2008年 夏・・・
「ただいま・・・」
「キャン!キャンキャン!」
「うぅぅ・・・」
「ぶちょお~おかえりなさ~い」
「なんでうちに犬がいるんだ!」
「可愛いでしょう~」
「どうしてその犬がうちにいるのか聞いているんだ」
「飼い主と離れてしまったのか迷子になっていたんです。1時間以上飼い主がくるの待っていたんですが、辺りが暗くなってきたので家に入ったんです。」
「あっそっ、とにかく早く飼い主を探しなさい」
「ご主人様が見つかるまで蛍お姉さんと過ごしましょうね、マリリン!犬嫌いのおじさんがいて窮屈かもしれないけど」
「マリリンて・・・犬だったらシロかポチだろ、大体この犬はどう見てもシロだ」
「猫ならにゃんこ、犬ならシロかポチって(芸が無さすぎ)昔、マリリンに逢いたいっていう映画があったんですよ、海を隔てて離れ離れになった恋人同士のマリリンとシロという犬がいて、病気で死にそうなマリリンに逢いにシロは怪我しているにも拘らず、海を泳いでマリリンに逢いに行くんです。青い海と白い雲に、懸命に泳ぐ白い犬・・・感動でした~で、もし犬を飼ったら絶対にマリリンという名前にしようと決めていたんです」
「君は海を泳ぐ白い犬の姿に感動したんだろ?だったらそこはやっぱりシロだろ。それに・・・雨宮、残念だったな、この犬は雄だ。ん?首輪に名前が・・・健太郎って書いてあるぞ」
「キャー君は健太郎っていうんだ~健太郎よろしくね!」
「おいっマリリンはもういいのか?」
「だって、この子雄だし~健太郎って名前だ~い好き。その理由はですね」
「どうでもいいし・・・」
「そんなこと言わないで聞いてくださいよ~」
「こらっ俺になつくな~!」
迷子の犬預かっていますという張り紙を出したもののなかなか飼い主は見つからず・・・
只今の同居人?ぶちょおと私と健太郎+ときどきにゃんこ。。。
「今年の夏もビールが美味い!」と縁側でぶちょおと飲むビールの味は格別でこんな日はずっとずっと続いていくんだと思っていた。
*
「火の始末はちゃんとして、戸締りは忘れずに、それから・・・」
「はいはい、子供じゃないんだから大丈夫ですよ、健太郎もいるしね」
「まあ猫の手よりはマシというか、番犬もどきにはなるだろう・・・う~ん、もひとつなんか言わなきゃならんことがあったんだが」
「ぶちょお~新幹線の時間に遅れますよ、気をつけて行ってらっしゃ~い」
*
「ただいま」
「ワンワン」
「おかえりなさ~い、二ツ木さんが美味しいお肉持ってきてくれて、すき焼きパーティやることになったんです」
「部長、お邪魔してます。出張ご苦労様です」
「高野、あっちの工事の進み具合どうだった?」
「ああ、順調だよ」
「仕事の話は明日にして、さっお肉も煮えてきたし食べましょう~」
「はーい、いっただきまーす。うん美味しい~」
「本当に美味しいお肉ね~あなたにしちゃ奮発したわね」
「うっ・・・気持ち悪い・・・」
「大丈夫~蛍?」
「うっ・・・」
「まさか・・・まさか・・・まさか」
「ん?」
「ちょっと・・・トイレ・・・」
「まさかって?・・・えっそれってできたってことか?」
「はっ!?・・・そんな筈は・・・」
「ちょっと高野部長!その言い方ってなんですか!高野部長がそういう人だとは露ほどにも思っていませんでしたよ!」
「まあまあ急に言われて驚いただけだって、なっ」
「あっ蛍、大丈夫?顔色悪いわよ」
「痛い痛い、お腹が痛い・・・(バタン)」
「キャー救急車~!」
*
「症状は軽いですがサルモネア菌中毒ですね、古くなった卵とか食べませんでしたか?」
「あっ・・・・・」
「大丈夫か?」
「ぶちょお・・・ずっとここにいたんですか?」
・・・なんか私よりやつれた顔してる・・・
「すまない雨宮、出張に行く前に冷蔵庫の中の卵は古いから食べるなって言おうと思っていたのに、あのときそれが思い出せなくて、そのせいでこんなことに、すまない、本当にすまない」
「大丈夫ですよ、大したことなかったし、気にしないでください」
「そんなわけにはいかない、命にかかわることだ」
「じゃあ今度お買い物に付き合って、私の欲しいもの一つ買ってくださいね」
「うん、わかった。夕方には退院していいそうだ。山田が迎えにくるって・・・俺が行ければいいんだが」
「だからそんなに気にしないでくださいって、早く会社行かないと遅れますよ」
「うん」
卵か~卵かけご飯じゃなくて、焼けばよかったな。
山田姐さんなんて妊娠したかと思ったって(笑)
でも・・・ぶちょおの子供・・・欲しいな。。。
えっ?・・・えーーーーーー!?
