読みたい本があるとか調べ物があると言ってあの人からの誘いを避けてた。なにも避けることはないんだが・・・。
多分僕は心の枷が外れるのが恐い。
その日は釣りに行ったらしく、朝から何枚もの写メが届いていた。
「本日大漁! 俺の釣った魚を食うべし!」
いい笑顔だ(微笑) 「君は友達」昔そんな歌があったような気がする。それ以下でもそれ以上でもなく。あの人と友達でいられることはとても幸せなことじゃないか。大体僕には友達と呼べる人間は殆どいないのだから。
「新鮮な魚は格別です」
「だろう~ そうだっこれっ」
「アルバム?」
「今まで釣ったものが撮ってある」
「魚だけじゃないんだ(笑)」
「これは舟で沖合に行ってとった黒鯛だ」
「あの~ちょっと顔近いんですけど」
「うん、わざと」
「えっ!?」
重ねてきた唇・・・なんで?どうして? 頭の中が真っ白になりながらもその唇は熱く優しく本能は理性を上回りその唇に応えてしまう自分がいた。けれどシャツのボタンに手が掛かったとき我に返った。
「痛っ いい蹴りだな(笑) けど今のキスよかったな~君もよかったろう~」
「なっ なっな・・・」 ←
クールビューティな顔が崩れてます(^^;
「けどやっぱ駄目か~」
「なっ なにを言ってるんだか」
「初めて会ったとき手首を掴んだろう、忘れてるかも知れないけど俺医者だから、沢山の患者の脈測ってるし、男女の身体の違いくらいわかるよ」
「知ってて黙ってたなんてずるいじゃないですか」
「ごめんごめん」
どうしてこの人はこんなに軽いんだ、確かに医者だということ忘れてた。
「つまり君は女だけど心は男で、好きになるのは女なんだろ」
「違う」
「ん?」
「僕は性別的にも法律的にも女だけど心は男で好きになるのも男だ、つまりレズビアンではなくゲイだ」
「うーんと。。。つまり駄目じゃないんだな、俺男だもんな、なんの問題もないじゃないか」
「それは違う。僕は性別から言えばまちがいなく女だけど、胸もほとんど大きくならない、生理だって一度もない。なんにもない。昔は自分はなんなんだろうって思ったもんだけど。今は特に思わないし迷いもない。僕の意識は完全に男性だし、精神的にも男として生きてる」
「だから?」
「性的指向から言えば好きになるのは男でセックスは後ろを使う、前は使わない。身体の芯から男でゲイだ。ここまで言ったんだ・・・よくわかったでしょう!あなたはゲイじゃない、僕を好きになるのは間違ってる。さっきのキスは気の迷いというか事故のようなもので、忘れてください」
「あんないいもん忘れるわけないだろうっ」
「どうしてあなたはそんなに頭が悪いんだ、いや医者のあなたにそう言うのはどうかと思うけど、もういい加減にしてください」
「ただ君が好きだ」
「なっ・・・」
「何度でも言うよ、ただ君が好きだ・・・それだけだ」
その真っ直ぐな眼から逃れることは出来なかった。。。
「最初は興味だった、もっと君を知りたいと思った、そして触れたいと思った」
幾度となく繰り返されるキス・・・キスキス。。。
彼の愛撫は巧みで僕はその腕の中で果ててゆく。
そして僕は彼のものを手で口で愛した。僕にはない彼のものがたまらなく愛おしかった。
その日、僕たちは交わらなかった。後ろを使うのは身体の負担になるからと。
「ゲイだけあって上手いな」
なんの根拠もなくただの照れ隠しです
「あなたも星の数ほど女泣かしてきただけあって」
「だからそれは冗談だって」
「・・・・・もっと知りたくなりました」
「えっ! それってもしかして?」
「今じゃないですからっ! いつか・・・です」
「うん待ってる待ってる(にこにこ)」
いつか女としてあなたを受け入れる日がくるかも知れない。だけどそうなったとしても僕はやっぱり男だ。それは揺らがない。
ただ君が好きだ・・・・・・・その言葉は僕を自由にする。
*
「今日来なきゃよかったね」
「そんなことない、おばあちゃんはおまえのこと可愛がってたからな、凄く喜んでるよ」
「そうよ、なによりも久しぶりにあなたの元気な顔見れて嬉しかった」
「僕も父さんや母さんに会えて嬉しかったよ、でもまたいろいろ言われちゃうね」
「そんなこと気にするなって、これから寒くなるから風邪ひかないように身体には気をつけるんだよ」
「うん、父さんも母さんも身体には気をつけて元気でね。あっ 最近出来た友達が医者で料理が上手で時々ご馳走になってる。凄くいい人なんだ」
「まあ そんなお友達が!」
母さん凄く嬉しそうだったな。嘘じゃないけど本当のことだけどつい親孝行のダシにつかっちまった。
大好きな両親だけど、合うと少し辛くなる。。。
「チャリ~ン」
