「ピーター・シスの闇と夢」 練馬区立美術館

練馬区立美術館
「ピーター・シスの闇と夢」
2021/9/23~11/14



練馬区立美術館で開催中の「ピーター・シスの闇と夢」の特別内覧会に参加してきました。

1949年にチェコスロヴァキア(現在のチェコ共和国)に生まれ、アメリカに移って活動する絵本作家のピーター・シスは、国際アンデルセン賞を受賞するなど高い評価を得て、日本でも多くの読者を抱えてきました。

そのシスの日本初の大規模な展覧会が「ピーター・シスの闇と夢」で、会場には絵本原画をはじめ、スケットや初期アニメーションなど約150点の作品が公開されていました。


右:「かべ 鉄のカーテンのむこうに育って」原画 2007年

まず初めにはシスがチェコスロヴァキアでの制限のある暮らしを振り返りながら描いた「かべ 鉄のカーテンのむこうに育って」などが展示されていて、故郷への思いが表されるとともに、自由の尊さや夢を求めることの大切さを感じることができました。


左:「三つの金の鍵 魔法のプラハ」原画 1994年

シスが幼少期から学生時代を過ごした時代は、東西の分断された冷戦下にあり、チェコスロバキアにおいても独裁政権のもと、人々に表現の自由はありませんでした。


「ピーター・シスの闇と夢」展示風景

シスがチェコスロヴァキアを出たのは1982年、33歳の時で、ロサンゼルスで開かれる夏季五輪の映像を制作するアニメーターとしてアメリカへ渡りました。しかしソ連と東欧諸国はロサンゼルス夏季五輪をボイコットし、チェコスロヴァキアも不参加を決めたため、シスにも帰国するように通達されましたが、アメリカに留まることを決断しました。


「マットくん」シリーズ。

そしてアメリカにて挿絵の仕事で才能を発揮すると、絵本の制作をはじめ、のちに生まれた2人の子どもたちをモデルとした絵本を描きました。それがお気に入りの船や恐竜のおもちゃで遊ぶマテイを描いた「マットくん」や、当時住んでいたマンハッタンにて娘のマドレーヌと人々の出会いを表した「マドレンカ」のシリーズでした。


右:「モーツァルトくん、あ・そ・ぼ!」絵本原画 2006年

芸術家や冒険家、それに探検家の物語が多く登場するのもシスの絵本の魅力かもしれません。そのうち「モーツァルトくん、あ・そ・ぼ!」は子どもの頃のモーツァルトを描いた作品で、モーツァルトが日々、父からの熱心な音楽教育を受け、芸術の神に魅せられる様子などを表していました。これはモーツァルトの生涯を描いた映画「アマデウス」の監督であるミロシュ・フォルマンに捧げられたもので、シスは映画のポスターも手掛けました。


右:映画「アマデウス」のポスター 1984年

アカデミー監督賞を受賞した同作品は、日本でも上映されて人気を集めましたが、モーツァルトへと迫る死の闇を劇的に表したポスターのデザインは、強いインパクトがあるのではないでしょうか。


「星の使者 ガリレオ・ガリレイ」絵本原画 1996年

また偉人をモチーフとした伝記絵本では、ガリレオ・ガレリイやチャールズ・ダーウィン、アントワーヌ・サン=テグジュペリらも登場していて、シスは自分を信じることや夢の追うことの大切さを子供たちに訴えかけました。


「生命の樹-チャールズ・ダーウィンの生涯」絵本原画 2003年

絵本の原画の多くは繊細な素描と淡い色彩を特徴としていて、例え絵本のストーリーを知らずとも、1つの絵として心を惹きつけられるものばかりでした。


左:「鳥の言葉」絵本原画 2011年

それに複雑に入り組んだ地図や曼陀羅、さらには鳥などのモチーフが時に抽象的パターンを描いているように思えるなど、一口に絵本と言えども多様な作風が見られるのも魅力的に思えました。


「飛行士と星の王子さま サン=テグジュペリの生涯」絵本原画 2014年

今年に72歳を迎えたシスは、コロナ禍を踏まえても新作の完成に邁進したり、オンラインで対談イベントを行うなど、積極的に活動しているそうです。不自由なチェコスロヴァキアからアメリカへと亡命する形で渡り、人々に夢を与え続けるシスの生き様を、絵本の原画を見ながら追体験できるような展覧会といえるかもしれません。


予約は不要です。11月14日まで開催されています。なお東京での展示を終えると、大阪の伊丹市立美術館(2022年4月以降、施設名称変更。会期は2023年春を予定。)へと巡回します。

「ピーター・シスの闇と夢」 練馬区立美術館@nerima_museum
会期:2021年9月23日(木)~11月14日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで
料金:大人1000円、大・高校生・65~74歳800円、中学生以下・75歳以上無料。
 *ぐるっとパス利用で500円。
住所:練馬区貫井1-36-16
交通:西武池袋線中村橋駅より徒歩3分。

注)写真は特別内覧会の際に主催者の許可を得て撮影しました。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )