露天風呂春雪の肌間の当たり K・N
雪の湯治帰る車中の赤い顔 K・Y
春雪や禅林文学の森甘露山 I・R
夜の底を確かめてみる雪景色 谷 人
偶然にも三月句会の前日、われわれ四人(K句会々員)は文学愛好者グループの一員として、鄙びた奥塩原の温泉宿に投宿し、雪国の感触を満喫することが出来た。
当然、手帳や心に刻んでおいた句が、今日の句稿となったのである。わが町を出るとき、雪になることは運転手から聞いて知ってはいたが、これほどの雪景色とは全く想像し得なかった。さすが露天風呂に浸るのは躊躇せざるを得ず、前記K・Nさんの句は、窓外に見る湯槽にとけ込む雪を詠んだものであろう。
当日は大相撲春場所十三日目で、西大関栃東関が、朝青龍の全勝を阻んだこともあって、般若湯の興奮まだ覚めやらぬ赤い顔が、途の車中にも残っていたものと思う。甘露山とは芭蕉句碑や漱石の文学碑の建ち並ぶ妙雲寺境内のことである。
(2005.3)
竹崎奇山さんの遺句集「糸遊」を頂戴した。本会にも「S会」や、俳誌「亜」に関わった方がおられるので、奇山さんのお名前を存知上げておられるかと思うが、ここでこの遺句集編纂者の一人であらせられるあき夫人の一句を紹介してみたい。
大津絵の鬼に連れ添ひ寒詣で あき
あき夫人が、長年連れ添ってきたご主人を、「大津絵の鬼」と喩えた。奇山さんを知る人にとって、「宜しこそ」と唸りたくなる一句である。
しかし、この句の意味は充分すぎるほど分かるのだが、恥ずかしながら小生は、この句に出遭うまで、「大津絵」を知らなかったのである。
蛇足にはなるが、広辞苑には次のように記されているので書き写す。
おおつゑ【大津絵】近世初期より近江の国大津の追分・三井寺辺で売り出された民衆絵画。庶民の礼拝用の略体の仏画から始まり、元禄の頃から諷刺を交えた明快な戯画風のものが登場し、道中土産として世に迎え入れられた。代表的な画題は鬼の念仏、槍持奴、藤娘、瓢箪鯰、座頭と犬など。追分絵。