都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「日本美術のとびら」 東京国立博物館・本館 特別3室
「日本美術のとびら」
2021/6/22~2022/3/31

東京国立博物館にて文化財の魅力を体感的に楽しめる展示スペース、「日本美術のとびら」がオープンしました。
まず入口にて出迎えてくれたのが「A GLIDE ON THE GREAT WAVE」と題した映像で、浮世絵や工芸品、絵巻、屏風絵などのコレクションが、四季折々に変化する江戸と東京を行き来しながら軽快な音楽とともに紹介されていました。
いずれも酒井抱一の「夏秋草図屏風」や長谷川等伯の「松林図屏風」、それに葛飾北斎の「富嶽三十六景 颱風快晴」などの誰もが知る名品ばかりで、まさに日本美術のオールスターと呼んで差し支えないかもしれません。なお8分の同映像はぶんかつYouTubeチャンネルでも鑑賞できました。

続くのが全14メートルの巨大スクリーンに展開した「日本美術のデジタル年表」で、1万2000年前の縄文時代から飛鳥・奈良、平安に鎌倉、それに室町や江戸時代へと至る16件の文化財をインタラクティブな仕掛けをもって見られました。

年表スクリーンの前の床に貼られた足跡マークの「わくわくポイント」に立つと、スクリーン上に作品画像が表示されて、ポップアップの指示に従って手を上げたり前に出したりすると、拡大したりページをめくったりして楽しむことができました。

また「わくわくポイント」にはそれぞれQRコードが表示されていて、スマホで読み取るとWEBサイト(Colbase:国立博物館所蔵品統合検索システム)にアクセスされ、作品の情報や解説を閲覧することが可能でした。
そのデジタル年表の前に展示されたのが、国立文化財機構とキヤノン株式会社との共同研究プロジェクトによって制作された、日本美術の高精細の複製品でした。

現在は尾形光琳の「風神雷神図屏風」と酒井抱一の「夏秋草図屏風」の屏風と「孔雀明王像」の掛け軸の複製品が露出にて公開されていて、それこそ本物と見間違うほどに精細に作られていました。

ここで嬉しいのは元来は一体であったものの、今では別の作品として切り離された光琳の「風神雷神図屏風」と抱一の「夏秋草図屏風」が表裏の形にて再現されていることでした。雷神に対しての雨に打たれる夏草、そして風神の風に吹かれた秋草のドラマチックなまでの対比が、臨場感をもって味わえるのではないでしょうか。
なお高精細複製品は今後、以下のスケジュールにて入れ替わります。
【屏風】
2021年6月22日~8月29日 重要文化財「風神雷神図屏風・夏秋草図屏風」(高精細複製品)
2021年8月31日~11月28日 国宝「観楓図屏風」(高精細複製品)
2021年11月30日~2022年2月27日 国宝「松林図屏風」(高精細複製品)
2022年3月1日~5月29日 国宝「花下遊楽図屏風」(高精細複製品:復元)
【掛け軸】
2021年6月22日(火)~2022年3月末(予定) 国宝「孔雀明王像」(高精細複製品)

「孔雀明王像」は京都文化協会とキヤノン株式会社が共同で取り組んでいる「綴(つづり)プロジェクト」の第14期作品として制作され、この度、国立文化財機構へと寄贈されました。

同プロジェクトの中ではもっと古い平安時代の作品で、最新のデジタル技術と京都の職人の技を用い、実に0.2mmの細さにもなる截金部分や彩色の繊細なニュアンスまでも忠実に再現したそうです。一般へのお披露目は初めてのことでもあります。
会場は、現在「国宝 聖林寺十一面観音―三輪山信仰のみほとけ」を開催している本館1階の特別5室の出口横に位置する特別3室です。特別展、及び常設展(総合文化展)観覧料にて体験できます。
【#日本美術のとびら】東京国立博物館(#トーハク)本館に、あらたな体験展示スペースができました!日本美術にはじめて触れる方はもちろん、トーハク来たお客さまに、いちばん初めに訪れていただきたい展示室です※入館は事前予約制#上野 #東京国立博物館 #ぶんかつhttps://t.co/KGg8teV5RO pic.twitter.com/qhmg7LfPjM
— ぶんかつ【文化財活用センター】 (@cpcp_nich) June 22, 2021
またトーハクに楽しく日本美術へ触れられるスポットが誕生しました。撮影もできました。
2022年3月31日まで開催されています。
「日本美術のとびら」 東京国立博物館・本館 特別3室(@TNM_PR)
会期: 2021年6月22日(火) ~2022年3月31日(木)
時間:9:30~17:00。
*当面の間、金・土曜日の夜間開館を中止。
休館:月曜日。但し月曜日が祝日または休日の場合は開館し、翌平日に休館。12月14日(火)、年末年始(2021年12月26日~2022年1月1日)、2022年1月4日(火)。その他臨時休館あり。
料金:一般1000円、大学生500円、高校生以下無料。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
「映えるNIPPON 江戸~昭和 名所を描く」 府中市美術館
「映えるNIPPON 江戸~昭和 名所を描く」
2021/5/22~7/11

府中市美術館で開催中の「映えるNIPPON 江戸~昭和 名所を描く」を見てきました。
景勝地や寺社仏閣といった日本各地の名所は、古くから絵画や版画などに表され、人々の目を楽しませてきました。
そうした名所を描いた作品に注目したのが「映えるNIPPON 江戸~昭和 名所を描く」で、江戸から昭和へと至る木版、油彩、水彩、それに印刷物など約110点の作品が展示されていました。(一部に展示替えあり)
まず冒頭を飾るのが江戸の絵師、歌川広重による「名所江戸百景」の連作で、「深川洲崎十万坪」や「上野山内月のまつ」、さらにゴッホが模写したことでも知られる「大はしあたけの夕立」などが並んでいました。いずれも神奈川県立歴史博物館の所蔵する作品でした。
このように展覧会では神奈川県立歴史博物館や江戸東京博物館、もしくは静岡県立美術館や愛知県美術館といった他館の作品が多くやって来ているのも特徴で、必ずしも府中市美術館のコレクション展ではありませんでした。
いくつかのテーマを設定し、名所を描いた作品を紹介しているのも見どころの1つといえるかもしれません。そのうち「西洋画法と写真」では、明治時代に名所を描いた油彩画とともに、同じ地点を写した写真をパネルで並べていて、互いに見比べることができました。桜の名所である小金井の玉川上水を描いた五百城文哉の「小金井の桜」と、小川一真による写真「The Hanami」から「小金井橋を望む」の比較も面白いのではないでしょうか。
小林清親と川瀬巴水の作品が充実していたのにも目を引かれました。そしてここでも小金井の桜を表した巴水の「小金井の夜桜」が出ていて、夜の闇で咲き誇る桜のもと、大勢の見物客が行き交う光景を見ることができました。また酒を飲んでいるのか、肩を組んで歩く人がシルエット状に描かれていて、花見特有の賑わいが感じられました。
さてこの「映えるNIPPON」において特に興味深かったのは、名所を舞台としたポスターなどの印刷物の展示でした。
例えば大正時代に当時の鉄道省が発行したポスター「房総めぐり」は、成田山や誕生寺など千葉県内の名所を紹介していて、日程別のモデルコースや料金も掲載されていました。また全てが有名なところばかりでなく、市川・八幡の藪知らずや習志野の軍の練習場まで案内があるのも心憎いかもしれません。
大阪毎日新聞社が読者向けに付録として配布した「日本鳥瞰近畿東海大図絵」は、日本中の名所を鳥瞰図として描いていて、美穂の松原や伏見稲荷、それに東照宮といった国内の観光地とともに、何故かハワイやサンフランシスコまでが記されていました。この他では鉄道省による「鉄道旅行案内」や、昭和2年の小田急の開通時に刊行された「小田原急行電車開通記念」ポスターなども貴重な資料といえるかもしれません。
「映えるNIPPON」展会場では、作品展示が進められています。今回の目玉作品の一つである #吉田初三郎 の《神奈川県鳥瞰図》(昭和7(1932)年、神奈川県立歴史博物館蔵)はなんと幅4メートルを超える大作!傾斜展示台に作品を展開して、展示していきます。#府中市美術館 #映えるNIPPON pic.twitter.com/wN4GdMPv1c
— 府中市美術館 (@FuchuArtMuseum) May 21, 2021
吉田初三郎が描いた横幅4メートルにも及ぶ大型の肉筆「神奈川県鳥瞰図」も大変に目立っていました。ここには富士山を背に横浜、三浦半島、それに大山や箱根などの名所を解剖するように描いていて、大きくデフォルメ化された神奈川の光景に圧倒されるものを感じました。
国立公園をモチーフにした絵画や、和田英作と富士山、それに向井潤吉と民家に着目した展示も見応えがあったのではないでしょうか。幅広い観点から名所を描いた作品の魅力を伝える好企画だと言えそうです。

