暑い・・・どういてこうも毎日暑いのか、昔はこうじゃなかったのに。
「キキー!」
えっ? 私は歩道を歩いているんだぞ、何故車が・・・
この足がもっと速く動いていたら私は事故にあわなかったかもしれないのに。
「内臓破裂!意識レベル低下!極めて危険な状態です!」
なんて酷い状態なんだ、これではもって5日だな。そう私は自分の身体に耐えられず魂だけが外に出ていた。
まだ死んでないから幽霊ではないが、これが幽体離脱というのだろうか。
「ぶちょお! ぶちょお! ぶちょお! しっかりしてください! 私をおいて死んだりしないで!」
煩いな、ここは病院だぞっ。大体どう見ても私より軽傷じゃないか、ん?なんだこの男は・・・私と同じ顔をしてる。似てるというレベルではなく、まるで同じ顔だ、体型も同じだ。
「ぶちょお!ぶちょお!」
公衆の面前で部長部長ってよくもまあデカい声で不倫を公言できるもんだ。
「高野さんの奥さん、お入りください」
「あの主人の様子は?」
「10針縫いましたが、CTも異常ないですし、48時間なにもなければ問題ないでしょう。しばらくは安静にしてくださいね」
「ありがとうございます」
なんだ夫婦だったのか、多分この男私と同じくらいの年齢だろうに、あんな若い娘と結婚しやがって(ちっ)私なんてもうすぐ死ぬのに・・・そうもうすぐ死ぬんだな。死ぬ前に食べたいものの一つも食べておくか(^^; 意識を失っている今ならこの身体に入れるかも知れない。医者の私が言うのもなんだが私はオカルトとかSFが好きなのだ。それに私と同じ顔したこの男の人生にも興味があった。よしっ入ってみよう、それっ
*
うぅぅ重い・・・これっ娘、私の上で寝るでない。
「やだっ寝ちゃったんだ、私・・・ぶちょお?眼が覚めたんですか!どこも痛くないですか!具合は?今先生呼んできますね」
「どこも問題ないようです」
「先生、ありがとうございます! よかった~」
「・・・・・・・・・」
ん?
「2、3質問させて頂きますが、高野さんの生年月日は?」
「頭を打ったせいかな(^^; なにやらぼやっとして」
「こちらの奥様のお名前は」
「なんだっけ?」
「ぶちょお~!」
「奥さんを見る目がまるで他人を見るような眼をされていたのでもしやと思ったのですが、どうもご主人は頭を打ったことで記憶障害を起こされているようです」
「そんな・・・治りますよね? 直ぐに記憶戻りますよね!」
「軽傷ですし、こういう場合だと一時的な記憶喪失の場合が殆どですが、稀に長引くこともあります」
「先生!稀ってどれくらいのこと言ってるんですか!」
「あっいや、滅多にないことですから(^^; 二人の馴れ初めなんか話すといろいろと思い出してくるかもしれませんよ」
「はいっ!」
・
・・・・・・・略・・・・・・・・・
「という紆余曲折を経て、私旧姓雨宮蛍とぶちょおは目出度く結婚したのでありんす」
人の恋バナほどつまんないものはないな。
「ぶちょお? なんか少し思い出しました?」
「・・・・・・・・・・」
「そうですね、急にはですね・・・それにまだまだ話すこと沢山あるし、またおいおいとです」
今の話だけでおなかいっぱいなんだが(苦笑)
「なんか食べたいものとかありますか?」
「寿司、特上だからな。デザートはメロンで、メロンも上物で」
「了解!」
了解とかぶちょおとかアホ宮とかわからん夫婦だ、それに干物女ってなんだ?若い嫁さんもらって羨ましいと思ったが、こんな女ならちっとも羨ましくないわ。私は古風な三つ指ついてお帰りなさいという女が好きなのだ。
「それでぶちょおは泥だらけのウエディングドレス着た私をギュッと抱きしめてくれたんです」
つくづく奇特な男だ(^^;
「高野~俺だよ、俺! 本当に俺のこと覚えてないのか? 切ないな~俺とおまえの仲じゃないか(涙)」
