壁に描かれた「文字卵」(2012)の素材は、ずばり本展のタイトル文字、「Viewpoints」を切り抜いたものです。浅井はこうした「文字の樹」シリーズでカッティングの手法を用いた作品を制作していますが、今回もこうしたタイトル文字やデパートのロゴを利用し、また新しいイメージを作り出しました。
中でも面白いのはカッティングの素材もあわせて展示されていることです。作品と素材を見比べるのも楽しいかもしれません。
右:淺井裕介「標本・オオカミ」(2007)、左:淺井裕介「粉絵・歌の光」(2011)
それにしてもこうしたカッティングシートをはじめ、淺井の素材の多様性には目を見張るものがあります。「標本・オオカミ」(2007)ではかつて横浜美術館で制作した作品のマスキングテープを再利用して、一つの大きな壁画を描きました。
淺井裕介「標本・オオカミ」(2007)部分
また「粉絵・歌の光」の素材は何と小麦粉です。これはかつてライブペイントで30分くらいかけて作られた作品だそうですが、当然ながら表面は小麦粉のため、次第に剥離して額の下に落ちていくとのことでした。
さて一転、色鮮やかなアクリルなどを使った額装の絵画がある点もまた見逃せません。
アーティストトーク・淺井裕介
ライブでのパフォーマンスの印象も強い淺井ですが、普段のアトリエではこうした絵画を制作しているそうです。
ここでは壁画やライブのような時間や空間の制約、もしくはある一定の完成ということにはあまり注意せず、もっと自由に絵画を描くことに専念しています。
その完成ということに関しての淺井のスタンスにも要注目です。そもそも彼は作品を完成させるということよりも、ともかく描く、また目の前にある素材を使って描くという一種の「衝動」を大切にしています。
そのためにはあえて完成させないため、画面で最も気に入っている場所を塗りつぶして再度、やり直すこともあるそうです。全体として絵を描き続けていきたいという淺井の情熱、またエネルギーを感じられる展示と言えるかもしれません。
淺井裕介、展示室風景
その他、元々、淺井が手がけていたという陶芸の作品なども見どころでした。なお彼は高校時代、工芸を学んでいます。
続いてはこのところMOTアニュアル、αM、代官山アートフロント、さらには柏アートラインと、飛ぶ鳥を落とす勢いで展示を続ける椛田ちひろです。椛田はギャラリーの天井高のあるスペースを活用し、シンプルながらも非常に迫力のあるインスタレーションを展開しました。
アーティストトーク・椛田ちひろ
ともかく目を引くのは会場をぐるりと一周、何やら楕円や球体が浮遊するかのようなモチーフの連なる絵画、「事象の地平線」(2012)ではないでしょうか。
作品は全長46メートルもありますが、ここに登場するモチーフは全て椛田の得意とするボールペンのみで描かれています。
椛田ちひろ「事象の地平線」(2012)
椛田は絵画とは彫像的な部分があるとし、見るというよりも手でつくっていくことこそ重要だと考えています。そしてその感覚が最もダイレクトに伝わる素材として、ボールペンを使用しました。
また椛田は制作における身体感覚を重視しています。そもそも筆跡が残り、また独特な光沢感を持つボールペンは画材としても極めて魅力的とのことでしたが、ともかくアトリエでひたすらに手を動かした結果が、それこそ惑星が連なるかのような巨大な宇宙とも言えるのかもしれません。
左:椛田ちひろ「事象の地平線」(2012)、右:「すべてが漂っているそれ自身の放浪の海」(2012)
また吹き抜け空間から吊るされた立体、「すべてが漂っているそれ自身の放浪の海」(2012)との関係も重要です。この作品では内部にボールペンとは対比的なマットな質感を持つ黒鉛が、また外側には一転して「事象の地平線」の鮮やかに反射させる鏡が用いられています。
そしてこの鏡と絵画の間に立つと、通常では感じえない世界が現れてくるとしても過言ではありません。歪んだ楕円はさらに歪みをもたらす曲面の鏡と重なり合い、空間そのものに大きな変化を与えています。虚像と実像との間は曖昧です。あたかも時空の歪みを体験しているかのような気持ちにさせられました。
さて階上では吉田夏奈と桑久保徹の展示が待ち構えています。
吉田夏奈、展示室風景