そうなんだ、ぶちょおとの生活が楽しくて今まで考えたことなかったけど、
私のぶちょおに対する気持ちってそうなんだ・・・そうだったんだ。。。
*
「雨宮、大したことなくてよかったな」
「ああ、それにしても大事なこと思い出せないなんて、俺も歳かな~参ったな」
「山田がいうように妊娠だとよかったのにな」
「二ツ木!」
「だってそれだとグダグダ悩まずに結婚までスパーと行けるじゃん」
「そんなことになったら、親御さんに申し訳がたたない」
「相変わらず頭固いよな~まっおまえらしいけど、でもいまどきバツイチとか、気ににしなくていいじゃん、歳の差だって13、14だっけ?たいした差じゃないって。それとも結婚なんて考えてないって?そんなことないよな~おまえの性格でダラダラと同居続ける訳ないよな。」
「ああ全ておまえのいうとおりだよ、特に今回のようなことがあるとなにやってんだろうと思うし、ただなんつーか何事もタイミングが難しいんだよ。大体雨宮はまだ若いだろ?俺と結婚まで考えていると思うか?」
「しーらないっ。自分で聞け」
「いやどっちかというとここで一言欲しいんだが・・・てかおまえは山田とはどうなんだ?結婚とか考えてないのか?」
「俺?俺なら毎日プロポーズしてるぜ~」
「あっそっ・・・」
「まっ頑張れよ~で、俺と合同結婚式やろうぜ(笑)」
*
「明日買い物いかないか?ほらなんか欲しいもの買ってくださいっていってただろ?」
「明日は学生時代の友達と会うんで」
「そうか、じゃまた今度な、あっそうそうさっきプリン作ったんだ、もう固まってるかな」
「えープリンて作るんですか~?」
「あのスーパーで売っている牛乳混ぜて冷やすだけじゃなくて、ちゃんとオーブンで焼いて作ったやつだぞ」
「へぇ~すご~い、それに美味しい~」
「健太郎も食うか?」
「ワンワン」
「ドックフードって栄養価が高いから、あんまりなんでも食べると肥満になってよくないというか、ドックフードだけ食べてれば大丈夫なんですって」
「じゃあ、おやつ食べた分いつもの倍散歩いこうか」
「ワンワン」
ぶちょおたら、すっかり健太郎になついてるな(健太郎がなつくんじゃないのかい)
でも健太郎がいてくれると助かる、なんかあれ以来ぶちょおは妙に優しいし、私は自分の気持ちに気づいたせいか、なんか意識しちゃってぶちょおと話すの緊張するし。全く緊張のないところから始ったのに。なんでだろ・・・。
今はぶちょおといると緊張するというかドキドキする~。
気がつくとぶちょおのことばかり考えているし、そう思い出した。恋って面倒というか疲れるものだったんだ。
なんでも話せて、まるでボケと突っ込みの漫才しているみたいに楽しかったのにな。
*
朝新聞を読む部長・・・
「なんだって!」
「どうしたんですか?」
「リーマンが破綻した」
「リーマン?」
アメリカ証券大手リーマンブラザーズが破綻したことから、一気に景気は後退した。
世の中不景気になると消費は冷え込み、クライアントが着工の中止を申し出てきたり、経費削減で少しでも安くあげようとどこも必死だ。
部長の眉間の皺も日増しに深くなる。
「多摩市のグリーンタウン計画、うちがとるぞ!」
「はい!」
みんな気合入りまくりで頑張った。
SWDの存続がかかっているといってもいくらい大きな仕事だった。それにグリーンタウン計画はぶちょの建築家としての夢が詰まった家造り、
街造りなんだよね。
う~ん夢が詰まったとまではいかないか、一企業の社員だし、このご時勢制約も多いし、でも夢への第一歩なんだよね。
ぶちょおは独立とか考えているのかな?もしそうなったら私も側で手伝いたいな。
・・・ふとそんな未来を妄想する蛍ちゃん。・・・
とにかく今は目の前にある仕事頑張らなきゃ!
