Tea Time

ほっと一息Tea Timeのような・・・ひとときになればいいなと思います。

1年を簡単に(笑)振り返る

2015-12-30 20:57:41 | naohito
28日に次男が帰ってきて、今日は長男が帰ってきて久しぶりに賑やかな我が家です。夜は焼肉をしましたが20代男子二人がいると食べるね~。うちは旦那も結構食べるし(^^;
肉は足りたけどご飯が足りなかった。私が食べなきゃいいんだけど、4切れ残った牛肉を次男が「お母さん、食べなよ~」て。でも年齢的にあまり食べればくなってきましたね。食べなくても痩せないけど。

最近腰を痛めて、ようやく治ってきました。筋肉をつけるといいそうだけど、そう簡単に筋肉が付く訳ではなく、体重減らして腰への負担を軽くするといいそうです。よしっ来年は生人さんに会える機会もあるし頑張ろうっ。

来年はじゃなくて来年もですね。今年は個人的にはいろいろあった年でしたが、「心がポキッとね」、「37.5℃の涙」の連ドラに、最高に面白かった「ズンドコベロンチョ」、ラジオにイズム。神回のイズムも何回かありましたね。アナザースカイもとてもいい番組でした。そして「1989 Live Tour」、海辺のカフカ・ワールドツアー。さい芸での再演。沢山楽しませてくれてありがとう~

20周年を記念して出されたアーティストブック。初めて自分から出したいと言った写真集というのが嬉しくて、抱きしめたくなるくらい愛おしかったです。素敵な写真に深い言葉。今なにを考えどう思っているのか。ときどきクスッと笑ったりウルウルしたり、最後のあとがきはとても嬉しくウルウルしながらページをめくったら、直人の子供の頃の写真が3枚。3才頃かな?まるまるとした可愛い男の子。きっとまだこの頃は双子とか兄への劣等感を感じることはなく、コロコロとお兄ちゃんと遊び、ご両親の愛情を受けながら育ち、大好きなプリンを頬張っていたんだろうなと。なんかここで号泣してしまいました。そして私が思っていた以上にファンのことを思っていてくださる。ファイナルで3回続けて泣くのもそういうことかななんて思いました。

直人のことが大好きだ~と思うと同時に、ずっとずっと直人さんのファンでよかったと心から思いました。これからも一緒に歩いていきたいです。一緒に歩くという言い方はおこがましいかも知れませんが、そういう気持ちで深く静かにときには熱くこれからもずっとずっと応援したいです。

blogでは、「妄想カレンダー劇場・スターな彼」<「それぞれのバレンタインデー」、「夏の思ひ出(ホタヒカ番外編」。「1989 愛してる(1~3章)」を書きました。特に役者デビュー20周年を記念しての1989ライブで、「1989 愛してる」を書けたのはとても嬉しく感慨深かったです。

この1年 Tea Time にお越し頂きありがとうございました! 励ましのお言葉や、楽しいコメント、小説の感想や拍手をくださった皆さん、ありがとうございました! 来年もまたなにか小説が書けたらいいなと思ってます。これは直人さんのお仕事にもよりますが(^^;

皆さん、良いお年を~。

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VOICE更新

2015-12-27 22:50:02 | naohito
本日仕事納めとのことご苦労さまでした~私は明日です。

厳しいんだろうな(^^; でもそれはきっと望むところ?だよね、カフカでは肩透かしのところがあっただろうから。

昔直友さんと話していて・・・

「昔真田さんが高校教師が終わった後だったかな?自分はこのままでは役者として成長しないから自分を鍛えて欲しいと言って、蜷川さんの所に行ったんだって」

「へぇー」

「直人もそういうことするといいかな?」

「蜷川さんて灰皿投げたりするんでしょ?」

「厳しいって有名だよね」

「無理・・・直人にそんなことさせられない」

「私も無理」

という会話をしたことがあります。真田さんは33~34才の頃だったんじゃないかと思います。直人は現在43才、10年遅くてもいいと思います。歩くスピードは人それぞれ違いますもんね。

ファンも今なら「無理」とは言いません、ドキドキするけどね(^^;

真田さんがプライベートでいろいろあったときバッシングもきつかったし、これで芸能界から干されたりしないかなと心配したんですが。

蜷川さんはロミオとジュリエットに真田さんを起用しました。

そして「プライベートは関係ない、役者・真田広之を使いたいから起用しただけだ」と。

蜷川さんて厳しいけど柔軟性のある方なんだなと思います。こないだ映画見に行ったときに邦画の予告がいくつか流れましたが、なんで映画監督っていつも同じ俳優ばかり使うんだろうと思いました。
ついでに言わせてもらうと、一番貢献度が高いと思う某TV局でのピンで主演ドラマが未だに一つもないのにはムカついてます。

「尺には尺を」は主演ですよ~。いつも頑張ってる直人さんに「頑張ってください」とは言いにくかったりしますが、今回は「頑張れ~」です。私が言わなくても、いや誰が言っても言わなくても頑張るだろうけど。

ファン的には見守って応援する。これだけですね。

60になったら仕事パートにして、そんな頃に舞台があったら、1週間程東京に滞在して毎日舞台を見にいこうと思ってましたが(笑)思った以上にシェイクスピアずっとずっと早くきちゃいましたね。いやもしかして1~3年の内?とは思ってましたが。

正社員だと休みにくいけどパートなら休み取れると思う。駄目と言われたら「会社やめます」と言うんだ~時々会社辞めたくなるんだよね、まだ辞めないけど。

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舞台シェイクスピア

2015-12-26 21:05:15 | naohito
今日はラジオ聞いてからPC落として昼ごはんの用意して食べて片づけてそれからキッチンの大掃除。携帯は充電中~。4時頃に二階に携帯を取りに行くと、あらっメールが2通、誰かしら?1通目を見てもピンとこなくて(アホだわ)、2通目を見て・・・

えっ?やっぱりそういうこと、マジで~。いや匂わせてはいたけど本当なんだ~しかも主演とは(嬉)。ファン的にはドキドキもんだけど、やりたかったんだもんね、念願叶ってよかったです

貢ぎますよ~。私の場合、結果的に一番貢ぐのはJRになんだけどね 

10月にカフカで日帰りでさい芸に行きましたが、疲れたのよね~舞台に備えて体力つけたいと思います。見るだけなのにね(^^;

直人さんは本当にいろいろと大変だと思いますが、ガッツリ食べて体力つけて・・・体力はあるだろうけど見た目が細いから、特に顔はもう少しふっくらしていいよね。

今日は久々にリアルでラジオを聞いて。「よいお年を~」にニンマリしてPC落としたからFBIからのメールにも気づきませんでした。連日ビックニュースが続きますね。シェイクスピア喜劇「尺には尺を」ストーリー紹介を読むと喜劇だけど、ちょっと哀しかったりするのかな、楽しみです。

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ライブDVD発売決定!

2015-12-25 22:16:11 | naohito
やったー もう一つクリスマスプレゼントを貰った気分です。詳しくはFBIのTOPに書いてありますが、いろいろと出るんですね。一般発売されるのは嬉しいです。もう二度と買えないと思って不惑は2つ買いましたもんね。今度も2つ買いそうですが(^^;

寒くなってくると楽しかった夏の思ひ出も遠い出来事のように感じていましたが、「1989 愛してる」 でライブのこと思い出していたところにライブDVDの発売決定のお知らせとはグッドタイミングです

春ドラマって4月10日前後に始まることが多いから待ち遠し過ぎるんですが、その前にライブDVD発売でよかったです~。

EYES更新、ガッツリ食べたでしょうか。谷原さんが対談の最後で言った言葉、さすが盟友よく言ってくれました。谷原さんのよく響くお声ですから、よーく聞こえたことでしょう。

最近男性のぼそぼそした声が聞こえにくくて、耳が遠いともいう

某月9とか結構好きで見てたんですが台詞が聞こえにくいので字幕出して見てました

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拍手御礼

2015-12-23 15:10:15 | naohito
その前に届きました~まだ全部ちゃんと読んでませんが、読み応えのあるインタビューに素敵な写真の大満足の1冊でした。
ネタバレ無しの感想として 直人~大好きだー これに尽きます
2冊買ってよかったです。うっかりものの私ゆえ2冊買いましたが大正解でした 1冊目は雑に開いたので2冊目はまだ開けてないので、サインを見比べてはいませんがマジックの点々の色合いとかまさに直筆で、小さいカードに沢山のサインを書くのは大変だったろうなと感謝感謝です。凄く嬉しいです。私の涙腺を刺激したポイントとかはまだ書きませんが、いずれ書きたいと思います。

「1989 愛してる」を読んでくださった皆さん、拍手やコメントを下さった皆さん、ありがとうございます!心より感謝です。一足早いクリスマスプレゼントをもらった気分ですというコメントも多くとても嬉しかったです。

