香港は常に活気に溢れている。
食は豊で100万ドルの夜景は美しく、町の派手過ぎるネオンも人々のパワーを感じた。
一番活気がないのはここ、葵商事・香港支店かも知れない(苦笑)
ここで何が出来るのか?何をすればいいのか。
模索しながらも淡々と日々の仕事をこなしていた。
それではなんの進化もなく活路も見出せない。。。
どうすれば・・・どうすれば・・・
流されるようにあっという間に1年は過ぎた。
*
「お客さん、もう少しゆっくり話してくれないとわからないよ」
土産を売っている店の主人がたどたどしい英語でそう言うと、相手は早口の英語でなにかをまくしたてている。
あの~この人はここで買った陶器の土産が割れていたから取り替えてくれと言っています」
「あっそうか、でもその人の持つ袋も箱もうちのじゃないよ、似てるけど違う。その袋の店は右突き当りを左に曲がって3件目の店だよ」
相手にそう伝えると、間違えたことを謝りもせず男は早々に立ち去った。
「ありがとう、助かった。助かった。あの客人相が悪くて恐かったよ」
「ホント理解してくれてよかったです」
「あんた日本人か?」
「ええ」
「そろそろ店終うからちょいと飲まないか?」
「あっ・・・はい」
「そうか~日本のビジネスマンか。日本人商売上手いから稼ぐんだろ?(笑)」
「いえ、まだこっちにきて間がないし、なかなか外国で働くのは難しいです」
「町に溶け込んでいろんな人と会う。いろんなもの見えてくる。」
そうだな、業に入れば業に従えっていうよな。
「そうだ!キリノ、俺に英語教えてくれないか?俺キリノに広東語教えるから」
こうして香港での友人もでき1年も過ぎるとすっかり広東語は上達した。
ビジネス会話は英語で成り立つが、ときには広東語で話すことでクライアントとの距離が縮まり、仕事もしやすくなった。
香港は高級レストランから屋台から街の小さな店からいろんなものが美味かった。
食の力は凄い。食べることで元気が出た。
日本にいるときは食べることにあまり関心がなかったかも知れない。
つくづく仕事人間だった(苦笑)
ふと街の外れに小さな店を見つけた。その店から出てきた子供はとても満足そうな幸せな笑顔だった。
この店との出会いが俺の運命を変えた。
*
美味い!美味いだけではなく、どこか懐かしく優しい味がした。。。
「ごちそうさま、美味しかったです」
「ありがとうございます!」
おまけに店主は美人だった。
時間の許す限りこの店に通った。
なにを食べても美味いんだが、なんていうか日本人の舌に合う気がした。
特に豆板醤を使った料理にそう感じた。
この豆板醤を日本に持ち込めたなら・・・
「あの、こちらの豆板醤はどちらで作られたものですか?それともあなたが・・・」
「3日前にもあなたと同じこと聞いてきた日本人がいたよ」
「えっ!?」
「私の叔父のロン・カンが作ってる。地図書いてあげるね」
「ありがとうございます」
「帰れ!帰れ!日本人に売る豆板醤など1グラムもないんだよ!」
あれは日本最大手のファミレスチェーン「ルネス」の副社長。。。
「こんにちは!」
「・・・?」
「失礼ですが、ルネスの副社長の松宮さんでは?」
「私の顔はそんなに有名かね」
「ええ(微笑)私は葵商事香港支店の桐野といいます。」
「ああ、なるほどね」
「副社長もここの豆板醤に惹かれておいでになったのでしょうか? もしや中華の店をお考えとか?」
「ふむ。ここの豆板醤に目をつけるとは君はなかなか鼻が利くようだね。察しのとおり我が社は、来年中華に進出する。コンセプトは他の中華チェーン店より2割増の値段で5割増の満足店を得る中華だ。そこで使用する食材と調味料を探している。他社との競合になるが葵商事さんも参戦するかね?」
「はい!是非やらして頂きたいと思います」
「では、詳しいことは追って連絡する」
「期限は3ヶ月か、厳しいな」