「部長!どうでした!」
「うん・・・とったぞ!」
「ヤッター!」
「みんなが頑張ってくれたからこそだ、みんなありがとう。来週から又忙しくなるから今日は残業無しでゆっくりして鋭気を養うように」
「はーい!」
「今日は飲もうぜ!部長は?」
「うん、あんまり胃の調子がよくないから軽く一杯なら」
「軽く一杯の人から、二次会、三次会OKの人まで行くわよ~」
ぶちょおの眉間の皺がなくなった。
あっ目が合った!笑った!。私は二次会に行くふりして途中でお腹痛くなったとかいって帰ろうかな。
こないだ通販で買った湯豆腐セットが届いたんだよね、湯豆腐と熱燗で軽く一杯っていいかも~。
*
「高野様、こちらの指輪でよろしかったでしょうか、確認お願いします」
「はい、これで間違いないです」
サイズは間違いないな、しょっちゅう洗面所に指輪置き忘れているもんな。
まっ婚約指輪だったらもっと大事にするよな・・・あいつのことだからやや不安ではあるけど。
問題はいつプロポーズするかだ。。。
こういうのってタイミングが大事だよな、でも来月クリスマスだし。
女っていうのはイベントが好きだしな・・・俺も嫌いじゃないけど。
だけど膳は急げという言葉もあるし、今日は大安吉日だし。
入札も決まったことだし、気分よくプロポーズして久々にイチャイチャしたい・・
て、俺なに言ってんだ~!?(照)
大体雨宮は俺のことどう思っているんだろ? 結婚とか全然考えてなかったらどうしようか・・・
う~ん、もんもんもん・・・頑張れぶちょお
「ただいま」
「遅かったですね」
「ちょっと寄るところがあったから」
「湯豆腐食べながら熱燗で一杯てどうですか?」
・・・蛍ちゃんの得意料理、夏は冷奴、冬は湯豆腐て
・・・
「これ通販で買った湯豆腐セットです。こういうので食べると凄く美味しい気がしません?」
「うん、確かにいつもより美味いな」
「でしょう~」
「あのな、ちょっと話があるんだけど・・・」
「なんですか~改まっちゃって~あっ携帯鳴ってる・・・もしもし雨宮です。えーーー!真由美プロポーズされたの?」
「ゴホンゴホン←湯豆腐にむせるぶちょお」
「そういうつもりで付き合っていたんじゃないんでしょ?でも悪い気はしないって、でも結婚する気はないって、えっ彼から電話だから切るって・・・
もう~人騒がせなんだから、で、ぶちょお~話ってなんですか?」
「今度旅行っていうか、温泉でも行かないか?」
「えっ!?いついつですか?」
「いつがいいかな・・・」
「いいですね~温泉、嬉しいです!でもこれから忙しくなるしあんまり当てにしないで待ってますね(笑)」
プロポーズ→長野の家に挨拶に行く。。。
↑という考えがぶちょおの頭の中にあるのだが、肝心のプロポーズをすっ飛ばしてしまい凹むぶちょおなのであった
「大丈夫!大安吉日の今日という日が駄目でも、まだクリスマスがあるじゃないですか~」←特別出演・宗十郎さま。
ん?なんか聞こえた気がする・・・天の声か、それとも空耳か。。。
*
一ヶ月後・・・
「明後日のクリスマスだけど」
「そういえばもうクリスマスですね」
キタキター!バリバリに空けてますよ~。
「六本木の・・・」
「あっ携帯鳴ってる、お姉ちゃん?珍しいな・・・もしもしなに? えっ・・・嘘・・・お母さんが・・・うん、わかった・・・」
「お母さんがどうしたんだ?」