Shining Star というタイトルで考えていた話があったんですが、もひとつでお蔵入りになっていたところ、「愛してる」を聴いてこれだと思いました。で、ライブに行くと歌が深くなったな~と。心を揺さぶられたりグッときました。1989年にギターと出会ったことで今の直人がいる。それで1989年17才~2015年43才の年月を小説に書こうと思いました。クリスマス小説だからハッピーエンドでと決めていましたが、なかなか幸せにならないというかいろいろある人生でしたね(^^;
なかなか名前が決まらなくて夏にお会いした直友さんにいい名前ない?と聞いたくらいです。コメントでも頂きましたが、幸せになれなかった二人を幸せにしたいなと思って、さとしとゆみになりました。
小説を書くときには女優さんをイメージして書くときとそうでないときがありますが、愛してるは3~4人の候補がいまして、女優さんによっては細かい台詞のニュアンスが変わってくるので、はっきり決めたほうがいいなと思っていたところ37.5℃の最終回のツーショットを見て「これだ!」と思いました。房ちゃんと真智という同級生のイメージもあるしね、そんな訳でWeb拍手画像はそうなってますが勿論他の女優さんのイメージでもいいと思います。

聡の親友の寺井くんはちょっとしたモデルがいます。保育士の友達(私にとっての幼馴染)が短大時代にお世話になり目をかけてもらい、かつ憧れていた講師で、今年の春に幼児教育に関する講演があって、そこで友達は再会したわけですが外国の有名大学への留学を経て今は某有名私立大学の教授になって本も何冊も出されているとのことでした。背が高くてカッコよくて優しくてテニスが上手くて、皆その先生が好きだったそうですが仕事に打ち込み過ぎたせいか今も独身だそうです。私の書いた寺井くんはそんなにカッコよくは書いてませんが(^^;

それと長男は大学・院生の頃に愛知県の知的障害児と一緒に遊ぼう、活動しようという趣旨のサークルに入っていました。入った動機は不純なんですが真面目な性格なんでとても一生懸命やっていて、海に行くから水着送って~とメールがきて送ったことも、スイミングに行っていたので泳ぎは得意です。ダウン症の女の子とずっとペアを組んでいたのですが、毎年お正月には素敵な家族写真の入った丁寧な年賀状が届きました。

高校時代の聡は直人に近いというかほぼ直人ですね(笑)しかし20年役者やってるけどアル中の役も浮気された役もやったことないよね(^^; 藤木直人をアル中にする(小説の中とはいえ)なんて私てば大胆というか ごめんね~直人←愛してるから許して ←今猛烈に悪寒が走ったかも~風邪じゃないから安心してねん(笑)

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クリスマス小説 「1989 愛してる」

2015-12-19 19:30:17 | naohito
をクリスマスにupしようと思っていたんですが来週は忙しいのと、アーティストブックが届くのはクリスマスかしら?てことで前倒しで少し早目にupしたいと思います。

「1989 愛してる」 第1章、第2章、第3章です。 ちょっと長いお話なんでお時間あるときに読んで頂ければと思います。楽しんで頂けたなら幸いです。ドキドキッ ← どう感じてもらえるのか結構ドキドキするんですよ 一言でもよいので感想頂けたならとても嬉しいです。

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1989 愛してる  1章

2015-12-19 19:29:30 | クリスマス小説
1989年7月 それは君と出会った17才の夏だった。

                          *


17才の夏っていったらキラキラして汗なんか流してさ・・・そのつもりだったのに。春に怪我して復帰したときには周りとの差が開いてて唖然とした。結構頑張ってたつもりだったんだけど、頑張ってねえか、頑張ってたら今こんなふうにゴロゴロしてないもんな。

「やる気ないんならやめろっ」 コーチの声が重く心に響いた。ここでやめないのが青春だよな(苦笑) 電話がなってる。



「藤井、おまえ暇だろう~」
「なんだ寺井か、いきなり暇はねぇだろう」
「おまえ泳げたよな」
「うん」
「海行かねえか」
「どうやって?」
「兄貴が大学のサークルで知的障害児の子供達と遊ぼうっていうサークルに入ってて、それで今度海に行くんだけど人出が足りないから手伝ってくれって頼まれたんだ。兄貴にはいろいろ借りがあるし」
「俺はねーし」
「こないだおまえに貸したCD随分傷ついてたよな」
「わり~ルーク(猫)が」
「あれ兄貴のCDなんだ」
「わかった、手伝う、海行くから」


                                       *

「今日は4人の高校生の皆さんが手伝いに来てくれました~よろしくね」

「俺は右、おまえは左だろっ」
「えっ?」
「タイプだよ」

寺井は高校が違うから知らないだろうけど一人はうちの高校の女子だった。あっちは俺のことなんか知らないだろうけど俺は知ってる。バレー部のエースアタッカーで可愛くて性格もいいと女子にも男子にも人気があった。遠目に見るだけだったけど近くで見るとホント可愛いや、しかも水着だ!いや正確には水着の上にTシャツは着てたけど。ありがとう!寺井!

「藤井君はこの子、麻耶ちゃんていうのよろしくね」

そうだっボランティアに来てるんだった、水着に浮かれてる場合じゃない。

「こんにちは、麻耶ちゃん」

両親が共働きで妹の面倒をよく見させられたから子供は苦手じゃなかった。

「高校生の皆さん、お手伝いしてくれてありがとう。おかげで楽しい海水浴になりました。ボランティアだし、なにも出ないけど映画の割引券があるの、よかったら使ってね」

「ありがとうございます」

「魔女の宅急便だ、見たかったんだ~これ」
「これ妹が面白かったって言ってた(やったっ話せた)」
「やっぱり~ねえ、一緒に行かない?」
「えっ?」
「一緒に行こうって約束してた友達が彼氏と先に見ちゃったって言うんだもん、一人で行くのもな~て思ってたんだ」
「うん、じゃあ行こうか」

ヤッターやっぱいいことするといいことあるんだな(笑顔)

「なにおまえにやけた顔してんだよ」
「寺井~彼女ゲットできたか」
「玉砕・・・彼氏いるんだって」
「めげないめげない、いいことするといいことあるって」
「おまえなにいいことあったんだよっこらっ話せよ!」
「寺井~ありがとう~ジュースおごるぜっ」

                                   *

「うーん、服はこんなもんかな、髪は・・・」
「お兄ちゃん、ムースとかあんまり付けないほうがいいよ」
「亜子、いつからそこにいたんだよ」
「初デート?」
「別に」
「ホントわかりやすいよね(笑)ムースで固めるより自然に流したほうが絶対にいいって」
「そっか」
「頑張ってね~漫画家志望の私になんかいいネタ提供してよね(笑)」


「あー面白かった」
「やっぱり宮崎駿はいいね」
「うん、私もほうきで空を飛んでみたいな」
「気持ちいいだろうね、暑いね、喉乾いたな~なんか飲」
「じゃあ私これからバレー部の練習あるから、映画付き合ってくれて有難う~」
「うん」


「マジで!? 映画見ただけかい、本当に映画が・・・・その映画が見たかっただけなんだな」
「うん、デートでもなんでもなかった・・・」
「そうしょげるなよ、いいことすればいいことあるっておまえ言っただろっ」
「なんかいいことあったのか?」
「まだないけど、いつかいいことあると信じていいことしようよ」
「えっ」
「今度は登山するんだって、一緒に行こうな」
「えっ? えーーー?」

別にいいことはなかったけど、暇でぶらぶらしてるよりはマシだったかな、ボランティアに精を出した俺の夏休み。ちょっとだけ彼女に近づけた夏休み。Tシャツに透けて写った水着姿が眼に焼き付いていた。

                                 *

「生徒会の役員を決めなきゃいかんのだが、誰かやりたいやついないか? じゃあ恒例のあみだクジで」

嘘だろ・・・こんなものに当たらなくてもいいのに。。。

生徒会役員には彼女がいた・・・大当たりのあみだクジだった。先生サンキュッ


雨か・・・やみそうにないな、走って帰るか。

「家どっち?」
「左だけど」
「じゃあ一緒に帰ろう、はい傘」
「ありがとう」

嬉しいんだけど相合傘なんて気恥しくて、緊張する。やみそうになかった雨は直ぐに止んだし、俺の家の方が学校から近くて、結局殆ど話せなかった。
だけどこれをきっかけに生徒会の役員会があるときは一緒に帰るようになった。

