「第18回 岡本太郎現代芸術賞展」 川崎市岡本太郎美術館

川崎市岡本太郎美術館
「第18回 岡本太郎現代芸術賞展」
2/3-4/12



川崎市岡本太郎美術館で開催中の「第18回 岡本太郎現代芸術賞展」を見てきました。

毎年恒例、いわゆる公募形式にて現代美術家の活動を紹介する「岡本太郎現代芸術賞展」。今年で18回目です。計672点の応募から27組の作家が入選しました。

「第18回岡本太郎現代芸術賞決定」@川崎市岡本太郎美術館

会場内、撮影が出来ました。

まず入口付近で目を引くのはともかく大きな車、江頭誠の「神宮寺宮型八棟造」です。


江頭誠「神宮寺宮型八棟造」 毛布、発泡スチロール *特別賞

長いボンネット、後部には大きな櫓のような構造物が載っています。眩いのは色彩です。車を覆うのはピンクなどの花柄です。何やらデコトラックでも思わせるキッチュなスタイル、その可愛げな絵柄に騙されて気がつきませんでしたが、モチーフは何と霊柩車だとか。しかも素材は全て毛布です。またベースとなる車体も木とスチロールから出来ています。


江頭誠「神宮寺宮型八棟造」 毛布、発泡スチロール *特別賞

あの黒く、また冷たい霊柩車が、これほどキャッチーな造形へと変化している。作家はありふれた毛布を用いることで「温かい寝台車となる。」(解説冊子より)と述べていますが、もはやネオンサインでも取り付けても違和感のないような車は、死のイメージをも打ち払っています。

ちょうど身体を張ったパフォーマンスを展開中でした。藤村祥馬の「どれいちゃん号」です。

コンセプトは小学生向けの「ランドセルを持たされたくない子」です。思い出しました。集団登校時にじゃんけんで負けた人が仲間のランドセルを持つ。それをどれいちゃんが代わりに運んでくれるわけです。


藤村祥馬「どれいちゃん号」 鉄、マネキン、ランドセル、その他 *特別賞

マネキンに積まれた赤や黒のランドセル。後ろで車輪を必死に漕いでは動かすのが作家の藤村です。表情は真剣そのもの。重たいものを持たされるというどれい、つまり奴隷のような罰ゲームが、奇妙なまでに面白いアクションになる。ついつい応援したくなってしまいます。

解説冊子に「人気者になれるかもしれませんよ!!」と記されていましたが、実際のところ会場でも人気がありました。ちょうど子どもたちが寄っては楽しそうに見入っています。作家自身が子どもたちを自転車に乗せてあげていたのも印象に残りました。

ふと耳を傾けると「カーン」、「キーン」という音が聞こえてきます。同じくパフォーマンスを行っているのが山崎広樹。作品は「木・石・竹と命を『カク』祭」です。


山崎広樹「木・石・竹と命を『カク』祭」 木、石、竹、障子紙、和紙、布

打ち鳴らすのは竹筒。また小石を叩き、板を割っては音を出します。タイトルに祭とありますが、確かに原初的な儀式でも行っているような気配さえ漂っています。上から垂れるのは旗でしょうか。周囲にも白い紙が幾重にも連なっています。良く見るとおそらくは墨による文字が無数に刻まれていました。そして中央にはさも火を焼べる場のような木が積まれています。

すると山崎は突如立ち上がり、音を鳴らしながら歩いて場内を一周。この呪術的な空間を展示室全体へと広げています。何かの伝導師のような風格さえある。思わず後ろを追いかけてしまいました。

平面作品でとりわけ胸に響いたのは村井祐希です。


村井祐希「Land scape TOMIOKA」 油彩、石、セメント、キャンバス *特別賞

「Land scape TOMIOKA」、横幅6メートル近くの大作です。油彩とありましたが、目を凝らすと石や何らかの破片のようなものが塗りこめられています。上部は青、そして手前には砂色ともいうべきグレー、緑や黄色も混じります。どこかの風景なのか、それともいわゆる抽象なのか。必ずしも判然としません。

ずばりタイトルが答えでした。TOMIOKAとは福島の第2原発のある富岡町。津波で大きな被害を受けた上、かの第1原発による原子力事故のため、今も一部の立ち入りが制限された地域でもあります。