えっ 歩道なのに自転車? 前を見て歩いてなかった。それでも咄嗟に避けた。なのにたまたま立て掛けてあった看板の角に肩を打ち付けてしまった。角はステンレスになっていて切れた気がした。切るなんてここ数年なかったことだから少し焦った。腕に冷たいものを感じていた。
「大丈夫ですか?」
「すみませんがタクシー呼んでもらえますか」
「えっ?」
「病院に行きたいので」
「病院て、ちょっとその看板に当たっただけじゃないですか、そんなんで病院に行かれたら困ります!病院なんかに行ったら事故扱いにされてしまうでしょ。治療費を払えと言うんなら今ここで払います。いくらですか!」
「結構です。大分お急ぎのようだ、早く行ってください」
優しい顔してたのに・・・怖い顔で自転車にまたがり走り去った。気がつくと地面に血がしたたり落ちていた。
「キャー」
なにかの犯罪に巻き込まれたと思われたのか、側を通った人が電話をかけたらしくパトカーや救急車がやってきて大騒ぎになった。お祖母ちゃん・・・意を決してお祖母ちゃんの13回忌に行ったのに僕は余程日頃の行いが悪いのかな。救急車のおかげで早く処置出来て出血も少なくて身体はそれほどダメージを受けることなく直ぐに回復した。だけど疲れた。酷く疲れた。図書館に通うのもおっくうでしばらく図書館で寝泊まりした。ここが一番落ち着く。
「そっか、あまり無理するなよ、ちゃんと食えよ」
適当な理由を言ってしばらく行けないと言っておいた。
好きなのに会えない。好きだけど会いたくなかった。
今の僕はとても醜い。。。
*
「ちょっと痩せたか? 朝から煮込んだタンシチュー美味いぞ~今あっためるからな」
「前から聞こうと思っていたんだけどどうして医者になったんですか? 桂木さんは病院を継げとは言わなかったでしょ」
「うん、そうだな~俺は人が好きなんだな。それで大勢の人と出会って病気まで治せたら最高だなって・・・こんなこというと聖人君子みたいだけど(笑)」
「いえ聖人君子というには・・・なんてったって星の数ほど女」
「またそれか、一生言われそうだな(笑)」
一生て・・・
「あなたは僕には眩しいよ、立派すぎる。僕なんてこの欠陥だらけの身体で仕事したり一日一日をやり過ごすだけで精一杯なんだから」
「あのな」
「わかってるよ、あなたが怒るのをわかってて言ったんだ。医者という眼で見れば僕より大変な人は沢山いるもの」
「あなたは立派過ぎる、優し過ぎる。そう言われて何人の女にふられたか(苦笑)、君は優秀だがストレートにものを言い過ぎる。チームにはそぐわないと研究チーム追い出されたり、大学病院の派閥からは早々に締め出されて予定より早く病院を継いだ。親父が死んだのもあるがもう少しやりたい研究があったんだ」
「そうなんだ・・・」
「肉体的には完璧でも、人間なんて皆欠陥だらけの生き物だと思うよ、特殊だろうが特別だろうが普通だろうが大した差はないと俺は思う」
「うん・・・」
「なにがあった?」
「なにもないよ」
「嘘だ」
「こんな身体だからなにかしらあるよ。でも子供の頃と違ってそれに対処する術は身についてるから。ただなんかあると、そうまるで女がヒステリー起こすみたいにイライラする。みっともないね。この話はもう終わり・・・お腹空いた、シチュー食べよう」
「親戚の話だけどな、ずっと頭が痛くて、それでも頭痛薬飲めば治ったからいつも仕事優先で。だけどそうするうちに手遅れになってどうにもならなかった」
「身体なら定期的に健診受けてるし大丈夫だよ」
「身体のことを言ってるんじゃない、小さなことでも飲み続けていればやがて溢れ出す。心が壊れてからじゃ遅い・・・」
「ほっといてよ。あなたのことは好きだけど、だからと言って必要以上に僕に踏み込まないで」
「やだね」
「失礼な人だな」
「ああ俺はぶしつけで失礼な男だ、そして諦めが悪い。絶対におまえのこと諦めないからな。どうやったらそのバリヤー破れるんだ?」
「殴ればいい」
「そっか」
「えっ?」
「うぉ~! 痛っ」
「なんで自分のこと自分で殴るんだよ!」
「だって殴れないじゃん」
「どんだけ馬鹿なんだ・・・東大の医学部まで出てるのによくこんな馬鹿なこと出来るね、唇が切れて血が・・・」
「こんなの舐めときゃ治るよ」
「いいなっ」
「素直でよろしい(笑) えっ・・・」
舐めてる、艶めかし過ぎて眩暈がしそうだ(でへっ)
「舐めときゃ治るんでしょ」
「あっ こっちも切れたかも」
「切れてないよ」
ツンデレ
「そっか(笑)もう我慢するな、便秘になるぞ」
「うん・・・」