展示替えの情報です。前後期で一部の作品が入れ替わります。
「映えるNIPPON 江戸~昭和 名所を描く」(出品リスト)
前期:5月22日(土)〜6月13日(日)
後期:6月15日(火)〜7月11日(日)
入れ替わる作品は広重、清親、巴水などの木版画です。但し6月15日より後期展示に入っているため、これ以降の入れ替えはありません。
東京都の要請により府中市美術館は5月31日まで臨時休館していましたが、6月1日より通常通り再開館しました。

予約は不要です。7月11日まで開催されています。
「映えるNIPPON 江戸~昭和 名所を描く」 府中市美術館(@FuchuArtMuseum)
会期:2021年5月22日(土)~7月11日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00
*入館は閉館の30分前まで
料金:一般700(560)円、大学・高校生350(280)円、中学・小学生150(120)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*府中市内の小中学生は「学びのパスポート」で無料。
場所:府中市浅間町1-3 都立府中の森公園内
交通:京王線東府中駅から徒歩15分。京王線府中駅からちゅうバス(多磨町行き)「府中市美術館」下車。
「新・晴れた日 篠山紀信」 東京都写真美術館
「新・晴れた日 篠山紀信」
2020/5/18~8/15

東京都写真美術館で開催中の「新・晴れた日 篠山紀信」を見てきました。
1940年に東京に生まれた写真家の篠山紀信は、多くの雑誌の表紙やグラビアを手掛けただけでなく、建物や都市などを撮影しては旺盛に活動してきました。
その篠山の意外にも初めての大規模な回顧展が「新・晴れた日」で、1960年代の初期の「天井桟敷一座」などから2011年の「ATOKATA」、それに近作の「快楽の館」まで全116点の写真が展示されていました。
まず3階の第1部では1960年代の「日米安保条約反対デモ」や「誕生」、そして1975年の「家」などが並んでいて、篠山がキャリアを築き、時代を切り取るべく写真を撮り続けていたことを目の当たりにできました。
そのうちの「誕生」は、篠山が銀座のニコンサロンで初個展を開いた際に展示された写真で、いずれも鹿児島の徳之島を舞台とした自然と女性のヌードを写していました。燦々と降り注ぐ太陽の光の元、自然と人間の造形美が表現されていて、プリミティブな魅力をたたえていました。

第1部で最も多くの作品を占めていたのが、1974年5月から半年間連載された写真を元にした「晴れた日」のシリーズでした。これは「アサヒグラフ」誌において世の中で話題となった出来事を写した作品で、ジャンルも美術、スポーツ、政治、人々の生活から気象などと多岐にわたっていました。
そしてこの「晴れた日」こそ今回の回顧展のタイトルに由来した作品で、篠山は被写体に向き合う際、常にエネルギーに満ちていつも晴れているとして、「新・晴れた日」と名付けました。またあらゆる事象をカメラに収めていった「晴れた日」そのものが、篠山の写真家としての活動を象徴しているといえるかもしれません。

続く2階の第2部ではバブル景気にわいた東京を写した「TOKYO NUDE」をはじめ、東日本大震災の被災地を写真集としてまとめた「ATOKATA」、さらには2017年の「LOVE DOLL」などが展示されていました。
「TOKYO NUDE」の「表参道 結晶のいろ」は、1990年当時、表参道の裏に建てられながら、一度も使われることなく取り壊されたビルを舞台として、魔境のような内部空間の中、モデルらが闖入したかように配されていました。シュールと呼べる光景ではないでしょうか。
この他ではヌードモデルを都市や室内空間にて写した「20XX TOKYO」や「快楽の館」も、篠山ならではの官能性を発露した作品だったかもしれません。ヌードモデルが踊って歌う姿を写した「快楽の館」の制作の現場となったのは、ちょうど今年1月に品川での活動を終えて、展示施設を伊香保に集約した旧・原美術館でした。
おおよそ一人の写真家の手による作品とは思えないほど多種多様な写真を追っていると、1960年代から現代に至る日本の社会のドキュメンタリーを見ているような気にさせられました。また1970年代のパリのシリーズや、「晴れた日」から廃屋を捉えた写真など、静けさに包まれた街角や建物を写した作品に思いがけないほど惹かれました。ともすれば篠山の意外な一面を伺えるような展覧会といえるかもしれません。
篠山自身が解説を記した冊子や、会場外のロビーにて公開されたインタビュー映像も面白かったのではないでしょうか。キャリア初期の苦労話や各シリーズの制作背景などを知ることができました。
【新着】時代を「激写」した篠山紀信の60年の軌跡を辿る回顧展 https://t.co/R2EFLsbfsv
— Pen Magazine (@Pen_magazine) June 21, 2021
東京都写真美術館は緊急事態宣言を受け、5月31日まで臨時休館していましたが、6月1日に再開館しました。
当日でもチケットを購入できますが、オンラインでの日時指定予約が推奨されています。8月15日まで開催されています。
「新・晴れた日 篠山紀信」 東京都写真美術館(@topmuseum)
会期:2020年5月18日(火)~8月15日(日)
休館:月曜日。但し月曜日が祝日・振替休日の場合は開館し、翌平日休館。
時間:10:00~18:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1200円、大学生950円、中学・高校生・65歳以上600円。
*第1部もしくは第2部のみ:一般700円、学生560円、中高生・65歳以上350円
場所:目黒区三田 1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口より徒歩約7分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩約10分。
「マーク・マンダース ―マーク・マンダースの不在」 東京都現代美術館
「マーク・マンダース ―マーク・マンダースの不在」
2021/3/20~6/22

東京都現代美術館で開催中の「マーク・マンダース ―マーク・マンダースの不在」を見てきました。
1968年にオランダに生まれ、現在はベルギーにスタジオを構えるアーティスト、マーク・マンダースは、美術館といった建物に彫刻などを配し、全体として人の像を構築するという「建物としての自画像」をテーマに作品を制作してきました。
そのマーク・マンダースの国内の美術館としては初めての個展が「マーク・マンダース ―マーク・マンダースの不在」で、会場内には主にブロンズによる人物や動物、ないし建物などを断片的に象った作品が展示されていました。

「マインド・スタディ」2010〜2011年
それにしてもこれほど特異でミステリアスでかつ、かつて見たことのないような風景を立ち上がらせるアーティストもほかになかなか存在しないかもしれません。

「マーク・マンダース ―マーク・マンダースの不在」会場風景
まず会場では展示室を区切らず、大小33点のオブジェが配置されていて、全体として1つのインスタレーションが展開されていました。

「4つの黄色い縦のコンポジション」2017〜2019年
そして足を進めると、薄い半透明のビニールで囲まれた通路とも部屋とも呼べるようなスペースが現れて、その中に巨大な彫刻である「4つの黄色い縦のコンポジション」や「乾いた土の頭部」などが展示されていました。

「椅子の上の乾いた像」2011〜2015年 東京都現代美術館
これらはマーク・サンダースのいわゆるスタジオとして考案されたフロアで、中央の通路上のスペースだけでなく、裏側からもビニール越しに滲み現れる作品を見ることができました。

「乾いた土の頭部」2015〜2016
ともかく一連の彫刻を目にして感じるのは、痛みや苦しみを抱えながらも、瞑想するようかのように内省的な人物の存在でした。またポロポロと朽ち果てていくような彫刻は古代の遺物のようで、しばらく通路を歩いていると、さも遺跡の中を彷徨っているような錯覚に囚われました。

「黄色い縦のコンポジション」2019〜2020年
さらに作家が立ち去った「不在」の痕跡のみが残されていて、時間も限りなく静止しているように感じられました。また一部が欠落した作品など、完成と未完成との関係も曖昧で、そこに見る側としての想像力が入り込む余地が残されているように思えました。

「舞台のアンドロイド(88%に縮小)」2002〜2014年
マーク・マンダースは「建物としての自画像」の構想に際し、自身と同じ名前の架空の芸術家を設定し、その自画像を建物の枠組みの中に築くとしています。

「リビングルームの光景」2008〜2016年
そこにはアーティスト個人の自意識が反映されているとともに、来場者を迎え入れて対話することで、新たな世界が生み出されていくのかもしれません。マーク・マンダースが頭の中にて精緻に組み上げた思考のパズルの欠片が、展示室内に作品として体現しているようにも見えました。

「記録された課題」1992〜1993年
「建物としての自画像は時間がすべて凍結しています。私の作品、私にとってすべての作品は同じ瞬間に存在します。」 マーク・マンダース(展覧会ハンドアウトより)

東京都現代美術館は緊急事態宣言を受け臨時休館していましたが、6月1日より完全予約制のうえ展示が再開されました。チケットはオンラインにて事前に来館する日付を指定する必要があります。
#東京都現代美術館 で会期を6/22(火)まで延長し開催中の「マーク・マンダース ―マーク・マンダース」展のカタログは美術館のミュージアムショップやオンラインショップ等でお買い求めいただけます。出版社のオンラインショップはこちら(送料無料)⇒https://t.co/osV94evkL1 pic.twitter.com/656f1xjI8o
— 東京都現代美術館 (@MOT_art_museum) June 3, 2021
間も無く会期末です。6月は最終日まで休館日がありません。

