東京電力エナジーパートナー(東京)子会社の新電力会社から一方的に電気料金の値上げを提示されたのは、独占禁止法が禁じる優越的地位の乱用だとして、関西の中小企業約300社が公正取引委員会に調査を求めたことがわかった。27日に申告書を郵送した。背景には、ウクライナ情勢も絡んだ燃料費の高騰に苦慮する新電力会社の窮状があるが、企業側にとっても経営に影響する深刻な問題になっている。(久米浩之)
子会社は「テプコカスタマーサービス(TCS)」(東京)。関西圏では自前の発電設備を持たず、大手電力事業者などが余った電力をやり取りする日本卸電力取引所で調達して企業に販売している。
TCSと購入企業との契約を仲介する「日本電気保安協会」(大阪市)によると、TCSは4月上旬、料金を7月から大幅に値上げすると契約先に書面で通知。企業によっては約3倍の値上げになるという。取引所での昨年3月の平均価格が1キロ・ワット時あたり6・2円だったのに対し、ロシアのウクライナ侵攻後の今年3月は平均26・2円まで上昇したためだ。
約款では、取引所の価格高騰など急激な環境変化がある場合、双方で協議し、まとまらない場合は解約を可能とする。書面では契約更新か、解約かを6月中旬までに回答するよう求め、「回答がない場合は6月末で解約する」とした。
TCSは今年4月にも値上げをしており、同協会の代理人弁護士は「数か月の間に2度にわたり、大幅な値上げをするのは経営の見通しの甘さだ。経営悪化の責任を値上げで一方的に利用者に押しつけている」と指摘する。
関西電力や他の多くの新電力会社は発電コストの上昇で適正な価格を提示できないとして法人向けの新規契約を事実上停止しており、解約後の新たな契約は難しい。
電気事業法は電力会社と契約を結べない時には、緊急的な措置として「最終保障供給制度」を定め、電力大手の送配電会社から供給を受けられる。電気が止まることはないが、料金は電力大手の標準的なプランより割高になるという。
契約を仲介した一部の企業から同協会にTCSの対応を疑問視する声が寄せられ、公取委への申告に賛同する企業を募ったところ、約300社が応じた。経済産業省の「電力・ガス取引監視等委員会」に対しても、TCSに安定した料金で供給を続けるよう業務改善勧告を出すよう求めた。
「テプコカスタマーサービス」の担当者は読売新聞の取材に「電力調達価格の高騰によるやむを得ない措置だ」としている。
1割安かったから契約したのに…部品加工会社「倒産の可能性」
電気料金の急激な値上げは、中小企業の経営に大きな影響を与える。
申告に加わった部品加工会社「大西製作所」(大阪市)は、関西電力より約1割料金が安くなることからTCSと契約した。今年4月からの約1割の値上げは受け入れたが、新料金はさらに1・6倍の引き上げとなる。大阪府松原市の工場を含めて現在の電気料金は月約500万円だが、約800万円に跳ね上がる。
大西孝宏社長は、原材料費も高騰しているとし、「新料金になれば、倒産の可能性も出てくる」と解除を決めた。しかし、別の契約先は見つからず、「最終保障供給制度」を利用して関西電力送配電から供給を受けることになった。料金は現在より4割ほど上がる見通しだという。
大西社長は「電力は経済活動の根幹で、値上げが長引けば、多くの中小企業の経営が悪化しかねない。契約者のことを考えない理不尽な対応だ」と訴える。
◆新電力会社=2016年の電力小売りの全面自由化後、参入が相次ぎ、約700社ある。多くは発電設備を持たず、日本卸電力取引所や電力大手から調達し、顧客との契約で自由に料金を設定できる。料金の安さが人気だったが、帝国データバンクによると、調達価格の高騰で21年度に事業撤退や新規申し込みの停止、倒産に至った新電力は31社に上った。