「コクらねーのか、好きなんだろっ 勝倉由美さんだっけ?」
「フルネームで気安く呼ぶなよ」
「ホントに好きなんだな(笑)付き合ってくださいって言ったとして断らないと思うけどな」
「そんなのわかんないし」
「言いたかないけど、おまえって結構カッコいいよ。モテないけどな(^^;」
「モテない理由は?」
「大人しくて暗くて地味(性格が)」
「わかってるし、でも彼女は明るくていつも元気でキラキラしてて眩しいくらいで、学校でも人気があって、そんな彼女と話が出来るようになっただけでも大きな進歩なんだ。だから今は彼女と話せるだけでいいんだ」
「そっか~純愛だな~頑張れっ」

本当は触れてみたい、キスできたらなんていろいろ思ったりする。そこは健康な17才男子だから(^^; でも今はたまに一緒に帰りながら話をするこの時間を大事にしたかった。

「明日で2学期も終わりだね」
「うん」
「藤井君は冬休みどうするの?」
「どうって」
「ボランティア?」
「えっ?」
「麻里に聞いたんだ、ときどき来てるって。私も行きたいんだけど結構部活が忙しくてって」
「バレー部のエースアタッカーだもんね」
「来年こそはインターハイに出たいし、今は部活頑張りたいんだ」
「僕も応援してる」
「ホントに、嬉しいな~」
「学校のみんなも応援してるから」
「特に藤井くんに応援して欲しいのっ」
「えっ?」
「じゃあね、バイバイ~また3学期ね」

特に藤井くんに応援してるってどういうことだ・・・まさか、まさかの・・・えーーー! そういうことなのかな? 

でも彼女は言った。 「今は部活頑張りたいだ」 って、 頑張れっ頑張れっ由美!

                                *

進学校なのもあって3年になるといよいよ受験色が強くなってきた。生徒会役員が終わると帰りが一緒になることも殆どなく淋しかったが、部活も勉強も頑張ってる彼女を思うと、俺もせめて勉強だけはちゃんとやろうと真面目な日々を過ごしていた。

今日は県大会決勝の日で沢山の生徒が女子バレー部の応援に駆け付けた。N高は全国大会でベスト8に入るくらいの強豪校だが、皆がボールに必死に喰らいつきフルセットにまでもつれこんだ。

頑張れっ頑張れっ! 

だけど善戦及ばず負けてしまった。悔しいな・・・俺がこんなに悔しいのに彼女は今頃どんな思いで。。。

「藤井君っ」 角を曲がった所に彼女がいた。

「どうしたの」
「待ってたんだよ、藤井君のこと」
「うん」
「負けちゃった・・・悔しいっ、悔しいよー悔しいよー」
「うん」

泣きじゃくる彼女を僕はそっと抱き寄せた。

「ありがとう、悔しくてたまらないけど一つだけ、良いことあった(微笑)」
「落ち着いた?」
「うん」
「あの・・・」
「ん?」
「えと・・・」
「なに?」
「こんなときに言うのなんだけど、ぼっ僕と付き合ってください」
「はい」
「いいの、本当にいいの?」
「長かったな~(笑)」
「えっ?」
「だって、映画誘ったの私だよ、告白も私の方からなんて嫌だったし~」
「え・・・・・」
「ホント鈍感だね、どうりでモテないわけだ(笑)」
「いや、今は部活頑張りたいって言ってたし」
「そうだね、頑張って決勝まで行けたし、藤井君は校内で1番取るし」
「うん(笑顔)」
「大好きっ 藤井くんのその笑顔」

照れて耳まで赤くなるのがわかった。夏休みは補習で忙しくて、それでも1回だけデートした。人生初の遊園地デートは滅茶楽しかった。2学期になると受験まで秒読みって感じでデートどころじゃなかったけど、毎日一緒に帰って今日1日のことを話したり、一緒に買い食いしたり。それがどんなにキラキラした時間だったとわかるのはもっとずっと先、大人になってからわかることだった。

クリスマスイブの今日、俺は公演のベンチに座り由美を待っていた。

「ごめ~ん、待った~」
「ううん、今来たとこ」
「メリークリスマス」
「あっ・・・マフラー」
「これ仕上げるのに時間かかっちゃった」
「凄いや、手編みのマフラーなんて貰ったの初めてだよ」
「ホント?」
「そもそも女の子と付き合ったのが由美が初めてだし」
「そうだったね(笑)私も初めてだよ」
「ホント?」
「藤井君と違ってコクられたことはあるけどね」
「ちぇっ なんか悔しい」
「ふーん」
「冗談だよ、好きな女の子なんていなかったから全然悔しくない。あっこれ僕からのクリスマスプレゼント」
「わぁー素敵なブローチ、高かったんじゃないの?」
「叔母がお店やっててそこで見つけたんだけど、分割払いで。もしくは大学に合格したらお祝いにくれるって(笑)」
「ありがとう~大事にするね。藤井君はT大受けるんだよね、凄いな~」
「由美が頑張ってるの見て、俺はせめて勉強くらいは頑張ろうかなって思ってさ」
「へぇー私ってあげまん?(笑)」
「うん」
「T大のどこ受けるの?」
「法科だよ。前に見た映画に出てた弁護士がカッコよくて」
「強きを助け弱気をくじく敏腕弁護士か、カッコいいね」
「なれるかな~」
「頑張って」
「まずは合格しなきゃな。あっ雪・・・」
「ヤッタっ ホワイトクリスマスだね」
「由美・・・」

初めて君にキスしたクリスマスイブ。来年も再来年もずっとずっとこんな風に君とクリスマスを迎えられますように。

                                  *

俺は東京の大学に、由美は地元の大学に進むことになった。同じ高校に通っていた頃と比べると会う時間は減ったけれど、俺はずっと由美のことが好きで、由美も俺のことが好きで、環境が変わってもその気持ちは何ら変わることなく愛を育んでいた。愛なんて言葉を使うのは照れるけど・・・あれは17才の夏休み。

「ねえ、お兄ちゃん、女の子に愛してるって言ったことある?」
「ねえよ、あるわけないだろっ」
「だよね~映画一緒に見ただけだもんね(笑)」
「うっせー」
「でもさ、愛してるなんてドラマや映画や少女漫画ならともかく、実際に聞くとどうなんだろっ」
「どうって?」
「なんか簡単に愛してるなんていう男って信用できないんだけど」
「おまえ中学生だろっ、なにませたこと言ってるんだよ」
「今読んでる漫画にそういう台詞があったんだ」
「そっか、びっくりした~」

亜子のせいで簡単に愛してるなんて言えない(笑)

「えっ?由美の家に・・・」
「両親が連れてきなさいって言うの、嫌?」
「そんなことないよ、でも緊張するな~社長と社長夫人だもんな」
「普通の親だよ」

由美の父親は地元で名の知れた会社を経営していた。由美は気さくでお嬢様という感じはしなかったから後で知ったときは驚いた。

「こんにちは、藤井聡です」
「いらっしゃい、さああがって」
「これ、皆さんで召し上がってください」
「ありがとう」
「君が聡くんか、由美は面食いだったんだな(笑)」
「お父さんたらっ!」
「本当にハンサムね~お父さんの若い頃にちょっと似てるわね」
「もう~お母さんまで~」
「この焼き菓子美味しいわね」
「うん、さすが東京の味は一味違うな」

気さくすぎて驚いた。明るくて優しそうな両親。この両親に由美は育てられたんだな。緊張も直ぐにほぐれ楽しい一時になった。

ガチャ

「誰?」
「お帰りなさい、正巳さん。由美のお友達よ」
「ふーん」

なんだろ? いっぺんに部屋の空気が変わった。兄がいると聞いていたからお兄さんなんだろうが・・・高そうな服を着ていた。ブランド物なんてよくは知らないが、そういう服なんだろう。この家で兄の出で立ちはどこか異質だった。車庫には普通の国産車と、外国の高級車。家に来たときにはあの車はなかったからあれは兄の車なんだろう。いつも明るい由美の違う一面を見た気がした。

「ご馳走さま」
「美味しかった?」
「うん」
「よかった~」
「あのさ・・・」
「なに?」
「ううん、なんでもない」
「・・・・・兄と私は血が繋がってないの」
「えっ?」
「両親はずっと子供が出来なくてそれで親戚の子を養子にもらった。そしてその後に私が生まれた」
「・・・・・・」
「私が生まれるまでは兄はとてもいい子で、明るくて優しくて勉強も出来て両親もとても可愛がっていた。私が生まれてもその気持ちは変わらないのに兄は変わってしまった。私は兄と殆ど話したことがない。兄は私を恨んでる」
「そんな・・・」
「ごめんね、嫌な話聞かせちゃって」
「ううん、なんでも話して、由美のことならなんでも知りたい。君の全てが知りたい」

