嘘の吐き方(うそのつきかた)

人はみんな嘘をついていると思います。僕もそうです。このページが嘘を吐き突き続ける人達のヒントになれば幸いです。

暴力数と努力数

2008年04月05日 16時15分26秒 | 駄文(詩とは呼べない)
何年前になるだろうか。
沈んでいくぼろい船の中で、眼が見えないままもがいている
意識が朦朧としている夢を見た。

いしきがもうろうとして、夢をみたのではない。

意識がもうろうとしている境遇の中に居る、
自分の夢を見た。

船は揺れていた。
灯りはついていなかった。

あのとき僕は、どこへ行こうとしていたのだろうか。
海賊船に乗って宝探しか?
いや、違うね。
船に乗ってアメリカに行きたかった?
それも違うね。

僕は、沈もうとしていたんだ。
沈んでいく船の中で、ただもがきながら、
どうしていいかわからずに、ずっと自分と葛藤していた。

沈んでいく船の中においてさえ、
自分がどこにいるのか、
自分だけで何を決断したらいいのか、
僕がここで何をしたらよかったのか、
迷って悩んで考えてばかりいたんだ。

割り切りは必要だと思うだろう。
でも、割り切れない事だってあるんだ。
例えば何度も持ち出す円周率、
あれは、いつ終わるんだ?
あの計算は、いつになったら終わるんだ?

数字が例え、世界を数えるほどの力が無く、
単に記されただけの比喩としての、悪魔の印に過ぎないとしても、
やはりあの円周率の並びには、
あれをアルファベットに置き換えた場合であったとしても、
そこには神秘的な力学のような配列魔法がかかると思うよ。

だってあれば、
まっすぐなものと、まるまっているものとの間に、
一体どれほどの深い溝があって、
僕らが人に対して、他人に対して、相手に対して、
どれくらい深刻な乗り越えがたい壁を持っているのかを、
とても端的に表した恐怖の努力数だからね。

だから僕は、円周率は、幼くて小さくて丸い顔をしている頃から好きだったんだ。

中学の時だったかな
世界一たくさんの円周率桁数を計算している人の本を読んだんだ。
千種図書館で借りて読んだ。

すごく難しい本だったけど、
すごくすてきな本だった。
髪の毛の数を、数えてしまいたいと思うほどにね。

とても、おかしな事が書いてあった。
その本には、不思議な事が書いてあったんだ。
「円周率が有理数なのか無理数なのか、私にはよくわかりません。
 ただ、いままでの結果を見てみると、どうやら無理数のようです。」

おもしろい。

とても面白い、一文だと思うよ。

世界一たくさん計算した人にさえわからない無理数と有理数の境界を彷徨う、
不思議な数である円周率を、
学校の先生は、いとも簡単に、「円周率は無理数です」と言い切るからね。

僕らはいったい、過去にどれほどの事を間違えて、
どれくらい慎重に生きてきたんだろう。
そしてまた、どれくらい大胆に間違いを認めて進んできたんだろう。

僕には今もわからないよ。
僕が誰かを好きなのか、そうでないのかさえも。

例えば君と手を繋ぎ、
ぶらぶら揺らしながら、
周り中から感じる知識の宝庫の本棚の視線を感じたとしよう。

なんだか難しい本がいっぱい並んでいる知識の宝庫を
何人と数えるのか
手を繋いでいる僕たちを何人と数えるのか
そんな簡単なことでさえ、
僕たちは、何かを決めないと、数える事すらできないんだ。

そんな簡単に、君の事を数えられないよ。

ふしぎなあやうさのなかにいる
いつだって僕は、ふわふわ浮いているバター飴だ。
君の熱で形をとかされて、水に触れると丸くきわだつ油の甘さで遊んでいる。

トーチカの朝が来た時に、
僕は君の前から逃げ出して跳ねた。

本当は、君に会いたかったんだ。
でも、怖くてできなかった。

ときどき君と話していると、僕は不安になる。
ただまっしろい、まるで頑なに閉じた自分を見ているようで、
おそろしくなる。
僕が話している言葉はすべて君のそばを流れていって、
本当の君には、君の中にいる君自身には、何も届いてないんじゃないかって
そんなふうに不安になる。

なんの言葉も届いてなかったとしても、
この胸のおもい息苦しさくらいは、きみに伝わっているんだろうか。
名前のないきみに。
名付けられた名前しか、名乗ることの出来ない君に。

僕はありふれた奇跡のなかにいる
いつでもそこにいて、いつも君の傍には居ない。
君が何かを投影した場所にしか、僕は映る事が無い。
それを君は、寂しいと感じるだろうか。
僕が居ない風景から、寂しさを過去と同じようにおぼろげでハッキリとした輪郭の刻みで、
【痛み】として、僕を思い出す事ができるだろうか。

ふわふわしていて、うつろいで、くるしくもなくて、
あぁ、そこになんかそんなひとがいたようなきがするなっっって
そんなふうに僕の傍をかすめとってはいないだろうか?

不安だよ。僕は不安だ。
僕に形が無いように、君に形がなくなりそうで。

でもたぶん、言葉に出さずに信じる君は、
言葉に頼らなくても自分を想像できる君は
僕よりもずっと強い奇跡の中に包まれているね。
たとえそこに人が一人もいなかったとしても、君は生きていけるんじゃないかって
そんな妄想すら湧いてくるようだよ。

君と僕が出会う日が来ない限り、
僕はずっと、僕のままでいる。

それがつまり、僕の考えた、僕たちの間にある、暴力数。