嘘の吐き方(うそのつきかた)

人はみんな嘘をついていると思います。僕もそうです。このページが嘘を吐き突き続ける人達のヒントになれば幸いです。

遠ざかる街並みに

2005年10月28日 12時24分02秒 | 物語
悲しい物語だ

道はずっと遠方まで曲がりこんでいくカーブで
街路樹に降り積もる雪はしんしんと静かに呼吸しているようで
僕がその雪をそっと一掴みすると
街は緋色の熱で溶けてゆく

木漏れ日がさわさわとささめくような季節はとうに過ぎていて
僕の見ている前で街はずっと過去へと押し流されていく

空は決して泣くことをやめない
あるいはまた、その大きなうねりの声で鳴いているのか。

ときどき、元気かい?げんきかい?ゲンキカイ?
って遠くから聞こえてくるけど
そのたびに僕は、元気だよ げんきだよ 僕は元気だよ って
知らない人に話しかけるようにうそをつく

本当は、あの頃から時間はずっと止まったままで
ただもうひたすらに激しくゆっくりと
君の住んでいる向こう側へ遠ざかり逃げてゆく

僕はもう、時を超える声を発明するか
このままここで死んでゆくしかないんだ

暖かいミルクをポットから注ぐとき
その鳴り止まない通り過ぎるだけの音は 決して暖かくない

もうすでに、閉ざされた時間へ向けて
執拗に凍り付いていくからだ

風船を、割れるまで膨らまし続けてもいいかな?
僕の呼吸だけを詰め込んで
必死になって膨らましてもいいかな?

声が決して逃げないように
閉じた時間の中に、吐き出し続けてもいいかな。

ねぇ、だってもう、この声、聞こえてないんでしょ?

「ネエ ダッテモウ コノコエ…

言い切る事もできずに 僕の声は静かに凍りついた音へと変わる

沈み、抜け落ちてゆく紅葉の毛先は、街路樹を灰色の街へと繋いでゆく

言い澱むだけで話しかけてくる風景なら
もうすでに、街は優しさで凍りついている

雪を降らせたいんだ

僕の心が、決して君に、熱を伝えないように
僕の気持ちが、もう決して君を困らせたりしないように
硬く硬く、冷たい決意で
この世界を絵の中に閉じ込めたいんだ

 ねぇ、できるでしょ? ぼくなら。

死体のシステムを象る限られた性質は
生きた証をうちたてるように
暖かいハードウェアから 冷たいソフトウェアへと
その動きを、鈍くにぶくつたえてゆく

記憶の中にいる人が、夢を思い出している人を殺すことは、あるのでしょうか
死んでゆく遺体の見ている走馬灯が 棺桶をゆさぶって 棺の音楽を鳴らすことは、あるのでしょうか
テキストを読んで死んでいく力は はるか遠い未来を思い出す読者の想像力に
全ての存在をゆだねて そして僕の死が その真っ白な紙に 刻印されるように。

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