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Tea Time

ほっと一息Tea Timeのような・・・ひとときになればいいなと思います。

初恋

2014-07-18 20:05:49 | 海辺のカフカ・大島さん小説
「孝志は弟と妹どっちがいい?」
「弟がいい!弟と沢山遊ぶんだ」
「もし女の子だったら」
「お姫様みたいに大事にするよ」
「そっか~孝志はいいお兄ちゃんになるな」

「おぎゃあ!」
「生まれた!」
「とても可愛い女の子ですよ」
「うわ~可愛いな~」
「我が家のお姫様だな。この子は美人になるぞ」

新緑の美しい季節に生まれた妹は緑と名付けられた。

妹はおままごと遊びややぬいぐるみや人形には興味を示さず、僕や僕の友人達と一緒に泥んこ遊びをしたり缶けりをして真っ黒になって遊んだ。お姫様とは程遠かったけど妹とは違ったけど、「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と後をついてくる妹が可愛くてたまらなかった。。

「今日はお祖母ちゃんのお見舞いに行くんだから、お祖母ちゃんの買ってくれたスカートをはいていきなさい」
「やだ」
「お兄ちゃん、緑がスカートはいたとこ見たいな~きっと似合うよ」
「うーん、じゃあはく」

母に急用が出来たため、二人でお祖母ちゃんのお見舞いに行った。その帰り道だった。

「蝶ちょっ~」
「緑!走っちゃ駄目だよ、ここはアスファルトだから転ぶと危ないよ」
「あっ」
「大丈夫か、膝小僧擦りむいたみたいだな、血が出てる。ちょっと待って、ハンカチでしばるから痛くない?」
「うん」
「ごめんな、いつものようにズボンだったら怪我しなくてすんだのに、おんぶしようか」
「歩くもん」
「そっか、緑は強いもんな」

しばらく歩くと縛ったハンカチが真っ赤になっていた。嘘だろ?擦りむいただけでそんなに切ったようには見えなかった。とにかく早く家へ、いや病院だ、病院に戻った方が早い!

「娘さんは血友病です」
「えっ!」
「簡単に言うと血を固める成分が無いということです」
「そんな・・・」
「ご両親や親戚には?」
「いません!聞いたこともないです!」
「そうですか、血縁者に誰も同じ病気の人がいなくて、それで女の子が血友病というのは非常に稀なことです」
「治るんですか?」
「治る病気ではないです。詳しい検査が必要ですが、今はいろんな治療方法がありますし普通に日常生活を送ることは可能です。経度や中度の場合ですと大きくなるまで病気に気付かずに初潮や出産で大量に出血することがあります。早く病気がわかってよかったです。ちゃんと準備をすれば手術をしたり、将来出産をすることも可能ですから怖がらないで上手に病気と付き合っていきましょう」

しかし中学になっても緑に初潮はこなかった。そのせいか身体は丸みを帯びることはなく、胸が膨らむこともなく、母はときどき溜息をついていた。病気のことを考えるとむしろ生理はない方がいいのかも知れないが、生理がくることによって緑は女の子になるんじゃないかという期待を母は抱いていた。子供の頃はそんなに気にならなかったが、心は男のまま思春期を迎えていた。

「どうして緑にはおちんちんがないの?いつになったら生えてくるの? 五つになったら?六つになったら?おちんちん生えてくるの?」

そう言ってはよく兄さんを困らせた(苦笑)流石にそれは諦めたが、僕は兄の逞しい身体に憧れていた。サーフィンを始めた兄はダンベルで毎日の筋トレを欠かさなかった。少しでもあんな身体になりたくて僕はダンベルを持って上げ下げを始めた。意外に簡単で調子にのってやっていたらその日の夜、両腕に酷い内出血を起こした。夜中に病院から家に帰ると兄はダンベルをじっと見つめて立っていた。その眼には涙が光っていた。

「兄さん・・・」
「大丈夫か? もうなんともないか!」
「うん」
「よかった~」
「ごめんなさい・・・」
「馬鹿だな~なんで謝るんだよ」
「そうだっ 誰も悪くない」
「お腹空いてない?なんか作ろうか」
「ううん、大丈夫」

胸が痛かった。そして僕はもういい加減にこの身体を受け入れなくちゃならないんだ・・・

中学では緑はセーラー服を着ようとはせずいつも体操着で登校していた。まだ性同一障害という言葉がない時で、指導部の教師には反抗心の強い生徒にしか見えず業を煮やした教師が竹刀を振り上げると保険の先生が止めに入って偶然にも眼に当たり軽い怪我をした。緑の病気を全ての教師が知っているわけではなく、本気で殴る気はなかったと指導部の教師は憤慨した。春になり緑が唯一心を開いていた保険の先生が転任すると殆ど学校には行かなくなった。それでも試験のあるときだけは登校して試験を受けていた。それは小学校時代成績のよかった緑のプライドだったのだろう。だがそんな生徒を親身に思ってくれる教師はいなかった。