「お母さん、事故にあって酷い怪我で救急車で運ばれたって・・・どうしよう、どうしよう・・・」
「今ならまだ最終に間に合う、今タクシー呼ぶから早く用意しなさい」
「はい・・・」
腰が抜けそうだった・・・・手の震えが止まらなかった。
ぶちょおが私の旅行バックに身の回りのものを詰め込み用意してくれた。
「雨宮、気を確かに、きっと大丈夫だから・・・」
「はい・・・」
真っ青な顔で今にも倒れそうだった。
せめて長野の駅まで一緒に行ってやればよかった。
明日の会議とか考えないで・・・クソッなんで直ぐにそういうこと考えるんだ、俺って。。。
俺にとって一番大事なものはなんなんだ?・・・俺って駄目駄目だな、昔とちっとも変わってないじゃないか。。。
翌朝・・・
「ぶちょお」
「雨宮!お母さんの容態は?」
「命に別状は無いです。だけど怪我が酷くて痛々しくて見てるのが辛いです」
「雨宮・・・」
「お父さんが呼んでいるから電話、切りますね」
なにも言えなかった。どう言えばいいかわからなかった。
情けない・・・君より長く生きていて、いっぱしの大人のつもりだったが、なんの言葉もかけられなかった。。。
一週間後・・・
雨宮から電話・・・
「お母さんの具合はどうだ?」
「集中治療室からは出れたんですが、他の怪我は時間が経てば治るけれど、大腿部骨折があってリハビリが凄く重要になるそうです」
「そうか・・・」
「部長、今日付けで退職届けを部長宛に送りました。忙しいときに急に辞めることになって申し訳ないんですが、どうか受理してください、
よろしくお願いします」
「会社辞めるのか!?なにも辞めなくても、看護休暇とかいろいろあるんだぞ」
「いつ完治するかわからないし・・・お父さんは仕事があるし、お婆ちゃんは神経痛だし、弟は浪人生だし、お姉ちゃんとこはまだ子供が小さいし、何よりも私が母の側にいたいんです。今自分にとって一番大事なことはなんなのか考えたんです。それで今日退職届けを出しました」
今まで聞いたことのない雨宮の力強い声で、揺らぎのない決心だということがわかった。
心細そうに新幹線に乗った雨宮はもうそこにはいなかった。
「わかった、諸々の手続きは私がやっておくから君はお母さんの看護に専念しなさい」
「部長、ありがとうございます。それで家にある荷物なんですがしばらく置いてもらっていいですか?」
「荷物のことなんか気にするな、それよりもいるものがあったら連絡しなさい、直ぐに送るから」
「はい、ありがとうございます」
「そっちは東京より寒いだろうからうたた寝とかしちゃ駄目だぞ、風邪ひくからな」
「はい、気をつけます。部長も風邪には気をつけてくださいね」
「うん」
「じゃあ、お元気で」
「君も元気でな・・・」
いつもの 「ぶちょお」という声が「部長」に聞こえて切なかった。。。
もし一ヶ月前にプロポーズしていたらなにかが変わっていたただろうか?
俺は君の側にいれただろうか?君はもっと俺に甘えてくれただろうか・・・
縁側を開けると師走の風は冷たくて・・・だがそれよりももっと冷たい風が心の中を吹きぬけていた。
ぶちょお・・・ぶちょお・・・ぶちょおのこととても好きです。
でも今はぶちょおのことが考えられないんです。
私は高校を出てから東京の大学に行ってそこで就職して、ずっとお母さんとは離れて暮らしてた。
お母さんが元通りに歩けるように私頑張るんだ・・・そう決めたのになんで涙出るかな?