小豆島のパノラマ風景を絵画から立体へと広げて見せるのは吉田夏奈です。小豆島の山や谷をクレヨンで描き、それを立体に起こして、まさにジオラマのように展開しています。
吉田夏奈、展示室風景
面白いのがその小豆島の陸地と海、つまりは瀬戸内海との関係です。小豆島の稜線の先にはクレヨンで描かれた海が同じように浮かんでいます。そしてその向こうにも小豆島の景色が一面のパネルで描かれていました。
その向こうの景色を見ながら、浮かぶ島や海の間を歩いていると、さも彼の土地を実際に空から遊覧しているような気分になるのではないでしょうか。
ラストはペインターの桑久保徹です。2010年の国立新美術館、アーティストファイル展にも出品があっただけに、そのシュールな風景、またそれを生み出すビビッドな色遣いに強いインパクトを受けた方も多いかもしれません。
桑久保徹、展示室風景
実のところ今回、あざみ野コンテンポラリーで最も意表を突かれたのは桑久保の展示でした。
桑久保徹、アトリエ再現展示
その理由はずばり画家のアトリエの再現があったことです。床には板が貼られ絵具も迸り、その上には無数の絵筆に絵具が半ば散乱するかのように置かれています。絵具の匂いの漂う空間は、桑久保の絵画の強い物質感をさらに際出させるのに十分と言えるかもしれません。
桑久保徹、アトリエ再現展示
それに絵画の中に登場するモチーフが一部、立体などでも展示され、また映像で作品の紹介も行われています。アーティストファイル他、TWS渋谷、また小山登美夫ギャラリーでの個展など、何度か桑久保の展示を追っかけてきたつもりですが、間違いなくこれまでで一番見応えがありました。
なお前回のあざみ野コンテンポラリーは有料でしたが、今回は何と無料です。その上、作品の図版が掲載された冊子までいただけます。また会場内の撮影も可能でした。
2月12日には桑久保と吉田のアーティストトークも予定されています。
また17日にはダンサーの中村恩恵を迎えてのパフォーマンス・イベント(有料)もあります。
それこそ宇宙を思わせる椛田の展示スペースでのパフォーマンスです。期待出来るのではないでしょうか。
会期は長くありません。2月26日までの開催です。おすすめします。
「あざみ野コンテンポラリーvol.2 Viewpoints いま『描く』ということ」 横浜市民ギャラリーあざみ野
会期:2月4日(土)~2月26日(日)
休館:会期中無休
時間:10:00~18:00
住所:横浜市青葉区あざみ野南1-17-3 アートフォーラムあざみ野内
交通:東急田園都市線あざみ野駅東口徒歩5分、横浜市営地下鉄ブルーラインあざみ野駅1番出口徒歩5分。
「あざみ野コンテンポラリーvol.2 Viewpoints いま『描く』ということ」
2/4-2/26
今年もあざみ野の季節の到来です。横浜市民ギャラリーあざみ野で開催中の「あざみ野コンテンポラリーvol.2 Viewpoints いま『描く』ということ」へ行ってきました。
昨年よりアートの「今」を紹介するシリーズとしてはじまったグループ展ですが、去年の「映像」より一転、今年はテーマを「描く」に据え、新進気鋭の若手アーティスト計4名の様々な作品を展示しています。
出品作家は以下の通りです。
淺井裕介、椛田ちひろ、桑久保徹、吉田夏奈
このところ展示機会も多いフレッシュなメンバーと言えるのではないでしょうか。見応えは十分でした。
さて会期初日、淺井裕介と椛田ちひろのトークが行われました。そちらを中心に展示の様子をまとめたいと思います。
まずは最近、東京都現代美術館での公開制作でも注目された淺井裕介です。街中でのライブ・ドローイングでも知られる淺井ですが、今回は幅広いジャンルの作品を提示することで、これまでの足跡を辿るような展示を行っています。
淺井裕介「文字の樹」(2012)
冒頭、直接壁に描かれた「文字卵」(2012)の素材は、ずばり本展のタイトル文字、「Viewpoints」を切り抜いたものです。浅井はこうした「文字の樹」シリーズでカッティングの手法を用いた作品を制作していますが、今回もこうしたタイトル文字やデパートのロゴを利用し、また新しいイメージを作り出しました。
中でも面白いのはカッティングの素材もあわせて展示されていることです。作品と素材を見比べるのも楽しいかもしれません。