「ちょっとフタちゃん、ホタルのこともまだ思い出せないのに」
「ごめんな・・・ホタルちゃん」
「いえ、まだ何日も経ってませんしそのうち思い出すと思います。幸い身体の方は元気でよく食べるんです(^^;」
「そうだな、美味そうにうな重食ってるな」
「部長、一心不乱にうな重食べていたわね。なんかあんな部長初めて見るわ。まるで別人みたい。記憶がないとあんなふうになるのかな~?」
「そうまるで別人なんだよ。だって高野、ちゃんと箸持ってたし」
「えっ?」
「欠点なんて一つもないように見える高野なんだが唯一の欠点をあげるとすれば箸の持ち方がおかしいんだよな(こら)」
「あーそういえば(^^;」
「普通は記憶は無くしても身体が覚えているってよく言うだろ、箸だけちゃんと持つなんて何処か可笑しいなと思って」
「私もなんていうか、記憶が無いだけじゃなくてなんかこう雰囲気が全然違って別人に見えたわ」
「まるでなにか悪い霊にでも憑りつかれたような」
「大変、もしそうなら除霊してもらわなくちゃ」
「て、俺たち日本幽霊百一夜のDVDの見過ぎだな(^^;」
「そうね、冗談言ってる場合じゃないわ、ホタル大丈夫かしら(涙) 二人の大好きな夏にこんなことになるなんて」
「そうだよな、二人の大好きなビールと縁側の夏に・・・そうだっ縁側だ! 縁側に座ればきっと思い出すさ」
「うん、そうよっ縁側よ! 私もそう思う」
二人でそう言って励ましてくれた。私もそう思ったんだけど、あの縁側に帰ってそれでもなにも思い出さなかったら・・・恐い・・・大好きな縁側、だけど今はその縁側に帰るのが恐いです。
「蛍さん」
「小夏さん、お久しぶりです。今日はお見舞いに来て頂いてありがとうございます。」
「これ」
「綺麗なお花、花瓶に生けてきますね」
「誠一さん、私のこと覚えてない? 蛍さんのこと覚えてないのに私のこと覚えてないだろうけど」
「失礼ですが私とあなたはどういう関係で」
「そんな・・・女の私からそういうこと言わせないで」
なんと美しくたおやかな女性なんだ。この色っぽい女性とそういう関係にあったとはやるじゃないか、てか、なんでこの人じゃなくあの娘と結婚したんだ?
「おはぎ作ってきたんですよ」
「ありがとうございます。うん、これは美味いや」
あんな嬉しそうなぶちょおの顔、入院してから初めて見た・・・ぶちょおは本来小夏さんみたいな女性が好きなんだ。
たまたま私と出会って縁があって結婚したけど、私みたいな干物女はタイプじゃないよね。
私はずっとずっとぶちょおのことが好きだけど、もしこのまま記憶が戻らなかったら・・・今までの思い出が無いぶちょおに私のことを好きになってもらえる自信がないです。。。
「お義父さん、今日はありがとうございました」
「すまない・・・私はあまりいい父親ではなかったから」
「そんなこと・・・」
「やっぱり誠一の記憶を戻すのは蛍ちゃんだよ。私は信じるよ、誠一の蛍ちゃんへの愛を」
「お義父さん・・・」
さすがに父親に出てこられると弱いな・・・そろそろこの身体から離れるか。
エイッ 出ない、何故だ? うーん、困った。だが私の命が尽きたら魂も離れるだろう。すまんがもう少しだけ借りるぞ。
「ぶちょお、お義父さん帰りましたよ」
「・・・・・・・・・」
「寝てるんだ。お義父さんも少し年をとりましたね。ぶちょおのお母さんが早くに亡くなって、それなのに父親としてなにも出来なかったこと今でも後悔してるそうです。お義父さんはぶちょおのことが大好きなのに、ぶちょおの前に出ると緊張するらしいです。ぶちょおもそうだろうけど(笑)また3人で焼肉しようね(笑顔)」
この娘はあたたかく、その笑顔は美しい。。。
「ぶちょお・・・ちゅうしていいですか?」
えっ?