村井祐希「Land scape TOMIOKA」 油彩、石、セメント、キャンバス *特別賞

作家は富岡を訪れ、「復興の手が、全くつけられていない」状況を見た後、現地の方とコンタクトをとり、さらには「この地こそ描くべき風景だと思った」そうです。(*カッコ内はともに解説冊子より)おそらくは被災した海岸の光景でしょう。ひょっとすると手前の丸く長いものは津波で打ち寄せられた残骸かもしれません。素材、筆致自体の迫力も含め、強く訴えかけてくるものがあるのではないでしょうか。


手前:楢木野淑子「そこに立つ、存在する4」 白土、下絵具、釉薬、ラスター
奥:佐野友紀「アウラの逆襲」 キャンバス地にプリント、アクリル絵具 *特別賞


迫力といえば佐野友紀の「アウラの逆襲」も忘れられません。4メートル四方のキャンバスが3点、空間を取り囲むかのように置かれています。くわっと強く見開いた瞳は何を語るのでしょうか。まさしく魔物です。ただそれらを象るのは木や草、さらにはまさに得体のしれないアウラのようでもあります。牙を剥いた獣。視線をあわすと噛み砕かれてしまうかのようです。絵の前に立った時に緊張感さえ生じる。息をのみました。

どこかで見覚えのある人物が描かれています。久松知子の「レペゼン 日本の美術」です。


久松知子「レペゼン 日本の美術」 キャンバス、パネル、岩絵具、アクリル絵具、その他 *岡本敏子賞

二点のパネル、一方はアトリエです。中央にはかの平山郁夫。天心の姿も見えます。正面奥に掲げられるのは東山魁夷の超有名作の「道」。左は丸木位里の「原爆の図」の「火」の部分でしょうか。平八郎の「雨」なども飾られています。


久松知子「レペゼン 日本の美術」 キャンバス、パネル、岩絵具、アクリル絵具、その他 *岡本敏子賞

もう一方のパネルに描かれたのは画家や美術史家、それに現代の美術家たち。勢揃いしては笑みを浮かべています。ここにも平山郁夫や天心らがいますが、前には大きな穴があり、高橋由一の「鮭」がおそらく捨てられようとしています。また地面には美術手帖も転がっていました。そして村上隆や会田誠、赤瀬川原平に高階秀爾に辻惟雄らの姿も見えます。結論から言うと、この2点の作品は何とクールベの「画家のアトリエ」と「オルナンの埋葬」を参照したそうです。日本美術の制度、また歴史に対しての様々な問いを投げかけています。


石山哲央「時空遊戯」 陶、プロジェクター、新聞紙

インスタレーションに絵画や立体、ほか映像など、一つずつ紹介するとキリがないほどに多様で見応えのある作品の多い内容です。率直なところ昨年の方が強く印象に残りましたが、それでも公募形式の現代美術展では特に面白い展覧会と言ってもおかしくありません。まずは楽しめました。

出口には昨年から始まった「お気に入りの作品を選ぼう」の投票コーナーがありました。


「お気に入りの作品を選ぼう」投票コーナー

オーディエンス賞の設定はありませんが、一人一票、ボードに赤いシールを貼っては、お気に入りの作品を選ぶというイベントです。

投票期間は3月22日までです。私が出向いた先週末の時点では、霊柩車の江頭誠とどれいちゃんの藤村祥馬がデットヒート。トップ争いの接戦を繰り広げていました。


Yotta「金時 ライブビューイング・アーカイブス」 ミクストメディア *岡本太郎賞

なおタイミングの悪いことに、この日は岡本太郎賞を受賞したYottaの焼芋販売パフォーマンスが、作家の体調不良により中止されていました。何とも残念ではありますが、まずは体調の回復をお祈りします。


「第18回 岡本太郎現代芸術賞展」会場風景

ちなみに各種パフォーマンスは基本的に週末に行われます。ギャラリートークを含め、土日は作家の声や表現へ直に触れられるチャンスです。週末の観覧をおすすめします。

4月12日まで開催されています。

「第18回 岡本太郎現代芸術賞展」 川崎市岡本太郎美術館
会期:2月3日(火)~4月12日(日)
休館:月曜日。2月12日(木)。
時間:9:30~17:00
料金:一般600(480)円、大・高生・65歳以上400(320)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:川崎市多摩区枡形7-1-5
交通:小田急線向ヶ丘遊園駅から徒歩約20分。向ヶ丘遊園駅南口ターミナルより「溝口駅南口行」バス(5番のりば・溝19系統)で「生田緑地入口」で下車。徒歩5分。
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