「でも、やる価値があります」
「俺やりたいです!」
「私も・・・」
「日本で中華店の味と値段をリサーチしてきます。俺の趣味は食べ歩きで舌と胃袋には自信があります」
「それはいい(笑)」
「じゃあやる方向で早速ミーティングだ」
よし! 社内は一気に活気付いた。
・・・日本人に売る豆板醤はねえんだよ・・・
ルネスの副社長に足を運ばせた豆板醤。どうしてもロンさんの豆板醤を手に入れなくては。
なにがなんでもロンさんを説得するしかない。。。
*
「あ~あ・・・」
「大きな溜息ね、交渉上手くいってないの?」
「日本人に売る豆板醤はないの一点張りで、ろくに話も聞いてもらえないんだ、ロンさんはなんであんなに日本人が嫌いなんだ?」
「叔父さんの娘、日本のビジネスマンに遊ばれて捨てられて拒食症になった。今はやりがいのある仕事見つけてようやく元気になって一人暮らし始めたけどね。それまでが凄く大変だった」
「それで・・・」
「女の料理人て結構大変いろんなことがある。そんなときおじさんはメイリンは自分の作った料理に誇りと自信を持ちなさいと私に言ってくれる。おじさんも自分の作るものに誇りを持っている。そしてとても優しい。
キリノはいつもご馳走さま、美味しかったですと笑顔で言ってくれる。きっといい人(笑)なにがあっても笑顔で心を込めて作る料理は食べる人に伝わる。キリノも真心でぶつかればおじさんにもその思いはつたわるはず、頑張って!」
「ありがとう、メイリン」
俺は君の料理に、いやそれ以上に君にすっかりやられちゃってる。。。
*
「よしっ!何度でも当たって砕けろだ、絶対に諦めないぞ!」
キキー! 「危ない!」
「すみません!ブレーキが壊れていたみたいで、大丈夫ですか?怪我ないですか?」
「大丈夫です。僕のほうこそ前見てなくて、そっちは怪我ないですか?」
「ちょっと足をくじいたみたいで、困ったな・・・今日中に運ばなきゃいけないものがあったんだけど」
「ご迷惑でなければ僕に手伝わせてください!」
「なんだ、あの男は今日も来てるのか?日本の商社マンは暇なんだな」
「キリノさん礼儀正しいし、笑顔でキビキビとよく働くし、皆キリノさんのこと気にいってるよ」
「うちとの契約が欲しいだけだろ」
「うちの仕事手伝い始めてからもう2週間にもなるよ、ときどきうちの従業員かと思うくらい馴染んでいるよ(笑)あの笑顔に嘘はないと思うけどな、私はキリノさん好きだよ」
「ふん、おまえは面食いだからな」
「だからおまえさんと一緒になったんだろ?(笑)話くらい一度聞いておやりよ」
「・・・・・・」
「なに食ってるんだ」
「あっロンさん、こんにちは、これはおにぎりです。こちらで頂くキムチが美味しくて美味しくてつい白いご飯が食べたくなるんですよ、それで家でご飯炊いておにぎり作ってきたんです、一つどうですか?」
「まあまあ美味いな」
「でしょっ!日本人が毎日食べても飽きないのがご飯です」
「だったらずっとご飯食ってりゃいいだろ」
「美味しいおかずがあると尚ご飯も美味しくなりますからね、中華って白いご飯にあうんですよ。メイリンの料理を食べたときに美味しくて、でもそれだけじゃない優しくて温かい味がしたんです。それになんか日本人のくちに合うなって、それでこの味を日本に届けたらなって思ったんです」
「ふ~ん」
「ルネスというのは日本最大手のファミリーレストランチェーンなんですが、僕も子供の頃ときどき行きました。父親の仕事が忙しくて家族で外出なんてなかなかできなかったけど、たまに皆でレストランに行くのが嬉しくてね。そのルネスさんが今度中華を始めることになったんです。ルネスの副社長はやり手だし、ビジネスとして大きな利益をもたらすことが出来ると思ってます。店のコンセプトは他店より2割増しの値段で5割増の満足を得るです。ロンさんの作る豆板醤や調味料を使えばそれは可能だと思うんです」