「4つの黄色い縦のコンポジション」2017〜2019年 (拡大)
彫刻としての圧倒的量感も大きな魅力といえるかもしれません。ひび割れた粘土のようなブロンズの迫力は並大抵ではありませんでした。

「狐/鼠/ベルト」1992〜1993年
一部の撮影が可能でした。6月22日まで開催されています。
「マーク・マンダース ―マーク・マンダースの不在」 東京都現代美術館(@MOT_art_museum)
会期:2021年3月20日(土・祝)~6月22日(火)*会期延長
休館:月曜日。但し6月は最終日まで休館日なし。
時間:10:00~18:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500円、大学・専門学校生・65歳以上1000円、中高生500円、小学生以下無料。
*6月は完全予約制(日にち指定)
*MOTコレクションも観覧可。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分。都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
「オムニスカルプチャーズ——彫刻となる場所」 武蔵野美術大学美術館
「オムニスカルプチャーズ——彫刻となる場所」
2021/4/5〜6/20

武蔵野美術大学美術館で開催中の「オムニスカルプチャーズ——彫刻となる場所」を見てきました。
これは戸谷成雄、舟越桂、伊藤誠、青木野枝、三沢厚彦、西尾康之、棚田康司、須田悦弘、小谷元彦、金氏徹平、長谷川さちといった11名の現代彫刻家の作品を公開する展示で、同大教授で彫刻家の三沢厚彦が監修を担当しました。

「オムニスカルプチャー」とは、彫刻の全方位性(=omni)を示す三沢による造語で、各アーティストの作品がアトリウムから展示室へと自在に行き交うように置かれていました。

手前:西尾康之「磔刑」 2021年
いずれの作品も新作を中心としているのが特徴で、大きさも素材もまちまちでありながら、時にあたかも互いの存在を確認するかのように響き合っていました。

戸谷成雄「横たわる男」 1971年
一部には戸谷成雄の「横たわる男」など旧作も展示されていて、新旧の作品を比べては作風の変遷を見ることができました。木材をチェーンソーで刻んだ作品で知られる戸谷の現在の制作からすれば、ともすると同じ彫刻家の作品とは気がつかないかもしれません。

西尾康之や小谷元彦らの大型の作品も目立っていて、天井高のあるアトリウムの空間を効果的に用いたことにも魅力を感じました。なお会場の構成は画家の杉戸洋が担いました。

青木野枝「Mesocyclone I」 2021年
鉄を素材にした彫刻を手がける青木野枝は2点の作品を出品していて、ちょうど天井付近のスロープ上にてまるで自生する生き物のように円を描いていました。

須田悦弘「クレマチス」 2021年
草花などを象った木彫で人気の須田悦弘は、キキョウやクレマチスなどの作品を会場に潜ませるように展示していて、雑草に至っては思わず通り過ぎてしまうほどにひっそりと佇んでいました。

棚田康司「2020年全裸の真理」 2021年
さらに舟越桂や棚田康司の樟を用いた彫像も見応えがあったのではないでしょうか。そもそもこれほど実力のある彫刻作家が一堂に会することからして、大変な貴重な展示と言えるかもしれません。

なお現在、同館では「オムニスカルプチャーズ——彫刻となる場所」と合わせて、「片山利弘——領域を越える造形の世界」、「膠を旅する——表現をつなぐ文化の源流」の3つの展示が同時に行われています。

いずれも充実していましたが、特に日本画の伝統的画材の膠に着目し、膠の歴史や社会的背景に踏み込んで資料を展示した「膠を旅する——表現をつなぐ文化の源流」が大変に見応えがありました。

特に魚膠を生活にとりこむアイヌなどの北方民族の文化を紹介した展示が興味深かったのではないでしょうか。

丸木位里・丸木俊「原爆の図 高張提灯」 1986年
この他では昨年に同館に収蔵され、修復後に初めて公開された丸木位里・丸木俊の「原爆の図 高張提灯」も大変な迫力がありました。

1つの画材を通して、多面的な文化の諸相を浮き彫りにした好企画と言えるかもしれません。彫刻展に加えてお見逃しなきようにお勧めします。

最後に入場に際しての情報です。同美術館では緊急事態宣言を受けて展示を学内(学生・教職員)へ限定的に開放してきましたが、6月5日より開館日時を変更して、一般(学外)にも再開されました。

但し一般の開館は土日のみに限定され、来館前日までに入館予約フォームにて予め来館日時を指定しておく必要があります。なお1回の予約で開催中の3つの展示を全て観覧できます。
【美術館】【重要】当館では、展覧会の開催を学内に限定しておりましたが、6/5(土)〜6/20(日)までの間、一般(学外)の方への開館を【土・日曜のみ、完全予約制】にて再開いたします。ご予約申込方法等、詳細はこちらでご確認ください↓https://t.co/56FF3IzQKf
— 武蔵野美術大学 美術館・図書館 (@mau_m_l) June 2, 2021
よって一般向けの会期の残りは6月19日と20日の土日の2日間です。完全予約制で当日の受付はありません。最新の予約状況などは同館のWEBサイトをご覧ください。

小谷元彦「Torch of Desire - 52nd Star」 2020年
6月20日まで開催されています。
「オムニスカルプチャーズ——彫刻となる場所」 武蔵野美術大学美術館(@mau_m_l)
会期:2021年4月5日(月)〜6月20日(日)
休館:火曜日。
時間:月・水・木・金曜(学内限定)12:00〜18:00、土・日曜(一般(学外)限定)①10:00〜12:00、②12:30〜14:30、③15:00〜17:00
料金:無料。
場所:東京都小平市小川町1-736
交通:西武国分寺線鷹の台駅下車徒歩約20分。JR線国分寺駅(バス停:国分寺駅北入口)より西武バスにて「武蔵野美術大学」下車。(所要約25分)
「はじめての森山大道。」 ほぼ日曜日
「はじめての森山大道。」
2021/5/14~6/25

渋谷PARCO8階のほぼ日曜日にて開催中の「はじめての森山大道。」を見てきました。

今回の森山展では「知らなかった人にこそ見てほしい」をテーマとしていて、会場にはスナップショット60点をはじめ150冊以上の写真集、あるいは手書き原稿や愛用のカメラなどが所狭しと展示されていました。

まず会場入口にて出迎えてくれるのが、森山の代表作として知られる「三沢の犬」の大きなパネル写真でした。これは1971年に「アサヒカメラ」の連載「何かへの旅」へ掲載された作品で、森山が青森県の三沢に泊まった朝、旅館より外に出た時に目にした犬を写したとされています。

そしてこの「三沢の犬」にクローズアップしたのが「なぜ、この写真が有名なのか。」としたセクションでした。ここでは作品の解説とともに、森山や批評家らの言葉、さらには立体化したフィギュアからいわゆるグッズのクッションまで並んでいて、「三沢の犬」の魅力を様々な角度から知ることができました。

森山の作品を語る上で欠かせない「アレ・ブレ・ボケ」に関した展示も見逃せませんでした。1960年代に森山は従来の写真表現へ一石を投じるべく、「アレ」た粒子の画面、「ブレ」た被写体、そしてピントの合わない「ボケ」た写真を発表しては賛否を巻き起こしました。

多くのプリント作品が並ぶ中、一際興味深かったのが、初期作品「にっぽん劇場写真帖」のポジフィルムの展示でした。

横に長いライトボックスの上には一枚一枚のフィルムがずらりと置かれていて、ルーペにて拡大して見ることもできました。なおこうしたスライドの形で展示するのははじめてのことだそうです。

60年の活動の軌跡を豊富な資料にて辿った「森山大道の写真集。」も充実していたのではないでしょうか。1960年代より近年に至る写真集が壁一面にずらりと並んでいて、閲覧することは叶わないものの、長きにわたる旺盛な写真家としての活動を目の当たりにできました。

雑誌「記録」は1972年から始まった私家版写真誌で、翌年の5号発行後に一時休刊となったものの、後に続編の打診があって2006年に復活しました。その後は一年に3冊から4冊のペースで発行され、現在まで続いてきました。2021年3月に発行された最新の「記録46号」に寄せた直筆原稿も貴重な資料かもしれません。

このように写真のみならず、手紙や雑誌の色校正紙などの資料展示が充実しているのも、今回の森山展の魅力ではないでしょうか。

ほぼ日曜日の手狭なスペースでしたが、予想以上に密度の濃い展示でした。

「単なる通行人として、街区を擦過しつつ自ら路上のセンターとなって撮影しつづける、それがぼくの写真のありようであり、唯一のカメラワークである」 森山大道 *会場内パネルより