「なんか寝てるときでないと絶対にちゅうしてくれない気がして、よしっ寝てる間にちゅうしちゃおう」
こらっ夫のある身で見ず知らずの男にキスなんてするんじゃない! この唇も身体も君の旦那ではあるけれど、中身は他人だぞ。大体私は好きな女としかキスしないんだ。だけど拒否なんてしたらこの娘はどんなに傷つき悲しむだろう。
「ぶちょお・・・」
すまないっ
「ホタル?」
*
ん?ここは・・・そうか、ようやくあの身体から抜け出せたのか。はて?私はどうなったんだろう
なんと!回復してるではないか・・・ 医者が手を尽くしたか。
そうだ、それが医者だ。目の前に救う命があれば全力を尽くすのが医者というものだ。
だから私もあのとき、彼を救ったんだ。
「先生、気付かれましたか? よかった、本当によかったです。今ドクター呼んできますね」
「君は確か・・・」
「はい、先生の勤務する病院で医療事務をしている早坂といいます」
「君が何故?」
「差し出がましい思ったのですが、先生には身内の方がおられないと聞いて私が看病させて頂きました」
「どうして?」
「勤め始めた頃、私は先輩から苛められていました。毎日が辛くて辛くて、そんな私に先生は優しい言葉をかけてくださったんです」
そういえばそんなことがあったな。私は勉強は出来たけど、暗い、グズでのろいという理由で苛められっ子だったのだ。だから苛める奴は許せないし、苛められているものには力になりたいと思うのだろう。
「早坂さん、看病ありがとうございます(笑顔)」
「先生・・・」
なっ なんなんだ? 顔を真っ赤にして
「具合はどうですか、主治医の浅丘です」
「先生、ありがとうございました。看護士さんもありがとうございます(笑顔)」
なんだろっ? この看護士さんも顔が赤いぞ。
「そんな素敵な笑顔でありがとって言われると嬉しくなっちゃいますね(笑)」←女医です。
えっ俺の笑顔って素敵なのか? そういえばあの娘もぶちょおの笑顔が一番好きだと言ってたな。
術後の経過はよく思った以上に早く退院してしばらくすると私は職場に復帰した。
「来週の水曜日にギブス外しましょう」
「はいっ先生、ありがとうございました!」
「またサッカー出来るようになるぞ」
「うん!」
「最近ここ雰囲気よくなったわね」
「先生、事故にあって退院してから人が変わったように丸くなって仕事がし易くなったもの」
ありがとうと言うだけで、少し笑うだけで人間関係はこんなにも上手くいくんだ・・・
中学のときに酷い体験をしたが両親が懸命に俺を支えてくれた。ようやく医者になってこれから親孝行しようと思った矢先に旅行先の温泉で火事に巻き込まれて両親は亡くなった。私はこの世の全てを恨んだ。美しいとか幸せとかそんなもの自分には縁のないことだと思っていた。だが少し考え方を変えるだけで野に咲く花が美しく見えた。過去を振り返ってばかりじゃいけないんだとようやく気付くことができた。
それと、あれだけ愛されてる私と同じ顔をした男が羨ましくなったんだな。出来るならこれからでも人生やり直したいと。
「先生、お疲れ様でした」
「早坂さん、これから食事でもどうですか? 一度ちゃんとお礼がしたいと思ってました」
「はいっ 喜んで!」
「よかった(笑顔)」
*
「ぶちょお、ぶちょお、ささっどうぞっ」
「うん」
「お帰り、ここが君の場所だ」
「それ、俺が昔君に言った言葉じゃないか(笑)」
「えへっ ぶちょお、退院おめでとうございます!