ロンさんは俺の話しに同意してくれて、他の良い食材を扱っている業者も紹介してくれた。
各社が集めた食材と調味料で一人のシェフが同じ料理を作り、その価格と味で競われた。
「人事を尽くして天命を待つ・・・だな」
「それどういう意味?」
「やるだけのことはやった。後は静かに天の声を待つ・・・だよ」
「なるほど~決まるといいね、キリノの会社に」
「うん・・・」
*
「乾杯~!おめでとう!」
「ロンさん、奥さん、皆さん、メイリン、ありがとうございます!」
「さあ~今日は飲むぞ~!」
「ロンさん、すっかり酔いつぶれちゃったね(笑)」
「おじさん、あんまりお酒強くないから」
「メイリン、本当にいろいろとありがとう」
「ううん私は大したことしてないよ。でもつくづくキリノは広東語上手いよね。日本語に英語に広東語と凄いね、感心するよ。商社マンてエリートでしょ、小さい頃から勉強ばかりしてた?(笑)」
「う~ん、どうだろ?スポーツ万能でなかったことは確かだな(笑)それに俺はエリートじゃないよ、エリートだったら香港にはいないよ(笑)」
「へぇ~そうなんだ、私はスポーツ万能だったよ、でも勉強は大嫌いだった(笑)元々貧乏子沢山で勉強机も無いような家だったけどね。あっそれでも勉強する子はするよね(笑)大家族だから小さい頃から母親の料理手伝ってて、殆ど私が作るようになると皆美味しい美味しいって笑顔でいうの、それで私の進む道はこれかなって思った。今は小さな賃貸の店だけどいつかはもっと大きなお店持ちたいな、キリノは商社マンになるのが夢だった?」
「夢かって言われるとな(苦笑)自分でいうのもなんだけど日本でいう一流大学出て、なにか大きな仕事をしたいと思ったから商社に入ったんだけど、いろいろあって香港に飛ばされた(笑)ここで一からやり直すと決めて頑張ってるつもりだ。メイリンのようにハッキリと仕事と夢は繋がらないけど、利益を生むことで、人の暮らしが少しでも豊になるんじゃないかなとは思ってる。中華のルネスで沢山の人の美味しいって笑顔が見れたら嬉しいしね」
「そっか~いろんな仕事があって、皆そこで頑張ってるんだね」
「あのさ、これ・・・一緒に行かない?」
「あっディズニーランドのチケット! わー行く行く~久しぶり~。キリノは行ったことある?」
「東京のなら何度かあるけど、香港のは行ったことない。」
「東京のとどう違うか、楽しみだね!」
「うん(ヤッタ!メイリンとの初デートだ)」
*
「メイリンはとてもいい子で私の大事な姪っ子、キリノ、メイリンのこと遊びだったら許さないよ」
「遊びもなにも、ロンさんが想像しているようなことなにもないですから」
「えー!?だってメイリンとデートしてるだろ?」
「してますよ、DL行ったり、映画見にいったり、ご飯食べたりはしてますよ」
「それじゃあ中学生のデートだよ(笑)」
「こないだも家の前まで通ったから、うちくる?て聞いたらやんわり断れたし、仕事忙しくて久々に会ったんですけどね」
「それじゃあ駄目だよ、忙しくても時間見つけてマメに会わなきゃあ、桐野いい男だけど意外ともてないだろ?うちくる?じゃ押しが弱すぎるし、男はマメじゃなきゃもてないよ(笑)」
「別にもてなくていいし・・・」
「なんか仕事してるときのキリノとは全然違うんだな(笑)でもメイリンとは上手くいきたいんだろ?まあ頑張れ」
*
「もしもしメイリン?」
「おじさんがキリノが具合悪そうだったって言っていたんだけど風邪ひいた?」
「えっ!? あっ風邪ってわけじゃないんだけど、ちょっと疲れがたまってるのかな」
「じゃあ、私が元気の出る特製スープ作ってあげるね、今からそっち行くから待ってて」
「ありがとう、でもうち覚えてる?」
「うん、わかると思う」
ロンさんのお節介か・・・(微笑み)
「これお見舞のシクラメン」
