「オルセー美術館展 印象派の誕生」 国立新美術館

国立新美術館
「オルセー美術館展 印象派の誕生ー描くことの自由」
7/9-10/20



国立新美術館で開催中の「オルセー美術館展 印象派の誕生ー描くことの自由」展へ行って来ました。

「印象派の殿堂」(ちらしより引用)ことパリはオルセー美術館。約4年ぶりの大規模な来日展です。絵画コレクション80点余による展覧会が始まりました。

さて4年前のオルセー展、覚えておられるでしょうか。サブタイトルは「ポスト印象派」、前史に印象派を踏まえて、そこからスーラ、シニャック、セザンヌ、ゴッホ、ゴーギャン、さらにはナビ派からルソーを見定める。ちょうど館内改装に入った頃の企画。その故もあるのか全115点と大規模な展示でした。

翻って今回はどうか。ずばり「印象派の誕生」です。今年は奇しくも第一回印象派展の行われた1874年から140年目の年。主役は印象派に他なりません。

そして構成上の大きな特徴と言えるのが、マネに始まりマネに終わること。冒頭、チラシ表紙を飾る「笛を吹く少年」など1860年代のマネ作品を数点展観した上で、歴史、裸体、風景、静物、肖像といったテーマ別に絵画を辿る。そして円熟期、1880年前後のマネ作品を展示する。19世紀後半の西洋絵画の諸相をマネを起点に見ていこうという仕掛けなのです。


ギュスターヴ・カイユボット「床に鉋をかける人々」1875年 油彩/カンヴァス

さてさすがに見どころも多数、大変に充足感のある展覧会ですが、まず嬉しかったのはカイユボットの「床に鉋をかける人々」(1875)が見られたこと。と言うのも、先だってのブリヂストン美術館の回顧展には出展の叶わなかった作品であるからです。

上半身裸でまるで競い合うように鉋をかける男たち。削りかすがあちこちに散乱、とても臨場感のある作品ですが、興味深いのは光の表現です。左奥の窓から差し込む光がちょうど削った部分の床面にあたっている。また図版では気がつきませんでしたが、窓の外にはパリの町並みでしょうか。建物の姿も確認出来ます。


ジャン=フランソワ・ミレー「晩鐘」1857-59年 油彩/カンヴァス

ミレーの「晩鐘」(1857-59)がやって来ました。祈りを捧げる農民夫婦。夕景です。鳥の羽ばたく空は朱色にも染まる。靴は木靴でしょうか。かなり大きい。夕方に祈りを捧げたミレーの祖母の記憶を元にした作品だそうです。

ジャン=シオン・ジェロームの「エルサレム」(1867)も興味深い。キリストの磔刑です。ゴルゴタの丘から帰り行く人々の姿。梯子を担いでいる者もいる。特徴的なのがキリスト自身が画中に描かれていないことです。示されるのは影のみ。ようは手前の丘の上に三つの十字架が影となって表されている。そこにキリストの姿も見て取れるのです。


ジュール・ルフェーヴル「真理」1870年 油彩/カンヴァス

まるで心を見透かされるような眼差しではないでしょうか。ジュール・ルフェーヴルの「真理」(1870)です。光り輝く鏡を手にして立つ女神。左手に持つのは縄でしょうか。白い裸体をさらけ出す。ちなみに本作のある「裸体」のセクション、これが良作揃いです。カバネルの「ヴィーナスの誕生」(1863)にクールベの「裸婦と犬」(1861-62)、そしてモローの大作「イアソン」(1865)と続く。モローは高さ2mです。なかなかこの大きさのモローの油彩を見る機会もありません。美しき裸体表現はもとより、腰布や紋章の描写も極めて細かい。そして画家によって異なる裸体表現のアプローチ。ルフェーブルは女神を描き、クールベは市井の女性のヌードを表した。その辺の比較もポイントになるかもしれません。


アルフレッド・シスレー「洪水のなかの小舟、ポール=マルリー」1876年 油彩/カンヴァス

ハイライトは「風景」でしょうか。モネの大傑作「かささぎ」(1868-69)を頂点に、シスレー、セザンヌ、ブータン、ピサロ、ルノワールらの風景画が並ぶ。その数18点です。うち好きなシスレーが4点ほど占めていたのも嬉しいところ。特に惹かれるのは「洪水のなかの小舟、ポール=マルリー」(1876)です。シスレーが6作残した同主題の1つ、青い空に浮かぶ丸い雲、陽光を受けて煌めく建物、そしてざわめくような筆遣いで表された水面。仄かに土色が混じっているのは洪水だからでしょうか。縦にのびるのは栗の木です。構図にタッチしかりこれぞシスレー。画家の魅力が最大限につまった一枚でもあります。


クロード・モネ「サン=ラザール駅」1877年 油彩/カンヴァス

モネでは「サン=ラザール駅」(1877)も出品。そういえば先の「かささぎ」しかり、国立新美術館のオープニングを飾った「大回顧展モネ」(2007年)にも展示があった。見るのはその時以来のことかもしれません。


