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Tea Time

ほっと一息Tea Timeのような・・・ひとときになればいいなと思います。

私クリスマスに奇跡が起きるなんて思っていませんでした。

2016-12-24 19:27:48 | クリスマス小説
ドラマ最終回より続きます。

「そんなんだからおまえは結婚できないんだよ」

「私、結婚できないんじゃなくてしないの~!」

「わかってるって」

また言ってしまった(^^;

「なんか・・・」

「なんか?」

「まくしたてたらお腹空いた」」

「なんか作るか」

「えっホントに?ヤッター」

2人で買い物に行ってみやびの部屋で料理を作る十倉さん、いいな~。

「ご馳走様~美味しかったー」

「そんなの当たり前だ」

「そりゃそうだけど、あっマンション引き払ったし泊まるとこどうするの?うち泊まってく?」

「なんでいつもおまえの方から言うんだよ」

「へっ?」

「あなたと一緒にいたいとか、今日泊まってく?とか」

「あっあーーー 先に言われたの嫌なんだ、昭和の男だね(笑)」

「ああそうだよ、昭和な男の俺は気がついたら誰かとベッドで朝を迎えてましたとか(見てたのか?) 誰が乗るかわからないようなエレベーターでキスするなんてことはしないし」

「あれはちょっと反省してるけど気持ちが盛り上がってついなんてことあなただってあったでしょ?」

「俺は・・・あまのじゃくなんだ」

「そうよね、そんな感じ~。だとすると私のこと女として見たことあるってことよね?」

「ああ」

「えっ・・・」 キタ――(゚∀゚)――!!十倉さんと初めてのキス

なんだろ?キスってこんなにいいもんだった?いや、大した経験はしてないんだけど・・・料理の上手い男はキスも上手いのか(知りません)
あっ・・・どうしよう。十倉さんの綺麗な指がブラウスのボタンに、展開が急過ぎて嬉しい~でもどんな顔すればいいんだろう?教えてやろう!てこんなこと教えてくれなかったわよね(^^;

考えるな、感じたままに感じろっ・・・なんちゃって

「みやび・・・」

「十倉さん・・・」

「みやびちゃ~ん」←みやびママ

「へっ?」

嘘~なによっこんなときに

「アパートの上の階が水漏れでママの部屋が水びたしになっちゃったの~あらっ十倉さん!」

「こ、こんばんは」

「あらっあららどうしましょ、なんか私じゃましちゃったんじゃない?」

「そんなことないわよ」

「私はみやびちゃんと違って敏感なのよ、今日はこの部屋いつもと違う甘い香りがするもの、甘いフェロモンだわ~」

「まっママ!」

「お邪魔しました、僕ホテルに泊まりますんでごゆっくり」

「あらっ私がホテルに泊まるのに~だから遠慮しないで、ねっ」

「マーマ!」

「じゃあおやすみ」

「なんかごめんね」

「いや、みやびママって可愛くて好きだよ」


次の日・・・

「えーもう帰るの?」

「うん、前の会社でも力になってくれてたんだけど新事業にも興味があるから詳しく聞きたい、明日しか時間がないって言うから会ってくるわ」

「アメリカは遠いね」

「クリスマスには帰ってくるから」

「うん待ってる、身体に気を付けて」

「うん、君も」

                                   *


今日はクリスマス!1日足を棒にして見つけた服に靴にバッグにコートに奮発しちゃった、贔屓の美容師さんにセットしてもらって、うん完璧・・・かな?一番綺麗な私であなたに会う・・・いざ成田へ!
遠距離恋愛って言っても今は携帯があるから気軽に電話できるし、LINEてホント便利よね。毎日会って会話してるようなものだもの、でもやっぱり会いたい~キスしたいっ ハグしたいっ それから・・・女は恋すると妄想が盛んになるのよね。

ドーン! キャー!

えっなに?なにがあったの?

「向こうの店でガス爆発があったみたいよ」

「怖い~」

大変・・・怪我人は?

幸い爆発の規模は小さく数台の消火器で火は消えたようだった。ここの商店街はよく訓練されてると感心した。人通りの少ない路地裏で見たところ怪我した人は少ないようだけど何人かいる。

「私は医者ですが救急車は?」

「呼びました」

「おばあさん、大丈夫ですか?」

「驚いて転んでしまって足が痛くて」

「大丈夫、折れてないですよ。足首をひねったんですね、病院に行ってレントゲンを撮りましょうね」

「トキさん、こちらお医者さんだって」

「おーそうかそうか」

「痛いよ~」

「血が出てるね、血が出てびっくりしただろうけど大丈夫よ(微笑) お母さん、綺麗なハンカチかなにかあったら出血したところをそれで押さえててください」

「はい」

「ガラスの破片で切ったみたいなんで病院でそれを言って破片が刺さってないかよく調べてもらうように」

「はい」

「あなたは・・・」

若い女の子の顔にガラスの破片が突き刺さっていた。女の子もそれがわかっているのだろう。顔に血の気がない・・・

「直ぐに救急車が来ます。あなたが今することは冷静になることです。怖いだろうけど不安だろうけど声を出したり顔の筋肉が動くと傷口が広がる恐れがあります。落ち着いて私の話を聞いてね、私は形成外科医です。少し時間はかかるけど今の技術ならきっと綺麗に治る。だからこれ以上傷口を広げないように心を静かに・・・頑張れっ!」

そういう私の手を彼女はきつく握り、私は彼女と一緒に救急車に乗った。

「先生、よろしくお願いします!」

「おうっまかしとけっ」

うん、きっと大丈夫。うわぁ~もうこんな時間だ・・・携帯がない 救急車の中に落としたのかな。とにかく行かなきゃ、急がなきゃ!

                                  
                                 *


約束の時間からもう2時間も経ってる、連絡もしないで待っててくれるかな? 大丈夫、口は悪いけど優しい人だもん。

あっいたー! 向こうで手を振ってる、十倉さ~ん・・・・・・

ショウウインドウに映った自分の姿を見て唖然とした。髪はボサボサ化粧は半分落ちて、スカートはよれよれ、コートの裾には血がついてた。

駄目・・・こんなんじゃ会えない。。。


「みやび!どこへ行くんだ!」

私は走った、彼は追いかけてきた。あれっ意外と足早いんだ・・・そっか私ヒールだった、ヒールじゃちゃんと走れない、思わずこけそうになる私を彼は後ろから抱きしめた。

「どうして逃げるんだよ」

「だって・・・だってだって、一番綺麗な私であなたに会いたかったのに」

「綺麗だったよ」

「えっ?」

「さっきニュースで見たんだ、スマホで動画取るよりすることあるだろって言いたいけど(苦笑)おまえはとても綺麗だった、強くて優しくて美しい。まるでジャンヌダルクだよ」

「ジャンヌダルクって例えが昭和だよ(笑)」

「ジャンヌダルクは15世紀を生きた実在の人物だから昭和はおかしいだろ?」

「ほらっ昔昭和な時代にジャンヌダルクの映画とかあった気がするもの」

スマホで検索

「ジャンヌダルクの映画は1999年だ、昭和じゃないぞ」

「そっか、平成になってもう28年だもんね」

「そうだよ、昭和の頃はまだ高校生だよ」

「じゃあ昭和の男って例え間違ってたね、ごめ~ん誤る」

「いや間違ってはいない、高校生までに人格は形成されるからな」

「そっか・・・私も昭和の女ね(笑)」

「じゃあ昭和の男と女で今度カラオケで昭和枯れすすき歌おうか」

「古すぎっ!(笑)私あなたの声好きだわ、凄く心地いい LINEで沢山話してるつもりだったけど生が一番!」

「俺は生ビールか(笑)」

「温かい・・・繋いだ手が温かい」

「うん、ニュースを見るまでは二時間が途方もなく長く感じちゃって(苦笑)」

「私も会えるまで不安で不安で、3か月会えなくても我慢できたのに」

「会えない時間が愛育てちゃったのよ・・・だろ?」

「なんでわかるの~」

「俺も同じこと考えてたから(微笑)」

「そう(いえ~い)」

「レストランキャンセルしたし、ドライブでもしようかと思ってレンタカー借りたんだ、行こう」

「何処行くの?」

                                    *


「着いた、子供の頃よく来た公園なんだ。」

「綺麗な噴水~」

「昔はただつつじが咲くだけの公園で夜になると真っ暗だったのにイルミネーションまでしてビックリだ」

「可愛い~優しい光・・・派手なイルミネーションより好きだわ」

「気にいった?」

「ええ、向こうは?」

「芝生広場、あそこでボール遊びしたな」

「へぇ~」

「こないだ、なんでもそっちから言うって拗ねただろっ」

「うん」

「俺からは言えないんだ・・・」

「えっ?」

「なんてったって俺はバツイチだ、一生幸せにしますと誓った人を幸せにできなかった」

「幸せなことも沢山あったと思うよ」

「もしなにか大変なことが起きて俺の大切な人二人が危険な目にあったとしたら俺は一寸も迷わずに千花を助けるだろう」

「そんなの当たり前じゃない、そうよ私はジャンヌダルクよ、自分のことは自分で守る。自分の食いぶちも自分で稼ぐ」

「みやび・・・」

「言われる前に言うわ」

「えっ?」

「ジャンヌダルクは自分を犠牲にして人々の為に戦ったのよね、さすがに私はジャンヌダルクは言い過ぎた、訂正するわ」

「確かに突っ込みどころではあるけど、そもそも俺がジャンヌダルクみたいだと言ったんだし」

「そうよ、そうよ、あなたが最初にそう言ったのよ」

「もうジャンヌダルクのことはいいから俺の話を真面目に聞いて欲しい」」

「真面目に?」

「みやび、俺と・・・結婚しないか、いや俺と結婚してください」

「けっけけけっ結婚~! べっ別に結婚しなくても一緒にいれればそれでいいのよ」

「ふーん、結婚するのが怖いんだ」

「なっなんで私が怖いのよ!怖いのは結婚に失敗したあなたじゃないの!?」

「幸せなことも沢山あったと思うよってさっき言ったろ?」

「そりゃそうだけど」

「俺はおまえに結婚という名の最高の料理を味合わせてやりたい。いや味合わせてやりたなんて傲慢だな、料理と違って結婚は二人で美味しくしていくものだから・・・駄目だ、結婚に失敗した俺がなに言っても陳腐に思えてくる。こんなダサいプロポーズってないな(苦笑)」

「どっち?」

「えっ?」

「私と結婚したいのしたくないのどっちなの?」

「したいけど・・・」

「じゃあ四の五の言わずに男らしくガツンと言ってよ、あなたは無駄に口数が多いのよ」

「おまえも私結婚できないんじゃなくてしないんですが口癖じゃないか、ハードル高いよ」

「そうよね、ただあなたと一緒にいるのは楽で楽しいけど結婚となると途端にハードルが高くなる気がする」

「一緒にハードル飛んでみないか」

「無理でしょ」

「へっ?」

「二人でハードルなんて飛べる訳ないわよ、やるんなら二人三脚よ」

本当に飛ぶ話してるんじゃないんだけど(^^;

「ちょっとやってみない、二人三脚」

「えっ?」

「私、得意だったんだ~芝生広場なら広いし人少ないし、行こっ行こっ」

「本当にやるの?」

「スカーフで足結んで、ほらっ 一、二、一、二」

「一、二(笑) おっとっと・・・」

チャリーン

「なに?」

「10セント硬貨だ、ポケットに入っていたのが落ちたんだな・・・そうだっ!」

「なに?」

「10セント硬貨に聞いてみよう」

「えっ?」

「この10セント硬貨を投げるから、もし表が出たら結婚する。もし裏だったら今の関係を続けるけど結婚はしない」

「そんな大事なこと10セント硬貨で決めるなんて・・・」

「今日はクリスマスイブで、明日はクリスマスでキリストの生誕日といっても本当は定かではないそうだけど(^^; クリスマスってことで神様の手にゆだねてみるのもいいんじゃないか」

「そうね、それもいいかも(笑)」

「よしっ」

宙を舞う10セント硬貨が十倉の手の平に落ちる・・・

「どっちどっち」

「よしっ 表だ!」

「やった!」

「て・・・・・」

「私たち表で喜んでるね(笑)」

「だな(笑)」

「私、クリスマスに奇跡なんて起きないと思ってた」

「奇跡? 確率で言うと裏か表の2分の1の確率だけどな」

「ううん、やっぱりこれは奇跡よ、どういうわけだか急に二人三脚したくなったり、几帳面なあなたがポケットにコイン入れっぱなしにしてたり」

「そういえばどうしてポケットにコインが入ってたんだろ?(笑)それに最初はレストランでプロポーズの予定だったし、空港に行くのにタクシー拾おうと思ったら横入されてくそっと思ったらそのタクシーが追突事故に遭ってたし」

「へぇ~」

「そうだよ、まずはそこだよ。あのタクシーに乗ってたら今頃は病院だよ」

「よかった~事故に遭わなくて、小さい奇跡が積み重なったのね(微笑) おかげで私はなんの迷いもなくあなたと結婚する! 幸せになる!」

「俺も幸せになる! 一緒に幸せになろうな」

「指輪・・・嬉しい~ありがとう」

                                 *


それからのことはよく覚えてない。家に帰って二人で盛り上がってワイン飲み過ぎて気がついたら朝だった・・・またもや不発

はっそういえば私たちってまだしてなかった・・・それでプロポーズ受けたんだ。いやーん、なんだか純愛

今日はクリスマスだからとママを招待した。結婚の報告を聞いてびっくりし過ぎてなにか事故があったら大変だから私のマンションで二人で話そうというのが彼の提案だ、確かにこれで心臓発作も腰を抜かす心配もしなくて済む。

嬉しさのあまり狂喜乱舞で足が地面についていないママをマンションまで送っていった。

「やっと親孝行できた、ありがとう」

「ちゃっかりお色直し3回、約束させられちゃったな(笑)」

「ごめんね~」

「いいよ(微笑)」




朝日の降り注ぐベッドで静かな寝息をたててるあなた、綺麗な寝顔・・・

「誰の寝顔が綺麗だって?口からヨダレ垂らして随分とだらしない顔で寝てたよ」

「えっ嘘~(あれは夢だったのか)」

「嘘だよ(微笑)、今日は仕事だろ、朝ご飯作ったから食べて」

「うん、ありがとう」

なんだろ、朝から優しい・・・

「美味しい~高級旅館泊まったみたいな朝ごはんね」

「高級旅館の朝ごはんが美味しいとはかぎらないぜ」

「そうよね、あなたが一番美味しい、もといあなたの作った朝ごはんが一番美味しいわ」

「うん(微笑)」

朝から流れるこの幸せな空気、優しいあなた・・・

もしかして私あなたのこと満足させちゃいました~? 若くはないけど熟してるもんね40女(^^;

「そうでもない、思ったよりピチピチ・・・は言い過ぎだな、ぴちってた」

「あっありがとう あなたも・・・あなたって着痩せするのね」

「鍛えてるからな(エヘン) だが俺様を満足させちゃいました? なんてどの口が言う?」

「私の心の声が聞こえるの?」

「師匠にとっては弟子の考えてることくらいは大体わかる」

「お願いです師匠! 私に師匠を満足させる方法を教えてください!」

「よしっいいだろう、教えてやろう!」

「ちょっと待ってください、今メモの用意を」

「それは愛だ、一に愛、二に愛、三も愛」

「愛、愛、愛(メモメモ)ん? 私師匠のこと海より深く愛してます」

「俺も君のことを世界の果てまで愛してる」

「だったら愛は十分に足りてるじゃないですか」

「そうだ・・・だから」

わかった~私がどうだったか知りたいんだ! でもそんなの言わなくてもわかるでしょうに~

いつも自信満々な俺様なのにシャイなところもあるのね~可愛い

ふと微笑むみやび。

「なに?」

「昨日は素敵な夜だったなと思ったら、ちょっと恥ずかしくなってあなたの顔まともに見れないわ(照)」

女は女優よ byみやび

「うん・・・君はとても綺麗だった(照)」

「えっ・・・」

普段口悪いのに、ふと言うのね~女心をくすぐる言葉

あーん、仕事行かないでいちゃいちゃしたーい。こんなこと思うのって若者と一緒じゃん。恋に年は関係ないか。。。

「夜なに食べたい?」

「うーんとね、おまかせで」

「オッケー」

「楽しみにしてるね」

「ご飯食べたらイチャイチャしような

「うん(嬉)」

また読まれた? 顔に書いてある?(^^; 違うっ 同じこと考えてるんだよね


仕事納めの28日まで後3日、頑張ろう~!

トントントン 彼の足音がする。その足音を聞いただけで私は笑顔になる。

間違いなくあなたはここにいる。これからもずっと・・・ずっと。

「今から走るの」

「うん」

「じゃあ」

「行ってらっしゃい、みやび!」

少し高めの明るく優しい声、あなたの声のように12月の終わりとは思えない温かい朝です。                     end


楽しんで頂けたなら幸いです。感想頂けるととても嬉しいです。Web拍手をクリックすると拍手が送れます。拍手だけでも送れますがコメント欄がありましてこちらは非公開になってます。よろしかったら一言どうぞ、お待ちしてまーす。


VOICE更新!メリークリスマスありがとう~直人、大好きだよ

コメント (10)
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1989 愛してる  1章

2015-12-19 19:29:30 | クリスマス小説
1989年7月 それは君と出会った17才の夏だった。

                          *


17才の夏っていったらキラキラして汗なんか流してさ・・・そのつもりだったのに。春に怪我して復帰したときには周りとの差が開いてて唖然とした。結構頑張ってたつもりだったんだけど、頑張ってねえか、頑張ってたら今こんなふうにゴロゴロしてないもんな。

「やる気ないんならやめろっ」 コーチの声が重く心に響いた。ここでやめないのが青春だよな(苦笑) 電話がなってる。



「藤井、おまえ暇だろう~」
「なんだ寺井か、いきなり暇はねぇだろう」
「おまえ泳げたよな」
「うん」
「海行かねえか」
「どうやって?」
「兄貴が大学のサークルで知的障害児の子供達と遊ぼうっていうサークルに入ってて、それで今度海に行くんだけど人出が足りないから手伝ってくれって頼まれたんだ。兄貴にはいろいろ借りがあるし」
「俺はねーし」
「こないだおまえに貸したCD随分傷ついてたよな」
「わり~ルーク(猫)が」
「あれ兄貴のCDなんだ」
「わかった、手伝う、海行くから」


                                       *

「今日は4人の高校生の皆さんが手伝いに来てくれました~よろしくね」

「俺は右、おまえは左だろっ」
「えっ?」
「タイプだよ」

寺井は高校が違うから知らないだろうけど一人はうちの高校の女子だった。あっちは俺のことなんか知らないだろうけど俺は知ってる。バレー部のエースアタッカーで可愛くて性格もいいと女子にも男子にも人気があった。遠目に見るだけだったけど近くで見るとホント可愛いや、しかも水着だ!いや正確には水着の上にTシャツは着てたけど。ありがとう!寺井!