「へぇ~赤いシクラメンか、なんかメイリンみたいだね」
「えっ私!?綺麗ってこと(笑)」
「うん。そういえば日本にシクラメンのかほりっていう歌があるんだよ」
「どんな歌?」
「真綿色したシクラメンほど清しいものはない・・・出逢いのときの君のようです・・・
てね、凄くヒットした歌で、だからシクラメンていうと白のイメージかな」
「へぇ~でも白のシクラメンの花言葉は嫉妬、思いやり、綿密な判断っていうのよ」
「そうなんだ、じゃあ歌詞とちょっとイメージ違うね、因みに赤は?」
「はにかみ、きずな、愛情、じゃあ私スープ作るね」
やっぱりメイリンだ・・・そしてシクラメンの花言葉は(ネットで調べる桐野さん)
切ない私の愛を受け止めてください・・・か。
「どう?」
「うん凄く美味しい、それになんだかとても元気が出てきた気がする(いろいろと
)
「じゃあ、私帰るね」
「帰らないで!メイリン・・・僕は君のことが好きだ、君のことを真剣に思っている。」
「私ね・・・数年前に大きな病気して、それが原因でもう子供は無理だろうって言われたの、だからなんだって思うかも知れないけど、それ以来なんとなく男の人のこと好きにならなくなった。だからキリノともいいお友達でいましょ」
努めて明るく笑顔でそう言ったのに・・・なんて眼で私を見るの?
切なさと・・・優しさと・・・愛しさと。。。
「ごめんね・・・話させてごめん・・・ごめん」
そう言って私を優しく抱きしめるその手が温かくて、ごめんと繰り返すその声は優しすぎた。
閉ざそうとした思いが涙となって溢れ出す。
あなたはその指で私の涙を優しく拭う。。。
好きだよ・・・私もあなたが好き。 そして初めて交わすくちづけ。。。
もっとあなたを愛したい・・・もっとあなたに愛されたい・・・
私は自分から彼を求めた。
熱く赤い情熱は夕闇のなか美しく溶けてゆく。。。
どうか切ないほどの私の想いを受け止めてください・・・ 後編に続く。

食は豊で100万ドルの夜景は美しく、町の派手過ぎるネオンも人々のパワーを感じた。
一番活気がないのはここ、葵商事・香港支店かも知れない(苦笑)
ここで何が出来るのか?何をすればいいのか。
模索しながらも淡々と日々の仕事をこなしていた。
それではなんの進化もなく活路も見出せない。。。
どうすれば・・・どうすれば・・・
流されるようにあっという間に1年は過ぎた。
*
「お客さん、もう少しゆっくり話してくれないとわからないよ」
土産を売っている店の主人がたどたどしい英語でそう言うと、相手は早口の英語でなにかをまくしたてている。
あの~この人はここで買った陶器の土産が割れていたから取り替えてくれと言っています」
「あっそうか、でもその人の持つ袋も箱もうちのじゃないよ、似てるけど違う。その袋の店は右突き当りを左に曲がって3件目の店だよ」
相手にそう伝えると、間違えたことを謝りもせず男は早々に立ち去った。
「ありがとう、助かった。助かった。あの客人相が悪くて恐かったよ」
「ホント理解してくれてよかったです」
「あんた日本人か?」
「ええ」
「そろそろ店終うからちょいと飲まないか?」
「あっ・・・はい」
「そうか~日本のビジネスマンか。日本人商売上手いから稼ぐんだろ?(笑)」
「いえ、まだこっちにきて間がないし、なかなか外国で働くのは難しいです」
「町に溶け込んでいろんな人と会う。いろんなもの見えてくる。」
そうだな、業に入れば業に従えっていうよな。
「そうだ!キリノ、俺に英語教えてくれないか?俺キリノに広東語教えるから」
こうして香港での友人もでき1年も過ぎるとすっかり広東語は上達した。
ビジネス会話は英語で成り立つが、ときには広東語で話すことでクライアントとの距離が縮まり、仕事もしやすくなった。
香港は高級レストランから屋台から街の小さな店からいろんなものが美味かった。