観覧料は600円でしたが、ショップ及び渋谷PARCO4階のほぼ日カルチャんで利用可能な100円の買い物チケットがついています。ビームスとのコラボなどグッズも豊富に揃っていました。
おはようございます!ほぼ日曜日オープンしました物販コーナーではとっても貴重な写真集を販売しています。しかもデッドストックという古本屋などでも、なかなか出回らないレアなものです!!#はじめての森山大道 展本日もお待ちしております(そう) pic.twitter.com/hTVocM6wsf
— ほぼ日曜日 / 渋谷PARCO8階 (@hobo_nichiyobi) June 6, 2021
予約は不要です。撮影もできました。
会期延長されました。6月25日まで開催されています。
「はじめての森山大道。」 ほぼ日曜日(@hobo_nichiyobi)
会期:2021年5月14日(金)~6月25日(金) *会期延長
休館:会期中無休
時間:11:00~20:00
料金:600円。小学生以下無料。
*来場時に森山大道フィルム風しおりと100円分の買い物チケットをプレゼント。
住所:渋谷区宇田川町15-1 渋谷PARCO8階
交通:JR線、東急東横線・田園都市線、京王井の頭線、東京メトロ銀座線・半蔵門線渋谷駅より徒歩5分。
「ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展」 東京オペラシティアートギャラリー
「ストーリーはいつも不完全……色を想像する ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展」
2021/4/17~6/24

イギリスの現代アーティスト、ライアン・ガンダーが、東京オペラシティアートギャラリーの寺田コレクションをキュレーションする展覧会が、同館にて開かれています。
それが「ストーリーはいつも不完全……色を想像する ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展」で、3階と4階の2つのフロアの展示室にはガンダーのセレクトした約190点の作品が展示されていました。
さていわゆるコレクション展ながらも、過去に同館で今回ほどユニークな展示手法がとられていたことはなかったかもしれません。

「ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展」4階展示室風景
まず最初の「色を想像する」と題した4階の展示室では、故寺田氏が収集のテーマとしていた「ブラック&ホワイト」に因み、モノクロームの作品のみが展示されていて、一部の立体を除き、版画や絵画といった平面の作品にて統一されていました。

「ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展」4階展示室風景
さらに独特なのは全ての作品が壁の一方のみに並べられていることで、反対側の壁には対応する作品の大きさを示すフレームとキャプションのみが置かれていました。

「ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展」4階展示室風景
これらは欧米の美術館で伝統的な展示方法である「サロン・スタイル」に倣っていて、一見、モノクローム以外に共通項は見れないものの、配置に対称性があるなど工夫が凝らされていました。

「ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展」4階展示室風景
寺田氏が「ブラック&ホワイト」をテーマとしたのは、自身の幼少期に映画がモノクロからカラーに変わった際、がっかりしたという経験に基づいているそうです。シンプルなモノクロームの世界ながらも、作品同士の関係など多様に想像を膨らませる展示と言えるかもしれません。

「ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展」3階展示室風景
*スマートフォンカメラの補正が入っているため明るく見えますが、実際はもっと暗く感じられました。
一方で続く3階の「ストーリーはいつも不完全」も極めて大胆な展示が行われていました。入口から足を進めると薄暗がりの展示室が広がっていて、遠目ではどのような作品が展示されているか分からないほどでした。また展示室は「探索」、「注視」、「視点」、「パノラマ」、「ヴィジョン」の5つのテーマに分けられていました。

難波田龍起「アブストラクトA」 1954年
いずれも入口で手にするペンライトの光を頼りに作品を鑑賞する趣向がとられていて、明かりを当てることで初めて作品が認識できるようになっていました。

菊畑茂久馬「作品1」 1995年
実のところ初めは戸惑いを覚えましたが、しばらくペンライトをかざしながら見ていくと、明かりの向きや当て方などによって作品の表情が大きく変化することに気づきました。それにペンライトの照度や光の範囲の関係もあるのか、全体よりも細部が際立って見えました。

相笠昌義「みる人」 1972年
ペンライトによって自分の見ている視点なりが視覚化されるのも面白いかもしれません。これまでにはない鑑賞体験を得ることができました。

山本麻友香「three eyes」 2006年
なお本展は当初、ガンダーの個展として企画していたものの、新型コロナウイルス感染症のパンデミックに伴って延期されたため、4階のみで予定されていた「ガンダーが選ぶ収蔵品展」を全館規模に拡大して開催されました。ガンダー自身も来日が叶わないために、作品のリストや画像、さらに会場の図面をオンラインでやり取りしながら準備が行われたそうです。

李禹煥「線より」 1976年
ガンダーの個展が延期されてしまったのは残念ですが、現代アーティストとコレクションの協働という新たな視点を盛り込んだ展覧会ではなかったでしょうか。
予約は不要です。但し混雑時は入場規制を行う場合があります。
ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展、最終日まであと2週間となりました。休館日無しで会期延長しています。週末は混雑が予想されますので平日のご来館がおすすめです👀https://t.co/95K3eSjnDn pic.twitter.com/p7ExuFUd9Q
— 東京オペラシティアートギャラリー (@TOC_ArtGallery) June 9, 2021
6月中は通常休館日の月曜日も開館します。6月24日まで開催されています。
「ストーリーはいつも不完全……色を想像する ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展」 東京オペラシティアートギャラリー(@TOC_ArtGallery)
会期:2021年4月17日(土)~6月24日(木)
休館:月曜日。但し5/3、6/7、6/14、6/21は開館。
時間:11:00~19:00
*入場は閉館30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大・高生600(400)円、中学生以下無料。
*同時開催中の「project N 82 松田麗香」の入場料を含む。
*( )内は各種割引料金。
住所:新宿区西新宿3-20-2
交通:京王新線初台駅東口直結徒歩5分。
「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」 サントリー美術館
「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」
2021/4/14~6/27

サントリー美術館で開催中の「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」を見てきました。
アメリカ中西部のミネソタ州の都市に位置し、良質な日本美術の作品を多く有するミネアポリス美術館のコレクションが、日本へと里帰りして来ました。
それが「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」で、会場には中世より近代へと至る水墨画、屏風絵、浮世絵、さらに南画など約90点の作品が展示されていました。

山田道安「龍虎図屏風」 室町時代、16世紀
冒頭の水墨画では山田道安の「龍虎図屏風」が目立っていたかもしれません。戦国時代に雪舟流の画家に学び、武人でもあった道安による六曲一双の作品で、波しぶきの上から龍が現れ、風の吹き荒れる中に身を構えた虎の様子を対比するように描いていました。白い波頭や風にしなる竹の表現などもダイナミックではないでしょうか。

藝愛「粟に雀図」 室町時代、16世紀
室町時代に活動し、将軍の御用絵師の子であるという説があるものの、必ずしも来歴が定かではない藝愛の「粟に雀図」にも惹かれました。ここでは粟の実をついばもうとしたり、地面の上で何やら喧嘩をするような雀が可愛らしく描かれていて、粟の下に生える草花も細かに表されていました。

狩野山雪「群仙図襖(旧・天祥院客殿襖絵)」 江戸時代、正保3(1646)年
かつて大覚寺正寝殿にあった伝山楽の「四季耕作図襖」と旧天祥院客殿を飾っていた山雪の「群仙図襖」といった、狩野派にも優品が少なくありませんでした。このうち後者の「群仙図襖」は鮮やかな金地を背景に、9名の仙人や童子が描かれていて、上質な顔料を用いたのか驚くほどに彩色が鮮やかでした。

「武蔵野図屏風」 江戸時代、17世紀
やまと絵では一面に薄が広がり満月が地平低く沈む「武蔵野図屏風」に魅せられました。薄とともに秋の花々も描きこまれていて、上方の金雲が水流へと変化するように薄原へと広がっていました。武蔵野図は江戸時代前期に流行したモチーフとして知られていますが、花や水流の表現などからより装飾性の高い作品と言えるかもしれません。

伊藤若冲「鶏図押絵貼屏風」 江戸時代、18世紀
いわゆる奇想の絵師として人気の高い蕭白や若冲らの作品も見どころだったのではないでしょうか。まるで席画のように素早く激しい筆致で描かれた蕭白の「群鶴図屏風」をはじめ、得意とした鶏の様々な姿を描いた若冲の「鶏図押絵貼屏風」などが印象に残りました。
ただそうした有名な作品だけでなく、あまり知られていない絵師にも興味深い作品があるのも、今回の里帰り展の大きな魅力かもしれません。

三畠上龍「舞妓覗き見図」 江戸時代、19世紀
その1つが天保年間の京都で活動し、四条派に学びつつ風俗画を得意としたという三畠上龍の「舞妓覗き見図」でした。左右の対の画面には桜の舞う中に立つ艶やかな女性ともに、円窓から顔を出す少年が描かれていて、とりわけ目を開いた少年の表情はグロテスクと呼んでいいほどに奇異でした。

青木年雄「鍾馗鬼共之図」 明治時代、19世紀
明治時代に渡米してカルフォルニアなどで活動したという青木年雄の「鍾馗鬼共之図」は、鍾馗の周囲の鬼が画面を遍く埋め尽くすように表された作品で、濃厚でかつ陰影の極めて強い描写などに目を引かれました。