今日だけだから、うんもう泣くのは今日で終わりにしよう。
明日からは泣かない、今日で涙ともぶちょおともバイバイするんだ。。。
(後編に続く)
「ただいま・・・」
「キャン!キャンキャン!」
「うぅぅ・・・」
「ぶちょお~おかえりなさ~い」
「なんでうちに犬がいるんだ!」
「可愛いでしょう~」
「どうしてその犬がうちにいるのか聞いているんだ」
「飼い主と離れてしまったのか迷子になっていたんです。1時間以上飼い主がくるの待っていたんですが、辺りが暗くなってきたので家に入ったんです。」
「あっそっ、とにかく早く飼い主を探しなさい」
「ご主人様が見つかるまで蛍お姉さんと過ごしましょうね、マリリン!犬嫌いのおじさんがいて窮屈かもしれないけど」
「マリリンて・・・犬だったらシロかポチだろ、大体この犬はどう見てもシロだ」
「猫ならにゃんこ、犬ならシロかポチって(芸が無さすぎ)昔、マリリンに逢いたいっていう映画があったんですよ、海を隔てて離れ離れになった恋人同士のマリリンとシロという犬がいて、病気で死にそうなマリリンに逢いにシロは怪我しているにも拘らず、海を泳いでマリリンに逢いに行くんです。青い海と白い雲に、懸命に泳ぐ白い犬・・・感動でした~で、もし犬を飼ったら絶対にマリリンという名前にしようと決めていたんです」
「君は海を泳ぐ白い犬の姿に感動したんだろ?だったらそこはやっぱりシロだろ。それに・・・雨宮、残念だったな、この犬は雄だ。ん?首輪に名前が・・・健太郎って書いてあるぞ」
「キャー君は健太郎っていうんだ~健太郎よろしくね!」
「おいっマリリンはもういいのか?」
「だって、この子雄だし~健太郎って名前だ~い好き。その理由はですね」
「どうでもいいし・・・」
「そんなこと言わないで聞いてくださいよ~」
「こらっ俺になつくな~!」
迷子の犬預かっていますという張り紙を出したもののなかなか飼い主は見つからず・・・
只今の同居人?ぶちょおと私と健太郎+ときどきにゃんこ。。。
「今年の夏もビールが美味い!」と縁側でぶちょおと飲むビールの味は格別でこんな日はずっとずっと続いていくんだと思っていた。
*
「火の始末はちゃんとして、戸締りは忘れずに、それから・・・」
「はいはい、子供じゃないんだから大丈夫ですよ、健太郎もいるしね」
「まあ猫の手よりはマシというか、番犬もどきにはなるだろう・・・う~ん、もひとつなんか言わなきゃならんことがあったんだが」
「ぶちょお~新幹線の時間に遅れますよ、気をつけて行ってらっしゃ~い」
*
「ただいま」
「ワンワン」
「おかえりなさ~い、二ツ木さんが美味しいお肉持ってきてくれて、すき焼きパーティやることになったんです」
「部長、お邪魔してます。出張ご苦労様です」
「高野、あっちの工事の進み具合どうだった?」
「ああ、順調だよ」
「仕事の話は明日にして、さっお肉も煮えてきたし食べましょう~」
「はーい、いっただきまーす。うん美味しい~」
「本当に美味しいお肉ね~あなたにしちゃ奮発したわね」
「うっ・・・気持ち悪い・・・」
「大丈夫~蛍?」
「うっ・・・」
「まさか・・・まさか・・・まさか」
「ん?」
「ちょっと・・・トイレ・・・」
「まさかって?・・・えっそれってできたってことか?」
「はっ!?・・・そんな筈は・・・」
「ちょっと高野部長!その言い方ってなんですか!高野部長がそういう人だとは露ほどにも思っていませんでしたよ!」
「まあまあ急に言われて驚いただけだって、なっ」
「あっ蛍、大丈夫?顔色悪いわよ」
「痛い痛い、お腹が痛い・・・(バタン)」
「キャー救急車~!」
*
「症状は軽いですがサルモネア菌中毒ですね、古くなった卵とか食べませんでしたか?」
「あっ・・・・・」
「大丈夫か?」
「ぶちょお・・・ずっとここにいたんですか?」
・・・なんか私よりやつれた顔してる・・・
「すまない雨宮、出張に行く前に冷蔵庫の中の卵は古いから食べるなって言おうと思っていたのに、あのときそれが思い出せなくて、そのせいでこんなことに、すまない、本当にすまない」
「大丈夫ですよ、大したことなかったし、気にしないでください」
「そんなわけにはいかない、命にかかわることだ」
「じゃあ今度お買い物に付き合って、私の欲しいもの一つ買ってくださいね」
「うん、わかった。夕方には退院していいそうだ。山田が迎えにくるって・・・俺が行ければいいんだが」
「だからそんなに気にしないでくださいって、早く会社行かないと遅れますよ」
「うん」
卵か~卵かけご飯じゃなくて、焼けばよかったな。
山田姐さんなんて妊娠したかと思ったって(笑)
でも・・・ぶちょおの子供・・・欲しいな。。。
えっ?・・・えーーーーーー!?
