「桃源郷展―蕪村・呉春が夢みたもの」 大倉集古館

大倉集古館
「桃源郷展―蕪村・呉春が夢みたもの」 
2019/9/12~11/17



大倉集古館で開催中の「桃源郷展―蕪村・呉春が夢みたもの」を見てきました。

2014年より約5年半、増改築工事のため休館していた大倉集古館が、このほど工事を終え、9月12日に全面リニューアルオープンしました。

それを期して開催されているのが「桃源郷展―蕪村・呉春が夢みたもの」で、吉祥主題として知られる桃のモチーフの絵画を中心に、国宝の「普賢菩薩騎象像」や横山大観の「夜桜」など、同館の誇る名品が一同に出展されていました。


呉春「武陵桃源図屏風」(左隻部分) 江戸時代・18世紀 大倉集古館

新たに収蔵された呉春の「武陵桃源図屏風」が初めて一般に公開されました。おそらくは呉春が、師の蕪村が晩年に取り組んだ「武陵桃源」の主題に倣ったとされる作品で、右には満開の桃の木の下、漁夫の乗った小舟が渓流を進み行き、左には仙人らしき老人らの集う光景などが、柔らかでかつ細かな描線で表されていました。

ここで目を引くのが、小舟の上の事物、特に籠の精緻極まりない描写で、目地の一つ一つが浮き上がるかのように描かれていました。また桃の花の咲き誇る点描のような技法は、さも新印象派絵画を目の当たりにするかのようで、淡い色彩が美しく広がる様子を見ることが出来ました。

また随所にいる鶏や犬などの動物も可愛らしいのではないでしょうか。まさに桃源郷の織りなした、長閑でかつ情緒的な光景に見入りました。


趙伯駒(款)「武陵桃源図巻」(部分) 明末~清初・17世紀 林原美術館

この「武陵桃源」に関した一連の作品も充実していました。中でも印象に深いのは南宋・趙伯駒の「武陵桃源図巻」で、まるで地層が大きく隆起して屈曲した山々を背景に、細かな筆のよる小さな人物などが俯瞰するように描かれていました。ともかく山々を象る緑や青の色彩が鮮やかで、どことなくエキゾチックにも感じられるかもしれません。なお本作は明末清初期に蘇州で作られた「蘇州欠」と呼ばれた、良質な贋作、いわば複製品として見做されているそうです。

この他では明・呂紀の「鶴桃図」と沈南頻の「双寿図」にも惹かれました。また絵画だけでなく、桃をあしらった景徳鎮の「藍釉粉彩桃樹木文瓶」など工芸にも優品がありました。出品総数は約30件(展示替えあり)と必ずしも多くありませんが、これほど桃に囲まれる展覧会も滅多にないかもしれません。



さて改めて新装の大倉集古館です。まず国の登録有形文化財の外観は変わりません。しかし当初の位置をずらしては地下室を増築し、免震化工事も実施され、最新の設備を伴う施設へと生まれ変わりました。バリアフリーの観点からエレベーターも新設されました。



展示室は以前と同様、1階と2階にあり、地下フロアにはショップとお手洗い、会議室、映像資料コーナー、コインロッカーが設けられました。荷物が多い場合は先に地下へ行き、ロッカーに預けておくのが良いかもしれません。



低反射ガラスのケースが導入され、照明等も一新されたのか、作品自体も以前より映えて見えました。見え方は明らかに違います。



最後に展示替えの情報です。会期中、一部の作品が入れ替わります。

「桃源郷展―蕪村・呉春が夢みたもの」出展リスト(PDF)
前期:9月12日〜10月14日
後期:10月16日〜11月17日

10月16日より後期展示に入ります。(本エントリは前期展示の感想です。)以降の入れ替えはありません。


大倉集古館2階テラスより「The Okura Tokyo」

大倉集古館の展示を鑑賞した後は、4年半の建て替えを終え、9月12日にリニューアル開業したホテルオークラ東京本館こと「The Okura Tokyo」のプレステージタワーへと足を運んでみました。



超高層ビルの建物こそかつての趣きこそないものの、谷口吉郎の設計によるロビーは寸分違わぬデザインで復元されていて、さもタイムスリップしてはかつての本館へと迷い込んだかのようでした。



リニューアルを手掛けたのは谷口の子、谷口吉生で、お馴染みの切子玉の型の照明や、テーブルなども、旧来のものを再現して設置していました。



建物の見学を兼ねて出かけるのも良いかもしれません。11月17日まで開催されています。

「桃源郷展―蕪村・呉春が夢みたもの」 大倉集古館
会期:2019年9月12日(木)~11月17日(日)
休館:9/17(火)、9/24(火)、9/30(月)、10/7(月)、10/15(火)、10/21(月)、10/28(月)、11/5(火)、11/11(月)。
時間:10:00~17:00 (入館は16:30まで。)
料金:一般1300円、 大学生・高校生1000円、中学生以下無料。
 *20名以上の団体は100円引。
住所:港区虎ノ門2-10-3 The Okura Tokyo前
交通:東京メトロ南北線六本木一丁目駅改札口より徒歩5分。東京メトロ日比谷線神谷町駅4b出口より徒歩7分。
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