その日、僕たちは結ばれた。終電に間に合うように帰るところが由美らしかった。


「俺、就職しようと思う」
「えっ大学院には行かないの? 司法試験受けないの、弁護士になりたいんじゃなかったの?」
「その筈だったんだけど、裁判とか見学してて思ったんだ。俺は雄弁じゃないし、平凡に生きてきて人生経験も少ないし」
「新米弁護士はみんなそうでしょ?」
「うーん、俺が誰かを弁護するなんておこがましくて(苦笑)なんか軽い気持ちで目指していい職業じゃないと思った」
「そっか、聡がそう決めたんならいいんじゃない」
「うん、由美はお父さんの会社手伝うんだろ」
「うん、そう言ったらお父さん、凄く喜んでた」

俺は早く一人前の男になって結婚して、由美をあの家から連れ出したかった。あの兄と一緒に暮らすとなにかよくないことが起きるんじゃないかと、時折不安にかられた。
何年かすると仕事にも慣れ、給料も大分上がった。といっても社長な父親からすれば微々たるものだが(苦笑)

「へぇ~ついにプロポーズするのか」
「うん」
「ホント由美ちゃん一筋だな。他の女とやりたいとか思わない・・・か(笑)」
「わかってるなら聞くな」
「わりい~おまえと由美ちゃんは運命の赤い糸で結ばれてるんだろうな」
「おまえはどうなんだよ」
「聞かないでくれよ~」
「そっか、でもおまえは見ているところが違うもんな。あのボランティアがきっかけだったんだろ?」
「そうだな、子供たちの笑顔を守りたいって、ガラにもなく思って」
「それで幼児教育の道を究めるんだよな」
「出世したいってわけじゃないけど、なにかをやろうと思ったら偉くならないといけないというか」
「教授になったらおごれよ~」
「それは遥か先の話で、まずは準教授目指すぞー」
「やれーおまえなら出来る」
「サンキュー~ 明日のプロポーズびしっと決めろよ」
「おうっ」


次の日の朝・・・・・

「お兄ちゃん、大変! 新聞見た?」
「新聞?」

勝倉工業倒産  そんな馬鹿な・・・堅実で固い商売をすると評判の勝倉工業が倒産とは信じがたかった。

専務の勝倉満氏がカジノで借金を作り、その穴埋めに会社の金を使い込み、資金繰りが厳しくなって遂に不渡りを出したと。もうずっと前から由美の兄が手がけた仕事は赤字続きだったらしい。忙しいからとここ最近会ってなかったがまさかそんなことになっていたなんて。いや、あのお父さんのことだ、由美も知らなかったのかも知れない。

電話をかけても通じるわけもなく、家には多くの出入りがあり、ようやく落ち着いて人も少なくなった頃には家には鍵がかかり誰もいなかった。

あまりにも無力な自分が情けなくて涙がこぼれた。俺がどうこう出来たわけじゃない・・・だけど何も言わずにいなくなるなんて。

渡せなかった婚約指輪を握りしめて呆然と由美の家の前に立ち尽くした。

雨が降ってきた・・・身も心も凍るような冷たい雨だった。

君はどうしてる? ちゃんと食べてる? 寒さに凍えてはいないか?

今日はクリスマスイブ 街を歩くカップルは幸せそうで、家の灯りもどこか温かく見える。

クリスチャンでもないのに皆どうしてクリスマスを祝えるんだろう、なに言ってるんだ、俺もそうだったじゃないか(苦笑)

君と初めてキスをした公園のベンチに座った。あの時と同じように雪が振ってきた。

僕には君の声が聞こえる。君の笑顔だって見えるよ。だけど触れようとするとこの雪のように消えてしまった。




「私、クリスマスには絶対ここにくるんだ」

「ここで? なにもない公園だよ(笑)」

「だって、大切な思い出の場所だから、もしもだよ、私と聡がなにかの事情で会えなくなったとしても必ずここに来るの、そうしたらいつかまたきっと会えるから」

「なんかそれって亜子が読んでる少女漫画の話みたいだな」

「あっ バカにしたでしょう~」

「そうじゃないよ、そんなロマンチックなこと言うなんて由美も女の子だなと思って」

「私はいつでも女の子だよ」

「結構男勝りのとこあるからな」

「ひどーい、それを言うなら聡は」

「女々しくて優柔不断・・・」

「自分のことそんな風に言わなくても(^^; 私は好きだよ、聡の優しいとこ、昔お祖母ちゃんが言ってたよ、優しい人は強いんだって」

「強いとは言い難いけど由美を守れるような男になりたいな(照)」

「ありがとう」

「ここは大切な思い出の場所だから俺もクリスマスにはここに来るよ」

「うん」

思い出はキラキラとあまりにも眩しくて・・・


次の年のクリスマスも、その次の年のクリスマスも、その次の年のクリスマスも俺は公園のベンチにいた。

だけど由美は現れなかった。どうか愛する人よ、元気でいてください。

そしてしばらくすると海外赴任の辞令がおり、次のクリスマスはシンガポールで迎えた。                   2章に続く
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1989 愛してる 2章

2015-12-19 19:29:09 | クリスマス小説
「メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
「サトシッ タノシンデル~」
「勿論、メリークリスマス!」

海外赴任に不安はなかった。日本を離れて環境を変えることはいい方向に僕を導いてくれてる気がした。仕事は順調で、仕事もプライベートも楽しんだ。自分を知る人がいないせいか、解放感があって自分を出せたことで仕事は順調で、仕事仲間ともうまくやれた。それと人生初のモテ気がきたようにモテた。最初は由美以外の女を抱くことに抵抗があったけれど、所詮俺も男なんだなと自覚した。異国の地での一人寝はときには淋しくて、女の身体はそんな自分を温めてくれた。

そして数年が経ち日本に帰ることになった。

「サトシ、気をつけて帰ってね」
「うん、ありがとう」
「それだけ?」
「えっ?」
「一緒に日本に来て欲しいっては言ってくれないのね」
「だって君は仕事があるだろ?だからまさか君がそう言うとは思いもしなかった」
「そうね、でもプロポーズされたらちょっとは考えたわよ(笑)、だけど仕事じゃなくて、なによりもサトシの中にいる誰かを消すことが出来ない私じゃ駄目なんだと思ったの」
「そんなこと・・・僕は君のことを」
「愛してくれたよね、私幸せだった。だからさよならじゃなくて有難うって言うね」

そんなふうに3年付き合った恋人と別れた。忘れたつもりだった・・・いや、それは嘘だ。他の女を愛しながらも由美を忘れることは出来なかった。

そして忘れられない人の棲む日本に降り立った。

海外で結果を出した俺は同期で一番の出世頭になった。その肩書きに恥じないように頑張った。同僚からも上司からも一目置かれるようになり、忙しいながらも充実した毎日が続いた。


「お兄ちゃん、なんか変わったね」
「そう?」
「お義兄さんは仕事が順調なんでしょうね。商社でバリバリ働くお義兄さんは僕の憧れです」
「なんか自信満々でさ、私は昔のお兄ちゃんの方が好きだな」
「頑張って仕事しててこの言われようだよ、亜子は相変わらず口が悪いな」
「すみません」
「なんであなたが謝るのよ」
「気の強い妹でこっちがすみませんだよ(笑)」
「もう~」
「ところで話って」
「哲夫さんが急にNY支社に転勤になっちゃって。それでこのマンション買ったばかりで手放したくないし、それでお兄ちゃんに私たちが帰ってくるまで住んでもらえないかなって思って。窓開けたり掃除してもらえれば安く貸すよ」
「こらっまたそんな言い方して、人が住んでいたほうが痛まないと思いますし、迷惑でなかったら考えてもらえないでしょうか」
「いいよ、ここ会社から近くで便利だし」
「ありがとう~お兄ちゃん、あっ氷なくなったから取ってくるね」
「ありがとうございます」
「いえ」
「亜子はお義兄さんが帰ってくるの楽しみにしてたんですよ。それなのに今度は僕たちがNYに行くことになって」
「またこんな風に飲みたかったですが仕方ないですね、亜子のことよろしくお願いします」
「はい!」

漫画家にはなれなかったけどいい人と結婚できてよかったな(微笑)

                                *

「藤井、週末のゴルフ、専務も一緒だから」
「あっ はい」

社長に最も近いと言われる大滝専務、俺なんかでは面識はなく緊張した。


「藤井と言います、よろしくお願いします」

「やあ君が藤井くんか、ふむふむなるほどね」

なるほどってなんだ?