ジェームズ・アボット・マクニール・ホイッスラー「灰色と黒のアレンジメント第1番」1871年 油彩/カンヴァス

今秋より京都国立近代美術館で回顧展(12月から横浜美術館へ巡回)の始まるホイッスラーの肖像画が展示されています。「灰色と黒のアレンジメント第1番」(1871)です。健康を患っていた母をモデルにした一枚。黒いドレスに身を纏って座っている。やや緊張した面持ちでしょうか。母はこの時67歳。横向けの構図です。壁のグレーの色やカーテンとも相まってか、実に物静かな印象を与えます。


フレデリック・バジール「家族の集い」1867年/1869年に加筆 油彩/カンヴァス

バジールの「家族の集い」(1867)も面白い。戸外における集団肖像画。モデルの一人には画家本人の姿も。両親も描かれているそうです。それにしてもいつくかの視点が交錯する本作、右の三名がこちらを覗き込んでいるからでしょうか。奇妙に落ち着かない。見ているようで見られているような作品でもあります。

モネの「草上の昼食」(1865-66)は初来日です。例のマネの作品に触発されて描いたという一枚、まず驚くのが高さが4mを超えることです。また現在は2枚に別れていますが、元々モネは横6mにも及ぶ大作を構想していたとか。その後サロンの出展に間に合わず、家賃代わりに大家の手に渡って損傷したため、このような分断した形になっている。若いモネの意欲作ですが、どうでしょうか。木漏れ日も表す白の使い方などに、後の片鱗を見ることが出来るかもしれません。


エドゥアール・マネ「ロシュフォールの逃亡」1881年頃 油彩/カンヴァス

展覧会を前後で挟むマネは全部で11点です。冒頭、その平面性に当時は批判もあったという「笛を吹く少年」(1866)が待ち構える。またラストは「ロシュフォールの逃亡」(1891)です。体制に反して追放されたジャーナリスト、ロシュフォールが逃亡する様子を描いたという作品、主題としてはドラマテックかもしれませんが、ともかく目を引くのは水面の描写。一面の海がエメラルドグリーンに染まる。荒い筆致は晩年のマネの特徴なのでしょうか。「笛を吹く少年」から約25年、マネの変化を伺い知ることも出来るかもしれません。


エドゥアール・マネ「読書」1865/1873-75年に加筆 油彩/カンヴァス

マネからマネへ。ここに挙げた作品はごく一部。アカデミズムの画家と見比べることで、当時の前衛、印象派画家の立ち位置も際立ってくる。今となっては甲乙つけるまでもない。いずれの画家も魅惑的です。西洋絵画ファンにとっては見逃せない展覧会としても過言ではありません。


クロード・モネ「かささぎ」1868-69年 油彩/カンヴァス

会期第一週の日曜日の午後(15時頃)に出かけましたが、館内はさすがに賑わっていたものの、特に規制もなく、チケット購入待ちの列もありませんでした。ただそれでもミレーの「晩鐘」などの人気作の前にはたくさんの人だかり。一部作品に関しては最前列を確保するための列も僅かながら出来ていました。

とは言えこのクラスの展覧会を考えれば、まだ空いていた方だと思います。(思っていたよりはスムーズに見られました。)そして会期が進むにつれて混雑することは必至。特に後半は大変な混雑が予想されます。

大型展は初めが肝心です。まずは早めに観覧されることをおすすめします。


ギュスターヴ・モロー「イアソン」1865年 油彩/カンヴァス

若い方へのお得な情報です。まず7月24日(木)から8月12日(火)の間は高校生無料観覧日。期間中、高校生は無料で入場出来ます。(要学生証)

また9月2日(火)は「キヤノン・ミュージアム・キャンパス」です。この日は休館日ですが、大学生のみを対象に無料で開放されます。

特別プログラム『キヤノン・ミュージアム・キャンパス』

当日はナビゲーターによるガイドツアーもあるとか。学生だけの特権、逃す手はありません。(要学生証。混雑時は入場制限あり。)

「オルセー美術館の名画101選ーバルビゾン派から印象派/小学館アート・セレクション」

10月20日まで開催されています。

「オルセー美術館展 印象派の誕生ー描くことの自由」 国立新美術館@NACT_PR
会期:7月9日(水)~10月20日(月)
休館:火曜日。但し8/12(火)、9/23(火・祝)、10/14(火)は開館、9/24(水)は休館
時間:10:00~18:00 *金曜日は夜20時まで開館。8/16(土)以降の毎週土曜日および10/12(日)以降は毎日20時まで開館。
料金:一般1600(1400)円、大学生1200(1000)円。高校生800(600)円。中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金
 *7/24(木)~8/12(火)は高校生無料観覧日(要学生証)
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
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