「藤井君はこの子、麻耶ちゃんていうのよろしくね」

そうだっボランティアに来てるんだった、水着に浮かれてる場合じゃない。

「こんにちは、麻耶ちゃん」

両親が共働きで妹の面倒をよく見させられたから子供は苦手じゃなかった。

「高校生の皆さん、お手伝いしてくれてありがとう。おかげで楽しい海水浴になりました。ボランティアだし、なにも出ないけど映画の割引券があるの、よかったら使ってね」

「ありがとうございます」

「魔女の宅急便だ、見たかったんだ~これ」
「これ妹が面白かったって言ってた(やったっ話せた)」
「やっぱり~ねえ、一緒に行かない?」
「えっ?」
「一緒に行こうって約束してた友達が彼氏と先に見ちゃったって言うんだもん、一人で行くのもな~て思ってたんだ」
「うん、じゃあ行こうか」

ヤッターやっぱいいことするといいことあるんだな(笑顔)

「なにおまえにやけた顔してんだよ」
「寺井~彼女ゲットできたか」
「玉砕・・・彼氏いるんだって」
「めげないめげない、いいことするといいことあるって」
「おまえなにいいことあったんだよっこらっ話せよ!」
「寺井~ありがとう~ジュースおごるぜっ」

                                   *

「うーん、服はこんなもんかな、髪は・・・」
「お兄ちゃん、ムースとかあんまり付けないほうがいいよ」
「亜子、いつからそこにいたんだよ」
「初デート?」
「別に」
「ホントわかりやすいよね(笑)ムースで固めるより自然に流したほうが絶対にいいって」
「そっか」
「頑張ってね~漫画家志望の私になんかいいネタ提供してよね(笑)」


「あー面白かった」
「やっぱり宮崎駿はいいね」
「うん、私もほうきで空を飛んでみたいな」
「気持ちいいだろうね、暑いね、喉乾いたな~なんか飲」
「じゃあ私これからバレー部の練習あるから、映画付き合ってくれて有難う~」
「うん」


「マジで!? 映画見ただけかい、本当に映画が・・・・その映画が見たかっただけなんだな」
「うん、デートでもなんでもなかった・・・」
「そうしょげるなよ、いいことすればいいことあるっておまえ言っただろっ」
「なんかいいことあったのか?」
「まだないけど、いつかいいことあると信じていいことしようよ」
「えっ」
「今度は登山するんだって、一緒に行こうな」
「えっ? えーーー?」

別にいいことはなかったけど、暇でぶらぶらしてるよりはマシだったかな、ボランティアに精を出した俺の夏休み。ちょっとだけ彼女に近づけた夏休み。Tシャツに透けて写った水着姿が眼に焼き付いていた。

                                 *

「生徒会の役員を決めなきゃいかんのだが、誰かやりたいやついないか? じゃあ恒例のあみだクジで」

嘘だろ・・・こんなものに当たらなくてもいいのに。。。

生徒会役員には彼女がいた・・・大当たりのあみだクジだった。先生サンキュッ


雨か・・・やみそうにないな、走って帰るか。

「家どっち?」
「左だけど」
「じゃあ一緒に帰ろう、はい傘」
「ありがとう」

嬉しいんだけど相合傘なんて気恥しくて、緊張する。やみそうになかった雨は直ぐに止んだし、俺の家の方が学校から近くて、結局殆ど話せなかった。
だけどこれをきっかけに生徒会の役員会があるときは一緒に帰るようになった。

「コクらねーのか、好きなんだろっ 勝倉由美さんだっけ?」
「フルネームで気安く呼ぶなよ」
「ホントに好きなんだな(笑)付き合ってくださいって言ったとして断らないと思うけどな」
「そんなのわかんないし」
「言いたかないけど、おまえって結構カッコいいよ。モテないけどな(^^;」
「モテない理由は?」
「大人しくて暗くて地味(性格が)」
「わかってるし、でも彼女は明るくていつも元気でキラキラしてて眩しいくらいで、学校でも人気があって、そんな彼女と話が出来るようになっただけでも大きな進歩なんだ。だから今は彼女と話せるだけでいいんだ」
「そっか~純愛だな~頑張れっ」

本当は触れてみたい、キスできたらなんていろいろ思ったりする。そこは健康な17才男子だから(^^; でも今はたまに一緒に帰りながら話をするこの時間を大事にしたかった。

「明日で2学期も終わりだね」
「うん」
「藤井君は冬休みどうするの?」
「どうって」
「ボランティア?」
「えっ?」
「麻里に聞いたんだ、ときどき来てるって。私も行きたいんだけど結構部活が忙しくてって」
「バレー部のエースアタッカーだもんね」
「来年こそはインターハイに出たいし、今は部活頑張りたいんだ」
「僕も応援してる」
「ホントに、嬉しいな~」
「学校のみんなも応援してるから」
「特に藤井くんに応援して欲しいのっ」
「えっ?」
「じゃあね、バイバイ~また3学期ね」

特に藤井くんに応援してるってどういうことだ・・・まさか、まさかの・・・えーーー! そういうことなのかな? 

でも彼女は言った。 「今は部活頑張りたいだ」 って、 頑張れっ頑張れっ由美!

                                *

進学校なのもあって3年になるといよいよ受験色が強くなってきた。生徒会役員が終わると帰りが一緒になることも殆どなく淋しかったが、部活も勉強も頑張ってる彼女を思うと、俺もせめて勉強だけはちゃんとやろうと真面目な日々を過ごしていた。

今日は県大会決勝の日で沢山の生徒が女子バレー部の応援に駆け付けた。N高は全国大会でベスト8に入るくらいの強豪校だが、皆がボールに必死に喰らいつきフルセットにまでもつれこんだ。

頑張れっ頑張れっ! 

だけど善戦及ばず負けてしまった。悔しいな・・・俺がこんなに悔しいのに彼女は今頃どんな思いで。。。

「藤井君っ」 角を曲がった所に彼女がいた。

「どうしたの」
「待ってたんだよ、藤井君のこと」
「うん」
「負けちゃった・・・悔しいっ、悔しいよー悔しいよー」
「うん」

泣きじゃくる彼女を僕はそっと抱き寄せた。

「ありがとう、悔しくてたまらないけど一つだけ、良いことあった(微笑)」
「落ち着いた?」
「うん」
「あの・・・」
「ん?」
「えと・・・」
「なに?」
「こんなときに言うのなんだけど、ぼっ僕と付き合ってください」
「はい」
「いいの、本当にいいの?」
「長かったな~(笑)」
「えっ?」
「だって、映画誘ったの私だよ、告白も私の方からなんて嫌だったし~」
「え・・・・・」
「ホント鈍感だね、どうりでモテないわけだ(笑)」
「いや、今は部活頑張りたいって言ってたし」
「そうだね、頑張って決勝まで行けたし、藤井君は校内で1番取るし」
「うん(笑顔)」
「大好きっ 藤井くんのその笑顔」

照れて耳まで赤くなるのがわかった。夏休みは補習で忙しくて、それでも1回だけデートした。人生初の遊園地デートは滅茶楽しかった。2学期になると受験まで秒読みって感じでデートどころじゃなかったけど、毎日一緒に帰って今日1日のことを話したり、一緒に買い食いしたり。それがどんなにキラキラした時間だったとわかるのはもっとずっと先、大人になってからわかることだった。

クリスマスイブの今日、俺は公演のベンチに座り由美を待っていた。

「ごめ~ん、待った~」
「ううん、今来たとこ」
「メリークリスマス」
「あっ・・・マフラー」
「これ仕上げるのに時間かかっちゃった」
「凄いや、手編みのマフラーなんて貰ったの初めてだよ」
「ホント?」
「そもそも女の子と付き合ったのが由美が初めてだし」
「そうだったね(笑)私も初めてだよ」
「ホント?」
「藤井君と違ってコクられたことはあるけどね」
「ちぇっ なんか悔しい」
「ふーん」
「冗談だよ、好きな女の子なんていなかったから全然悔しくない。あっこれ僕からのクリスマスプレゼント」
「わぁー素敵なブローチ、高かったんじゃないの?」
「叔母がお店やっててそこで見つけたんだけど、分割払いで。もしくは大学に合格したらお祝いにくれるって(笑)」
「ありがとう~大事にするね。藤井君はT大受けるんだよね、凄いな~」
「由美が頑張ってるの見て、俺はせめて勉強くらいは頑張ろうかなって思ってさ」
「へぇー私ってあげまん?(笑)」
「うん」
「T大のどこ受けるの?」
「法科だよ。前に見た映画に出てた弁護士がカッコよくて」
「強きを助け弱気をくじく敏腕弁護士か、カッコいいね」
「なれるかな~」
「頑張って」
「まずは合格しなきゃな。あっ雪・・・」
「ヤッタっ ホワイトクリスマスだね」
「由美・・・」

初めて君にキスしたクリスマスイブ。来年も再来年もずっとずっとこんな風に君とクリスマスを迎えられますように。

                                  *

俺は東京の大学に、由美は地元の大学に進むことになった。同じ高校に通っていた頃と比べると会う時間は減ったけれど、俺はずっと由美のことが好きで、由美も俺のことが好きで、環境が変わってもその気持ちは何ら変わることなく愛を育んでいた。愛なんて言葉を使うのは照れるけど・・・あれは17才の夏休み。

「ねえ、お兄ちゃん、女の子に愛してるって言ったことある?」
「ねえよ、あるわけないだろっ」
「だよね~映画一緒に見ただけだもんね(笑)」
「うっせー」
「でもさ、愛してるなんてドラマや映画や少女漫画ならともかく、実際に聞くとどうなんだろっ」
「どうって?」
「なんか簡単に愛してるなんていう男って信用できないんだけど」
「おまえ中学生だろっ、なにませたこと言ってるんだよ」
「今読んでる漫画にそういう台詞があったんだ」
「そっか、びっくりした~」

亜子のせいで簡単に愛してるなんて言えない(笑)

「えっ?由美の家に・・・」
「両親が連れてきなさいって言うの、嫌?」
「そんなことないよ、でも緊張するな~社長と社長夫人だもんな」
「普通の親だよ」

由美の父親は地元で名の知れた会社を経営していた。由美は気さくでお嬢様という感じはしなかったから後で知ったときは驚いた。

「こんにちは、藤井聡です」
「いらっしゃい、さああがって」
「これ、皆さんで召し上がってください」
「ありがとう」
「君が聡くんか、由美は面食いだったんだな(笑)」
「お父さんたらっ!」
「本当にハンサムね~お父さんの若い頃にちょっと似てるわね」
「もう~お母さんまで~」
「この焼き菓子美味しいわね」
「うん、さすが東京の味は一味違うな」

気さくすぎて驚いた。明るくて優しそうな両親。この両親に由美は育てられたんだな。緊張も直ぐにほぐれ楽しい一時になった。

ガチャ

「誰?」
「お帰りなさい、正巳さん。由美のお友達よ」
「ふーん」

なんだろ? いっぺんに部屋の空気が変わった。兄がいると聞いていたからお兄さんなんだろうが・・・高そうな服を着ていた。ブランド物なんてよくは知らないが、そういう服なんだろう。この家で兄の出で立ちはどこか異質だった。車庫には普通の国産車と、外国の高級車。家に来たときにはあの車はなかったからあれは兄の車なんだろう。いつも明るい由美の違う一面を見た気がした。

「ご馳走さま」
「美味しかった?」
「うん」
「よかった~」
「あのさ・・・」
「なに?」
「ううん、なんでもない」
「・・・・・兄と私は血が繋がってないの」
「えっ?」
「両親はずっと子供が出来なくてそれで親戚の子を養子にもらった。そしてその後に私が生まれた」
「・・・・・・」
「私が生まれるまでは兄はとてもいい子で、明るくて優しくて勉強も出来て両親もとても可愛がっていた。私が生まれてもその気持ちは変わらないのに兄は変わってしまった。私は兄と殆ど話したことがない。兄は私を恨んでる」
「そんな・・・」
「ごめんね、嫌な話聞かせちゃって」
「ううん、なんでも話して、由美のことならなんでも知りたい。君の全てが知りたい」

その日、僕たちは結ばれた。終電に間に合うように帰るところが由美らしかった。


「俺、就職しようと思う」
「えっ大学院には行かないの? 司法試験受けないの、弁護士になりたいんじゃなかったの?」
「その筈だったんだけど、裁判とか見学してて思ったんだ。俺は雄弁じゃないし、平凡に生きてきて人生経験も少ないし」
「新米弁護士はみんなそうでしょ?」
「うーん、俺が誰かを弁護するなんておこがましくて(苦笑)なんか軽い気持ちで目指していい職業じゃないと思った」
「そっか、聡がそう決めたんならいいんじゃない」
「うん、由美はお父さんの会社手伝うんだろ」
「うん、そう言ったらお父さん、凄く喜んでた」

俺は早く一人前の男になって結婚して、由美をあの家から連れ出したかった。あの兄と一緒に暮らすとなにかよくないことが起きるんじゃないかと、時折不安にかられた。
何年かすると仕事にも慣れ、給料も大分上がった。といっても社長な父親からすれば微々たるものだが(苦笑)

「へぇ~ついにプロポーズするのか」
「うん」
「ホント由美ちゃん一筋だな。他の女とやりたいとか思わない・・・か(笑)」
「わかってるなら聞くな」
「わりい~おまえと由美ちゃんは運命の赤い糸で結ばれてるんだろうな」
「おまえはどうなんだよ」
「聞かないでくれよ~」
「そっか、でもおまえは見ているところが違うもんな。あのボランティアがきっかけだったんだろ?」
「そうだな、子供たちの笑顔を守りたいって、ガラにもなく思って」
「それで幼児教育の道を究めるんだよな」
「出世したいってわけじゃないけど、なにかをやろうと思ったら偉くならないといけないというか」
「教授になったらおごれよ~」
「それは遥か先の話で、まずは準教授目指すぞー」
「やれーおまえなら出来る」
「サンキュー~ 明日のプロポーズびしっと決めろよ」
「おうっ」


次の日の朝・・・・・

「お兄ちゃん、大変! 新聞見た?」
「新聞?」

勝倉工業倒産  そんな馬鹿な・・・堅実で固い商売をすると評判の勝倉工業が倒産とは信じがたかった。

専務の勝倉満氏がカジノで借金を作り、その穴埋めに会社の金を使い込み、資金繰りが厳しくなって遂に不渡りを出したと。もうずっと前から由美の兄が手がけた仕事は赤字続きだったらしい。忙しいからとここ最近会ってなかったがまさかそんなことになっていたなんて。いや、あのお父さんのことだ、由美も知らなかったのかも知れない。

電話をかけても通じるわけもなく、家には多くの出入りがあり、ようやく落ち着いて人も少なくなった頃には家には鍵がかかり誰もいなかった。

あまりにも無力な自分が情けなくて涙がこぼれた。俺がどうこう出来たわけじゃない・・・だけど何も言わずにいなくなるなんて。

渡せなかった婚約指輪を握りしめて呆然と由美の家の前に立ち尽くした。

雨が降ってきた・・・身も心も凍るような冷たい雨だった。

君はどうしてる? ちゃんと食べてる? 寒さに凍えてはいないか?

今日はクリスマスイブ 街を歩くカップルは幸せそうで、家の灯りもどこか温かく見える。

クリスチャンでもないのに皆どうしてクリスマスを祝えるんだろう、なに言ってるんだ、俺もそうだったじゃないか(苦笑)

君と初めてキスをした公園のベンチに座った。あの時と同じように雪が振ってきた。

僕には君の声が聞こえる。君の笑顔だって見えるよ。だけど触れようとするとこの雪のように消えてしまった。




「私、クリスマスには絶対ここにくるんだ」

「ここで? なにもない公園だよ(笑)」

「だって、大切な思い出の場所だから、もしもだよ、私と聡がなにかの事情で会えなくなったとしても必ずここに来るの、そうしたらいつかまたきっと会えるから」

「なんかそれって亜子が読んでる少女漫画の話みたいだな」

「あっ バカにしたでしょう~」

「そうじゃないよ、そんなロマンチックなこと言うなんて由美も女の子だなと思って」

「私はいつでも女の子だよ」

「結構男勝りのとこあるからな」

「ひどーい、それを言うなら聡は」

「女々しくて優柔不断・・・」

「自分のことそんな風に言わなくても(^^; 私は好きだよ、聡の優しいとこ、昔お祖母ちゃんが言ってたよ、優しい人は強いんだって」

「強いとは言い難いけど由美を守れるような男になりたいな(照)」

「ありがとう」

「ここは大切な思い出の場所だから俺もクリスマスにはここに来るよ」

「うん」

思い出はキラキラとあまりにも眩しくて・・・


次の年のクリスマスも、その次の年のクリスマスも、その次の年のクリスマスも俺は公園のベンチにいた。

だけど由美は現れなかった。どうか愛する人よ、元気でいてください。

そしてしばらくすると海外赴任の辞令がおり、次のクリスマスはシンガポールで迎えた。                   2章に続く
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1989 愛してる 2章

2015-12-19 19:29:09 | クリスマス小説
「メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
「サトシッ タノシンデル~」
「勿論、メリークリスマス!」

海外赴任に不安はなかった。日本を離れて環境を変えることはいい方向に僕を導いてくれてる気がした。仕事は順調で、仕事もプライベートも楽しんだ。自分を知る人がいないせいか、解放感があって自分を出せたことで仕事は順調で、仕事仲間ともうまくやれた。それと人生初のモテ気がきたようにモテた。最初は由美以外の女を抱くことに抵抗があったけれど、所詮俺も男なんだなと自覚した。異国の地での一人寝はときには淋しくて、女の身体はそんな自分を温めてくれた。

そして数年が経ち日本に帰ることになった。

「サトシ、気をつけて帰ってね」
「うん、ありがとう」
「それだけ?」
「えっ?」
「一緒に日本に来て欲しいっては言ってくれないのね」
「だって君は仕事があるだろ?だからまさか君がそう言うとは思いもしなかった」
「そうね、でもプロポーズされたらちょっとは考えたわよ(笑)、だけど仕事じゃなくて、なによりもサトシの中にいる誰かを消すことが出来ない私じゃ駄目なんだと思ったの」
「そんなこと・・・僕は君のことを」
「愛してくれたよね、私幸せだった。だからさよならじゃなくて有難うって言うね」

そんなふうに3年付き合った恋人と別れた。忘れたつもりだった・・・いや、それは嘘だ。他の女を愛しながらも由美を忘れることは出来なかった。

そして忘れられない人の棲む日本に降り立った。

海外で結果を出した俺は同期で一番の出世頭になった。その肩書きに恥じないように頑張った。同僚からも上司からも一目置かれるようになり、忙しいながらも充実した毎日が続いた。


「お兄ちゃん、なんか変わったね」
「そう?」
「お義兄さんは仕事が順調なんでしょうね。商社でバリバリ働くお義兄さんは僕の憧れです」
「なんか自信満々でさ、私は昔のお兄ちゃんの方が好きだな」
「頑張って仕事しててこの言われようだよ、亜子は相変わらず口が悪いな」
「すみません」
「なんであなたが謝るのよ」
「気の強い妹でこっちがすみませんだよ(笑)」
「もう~」
「ところで話って」
「哲夫さんが急にNY支社に転勤になっちゃって。それでこのマンション買ったばかりで手放したくないし、それでお兄ちゃんに私たちが帰ってくるまで住んでもらえないかなって思って。窓開けたり掃除してもらえれば安く貸すよ」
「こらっまたそんな言い方して、人が住んでいたほうが痛まないと思いますし、迷惑でなかったら考えてもらえないでしょうか」
「いいよ、ここ会社から近くで便利だし」
「ありがとう~お兄ちゃん、あっ氷なくなったから取ってくるね」
「ありがとうございます」
「いえ」
「亜子はお義兄さんが帰ってくるの楽しみにしてたんですよ。それなのに今度は僕たちがNYに行くことになって」
「またこんな風に飲みたかったですが仕方ないですね、亜子のことよろしくお願いします」
「はい!」

漫画家にはなれなかったけどいい人と結婚できてよかったな(微笑)

                                *

「藤井、週末のゴルフ、専務も一緒だから」
「あっ はい」

社長に最も近いと言われる大滝専務、俺なんかでは面識はなく緊張した。


「藤井と言います、よろしくお願いします」

「やあ君が藤井くんか、ふむふむなるほどね」

なるほどってなんだ?