「今日は娘を連れてきた。まだ初心者なんで教えてやってくれないか」

「美鈴と言います。よろしくお願いします」

周りの空気が華やいだ。

「これは聞きしに勝る美人ですな」

「妻に似たんでね、私に似なくてよかったよ(笑)」


専務のお嬢さんと何を話せばいいのかと思ったが、意外に気さくで話易く気がつくと一緒にゴルフを楽しんだ。それから何度か専務のゴルフに同行した。
専務の計らいで二人だけで何度か食事をした。

「藤井君どう思う?美鈴のこと」
「とてもいいお嬢さんで、素晴らしい女性だと思います」
「うむ、美鈴も君のことが気にいったみたいだ。美鈴との結婚を考えて欲しい」
「そんな、私なんかが美鈴さんと結婚とは分不相応な話です」
「美鈴に不満があるのか?」
「いいえ」」
「好きな女がいるのか」
「いません」
「ならいいじゃないか」
「あの・・・専務の家と私の家ではあまりにも」
「家柄が違うとかそんな古臭いこと言うんじゃないよ。私は美鈴が幸せならそれでいい。美鈴が結婚したいというなら祝福するよ。君は我が社の優秀な社員だ。それだけで十分だ」

結婚と言われてもピンとこなかった。30半ばなんだから結婚しても可笑しくはない話だが。


「いい話じゃないか、君は専務という強力な後ろ盾を得ることになる、やりたいことが出来るんだよ。羨ましいよ」
「はぁ」
「君を推薦したのは私だけどね(笑)」
「えっ?」

断る理由が見つからないうちにドンドンと外堀が埋められるように結婚話がまとまっていった。

指輪買わないとな、彼女ダイヤの指輪なんてはいて捨てるほど持ってそうだけど(苦笑) だけど美鈴さんは思いの外喜んでくれた。

「聡さん、幸せにしてくださいね」

はにかみながらそういう彼女はとても愛らしかった。まだお互いに知らない部分が沢山あると思う。だけどそれは徐々に埋められていくんだと思う。

「うん、一緒に幸せになろうな」

「はい!」


よっ玉の輿!と冷やかされたり、嫉妬や羨望の眼差しを感じることも少なくはなかった。俺は今まで以上に仕事に取り組んだ。家は郊外にあった為に仕事で遅くなる日は亜子のマンションで寝泊まりした。専務の用意してくれた家よりここの方がゆっくり出来ると言ったら美鈴に怒られるだろうが。週末には二人で出かけたり一緒に料理を作ったりもした。

「私たちって夫婦というより恋人同士みたいね」
「付き合った期間が短かったからね」
「新鮮で楽しいわ(笑)

美鈴は家庭的でいつも綺麗でよく出来た妻だと思う。家に帰らない日も多いが、そのことで何かを言われたことはない。母親と凄く仲がよく、しょっちゅう母親と旅行や買い物や食事に出かけていたから、私のことは気にしないでお仕事頑張ってねと言っていた。

「まだ子供はできんのかね」
「もう~お父さんたら」
「聡君は随分仕事を頑張っているみたいだが、私としては仕事より早く孫の顔が見たいもんだね」

そう言われると返事に困った。専務の娘婿として恥ずかしくないように仕事で結果を残さなければと頑張っているのに複雑だった。


                                *

「美鈴ちゃんは面食いだったんだね(笑)私の息子ではうんと言わないはずだ」
「やだわ、おじさまったら、正志さんはお兄さんみたいで結婚相手とは考えられなかったんです」
「小さい頃から兄弟のように遊んでいたもんな」

美鈴はどんな子供でしたかとでも聞けば話は広がるだろうに、S銀行の頭取を前に緊張するばかりで殆ど話も出来なかった。

「お父さんもお母さんも早く孫の顔が見たいって言ってたぞ、さぞ可愛い子供が生まれるだろうね」
「子供は授かりものですから(微笑)」

「ここ美味しいでしょう~」
「ああ、うん(緊張していたから味はよくわかんなかった」
「あらっショール忘れたのかしら?」
「取ってくるからこのまま車の中で待ってて」


「向こうのテーブルの椅子にショールが」
「これっエルメスのショールよ」
「S銀行の頭取と一緒にいたお嬢さんが忘れていったんじゃないかな」
「あ~高そうな服着てたよね」
「連れの男性がまたカッコよくて」
「カッコいいんだけど慣れてない感じで」
「よく見てるわね~(笑)」

「すみません、ショールの忘れ物なかったですか?」
「ありますよ、勝倉さん、ショールを」
「はい、こちらでよろしいでしょうか・・・・・」

由美・・・

「ホントいい男だわ~」
「でしょう~。勝倉さん、顔色悪いけど大丈夫?」
「はい、なんでもないです」

まさか・・・こんな所で会うなんて。少し痩せた? 元気そうでよかった。

もう10年が経つがそんなに変わってなかった。 心がざわついた・・・・・酷くざわついた。


                              *

「母と買い物に行ってもいい?」
「ああ」
「ヨーロッパで秋物見るの、知人の家とか、他にいろいろ行きたいところがあって1ヶ月くらい行ってもいいかな」
「うん」

専務というより美鈴の母親が相当な資産家だった。

昨日から喉が渇いて水ばかり飲んでいた。そして妻が出かけることに少しホッとした。何故ほっとするんだと思ったが、どうしようもなく心の中は由美でいっぱいだった。

気がつくと昨日のレストランの入っているホテルに向かっていた。もし偶然会えたなら・・・。いやそんな偶然なんてない方がいいんだ。帰ろう、帰らなきゃ。

「由美・・・・・」

「聡・・・」

「ビックリだね、10年会えなくて昨日と今日2度も会うなんて、少し飲まない?」

そう言って向かった場所は亜子のマンションの近くの大通りを外れた所にあるバーだった。物静かなマスター、センスのいい音楽、落ち着いた雰囲気のお気に入りの店で、誰かと飲んだことはなくいつも一人で飲む店だった。

気になることは沢山あったけれどどう切り出していいのかわからないでいると由美は静かに話し始めた。

「いろんなものを手放したから思ったほどの借金は残らなかったんだけど、それでもやっぱり自己破産したほうが楽だったと思う。でも一代で築いた会社だから諦められなくて会社を再建する為に頑張っていたんだけど無理がたたって父は5年前に亡くなった」

「何も知らなくて・・・」

「それからしばらくして私はある御曹司に見初められたの。何よりも母が喜んでくれた。私は結婚してしばらくすると妊娠した。だけど流産しちゃって、100%ではないけど子供を望むのはもう難しいと言われた。彼の家は名家でどうしても跡継ぎが欲しいと義母に泣かれて離婚したの。彼の家が借金を肩代わりしてくれて楽になったけれど精神的に応えたのは私より母の方で、前からよくはなかった心臓が心労から悪くなってしまって今入院してるの」

どう言えばいいのか話す言葉が見つからなかった。

「聡は結婚したの?」
「ああ」
「相手はあの頭取と仲良しのお嬢さん?」
「逆玉に乗っちゃった」
「意外だね」
「そう?」
「私も人のこと言えないけどね、ねえ私のこと時々は思い出したりしてた?」
「えっ?」
「冗談だよ~(笑)ちょっと飲み過ぎたかな」
「送るよ」
「いいよ」

足元がふらついてバランスを崩した由美を抱きとめた。

「君を思い出さない日なんてなかった」

「ずるいよ、そんなこと言うなんて・・・」

もしもその手に触れてしまったら

もしも唇重ねてしまったら

きっと二度と 戻れはしないなんて わかってた。


「ごめん」
「謝るくらいならこんなことしないで。違うか、こういうのって同罪だよね(苦笑)」
「相変わらず優等生なこと言うんだな、同罪じゃない。僕の方がずっと悪い」
「そっか、じゃあ私帰るね」

精一杯明るく振る舞った。昔から私は嫌になるくらい優等生だ。妊娠したときやっと聡のこと忘れられると思った。だけど駄目だった。

会いたくて、会いたくて、やっと会えた。もういい、これで十分よ。


会いたくて会いたくてもう一度だけ会いたくて・・・毎晩あの店に行った。天地がひっくり返っても君が来ることはないのに(苦笑)


カチャ・・・


「どうして・・・」

それから僕たちは何度も会った。昔の君は少し恥ずかしそうに照れながら僕に抱かれた。僕もそんな君を優しく優しく愛した。

だけど今はあの時と違う、この愛が永遠に続かないならばせめて今だけはと時間を惜しむように互いをむさぼるように愛し合った。

愛してる 愛してる 愛してる だけど君を幸せに出来ない僕は愛してるなんて言っちゃいけないんだと。

だけどせめてこの思いは届いて!

