四国へ出張する機会を得た私は、現地の足として3代目フィットを借りることにした。以下は、このクルマで300kmあまりを走った際のメモである。300kmの内訳は、高速道路9割、一般道路1割。車両は2017年に初度登録された13G・FのCVTで、いわゆる自動ブレーキも装備されない法人向け最下級グレード。累計走行距離は5万キロ強を刻んでいた。
朝、クルマを受け取って、走り出してすぐに感じたのは、音のうるさい、ガサツなクルマだということだった。最下級グレードだけに遮音材が省かれているのか知らんと疑いたくなるほど、ロードノイズやエンジン音がボディ全体で共鳴しているような感覚。いかにも鉄でできた、荒っぽい機械を思わせ、このクルマを借りたことを少し後悔した。
物理スイッチを排したエアコン操作パネルは、ブラインドタッチを受け付けない。ナビ周辺のデッドスペース、片目の顔を連想させるステアリングが気にかかる。そんないくつかの違和感を覚えながら、しばらく一般道を走り、やがて高速道に乗った。癖が飲み込めないままに使うナビは、仕事相手との約束よりもだいぶ後の到着時間を表示していた。だから私は、140km先の目的地に向かって、法定速度を大幅に超える途方もないスピードで、馬鹿みたいにフィットをぶっ飛ばした。
こんなゲタのようなクルマでも、タコメーターの針が5を超えるあたりから、エンジンの音と回転感覚が硬質で精緻なものに変わることに驚いた。ややもすると高級と言ってもいいぐらいの、物質感を伴う回り方をするのである。ホンダのエンジンはモーターのようにスムーズだと言われるが、モーターのように退屈ではなく、常に低いギアで積極的にエンジンを回そうと思わせるほど楽しかった。ロードノイズの大きさを考慮しなければ、ではあったが。
この3世代目のフィットはモデルライフを通じてリコールが頻発、クレームを恐れるホンダディーラー販売員に嫌われたこと、日産ノートがe-POWERシステムを積んで鳴り物入りで再登場してきたこと、そして何より身内のN-BOXに客を奪われたことで、販売台数面では不遇の世代であった。それでも、夕刻に松山空港近くのレンタカー店に帰着する頃には、ツアラーとして役割を果たしたこのクルマを認めたい気持ちになっていた。このセグメントは、各社とも販売台数の嵩上げの駒に使うことが多く、旧型モデルは比較的短期間のうちに路上から消える傾向が強い。この世代のフィットも間もなくレンタカー店から姿を消してしまうだろう。たった300km、それもずいぶん偏った走行パターンではあったが、このタイミングで「FIT3」を試せたことで、私は満足して機上の人となった。
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