「今日は娘を連れてきた。まだ初心者なんで教えてやってくれないか」

「美鈴と言います。よろしくお願いします」

周りの空気が華やいだ。

「これは聞きしに勝る美人ですな」

「妻に似たんでね、私に似なくてよかったよ(笑)」


専務のお嬢さんと何を話せばいいのかと思ったが、意外に気さくで話易く気がつくと一緒にゴルフを楽しんだ。それから何度か専務のゴルフに同行した。
専務の計らいで二人だけで何度か食事をした。

「藤井君どう思う?美鈴のこと」
「とてもいいお嬢さんで、素晴らしい女性だと思います」
「うむ、美鈴も君のことが気にいったみたいだ。美鈴との結婚を考えて欲しい」
「そんな、私なんかが美鈴さんと結婚とは分不相応な話です」
「美鈴に不満があるのか?」
「いいえ」」
「好きな女がいるのか」
「いません」
「ならいいじゃないか」
「あの・・・専務の家と私の家ではあまりにも」
「家柄が違うとかそんな古臭いこと言うんじゃないよ。私は美鈴が幸せならそれでいい。美鈴が結婚したいというなら祝福するよ。君は我が社の優秀な社員だ。それだけで十分だ」

結婚と言われてもピンとこなかった。30半ばなんだから結婚しても可笑しくはない話だが。


「いい話じゃないか、君は専務という強力な後ろ盾を得ることになる、やりたいことが出来るんだよ。羨ましいよ」
「はぁ」
「君を推薦したのは私だけどね(笑)」
「えっ?」

断る理由が見つからないうちにドンドンと外堀が埋められるように結婚話がまとまっていった。

指輪買わないとな、彼女ダイヤの指輪なんてはいて捨てるほど持ってそうだけど(苦笑) だけど美鈴さんは思いの外喜んでくれた。

「聡さん、幸せにしてくださいね」

はにかみながらそういう彼女はとても愛らしかった。まだお互いに知らない部分が沢山あると思う。だけどそれは徐々に埋められていくんだと思う。

「うん、一緒に幸せになろうな」

「はい!」


よっ玉の輿!と冷やかされたり、嫉妬や羨望の眼差しを感じることも少なくはなかった。俺は今まで以上に仕事に取り組んだ。家は郊外にあった為に仕事で遅くなる日は亜子のマンションで寝泊まりした。専務の用意してくれた家よりここの方がゆっくり出来ると言ったら美鈴に怒られるだろうが。週末には二人で出かけたり一緒に料理を作ったりもした。

「私たちって夫婦というより恋人同士みたいね」
「付き合った期間が短かったからね」
「新鮮で楽しいわ(笑)

美鈴は家庭的でいつも綺麗でよく出来た妻だと思う。家に帰らない日も多いが、そのことで何かを言われたことはない。母親と凄く仲がよく、しょっちゅう母親と旅行や買い物や食事に出かけていたから、私のことは気にしないでお仕事頑張ってねと言っていた。

「まだ子供はできんのかね」
「もう~お父さんたら」
「聡君は随分仕事を頑張っているみたいだが、私としては仕事より早く孫の顔が見たいもんだね」

そう言われると返事に困った。専務の娘婿として恥ずかしくないように仕事で結果を残さなければと頑張っているのに複雑だった。


                                *

「美鈴ちゃんは面食いだったんだね(笑)私の息子ではうんと言わないはずだ」
「やだわ、おじさまったら、正志さんはお兄さんみたいで結婚相手とは考えられなかったんです」
「小さい頃から兄弟のように遊んでいたもんな」

美鈴はどんな子供でしたかとでも聞けば話は広がるだろうに、S銀行の頭取を前に緊張するばかりで殆ど話も出来なかった。

「お父さんもお母さんも早く孫の顔が見たいって言ってたぞ、さぞ可愛い子供が生まれるだろうね」
「子供は授かりものですから(微笑)」

「ここ美味しいでしょう~」
「ああ、うん(緊張していたから味はよくわかんなかった」
「あらっショール忘れたのかしら?」
「取ってくるからこのまま車の中で待ってて」


「向こうのテーブルの椅子にショールが」
「これっエルメスのショールよ」
「S銀行の頭取と一緒にいたお嬢さんが忘れていったんじゃないかな」
「あ~高そうな服着てたよね」
「連れの男性がまたカッコよくて」
「カッコいいんだけど慣れてない感じで」
「よく見てるわね~(笑)」

「すみません、ショールの忘れ物なかったですか?」
「ありますよ、勝倉さん、ショールを」
「はい、こちらでよろしいでしょうか・・・・・」

由美・・・

「ホントいい男だわ~」
「でしょう~。勝倉さん、顔色悪いけど大丈夫?」
「はい、なんでもないです」

まさか・・・こんな所で会うなんて。少し痩せた? 元気そうでよかった。

もう10年が経つがそんなに変わってなかった。 心がざわついた・・・・・酷くざわついた。


                              *

「母と買い物に行ってもいい?」
「ああ」
「ヨーロッパで秋物見るの、知人の家とか、他にいろいろ行きたいところがあって1ヶ月くらい行ってもいいかな」
「うん」

専務というより美鈴の母親が相当な資産家だった。

昨日から喉が渇いて水ばかり飲んでいた。そして妻が出かけることに少しホッとした。何故ほっとするんだと思ったが、どうしようもなく心の中は由美でいっぱいだった。

気がつくと昨日のレストランの入っているホテルに向かっていた。もし偶然会えたなら・・・。いやそんな偶然なんてない方がいいんだ。帰ろう、帰らなきゃ。

「由美・・・・・」

「聡・・・」

「ビックリだね、10年会えなくて昨日と今日2度も会うなんて、少し飲まない?」

そう言って向かった場所は亜子のマンションの近くの大通りを外れた所にあるバーだった。物静かなマスター、センスのいい音楽、落ち着いた雰囲気のお気に入りの店で、誰かと飲んだことはなくいつも一人で飲む店だった。

気になることは沢山あったけれどどう切り出していいのかわからないでいると由美は静かに話し始めた。

「いろんなものを手放したから思ったほどの借金は残らなかったんだけど、それでもやっぱり自己破産したほうが楽だったと思う。でも一代で築いた会社だから諦められなくて会社を再建する為に頑張っていたんだけど無理がたたって父は5年前に亡くなった」

「何も知らなくて・・・」

「それからしばらくして私はある御曹司に見初められたの。何よりも母が喜んでくれた。私は結婚してしばらくすると妊娠した。だけど流産しちゃって、100%ではないけど子供を望むのはもう難しいと言われた。彼の家は名家でどうしても跡継ぎが欲しいと義母に泣かれて離婚したの。彼の家が借金を肩代わりしてくれて楽になったけれど精神的に応えたのは私より母の方で、前からよくはなかった心臓が心労から悪くなってしまって今入院してるの」

どう言えばいいのか話す言葉が見つからなかった。

「聡は結婚したの?」
「ああ」
「相手はあの頭取と仲良しのお嬢さん?」
「逆玉に乗っちゃった」
「意外だね」
「そう?」
「私も人のこと言えないけどね、ねえ私のこと時々は思い出したりしてた?」
「えっ?」
「冗談だよ~(笑)ちょっと飲み過ぎたかな」
「送るよ」
「いいよ」

足元がふらついてバランスを崩した由美を抱きとめた。

「君を思い出さない日なんてなかった」

「ずるいよ、そんなこと言うなんて・・・」

もしもその手に触れてしまったら

もしも唇重ねてしまったら

きっと二度と 戻れはしないなんて わかってた。


「ごめん」
「謝るくらいならこんなことしないで。違うか、こういうのって同罪だよね(苦笑)」
「相変わらず優等生なこと言うんだな、同罪じゃない。僕の方がずっと悪い」
「そっか、じゃあ私帰るね」

精一杯明るく振る舞った。昔から私は嫌になるくらい優等生だ。妊娠したときやっと聡のこと忘れられると思った。だけど駄目だった。

会いたくて、会いたくて、やっと会えた。もういい、これで十分よ。


会いたくて会いたくてもう一度だけ会いたくて・・・毎晩あの店に行った。天地がひっくり返っても君が来ることはないのに(苦笑)


カチャ・・・


「どうして・・・」

それから僕たちは何度も会った。昔の君は少し恥ずかしそうに照れながら僕に抱かれた。僕もそんな君を優しく優しく愛した。

だけど今はあの時と違う、この愛が永遠に続かないならばせめて今だけはと時間を惜しむように互いをむさぼるように愛し合った。

愛してる 愛してる 愛してる だけど君を幸せに出来ない僕は愛してるなんて言っちゃいけないんだと。

だけどせめてこの思いは届いて!

愛してる 愛してる 愛してる 僕の思いを受け止めて君は僕の腕の中で果てていく。


自分で自分がよくわからなかった。気がついたらあの店に行っていた。昔なにかの映画で「考えるより感じろ」と言っていた。今ならその意味がわかる気がする。だけどいつかきっと罰があたるね。それなのに・・・私は自分で思うよりもずっと女だった。


出会いが遅すぎたなんて 安っぽいことは言えないけれど

それ以上どんな言葉なら 答えにたどり着けるのだろうか


君を諦めてしまったのは僕なのに 諦められなくて どうすればいい? どうすれば・・・


人の物を取っちゃ駄目だよ、そんな当たり前のことを教えられたのはずっとずっと昔の幼い頃・・・

取らないから、これが最後だから これが最後だからと またひとつ夜を重ねていくごとに 罪は深く 愛はもっと深く 私はあなたの腕の中で溺れる


もう何処へも行かないでと僕は君の腕を掴む 君を強く抱きしめ 深く口づける

こんな不毛の愛はいつか終わるのだとしても 強く惹かれ彷徨うこの思いは 消せない 


だけどある日を境に君は姿を消した。どうして君はいつも突然いなくなるんだ そしてどうしていつも僕はこうなんだ。 後悔と自責の念で押しつぶされそうだった。 あの時と同じように・・・ ただあの時と違うのは僕には妻がいたことだった。


                                  *

「ただいま~」
「お帰り」
「いい結婚式だったわ。初恋同士なんですって、上手くいかないから初恋なんだと思ってた。余程太い赤い糸が繋がってたのかしら。ねえ、聡の初恋は?」
「高校のときだよ」
「私は近所の幼馴染が初恋だったの、友達が言うにはあの子のどこがいいのって言われたけどね。優しくて笑うと聡に似てた」
「えっ?」
「聡みたいな二枚目じゃないけど、笑うとくしゃってなって、目尻に皺が出来て少年みたいに笑うの。こんなふうに笑う人に悪い人はいないって思って、お父様にこの人がいいってお願いしたの」

悪い人はいないという言葉に胸がチクチクした。

「初めて聞いたよ、そんな話」
「そりゃあ初めて話したもの。ねえ、私子供が欲しい」
「うん」

そうだ、子供がいれば僕たちはもっと夫婦になれる。家族になれる。だが2年が過ぎても美鈴は妊娠しなかった。


「お母さん、退院してから体調があまりよくなくて軽井沢の別荘で療養することになったの、しばらくお母さんに付き添いたいんだけど行ってもいいかしら」
「うん、お義母さん、早く元気になるといいね」

前から温めていたプロジェクトを実現させる為にももう少し仕事に時間を割きたいと思っていたところだったので丁度よかった。専務に子供のことばかり聞かれるのは気が重いが仕方ない(苦笑)


そして瞬く間に三ヵ月が経った。

「専務、お話というのは?」
「聡くん、すまない」
「えっ何がですか? とにかく頭を上げてください」
「美鈴と別れて欲しい」
「えっ?」
「実は美鈴が妊娠した。父親が君でないのはわかるね」

この3ヶ月、美鈴は軽井沢から帰ってこなかった。

「なんでも幼馴染の初恋の彼と再会したらしい、君にとっては寝耳に水な話だろうが、私は美鈴が可愛い、産まれてくる孫の顔も見たい。悪いようにはしないからなにも言わずに美鈴と別れて欲しい」

なにも言える訳がなかった。先に妻を裏切ったのは僕なのだから。

「会社は病気療養の為に休職ということにした。君の私物は後日送るから会社には顔を出さないで欲しい」
「ちょっと待ってください、私が立ちあげたプロジェクトはどうなるんですか!? 1週間後には第1回の会議が開かれる段取りになっているんです」
「ああ、あれね」

ああ、あれって・・・

「悪くはないけどね、うん、私がOKを出したんだからまずまずの企画だと思うよ。確かに君は優秀だが、君の他にも我が社には沢山の優秀な社員がいて毎日沢山の企画が上がってくる。その中で私がOKを出したのは君が美鈴の婿だからだ」
「・・・」
「しかしなんだな、美鈴の妊娠の話より、仕事の話の方が取り乱すんだな。なにかやましいことでもあるのかな? まあ私のような男でも一つや二つ妻に話せないことはあるからね、君のような色男ならあっても不思議じゃない。そのことについてとやかく言うつもりはない、後で弁護士をよこすから細かい話は弁護士としたまえ。慰謝料もきっちり払わせてもらう。ただもう二度と私と美鈴の前に顔を見せないで欲しい。大事な身体だからいい精神状態で子供を産んで欲しいからね」

口座には多額の金額が振り込まれていた。口止め料か・・・

会社での俺の扱いは一体どうなっているのか、「病気早く治せよ」というメールが3通きただけでそれっきりだった。なにもかも失くした。あるのは金だけだ。

会社も仕事も好きだった。懸命にやってきた15年が泡のように消えた気がした。

美鈴、僕たちはお互いに忘れられない人がいたんだね。でも僕たちは結構いい夫婦だったよね、楽しかったよ、君との結婚生活は。良かったな、思いが成就して子供まで授かって、幸せになれよ。心からそう思っている。だがどうしようもない喪失感が襲った。

ある日久しぶりに携帯が鳴った。

「わかったよ、明日行くから」

両親は前から退職したら田舎に帰ると言っていた。故郷で余生を過ごしたいらしい。その思いがあったから家はずっと借家だった。家を明け渡すから大事なものが部屋にないか一度見て欲しいと言われていた。勝手に処分すればいいんだが離婚のことを話さなきゃいけない。

「どうして!?」

「性格の不一致ってやつかな、やっぱり美鈴とはいろいろ違い過ぎて段々上手くいかなくなったんだ」

つとめて明るく話した。

「仕事はどうするんだ、居づらいんじゃないのか?」
「うん、仕事は止めた」
「あんなに一生懸命やっていたのに」
「誘ってくれる会社もあるし、一緒に起業しないかっていう友達もいるし、まあ少し休んでゆっくり考えるよ。結構貯金もあるしね」

事実なのは貯金があるということだけだ。

「そう・・・」
「だから俺のことは心配しないで、落ち着いたらそっち(田舎)にも行くから」
「今日、ご飯食べてくでしょ」
「今日飲みにいく約束があるから」

そんな友人などいない。ただ親の前でこれ以上笑顔を見せるのはきつかった。俺ってホント友達いないよな(苦笑)唯一の親友の寺井は海外だし、亜子はアメリカだし、まあ妹に泣き言は言えないけどな。亜子だったら「お兄ちゃん、なんか隠してるでしょっ」て見破られそうだが。話す相手がいないってしんどい。

俺の部屋に大切なものなんてあっただろうか?ふと机の引き出しを開けて驚いた。あのとき渡せなかった指輪が箱に入ったままそこにあった。小さな箱には色褪せたリボン。閉じ込めていた思いが溢れ出た。

駅に向かって歩いていると雨が酷く降ってきた。あの頃なら濡れながら走って帰っただろうが今はもうそんな若さはなくタクシーを呼びとめた。窓の外を流れるのは懐かしい風景、キラキラと輝いていた記憶。

由美? タクシーの右に来た青い車に乗っていたのは由美!?