食の力は凄い。食べることで元気が出た。
日本にいるときは食べることにあまり関心がなかったかも知れない。
つくづく仕事人間だった(苦笑)
ふと街の外れに小さな店を見つけた。その店から出てきた子供はとても満足そうな幸せな笑顔だった。
この店との出会いが俺の運命を変えた。
*
美味い!美味いだけではなく、どこか懐かしく優しい味がした。。。
「ごちそうさま、美味しかったです」
「ありがとうございます!」
おまけに店主は美人だった。
時間の許す限りこの店に通った。
なにを食べても美味いんだが、なんていうか日本人の舌に合う気がした。
特に豆板醤を使った料理にそう感じた。
この豆板醤を日本に持ち込めたなら・・・
「あの、こちらの豆板醤はどちらで作られたものですか?それともあなたが・・・」
「3日前にもあなたと同じこと聞いてきた日本人がいたよ」
「えっ!?」
「私の叔父のロン・カンが作ってる。地図書いてあげるね」
「ありがとうございます」
「帰れ!帰れ!日本人に売る豆板醤など1グラムもないんだよ!」
あれは日本最大手のファミレスチェーン「ルネス」の副社長。。。
「こんにちは!」
「・・・?」
「失礼ですが、ルネスの副社長の松宮さんでは?」
「私の顔はそんなに有名かね」
「ええ(微笑)私は葵商事香港支店の桐野といいます。」
「ああ、なるほどね」
「副社長もここの豆板醤に惹かれておいでになったのでしょうか? もしや中華の店をお考えとか?」
「ふむ。ここの豆板醤に目をつけるとは君はなかなか鼻が利くようだね。察しのとおり我が社は、来年中華に進出する。コンセプトは他の中華チェーン店より2割増の値段で5割増の満足店を得る中華だ。そこで使用する食材と調味料を探している。他社との競合になるが葵商事さんも参戦するかね?」
「はい!是非やらして頂きたいと思います」
「では、詳しいことは追って連絡する」
「期限は3ヶ月か、厳しいな」
「でも、やる価値があります」
「俺やりたいです!」
「私も・・・」
「日本で中華店の味と値段をリサーチしてきます。俺の趣味は食べ歩きで舌と胃袋には自信があります」
「それはいい(笑)」
「じゃあやる方向で早速ミーティングだ」
よし! 社内は一気に活気付いた。
・・・日本人に売る豆板醤はねえんだよ・・・
ルネスの副社長に足を運ばせた豆板醤。どうしてもロンさんの豆板醤を手に入れなくては。
なにがなんでもロンさんを説得するしかない。。。
*
「あ~あ・・・」
「大きな溜息ね、交渉上手くいってないの?」
「日本人に売る豆板醤はないの一点張りで、ろくに話も聞いてもらえないんだ、ロンさんはなんであんなに日本人が嫌いなんだ?」
「叔父さんの娘、日本のビジネスマンに遊ばれて捨てられて拒食症になった。今はやりがいのある仕事見つけてようやく元気になって一人暮らし始めたけどね。それまでが凄く大変だった」
「それで・・・」
「女の料理人て結構大変いろんなことがある。そんなときおじさんはメイリンは自分の作った料理に誇りと自信を持ちなさいと私に言ってくれる。おじさんも自分の作るものに誇りを持っている。そしてとても優しい。
キリノはいつもご馳走さま、美味しかったですと笑顔で言ってくれる。きっといい人(笑)なにがあっても笑顔で心を込めて作る料理は食べる人に伝わる。キリノも真心でぶつかればおじさんにもその思いはつたわるはず、頑張って!」
「ありがとう、メイリン」
俺は君の料理に、いやそれ以上に君にすっかりやられちゃってる。。。
*
「よしっ!何度でも当たって砕けろだ、絶対に諦めないぞ!」
キキー! 「危ない!」
「すみません!ブレーキが壊れていたみたいで、大丈夫ですか?怪我ないですか?」
「大丈夫です。僕のほうこそ前見てなくて、そっちは怪我ないですか?」
「ちょっと足をくじいたみたいで、困ったな・・・今日中に運ばなきゃいけないものがあったんだけど」