辛い時は辛いって言いなさい。僕にそう言ってくれたのは父さん、母さん、兄さん。いや他にもいたのかも知れない、だけど多分僕がそう言わせなかった。だけどあの人はそんな僕に不躾なほど入り込んできた。
誰かに甘えたっていいんだよ、肩肘張らないで素直になろうよ、掴んだ幸せは逃がさないで
*
季節はいつも夏だった。
だけどあの頃の僕は灰色の世界で生きていて、四季も見えていなかったかも知れない。
兄が山小屋の戸を閉めて出ていくと夕立が降ってきて、雨風は激しく山小屋を叩きつけた。
どこからともなく聞こえてくる不気味な音。電気が切れて僕は懐中電灯を抱えながら震えていた。兄が戻ってくる気配はない。
恐いよ・・・お母さん。。。
お母さん? 自分がお母さんと言ったことに驚いた。そう僕はまだとても子供だったんだ。
お母さんという響きは優しい母の顔を思い起こし、僕は胎児のように丸まり眠りについた。
鳥のさえずりと共に眼を覚めまし外に出ると木々の緑が朝露に光っていた。灰色なんかじゃない、世界はこんなにも美しい。
沢山の本は僕に知識と思考力と想像を与えてくれた。それは僕にとって少しの自信と生きていく糧になった。僕は強くならなければならなかった。
夏に降る雨は冷たかった。そんな筈はないのに・・・それは一つの恋が終わったから。
頬を伝う冷たいものは涙なのか、雨なのか。。。
夏というにはまだ少し早く、梅雨だというのに珍しく天気で日差しが眩しい昼下がり、カフカと名乗る少年は図書館にやってきた。
僕はその少年に興味をもった。本来人とかかわることが苦手な僕が興味を持つことは極めて稀なことだった。彼の力になりたいと思った。15の夏は危うく美しい。あの夏の日の15の僕なら・・・僕はきっと君に恋をした。
そして夏の終わり・・・あなたに出会った僕は再び愛を知る。。。
「クシュン」
「寒いのか?」
「ううん」
「どう? 女になった感想は」
「僕は男だよ」
「そうだったな・・・うん、そのままでいい、そのままでいいからずっと俺の側にいろっ いや、こんな言い方しちゃいかんな、俺と一緒に生きて」
「ぷっ」
「なんだよ、人が真面目に言ってんのにさ」
「だってその格好で真面目なこと言っても」
「あ・・・すっぽんぽん」
「あははっ」
「そんなふうに大口開けて笑うんだな(微笑)」
「えっ?」
「100万$の笑顔だな」
「いまどきそれって死語だよ(笑)」
「あっ 今度一緒に釣りに行こう」
「いいね」
*
日差しが温かく風がやわらかい。今日はなにかいいことがあるのかも? そんな風が吹いていた。
「もうすぐ閉館時間か、なにもなかったな・・・」
「大島さん!」
「ビックリした・・・心臓に悪いよ」
「ごめんなさい、連絡もしないで」
「嘘だよ(笑)今日の風はやわらかくて、なんかいいことあるのかもってそんな予感がしてたんだ」
「ホントに?! 嬉しいなっ(笑顔)」
「君は随分背が伸びたね」
「成長期にお腹いっぱい食べれたのが一番の収穫だったよ。大島さんは綺麗になった」
「えっ?」
「前は男にしか見えなかったけど今はオカマに見える」
「なんだよそれ、酷いな~」
「嘘だよ、前から綺麗だけどもっと綺麗になった。ねえ大島さんは恋をしてるの?」
「まあ、そんなとこかな(照)」
「いいな~」
「君もすればいい」
「僕、大島さんと恋したかったな~」
「えっ!? 驚いたよ、まさか君がそんなこと言うなんて、でも嬉しいよ、ありがとう(微笑)」
その微笑みはずるいよ!
「さあ閉館時間だ、門を閉めるのを手伝って」
「うん。 あっ風が・・・室内なのに・・・」
やわらかくて優しい風・・・
「お帰り田村カフカくん、ここは君を歓迎する」 fine
*** エピローグ ***
「僕はあのとき大島さんのIDカードを見なかったから大島さんの名前は知らないんだけど」
「知りたい?」
「ううん知らなくていい、大島さんは大島さんだもの。でもこないだ・・・どうしてだか、ふと大島さんの名前が浮かんだんだ」
「へぇ~」
「なんか僕、その名前が気にいっちゃって」
「僕も知りたいな」
「僕のイメージする大島さんの名前は・・・・・・大 島 緑」
「素敵な名前だ(微笑)」
直人さん、42歳の誕生日おめでとうございます

健康に留意して益々のご活躍を願ってます。
私はというと相変わらずでまた書いてしまいましたが(^^; ずっと応援してます。ずっとついて行きます。
そして私は変わることなくなんか書いてる気がしますが、これが私の直人さんへの「愛」ですので。
大島さん小説読んで頂きありがとうございます。大島さんに恋を捧げちゃいました

いいよね~。
いかがだったでしょうか? どう受け止めてもらえたか今回特にちょっとわからないですが、一言でも感想頂けたら嬉しいです。