「すみません、右折してください」

「お客さん、今からじゃ無理ですよ」

「そうですね、すみません」

人違いかも知れない、だけど俺には由美にしか見えなかった。

「着きましたよ」


もうこの街に帰ってくることはないだろう。

この街を離れてからもう10年になるだろうか? 多分僕を知っている人はいない。この街に限らず僕を知る人は殆どいない。

誰に忘れられてもかまわない。だけど君だけは 君の心の片隅にほんの少しでいいから僕がいて欲しい。

それは僕の我儘だろうか。 それを望んだらまた僕は罰が当たりますか。。。


                                                       3章に続く

川村結花作詞 「愛してる」の歌詞を一部引用させて頂きました。

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1989 愛してる 3章

2015-12-19 19:28:50 | クリスマス小説
パチンコって便利だな、朝から晩まで時間を潰せて、1日やってると特に儲かりもしないけど損もしないことがわかった。夜は飲まないと眠れなくなっていた。日増しに酒の量が増えていく。

街が賑わっていると思ったら今日はクリスマスか。もう二度とあの街に帰ることはないと思っていたのに気がつくと公演のベンチに座っていた。

「私、クリスマスには絶対にここに来るんだ」

笑って聞いていたけれど、あれから何度もここに来た。君も来ただろうか? 

「ワインて飲みやすいけど、結構くるね」
「うん、ビールなんかより余程アルコール度数が高いからね」
「2本目開けなきゃよかったな」
「だな」

乾いた喉を潤す為にワイン飲んでるなんて、どこか可笑しいのかも知れない(苦笑)

高校生くらいのカップルが怪訝そうにこっちを見ている。そりゃそうだ、こんな時間にワインをラッパ飲みしてる髭面のおっさんじゃ白い眼で見られて当然だ。

俺にもあったな・・・あんな頃が。ただ話すだけで一緒に帰るだけで楽しくて、ドキドキしながら手を繋いだり、将来の夢なんか語ったりして世界がとても綺麗に見えた。どこでどう間違ったんだろう? 若くはないが老いてはいない。まだやり直せるじゃないか、それなのに俺はなにやってんだろう。

妙に寒気がした。ワインをもう1本開けて一気に飲み干した。 まずい・・・息が出来ない。どうなってんだ? わからないままに意識が遠のいていく。


「藤井さん!しっかり!眼を開けてください!」

「亜子?」

「よかった・・・・・今、先生呼んできますね」


「急性アルコール中毒です。たまたま看護師の高居さんが公園を通りかかって命拾いしましたね。相当不摂生な生活をしていたみたいですね、軽い肝硬変になってます。入院してください。今ならほんの初期なんでしっかり治療すればちゃんと治りますから」

「はい、よろしくお願いします」

ようやく眼が醒めた気がした。今まで病気らしい病気は殆どしたことがなく健康に産んでくれた親に感謝していた。もしこんなことで命を落としていたら最大の親不孝をするところだった。だが夜になると寝付けなく酷く喉が渇いた。おぞましいほどに身体が酒を欲していた。病院に酒なんてある訳がない。近くにコンビニなかったかな・・・。


「藤井さん、何処行くんですか? まだコンビニまで歩いて行ける体力ないですよ」
「看護師さん・・・」
「お酒でも飲まなきゃどうにもならないことがあるというのはわかります。私の兄がそうでした。大分お酒に依存してたみたいで、私は勉強が忙しくてそのことを知らないままで、ある日無茶な飲み方して急性アルコール中毒で命を落としました。そんな兄が許せなかったし、兄の異変に気付かなかった自分も許せませんでした」
「看護師さんは僕の妹に似てます。思いっきり妹に怒られてる気分になりました、妹がここにいたらひっぱ叩かれていますね(微笑)」
「看護師として患者さんをひっぱ叩く訳にはいきませんよ」
「またフラフラしてたら怒ってください」
「先生に話して睡眠剤を処方してもらいましょう。夜さえちゃんと寝れれば、昼は人の眼が沢山ありますからね、一番大事なのは絶対にもう飲まないという強い意志です」
「はい」

簡単ではなかったがようやくなんとか酒から離れることが出来た。 ん?これなんだろ・・・折り紙かな。

「あれ~どこにおとしたのかな」
「これを探しているのかな?」
「うん、ありがとう~おじちゃん」
「これって鶴を折るのかな」
「うん、でもうまくできないの」
「じゃあ、おじちゃんが折ってあげようか」
「うん!」
「はい」
「わーおじちゃん、じょうずだね、まなみもつるおりたいな、おじちゃん、おしえて」
「いいよ(微笑)」

こうして小さな可愛らしい少女に折り紙を教えることになった。昔寺井に付き合わされたボランティアで覚えた折り紙が役にたった。

「ママにつるみせたらすごーいってわらったよ」
「そっか、よかったな。まなみちゃんはママが大好きなんだね」
「うん、ママはきれいでやさしいんだよ、いちばんすきなのはママのわらったかお」
「じゃあ、もっとママが笑うように新しい折り紙覚えようか」
「うん!」

俺はすっかりこの少女と仲良くなった。だがいつものように病室に行くと面会謝絶の札がかかっていた。

「あの看護師さん、愛実ちゃんは難しい病気なんでしょうか?」

「そうね、でも大きくなったら手術を受けられるから愛実ちゃんも、愛実ちゃんのお母さんも頑張っていらっしゃるのよ」

病院にはいろんな人がいた。今更ながらこの1年の自分の怠惰な生活を悔やんだ。ちゃんとしなきゃな。

ある日同室の里中さんが遺産相続で親戚がもめていて困るということを話していて、アドバイスというほどのものではないけれど、知っていることを少し助言した。

「そっか~藤井さんてもしかして弁護士さん?」
「まさかとんでもないです。大学が法学部だけだっただけです。それに今は無職です(苦笑)」
「藤井さんは賢そうな顔してるもんな」
「T大の法学部とか」
「えっ・・・」
「マジっすか~俺、大学なんてそこしかシラネーから適当に言ったのに」
「頭いい人って偉そうな人が多いのに藤井さんは頭が低いからね」
「藤井さんみたいな人が弁護士なら話易いのにな」
「そうそう弁護士ってなんか敷居が高くてね」
「藤井さん、今無職なんだろ、今からでも弁護士になればいいのに」

弱気を助け強気をくじく、そんな弁護士になりたかったのを思い出していた。あの頃の自分が弁護士になるのは無理があると思っていた。だけど今なら、人の心に寄り添える、そんな弁護士になれるかも知れない。だけどもう長いこと六法全書なんて読んでないし、今から死に物狂いで勉強したとして司法試験に受かるとは思えない。それでも俺はなにかを始めなきゃと思った。やらずに諦めるのはもう止めよう。

                 
                             *

今年のクリスマスも公園のベンチで迎えた。なんだかここに来ると気持ちが安らいだ。

君は元気でいますか? 幸せですか? ・・・いや、人はそう簡単に幸せにはなれないよな、ただ健康で元気でいてください。

俺はと言えばやっと司法試験予備試験に合格したよ。次は司法試験だ、ただ司法試験予備試験に受かるのに3年かかったから司法試験となると5年は覚悟しなきゃいけないかも(苦笑)。5年以内に合格しないと後がないんだけどな。

だが次の年俺は司法試験に合格した。信じられなかった、山が大当たりに当たったのもあるが、ようやく神様に頑張りを認められてる気がした。そう思えるほど奇跡としか言いようがない合格だった。司法修習を受け、修習後に行われる考試に合格した後、弁護士会に登録されれば晴れて弁護士だ。周りは殆ど俺より若かったが、なりふり構わず喰らいついて必死だった。


「寺井! 久しぶりだな」
「藤井~会いたかったよ~」
「俺もだよ(笑)」
「ん?もしかしてそれって弁護士バッチじゃないのか?」
「うん(微笑)」
「専務のご令嬢と結婚したんじゃなかったのか? なにがどうしてそうなったんだ?、聞かせてくれよ~」
「うん、今夜は飲み明かそうぜ」

「頑張ったな~おまえ頑張ったんだな~」
「寺井も凄いよ、海外留学を経てW大の準教授だもんな、本なんかも出しててな。まっしぐらだもんな、おまえの道は。俺なんて曲がりくねった人生だよ」
「生きてきた証だよ、次は綺麗な花を咲かせようぜっ」
「俺はもうそっちはいいよ」
「なんでだよ、なんかおまえ40過ぎて益々いい男になってきたじゃん、そっちはいいよとか勿体ないぜ」」
「おまえこそまだ一度も結婚してないんだろ、一度くらい結婚しろよ」
「はは、そうだったな(笑)」

楽しかった。またこんなふうに笑える日がくるなんて(微笑)


クリスマス、仕事帰りに一緒に淋しく男飯でもしようと約束してた寺井にドタキャンされた。彼女でもできたかな(笑)という訳で久しぶりに公園のベンチでクリスマスを迎えた。ん? あれは病院じゃないか、そっか隣のビルがなくなったから病院が見えるのか。意外とここから近かったんだな。亜子によく似た看護師さんはもういないだろうか? 愛実ちゃんは?愛実ちゃんは病院なんかにいないほうがいいよな、元気になって退院していて欲しい。懐かしさついでで病院の近くまで行ってみた。

「もしかして藤井さんですか?」
「看護師さん! お久しぶりです」
「あの~もしかしてそのバッチって弁護士バッチじゃないですか?」
「ええ、まあ」
「前に同室の患者さんたちが昔そんな話をしていましたが本当になられたんですね弁護士に、素晴らしいです」
「看護師さんこそ、その指輪・・・結婚なされたんですね」
「ええ」
「おめでとうございます。どうりで綺麗になった筈だ」
「あら、その言い方だと昔は綺麗じゃなかったみたいな言い方で」
「なんかキャラも変わりましたね(笑)」
「藤井さんこそ(笑)」
「これから仕事ですか」
「はい」

「ママ!」
「愛実ちゃん」
「なんだ、看護師さんか」
「ごめんね~ママじゃなくて、ママもう直ぐ来るだろうから中に入って待っていようね、外は寒いよ」
「うん」
「愛実ちゃん?」
「おじちゃん、誰?」
「えーと・・・愛実ちゃんは今も折り紙好き?」
「うん好きだよ、あー折り紙のおじちゃんだ~」
「思い出してくれたんだ、ありがとう!」
「おじちゃん、お髭がないからわかんなかったよ」
「そっか(笑)」


「愛実、遅くなってごめんね~」

「ママ!」

「由美・・・・・」


                                 *

「そのバッチ・・・弁護士になったの?」

「離婚して会社クビになって、アル中になって死にそうなところをさっきの看護師さんに助けてもらって、病気と闘う人や、小さな体でいつも笑顔で元気に頑張っている愛実ちゃんを見て、俺もちゃんと生きなきゃいけないと思って一大決心して死に物狂いで勉強して目出度く弁護士になりました。」

「そうだったんだ」

「弁護士と言ってもまだ新米のペーペーで先輩に付いて周って勉強させてもらってるんだけど、その先輩は年下、でクライアントはまず俺の顔を見て頭を下げるんだ。早く外見に中身が追い付かないとなって先輩に言われてる(苦笑)」

「バリバリの敏腕弁護士に見えるもんね(笑)」

「君はどうしてた? あの子は?」

「あの頃・・・いつものように病院に行くと母の容態が急変して、あっという間だった。まさかこんなに早く亡くなるなんて罰が当たったんだと思った。それからしばらくして妊娠していることに気付いた。流産したときに可能性は0ではないけど限りなく0に近いと言われていたから信じられなかった。母の手術代や入院の支払いに葬式を出したらもうすっからかんで、お金もない、母もいない、頼る人もいないでどうしようかと途方に暮れた。ううん、なにもしなくてもあの時と同じようにまた流産するだろうから病院にも行かずにそれを待とうと思ったの(苦笑) そんなある日のこと母の遺品を整理してたらタンスの奥から保険の証書が出てきたの、既に支払いの終わっている300万円の終身保険で受け取りは私になっていた。産みなさい、ちゃんと産んで育てるのよという母の声が聞こえた気がした。あの時も母は誰よりも子供が生まれるのを楽しみにしてたんだった。そして妊娠の報告に母の墓参りに行くと叔母に会ったの。叔父の看病でなにも出来なかったのを後悔していて私を頼って欲しいと言ってくれた。叔父はもう亡くなっていて、それで叔母の家に世話になることになったの。そして私は無事に赤ちゃんを産んだ。生まれてきた子はとても可愛い女の子で愛が実るようにと愛実と名付けたの。だけど愛実は生まれながらに心臓に病気をもっていて、大きくなったら手術をするということで殆ど病院暮らし。でも明るくて元気な子で、私は愛実の手術代を作る為に必死で働いてきた。でも全然苦じゃないの、どんなに疲れていてもあの子の笑顔を見れば元気になれるもの。折り紙のおじちゃんて聡のことだったのね、愛実は折り紙のおじちゃんが好きでよく話してくれたわ(微笑)」

「由美、愛実を生んでくれてありがとう。あんないい子に育ててくれてありがとう」

「もう~聡ったら泣き過ぎ、鼻水まで出して二枚目が台無しよ(笑)」

「僕はなにも出来なくて、なにもしてこなくてすまない、本当にすまない」

「あなたも私も苦しんだ。私たちは間違っていたんだと思う。でも私とあなたが心から愛し合って授かったのが愛実だから、いつか愛実が大人になったときにちゃんと話そうと思う」

「うん、それがいい」

「俺は折り紙のおじちゃんとして、愛実ちゃんのママを好きになったからプロポーズしたんだ、だから愛実ちゃんのパパになってもいいかなって言うよ」

「あらっ プロポーズしてくれるの?」

「あっしまった・・・」

「いつも私の方から言うんだもんね、映画誘ったのも私だし(笑)」

「一生言われるな(笑) もしもう一度君に会えたならプロポーズしようと思ってこの指輪いつも持ち歩いていた。実家の俺の部屋の机の引き出しに入っていたんだ・・・17年前に渡せなかった指輪が」

「17年前というとあの時・・・」

「勝倉由美さん、僕と結婚してください」

両方の頬を流れる綺麗な涙・・・

「はい」

君は泣きながら笑顔で頷いた。

「あっ 雪」

「あのときと同じだね、ホワイトクリスマス」

「雪が振ってきたのに全然寒くなくて」

「雪ってあったかいなって、そんな訳ないのに(笑)」

「それはあのとき聡が・・・」

「キスしたから、こんな風に(微笑)初めてのキスだから緊張してドキドキして、だからなんだか身体がほてってほてって」

「温かかったね(微笑)」

「由美・・・愛してる」

「愛してるなんて初めて聞いた」

「ほらっ昔、亜子が簡単に愛してるなんて言う男信用出来ないって言ったろ、だからなかなか言えなくてプロポーズしたら言おうって思ってたら、プロポーズできなくてそれで17年もかかっちゃった」

「17年越しの愛してるなんだ」

「うん」

「嬉しい、凄く嬉しい」

今度は君の方からキスをしてきた。少し背伸びして(微笑)

「何度でも言うよ、愛してる、愛してる、愛してる」

「私も~ 愛してる、愛してる、愛してる!」


雪が降る・・・

真っ白い雪は・・・哀しみを、苦しみを、過ちを全てを覆い尽くしていく。

だけどそれらを忘れてはいけないんだと。そして新しい明日を僕たちは生きていく。                       


                       完


                  ・・・エピローグ・・・


「あー美味しかった、ママの作る玉子焼きは絶品だね。食後の運動にジョンと遊んでくるね」

「ああ」

「高校生になっても一緒に花見に来てくれるなんて嬉しいけど友達がいないわけじゃないよな?」

「明日は友達と遊園地に行くって言ってたわよ」

「そっか、早いな~もう高校生か、4年前に手術の成功率が五分五分と聞かされたときはどうしようかと思ったけど、手術したからあんなに元気に走れるんだもんな。俺はもしものことを考えると怖くて手術しなくていいと思ったんだけど、君が愛実なら大丈夫って言ったんだよな、君は昔から強いよな。愛実もそんな君に似て強いから病気に勝って元気になったんだな」

「あのとき」

「えっ?」

「愛実が手術室に入った途端、今までめそめそしてたあなたが叫んだでしょ、愛実!負けるな!生きろ!生きて必ずママとパパのところに戻ってこい!て叫んだでしょ、とても大きな声で力強く。愛実にも聞こえてたんですって。それで絶対生きてやるって思ったそうよ。手術の後身体きつくて忘れていたんだけど、こないだあなたの大きな声聞いて思い出したって言ってたわ」

「大きな声って?」

「ジョン、それは食べるな! 賞味期限過ぎてるって(笑)」

「ああ、あれか~」

「あなたも強いわよ、泣き虫だけどね(笑)私お手洗い行ってくるね」


「あー喉乾いた~ママは?」

「トイレ」

「私の本当のパパってパパなんでしょ?」

「えっ?」

「私が大人になったら本当のこと話そうと思っているんだろうけど、私もう16だよ、別に20才まで待たなくていいから。それにママとパパが愛し合って私が生まれた。それでいいじゃん、それが一番大事なんだから。ジョンもう1回、行こうか」

「ワン!」

「パパも一緒に行こうよ!」

「よーしっ」


季節は巡ると言うけど僕は後何度
満開に咲き誇れる桜を見れるのだろう

時よ止まって なんて叶わないって知ってる
だけどもう少しこのままでいたいよ
繋いだこの手 いつか離れてゆくよ
ありふれた日々が ただ愛しくて                                   end


藤木直人作詞 utakata の歌詞を一部引用させて頂きました。

最後まで読んで頂きありがとうございます。楽しんで頂けたなら幸いです。一言でも感想頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします。

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愛しき時代へ・前編(半兵衛さんホタヒカコラボ企画です)

2014-12-24 20:00:24 | クリスマス小説
「明日から香港に出張って随分と急な話ですね」

「ああ本当は専務が行くはずだったんだが昨夜盲腸になってな」

「あら大変。」

「クリスマスには帰ってくるから、ちゃんと戸締まりしてなんかあったらすぐに病院に行くんだぞ」

「はーい、でも今はバリバリ安定期だから大丈夫ですよ」

「油断禁物!」

「はい、気をつけます。行ってらっしゃーい。」



「戸締まりしたし、お腹空いたな〜ぶちょおの作ってくれたカレー食べよ。野菜多めの香辛料少なめの妊婦に優しいカレーを」

ドスン

「ん?にゃんこかな~」


ここはどこだ? 見慣れぬ屋敷だ。 私は何故いつこんな所にきたのだ・・・・・


「ぶちょお? どうしたんですか~出張行ったんじゃないですか。ハロウィンでもあるまいしなんでお侍さんの格好して庭にいるんですか?」

「それがしぶちょおと言う名ではござらん。姓は竹中、名は半兵衛と申す。誠に恥じることではあるが、何故そなたの庭にいるのかわからぬ。あっいや勝手にそなたの庭に入ったことまずは詫びたい。だがそれがし決して怪しいものではござらぬ。直ちにここを失礼するゆえお許しくだされ」