「ご迷惑でなければ僕に手伝わせてください!」
「なんだ、あの男は今日も来てるのか?日本の商社マンは暇なんだな」
「キリノさん礼儀正しいし、笑顔でキビキビとよく働くし、皆キリノさんのこと気にいってるよ」
「うちとの契約が欲しいだけだろ」
「うちの仕事手伝い始めてからもう2週間にもなるよ、ときどきうちの従業員かと思うくらい馴染んでいるよ(笑)あの笑顔に嘘はないと思うけどな、私はキリノさん好きだよ」
「ふん、おまえは面食いだからな」
「だからおまえさんと一緒になったんだろ?(笑)話くらい一度聞いておやりよ」
「・・・・・・」
「なに食ってるんだ」
「あっロンさん、こんにちは、これはおにぎりです。こちらで頂くキムチが美味しくて美味しくてつい白いご飯が食べたくなるんですよ、それで家でご飯炊いておにぎり作ってきたんです、一つどうですか?」
「まあまあ美味いな」
「でしょっ!日本人が毎日食べても飽きないのがご飯です」
「だったらずっとご飯食ってりゃいいだろ」
「美味しいおかずがあると尚ご飯も美味しくなりますからね、中華って白いご飯にあうんですよ。メイリンの料理を食べたときに美味しくて、でもそれだけじゃない優しくて温かい味がしたんです。それになんか日本人のくちに合うなって、それでこの味を日本に届けたらなって思ったんです」
「ふ~ん」
「ルネスというのは日本最大手のファミリーレストランチェーンなんですが、僕も子供の頃ときどき行きました。父親の仕事が忙しくて家族で外出なんてなかなかできなかったけど、たまに皆でレストランに行くのが嬉しくてね。そのルネスさんが今度中華を始めることになったんです。ルネスの副社長はやり手だし、ビジネスとして大きな利益をもたらすことが出来ると思ってます。店のコンセプトは他店より2割増しの値段で5割増の満足を得るです。ロンさんの作る豆板醤や調味料を使えばそれは可能だと思うんです」
ロンさんは俺の話しに同意してくれて、他の良い食材を扱っている業者も紹介してくれた。
各社が集めた食材と調味料で一人のシェフが同じ料理を作り、その価格と味で競われた。
「人事を尽くして天命を待つ・・・だな」
「それどういう意味?」
「やるだけのことはやった。後は静かに天の声を待つ・・・だよ」
「なるほど~決まるといいね、キリノの会社に」
「うん・・・」
*
「乾杯~!おめでとう!」
「ロンさん、奥さん、皆さん、メイリン、ありがとうございます!」
「さあ~今日は飲むぞ~!」
「ロンさん、すっかり酔いつぶれちゃったね(笑)」
「おじさん、あんまりお酒強くないから」
「メイリン、本当にいろいろとありがとう」
「ううん私は大したことしてないよ。でもつくづくキリノは広東語上手いよね。日本語に英語に広東語と凄いね、感心するよ。商社マンてエリートでしょ、小さい頃から勉強ばかりしてた?(笑)」
「う~ん、どうだろ?スポーツ万能でなかったことは確かだな(笑)それに俺はエリートじゃないよ、エリートだったら香港にはいないよ(笑)」
「へぇ~そうなんだ、私はスポーツ万能だったよ、でも勉強は大嫌いだった(笑)元々貧乏子沢山で勉強机も無いような家だったけどね。あっそれでも勉強する子はするよね(笑)大家族だから小さい頃から母親の料理手伝ってて、殆ど私が作るようになると皆美味しい美味しいって笑顔でいうの、それで私の進む道はこれかなって思った。今は小さな賃貸の店だけどいつかはもっと大きなお店持ちたいな、キリノは商社マンになるのが夢だった?」
「夢かって言われるとな(苦笑)自分でいうのもなんだけど日本でいう一流大学出て、なにか大きな仕事をしたいと思ったから商社に入ったんだけど、いろいろあって香港に飛ばされた(笑)ここで一からやり直すと決めて頑張ってるつもりだ。メイリンのようにハッキリと仕事と夢は繋がらないけど、利益を生むことで、人の暮らしが少しでも豊になるんじゃないかなとは思ってる。中華のルネスで沢山の人の美味しいって笑顔が見れたら嬉しいしね」