右:淺井裕介「標本・オオカミ」(2007)、左:淺井裕介「粉絵・歌の光」(2011)
それにしてもこうしたカッティングシートをはじめ、淺井の素材の多様性には目を見張るものがあります。「標本・オオカミ」(2007)ではかつて横浜美術館で制作した作品のマスキングテープを再利用して、一つの大きな壁画を描きました。
淺井裕介「標本・オオカミ」(2007)部分
また「粉絵・歌の光」の素材は何と小麦粉です。これはかつてライブペイントで30分くらいかけて作られた作品だそうですが、当然ながら表面は小麦粉のため、次第に剥離して額の下に落ちていくとのことでした。
さて一転、色鮮やかなアクリルなどを使った額装の絵画がある点もまた見逃せません。
アーティストトーク・淺井裕介
ライブでのパフォーマンスの印象も強い淺井ですが、普段のアトリエではこうした絵画を制作しているそうです。
ここでは壁画やライブのような時間や空間の制約、もしくはある一定の完成ということにはあまり注意せず、もっと自由に絵画を描くことに専念しています。
その完成ということに関しての淺井のスタンスにも要注目です。そもそも彼は作品を完成させるということよりも、ともかく描く、また目の前にある素材を使って描くという一種の「衝動」を大切にしています。
そのためにはあえて完成させないため、画面で最も気に入っている場所を塗りつぶして再度、やり直すこともあるそうです。全体として絵を描き続けていきたいという淺井の情熱、またエネルギーを感じられる展示と言えるかもしれません。
淺井裕介、展示室風景
その他、元々、淺井が手がけていたという陶芸の作品なども見どころでした。なお彼は高校時代、工芸を学んでいます。
続いてはこのところMOTアニュアル、αM、代官山アートフロント、さらには柏アートラインと、飛ぶ鳥を落とす勢いで展示を続ける椛田ちひろです。椛田はギャラリーの天井高のあるスペースを活用し、シンプルながらも非常に迫力のあるインスタレーションを展開しました。
アーティストトーク・椛田ちひろ
ともかく目を引くのは会場をぐるりと一周、何やら楕円や球体が浮遊するかのようなモチーフの連なる絵画、「事象の地平線」(2012)ではないでしょうか。
作品は全長46メートルもありますが、ここに登場するモチーフは全て椛田の得意とするボールペンのみで描かれています。
椛田ちひろ「事象の地平線」(2012)
椛田は絵画とは彫像的な部分があるとし、見るというよりも手でつくっていくことこそ重要だと考えています。そしてその感覚が最もダイレクトに伝わる素材として、ボールペンを使用しました。
また椛田は制作における身体感覚を重視しています。そもそも筆跡が残り、また独特な光沢感を持つボールペンは画材としても極めて魅力的とのことでしたが、ともかくアトリエでひたすらに手を動かした結果が、それこそ惑星が連なるかのような巨大な宇宙とも言えるのかもしれません。
左:椛田ちひろ「事象の地平線」(2012)、右:「すべてが漂っているそれ自身の放浪の海」(2012)
また吹き抜け空間から吊るされた立体、「すべてが漂っているそれ自身の放浪の海」(2012)との関係も重要です。この作品では内部にボールペンとは対比的なマットな質感を持つ黒鉛が、また外側には一転して「事象の地平線」の鮮やかに反射させる鏡が用いられています。
そしてこの鏡と絵画の間に立つと、通常では感じえない世界が現れてくるとしても過言ではありません。歪んだ楕円はさらに歪みをもたらす曲面の鏡と重なり合い、空間そのものに大きな変化を与えています。虚像と実像との間は曖昧です。あたかも時空の歪みを体験しているかのような気持ちにさせられました。
さて階上では吉田夏奈と桑久保徹の展示が待ち構えています。
吉田夏奈、展示室風景
小豆島のパノラマ風景を絵画から立体へと広げて見せるのは吉田夏奈です。小豆島の山や谷をクレヨンで描き、それを立体に起こして、まさにジオラマのように展開しています。
吉田夏奈、展示室風景
面白いのがその小豆島の陸地と海、つまりは瀬戸内海との関係です。小豆島の稜線の先にはクレヨンで描かれた海が同じように浮かんでいます。そしてその向こうにも小豆島の景色が一面のパネルで描かれていました。