「あの〜近くでドラマの撮影してるわけじゃないですよね?」

「はっ? 」

「前にテレビで江戸時代のおさむらいさんが現代にタイムスリップしてお菓子を作るっていう映画をやっていたんです。もしかしてそれなのかな?」

「たいむすりっぷ?」

「多分お侍さん、はんべーさんは江戸時代からタイムスリップ、つまり時間を飛び越えて現代に来てしまったんじゃないかと思うんですよ」

「どれだけの書物を読もうとも、さようなことを書き記したものは読んだことがない」

「私もタイムスリップっていうのは映画やドラマや小説や空想の世界の話しだと思っていたからビックリです」

「そなたの言う現代というのは、私から見るとずっとずっと先の何十年、若しくは何百年も先の時代ということであろうか」

「ピンポーン、はんべーさんて頭いいですね。だってこんな話し、普通にわかには信じられないですよ」

学習能力の高いはんべーさんです。

「ひとつ聞きたい、そなたの言っていた江戸時代というのはどういう時代なのだ。」

「徳川家康が江戸幕府を開いてからが江戸時代なんです」

なんとあの家康殿が天下を納めたというのか!? ならばならば信長様はどうされたというのだ・・・・・

「どうかしました? 顔色が悪いですよ」

「ならば今は江戸時代なのか」

「いーえ、江戸幕府は確か300年くらいでなくなって、それから明治大正昭和ときて今は平成といいます」

それでは私のいた時代は江戸時代の少し前ということになるのであろうか。

「邪魔をした、失礼する」

「えーどこに行くんですか? そんな刀射してうろうろしてたら捕まりますよ」

「なんと刀を持っているだけで?」

「今は武士はいませんし、戦争・・・戦のない平和な世の中なんです」

本当にくるのだな。 戦のない平和な世が・・・

「世界を見ると戦争してる国もまだあるんですが、日本も沢山の戦争を経て今の平和があるんです。ぶちょおなら詳しく分かりやすく話してくれるんだけど私は歴史が苦手なんですよね。ぶちょおは歴史が大好きで特に戦国時代が好きだそうです。織田信長や豊臣秀吉がいたから徳川家康は天下をとれたそうですよ。詳しくは知らないけど私も名前くらいは知ってる戦国時代の有名人です。はんべーさん知ってます?」

「多少は・・・・・」

「わぁーぶちょおが聞いたら喜びますよ~とりあえずぶちょおが帰ってくるまでここにいてください。私じゃ頼りになりませんがぶちょなら力になってくれると思います。今仕事で香港に行っているんですが3日後のクリスマスイブには帰ってきますから」

「ぶちょおと言うのは?」

「私の旦那様です。私とぶちょおは夫婦、えーと昔で言うとめおとなんです。で、そのぶちょおがはんべーさんと同じ顔をしているからぶちょおかと思ったんです。
あっ写真見ます?


この女人の話し方、信長さまに似ておられる。

「ほら~そっくりでしょ。もしかするとはんべーさんはぶちょおのご先祖さまかも知れませんよ(笑)」

「ふむ」

「あーお腹空いた、はんべーさんも一緒にご飯食べましょうよ」

「かような迷惑までかけられぬ」

ぐー

「失礼した・・・・・」

「ぶちょおの作ったカレーライス美味しいんですよ」

かれーらいすとはなんぞ?・・・・・

「私になにか手伝うことがあれば」

「じゃあ、カレー温めてください」

「薪はどこにあるのだ?」

「そっか、昔は薪で火をおこしたんですね。今はガスといってここをひねって、このボタン・つまみをこう回すと、ほらっ」

「なんと! かように簡単に火がつくとは・・・・・」

ジャー

「それは?」

「水道です。このレバーを上げると水が出るんです」

現代とはなんと便利なことよ。それにしてもこのかれーというのはなにやら腹をくだしたときのあれに似ておるのだが(^^; しかしよい香りではある。
見た目はともかく美味いのだろうか?

「いっただきまーす、うん美味しい~! はんべーさんも食べてくださいよ」

「(おそるおそる)美味い、美味いではないか」

「でしょう~。ぶちょおは料理が得意なんですよ、料理だけじゃなくって洗濯も掃除も家事全般得意なんです」

「それは感心だ、そなたの名前を聞くのを忘れていたが名はなんというのだろう」

「蛍です」

「あの蛍か、良い名じゃ」

「褒めてくれてありがとう~はんべーさん。ごちそうさまでした」

「見れば蛍殿は身重の様子、私が片づけたいと思う」

「一緒に片づけましょう~。このスポンジに洗剤を少しつけて洗うんですよ」

「ほぉ~ これは綺麗になって気持ちがいいな(微笑)」

「はんべーさん、笑うとますますぶちょおに似てます。ぶちょおもはんべーさんも笑顔が素敵です」

「あっ・・・いや(照)」


「はんべーさん、お風呂は? 先に入ります?」

「滅相もない! 蛍殿は何故素性もよくわからぬ私にかように心を砕いてくださるのだ」

「はんべーさんは怪しい者じゃないんでしょ、さっきそう言ってましたよね」

「いかにも、なれどそのように私の言葉を簡単に信じて家に上げてぶちょお殿に怒られぬのか?」

「だって~ぶちょおと同じ顔なんですもん。この手の顔に悪い人はいませんて。それにはんべーさんはとても綺麗な眼をしていて、これもぶちょおと同じなんですけどね」

「かように申して頂けるとは有難き幸せ、それがし何も出来ませぬが剣の腕にはいささか自信がありますゆえ、ぶちょお殿が留守の折、それがしが蛍殿をお守りいたします」

「ありがとう~そこの押し入れに布団が入っていますから眠くなったら布団ひいて寝てくださいね。こたつで寝ると温かいですよ」

「戦場においては外で寝ることもしばしばあるゆえ、畳一枚あるだけで十分です」

「そうですか~(^^;」


ホントだ~座って寝てる。物音でも立てたら曲者!って刀を抜かれそう(笑) でも不思議なことってあるもんだな~ぶちょおにメールしようかな。まっいっか~。



                                    *


「あっはんべーさん、おはようございます」

「蛍殿、おはようございます(と言うのだな)」

「夢かと思ったら夢じゃなかったんですね」

「眼が覚めたら元の時代に戻っているかと思ったのだが・・・・・・・」

「まあまあ落ち込まないでご飯食べましょ、あっご飯じゃなくてパンだけど」

「ぱん?」

「コーヒーどうぞ」

なんだこの黒い液体は? 墨というか泥水というか(^^;

「コーヒーなんて知らないですよね」

どんな反応するのかな~ ←面白がってます。

「苦い・・・苦いけどなにやら深みのある味でよいではないか」

「コーヒーの味がわかるんだ~」

「ぱんというのも悪くない」

とりたてて美味しくもないということか(^^;

「えーと今日の天気予報は」

「東京の午前中は曇りのち晴れ・・・」

「まさか、この黒い箱の中に人が入っておるのか!?」

「テレビっていうんですよ。人が入っているんじゃなくてカメラで撮って映像で流すんです」

うーん、わからぬ。なにをどう学べばこれが理解できるのであろうか。

「私今から仕事に行きますから暇だったらTVでも見ててください。これがスイッチで、これでチャンネルを選んで」

「身重の身体で仕事をせねばならぬほど生活は困窮しているのか? ぶちょお殿の働きはそんなに悪いのか・・・あっいや 失礼なことを」

「いーえ、ぶちょおは仕事の出来る男です。私は仕事が好きなんです」

「仕事が好き?」

「はい、今の時代は自分で仕事が選べて、頑張ればどんな仕事もできるんです。仕事によってはどんなに頑張っても出来ない職業もありますが、多分はんべーさんの時代と比べてそこは自由でいいところだと思います」

「うむ、それは良きことだな」

「でしょう~。あっお昼どうします? 確か冷蔵庫に冷凍の炒飯があったと思うんですけど」

「昼は食べぬゆえ」

「そういえば昔の人は一日二食だったって聞いたことがあるような。私には無理な話です(^^; でももし小腹が空いたらバナナでも食べてください」

「ばなな?」

「これですよ、こうやって皮をむいて食べるんです。バナナは栄養価が高いし便秘にもいいし一日一本食べてます。じゃあ行ってきまーす」

「お気をつけて」

「はーい」


(回想)

「半兵衛、書物ばかり読んでないで剣の稽古にも励むのですよ」

「はい、母上」

もっと多くのことを知りたい、いろんな所に行ってより深く学びたいと思っていた。だが武家に生まれたからには武士として主君に仕えることが己の定められた道だと、そのことに何の疑いも持たなかった。 各々が自由に生きられるなのが現代なのだな。


「世界旅紀行」←TV番組の名前です。

日本しか知らなんだが、世界にはいろんな国があっていろんな人間がいるのだな。

歌番組・・・若き女人が短い布一枚で足を出して踊るとは、なんと慎みのない、嘆かわしいことよ。

「やるなら今! 為になる年末の大掃除特集!」

ふむふむふむ・・・



「ただいまー」

「お帰りなさいませ」

「今夜はすき焼きですよ~ ん?なんか家の中がピッカピカなんですけど」

「TVとやらで為になる掃除のやりかたを教えてくれたのでやってみたのだ」←学習能力の高い半兵衛さんです。

「すごーい、台所もトイレも風呂場も、換気扇までピッカピカじゃないですか!ありがとうございます。嬉し過ぎて涙が出ます」

「それほど喜んでもらえるとは思わなかったが」

「ぶちょおは綺麗好きなのに私は掃除が苦手で、家の中が正月前にこんなに綺麗になってぶちょおも大喜びですよ。私が掃除したんじゃないですけど(^^;」

「蛍殿が掃除したことにすればよいではないか」

「えっ? だって嘘はいけませんよ」

「よいではないか、蛍殿が掃除したと思うほうがぶちょお殿も喜ぶであろう」

「そうですか、こういう嘘ならいいかな~。ありがとう~はんべーさん」

「ばななというのを一つ食したのだが実に美味かった(笑顔)」

「それはよかったです。直ぐにすき焼きの支度しますね」

手慣れた様子で蛍を手伝う半兵衛さん。料理番組も見ていたようです(^^;

「なにもせずにかように美味いものばかり食べていると罰が当たりそうだ」

「なにを言うんですか!これだけの掃除をプロに頼んだら何万円てするんですよ、バナナやすき焼きなんて安いもんです」

「そうか、それを聞いて安堵した」

「掃除して汗かいたでしょ、今日はお風呂に入ってちゃんとお布団で寝てくださいね」

「では、そうさせて頂く」 断ったら怒られそうだ(^^;

「着物で寝るのも窮屈でしょうからお風呂からあがったらこれに着替えてくださいね。これスエットスーツっていうんですけどぶちょおはこういうだらっとした格好は好きじゃなくて折角買ったのに全然着ないんですよ」

「では有難く着させて頂く」


蛇口をひねるだけでお湯が出るとは実に有難い。


「あっ下着も出したほうがよかったかな~でもはんべーさんはお〇んつはかないよね(^^; てことはあれっ・・・ふんどしってやつなのかな~いやーん、恥ずかしいぃぃっ。はっ 私ったら夫のある身でこんな妄想するなんて・・・ごめんなさいぶちょお。でもぶちょおだって綺麗な女の人見るとチラッと見るよね~私知ってるもん。私だっていい男見たらちょっとウキウキすることがあってもいいと思う。はっ ぶちょおとはんべーさんは殆ど同じ顔だ(^^;

                                        *

「おはようございます・・・てもうお昼に近いですね(^^;」

「おはようございます蛍殿、よくお休みになられてなによりです。TVで美味しい朝ご飯をいうのをやっていたので作ってみました」

「すごーい、美味しそう~いただきまーす! うん美味しい~」

「それはよかった(笑顔)」

「はんべーさん、TV気にいりました?」

「便利なものだな、家にいながらにしていろんなことを学べるし教えてもらえる。TVの中の人が実際にやっているから実にわかりやすい」

「はんべーさんは学習能力が高いんですね、私は見るだけで終わっちゃいます。あっそーだ、お昼から買い物に行きませんか?」

「買い物?」

「家の中にばかりいるのもなんだし行きましょうよ。TVで見るよりもっと刺激的でわくわくしますよ」

「はあ」

「でもその格好は浮きますね、ハロウィンならバッチリだったのにな、これぶちょおの服ですけど着てみてくださいね」


「いかがであろう?」

「うわぁーあつらえたみたいにピッタリです。その髪型は素敵なんですけど~洋服には似合わないから帽子(ニット帽)で隠しちゃいましょう」

「可笑しくないか?」

「はんべーさん、足が長くてスタイルいいからカッコいいです~。さっ行きましょう」

                                                        後編に続く。

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愛しき時代へ・後編(半兵衛さんホタヒカコラボ企画です)

2014-12-24 19:52:26 | クリスマス小説
「うーん、どれがいいかな。これとあれとそっちもいいな~はんべーさん着てみてくださーい」

「こちらの試着室へどうぞ」 

「見た感じと着た感じでは違いますね、はんべーさんにお買いもの付き合ってもらったおかげでいいものが買えました」

「蛍殿のお役に立てたのならよかったです。街には随分と沢山の人がいるのですな」

「人が多くてびっくりでしょう、特に明日はクリスマスイブだから賑わってるんですよ」

「くりすます?」

「キリストの生まれた日なんですよ、でもキリスト教徒じゃなくても皆でおめでとう~て言ってお祝いするんです。世界的に広まってる行事ですよ」

「なるほど、皆が楽しそうでくりすますというのはよいものだな、これも平和な世があってのことなのだろうが」

「はい~でもいつも楽しいわけじゃないし、大変な人もいると思います」

「そうなのか?」

「心が病気の人も少なくはないし、お金がなくて生活が大変な人もいるし、信じられないような事件が起きたりします」

「なんと・・・」

「でもやっぱり今の私たちは幸せで恵まれてるんだと思います。私は歴史が苦手なんですが、自分の国の歴史を知ることは大事なことだってぶちょおが言うから私も少し勉強しました。といっても分かりやすいぶちょおの説明を聞くだけなんですけどね(笑)沢山の人の血と汗と涙と努力によって今の平和な日本があることを忘れちゃいけないってぶちょおが言ってました」

「そうか」

「戦国時代とか、その後の明治、大正、昭和って何度も戦争が繰り返されて大変だっただろうけど、きっとそれでも楽しいこともあったんじゃないのかなって思うんです」

「私の考えた兵法が功を成して戦に勝ったときや、また私の説得によって相手が降伏して戦をせずに勝利したときとか」

「戦絡みなんだ(^^;」

「嫡男が生まれたときは実に嬉しかった」

「はんべーさん、お子さんがいるんですね」

「私のいる時代は戦の絶えない悪しき時代ではあるが、思い起こせば楽しいことはあった。それに我が故郷の山々の季節の移り変わりを表す様は実に美しく穏やかな気持ちになる」

「綺麗ですね」

「ん? 蛍殿の故郷もそうなのか」

「はんべーさんて綺麗だな~て思って、お顔もだけど心が透明で綺麗な人なんだなって思います」

「そのようなことはない、それに綺麗は男子にとって褒め言葉とはいえぬぞ、それに綺麗なのは蛍殿だと思う」

「えっ私が綺麗!? ぶちょおなんて私のこと一度も綺麗なんて言ったことないんですよ。いつもアホ呼ばわりです」

「それは酷いな(笑) 蛍殿は心が綺麗だと思う」

「あっ 顔じゃなくて心ですね」

「あっいや、勿論お顔も大層美しくあられる」

「お世辞でも嬉しいです~」

「いや、お世辞ではないぞ」


私が美しい訳がない、この手は多くの人を殺めてきた・・・・・蛍殿にそうとは言えなかった。

だが・・・

>沢山の人の血と汗と涙と努力によって今の平和な日本があることを忘れちゃいけないってぶちょおが言ってました。

そうであるなら救われる。



「あっ クリスマスケーキ売ってる~」

「ひとつどうですか、こちらは予約してなくても買えますよ」

クリスマスケーキはアンティークで予約してるんだけど、今日フライングではんべーさんと食べようかな。

「一番小さいのください」



                                 *


「ぶちょおのセーターにネクタイ。ぶちょおはセンスがいいからネクタイなんて買ったことなかったんだけど、はんべーさんに合わせていい買い物ができました。それとこのマフラーは私からはんべーさんへのクリスマスプレゼントです」

「なんと! かようなもの頂く訳には参りませぬ、これもぶちょお殿に」

「こうやって巻くんですよ~からし色のマフラー、はんべーさんにピッタリ! よく似合ってます。これはぶちょおじゃなくてはんべーさんに買ったんです。遠慮しないで受け取ってくださいね(笑顔)」

「かたじけない。いやこいうときはありがとうと申せばよいのであろうか」

「はい」

「ありがとう、蛍殿」

「さっケーキ食べましょう~蝋燭に火をつけなきゃ。タンスの上の箱にライターが入っているからあの箱とってもらえますか」

「これかな・・・・・・これは!?」

「ありがとう~」

「蛍殿、これはなんなのであろう」

「これはルービックキューブと言って6面の色を揃えるんです。ぶちょおが揃えたんですけど、私もやってみたら全然揃えられなくてぐちゃぐちゃになってます(笑) はんべーさん?」

カチャカチャ カチャカチャ カチャカチャ カチャ

「凄ーい! はんべーさんて頭いんですね~」


もしや信長様はこの世界、いわゆる現代のお人で戦国時代にたいむすりっぷしてきたのであろうか?