愛してる 愛してる 愛してる 僕の思いを受け止めて君は僕の腕の中で果てていく。


自分で自分がよくわからなかった。気がついたらあの店に行っていた。昔なにかの映画で「考えるより感じろ」と言っていた。今ならその意味がわかる気がする。だけどいつかきっと罰があたるね。それなのに・・・私は自分で思うよりもずっと女だった。


出会いが遅すぎたなんて 安っぽいことは言えないけれど

それ以上どんな言葉なら 答えにたどり着けるのだろうか


君を諦めてしまったのは僕なのに 諦められなくて どうすればいい? どうすれば・・・


人の物を取っちゃ駄目だよ、そんな当たり前のことを教えられたのはずっとずっと昔の幼い頃・・・

取らないから、これが最後だから これが最後だからと またひとつ夜を重ねていくごとに 罪は深く 愛はもっと深く 私はあなたの腕の中で溺れる


もう何処へも行かないでと僕は君の腕を掴む 君を強く抱きしめ 深く口づける

こんな不毛の愛はいつか終わるのだとしても 強く惹かれ彷徨うこの思いは 消せない 


だけどある日を境に君は姿を消した。どうして君はいつも突然いなくなるんだ そしてどうしていつも僕はこうなんだ。 後悔と自責の念で押しつぶされそうだった。 あの時と同じように・・・ ただあの時と違うのは僕には妻がいたことだった。


                                  *

「ただいま~」
「お帰り」
「いい結婚式だったわ。初恋同士なんですって、上手くいかないから初恋なんだと思ってた。余程太い赤い糸が繋がってたのかしら。ねえ、聡の初恋は?」
「高校のときだよ」
「私は近所の幼馴染が初恋だったの、友達が言うにはあの子のどこがいいのって言われたけどね。優しくて笑うと聡に似てた」
「えっ?」
「聡みたいな二枚目じゃないけど、笑うとくしゃってなって、目尻に皺が出来て少年みたいに笑うの。こんなふうに笑う人に悪い人はいないって思って、お父様にこの人がいいってお願いしたの」

悪い人はいないという言葉に胸がチクチクした。

「初めて聞いたよ、そんな話」
「そりゃあ初めて話したもの。ねえ、私子供が欲しい」
「うん」

そうだ、子供がいれば僕たちはもっと夫婦になれる。家族になれる。だが2年が過ぎても美鈴は妊娠しなかった。


「お母さん、退院してから体調があまりよくなくて軽井沢の別荘で療養することになったの、しばらくお母さんに付き添いたいんだけど行ってもいいかしら」
「うん、お義母さん、早く元気になるといいね」

前から温めていたプロジェクトを実現させる為にももう少し仕事に時間を割きたいと思っていたところだったので丁度よかった。専務に子供のことばかり聞かれるのは気が重いが仕方ない(苦笑)


そして瞬く間に三ヵ月が経った。

「専務、お話というのは?」
「聡くん、すまない」
「えっ何がですか? とにかく頭を上げてください」
「美鈴と別れて欲しい」
「えっ?」
「実は美鈴が妊娠した。父親が君でないのはわかるね」

この3ヶ月、美鈴は軽井沢から帰ってこなかった。

「なんでも幼馴染の初恋の彼と再会したらしい、君にとっては寝耳に水な話だろうが、私は美鈴が可愛い、産まれてくる孫の顔も見たい。悪いようにはしないからなにも言わずに美鈴と別れて欲しい」

なにも言える訳がなかった。先に妻を裏切ったのは僕なのだから。

「会社は病気療養の為に休職ということにした。君の私物は後日送るから会社には顔を出さないで欲しい」
「ちょっと待ってください、私が立ちあげたプロジェクトはどうなるんですか!? 1週間後には第1回の会議が開かれる段取りになっているんです」
「ああ、あれね」

ああ、あれって・・・

「悪くはないけどね、うん、私がOKを出したんだからまずまずの企画だと思うよ。確かに君は優秀だが、君の他にも我が社には沢山の優秀な社員がいて毎日沢山の企画が上がってくる。その中で私がOKを出したのは君が美鈴の婿だからだ」
「・・・」
「しかしなんだな、美鈴の妊娠の話より、仕事の話の方が取り乱すんだな。なにかやましいことでもあるのかな? まあ私のような男でも一つや二つ妻に話せないことはあるからね、君のような色男ならあっても不思議じゃない。そのことについてとやかく言うつもりはない、後で弁護士をよこすから細かい話は弁護士としたまえ。慰謝料もきっちり払わせてもらう。ただもう二度と私と美鈴の前に顔を見せないで欲しい。大事な身体だからいい精神状態で子供を産んで欲しいからね」

口座には多額の金額が振り込まれていた。口止め料か・・・

会社での俺の扱いは一体どうなっているのか、「病気早く治せよ」というメールが3通きただけでそれっきりだった。なにもかも失くした。あるのは金だけだ。

会社も仕事も好きだった。懸命にやってきた15年が泡のように消えた気がした。

美鈴、僕たちはお互いに忘れられない人がいたんだね。でも僕たちは結構いい夫婦だったよね、楽しかったよ、君との結婚生活は。良かったな、思いが成就して子供まで授かって、幸せになれよ。心からそう思っている。だがどうしようもない喪失感が襲った。

ある日久しぶりに携帯が鳴った。

「わかったよ、明日行くから」

両親は前から退職したら田舎に帰ると言っていた。故郷で余生を過ごしたいらしい。その思いがあったから家はずっと借家だった。家を明け渡すから大事なものが部屋にないか一度見て欲しいと言われていた。勝手に処分すればいいんだが離婚のことを話さなきゃいけない。

「どうして!?」

「性格の不一致ってやつかな、やっぱり美鈴とはいろいろ違い過ぎて段々上手くいかなくなったんだ」

つとめて明るく話した。

「仕事はどうするんだ、居づらいんじゃないのか?」
「うん、仕事は止めた」
「あんなに一生懸命やっていたのに」
「誘ってくれる会社もあるし、一緒に起業しないかっていう友達もいるし、まあ少し休んでゆっくり考えるよ。結構貯金もあるしね」

事実なのは貯金があるということだけだ。

「そう・・・」
「だから俺のことは心配しないで、落ち着いたらそっち(田舎)にも行くから」
「今日、ご飯食べてくでしょ」
「今日飲みにいく約束があるから」

そんな友人などいない。ただ親の前でこれ以上笑顔を見せるのはきつかった。俺ってホント友達いないよな(苦笑)唯一の親友の寺井は海外だし、亜子はアメリカだし、まあ妹に泣き言は言えないけどな。亜子だったら「お兄ちゃん、なんか隠してるでしょっ」て見破られそうだが。話す相手がいないってしんどい。

俺の部屋に大切なものなんてあっただろうか?ふと机の引き出しを開けて驚いた。あのとき渡せなかった指輪が箱に入ったままそこにあった。小さな箱には色褪せたリボン。閉じ込めていた思いが溢れ出た。

駅に向かって歩いていると雨が酷く降ってきた。あの頃なら濡れながら走って帰っただろうが今はもうそんな若さはなくタクシーを呼びとめた。窓の外を流れるのは懐かしい風景、キラキラと輝いていた記憶。

由美? タクシーの右に来た青い車に乗っていたのは由美!?

「すみません、右折してください」

「お客さん、今からじゃ無理ですよ」

「そうですね、すみません」

人違いかも知れない、だけど俺には由美にしか見えなかった。

「着きましたよ」


もうこの街に帰ってくることはないだろう。

この街を離れてからもう10年になるだろうか? 多分僕を知っている人はいない。この街に限らず僕を知る人は殆どいない。

誰に忘れられてもかまわない。だけど君だけは 君の心の片隅にほんの少しでいいから僕がいて欲しい。

それは僕の我儘だろうか。 それを望んだらまた僕は罰が当たりますか。。。


                                                       3章に続く

川村結花作詞 「愛してる」の歌詞を一部引用させて頂きました。

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1989 愛してる 3章

2015-12-19 19:28:50 | クリスマス小説
パチンコって便利だな、朝から晩まで時間を潰せて、1日やってると特に儲かりもしないけど損もしないことがわかった。夜は飲まないと眠れなくなっていた。日増しに酒の量が増えていく。

街が賑わっていると思ったら今日はクリスマスか。もう二度とあの街に帰ることはないと思っていたのに気がつくと公演のベンチに座っていた。

「私、クリスマスには絶対にここに来るんだ」

笑って聞いていたけれど、あれから何度もここに来た。君も来ただろうか? 