いつも男の子みたいな恰好をして他の女の子みたいにお洒落もしない、髪をとかそうともしない緑は同級生の中で浮いていた。それでもその容姿は際立って美しかった。だがそれは女子たちの反感を買い、男女(おとこおんな)と言われて苛められているようだった。僕や僕の友人が近くにいるときは守ってやれたが高校大学と緑のいるところから離れていくとそれも難しくなった。

「えっ 緑が?」 緑の中学校の近くに住む友人からの電話だった。

「どうしたんだ、ずぶ濡れじゃないか! 怪我は? 怪我はないか!?」

「大丈夫だよ、親切な学級委員が僕の病気のこと説明してくれたからね」

恐らく・・・親切でカッコいい女子に人気の学級委員が緑の肩をもった。それが面白くない一部の女子たちが緑を呼び出した。

「こんなずぶ濡れの体操服着てると風邪をひく、確か車の中にTシャツが・・・あった! さあこれに着替えて」
「このままでいい」
「だめだよ、ほらっ」
「僕に触るな!」

その眼は冷たく空虚だった、恐怖と怒りと哀しみと憎しみと諦めと・・・一体なにがあったんだ?

「緑~御飯よ」
「どうしたんだ?」
「シャワー浴びたっきりずっと部屋から出てこないの」

「緑、来い!」
「いやだ、離してよ!手首痛いだろっ 内出血したらどうすんだよ」
「そうだったな、よしっこれなら問題ないだろ」←抱きかかえて車に乗せました。

「ここは?」
「俺と緑の所有する山小屋だ」
「初めて聞いたよ」
「1週間分の食糧がある、水は近くに綺麗な水が流れているからそれを使うといい。薪ストーブにプロパンガス、チェストには簡単な衣類。棚には日常品と本、生活できるものは一応揃ってる。森の奥には絶対に入らないように、じゃあ一週間後にまた来るから」

「何処に行ってたの?緑は?」
「森の山小屋に置いてきた」
「なんだって!なんかあったらどうするんだ!」
「早く迎えに行って!」
「駄目だよ、ここにいたらいつかきっと緑は自分で自分の手首を切る」
「そんな・・・」
「緑が生きていく為にはあの場所と時間が必要なんだ、僕は緑の強さを信じる」

誰もいない、ここでは僕はなにものでもなく生きるために食べて、排泄をして、水でタオルを洗い固く絞り身体を拭き、歯を磨く。本を読み暗くなったら寝るという極めてシンプルな生活だ。森の奥に入るなんてとんでもない話で最初は小屋から離れられなかったが、ここの生活に少しづつ慣れてきて、小屋から離れて少し歩いてみると綺麗な花が咲いていた。なんて花だろう?花屋にある花より余程綺麗だ。誰に見られるわけでもなく、それでもただ真っ直ぐに咲き誇る花たちは美しかった。僕もこんなふうに真っ直ぐに前を向いて生きていけたなら。。。

緑はそれからも学校に行くことは殆どなく山小屋で過ごすことが多くなった。そして少しづつその眼は輝きを取り戻していった。


君をずっと見てきた。妹として、時には弟として愛してきた。君が生まれてからの21年、君しか見えなかった。
僕の君に対する思いは・・・・・・或いはそれは初恋だったのかも知れない。
僕は行きずりの女と初めてのSEXをした。相手は誰でもよかった。何故ならそれは妹に対する思いへの決別という名の儀式だからだ。


「おうちで遊ぶのつまんない、鬼ごっこや缶けりがしたいよ~」
「前みたいに転んで怪我して血が出たら大変だから我慢しようね」
本人に自覚が出来るまで周りで注意しようと家族で決めていた。
「やだ、やだー」
「お兄ちゃんが面白いもの見せてやるから・・・・ほらっ」
僕はお腹に顔を描いて裸踊りを始めた。
「あはは、おもしろーい!ははは(笑)」
その日は少し寒くて鼻水が出てきた。
「ハックション!」
「あっ鼻ちょうちんだ~ははは、ははは」

君が笑う為なら僕はなんでもするよ。

だけどもう今の僕には大きくなった君を笑顔にする術が見つからない。
だからせめて願をかけることにした。
昔のような心からの笑顔が見れるその日まで・・・僕は髭を剃らないと決めた。