チャリーン

「はんべーさん、着物のたもとからなんか落ちましたよ。これって知恵の輪じゃないですか」

「えっ・・・・・・」


(回想)

「信長様、これはなんなのでしょう?」

「知恵の輪っていうんだ、こことここが外れるはずなんだけど、俺って知恵がなくて外せなて~でもはんべーさんなら外せるんじゃないかなって思って、暇があったら外してみて(笑)」

「かしこまりました」


「思い出した・・・この知恵の輪が外れて、気がついたら蛍殿の庭にいたのだ」

「ここも外れるんじゃないですか?」

「そのようだ」

「じゃあここが外れたらきっとまたタイムスリップして、はんべーさんの生まれた時代に帰れますよ!」

「私もそんな気がする」

「ビバ!知恵の輪!」

「えっ?」

「ほらっ はんべーさんも手を合わせて一緒に」

「ああ(照)]

「ビバ!知恵の輪!(笑) それって外すのに時間かかりました?」

「そうでもなかったと思う」

「じゃあ外す前にケーキ食べましょうよ」

「けえきというのは美しき食べ物であるな、うん美味である」

「うん、美味しい~」

早く帰りたいのかな~知恵の輪外すのに一生懸命になってる。はんべーさんて竹中半兵衛って名乗っていたけど、検索すると出てきたりするのかな? 
スマホで検索してみよう。

「はんべーさんの名前で検索したら沢山出てきましたよ。戦国時代の智将・天才軍師ですって、はんべーさんて有名人なんだ、すごーい」

「えっ? そうなのか(照)」

軍師ってなにする人か知らないけど(^^; え・・・・・36才で病死って書いてある。はんべーさんて35才くらいだよね(あくまでもホタルちゃんの見た目年齢です)そんな・・・


「はんべーさん!まだ知恵の輪外さないでください! 渡したいものがあるから待っててください!」

「あ・・・はい」

病死ってなんの病気? 昔だからいい薬がなかったのかも知れない。風邪が悪化したのかも知れない・・・



「これは風邪ひいたときに飲む薬で、これは頭が痛い時や熱が出たときに飲む薬で、これが疲れたときに飲むと疲れが取れて、これはお腹の具合が悪いときに・・・」

「蛍殿?」

「ほらっ昔はいい薬があんまりないでしょ、だから薬を持って帰るとなにかの役にたつかなと思って・・・」


私は病気で死ぬのだろうか・・・・・


「こんなに沢山の薬をありがとう・・・だが人には生まれ持った天命があると思っている。ならば私はそれに従いたいと思う。 蛍殿・・・・・・」

「はんべーさん?」

「私は戦国時代の軍師として多くの命を殺めてきた。ゆえに私の手は紅く染まっておるのだ。蛍殿に嫌われたくないと思って黙っておったが(微笑) だがぶちょお殿の言うようにそれが未来の平和に繋がっているのだとしたら救われる。この時代に、蛍殿の家にたいむすりっぷというものをして心からよかったと思う」

でも・・・・・・でも36才で死ぬなんて早いよ、そんなの早すぎるよ。

「蛍殿・・・」

なんと美しい涙・・・・・・・・

「ごめんなさい、ごめんなさい。泣いたりして・・・」

「私の為に泣いてくれてありがとう。だが蛍殿は笑顔が一番美しい・・・明日はぶちょお殿が帰ってこられるのだろう。笑顔でお帰りなさいと言って差し上げるのだぞ」

「はい・・・」 ←精一杯の笑顔をつくるホタルちゃんです。

「丈夫で良いお子を生むのだぞ」

「はい・・・」

「私はちとかわや・・・トイレに行ってくる」


男子たるもの人前で見せる涙は3度と決まっておるのに女人の前で涙など到底見せられぬ(苦笑)。私は死ぬことが恐いのか? 病死ではなく武士らしく戦場で死にたいとは思うが・・・元より乱世の折、我が身が命を落とすことあるのは覚悟がついている。なのにこの頬を伝う涙の訳は?


蛍殿、私は多分・・・・・・そなたが愛おしい。


「蛍殿、寝てしまったのか」

(こたつで寝ているホタルに布団をかけるはんべいさんです)

「ぶちょお殿、蛍殿に触れることをお許しください」

(そう言って布団から出ていた手をそっと布団に入れるはんべいさんです)


カチャカチャ カチャカチャ


少し寒くなってきた。マフラーというのは温かいものだ、まるで蛍殿のように温かくやわらかい(微笑)


              
                               *


蛍殿・・・蛍殿・・・


「ホタル、ホタル」

「はんべーさん!」

「ぶちょおだが・・・」

「あっぶちょおだ~! 帰りは明日の予定じゃ?」

「商談が上手くいって、丁度飛行機のキャンセルが出て1日早く帰れたんだ」

「そうだったんですか、お帰りなさい(笑顔)」

「うん、それはそうと家の中を見て驚いた!感動した! どこもかしこもピカピカじゃないか。君がこんなに綺麗に掃除してくれるなんて、しかも身重の身体で、大丈夫か?疲れてないか?」

「ええ、全然疲れてません、元気ですよ~」

でも私、いつの間に掃除したのかな? 頑張るホタルさんの妖精が出てきて掃除してくれたとか? まっいっか~。

「ところでホタル、はんべーさんて誰だ?」

「誰でしょう、なんか長い夢を見てた気がするんですが、思い出せなくて」

「夢か~夢は眼が覚めたら忘れるもんだからな。そうそう盲腸で入院してる専務が、おうちまで宅配・クリスマスディナーセットを譲ってくれたんだ。どうせ食べられないし、迷惑かけたからって。評判の宅配で美味いらしいぞ」

「わーい、楽しみです。明日はおうちでまったりと二人だけのクリスマスイブですね」

「そう、二人きりのクリスマスはこれが最後になるかな」

「ですね


                                    *


暗い・・・現代、いやここから言うと未来だな。未来の明るさに眼が慣れていたゆえ酷く暗く感じる。そして空気はひんやりと冷たく澄んでいる。戻ったのだな私は。

未来のように便利でも平和でもなく戦の絶えない世ではあるが、それでも私は私が生まれ育ったこの時代が愛おしい。

ここには大切な人がいる。 同士がいる。 心より仕えたい方がいる。


「必ず平和な世がくるから」


私も見て参りました。 お供致します・・・・・・塵積もの道を。


                                    *


「メリークリスマス!」

「メリークリスマス!」

「これぶちょおへのクリスマスプレゼントです」

「いいね~あつらえたみたいにピッタリで俺の顔に映えるセーターじゃないか。凄く気にいったよ、ありがとうホタル」

「ネクタイもあるんですよ」

「うん、これもいい、ホタルにこんなセンスがあったとは」

「へへっ」

「これは俺からのクリスマスプレゼント」

「わぁ~素敵なセーター、ありがとう~ぶちょお。あっ初詣、お互いにプレゼントのセーター着て行きましょうよ」

「うん」

「美味しいですね~評判の宅配ディナー」

「ああ、来年の今頃はこんなまったりとしたクリスマスじゃないだろうな」

「賑やかでしょうね」

「うん(微笑)」

「私、今の日本に生まれて幸せだな~て思います」

「どうしたんだ、急に」

「なんとなく(^^;」

「景気は回復しないし、嫌な事件も多いけど、世界的に見ても日本は平和で安全な国だ」

「私たちは次の世代にそれをちゃんと渡していかなくちゃ駄目ですよね」

「ホタルがそういうことを言うようになったのは母親になるからかな」

「そうかも知れません」

「そういえば、はんべーさん」

「はんべーさんがどうかしました?」

「はんべーさんという知り合いはいないが、戦国時代に竹中半兵衛という武将がいて」

「へぇ~」

「今年大河ドラマでやっていた黒田勘兵衛と並んで両兵衛と呼ばれた戦国時代の天才軍師だ。ただ残念なことに36才の若さで亡くなってる」

「そんなに若くですか・・・」

「竹中半兵衛がもっと生きていたら歴史は少し変わっていたかも知れんな。半兵衛は殆ど欲というものがなくただ天下太平を願っていたそうだ。若くして亡くなった為に半兵衛に関する資料も少ないのだが数々の逸話がある。36才という若さで志半ばで死んだ竹中半兵衛は伝説になったのかも知れない」」

「ぶちょお、はんべーさんのこと好きでしょ?」

「うん、前に出張で岐阜に行ったとき、ちょっと足を延ばして竹中半兵衛ゆかりの地巡りをしてきたんだ。そこの資料館で小学校で校長先生をしているという人に半兵衛の話を沢山聞いて感銘を受けてすっかり半兵衛のファンになったんだ」

「そうなんだ」

「これが半兵衛の肖像画だけど、あれ?なんか首に巻いてる。前からそうだったかな」

「あらっ マフラーみたい」

「半兵衛は病弱だったから風邪をひかないように首になにか巻いていたのかもな」

「きっとこのマフラーの色はからし色ですよ」

「ん? 白黒の肖像画だけど」

「なんでだろ? 私にはからし色のマフラーが見えるんですよ」

「もしかしてホタルは夢の中で竹中半兵衛に会っていたのかもしれんな」

「そうかも~」

「俺も会いたかったな~竹中半兵衛に(笑)」


                                    *

「メリークリスマス! はんべーさん、楽しんでる?」

「クシャン」

「はんべーさん、風邪?」

「いえ」

「身体大事にしてね、俺はんべーさん頼りにしてるんだから」

「はい、メリークリスマス信長様(微笑)」

「いいね~その笑顔 goodだよ(笑)」


愛しき我が時代と、愛しき未来に メリークリスマス       


竹中半兵衛 天正7年6月13日 三木城陣中にて胸の病にて没す 享年36才                               完


楽しんで頂けたなら幸いです。一言でも感想頂けるととても嬉しいです。


直人~VOICEありがとう~ほっこりしました。半兵衛さんに恋してた2ヶ月でした。素敵な半兵衛さんを演じてくれてありがとう~。

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ホタルノヒカリ番外編 「ダンス!ダンス!ダンス!」(前篇)

2012-12-24 00:01:11 | クリスマス小説
光ちゃんは高校生、誠くんは中学生になりました。

「面! 銅!」

「参りました! 光~もう少し手ぬいてよ」

「ごめんごめん~(笑) キャッ 痛っ!」

「大丈夫~なんでなにもない所で転ぶかな~。たく強いんだか、トロイいんだか」

「トロいはないでしょう。イタタ・・・」

「春の新人戦で優勝したもんね、でも優勝した光より応援席の光のパパとママのほうが目立ってたけど(笑)」

「目立ち過ぎだし(苦笑)」

「美男美女のパパとママで羨ましいわよ、じゃあね~また明日~」

「うん、バイバイ~」

痛っ 足くじいちゃったかな、暗くなってきたし迎えにきてもらおうかな、でもママまだ仕事してるかな。。。


「彼女、一人~」

「・・・(うっとおしい)」

「可愛いね~一人なら俺達と遊ばない?」

「用事があるんで」

「そう言わずにさ~」

「離して!(足が痛いからなにも出来ない~悔しい~!)」


「離せよ、やだって言ってるだろ」

えっ?なになに? この少女漫画みたいな展開は!

「なんだと~! 離しやがれっ・・・痛っ」

「よせ! こいつはS高空手部の桐野だぜっ」


ますます少女漫画な展開に(^^; てか、S高って私と同じ高校じゃん。


「そっそーだ、忘れてた、俺らも用事あったんだ、帰るわ」


「べーだ! おとといきやがれ! あー足さえくじいてなかったらこれ(竹刀)でエイッてやったのに」

「足大丈夫?」

「はい、なんとか。あっ有難うございました」

「貸して、鞄とスポーツバック俺が持つから近くまで送るよ。君、剣道部の高野光さんだよね」

なっなんで私の名前知ってるのよ~。

「クラスの剣道部の女子がすこぶる元気のいい1年生が入ってきたって言ってたから(笑)」

うわぁ~恥ずかしい。。。

「この角を右に曲がると私の家です」

「じゃあこの辺で」

「本当になんとお礼を言っていいやら」

「じゃあ、僕の頼み聞いてくれる?」

「えっ?」


                              *


「ダッ ダンスパーティ~!?」

「ダンスパーティのパートナーを申し込まれたの、やるじゃん光!」

「そんな下心があって光を助けたなんてけしからん! パパは反対だからな。無論助けてもらったお礼はきちっとして、ダンスパーティに関してはパパがきっちりと断ってくる」

威圧感バリバリなぶちょおの姿を想像して

「それはママが行くから!」

「桐野さんて空手教室にも時々くるけど、凄くいいお兄ちゃんで、小さい子達も桐野さんが来ると大喜びなんだよ」←地味に空手を続けている誠くんです。

「誠がそう言うんならそうなんだろうけど、それにしてもなんで高校生がダンスなんだ? 高校生の男女が体をくっつけて踊るとか有り得ないだろ?」

「そういうダンスじゃないよ、フォークダンスだよ」

「フォークダンスって輪になって踊るあれか?」

「そうじゃなくて、サウンドオブミュージックで主演の二人が踊っていたのが素敵だったからって、それをアレンジしたダンスで振付の入ってるDVDがあるの。これがそのDVDね。、うちの高校はダンス部があって全国大会で入賞するくらいでダンスの盛んな高校なの。校長がダンス大好きなのもあって、生徒や保護者含めて沢山の人に参加してもらおうっていうクリスマスダンスパーティなの」

「へぇ~楽しそうじゃない、折角誘ってくれたんだから行きなさいよ」

「うん」

「パパ~なんか問題ある? いつもなんでも経験するのはいいことだって言ってるじゃない」

「いや」

ないけどないけどないけど(ぶつぶつ)←気にいらないらしい(^^;


「ダンスか~久しぶりにママの18番のあれ見たくなったな」

「えっそう? じゃあ久しぶりに踊っちゃおうかな~ちょっと待ってて、用意してくるから」

「へぇ~ママ踊るんだ~どんなダンスかな?ヒップポップ?ベリーダンス?フラダンス?フラメンコとか」



「やつ~ぎ~節~だぁ~よぉ~」

「いよっ 待ってました!」



「ママの18番のダンスってどじょうすくいなんだ

「確かに上手い、けど上手すぎて逆にひくね(^^;」

「でもママもパパも楽しそうだね」

「ホント(笑)さて、お風呂入ろう~と」

「僕は明日の予習やろうっと」



「あらっ子供達いつの間にかいなくなってる。そうだっ ぶちょおも一緒に踊りましょうよ」

「え~~」

「一緒にやった方が楽しいですよ」

「じゃあ、やってみるかな。こう?」

「もっと腰入れて~」

「こんな感じ?」

「もっと腰落とさなきゃあ」

「なかなか難しいもんだな」

「そっか、ぶちょおは足が長いからやりにくいのかもね」

「よっ はっ 」


次の日の朝・・・

「痛っ」

「どうしたの?」

「腰が痛くて、昨日やり過ぎたかな」

「張り切りすぎるからよ」


ガチャン ←誠くん、フォークをテーブルに落とす。

「ごちそうさま! いっ 行ってきます!」

もう~思春期の男子の前では言動に気をつけてよ!(光ちゃんの心の声)


「あらっ誠、残してる」

「育ちざかりなんだから、できるだけ残さずに食べなさい」


だから~育ちざかりの前に思春期なんだってば!(心の声)しゃーない、私がそれとなくフォローしとくか。
お風呂からあがったら二人でせっせとどじょうすくい踊ってたもんね(^^;


                        *

「えっ桐野くんに誘われたの?」

「なんでも今年のダンスパーティの実行委員なんだって、だから自分が出ないわけにはいかないからって、助けてもらったから断るのも悪いし、だけどなんで私のこと誘ったんだろう?他に誘う女の子いなかったのかな」

「桐野くんて、今年のミスターS高なんだよ! 誘われたい女子は沢山いるよ!」

「へぇ~そうなんだ」

「興味無さそうなへぇ~だね(^^; まっ光の家は、誠くんといい、光のパパといいイケメン偏差値が高いからね」

「そもそも私、イケメンてよくわからないのよね」

「あっそう そーだ! 光は新人戦で優勝するくらい強いから、光なら他の女子から嫉妬されても大丈夫だって思ったのかもね」

「ふーん、まっどっちでもいいや、私もダンスは嫌いじゃないからダンスパーティにちょっと興味はあるのよね、じゃあね~また明日」

「うん、ばいばーい」

まてよ、桐野くんて光のことが好きで誘ったのかもよ、光と恋バナとかしたことないから思いつかなかった(^^; でも、このとこは光には言わずに二人がどうなるか見守ることにしようかな。なんてたって初恋もまだの奥手の光だしね」


                           *

「ママ出かけるから、留守番お願いね」

「はーい」と誠くん。

「私は麻衣と映画に行くんだけど、ママのベージュのバック貸して~」

「いいわよ」

「何処にあるの?」

「えーと、確かタンスの1メートル周辺にあると思う(^^;」

「うん、わかった」




えーと、タンス周辺・・・じゃなくてタンスの上だ! エイッ(バッグめがけてジャンプ)

しまった~バッグと一緒に、なんか箱が落ちてきた。中身も一緒に・・・
「雨宮蛍様」パパの字だ~これはラブレターってやつかしら? 沢山あるな~。パパはマメそうだもんな。
パパはママからのラブレターなんて持っていなさそうだけど(^^;
絵葉書も何枚もあるな・・・ついチラッチラッと見ちゃうのが人間てもんで。

     ホタルへ

     今日初雪が降りました。

     思えば僕はまだ一度も君と冬を過ごしていません。

     君は冬になってもやはり縁側でビールを飲むのだろうか。

     流石に冬に縁側は寒いと思うけれど、君の笑顔は春のひだまりのようで、
  
     君といると雪ってあったかいな・・・てそんな気持ちになるかもしれないね(微笑)

     僕は君の笑顔を思い出し、心のシャッターを切った。 


うわぁ~パパらしいしょっぱい文章だな(^^;

ん? この写真は? ん? えっ えーーーー!