「ワインて飲みやすいけど、結構くるね」
「うん、ビールなんかより余程アルコール度数が高いからね」
「2本目開けなきゃよかったな」
「だな」

乾いた喉を潤す為にワイン飲んでるなんて、どこか可笑しいのかも知れない(苦笑)

高校生くらいのカップルが怪訝そうにこっちを見ている。そりゃそうだ、こんな時間にワインをラッパ飲みしてる髭面のおっさんじゃ白い眼で見られて当然だ。

俺にもあったな・・・あんな頃が。ただ話すだけで一緒に帰るだけで楽しくて、ドキドキしながら手を繋いだり、将来の夢なんか語ったりして世界がとても綺麗に見えた。どこでどう間違ったんだろう? 若くはないが老いてはいない。まだやり直せるじゃないか、それなのに俺はなにやってんだろう。

妙に寒気がした。ワインをもう1本開けて一気に飲み干した。 まずい・・・息が出来ない。どうなってんだ? わからないままに意識が遠のいていく。


「藤井さん!しっかり!眼を開けてください!」

「亜子?」

「よかった・・・・・今、先生呼んできますね」


「急性アルコール中毒です。たまたま看護師の高居さんが公園を通りかかって命拾いしましたね。相当不摂生な生活をしていたみたいですね、軽い肝硬変になってます。入院してください。今ならほんの初期なんでしっかり治療すればちゃんと治りますから」

「はい、よろしくお願いします」

ようやく眼が醒めた気がした。今まで病気らしい病気は殆どしたことがなく健康に産んでくれた親に感謝していた。もしこんなことで命を落としていたら最大の親不孝をするところだった。だが夜になると寝付けなく酷く喉が渇いた。おぞましいほどに身体が酒を欲していた。病院に酒なんてある訳がない。近くにコンビニなかったかな・・・。


「藤井さん、何処行くんですか? まだコンビニまで歩いて行ける体力ないですよ」
「看護師さん・・・」
「お酒でも飲まなきゃどうにもならないことがあるというのはわかります。私の兄がそうでした。大分お酒に依存してたみたいで、私は勉強が忙しくてそのことを知らないままで、ある日無茶な飲み方して急性アルコール中毒で命を落としました。そんな兄が許せなかったし、兄の異変に気付かなかった自分も許せませんでした」
「看護師さんは僕の妹に似てます。思いっきり妹に怒られてる気分になりました、妹がここにいたらひっぱ叩かれていますね(微笑)」
「看護師として患者さんをひっぱ叩く訳にはいきませんよ」
「またフラフラしてたら怒ってください」
「先生に話して睡眠剤を処方してもらいましょう。夜さえちゃんと寝れれば、昼は人の眼が沢山ありますからね、一番大事なのは絶対にもう飲まないという強い意志です」
「はい」

簡単ではなかったがようやくなんとか酒から離れることが出来た。 ん?これなんだろ・・・折り紙かな。

「あれ~どこにおとしたのかな」
「これを探しているのかな?」
「うん、ありがとう~おじちゃん」
「これって鶴を折るのかな」
「うん、でもうまくできないの」
「じゃあ、おじちゃんが折ってあげようか」
「うん!」
「はい」
「わーおじちゃん、じょうずだね、まなみもつるおりたいな、おじちゃん、おしえて」
「いいよ(微笑)」

こうして小さな可愛らしい少女に折り紙を教えることになった。昔寺井に付き合わされたボランティアで覚えた折り紙が役にたった。

「ママにつるみせたらすごーいってわらったよ」
「そっか、よかったな。まなみちゃんはママが大好きなんだね」
「うん、ママはきれいでやさしいんだよ、いちばんすきなのはママのわらったかお」
「じゃあ、もっとママが笑うように新しい折り紙覚えようか」
「うん!」

俺はすっかりこの少女と仲良くなった。だがいつものように病室に行くと面会謝絶の札がかかっていた。

「あの看護師さん、愛実ちゃんは難しい病気なんでしょうか?」

「そうね、でも大きくなったら手術を受けられるから愛実ちゃんも、愛実ちゃんのお母さんも頑張っていらっしゃるのよ」

病院にはいろんな人がいた。今更ながらこの1年の自分の怠惰な生活を悔やんだ。ちゃんとしなきゃな。

ある日同室の里中さんが遺産相続で親戚がもめていて困るということを話していて、アドバイスというほどのものではないけれど、知っていることを少し助言した。

「そっか~藤井さんてもしかして弁護士さん?」
「まさかとんでもないです。大学が法学部だけだっただけです。それに今は無職です(苦笑)」
「藤井さんは賢そうな顔してるもんな」
「T大の法学部とか」
「えっ・・・」
「マジっすか~俺、大学なんてそこしかシラネーから適当に言ったのに」
「頭いい人って偉そうな人が多いのに藤井さんは頭が低いからね」
「藤井さんみたいな人が弁護士なら話易いのにな」
「そうそう弁護士ってなんか敷居が高くてね」
「藤井さん、今無職なんだろ、今からでも弁護士になればいいのに」

弱気を助け強気をくじく、そんな弁護士になりたかったのを思い出していた。あの頃の自分が弁護士になるのは無理があると思っていた。だけど今なら、人の心に寄り添える、そんな弁護士になれるかも知れない。だけどもう長いこと六法全書なんて読んでないし、今から死に物狂いで勉強したとして司法試験に受かるとは思えない。それでも俺はなにかを始めなきゃと思った。やらずに諦めるのはもう止めよう。

                 
                             *

今年のクリスマスも公園のベンチで迎えた。なんだかここに来ると気持ちが安らいだ。

君は元気でいますか? 幸せですか? ・・・いや、人はそう簡単に幸せにはなれないよな、ただ健康で元気でいてください。

俺はと言えばやっと司法試験予備試験に合格したよ。次は司法試験だ、ただ司法試験予備試験に受かるのに3年かかったから司法試験となると5年は覚悟しなきゃいけないかも(苦笑)。5年以内に合格しないと後がないんだけどな。

だが次の年俺は司法試験に合格した。信じられなかった、山が大当たりに当たったのもあるが、ようやく神様に頑張りを認められてる気がした。そう思えるほど奇跡としか言いようがない合格だった。司法修習を受け、修習後に行われる考試に合格した後、弁護士会に登録されれば晴れて弁護士だ。周りは殆ど俺より若かったが、なりふり構わず喰らいついて必死だった。


「寺井! 久しぶりだな」
「藤井~会いたかったよ~」
「俺もだよ(笑)」
「ん?もしかしてそれって弁護士バッチじゃないのか?」
「うん(微笑)」
「専務のご令嬢と結婚したんじゃなかったのか? なにがどうしてそうなったんだ?、聞かせてくれよ~」
「うん、今夜は飲み明かそうぜ」

「頑張ったな~おまえ頑張ったんだな~」
「寺井も凄いよ、海外留学を経てW大の準教授だもんな、本なんかも出しててな。まっしぐらだもんな、おまえの道は。俺なんて曲がりくねった人生だよ」
「生きてきた証だよ、次は綺麗な花を咲かせようぜっ」
「俺はもうそっちはいいよ」
「なんでだよ、なんかおまえ40過ぎて益々いい男になってきたじゃん、そっちはいいよとか勿体ないぜ」」
「おまえこそまだ一度も結婚してないんだろ、一度くらい結婚しろよ」
「はは、そうだったな(笑)」

楽しかった。またこんなふうに笑える日がくるなんて(微笑)


クリスマス、仕事帰りに一緒に淋しく男飯でもしようと約束してた寺井にドタキャンされた。彼女でもできたかな(笑)という訳で久しぶりに公園のベンチでクリスマスを迎えた。ん? あれは病院じゃないか、そっか隣のビルがなくなったから病院が見えるのか。意外とここから近かったんだな。亜子によく似た看護師さんはもういないだろうか? 愛実ちゃんは?愛実ちゃんは病院なんかにいないほうがいいよな、元気になって退院していて欲しい。懐かしさついでで病院の近くまで行ってみた。

「もしかして藤井さんですか?」
「看護師さん! お久しぶりです」
「あの~もしかしてそのバッチって弁護士バッチじゃないですか?」
「ええ、まあ」
「前に同室の患者さんたちが昔そんな話をしていましたが本当になられたんですね弁護士に、素晴らしいです」
「看護師さんこそ、その指輪・・・結婚なされたんですね」
「ええ」
「おめでとうございます。どうりで綺麗になった筈だ」
「あら、その言い方だと昔は綺麗じゃなかったみたいな言い方で」
「なんかキャラも変わりましたね(笑)」
「藤井さんこそ(笑)」
「これから仕事ですか」
「はい」

「ママ!」
「愛実ちゃん」
「なんだ、看護師さんか」
「ごめんね~ママじゃなくて、ママもう直ぐ来るだろうから中に入って待っていようね、外は寒いよ」
「うん」
「愛実ちゃん?」
「おじちゃん、誰?」
「えーと・・・愛実ちゃんは今も折り紙好き?」
「うん好きだよ、あー折り紙のおじちゃんだ~」
「思い出してくれたんだ、ありがとう!」
「おじちゃん、お髭がないからわかんなかったよ」
「そっか(笑)」


「愛実、遅くなってごめんね~」

「ママ!」

「由美・・・・・」


                                 *

「そのバッチ・・・弁護士になったの?」

「離婚して会社クビになって、アル中になって死にそうなところをさっきの看護師さんに助けてもらって、病気と闘う人や、小さな体でいつも笑顔で元気に頑張っている愛実ちゃんを見て、俺もちゃんと生きなきゃいけないと思って一大決心して死に物狂いで勉強して目出度く弁護士になりました。」