鈴木松年「春山帰樵図」 明治時代、19~20世紀
同じく明治時代では鈴木松年の「春山帰樵図」も情緒的な作品かもしれません。ちょうど柴を背負った人物が渓谷に沿って歩いていて、切り立った崖の合間には白い霧が漂いつつ、淡い色をつけた山桜が花を咲かせていました。

葛飾北斎「百物語 さらやしき」 江戸時代、天保2~3(1831~32)年
春信に清長、歌麿、写楽に北斎といった浮世絵も充実していました。しかも総じて状態が良いのか発色が良いのも特徴で、浮世絵の最大の魅力でもある鮮やかな色彩を楽しむことができました。

東洲斎写楽「二代目市川門之助の伊達与作」 江戸時代、寛政6(1794)年
振り返れば2007年に渋谷区立松濤美術館の「Great Ukiyoe Masters」でもミネアポリス美術館の浮世絵コレクションが公開されて評判を呼びましたが、今回の里帰り展のハイライトの1つとして浮世絵を挙げても差し支えないかもしれません。

狩野芳崖「巨鷲図」 明治21(1888)年頃
この他では狩野芳崖の「巨鷲図」や山村耕花の「春」なども魅惑的に映りました。ともかくどのジャンルの作品も粒が揃っていて、「名品展」とするのも誇張とは思えませんでした。

右:山村耕花「春」 大正4(1915)年
緊急事態宣言を受けて4月25日から臨時休館していましたが、休業要請の緩和に伴って6月2日に再開しました。但し会期の延長はありません。
\20時まで開館/#ミネアポリス美術館展 では金曜・土曜は20時まで開館。本展の目玉のひとつ、雪村周継「花鳥図屛風」も通期で展示中です。 #Mia展 #Mia展推し絵師https://t.co/mWSr8X8jRy pic.twitter.com/koyRaf7fRX
— サントリー美術館 (@sun_SMA) June 4, 2021
予約は不要です。撮影も可能でした。

「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」会場風景
6月27日まで開催されています。なお東京での展示を終えると、福島県立美術館(2021年7月8日~9月5日)、及びMIHO MUSEUM(2021年9月18日~12月12日)他へと巡回(会期は予定)します。 *一番上の写真の作品は、酒井抱一「源氏物語 秋好中宮・白萩図」 江戸時代、19世紀
「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」 サントリー美術館(@sun_SMA)
会期:2021年4月14日(水)~6月27日(日)
休館:火曜日。*5月4日は20時まで、6月22日は18時まで開館。
時間:10:00~18:00
*入館は閉館の30分前まで。
*金・土曜は20時まで開館。
料金:一般1500円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分
「MUCHA(ミュシャ) グラフィック・バラエティ」 うらわ美術館
「MUCHA(ミュシャ) グラフィック・バラエティ」
2021/4/17~6/20

うらわ美術館で開催中の「MUCHA(ミュシャ) グラフィック・バラエティ」を見てきました。
現在のチェコに生まれ、アール・ヌーヴォーを代表するアルフォンス・ミュシャは、ポスターだけでなく、本、雑誌、切手、商品パッケージなどデザインの仕事でも旺盛に活動しました。
そうしたグラフィック・デザインを紹介するのが「MUCHA(ミュシャ) グラフィック・バラエティ」で、会場にはミュシャの収集家で知られる尾形寿行氏のOGATAコレクションを中心に約550点もの作品が展示されていました。
さて今回のミュシャ展はタイトルに「バラエティ」とあるように、デザインに関する様々な資料が並んでいるのが特徴で、ビスケット容器や香水瓶、それにメニュー表からカレンダーなどの生活に根差した作品も目立っていました。

左:アルフォンス・ミュシャ「ジスモンダ」 1894年 OGATAコレクション
右:アルフォンス・ミュシャ「ジスモンダ アメリカンツアー」 1895年 OGATAコレクション
いわゆるデビュー作と知られる「ジスモンダ」をはじめとした商業ポスターも充実していました。フランスの女優、サラ・ベルナールをモデルとした同ポスターは、当時まだ無名だったミュシャが制作するとパリの街角で大変な評判を呼び、一躍ポスター界の寵児として注目を集めるようになりました。
「ジョブ」はタバコの巻紙を宣伝としたポスターで、巻紙のタバコの香りに酔った長い髪の女性とともに、ビザンティン趣味風の装飾が画面へ広がっていました。ミュシャの作品は当初、商業ポスターとして作られたものの、人気を博したために装飾パネルとして売り出されたものも少なくなく、「ジョブ」もコレクターの要請に応えて小型版が制作されました。
ハイライトはミュシャのデザインのバイブルとも呼ばれる「装飾資料集」と「装飾人物集」の全112点にあったかもしれません。
「装飾資料集」とは1902年、既に40歳を超えて巨匠としての地位を築いていたミュシャが、デザインを学ぶ人々のために刊行した、鉛筆デッサンに基づく72点からなる図案集でした。
ここには女性や自然の草花をモチーフとした装飾のデザインから食器、アクセサリーなどが掲載されていて、いずれも極めて精緻な線によって描かれていました。そのうち植物の習作などは博物図譜のような迫真性が見られたかもしれません。
その3年後に著したのが「装飾人物集」で、全て女性をモチーフに40点の図案を示しました。またここでは人物のほとんどが円形や楕円形、それに星形などの幾何学的な形態や枠の中に収められていて、ギリシャやゴシック建築の彫刻の造型を思わせるものがありました。
いずれの図案集とも全てのページが展示されているのも嬉しいところで、デザイナーとしてのミュシャの仕事の集大成を目の当たりにするかのようでした。
なお本展は全国を各地にて開催されてきた巡回展ですが、うらわ美術館では収集方針の「本をめぐるアート」に因んで、元来の作品に加えて堺のアルフォンス・ミュシャ館の挿絵の習作も複数点紹介するなど、オリジナルな構成となっていました。
【新着】約550点もの作品を一挙公開!『MUCHA(ミュシャ) グラフィック・バラエティ』のお気に入りをSNSに投稿しよう https://t.co/nkXQFj98Ng
— Pen Magazine (@Pen_magazine) May 26, 2021
「お気に入りの1点」のみの撮影ができました。近年、撮影可能な展覧会も増えてきましたが、他ではあまり見られない珍しい試みと言えるかもしれません。
予約は不要ですが、入場時に氏名や連絡先などを来館者記録用紙に記入する必要がありました。

必ずしも広い展示室ではありませんが、内容は質量ともに膨大です。時間に余裕をもってお出かけください。
6月20日まで開催されています。
「MUCHA(ミュシャ) グラフィック・バラエティ」 うらわ美術館(@UrawaArtMuseum)
会期:2021年4月17日(土)~6月20日(日)
休館:月曜日。(ただし5月3日は開館)、5月6日。
時間:10:00~17:00
*金・土曜は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般620(490)円、大高校生410(320)円、中小生200(160)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:さいたま市浦和区仲町2-5-1 浦和センチュリーシティ3階
交通:JR線浦和駅西口より徒歩7分。
「川瀬巴水と新版画 ―神奈川の風景を中心に―」 川崎浮世絵ギャラリー
「川瀬巴水と新版画 ―神奈川の風景を中心に―」
2021/5/15〜6/6

公益社団法人川崎・砂子の里資料館には川崎ゆかりの作品を含めて4000点もの浮世絵が蒐集され、斎藤文夫コレクションと冠して一般にも公開されてきました。
その川崎・砂子の里資料館のコレクションを引き継いだのが川崎浮世絵ギャラリーで、2019年12月に川崎駅に隣接する川崎駅前タワー・リバークに開館しました。

ちょうどJR線川崎駅の北口東から直結した高層ビルの3階にある「アートガーデンかわさき」に位置していて、反対側の京急線川崎駅からも歩いて2〜3分ほどでした。

現在、開催中の展示は「川瀬巴水と新版画 ―神奈川の風景を中心に―」で、川瀬巴水を中心に吉田博、石渡江逸、笠松紫浪、小原古邨といった新版画の作品、計76点が公開されていました。
【川瀬巴水と新版画】本日は川瀬巴水「元箱根見南山荘風景」をご紹介いたします。見南山荘(現:山のホテル)は、三菱の創業者岩崎彌太郎の甥、岩崎小彌太男爵の別邸でした。山荘は芦ノ湖と富士山、庭園の約3000株のツツジの美しい景観で知られました。巴水は岩崎家の依頼で6図を制作しています。 pic.twitter.com/cDLRud9c2q
— 川崎浮世絵ギャラリー kawasaki_ukiyo-e (@Kawasaki_ukiyoe) May 19, 2021
巴水で中心となっていたのは当地の神奈川を舞台とした版画で、「鎌倉大佛」や「鎌倉建長寺」、それに「元箱根見南山荘風景」のシリーズなどに目を引かれました。このうち「元箱根見南山荘風景」はかつて元箱根にあった三菱財閥の岩崎家の別荘で、巴水は同家より依頼を受けて作品を制作しました。特に名所とされたつつじが咲く光景を色鮮やかに描いていて、後景には富士山がそびえる姿を見ることもできました。
この他では「大森海岸」や「矢口」といった、神奈川に近い場所の作品が展示された「東京二十景」も見どころだったのではないでしょうか。またおそらくは江戸川越しの浦安の光景を牧歌的に描いた「初秋の浦安」にも魅せられました。
全国8カ所の桜の名所をモチーフとした吉田博の「桜八題」も目立っていたかもしれません。中でも「弘前城」は石垣の上の天守を背に咲き誇こる桜を描いていて、花はこぼれ落ちそうなほどに画面へ満ち溢れていました。
巴水の門人で子安に住んでいた石渡江逸も神奈川を描いた版画家の一人でした。そのうち「横浜長嶋橋所見(洛陽)」は摺違いの2点の作品が並んでいて、1点は夕陽が水辺の街並みを朱色に染めていてドラマテックな情景を表していました。