「まっ誠! 誠~!」

「なに? お姉ちゃん」

「どっどうしよう~衝撃の写真見ちゃったの~」

「どんな写真?」

「この黒いドレス着た女の人・・・ってパパじゃない?」

「確かに、よーく見るとパパに似てる」

「うっそ~パパに女装癖があったなんてショック~」

「なんかの仮想パーティじゃないの?」

「そういうノリじゃなくて、なんか自然過ぎて逆に妖しいのよ。ママはこの写真見たことあるのかな?」

「お姉ちゃん、その写真どこにあったの?」

「えーと、バック借りようと思ってタンスの上のバック取ったら箱が落ちてきて、その箱の中からパパからの手紙や絵葉書とが落ちてきて、それと一緒に・・・あっママの部屋だ(^^;」

「相変わらずお姉ちゃんはそそかっしいんだから、それに大事な手紙と一緒に入っていたんならきっと大切な写真なんだよ」

「この写真のなにが大事なの?」

「そんなの知らないけど、黙って持ってきちゃ駄目だよ、早く戻さないと」

「はっ!」


やれやれ・・・それにしてもあの写真はなんなんだ? まっいっか ←親子です。          後編に続く。
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ホタルノヒカリ番外編 「ダンス!ダンス!ダンス!」(後編)

2012-12-24 00:00:50 | クリスマス小説
「もうすぐダンスパーティね、なに着て踊るの?」

「うーん、私ってあんまり女の子らしい服持ってないからどうしようかなと思って」

「じゃーん、これなんかどう?」

「わぁー素敵~」

「でしょでしょう~」

「でもなんかこのドレスどっかで見たような気が・・・あっアルバムで見たんだ!ママがこのドレス着てパパと映ってた」

「そう結婚披露パーティで着たの、そんなに派手じゃないし高校生が着てもいいと思うんだ」

「あれは結婚披露パーティの写真だったんだ、じゃあ結婚式の写真は? 見たことないけど」

「結婚式はイタリアの教会で挙げたんだよ」

「すごーいっ で、なんでそのときの写真はないの?」

「そっ それはカメラが壊れてだな(^^;」

「ペアルック着た新婚旅行の写真はあるのに?」

「カメラ2つ持っていって、結婚式を撮った写真の入ったカメラが壊れてしまったんだ」

「見たかったな~ママのウエディングドレス姿、綺麗だった?」

「もちろん! 真っ白い(ホントは泥だらけだけど)ドレスを着たママは世界一綺麗な花嫁だったよ」

「もう~パパったら本当のこと言っちゃって(ありがとう~ぶちょお)」

「残念だったね、カメラが壊れて」

「うん、だけどパパはママの花嫁姿を心のシャッターで切りまくったから(微笑)」


ぶちょおーーー! あーあのときみたいにぶちょおに抱き付きたい! でも子供たちがいるから我慢我慢。


出た出た出たよ~心のシャッター 


「お姉ちゃん、なんか笑うの我慢してない?」

「だって、だってだって・・・ククク あのね」

「わーるいんだ~勝手に読んで!」

「だって葉書だから見えちゃったんだもん」

「いいじゃん、心のシャッター、僕は笑わないよ」 ←さすが こぶちょお な誠くんです。



そんなこんなでいよいよ明後日はダンスパーティです。

ルルル・・・

「光~電話出て~」

「はい、高野です。えっ?そうなんですか、ええ、はい、ではお大事に」

「どうしたの? 誰から電話」

「桐野君のお母さん、桐野君盲腸になっちゃって、昨日の夜手術したんだって」

「えーーー!」

「じゃあ、ダンスパーティは?」

「一人で出るわけにいかないもん、まあそれほど出たかったわけじゃないし、あっ遅れる~行ってきまーす」

「光・・・」



「えっ 桐野君が盲腸に? 光の様子はどうなんだ」

「それほど出たかったわけじゃないしって言ってるけど、ちょっとだけ顔が残念そうに見えたわ。ダンスというよりあのドレスが着たかったんじゃないかな」

「そっか・・・」



ゴソゴソガサガサ

「ぶっちょお~ なにやってるんですか~年頃の娘の部屋に勝手に入って悪いんだ~」

「そっそれはだな」

「これを探していたんでしょ?」

「それはダンスレッスンDVDじゃないか」

「ぶちょおの考えていることくらいお見通しのこんこんきちですから(笑)」

「そっか」

「バレエ教室のスタジオが8時から空いているから使っていいって、川上さんが言ってくれたの。私も付き合うわよ」

「うん」

「ビバ!ダンスレッスン!」


                       *

「ママとパパ出かけるから、留守番よろしくね」

「二人で何処行くの?」

「デートよ、デート」

「へぇ~(めんどくしゃがりのママがね)」



ダンススタジオ・・・

「さてと着替えなきゃ」

DVDをセットするぶちょお。

「どれどれっ あら~素敵なダンスね」

「ジャージにTシャツにねじり鉢巻きって(^^; 気合い入りまくりだな(スカートの方が気分が出ると思うのだが)」

「よっ はっ とっ!」

「痛っ」

「ごめんなさ~い、でも光は足踏まないだろうから安心して」

「うん(^^; でもなかなか楽しいな」

「ですね~なんだか凄く楽しいです」

「けど、俺がダンスのパートナーで大丈夫かな?」

「全然大丈夫ですよ!ぶちょおは今でも凄くカッコいいもの」

「それほどでも~(照)」


                           *


今日は終業式。そして午後からはいよいよダンスパーティです。

「どれどれ、誠の成績表は体育以外は全て5か、さすがだね~誠」

「へへ」

「光の成績表は体育だけ5ね(^^; でも1学期より上がってるね、よく頑張りました」

「うん」

「光はダンスパーティ行かないの?」

「行かないつもりだったけど、校長が奮発して天才パティシエによるデザートが振る舞われるんですって、だから行こうかなって思って」

「そうなんだ」

あっけらかんとしてるな~色気より食い気か(^^;



「光! 折角のダンスパーティなんだから踊らないか? パパと」

「パッ パパー!」

タキシードを着た超カッコいいぶちょおです。


「ママ、口開いてるよ(^^;」

「あんまりカッコいいからつい見惚れちゃって~

「はいはい」


でもパパったら本当に凄くカッコいい~


「さあ、光もドレス着て!」

「大丈夫、昨日パパとママでダンスの練習したからちゃんと踊れるよ」

「えー?!」

デートってそれだっのか~ホント敵わないな~パパとママには。


                            *


「ちょっとちょっと、あちらのカップル凄く素敵じゃないですか」

「生徒さんとその親御さんかしら? 高校生には見えませんものね」

「あらっ知らないの? 高野建設の社長さんよ」

「まあ、あんなにイケメンなだったなんて、今度うちのキッチンのリフォーム高野さんにお願いしようかしら」

「光と踊ってるの光のパパなんだ~ダンディで素敵~」

「あのお転婆の光も今日は凄く綺麗~」

「いいな~私のパパと違い過ぎる~」



「なんか私達って注目のカップル?」

「見られてる気がするな(^^;」

「今日のパパ、カッコいいもんね」

「光も凄く綺麗だよ、娘なのにちょっとドキドキする(笑)」

「このドレスを着たときのママと私とどっちが綺麗?」

「えっ?」


                            *

「それでなんて答えたの?」

「ママ」

「いや~ん(嬉)」

「お世辞じゃなくあのときの君は本当に綺麗だった。皆に祝福されてキラキラと輝いていた」

「へへ」

「でも、どっちが綺麗って聞いたときの光の顔が・・・」

「顔がどうしたの?」

「娘じゃなくて、女に見えた・・・」

「へぇ~へぇ~へぇ~それで複雑な気持ちになったんだ」

「うんまあそういうこと、ママって速答したら直ぐにプッて顔になって安心したけど」

「子供達も成長してるんですね~今日も二人ともお友達のクリスマスパーティに呼ばれて出かけたし」

「成長するのは喜ばしいことだけど、子供たちのいないクリスマスイブはちょっと寂しいな」

「ですね・・・」

「ホタル、デートしようか?」

「えっ?」

「めんどくしゃいか」

「ううん、子供たちのいないクリスマスイブ、超久しぶりの二人だけのクリスマスイブ!思いっきりラブラブしちゃいましょう~」

「ビバ!クリスマスイブ!(笑)」

「ビバ!クリスマスイブ!(笑)」


                          *


「桐野先輩、具合どうですか?」

「高野さん、お見舞いにきてくれたんだ、ありがとう! 経過は順調・・・て盲腸だし大したことないよ」

「よかった」

「それにしてもなんでこんなときに盲腸になるんだろう(超ガックシ)出たかったな~ダンスパーティ」

「実行委員としての責任がありますもんね」

「僕はただ君とダンスがしたかったけなんだ」

「先輩ってそんなにダンスが好きなんですか?」

母親譲りの恋愛が苦手な、男心のわからない光ちゃんです(^^;

「僕の好きなのはダンスじゃなくて、君・・・高野さんが好きなんだ」

「へっ?」

「高野・・・光ちゃんと近づきたくて、ダンスパーティのパートナーを申し込んだんだ」

「今日はエイプリルフール?」←頭の中がとっちらかってる光ちゃんです。

「エイプリルフールじゃなくて、クリスマスイブだよ」

「そうそう今日はクリスマスイブでした、私、友達のクリスマスパーティに呼ばれているんです。そろそろ行きますね。じゃあお大事に~」

「避けられたかな、つい告ってしまったけど、病院でパジャマで告るなんてミスった、よしっ今度リベンジするぞ。噂に聞いた超カッコいい光ちゃんのパパに負けるもんか~(負けるよ)」

           
                          *

「ここ、俺の友人がやってる店なんだ」

「わぁ~大人な雰囲気の素敵なお店ですね」

「今日は特別なクリスマスイブを過ごしませんかってことでお得意さんだけを招待しているそうだ。ここのカクテルは美味いぞ」

「お洒落してきてよかった~」

「うん、素敵だ へぇ~今夜は生バンドを呼んだんだな」

「そういえば踊ってるカップルが結構いますね」

「俺たちも踊ろう」

「えっ!?」

「ダンスパーティみたいな派手な踊りじゃないから(笑)俺のリードに合わせて」

「はい、こんなダンスならおちゃのこさいさいですね」

「そう難しいダンスじゃなくて、雰囲気を楽しみ、身体を密接して踊る大人のダンスだな(微笑)」

「あっ・・・この曲は懐かしのムーンリバー」

俺たちの愛は 微笑)」

永遠だ (微笑)」

                           
                       *


「あー楽しかった~!」

「拍手喝采だったな」

「もう~恥ずかしかったです~」

「ノリノリでそんなふうには見えなかったぞ」

「だって急にアップテンポな曲になって、ぶちょおがニヤリと笑うからつい」

「だって折角練習したんだし、ホタルと二人で踊りたかったんだもん」

「私も本当はぶちょおと踊りたくて、ちょっぴり光が羨ましかったから・・・あっそれで今日ここへ連れてきたんですか」

「おみとおしのこんこんちきだから(笑)なによりも俺がホタルとダンスしたかったんだけどね」


嫌いじゃないんだよなダンス・・・昔女装して黒人男性と夜通し踊ったくらいだから(^^;


「あっいつもの公園がクリスマスイルミネーションしてますよ、寄っていきましょうよ」

「ああ、ここは昔と変わらないな、チイサナヒカリ、もといヤサシイヒカリのイルミネーションだな(笑)」

「ねえ、ぶちょお」

「なに?」

「永遠の愛ってどんな愛だと思います?」

「そりゃあ、永遠だから死ぬまでずっとってことかな」

「じゃあ、死んだらそれで愛はお終いなの?」

「そりゃあ死んで、また人間に生まれ変わったとしたら・・・そうだな、今度は家事全般なんでも出来て、三つ指ついてお帰りなさいませというような楚々とした女性と結婚したいもんだな」

「べーだっ! 私だってぶちょおよりカッコよくて、ぶちょおより料理が上手くて、ぶちょおより優しくて、ぶちょおより私のこと愛してくれて・・・・・ぶちょお~!そんな人どこにもいません!」

「そっ?」

「私はどうすればいいんですか~!」

「そうだな、君は生まれ変わっても干物女のままでずっとゴロゴロしてるんだな」

「えーーー! 生まれ変わっても干物女ですか~」

そしたら・・・・・俺が必ず君を見つける(微笑)」  BGMは直人さんの黄昏で

「ぶっ・・・・・ぶちょおーーー!」 ぶちょおに抱き付くホタルです。

「なんかチビタを思い出すな(笑)でもあのときと違うのは今日は暗くておまけに周りに誰もいないってことかな」

「えっ?・・・・・・・」

キス ぶちょおの唇が私の唇に軽く触れた。。。

こんなふうに外でキスするなんて随分と随分と久しぶりのことで、なんだか照れる。ちょっぴりくすぐったい。
だけど・・・だけど・・・もっと欲しい。。。

そんな私の声が聞こえたのか、ぶちょおも私と同じ思いだったのか・・・

ぶちょおは薄く微笑んで、もういちど私にくちずけた。

甘く深い大人のキス それは何度も繰り返された。。。


さすがに二人ともちょっと照れてしまって無口になる。

だけどつないだ手からはぶちょおの優しさと愛が伝わってきて、幸せ過ぎて・・・つい口角が緩む。


「あっ なに思い出し笑いしてるの?」

「違います~思いだし笑いじゃありませんよーだ」

「そっ(笑)あのとき・・・チビタで今迄で一番幸せな顔をした泥だらけの花嫁が凄く愛おしくてキスしたかったんだ」

「リベンジですね(笑)」

「クリスマスにかこつけてだな(笑)」

「ビバ!二人だけのクリスマスイブです」

「だな」

「あのときぶちょおと一緒なら私はいつどこにいても何があっても幸せでいられると確信しました。その幸せはずっとずっと継続中です」

「俺もだ、ホタルと一緒にいれればそれだけでいいと思った。そのうえ光と誠がいてこれ以上ないくらい幸せだ。それでも生きてるといろいろあるけどな」

「ありますよね~。でも泣いても苦しくても、また笑えるんですよね」

「うん、生きるってそういうことだ」

   ぐーぐー

「早速生きてる証が(笑)」

「へへ、踊ったからか小腹が空いちゃった」

「そこのコンビニでなんか買っていこうか」

「はーい」



                              *


「ただいまー」

「ただいまー」

「パパ、ママ、お帰りなさい! でーと楽しかった?」

「うん(^^; 誠はクリスマスパーティ楽しかった?」

「うん」

「パパ、ママ、お帰りなさい!」

「光、パーティ楽しかったか?」

「普通」 ←少し反抗期に入った光ちゃんです。

「普通ならまあまってことよね~(^^;」


なんか今夜のママ、凄く綺麗。きっとパパとデートしたからなんだろうな。
いいなー私もいつかパパみたいな人に出会えるかな。 桐野くんは眼中にないらしい

「そうだっ肉まん買ってきたわよ~食べる?」

「食べる食べる」

「僕、中華まんがいい」

「私も中華まん」

「あっ 中華まんは1個しかなかったのよ」

「絶対中華まん!」

「僕も中華まん!」

「それじゃあ、高野家のルールに従って勝負だな」

「OK!」

「僕もOK!」

「二人とも頑張れ~」


「じゃんけんポン! 最初はグー!」


「あっち向いてホイッ!」                           end


ホタルノヒカリ映画化・DVD発売を記念して書いた「ダンス!ダンス!ダンス!」
楽しんで頂けたなら幸いです


↑楽しんで頂けた方はポチっとな。一言でも感想頂けるととても嬉しいです。
良きクリスマスをお過ごしくださいませ。

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ホタルノヒカリ番外編・天使の贈り物(前編)

2011-12-24 17:30:47 | クリスマス小説
「光、ママ今から仕事にいくから誠とお留守番お願いね」

「はーい」

「誠は風邪が治ったばかりなんだから外に出ないで家で大人しくしてるのよ」

「はいー」

「お昼はお弁当作ってあるからね、なるべく早く帰るからね、宿題ちゃんとするのよ(おい)じゃあね」

「ママ行ってらっしゃーい」


(光ちゃんは4月生まれの9歳で小学3年生、誠君は3月生まれの6歳で小学1年生になりました。いきなり大きくなっててなんですが


                        *   

ゴロゴロしながら漫画を読んでいる光。

「お姉ちゃん、宿題しなくていいの?」

「やなこった、冬休み始まったばかりだよ、誠はなにしてるの?」

「お勉強」

「1年生は宿題出ないでしょう」

「1学期の復習してるの」

「あっそっ」


カリカリカリ(字を書く音) ゴロゴロゴロ←光です。


「お昼にはちょっと早いけどお弁当食べようか」

「うん」


パカッ ← お弁当箱のフタを開ける音です。


「ヤッター!パパの作ったお弁当だ!クリスマスバージョンだね~美味しそう~」

「お弁当箱のフタを開けるときってドキドキするよね、ママの作ったお弁当か、パパの作ったお弁当か、運命の分かれ道~」

「おっお姉ちゃん・・・ちょっとそれは言い過ぎなんじゃ(^^;」

「へへ、ママには内緒だからね」

「美味しいね~パパのお弁当!」

「うん! さてとお姉ちゃんちょっと出かけるから誠は家で大人しく遊んでてね」

「どこ行くの?」

「繭ちゃんのママが手造りクリスマスケーキ作りの教室を公民館でやってるから、そこに行ってケーキ作って、パパとママにあげるんだ」

「お姉ちゃんだけずるーい、僕も行く~」

「誠と一緒に行こうと思ったんだけど、誠は風邪治って熱が下がったばかりでしょ、外に出たら駄目だよ。ママが帰るまでには帰ってくるからお留守番してて」

「えーーー」


「材料費の500円・・・なっ無い! 200円足りない! なんで~」

「お姉ちゃん、一昨日漫画買ってたからじゃ?」

「あー貯金箱にあるお金勘違いしてた~」

「僕、お金持ってるよ(ニヤリ)」←おこづかいは全部貯金箱に入れる誠君です。

「誠く~ん、貸して~」

「じゃあ、僕も連れて行って、じゃないと貸さない」

「もう~仕方ないな~、でも風邪本当に大丈夫? それに誠の足だと公民館まで30分はかかるよ」

「平気平気、秋の遠足では1時間平気で歩けたし、風邪ももう全然大丈夫だから!」


                                  *

「上手に出来たね~」

「うん、パパもママも喜ぶね」

「あっでも、外に出ないで大人しくしてなさいってママ言ってたんだった」

「そうだった(^^; ちょっと怒られるかも知れないけどクリスマスだし大目に見てくれるよ、さっ早く帰ろうっ」

「うん あっあのおばあさん、足引きずってる、怪我したのかな」

「荷物も重そうだね」



「おばあさん、足大丈夫ですか? 荷物持ちましょうか」

「僕も~」

「あらっありがとうね、でも大丈夫だから・・・痛っ」



                                  *

「ごめんね、結局家まで荷物持ってもらって」

「ううん、帰る途中だったんです。それより足大丈夫ですか?」

「大したことはないから歩かなければ大丈夫だよ、歩いてたら石につまづいたらしくて(笑)」

「ママと一緒だ、ママもドジだからよくつまづくんだよ」

「こらっ誠、すみませんドジだなんて言って」

「誠君て言うの、可愛いね~お姉ちゃんは?」

「高野光です」

「光ちゃんに誠君、ちょっと待ってて・・・これっ持って帰って食べて」

「ありがとうございます」

「ありがとう~」

「じゃあね、光ちゃん、誠君バイバイ」

「バイバーイ」



「ねえ、お姉ちゃん、知らない人から物貰っちゃいけないって先生言ってたけど、いいのかな?」

「お礼にくれたんだろうからこういう場合はいいんじゃないのかな?」

「そっか」

「あれっ凄く良いお天気だったのに、曇ってきた、雨降ってきたら大変だ~急いで帰らなきゃ」




「うわーん、雷~!


