孫ふたり、還暦過ぎたら、五十肩

最近、妻や愚息たちから「もう、その話前に聞いたよ。」って言われる回数が増えてきました。ブログを始めようと思った動機です。

正当に怖がれ

2016年08月31日 | 社会観察
知り合いの勤め先で、悲惨な事故が起きたそうだ。

作業者がプラスチックの板をカッターで切っているとき、刃を出しすぎていたため、刃先が欠けて、目に突き刺さったのだそうだ。かわいそうなことに、その作業者の右目は失明したそうだ。

その労働災害の結末は、こうだった。



『そういう危険な道具は今後社内での使用を一切禁ずる。』という工場長の一言で、社内にある、写真のようなタイプのカッターナイフはすべて廃棄された。

しかし、調べてみると、その不幸な作業者のカッターナイフの使用法には少し問題があったことが判明した。つまり、暑さ2mm弱のプラスチックの板を切るのに、その作業者はなぜか、刃先を3cmくらい出して使用していたというのだ。

カッターナイフは、刃先が割れるので、切れ味が悪くなると、先端をパキっと割って使っていく、便利な道具だ。私の家にも道具箱や引き出しに大小何本も入っている。

その会社では、どうタイプのカッターナイフを使用禁止にした代わりに、デザインナイフという割れる刃先でないナイフを使っているのだが、そのナイフとて使い方を間違えば、危険この上ないと、友人は首を傾げるのだった。

確かに、鉛筆でもボールペンでも使い方によっては危険な凶器に変身することは間違いない。割り箸ですら凶器になりうる。

友人は、自動車で通勤する従業員が社内で人身事故を起こしたら、社員の自動車通勤を全面禁止にするのだろうか、とも言っていた。


私がこの話を聞いて思い出したのは、物理学者・寺田寅彦の言葉だった。



寺田は物理学者でありながら、随筆家としても有名で、数々の名言を残している。中でもよく耳にするのが、「天災は、忘れた頃にやってくる」という至言だ。

他にも、私のお気に入りに、「健康な人は、病気になるという心配があるが、病人には快復するという楽しみがある」という言葉がある。

今回、私が友人の話を聞いていて思い出したのは、寺田が浅間山の小噴火があったとき見た光景を題材にした随筆にあった言葉だった。



電車の中にいた寺田は、駅員が今正に噴火した浅間山から下山してきた登山者から、様子を聞いているのを見ていた。登山者達は全然平気だったと言うのを首をゆっくり振りながら駅員は聞き、何かメモを取っていた。確かこんな情景だったと記憶する。

そこで、寺田はこう思ったのだった。

「ものを怖がらな過ぎたり、怖がり過ぎたりするのはやさしいが、正当に怖がることはなかなか難しい」

世の中、何か悪いことが起きると全面禁止、脱〇〇と大騒ぎする集団が存在するが、世の中に出現して以来、何万人もの人の命を奪い続けている自動車を製造販売禁止にすべきだ、という主張は聞いた事がない。

そればかりか、2020年頃には人が運転する必要のない自動車が道路を走ることになるそうだ。


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