そうなんだ、ぶちょおとの生活が楽しくて今まで考えたことなかったけど、
私のぶちょおに対する気持ちってそうなんだ・・・そうだったんだ。。。
*
「雨宮、大したことなくてよかったな」
「ああ、それにしても大事なこと思い出せないなんて、俺も歳かな~参ったな」
「山田がいうように妊娠だとよかったのにな」
「二ツ木!」
「だってそれだとグダグダ悩まずに結婚までスパーと行けるじゃん」
「そんなことになったら、親御さんに申し訳がたたない」
「相変わらず頭固いよな~まっおまえらしいけど、でもいまどきバツイチとか、気ににしなくていいじゃん、歳の差だって13、14だっけ?たいした差じゃないって。それとも結婚なんて考えてないって?そんなことないよな~おまえの性格でダラダラと同居続ける訳ないよな。」
「ああ全ておまえのいうとおりだよ、特に今回のようなことがあるとなにやってんだろうと思うし、ただなんつーか何事もタイミングが難しいんだよ。大体雨宮はまだ若いだろ?俺と結婚まで考えていると思うか?」
「しーらないっ。自分で聞け」
「いやどっちかというとここで一言欲しいんだが・・・てかおまえは山田とはどうなんだ?結婚とか考えてないのか?」
「俺?俺なら毎日プロポーズしてるぜ~」
「あっそっ・・・」
「まっ頑張れよ~で、俺と合同結婚式やろうぜ(笑)」
*
「明日買い物いかないか?ほらなんか欲しいもの買ってくださいっていってただろ?」
「明日は学生時代の友達と会うんで」
「そうか、じゃまた今度な、あっそうそうさっきプリン作ったんだ、もう固まってるかな」
「えープリンて作るんですか~?」
「あのスーパーで売っている牛乳混ぜて冷やすだけじゃなくて、ちゃんとオーブンで焼いて作ったやつだぞ」
「へぇ~すご~い、それに美味しい~」
「健太郎も食うか?」
「ワンワン」
「ドックフードって栄養価が高いから、あんまりなんでも食べると肥満になってよくないというか、ドックフードだけ食べてれば大丈夫なんですって」
「じゃあ、おやつ食べた分いつもの倍散歩いこうか」
「ワンワン」
ぶちょおたら、すっかり健太郎になついてるな(健太郎がなつくんじゃないのかい)
でも健太郎がいてくれると助かる、なんかあれ以来ぶちょおは妙に優しいし、私は自分の気持ちに気づいたせいか、なんか意識しちゃってぶちょおと話すの緊張するし。全く緊張のないところから始ったのに。なんでだろ・・・。
今はぶちょおといると緊張するというかドキドキする~。
気がつくとぶちょおのことばかり考えているし、そう思い出した。恋って面倒というか疲れるものだったんだ。
なんでも話せて、まるでボケと突っ込みの漫才しているみたいに楽しかったのにな。
*
朝新聞を読む部長・・・
「なんだって!」
「どうしたんですか?」
「リーマンが破綻した」
「リーマン?」
アメリカ証券大手リーマンブラザーズが破綻したことから、一気に景気は後退した。
世の中不景気になると消費は冷え込み、クライアントが着工の中止を申し出てきたり、経費削減で少しでも安くあげようとどこも必死だ。
部長の眉間の皺も日増しに深くなる。
「多摩市のグリーンタウン計画、うちがとるぞ!」
「はい!」
みんな気合入りまくりで頑張った。
SWDの存続がかかっているといってもいくらい大きな仕事だった。それにグリーンタウン計画はぶちょの建築家としての夢が詰まった家造り、
街造りなんだよね。
う~ん夢が詰まったとまではいかないか、一企業の社員だし、このご時勢制約も多いし、でも夢への第一歩なんだよね。
ぶちょおは独立とか考えているのかな?もしそうなったら私も側で手伝いたいな。
・・・ふとそんな未来を妄想する蛍ちゃん。・・・
とにかく今は目の前にある仕事頑張らなきゃ!