どうしよう~降ってきた、私だけなら走って帰ってもいいけど、誠を濡らす訳にはいかないや。


「公園のてんとう虫の下で雨が止むまでしばらく雨宿りしようか」

「うん」


なかな止まないな~それにここ屋根はあるけど、横は囲われてないからちょっと寒いんだよね。


「コホンコホン」

「誠寒いの、お姉ちゃんのコート着て」

「駄目だよ、お姉ちゃんが寒くなるよ」

「私は寒くないし丈夫だから、誠はコート着なさい! お姉ちゃんの命令だよ」

「ブーだ!」


もう~よわみそなくせに強情というか、頑固なとこあるんだから!


「じゃあ、お姉ちゃんにもっとうんとくっついて」

「うん、うんとくっつけば寒くないね」

「そうだっ さっきおばあさんからもらったチョコ食べよう、甘いものを食べると元気が出るんだって」

「ホントだ~いつものチョコより美味しいね、チョコレート」



                                 *


「ただいま~ 仕事完了! 光!誠~クリスマスを楽しもうぜっ! パパももう直ぐ帰るって・・・・・・ん?鍵がかかってる。子供だけだから鍵かけたのかな」

「光~ 誠! ママ帰ったよ~ 光!誠! いないっ、なんでいないの? 外は雨が降ってきて寒いのに、誠は風邪が治ったばかりなのに何処に行ったのよ~」



「思ったより早く帰れたな、もうホタルは帰ってるかな? ただいまー!」

シーン・・・

「変だな~誰もいないのか? 3人で出かけたのかな? ちょっとそこらへん見てくるか・・・・・ホタル!どうしたんだ?血相変えて」

「光も誠もいないの!」

「一緒じゃないのか?」

「お留守番しててって言ったのに、誠は風邪が治ったばかりなのに、こんな雨の中何処行ったんだろう・・・」

「今日は凄くいい天気で急に降ってきたからな、玄関に二人の傘置いたままだ、よしっ二手に分かれて探そう、俺はこっち、ホタルはあっちを」

「うん」




「ヤッター!雨あがったよ! 早く帰ろう!」

「うん」

「誠寒くない?」

「うん」



「誠! ホタル!」

「パパー!」

「パパ~」

「二人とも何処行ってたんだ? 誠、手が冷たいぞっ」

「ごめんなさい」

「話は後にして早く帰って温まろう、ほらっ誠はパパの背中におぶさって」

「うん」


・・・光と誠を見つけた、直ぐに帰るから家で待ってて・・・


「光!何処行ってたの! お留守番しててって言ったでしょ! なんで誠を連れ出したの!」


「ホタル!」

「お姉ちゃんは悪くないから・・・」

「誠?少し熱がある、誠を連れて病院に行ってきます、後はお願い」

「ああ・・・」



「光、なんか理由があるんだろ? 理由も聞かずに怒るママじゃないんだけどな」

「うわーん・・・誠が帰ってきたら、ママの前でちゃんと話すから」

「そっか・・・お腹空いただろ? クリスマスのご馳走は明日作るとして今日はなに食べたい?」

「なんでもいい」

「じゃあハンバーグ作ろうかっ、光手伝って!」

「うん!」




「そう、空気を入れるようにポンポンと叩いて」

「そんなに力入れなくていいから(笑) 昔、誠が三つのときに風邪から肺炎になって入院したの覚えてるか」

「うん」

「実はあのとき危なかったんだ」

「危ないって?」

「死んでしまうかもって・・・」

「嘘っ! 知らなかった、だってママいつもどおりだったもん」

「そこがママの凄いところだよ」

「うん・・・」

「それで誠には過保護になり過ぎるところがあるんだな、比べると光は丈夫であんまり手がかからないし、お姉ちゃんだから・・・」

「わかってるよ、誠に比べると私の方が怒られることが多いけど、私ママのこと大好き!ママも私と誠が大好きだもんね」

「うん、そうだよ(微笑) あれっパパのことは?」

「大好きって100回言おうか」

「ありがとう(笑)」

「でもママは私より誠の顔の方が好きだよ、時々眼を細めて誠のこと見てるもん。誠はパパにそっくりで超可愛くて、学校でも”誠君を守る会”があって誠は皆のアイドルなんだよ」

「へっ・・・へぇ~


知らなかった、けどいいのか?男の子なのに女の子に守られてるなんて、俺は顔はともかく、可愛げのない子供で誠みたいに優しくなかったからな。


「でもパパは光の顔の方が好きだよ」

「ホントに?」

「光は美人になるぞ」

「ママってちゃんとしてれば美人だもんね」

「ちゃんとしてればね(笑)」


                                  *


「チーズ載せハンバーグの目玉焼き添えに、かぼちゃのスープに温野菜のサラダ、まっこんなもんかな」

「美味しそう~」

私もパパみたいなお婿さんが欲しいと思う光だった(^^;



「ただいま~」

「お帰り、誠どうだった?」

「うん大丈夫よ。いい匂い~」

「お腹空いたろ、まずはご飯だ」



「ごちそうさまでした!」

「ごちそうさまでした!」

「ごちそうさま~」

「さてと・・・」


「ママにお留守番してなさいと言われたのに、公民館のクリスマスケーキ作りがしたくて出かけました。ママとの約束やぶってごめんなさい、心配かけてごめんなさい」

「お姉ちゃんは誠は留守番してなさいって言ったけど、お姉ちゃんが材料費が足りないって言うから、僕のお金をあげるから僕も連れていってと言いました。ママとの約束やぶってごめんなさい、心配かけてごめんなさい。僕がお金だけ渡して行くの我慢すればよかった・・・」

「誠、それはいい子過ぎるだろ?」

「はあ? じゃあパパは行ってもよかったって言うの?」

「そいうわけじゃないけど、子供っていうのは少しは冒険心も必要で。だからって約束破っていいってわけじゃないぞ。危ないことをしたり、ママに心配させるのはよくない。」

「はい・・・」

「もし雨が降るのがもう少し遅かったら、ママが帰ってくるまでに家に着いて、ケーキ食べて何事もなかったんだな。約束破ったのもバレズにすんだしな。思いがけないことが起きるもんだ。それが世の常というもんだ」

「(よのつねってよくわかんないけど)違うよ」

「えっ!?」

「ケーキ作ってパパとママにあげようと思ったの」

「それじゃあ、ママとの約束破ったってバレるじゃない?」

「そうなんだけど、クリスマスだし大目に見てもらえるかなって思って」

「はあ?」

「ツメの甘いところはママそっくりだな(笑)」

「まっいっか~二人とも反省してるし、クリスマスだしね」



「ところでパパとママに食べてもらおうと思ったお菓子は?」

「これだよっ!食べて~」

「そうだっ 今日お客さんにいいもの貰ったんだ」

「なになに?」

「これ、レインボーキャンドルっていって炎が虹のように七色になるんだって」

「すご~い」

「ママ、小さい電気だけにして」

「はーい」

「ほらっ」



「わぁ~綺麗~」

「白いケーキに炎が映って素敵~」

「七色って平和って感じ?」

「おっ上手いこというじゃん、光」

「優しい光だね」

「いやー照れるな~」

「お姉ちゃんのことじゃないし」

「わかってるわよ!」

「(笑)4分たつと七色でなくなるそうだ」

「あー終わっちゃった」

「じゃあ食べよう。うん美味い!」

「ホント美味しい~光も誠もありがとうね」

「ありがとう」

「今日僕いい子じゃなかったけど、サンタさん来てくれるかな?」

「大丈夫よ、サンタクロースは子供たちには甘いから」


特に高野家のお父さサンタは甘いもんね~。


「今日はパパとお風呂入ろうか」

「今日はもうお仕事しないの?」

「今日も明日も仕事は無し!」

「わーい」

「明日は二ツ木のおじちゃんとこと一緒にクリスマスパーティするんだよね」

「ひこちゃん(ひこざえもん)と遊ぶの楽しみだな~」

「お風呂の中でなにかサプライズの作戦たてようか」

「うん!」



「パパ、ママ、おやすみなさい」

「おやすみ」                                       (後編に続く)



レインボーキャンドルについてはこちら を見てくださいね。

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ホタルノヒカリ番外編・天使の贈り物(後編)

2011-12-24 17:30:16 | クリスマス小説
あっ電話だ・・・

「もしもし高野でございます」

「佐々木と申します。その節はお世話になりました。」

「まあ佐々木さんの奥さん、いえこちらこそ有難うございました。今日はなにか不具合でもありましたでしょうか?」

「いーえ、古い家を素敵にリフォームして頂き使い勝手も良くとても満足しております。あのちょっとお聞きしますが、高野光ちゃんと誠くんは高野さんちのお子さん達のお名前ではなかったでしょうか?」

「はい、そうですが・・・」

「やっぱりそうでしたね、高野さんと子育ての話をしたときに聞いた名前だと思ったんです」

「ええ」

「実は今日義母が足をくじいて重い荷物を持って歩いていたら、家まで一緒に荷物を持ってくれたそうなんです。光ちゃんと誠くんという優しくてとても可愛い姉弟で、申し訳ないやら嬉しいやらで、その後雨が降ってきたので雨にあわなかったか心配してたんです。」

「いえ、雨にあう前に帰ってきましたよ。お義母様にお大事にとお伝えくださいね」



                                         *

「あの子たち、どうして言わなかったんだろうな」

「気恥ずかしかったんじゃないのか」

「いいことしたのにね」

「俺(子供の頃)ならおばあさんのことが気になりつつも声掛けることはできないだろうな、光も誠も君に似たのかな、二人ともいい子に育ったな」

「優しいのはパパに似たんですよ、私ったらいきなり光のこと怒ったりして思いっきり自己嫌悪です。凹みまくりです」

「大丈夫だよ、光はちゃんとわかってるよ(微笑)」


そういうところがパパに似てるんだよね・・・反省しなきゃ。


「まだまだ小さいと思っていたけど、二人とも成長してるんだな」

「ええ、なんだか私たちのほうが先にクリスマスプレゼントもらっちゃいましたね」

「そうだな。 ありがとう、ホタル」

「えっ? なんですか~改まって」


「光が生まれてから独立して会社立ち上げて、光を保育園に預けて君も一緒に仕事するようになって、仕事が起動にのってきたところで誠ができて、大きなお腹抱えて保育園の送り迎えや仕事等大変だったろ、誠は光と比べると病気がちで手がかかったし、仕事が忙しくて思ったより育児に協力できなかったし、君の頑張りには感謝状を贈りたい、いや感謝状くらいじゃ全然足りないな」

「このご時世仕事が忙しいのは有り難いことです。確かに子育ては思った以上に大変だったけど、どのお母さんも皆同じように頑張っていると思うんです。だけどそれをちゃんとわかってくれて優しい言葉をかけてくれる家事万能の旦那様がいる私は恵まれていて凄く幸せだなって思います」

「そっ」

「光が小学生になるのを期に家の増改築したときも縁側を残すのは無理かなと思ったけど、さっすが~高野誠一・仕事の出来る男です。縁側でビールを飲める時間が私にとってはウコンの力(宣伝してみました)です!」

「そう(^^;」

「でも・・・妻としてはなんにもしてないというか、なにも出来てなくて申し訳ないです」

「いいよ(微笑)元々君にそれは期待してないから(笑)ただずっと一緒にいたくて、そして二人の可愛い子供にも恵まれて凄く幸せだなって思う」

「私もです。最近は子供達もあまり手がかからなくなって、少し楽できるようになってきましたし」

「そういえばこないだ実にシュールな絵を見た気がしたんだが」

「どんな?」

「君と光が同じ体勢でクリソツなアホ面で昼寝をしていて、その隣で誠が洗濯物をたたんでいた。見てはいけないものを見てしまったというか、我が家の構図がそこにあったというか・・・これは夢だと思うことにしたんだが(現実逃避)」

「やーね、夢でもみたてんじゃ? きっとお疲れだったんですよ」

「そうかな~」


「あっ!クリスマスプレゼント用意できました?」←慌てて話をそらすホタル(^^;

「光は女の子らしくなりたい」

「誠は強くなりたいって、なんとも抽象的だな(^^; 誠は3月生まれで同学年の子と比べると身体が小さかったり、力が弱かったりでスポーツとか負けてしまうのが悔しいんだろうけど、小学3年生くらいになると追いつくんだけどな」

「パパの子だもんね」

「派出所の鮫島さん(出世してなくてごめんね)が空手教室やってるから誠のこと頼んできた。これが道着と白帯」

「うわぁ~小さくて可愛い。空手か~でも剣道ならパパも教えられるんじゃ?」

「自分の子供に厳しく教えるなんて俺には無理だもん」

「光はお友達の優衣ちゃんがとても女の子らしくて、それにバレエをやっているから姿勢が良くて優衣ちゃんのようになりたいって、憧れてるみたいなのよ、それで優衣ちゃんのママが開いてるバレエ教室に通ったらどうかと思ってバレエのトウシューズ買ってきたの」

「へぇ~、バレエか・・・(ふと想像してみる)ん?人前で足出して踊るのはどうかと思うぞっ、どうせなら日舞とか、お茶とかお花とか着物を着てだな」

「まあまあ光が人前で足出して踊るほど続くとは思えないし、それに優衣ちゃんに憧れてるのは事実だからやらせてみましょうよ」

「そうだな、やってみることに意義があるってことで」

「はい」

「それにしても誠がこんなに早く子供部屋で寝るって言い出すとは思わなかったな、お姉ちゃんと一緒とはいえ」

「もうちょっと一緒に川の字で寝たかったのにな」

「そういえば誠君を守る会があるとか、誠は学校のアイドルだとか光が言ってたな・・・それって男心がちょっと傷ついているのかも(^^;」

「それで一人で寝るとか、強くなりたいとかなんですかね(笑)」

「二人だけで過ごすクリスマスイブなんて随分と久しぶりだな」

ぶちょお・・・

「なに?」

「エヘッ  ちょっと呼んでみたくなりました」

「ちょっとくすぐったいけど悪くないな(微笑)」

「ラブラブだった昔を思い出します?」

「ん? 今もラブラブのつもりだけど(チュッ)」

「私たちってパパとママになってもラブラブ~(チュッ)」

「ラブラブ~

「あん~ラブラブ~もいいけど、サンタクロースにならなくっちゃ」

「まだ早いよっ、聞いた話なんだけど、サンタクロースが見たくて眠いの我慢してずっと寝たふりしてたら部屋に入ってきたのがお父さんでガッカリしたんだって」

「あらっ可愛い話だけど、それはちょっと残念ね」 ←まりりんさんちの次男君のお話でした(爆)

「ワインでも開けるか、それとも・・・毛布もって縁側でビール飲む?」

「えっ寒いのにいいの?」

「いいよ(微笑) けどやっぱ電気ストーブも持っていこう(笑)」


                                   *

「ねえ、お姉ちゃん。こないだ二ツ木のおばちゃんがパパはママのぶちょおだったって言ってたけど、ぶちょおってなに?」

「それはぶちょおじゃなくて部長でしょ。パパ今は高野建設の社長だけど、昔は大きな会社の部長さんだったんだって」

「ぶちょお?」

「ぶちょおじゃなくて部長・・・」


けどなんだろう? ぶちょおって何処かで聞いた気がする・・・遠い昔、何処かで・・・


                                     *


「ぶちょお~産まれそうなんで今からタクシー呼んで病院に行きます。」←メールです。

「えーーー予定日までまだ2週間もあるのに! すみません!東京には何時に着きますか!」

「5時10分ですが」

「少し早く着いたりしませんよね?」

「しません」

 JRだもんな~

やっと着いた・・・5時10分きっかりに(^^;

「若葉台病院までお願いします! あっ・・・あの子供が生まれそうなんです!急いでください!」←ぶちょおにしては思い切って言ってみた(^^;

「へい旦那! 任してくだせぇ!」

「まだ産まれてないよな・・・メール入ってないし、いやメール打ってる場合じゃないか」

「今日混んでますね~、うわっなんか事件でもあったのか? 検問やってますぜ」

「ここで降ります! 走ります!」

「きばりや~旦那!」 タクシーの運転手さんのお国は何処?という突っ込みは無しで(^^;


間に合ってくれ~光! けど辛い思いするよりは早く産まれたほうがいいのか・・・
とにかく頑張れホタル! 頑張れ光! 走れ俺!


若葉台病院着。。。


「ちょっと健太郎~今日休みじゃなかった?それになんでスーツ着てるの? こらっ病院内走っちゃ駄目でしょう~!」


ビュー ← 風のように走り抜けるぶちょおです。


・・・分娩室・・・ まっ間に合ったのか?


「ホタル!」


「ぶちょおーーー!」


「おんぎゃあ~おんぎゃ~!」



うっ 産まれた・・・


「頑張ったなホタル、お疲れさま、遅くなってごめんな」

「ううん」

「ありがとう、ホタル」

「3051gの元気な女の子です」


「可愛い~」

「うん」

「はじめまして光! ママです」

「パパです」

「小さな手・・・あっ私の指握った」

「こんにちはママって言っているのかな(微笑)」

「光、パパとも握手しようね」

指に絡めた手は小さくて小さくて、けどその手は眩しいくらいに光って、しっかりと俺の手を握る。

君のママは泣きながら笑ってまた泣いて、すごくややこしい顔をしてるけど、とても綺麗だ。


光・・・僕たちの娘に生まれてきてくれてありがとう・・・

君の歩く道がずっとずっとヤサシイヒカリ(優しい光)に包まれますように。。。


この世に生まれて今を生きていることに感謝して・・・

Merry Christmas

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