「そうだったんだ」

「弁護士と言ってもまだ新米のペーペーで先輩に付いて周って勉強させてもらってるんだけど、その先輩は年下、でクライアントはまず俺の顔を見て頭を下げるんだ。早く外見に中身が追い付かないとなって先輩に言われてる(苦笑)」

「バリバリの敏腕弁護士に見えるもんね(笑)」

「君はどうしてた? あの子は?」

「あの頃・・・いつものように病院に行くと母の容態が急変して、あっという間だった。まさかこんなに早く亡くなるなんて罰が当たったんだと思った。それからしばらくして妊娠していることに気付いた。流産したときに可能性は0ではないけど限りなく0に近いと言われていたから信じられなかった。母の手術代や入院の支払いに葬式を出したらもうすっからかんで、お金もない、母もいない、頼る人もいないでどうしようかと途方に暮れた。ううん、なにもしなくてもあの時と同じようにまた流産するだろうから病院にも行かずにそれを待とうと思ったの(苦笑) そんなある日のこと母の遺品を整理してたらタンスの奥から保険の証書が出てきたの、既に支払いの終わっている300万円の終身保険で受け取りは私になっていた。産みなさい、ちゃんと産んで育てるのよという母の声が聞こえた気がした。あの時も母は誰よりも子供が生まれるのを楽しみにしてたんだった。そして妊娠の報告に母の墓参りに行くと叔母に会ったの。叔父の看病でなにも出来なかったのを後悔していて私を頼って欲しいと言ってくれた。叔父はもう亡くなっていて、それで叔母の家に世話になることになったの。そして私は無事に赤ちゃんを産んだ。生まれてきた子はとても可愛い女の子で愛が実るようにと愛実と名付けたの。だけど愛実は生まれながらに心臓に病気をもっていて、大きくなったら手術をするということで殆ど病院暮らし。でも明るくて元気な子で、私は愛実の手術代を作る為に必死で働いてきた。でも全然苦じゃないの、どんなに疲れていてもあの子の笑顔を見れば元気になれるもの。折り紙のおじちゃんて聡のことだったのね、愛実は折り紙のおじちゃんが好きでよく話してくれたわ(微笑)」

「由美、愛実を生んでくれてありがとう。あんないい子に育ててくれてありがとう」

「もう~聡ったら泣き過ぎ、鼻水まで出して二枚目が台無しよ(笑)」

「僕はなにも出来なくて、なにもしてこなくてすまない、本当にすまない」

「あなたも私も苦しんだ。私たちは間違っていたんだと思う。でも私とあなたが心から愛し合って授かったのが愛実だから、いつか愛実が大人になったときにちゃんと話そうと思う」

「うん、それがいい」

「俺は折り紙のおじちゃんとして、愛実ちゃんのママを好きになったからプロポーズしたんだ、だから愛実ちゃんのパパになってもいいかなって言うよ」

「あらっ プロポーズしてくれるの?」

「あっしまった・・・」

「いつも私の方から言うんだもんね、映画誘ったのも私だし(笑)」

「一生言われるな(笑) もしもう一度君に会えたならプロポーズしようと思ってこの指輪いつも持ち歩いていた。実家の俺の部屋の机の引き出しに入っていたんだ・・・17年前に渡せなかった指輪が」

「17年前というとあの時・・・」

「勝倉由美さん、僕と結婚してください」

両方の頬を流れる綺麗な涙・・・

「はい」

君は泣きながら笑顔で頷いた。

「あっ 雪」

「あのときと同じだね、ホワイトクリスマス」

「雪が振ってきたのに全然寒くなくて」

「雪ってあったかいなって、そんな訳ないのに(笑)」

「それはあのとき聡が・・・」

「キスしたから、こんな風に(微笑)初めてのキスだから緊張してドキドキして、だからなんだか身体がほてってほてって」

「温かかったね(微笑)」

「由美・・・愛してる」

「愛してるなんて初めて聞いた」

「ほらっ昔、亜子が簡単に愛してるなんて言う男信用出来ないって言ったろ、だからなかなか言えなくてプロポーズしたら言おうって思ってたら、プロポーズできなくてそれで17年もかかっちゃった」

「17年越しの愛してるなんだ」

「うん」

「嬉しい、凄く嬉しい」

今度は君の方からキスをしてきた。少し背伸びして(微笑)

「何度でも言うよ、愛してる、愛してる、愛してる」

「私も~ 愛してる、愛してる、愛してる!」


雪が降る・・・

真っ白い雪は・・・哀しみを、苦しみを、過ちを全てを覆い尽くしていく。

だけどそれらを忘れてはいけないんだと。そして新しい明日を僕たちは生きていく。                       


                       完


                  ・・・エピローグ・・・


「あー美味しかった、ママの作る玉子焼きは絶品だね。食後の運動にジョンと遊んでくるね」

「ああ」

「高校生になっても一緒に花見に来てくれるなんて嬉しいけど友達がいないわけじゃないよな?」

「明日は友達と遊園地に行くって言ってたわよ」

「そっか、早いな~もう高校生か、4年前に手術の成功率が五分五分と聞かされたときはどうしようかと思ったけど、手術したからあんなに元気に走れるんだもんな。俺はもしものことを考えると怖くて手術しなくていいと思ったんだけど、君が愛実なら大丈夫って言ったんだよな、君は昔から強いよな。愛実もそんな君に似て強いから病気に勝って元気になったんだな」

「あのとき」

「えっ?」

「愛実が手術室に入った途端、今までめそめそしてたあなたが叫んだでしょ、愛実!負けるな!生きろ!生きて必ずママとパパのところに戻ってこい!て叫んだでしょ、とても大きな声で力強く。愛実にも聞こえてたんですって。それで絶対生きてやるって思ったそうよ。手術の後身体きつくて忘れていたんだけど、こないだあなたの大きな声聞いて思い出したって言ってたわ」

「大きな声って?」

「ジョン、それは食べるな! 賞味期限過ぎてるって(笑)」

「ああ、あれか~」

「あなたも強いわよ、泣き虫だけどね(笑)私お手洗い行ってくるね」


「あー喉乾いた~ママは?」

「トイレ」

「私の本当のパパってパパなんでしょ?」

「えっ?」

「私が大人になったら本当のこと話そうと思っているんだろうけど、私もう16だよ、別に20才まで待たなくていいから。それにママとパパが愛し合って私が生まれた。それでいいじゃん、それが一番大事なんだから。ジョンもう1回、行こうか」

「ワン!」

「パパも一緒に行こうよ!」

「よーしっ」


季節は巡ると言うけど僕は後何度
満開に咲き誇れる桜を見れるのだろう

時よ止まって なんて叶わないって知ってる
だけどもう少しこのままでいたいよ
繋いだこの手 いつか離れてゆくよ
ありふれた日々が ただ愛しくて                                   end


藤木直人作詞 utakata の歌詞を一部引用させて頂きました。

最後まで読んで頂きありがとうございます。楽しんで頂けたなら幸いです。一言でも感想頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします。

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視線の先

2015-12-14 22:17:14 | naohito
今日昼休みにTSUTAYAに行きました。

今日はあるだろう~プラスアクト~♪ 自動扉が開くとあったぞー、入って直ぐの凄く目立つところに置いてありました。

と思ったんですが、よく考えてみたらその周辺には他の雑誌も沢山あって、ここにDaiGoさんがいたら「あなたの欲しい本はこれですね」って言われるくらいそれしか見えてなかった気がする(^^; ピカーと光ってたもんね(笑)

写真もインタビューも良かったです。インタビュアーの方が直人の作品をよく見てわかっているのもよかったですね。

とても読み応えがありました、超買いですよ~

コメントも、おーとか、へぇーとか、これは嬉しいな~とか、うんうん知ってるよ~と楽しかったです。

アーティストブックはもっといろいろ語っているんでしょうね、いつ届くのかな~待ち遠しいね。

HOT NAO更新してるけどカフカ終わるの早っ 見たい写真は全然見れなくて、また会報のちっこい写真になるのかな

EYESも更新してます。うーん4月だもんね(^^; 毎度仕事の節目にはきちっとVOICE更新してくれる御人は律儀で優しいな~

お正月のイズム、楽しみです~。昨日のイズムも可愛くて面白かったです。青で爆笑でした 長年ファンやってて、直人ばっか見てるけど(ときには直人しか見てないし)なに選ぶか全然わからないもんね。パスタと聞いて、あーそうだったと思ったけど~直ぐにパスタと浮かんだ方も結構いるかな?因みに私もピスタチオ好きです。高カロリーかなと思って最近は食べてませんが。

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