「部長!どうでした!」
「うん・・・とったぞ!」
「ヤッター!」
「みんなが頑張ってくれたからこそだ、みんなありがとう。来週から又忙しくなるから今日は残業無しでゆっくりして鋭気を養うように」
「はーい!」
「今日は飲もうぜ!部長は?」
「うん、あんまり胃の調子がよくないから軽く一杯なら」
「軽く一杯の人から、二次会、三次会OKの人まで行くわよ~」
ぶちょおの眉間の皺がなくなった。
あっ目が合った!笑った!。私は二次会に行くふりして途中でお腹痛くなったとかいって帰ろうかな。
こないだ通販で買った湯豆腐セットが届いたんだよね、湯豆腐と熱燗で軽く一杯っていいかも~。
*
「高野様、こちらの指輪でよろしかったでしょうか、確認お願いします」
「はい、これで間違いないです」
サイズは間違いないな、しょっちゅう洗面所に指輪置き忘れているもんな。
まっ婚約指輪だったらもっと大事にするよな・・・あいつのことだからやや不安ではあるけど。
問題はいつプロポーズするかだ。。。
こういうのってタイミングが大事だよな、でも来月クリスマスだし。
女っていうのはイベントが好きだしな・・・俺も嫌いじゃないけど。
だけど膳は急げという言葉もあるし、今日は大安吉日だし。
入札も決まったことだし、気分よくプロポーズして久々にイチャイチャしたい・・
て、俺なに言ってんだ~!?(照)
大体雨宮は俺のことどう思っているんだろ? 結婚とか全然考えてなかったらどうしようか・・・
う~ん、もんもんもん・・・頑張れぶちょお

「ただいま」
「遅かったですね」
「ちょっと寄るところがあったから」
「湯豆腐食べながら熱燗で一杯てどうですか?」
・・・蛍ちゃんの得意料理、夏は冷奴、冬は湯豆腐て

「これ通販で買った湯豆腐セットです。こういうので食べると凄く美味しい気がしません?」
「うん、確かにいつもより美味いな」
「でしょう~」
「あのな、ちょっと話があるんだけど・・・」
「なんですか~改まっちゃって~あっ携帯鳴ってる・・・もしもし雨宮です。えーーー!真由美プロポーズされたの?」
「ゴホンゴホン←湯豆腐にむせるぶちょお」
「そういうつもりで付き合っていたんじゃないんでしょ?でも悪い気はしないって、でも結婚する気はないって、えっ彼から電話だから切るって・・・
もう~人騒がせなんだから、で、ぶちょお~話ってなんですか?」
「今度旅行っていうか、温泉でも行かないか?」
「えっ!?いついつですか?」
「いつがいいかな・・・」
「いいですね~温泉、嬉しいです!でもこれから忙しくなるしあんまり当てにしないで待ってますね(笑)」
プロポーズ→長野の家に挨拶に行く。。。
↑という考えがぶちょおの頭の中にあるのだが、肝心のプロポーズをすっ飛ばしてしまい凹むぶちょおなのであった

「大丈夫!大安吉日の今日という日が駄目でも、まだクリスマスがあるじゃないですか~」←特別出演・宗十郎さま。
ん?なんか聞こえた気がする・・・天の声か、それとも空耳か。。。
*
一ヶ月後・・・
「明後日のクリスマスだけど」
「そういえばもうクリスマスですね」
キタキター!バリバリに空けてますよ~。
「六本木の・・・」
「あっ携帯鳴ってる、お姉ちゃん?珍しいな・・・もしもしなに? えっ・・・嘘・・・お母さんが・・・うん、わかった・・・」
「お母さんがどうしたんだ?」
「お母さん、事故にあって酷い怪我で救急車で運ばれたって・・・どうしよう、どうしよう・・・」