                                      *

「では、よろしくお願いします」
「はい、山下さんのことはうちで責任をもって治療に当たらせて頂きます」

うちでは治療が難しい患者を他の病院に紹介することは少なくはなかった。ここはあのときの病院だな。

「大島さん、忘れ物ですよ」
「すみません、ありがとうございます」
「そういえばさっきいらした桂木病院の院長先生、以前妹さんといらしたことがありましたよ」
「えっ?」
「まだ近くにいますよ」

「あの、失礼ですが桂木先生でしょうか?」
「そうですが」
「大島といいます、以前妹がお世話になったそうで」
「緑さんのお兄さんですか」
「すみませんが少し詳しく話して頂けないでしょうか」

      ・・・略・・・

「そうだったんですか、ありがとうございました」
「いえ、悪いのは私でしたので」
「いえ」
「あの、こんな所でいきなり言うのもなんですが滅多にない機会だと思いますので」
「なんでしょうか?」
「実は妹さんとお付き合いさせて頂いてます」
「えっ!? あの~妹ということでよろしいんでしょうか?」
「はい、妹さんとお付き合いしてるつもりです」
「あいつは僕の妹じゃなく弟のつもりだと思いますが」
「そう彼女じゃなくて彼氏のつもりです(笑)」
「そうですか(笑)」
「妹とか彼女とか言ったら・・・」
「殴られますね」
「そう、あいつは手が早いんですよ」
「こっちは殴れないのに殴ればいいなんて言うから、自分で自分を殴りましたよ」
「えっ!自分で?」
「それで思いっきり馬鹿呼ばわりされました」
「すみません、昔から気が強くて」
「そんなところも可愛いですが、女扱いすると怒るんでね(笑)」
「昔からそうだったな(笑)」
「お兄さん」
「はい」
「お兄さんの大事な妹さんを私に任せてもらってよろしいでしょうか?」
「勿論です。妹のことをよろしくお願いします」


「クシャン」
「大島さん、さっきから三回目のクシャミだけど風邪?」
「いや、3回続くクシャミのときは誰かに噂されてるんだよって祖母が昔よく言ってたよ」
「誰が噂してるのかな~、甲村記念図書館の司書さんって素敵ね・・・とか?(笑)
「最近入った助手の男の子カッコいいわね・・・とか(笑)」
「大検の勉強は進んでる?」
「ぼちぼち」
「今は高校を卒業しなくても大学へ行ける道があるんだから頑張って」
「うん、ただ文系はなんとかなるんだけど理数系となると独学では厳しいかな」
「理数系に強い人なら心当たりがあるから今度紹介するよ、その人に教えてもらうといいよ」
「大島さんの知り合いなら心強いな」
「うん、ちょっと馬鹿だけど頭がいいのは確かだから」


「へっ ヘックション・・・風邪かな?(^^;」

                               *

「俺たち・・・結婚しようか」

「行きずりの女から妻へ昇格か~ヤッタね!」

偶然にも半年前に昔の行きずりの女と再会して付き合うようになった。人生なにがあるかわからない、わからないからちゃんと生きないとな。

「今度妹に紹介するよ」
「妹さんがいたんだ、私は女兄弟がいなくて、一緒にショッピングとかしたいな~」
「そういう期待にはそぐわないと思うが(^^;」
「写真ある?」
「これっ」
「わー滅茶イケメン!」
「そう、イケメンな妹なの」
「よかった~」
「なにが?」
「これなら隔世遺伝で可愛い子供に恵まれるかも」
「そこ?」
「うん(笑)孝志の大切な人は私にとっても大切な人だよ」
「ありがとう」

この髭を剃る日も近いかも知れないな(微笑) 


「お兄さんてどんな人?」
「大きい人、心も体も大きいんだ。腕なんて丸太みたいでグローブみたいな手をして、顏は髭がぼうぼう(笑)」
「似てないんだな」
「僕がピンチになるとまるでスーパーマンみたいに助けてくれたり、動けないでいると手を差し伸べて導いてくれた。大人になってからそれはなくなったけれど、いつも兄さんが何処かで見守ってくれてる気がしてた。だから僕は道を踏み外さないで済んだんだと思う」
「俺が君の兄さんに追いつくには10年くらいかかるかな」
「頑張って!」
「ああ」
「嘘だよ、あなたはそのままでいい・・・そのまま馬鹿なままでいい」
「馬鹿はよけいだろう(笑)」                              

大島さんの知り合いって大島さんの彼氏なんだろな~(溜息)
複雑な心境の只今思春期真っ盛りのカフカくんなのでした。      おしまい。  

コメント (2)
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