2年前に亡くなった妻の美都さん

 福岡市を拠点に活動するインディーズロックバンド「コーガンズ」でジンロウを名乗るボーカルの中嶋仁郎さん(51)=同市南区=が今月、カフェ&バー「夢のちまた」を同市中央区長浜にオープンさせた。中嶋さんにはお客さんにレコードでいい音楽を聴かせたい気持ちとは別に、もう一つの思いがある。2年前、妻の美(み)都(と)さんをがんで亡くした。店にはがんに関する本が並ぶ。「がんと闘う人や家族が集まり、元気を出してもらえる場にしたい」

 中嶋さんは熊本県人吉市の高校を卒業後、福岡市の専門学校に通いながらバンド活動を開始。今は2000年に結成したコーガンズのリーダーを務める。

 美都さんと出会ったのは、郵便局に就職しアパート暮らしをしていた20歳のころ。隣から聞こえてきたカセットテープの音楽に、好きなバンドの曲が入っていた。隣人からテープを貸した人として紹介されたのが美都さんだった。24歳で結婚。仕事の傍ら、バンド活動を続ける中嶋さんを温かく見守ってくれた。

 14年、美都さんにスキルス胃がんが見つかった。美都さんは「あなたや息子じゃなくて良かった」と涙ながらに話した。胃を全摘したが転移が見つかり、16年にホスピスへ。中嶋さんは同9月から「妻の癌(がん)闘病日記」(全40回)をブログで書き始めた。

 「日々体調が悪化してくると、心まで蝕(むしば)まれていく。癌とは生き地獄だ。くそ。くそ。くそ」

 「常に吐き気と腹痛。稀(まれ)に幻覚。どうやって励ませば良いのか。そばにいる俺でもおかしくなりそうなのに」

 バンド活動は休止し介護に専念したが、病状は悪化。「あなたと結婚して良かった」と語る美都さんに、中嶋さんは声をあげて泣いた。16年11月、美都さんは51歳で亡くなった。

 店名「夢のちまた」には、人生の分岐点で自分の道を切り開くという意味と、店をいろんな人生が交錯する場にしたいとの願いを込めた。店内には約千枚のレコードとともに、死との向き合い方やがんとの闘いに関する本を並べた。

 「最初はがんについて知らないことが多く、安らかに死を迎えるためにどう話し掛けたらいいかなどは本が参考になった。がんと闘った体験をお客さんと一緒に話せれば」。亡き妻との悲しみを希望に変え、中嶋さんは歩みだす。

 店は木曜定休。営業時間は午後3時〜午前0時(月−水曜は午後11時まで)。同店=092(519)2736。

=2018/10/08付 西日本新聞朝刊=