撮影可能の複製作品。展示室内の撮影はできません。
美人画で知られる橋口五葉の比較的珍しい花鳥主題の「鴨」や、明治期の新たな美人風俗画として制作された高橋松亭の「いますかた 花のさと」、さらにはエリザベス・キースの「鎌倉 夏の思い出」なども力作と言えるかもしれません。また巴水を含めて保存状態が良いのか、総じてコレクションの発色が良いのも印象に残りました。

「アートガーデンかわさき」。この奥に「川崎浮世絵ギャラリー」の展示室がありました。
手狭なスペースながらも新版画ファンには嬉しい展示でした。会期中に作品の入れ替えはありません。

川崎駅前タワー・リバーク
会場内は作品保護の観点からかなり暗めでした。6月6日まで開催されています。
「川瀬巴水と新版画 ―神奈川の風景を中心に―」 川崎浮世絵ギャラリー(@Kawasaki_ukiyoe
)
会期:2021年5月15日(土)〜6月6日(日)
休館:月曜日。(休日の場合は翌平日)
時間:11:00~18:30
*入館は閉館の15分前まで。
料金:一般500円。高校生以下無料。
住所:川崎市川崎区駅前本町12-1 川崎駅前タワー・リバーク3階
交通:JR線川崎駅北口東より直結徒歩2分。京急線川崎駅より徒歩2分。
「古き良き日本の美 渡邊省亭と谷文晁摸写《佐竹本三十六歌仙絵巻》」 齋田記念館
「古き良き日本の美 渡邊省亭と谷文晁摸写《佐竹本三十六歌仙絵巻》」
2021/4/1~5/22

近年、人気が高まり、東京藝術大学大学美術館をはじめとした全国巡回展でも話題の日本画家、渡邊省亭の作品が、東京・世田谷の齋田美術館にて公開されています。
齋田記念館とは江戸時代初期、代田村開発の中心となった齋田家ゆかりの文化的資料を公開する施設で、1997年に齋田茶文化振興財団のもとに開館しました。齋田家は幕末から長く茶業を営んでいたことから、茶に関する資料が多く保存されていて、今も研究や調査活動が行われています。

最寄駅の小田急線の世田谷代田駅を降り、西口から車の往来の激しい環七通りを南へ歩いて、しばらくすると右手に白壁に囲まれた建物が見えてきました。それが齋田記念館で、所要時間は駅から約7〜8分ほどでした。

敷地内へと足を進めると手入れの行き届いた樹木が生い茂っていて、喧騒に包まれた環七通りとは一変した落ち着いた空間が広がっていました。

立派な門を構えるのが齋田家の屋敷で、記念館は手前の白い建物でした。中に入ると左手に受付があり、その奥の小さな展示室にて「古き良き日本の美 渡邊省亭と谷文晁摸写《佐竹本三十六歌仙絵巻》」が行われていました。

これは同館所蔵の省亭の作品18点と、谷文晁が摸写した「佐竹本三十六歌仙絵巻」を合わせ見る内容で、全部で19点の作品が公開されていました。なお省亭の18点のうち実に12点が初公開でした。
今回の省亭展で私が特に惹かれたのが、雨の風景を描いた作品でした。そのうち「春雨」と「雨中渡舟」はいずれも雨の中、笠をかぶりながら隅田川の渡し舟に乗る人々を描いていて、いずれも朦朦とした湿り気までも情感豊かに表していました。また本作に加えて「雪の渡し舟」も同様に隅田川の渡しをモチーフとしていて、浅草で亡くなった省亭の同地に対する愛情を感じるかのようでした。
省亭をはじめ、荒木寛畝、川端玉章、酒井道一らがともに描いた「花鳥図」も魅惑的な作品でした。手前の道一による色彩鮮やかな菖蒲が目立つ中、省亭は可愛らしい小さな雀を中央の下の方へ控えめに描いていました。解説によると省亭は絵師の中で3番目に若かったと記されていましたが、どこか先輩絵師に対しての遠慮があったのかもしれません。

20点弱の作品数ゆえに量は多くありませんが、ともかく粒揃いの作品ばかりで、思いがけないほどに充実していました。この他、備前香合と取り合わせた「あやめ」の露出展示も見どころかもしれません。床の間を飾るような設えにも魅了されました。

残念ながら東京藝術大学大学美術館での省亭展は事実上、会期半ばで打ち切りとなってしまいましたが、また一つ省亭の優美な花鳥世界に心惹かれました。*「渡辺省亭 欧米を魅了した花鳥画」は東京展以降、岡崎市美術博物館(5月29日~7月11日)と佐野美術館(7月17日~8月29日)へ巡回予定。

会期末の駆け込みになってしまいました。5月22日まで開催されています。なお最終日は混雑が予想されるため、状況によっては整理券の配布などの入場制限が行われる場合があるそうです。お出かけの際はご注意ください。
「古き良き日本の美 渡邊省亭と谷文晁摸写《佐竹本三十六歌仙絵巻》」 齋田記念館
会期:2021年4月1日 (木) ~5月22日 (土)
休館:土曜(但し第4土曜日4/24・5/22は開館)、日曜、祝日。
時間:10:00~16:30
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般300円
住所:世田谷区代田3-23-35
交通:小田急線世田谷代田駅より徒歩7分。東急世田谷線若林駅より徒歩10分。
「コレクション 4つの水紋」 埼玉県立近代美術館
「コレクション 4つの水紋」
2021/3/23~5/16

埼玉県立近代美術館で開催中の「コレクション 4つの水紋」を見てきました。
1982年、北浦和公園内に開館した埼玉県立近代美術館は、印象派以降の西洋絵画と埼玉県ゆかりの作家の作品などを中心に収集を続け、企画展や常設展などで広く公開してきました。
そのコレクションの一端を4名の作家を起点に紹介するのが「コレクション 4つの水紋」で、西洋画や日本画、あるいは現代美術の作家の作品、約130点が展示されていました。

ポール・シニャック「アニエールの河岸」 1885年
まず最初の起点となったのが、近年に収蔵されたポール・シニャックの「アニエールの河岸」でした。パリ北西部の街の景色を暖色を基調とした淡い色彩により描いていて、印象派の影響を伺わせるものの、水面などには後の画風を予兆させる細かな点描のような筆触も見られました。

跡見泰「石川島」 1930(昭和5)年
そしてこの「アニエールの河岸」からピックアップされたのが、水辺の景色と点描表現による作品でした。

モーリス・ドニ「トレストリニェルの岩場」 1920年
今回の展覧会で面白いのは、西洋と東洋、あるいは古典や現代を区別せず、それぞれのテーマから作品を並べていることで、例えば水の景色では跡見泰の「石川島」や森田恒友の「着船」とともに、モーリス・ドニの「トレストリニェルの岩場」などが展示されていました。

左:難波田龍起「水のある街」 1969(昭和44)年 ほか
右:難波田史男「湖の孤独」 1970(昭和45)年
また抽象表現とも受け取れる難波田龍起の「水のある街」や、湖上に一人で船を寂しく浮かべた光景を描いたような難波田史男の「湖の孤独」といった、難波田父子の作品も見どころだったかもしれません。

右:速水御舟「夏の丹波路」 1915(大正4)年
左手前:斎藤豊作「初冬の朝」 1914(大正3)年
さらに点描においても、里山を緑色の斑点で表した速水御舟の「夏の丹波路」と一緒に、網目状の点でモネの絵画を引用したロイ・リキテンスタインの「積みわら7」が並んでいて、洋の東西を超えた作品の邂逅に見入るものがありました。

奥原晴湖「秋景山水図」
続く2人目の作家として登場したのが、幕末から明治初期にかけて水墨山水画を描き、後半生を熊谷で過ごした埼玉ゆかりの南画家、奥原晴海でした。ここでは奥原の水墨画とともに、南画に特徴的な絵画と言葉が親密な関係にある作品などが合わせて並んでいました。

奥原晴湖「仙境群鶴」 1905(明治38)年
「仙境群鶴」は奥原が南画とともに得意としていた花鳥画の優品で、桃や薔薇、松などを背景に純白の羽をつけた鶴が集う光景を、極めて鮮やかでかつ艶やかな色彩で描いていました。

佐伯祐三「門と広告」 1925(大正14)年
また絵と言葉の観点から取り上げられた佐伯祐三の「門と広告」も魅惑的な作品ではないでしょうか。パリで住んでいたリュ・デュ・シャトーの街角の門に貼られたポスターを描いていて、それぞれに素早い筆致による文字らしき線がリズミカルに刻まれていました。

重村三雄「立ち話」 1993(平成5)年
奄美大島に生まれ、埼玉で没した彫刻家、重村三雄も、今回の展覧会のキーパーソンの1人でした。ここでは犬の散歩といった日常的な光景を表した重村の「立ち話」をはじめ、橋本真之の「作品115 運動膜(内的な水辺)」などの重厚な彫刻が目立っていました。
さて「コレクション 4つの水紋」にて私が最も魅力的に感じたのが、シャルロット・ペリアンによる椅子を中心としたデザインの展示でした。

「椅子の美術館より」 シャルロット・ペリアン 展示風景
そもそも埼玉県立近代美術館は「椅子の美術館」と呼ばれるほどモダンデザインによる椅子をコレクションしていて、館内では自由に座りながら鑑賞する場も設けてきました。

「椅子の美術館より」 シャルロット・ペリアン 展示風景
会場ではシャルロット・ペリアンをはじめ、柳宗理や剣持勇の椅子ともに、ペリアンと親交のあったレジェや室内装飾に用いていたミロのタペストリーなどが並んでいて、多様なデザインを楽しむことができました。

手前:ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアン「LC4 シェーズロング」 デザイン:1928年 製品化:1930年
右:レオナール・フジタ「横たわる裸婦と猫」 1931(昭和6)年
また横になる椅子から横たわる動作に着目し、フジタの「横たわる裸婦」や古賀春江の「コンポジション」などが並ぶ展示も面白いのではないでしょうか。いずれも展覧会のハイライトを築き上げていました。

クロード・モネ「ジヴェルニーの積みわら、夕日」 1888〜1889年
4月27日より後期展示に入りました。前期より一部作品が展示替えが行われましたが、以降、会期末までの入れ替えはありません。

古賀春江「コンポジション」 1930(昭和5)年頃
予約は不要です。入場時に検温と手指の消毒の他、連絡先などを記した入館者カードを提出する必要があります。

ヴェルナー・パントン「パントンチェア」 デザイン:1959〜1960年 製品化:1968年
一部を除き、会場内と作品の撮影が可能でした。
企画展「コレクション 4つの水紋」では、当館の収蔵品約3700点の中から130点を出品しています。出品作品の中にはフェルナン・レジェのタペストリーなど、10年近く公開していなかった作品も!https://t.co/emtcta7mOY pic.twitter.com/SYqHuF1OJg
— 埼玉県立近代美術館 (@momas_kouhou) May 3, 2021
5月16日まで開催されています。
「コレクション 4つの水紋」 埼玉県立近代美術館(@momas_kouhou)
会期:2021年3月23日 (火) ~5月16日 (日)
休館:月曜日。但し5月3日は開館。
時間:10:00~17:30
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円 、大高生800(640)円、中学生以下は無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*MOMASコレクション(常設展)も観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
「森山大道 写真展 『衝撃的、たわむれ』」 東京工芸大学 写大ギャラリー
「森山大道 写真展 『衝撃的、たわむれ』」
2021/3/22~5/31

東京工芸大学 写大ギャラリーで開催中の「森山大道 写真展 『衝撃的、たわむれ』」を見てきました。
1923年に設立された小西写真学校に遡り、日本で最も古い歴史を有する写真教育機関の東京工芸大学には、国内外の著名な写真家の作品が数多く所蔵されてきました。
そのうち重要とされる森山大道のコレクションの一端を紹介するのが「森山大道 写真展 『衝撃的、たわむれ』」で、1960年代から70年代の初期作を中心とする約60点のモノクロームの作品が公開されていました。
今回の写真展で興味深いのは、同じネガから複数にプリントされた写真や、同じ被写体でありながら別のカットよりプリントした写真が展示されていることでした。よって一見、同一の風景や人物が写されているようでありながら、トリミングや構図などが微妙に異なっていて、新たなイメージを生み出していました。
それら森山によれば「気分でやっていて」、「暗室の中での自分の体質とか生理みたいなもの」(*)としていましたが、一枚一枚の違いを追っていくと、森山が写真のイメージを生み出すための思考実験に立ち合っているかのようでした。*「」内は展示リーフレットのインタビュー記事、「写真との邂逅は、自分でも説明ができぬエタイの知れないもの」より。
写大ギャラリーでは3月22日(月)より、【森山大道 写真展「衝撃的、たわむれ」写大ギャラリー森山大道アーカイヴより】を開催。1960〜1970 年代に制作された代表的な作品の貴重なヴィンテージ・プリントから約60点を展示します。 pic.twitter.com/scubDCdBWx
— 東京工芸大学 写大ギャラリー (@ShadaiGallery) February 26, 2021
写大ギャラリーに森山の初期のヴィンテージ・プリントが所蔵される切っ掛けとして挙げられるのが、1976年に同ギャラリーを設立した細江英公によって行われた「森山大道寫眞展」でした。
そこで細江は展示終了後、森山の活動初期の雑誌や写真集の原稿のためのプリントを購入することを提案し、写大ギャラリーが一括して購入することになりました。当時、原稿のためのプリントは処分されることも少なくなかったそうですが、結果的に約900点もの作品を所蔵するまでに至りました。中にはアシスタント時代の森山が撮影した現存する最も古い写真もあり、解説に「細江の先見の明」と記されていた通り、大変に貴重なコレクションと言えるのかもしれません。

さて私自身、東京工芸大学写大ギャラリーへ初めて行きました。同大学に最も近い駅は、東京メトロ丸ノ内線、及び都営大江戸線の中野坂上です。1番出口より地上に出ると、青梅街道と山手通りの交差点があり、周囲は高層ビルに囲まれていました。

そして山手通りに沿って南へ歩き、成願寺を過ぎて右へ折れた小道へ進むと、キャンパスの建物が姿を現しました。駅からは歩いて7~8分程度で、一帯は家やマンションなどが密集する住宅地でした。

ギャラリーは一番手前の5号館(芸術情報館)に位置していて、エントランスから階段を上がるとカメラの展示ブースがあり、その先がギャラリーのスペースになっていました。

新型コロナウイルス感染症対策に伴い、ギャラリー内の人数は5人に制限されている他、会場内の来館者カードに連絡先を記入する必要がありました。

日曜日はお休みです。5月31日まで開催されています。
「森山大道 写真展 『衝撃的、たわむれ』」 東京工芸大学 写大ギャラリー(@ShadaiGallery)
会期:2021年3月22日(月)~5月31日(月)
休館:日曜日。
時間:10:00~18:00。但し土曜は17時で閉館。
料金:無料。
住所:中野区本町2-4-7 5号館(芸術情報館)2F
交通:東京メトロ丸ノ内線・都営大江戸線中野坂上駅1番出口より徒歩7分。
「特別展 国宝 鳥獣戯画のすべて」 東京国立博物館
「特別展 国宝 鳥獣戯画のすべて」
2021/4/13~5/30 *4月25日より臨時休館

東京国立博物館・平成館で開催中の「特別展 国宝 鳥獣戯画のすべて」を見てきました。
平安時代末期から鎌倉時代初期に制作された「鳥獣人物戯画」は、生き生きとした動物や人物の描写などから、今に至るまで多くの人々の心を捉える名品として伝わってきました。
その鳥獣戯画の甲乙丙丁の全4巻が会期を通じて初めて公開されたのが「特別展 国宝 鳥獣戯画のすべて」で、鳥獣戯画はもちろん、かつて4巻から分かれた断簡や模本、さらにはゆかりの高山寺の寺宝などが一堂に介していました。
まず第1会場に登場したのが鳥獣戯画で、甲巻を筆頭に乙丙丁の巻が全て開いた状態で展示されていました。そのうち兎や蛙など11種類の動物が擬人的に描かれた甲巻は、動く歩道に乗って鑑賞するように作られていて、さながら動画を目にするかのように絵巻の物語を追うことができました。
それ以降の乙丙丁巻は通常の展覧会と同様に歩いて見ることが可能で、特に前半が人物、後半が動物の戯画の展開する丙巻に強く魅せられました。何やら意味ありげにじっと座る猫の表情や、慌てて逃げ出すようにするりと動く蛇の描写も面白いのではないでしょうか。また本来1枚の紙を2つに剥がし、つなぎ合わせて絵巻したことが判明した2つの墨跡も目の当たりにできました。
鳥獣戯画の4巻に続くのは、甲巻や丁巻から分かれた断簡や、過去の鳥獣戯画を写した模本でした。そのうち甲巻では「鳥獣戯画 甲巻のすべて」と題し、断簡と絵巻を繋ぎ合わせた復元の状態をパネルで紹介していて、かつての絵巻の姿を伺い知ることもできました。またMIHO MUSEUM本の断簡では、確かに秋草の繊細な表現が甲巻と良く似ていて、同一の作者ではないかと思わせるものがありました。こうした断簡や模本を比べることも、鳥獣戯画の全貌を探る上で重要なポイントかもしれません。
ラストでは高山寺の文化財などが並んでいて、中でも普段は秘仏として開山堂に安置され、実に28年ぶりに寺外で公開された「明恵上人坐像」が目立っていました。
また明恵上人が手元に置いていたとされる「子犬」の像や、新羅の華厳宗の高僧を主人公とする「華厳宗祖師絵伝」も見どころだったのではないでしょうか。荒々しい波間から龍が現れ、船の航海を助ける場面などの臨場感は並々ならぬものがありました。

入場、及び会場内の状況です。今回の鳥獣戯画展では、混雑緩和防止のために事前予約制が導入されました。オンラインの「アソビュー!」、及びコンビニの「セブンチケット」、また朝日IDの「あさチケ」の3つの方法で予約することが可能です。私ははじめにアソビューを利用しようと思ったものの、多くの日時のチケットが売り切れていたため、セブンチケットで買うことにしました。同チケットはオンラインで購入可能ながら、予め紙のチケットをコンビニで発券しておく必要があります。

私が予約したのは4月22日(木)の16時の時間枠でした。9時から閉館の1時間前の18時までの1時間ごとに入場枠が設定されていて、予め指定した時間枠内に入場することができます。

鳥獣戯画展のチケットで総合文化展も鑑賞できるため、15時前に博物館に入り、まずは本館の展示を見て回ることにしました。鳥獣戯画展のチケットを予め確保しておいた場合、総合文化展を別途予約する必要はありません。なお当日券については完売していました。
現在、東京国立博物館の総合文化展では、鳥獣戯画の主要なモチーフである動物に着目した「鳥獣戯画スピンオフ」と題した展示が行われています。

「浦島明神縁起絵巻(模本)」 江戸時代・文政2(1819)年
ここで興味深いのは、鳥獣戯画の中に登場する儀式やお祭りの場面を同じように描いた絵巻(模本)が展示されていることで、鳥獣戯画が制作当時の風俗などを踏まえて表していることが分かりました。

山崎董詮「鳥獣戯画 甲巻(模本)」 明治時代・19世紀
また明治時代に山崎董詮が描いた「鳥獣戯画」の模本も開いていて、場面の解説を読みながらじっくり見入ることができました。

山崎董詮「鳥獣戯画 丙巻(模本)」 明治時代・19世紀
「鳥獣戯画スピンオフ」は撮影も可能です。特別展を観覧する前に見ておくのも良いかもしれません。
さて本館の展示を一通り見終えて平成館へ向かうと、ちょうど16時半を過ぎていました。特に待機列もなく、館内へスムーズに入場することができました。
先に第一会場の鳥獣戯画のコーナーへ進むと、動く歩道の甲巻の前のみ待機列ができていました。案内に従って列に加わり、約10分程度並ぶと動く歩道へ到達しました。その後、順に歩道の上に乗って鑑賞する流れとなっていました。基本的に列に加われば誰もが最前列で甲巻を見ることができます。(動く歩道の待機列は18時半で終了。)
甲巻に続く乙丙丁にも若干の列が発生していましたが、心なしか丙巻の列が長く、丁巻の列が短いようにも感じられました。今回はそもそも入場数を制限していることがあり、例えば2015年に同じ東博で行われた鳥獣戯画展のような凄まじい混雑は起きていません。(グッズ売り場は混み合っていて、一時は会計待ちの列も出来ていました。)

どういう形であれ人の数を絞った環境で鳥獣戯画の全巻を一揃えに見られる機会は、ひょっとすると最初で最後になるかもしれません。その意味では一期一会の展覧会であるように思えました。
新型コロナウイルス感染症対策に伴い、東京、大阪、兵庫、京都の4都府県へ緊急事態宣言が発出されました。
新型コロナウイルス感染症拡大防止のために緊急事態宣言が発令され、政府からの要請により、当館は4月25日(日)より当面の間、休館致します。総合文化展及び特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」の予約されたチケットはすべてキャンセルとなり、代金を払い戻しいたします。https://t.co/42cQlUAaQ8 pic.twitter.com/V1fkth47m2
— トーハク広報室 (@TNM_PR) April 24, 2021
それにより博物館や美術館に休業が要請されたため、4月25日から東京国立博物館も臨時休館することが決まりました。
現時点で再開日は未定ですが、早くとも発出期間後の5月11日以降になる見込みです。また宣言が延長され、さらに休館が続く可能性も考えられます。最新の開催情報については同館WEBサイトをご覧下さい。
5月30日まで開催されています。
「特別展 国宝 鳥獣戯画のすべて」(@chojugiga2020) 東京国立博物館・平成館(@TNM_PR)
会期:2021年4月13日(火) ~5月30日(日) *4月25日より臨時休館。
時間:9:30~19:00。
*最終入場は18時まで。
*「鳥獣戯画 甲巻」の待機列は18時半まで。
休館:月曜日。但し5月3日(月・祝)は開館。
料金:一般2000円、大学生1200円、高校生900円、中学生以下無料。
*当日に限り総合文化展も観覧可。但し総合文化展は17時まで。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
「OKETA COLLECTION:4G」 スパイラルガーデン
「OKETA COLLECTION:4G」
2021/4/8~4/25

スパイラルガーデンで開催中の「OKETA COLLECTION:4G」を見てきました。
ファッションビジネスに携わり、アートコレクターとして知られる桶田俊⼆・聖⼦夫妻は、2019年以降、自らのコレクションを定期的に公開し、2020年には金沢21世紀美術館にて展覧会を開くなどして注目を集めました。
その桶田夫妻のコレクションを新たに紹介するのが「OKETA COLLECTION:4G」で、1960年から90年代生まれの4世代(4 Generations)の主に日本人アーティストの作品が展示されていました。

ロッカクアヤコ「Untitled」(2019年)
花畑のように広がる鮮やかな色彩の中に、瞳を開いた少女を描いたロッカクアヤコの「Untitled」に目がとまりました。雲に乗って浮遊するような少女の後ろには、謎めいた生き物が同じく空中に飛ぶ船で追っていて、互いに何やら牽制しあう仕草を見せていました。

五木田智央「Save the Last Dance for You」(2021年)
頭から角のようなものを生やした人物を表した五木田智央の「Save the Last Dance for You」も印象深かったかもしれません。顔に一切の表情は伺えず、頭から体にかけてはワイン色に染まっていて、背景の黄色と鮮やかなコントラストを描いていました。かつてはモノクロームのペインティングなどで知られ、昨年に国内で初めてカラーの絵画を発表した、五木田の新たな境地を伺えるような作品かもしれません。

山口歴「REVISUALIZE NO.29」(2020年)
ニューヨークを拠点に活動し、筆跡に着目して作品を制作するという山口歴の「REVISUALIZE NO.29」も魅惑的でした。ここでは絵具の筆跡がキャンバスの枠組みを超え、立体的な彫刻のように広がっていて、絵具の筆触が鋭いギザギザの牙を剥くように展開していました。

加藤泉 展示風景
ハイライトを飾っていたのは、吹き抜けのスペースを大胆に用いた加藤泉の展示ではないでしょうか。

加藤泉 展示風景
ちょうど空間の中央には、3体の子どものような彫刻が輪を描くように並んでいて、それらをキャンバスの絵画と革を用いた人型の作品が見守るように置かれていました。

加藤泉 展示風景
加藤の個展といえば、2019年に原美術館にて「LIKE A ROLLING SNOWBALL」が開かれましたが、それ以来とも言えるスケールだったかもしれません。3つの彫刻がまるで互いに助け合うかのように手を繋ごうとする様子も心に惹かれました。

平子雄一「Gift 08」(2021年)、「Yggdrasill 01」(2020年)
昨年の夏にもスパイラルにて「OKETA COLLECTION:A NEW DECADE」が行われましたが、今回出展された作品は桶田コレクションとしては殆ど初めてだそうです。
本日より、#スパイラルガーデン(スパイラル1F)にて、「OKETA COLLECTION: 4G」#桶田コレクション がスタートしました。4月25日まで。https://t.co/dPM9REXZd2
— SPIRAL (@SPIRAL_jp) April 8, 2021
会場内の混雑緩和の観点からか、場内の順路は一方通行になっていました。受付から吹き抜けのスペースへ進み、一度スロープで2階へ上がってショップを経由し、階段を降りて入口方向へと戻るように設定されています。

TIDE「NIGHT」(2020年)
予約は不要、入場も無料です。撮影もできました。

会期中無休です。4月25日まで開催されています。*一番上の写真の作品は、松山智一「River to the Bank」(2020年)
「OKETA COLLECTION:4G」 スパイラルガーデン(@SPIRAL_jp)
会期:2021年4月8日(木)~4月25日(日)
休館:会期中無休
時間:11:00~20:00
料金:無料
住所:港区南青山5-6-23
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅B1出口すぐ。
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