その向こうの景色を見ながら、浮かぶ島や海の間を歩いていると、さも彼の土地を実際に空から遊覧しているような気分になるのではないでしょうか。
ラストはペインターの桑久保徹です。2010年の国立新美術館、アーティストファイル展にも出品があっただけに、そのシュールな風景、またそれを生み出すビビッドな色遣いに強いインパクトを受けた方も多いかもしれません。
桑久保徹、展示室風景
実のところ今回、あざみ野コンテンポラリーで最も意表を突かれたのは桑久保の展示でした。
桑久保徹、アトリエ再現展示
その理由はずばり画家のアトリエの再現があったことです。床には板が貼られ絵具も迸り、その上には無数の絵筆に絵具が半ば散乱するかのように置かれています。絵具の匂いの漂う空間は、桑久保の絵画の強い物質感をさらに際出させるのに十分と言えるかもしれません。
桑久保徹、アトリエ再現展示
それに絵画の中に登場するモチーフが一部、立体などでも展示され、また映像で作品の紹介も行われています。アーティストファイル他、TWS渋谷、また小山登美夫ギャラリーでの個展など、何度か桑久保の展示を追っかけてきたつもりですが、間違いなくこれまでで一番見応えがありました。
なお前回のあざみ野コンテンポラリーは有料でしたが、今回は何と無料です。その上、作品の図版が掲載された冊子までいただけます。また会場内の撮影も可能でした。
2月12日には桑久保と吉田のアーティストトークも予定されています。
「アーティストトーク」
2月4日(土)15:00~ 淺井裕介、椛田ちひろ *終了済
2月12日(日)15:00~ 桑久保徹、吉田夏奈
2月4日(土)15:00~ 淺井裕介、椛田ちひろ *終了済
2月12日(日)15:00~ 桑久保徹、吉田夏奈
また17日にはダンサーの中村恩恵を迎えてのパフォーマンス・イベント(有料)もあります。
「あざみ野コンテンポラリー vol.2 :関連パフォーマンス」
演目:椛田ちひろ×中村恩恵「事象の地平線」
日時:2月17日(金)19:30開演(19:15開場)
会場:横浜市民ギャラリーあざみ野 展示室1(椛田ちひろ作品展示スペース)
出演:中村恩恵
定員:40名 *未就学児入場不可、保育あり(要問い合わせ)
料金:前売券1,000円、当日券1,500円
予約:アートフォーラムあざみ野総合受付 TEL 045-910-5723
演目:椛田ちひろ×中村恩恵「事象の地平線」
日時:2月17日(金)19:30開演(19:15開場)
会場:横浜市民ギャラリーあざみ野 展示室1(椛田ちひろ作品展示スペース)
出演:中村恩恵
定員:40名 *未就学児入場不可、保育あり(要問い合わせ)
料金:前売券1,000円、当日券1,500円
予約:アートフォーラムあざみ野総合受付 TEL 045-910-5723
それこそ宇宙を思わせる椛田の展示スペースでのパフォーマンスです。期待出来るのではないでしょうか。
会期は長くありません。2月26日までの開催です。おすすめします。
「あざみ野コンテンポラリーvol.2 Viewpoints いま『描く』ということ」 横浜市民ギャラリーあざみ野
会期:2月4日(土)~2月26日(日)
休館:会期中無休
時間:10:00~18:00
住所:横浜市青葉区あざみ野南1-17-3 アートフォーラムあざみ野内
交通:東急田園都市線あざみ野駅東口徒歩5分、横浜市営地下鉄ブルーラインあざみ野駅1番出口徒歩5分。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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桑久保さんアーティストファイルで拝見してTWS渋谷と見てまいりましたが…
特に今回が気になります((o(^-^)o))
椛田さんのボールペンのインクも…
淺井さんの粉絵やおちゃわん島も…
吉田さんの立体も…
今回の生地を読んで益々タネシミです♪
交通の記載、感謝します_(_^_)
こんばんは。あざみ野見事でしたね!ツイート拝見しました!
>交通
渋谷から30分ですのでなんてことはありませんよね!
3/3パーティー、ご都合いかがでしょうか。
ご参加お待ちしております!