」
「ありがとう、うん今日のビールは格別に美味いっ」
「はい、格別に美味しいです!」
「心配かけてごめんな」
「はい(微笑)」
「なんだよ、俺の顔ジーッと見てなんかついてるか?」
「私のキスで目覚めた(記憶が戻った)ぶちょおはさながら白雪姫か、眠れる森の美女ですね(笑)」
「だな(笑)それはそうと退院したら急にお腹が出たような気がするんだが・・・」
「そりゃあぶちょおたら、寝てるだけなのに凄く食べてましたからね」
「えっ?」
「特上のお寿司に、うな重に、焼肉弁当に、ピザやアイスやケーキやメロンやらetcと」
「嘘だろ・・・そんな暴飲暴食をしてたのか。何故止めなかった?」
「だってなんか言うと、冷たい眼で睨むんですよ。私は心労でぶちょおが入院してる間に痩せちゃいました」
「そうだったのか・・・他にはなにもなかったか?」
「小夏さんがくると鼻の下伸ばして、小夏さんの作ったおはぎを美味しそうに食べてました」
「記憶喪失とは恐いもんだな、記憶を失っていたときのことはなにも覚えてないんだ、知らぬこととはいえ君を傷つけたりしてたんだな・・・」
「王子様はお姫様のキスで目覚め幸せに暮らしましたとさ、めでたし、めでたしです(笑顔)」
「ありがとうホタル

」
「ぷにぷにしてる~」
「こらっ なにするんだ」
「だってぶちょおのお腹の肉つかめるなんて滅多にないんだもの(笑)」
「少しダイエットしなきゃな(笑)ホタル? どうしたんだ」
「なんか今頃ホッとして、ぶちょおの笑顔見たら幸せで泣けてきました」
「こんな些細なことで・・・ 君はもっと幸せになっていいんだよ」
「私・・・・・これ以上幸せになっていいんだぁ~」
「いいよ(微笑) 二人で幸せになろうな」
「はい・・・・・三人てのもいいかな(照)」
「うん、いいね。それには俺が頑張らなきゃだな」
「はいっ頑張ってください。私、受けて立ちますから」
はっ 私ったらまた色気のないことを。
「誠一さんにそんなこと言われると恥ずかしいです~」
「じゃあお言葉に甘えて恥ずかしいことしちゃおっ」
「いやーん」

おしまい
おまけの話です。 凛ちゃんinニューヨーク
「店長、お先に失礼します」
「ああ、ご苦労さん」
さてと、俺もそろそろ帰るか。ん?なにやら冷たい風が・・・
「あの~」
「あー、もう店閉まったんですが・・・」
なんだろ? 白い着物に片目しか見えない長い黒髪、まるで四谷怪談に出てくる幽霊みたいだ(^^; 足があるから幽霊ではないだろうけど、こんな時間にこんな格好でなにか余程の事情があるのかな。
「カットくらいなら今からでも出来ますが」
「ありがとうございます。実は大切な人にお別れが言いたいのです。一番綺麗な私でさよならしたかったのに、訳あってこんな格好になってしまったんです・・・」
「そうでしたか、そいうことなら任せてください。綺麗な黒髪だ、毛先だけカットしてアップにしましょう。丁度知り合いが置いていったレンタルのドレスと靴もある。メイクは顔色がよく見えるように明るい感じにしましょうか」
「お任せします」
「OK!」
「まあ!これが私だなんて信じられない。あなたはまるで魔法使いのようです」
「女性をシンデレラにするのが僕の仕事ですから(笑)」
「本当にありがとうございます。お代はここに」
「こんなには頂けないです」
「いえ、こんな時間に無理言ったお礼ですので受け取ってください」
「そうですか・・・では」
「ごきげんよう、さようなら」
エアコン切ったのに今夜は随分と寒いな、なんだか恐ろしく眠いし今日は店に泊まるか。
次の日の新聞では、昨日の夕刻に玉突き事故が起き数人の犠牲者が出たことを伝えていて、そこには日本人女性の名前も記されていた。
「おはようございます、店長」
「ああ、おはよう」
「店長!どうしたんですか?」
「えっ?」
「なんか一晩で随分とやつれて、どっか悪いんじゃないですか? 今日は休んでください」
「そうですよ、今日は私たちが頑張りますから無理しないで具合が悪かったら病院に行ってくださいね」
ありがとう、素敵な店長さん
「うわぁ~! なんか今凄まじい寒気というか悪寒が・・・今日は休ませてもらおうかな、みんなよろしくな」
「はいっ!」
それにしても極上のいい男だったな~それに私の無理な頼みを聞いてくれるあの優しさ。おかげでちゃんとさよならが言えた。あっちは夢かな?くらいの話だろうけど(笑)
素敵な店長さん、もう少しあなたの側にいたかったけど幽霊が側にいると人間の生気を吸っちゃうんだよね。ちょいと観光でもした後はさっさとあの世に行ってまた女に生まれ変わって店長さんみたいないい男見つけて恋をしなくっちゃ。
後日店にドレスと靴と冷酒が送られてきました。
「冷酒なんて久しぶりだな~うわぁーキンキンに冷えてる。うん、美味いっ!」
知らぬは凜ちゃんばかりなり~ おしまい。
全然恐くない「怪談・のろうさぎ」と急遽思いついた凛ちゃんのお話でした。楽しんで頂けたなら幸いです。
イズムでのあの名台詞早速使わせて頂きました(笑) 凜ちゃんを書いたのはアンケート見てるとやっぱ凛ちゃん人気あるな~てことで書いてみました。感想とか頂けると嬉しいです。
そしてアンケートは
こちら 是非参加してくださいね。