「今ならまだ最終に間に合う、今タクシー呼ぶから早く用意しなさい」
「はい・・・」
腰が抜けそうだった・・・・手の震えが止まらなかった。
ぶちょおが私の旅行バックに身の回りのものを詰め込み用意してくれた。
「雨宮、気を確かに、きっと大丈夫だから・・・」
「はい・・・」
真っ青な顔で今にも倒れそうだった。
せめて長野の駅まで一緒に行ってやればよかった。
明日の会議とか考えないで・・・クソッなんで直ぐにそういうこと考えるんだ、俺って。。。
俺にとって一番大事なものはなんなんだ?・・・俺って駄目駄目だな、昔とちっとも変わってないじゃないか。。。
翌朝・・・
「ぶちょお」
「雨宮!お母さんの容態は?」
「命に別状は無いです。だけど怪我が酷くて痛々しくて見てるのが辛いです」
「雨宮・・・」
「お父さんが呼んでいるから電話、切りますね」
なにも言えなかった。どう言えばいいかわからなかった。
情けない・・・君より長く生きていて、いっぱしの大人のつもりだったが、なんの言葉もかけられなかった。。。
一週間後・・・
雨宮から電話・・・
「お母さんの具合はどうだ?」
「集中治療室からは出れたんですが、他の怪我は時間が経てば治るけれど、大腿部骨折があってリハビリが凄く重要になるそうです」
「そうか・・・」
「部長、今日付けで退職届けを部長宛に送りました。忙しいときに急に辞めることになって申し訳ないんですが、どうか受理してください、
よろしくお願いします」
「会社辞めるのか!?なにも辞めなくても、看護休暇とかいろいろあるんだぞ」
「いつ完治するかわからないし・・・お父さんは仕事があるし、お婆ちゃんは神経痛だし、弟は浪人生だし、お姉ちゃんとこはまだ子供が小さいし、何よりも私が母の側にいたいんです。今自分にとって一番大事なことはなんなのか考えたんです。それで今日退職届けを出しました」
今まで聞いたことのない雨宮の力強い声で、揺らぎのない決心だということがわかった。
心細そうに新幹線に乗った雨宮はもうそこにはいなかった。
「わかった、諸々の手続きは私がやっておくから君はお母さんの看護に専念しなさい」
「部長、ありがとうございます。それで家にある荷物なんですがしばらく置いてもらっていいですか?」
「荷物のことなんか気にするな、それよりもいるものがあったら連絡しなさい、直ぐに送るから」
「はい、ありがとうございます」
「そっちは東京より寒いだろうからうたた寝とかしちゃ駄目だぞ、風邪ひくからな」
「はい、気をつけます。部長も風邪には気をつけてくださいね」
「うん」
「じゃあ、お元気で」
「君も元気でな・・・」
いつもの 「ぶちょお」という声が「部長」に聞こえて切なかった。。。
もし一ヶ月前にプロポーズしていたらなにかが変わっていたただろうか?
俺は君の側にいれただろうか?君はもっと俺に甘えてくれただろうか・・・
縁側を開けると師走の風は冷たくて・・・だがそれよりももっと冷たい風が心の中を吹きぬけていた。
ぶちょお・・・ぶちょお・・・ぶちょおのこととても好きです。
でも今はぶちょおのことが考えられないんです。
私は高校を出てから東京の大学に行ってそこで就職して、ずっとお母さんとは離れて暮らしてた。
お母さんが元通りに歩けるように私頑張るんだ・・・そう決めたのになんで涙出るかな?
今日だけだから、うんもう泣くのは今日で終わりにしよう。
明日からは泣かない、今日で涙ともぶちょおともバイバイするんだ。。。
(後編に続く)