嘘の吐き方(うそのつきかた)

人はみんな嘘をついていると思います。僕もそうです。このページが嘘を吐き突き続ける人達のヒントになれば幸いです。

99%の絶望の海で

2005年06月16日 00時57分20秒 | 物語
最初に君に聞いておきたいんだけど、
君はどうしてこの本を手に取った?

それがどんな理由でもいい。
理由になってなくてもいい。
曖昧なままでいい。
はっきりさせなくていい。
それでも、ほんのかすかな気持ちでいいから
この本を手に取った時、心の奥にあったその気持ちを、
どこかへ、心の隅へ、とっておいて欲しいんだ。
そしてこの本を読み終わった時、その気持ちと読後感を、少しだけ比べて欲しい。
もう二度と手にすることはないだろうこの本を、
君のどこかへしまうために、僕はこれからこの白い紙を真っ黒に塗りつぶしていく。

この本は君のために書いている
そしてもちろん、僕のために書いている
これは矛盾していない話だ。
そしてもちろん矛盾だらけのおかしな話だ。
何故なら君は今も、昨日も、明日も、いつだって一人きりで
僕はいつも一人きりで、
そのたった一人の読者こそが
この本の作者になるための、唯一の、可能性の一欠片だから。

この本は多分、君にとって何の役にも立たない
君の人生を良くするための材料は何一つ含まれていないし
生きるためのヒントは何一つとして書くつもりは無い。
そして何よりも、全く面白くない。

それでも僕は、君の心を真っ暗闇に誘い出すために、
僕の話を聞いてもらうために、
君が君の中にある声を聞くために、
これを書かざるを得ない。
それしか今は、思いつかない。

どうにも、ならないんだ。
僕はこれを書くことでしか、僕自身の罪を滅ぼすことも、
僕を書き残すことも、生きることも、死ぬことも、
そして今を伝える事も、できはしないのだから。

本当に書かなければならないこと、
それがなんなのか、
そして僕が本当にすべきこと、
それがなんなのか、
ずっと考えているんだけど、
じつは考えているつもりになっているだけで
全く考えてなかったのかもしれない。
ずっとわからないんだ。
だからきっとここにも書けない。
だからこの本の始まりは、この文章の始まりは、この言葉の始まりは、
この物語の始まりは、
まず、君への謝罪から始まるべきだと、そう思ったんだ。

僕はね、正直に言って、君のことがわからないんだ。
君に会ったこともないし、
自分の事もわからないし、
もし会ったことがあったとしても、
僕は君が君だと気付くことは決してないだろう。
そしてまた、僕は自分が、どこかの誰かであることに、決して気付きはしないだろう。

全部僕の中で、終わった出来事なんだ。
全部終わってるんだ。
僕にはいつも、終わりが見えてるんだ。
僕はいつも、自分が死んだ場所から、ずっと遠くの、生きているかもしれないという、
わずかな希望のようなもの、
希望に似た色をしたもの、
光のようにかすかに瞬くもの、
そういうものをジッと見下ろして
そして自分が死んでいる事を嘆いているんだ。

ここに書かれているものは全て、輝きを失っている言葉たちだ。
ここに書かれているものは全て、死んだ魂の、抜け殻からはみ出した、わずかな祈りだ。
だからここに書かれているものは全て、君を騙すために用意された、言葉の罠ばかりだ。

君がもし、何か美しいものをみたいと思うなら
君がもし、何か輝く奇跡を見つけたいと思うなら
果てしない理想の果てにある、最後の光を見たいと思うなら、
決してこの先を読まないことが大事だ。
進めば進むほど、この道は真っ暗闇に繋がっている
そしてどこまでも続いている。
この世界には地獄しかない。
この世界には痛みしかない。
この先の道には、光なんてない。
だから君は、迷わずこの本を焼き捨てるべきなんだ。
そうする事が、君の救いなんだと、僕は今、そう思うよ。
今、思うんだよ。
書いた時に思ったんじゃないんだよ。
今、思ってるんだよ。
君がこの本を読んだ時、僕は既にこの世にいない。
ここにある、最後の欠片が燃え尽きた時、
君が僕を忘れた時、
僕は本当の意味で、安らかな死を迎える事が、できるのかもしれない。

人が書いた事がもしも誰かに伝わるのなら
僕が書いた言葉がもしもどこかの誰かに伝わるのなら
僕が書いている事はもう、既に誰かがどこかへ伝えて、
僕を通過して君を通過するだけだ。
僕が考えている事は、僕が思っていることは、僕が感じている気持ちは、
決して誰にも、伝わりは、しない。
今まで一度も、伝わったことが、無い。
これからも、無い。
だから僕はこれを書いている。
だから僕は必死でこれを書いている。
伝わらないことを知りながら。
誰にもつたわらない気持ちを精一杯吐き出して隠しながら、
誰にも届かない小さな声で、
精一杯の嘘で、泣き叫んで、壊れるんだ。
誰か僕を見てくれ!と、
既に居ないことを知りながら、
既に死んだことを理解しながら、
もうここにはいないと嘆きながら、
叫ぶんだ
叫ぶんだ、、
叫ぶんだ!

ぼくはいない!

ここにいない!

僕は死んだ!

ここには誰もいない!
作者が居ない!
読者も居ない!
誰も読まない!

うちすてられた言葉!
記号・羅列・配列
意味はない、意味は死んだ、僕は壊れた、僕がない
僕は誰だ
君は誰だ

誰かいないのか

どこかにいないのか

死んだのか
死ぬのか
死んでいるのか

死だ



死だけが

死だけがある

死しかない

死は無いと同じ

僕は、いない。

君に…、伝えたいんだ。
僕が死んでしまったという事実を
もう、死んでしまったということを

こんなにも必死で叫んでいるのに

僕はもうこの世界にいない

こんな怖いことが
この世界では日常的に起きている

怖いんだよ
言葉が
嘘が
僕が

生きているっていう死が
死の連続が
痛いんだ

君も死ぬよ
間違いなく。

ふるえる寒さの中で
絶望しながら 歯ぎしりして
がちがちおかしな物音をたてて
だれもいない空間で
一人でこっそり
死んでいくんだよ

だってさ
僕は伝えられなかったんだもの
僕には何も伝わらなかったんだもの
この世界にあるなにもかもが
僕を疎ましくおもい
この世界にある全ての僕が
僕を呪い続けて
僕は引きはがされるように
崩壊して
引力が無くなるんだ

君のせいだよ
君は何もしなかった
君は生きている間、何もしなかった
生きようとも、しなかった
死のうとも、しなかった

ただ、生きるんだと思った
そしてまた、思いもしなかった
遅すぎたんだよ
何もかもが
人と人は出会うことも無かったし
世界と世界はバラバラでどこにもあってなかった
あることがないことはへいきであったし
ないことがあることもまたにちじょうてきだったんだよ

だから僕は諦めたんだ
生きることを諦めた
死んでもいいやと思っただけで
たった一度思っただけで
僕はもう、終わっていたんだ
もう、僕には死しかなかった

色んなものが消えていくよ
壊れることもあったけど
これからは消えていくんだ
何もかも忘れていく
何もかもなかったことになる
あったとしても、なかったことになるから
あったことはなかったことと同じになる

君の人生は無駄だ
僕の人生はもっと無駄だ
だから僕は最後に叫んで
その音が反響する様子を想像しながら
バラバラに…

僕は多分、生まれつき頭がおかしかったんだろう
ふつうの人は、言葉で何か伝わるらしいんだ
言葉が無くても、色んな仕草や表情や、なんやかやと、伝わる何かがあるらしいんだ
だけど僕にはそんなもの何もなかった

光が見えないなら目を閉じればいい
声が聞こえないなら耳を塞げばいい

だけどもう
だけどもう
嘆きの波紋は
広がっているよ
誰も居ない密室で
僕の声だけが聞こえる
僕の声だけがこだまする

こわいんじゃなくて
いたいんじゃなくて
僕しか。
いない。

だからそこには僕が、いない。


――…。

僕は

僕を

語ろうかと思う


最初に僕が死のうと思ったのは、4歳の時だった

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