「そっか~いろんな仕事があって、皆そこで頑張ってるんだね」
「あのさ、これ・・・一緒に行かない?」
「あっディズニーランドのチケット! わー行く行く~久しぶり~。キリノは行ったことある?」
「東京のなら何度かあるけど、香港のは行ったことない。」
「東京のとどう違うか、楽しみだね!」
「うん(ヤッタ!メイリンとの初デートだ)」
*
「メイリンはとてもいい子で私の大事な姪っ子、キリノ、メイリンのこと遊びだったら許さないよ」
「遊びもなにも、ロンさんが想像しているようなことなにもないですから」
「えー!?だってメイリンとデートしてるだろ?」
「してますよ、DL行ったり、映画見にいったり、ご飯食べたりはしてますよ」
「それじゃあ中学生のデートだよ(笑)」
「こないだも家の前まで通ったから、うちくる?て聞いたらやんわり断れたし、仕事忙しくて久々に会ったんですけどね」
「それじゃあ駄目だよ、忙しくても時間見つけてマメに会わなきゃあ、桐野いい男だけど意外ともてないだろ?うちくる?じゃ押しが弱すぎるし、男はマメじゃなきゃもてないよ(笑)」
「別にもてなくていいし・・・」
「なんか仕事してるときのキリノとは全然違うんだな(笑)でもメイリンとは上手くいきたいんだろ?まあ頑張れ」
*
「もしもしメイリン?」
「おじさんがキリノが具合悪そうだったって言っていたんだけど風邪ひいた?」
「えっ!? あっ風邪ってわけじゃないんだけど、ちょっと疲れがたまってるのかな」
「じゃあ、私が元気の出る特製スープ作ってあげるね、今からそっち行くから待ってて」
「ありがとう、でもうち覚えてる?」
「うん、わかると思う」
ロンさんのお節介か・・・(微笑み)
「これお見舞のシクラメン」
「へぇ~赤いシクラメンか、なんかメイリンみたいだね」
「えっ私!?綺麗ってこと(笑)」
「うん。そういえば日本にシクラメンのかほりっていう歌があるんだよ」
「どんな歌?」
「真綿色したシクラメンほど清しいものはない・・・出逢いのときの君のようです・・・
てね、凄くヒットした歌で、だからシクラメンていうと白のイメージかな」
「へぇ~でも白のシクラメンの花言葉は嫉妬、思いやり、綿密な判断っていうのよ」
「そうなんだ、じゃあ歌詞とちょっとイメージ違うね、因みに赤は?」
「はにかみ、きずな、愛情、じゃあ私スープ作るね」
やっぱりメイリンだ・・・そしてシクラメンの花言葉は(ネットで調べる桐野さん)
切ない私の愛を受け止めてください・・・か。
「どう?」
「うん凄く美味しい、それになんだかとても元気が出てきた気がする(いろいろと

「じゃあ、私帰るね」
「帰らないで!メイリン・・・僕は君のことが好きだ、君のことを真剣に思っている。」
「私ね・・・数年前に大きな病気して、それが原因でもう子供は無理だろうって言われたの、だからなんだって思うかも知れないけど、それ以来なんとなく男の人のこと好きにならなくなった。だからキリノともいいお友達でいましょ」
努めて明るく笑顔でそう言ったのに・・・なんて眼で私を見るの?
切なさと・・・優しさと・・・愛しさと。。。
「ごめんね・・・話させてごめん・・・ごめん」
そう言って私を優しく抱きしめるその手が温かくて、ごめんと繰り返すその声は優しすぎた。
閉ざそうとした思いが涙となって溢れ出す。
あなたはその指で私の涙を優しく拭う。。。
好きだよ・・・私もあなたが好き。 そして初めて交わすくちづけ。。。
もっとあなたを愛したい・・・もっとあなたに愛されたい・・・
私は自分から彼を求めた。
熱く赤い情熱は夕闇のなか美しく溶けてゆく。。。
どうか切ないほどの私の想いを受け止めてください・・・ 後編に続く。