日々の仕事の中で、少しずつ患者の為に頑張られ救急受け入数が日本一となった神戸市立医療センター、患者のことを考え寄り添う気持ちがこのようなことになったのだろうと思う。
「断らない救急」日本一なぜ?司令塔の医師に聞く
−受け入れ患者数は全国トップレベルです。重症患者数の多さも注目されています。
「軽症の1次、入院が必要な2次、緊急手術や集中治療が必要な3次。救急患者は選別せず、365日、24時間、いつでも受け入れている。2017年度の救急患者数をみると、全体は3万5244人で、うち救急車による搬送が1万534人。入院患者は8130人だった」
−どんな診療体制なのですか。
「救命救急センターの専従医師数は23人で、救急医や救急科専攻医らがいる。さらに各診療科の専門医も24時間、常駐している。救急患者はセンターの救急医や研修医らが診療し、必要があれば各専門医に相談したり、診てもらったりする。病院の当直の医師は全員、救急にも対応する。ほかに、薬剤師や診療放射線技師ら10人以上が当直している」
−厚労省評価が4年連続日本一です。どこに理由があると考えますか。
「患者さんを断るか、断らないかではなく、どうすれば受け入れられるかを考えて、救急医療体制のマイナーチェンジを繰り返してきた。常に修正して整える。気付いたら2年連続で1位。3年目からは満点になった」
−例えば、どんな修正を?
「16年には精神科身体合併症病棟(8床)を設け、専従の精神科医も配置した。精神疾患があり、自殺を図るなどした患者さんを、無理に早期退院させる必要がなくなった。もちろん、医師や看護師を徐々に増やし、ベッドの増床にも努めてきた」
「また、地域医療推進課救急サテライトをつくり、患者さんの入院待機中から、転送・転院先を探す努力をしている。地元の開業医や中核病院へとつなぎ、本院だけでなく、地域全体で医療が完結するよう心掛けている」
−救急車やドクターカー、ドクターヘリなどの搬送だけでなく、自家用車やタクシーで病院にやってきた直接受診の患者も受け入れています。
「16年の救命救急センターの患者数をみると、心筋梗塞など重症の循環器疾患が808人。このうち208人が自力で病院を訪れた直接受診だ。脳梗塞など重症の神経疾患の患者数では、860人のうち197人が自力受診だった。心停止や重症の外傷のケースもある。先日もタクシーで受診した女性が心筋梗塞と診断された」
「救急車やドクターヘリだけでは救うことができない重症の患者がいる。社会のセーフティーネットとなるためにも、すべての患者を受け入れないと」
−救命救急センター長として今、目指すところは?
「救急医、中でもER医を育てて地域や全国に送り出したい」
−ER医、と言うと?
「1次から3次まで、患者さんを選別せずに受け入れ、診療する救急外来を『ER型』と呼ぶ。ER医は全科の初期治療を担い、緊急度を判断して経過観察するか、入院させるかを決める。軽症者の中から重症者を見つけ出す。そうした能力を身に付けた救急総合医のことだ」
−今の中央市民病院なら育てられますか。
「もちろん。ER医は患者さんに育てられる。今も活躍しているし、いつでも誰でも受け入れる中で確実に育っている。救急に理解のある各科の専門医や看護師を含め、広く人材を育てていきたい」
「『専門医がいない』という理由で、救急患者を断る病院がある。患者さんのためにも、救急医療ではER医の診療が当たり前になればいいと考えている」
【ありよし・こういち】1966年、福岡県生まれ。福岡大医学部卒。神戸市立中央市民病院(当時)勤務などを経て、2013年春から、同市立医療センター中央市民病院救命救急センター長。
【記者のひとこと】周囲の評は「きさくで、温かい人」。取材で病院を訪れると、豆をひき、ペーパードリップで入れたアイスコーヒーをふるまってくれた。救急医療の将来を見すえ、やるべきことを進めていく姿勢が心に残る。